説明

車両の下部車体構造

【課題】本発明は、ロアアーム30における支持部32の取付剛性を向上しながら、かつ前突時の衝撃荷重を十分吸収するクラッシュスペースを確保することができる車両の下部車体構造を提供することを目的とする。
【解決手段】車体前部の下部車体構造であって、ロアアーム30の後部を、サブフレーム20及びフロントサイドフレーム11に対して揺動可能に連結支持する後部連結部材31を備え、該後部連結部材31を、前記ロアアーム30を連結支持する支持部32と、前記サブフレーム20と前記支持部32とを連結する第5連結部34と、前記フロントサイドフレーム11と前記支持部32とを連結する第4連結部33とで構成し、前突時において、該第4連結部33を前記フロントサイドフレーム11から離脱させる離脱機構を備え、該離脱機構により前記フロントサイドフレーム11から前記サブフレーム20及び前記ロアアーム30を離脱させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、自動車の車体前部において、サブフレームにサスペンションを構成するアーム部材が連結されたような車両の下部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、前突時における車両前方からの衝撃荷重に対して、衝撃を吸収するクラッシュスペースが車体前部に設定された車両の下部車体構造がある。詳述すると、このような下部車体構造は、車体前部に配設され、前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレームを、衝撃荷重によって座屈変形しやすい構造に形成し、フロントサイドフレームが座屈変形することにより、前突時における車両前方からの衝撃荷重を吸収することができる。このようなフロントサイドフレームが座屈変形して衝撃荷重を吸収する空間をクラッシュスペースとしている。このように、車両前方からの衝撃荷重を十分吸収することができるクラッシュスペースを確保することにより、衝撃荷重が車両後方に伝達されることを阻止することができる。
【0003】
このような構造では、このクラッシュスペース内において、エンジンなどのパワートレインや、サスペンションクロスメンバなどで構成したサブフレームが配設されている。また、サスペンションクロスメンバは、パワートレインの直下あるいは後方に配設されサスペンション部材を支持している。さらに、パワートレインやサブフレームは、クラッシュスペース内の車幅方向を連結するように支持固定されている。
【0004】
上述したように、クラッシュスペース内に配置されたパワートレインなどが車幅方向を連結しているため、車両前方からの衝撃荷重に対して、フロントサイドフレームは、車幅方向の変形が抑制され、十分な座屈変形ができなくなる。従って、車両前方からの衝撃荷重を十分吸収することができるクラッシュスペースを確保することができないおそれがある。
【0005】
そこで、前突時に、パワートレインやサブフレームを車体本体から離脱後退させることによって、クラッシュスペースを確保する技術が提案されている。
【0006】
具体的には、サブフレームと車体本体との連結部に脆弱部を設け、脆弱部によって前突時にサブフレームを車体本体から離脱させ、車両前方からの衝撃荷重を十分吸収するクラッシュスペースを確保することができるとされている(特許文献1参照)。
【0007】
一方、従来より、車体前部の下部車体構造の一つとして、例えば、ロアアームなどのサスペンションを構成するアーム部材を、サブフレームに対して揺動可能に連結支持する構造がある。
【0008】
このような構造において、走行時の車輪からの入力荷重に対して、アーム部材後部における支持部の取付剛性を向上することによる走行時におけるロードノイズの低減効果を得るため、アーム部材後部をサブフレームとフロントサイドフレームの双方に連結支持して、支持部の取付剛性の向上を図ることがある。
【0009】
しかし、このようにアーム部材後部をサブフレームとフロントサイドフレームの双方に連結支持することにより、前突時にアーム部材とともにサブフレームがスムーズに離脱後退することを阻害し、衝撃荷重を十分吸収するクラッシュスペースが確保できない可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−148960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述の問題に鑑み、アーム部材における支持部の取付剛性を向上しながら、かつ前突時の衝撃荷重を十分吸収するクラッシュスペースを確保することができる車両の下部車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、車体前部において前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレームと、該フロントサイドフレームの間に配設され、サスペンション部材を支持するサブフレームと、前記サスペンション部材を構成するアーム部材とで構成する車両の下部車体構造であって、前記アーム部材の前部を、前記サブフレームに対して揺動可能に連結支持する前部連結部材と、前記アーム部材の後部を、前記サブフレーム及び前記フロントサイドフレームに対して揺動可能に連結支持する後部連結部材とを備え、該後部連結部材を、前記アーム部材を連結支持する支持部と、前記サブフレームにおける被連結部と前記支持部とを連結する第1連結部と、前記フロントサイドフレームにおける被連結部と前記支持部とを連結する第2連結部とで構成し、前突時における車両前方からの衝撃荷重によって、該第2連結部を前記フロントサイドフレームから離脱させる離脱機構を備え、前突時に、該離脱機構により前記フロントサイドフレームから前記サブフレーム及び前記アーム部材を離脱させることを特徴とする。
【0013】
前記アーム部材は、サスペンションを構成する複数のアーム類のうち、最下部にあって車輪側と前記サブフレームとを連結するアーム部材であり、例えば、ストラット式サスペンションにおけるロアアーム等とすることができる。
【0014】
前突は、前面衝突あるいはオフセット衝突等の車両前方からの衝突とすることができる。
【0015】
この発明により、前記アーム部材における支持部の取付剛性を向上しながら、かつ前突時の衝撃荷重を十分吸収するクラッシュスペースを確保することができる。
【0016】
つまり、サスペンションを構成する前記アーム部材を、前記後部連結部材を介して前記サブフレームと前記フロントサイドフレームの双方に連結することで前記アーム部材後部における支持部の取付剛性を高めることができる。従って、走行時のロードノイズを低減し、乗員の快適性を向上することができる。
【0017】
また、前突時に、前記アーム部材とともに前記サブフレームを、前記フロントサイドフレームから離脱させることで、車体前部のクラッシュスペースを確保することができる。従って、前突による衝撃荷重を十分吸収することができる。
【0018】
この発明の態様として、前記離脱機構に、前記第2連結部の前記フロントサイドフレームからの離脱を補助する長孔形状の開口部を備えることができる。
【0019】
これにより、前突時に、前記サブフレームが前記フロントサイドフレームから離間しようとする略下向きの荷重が長孔形状の開口部に作用し、第2連結部を前記フロントサイドフレームから容易に離脱させることができる。
【0020】
またこの発明の態様として、前記サブフレームを、車幅方向に延びて前記アーム部材を支持するサスペンションクロスメンバと、前記フロントサイドフレームの下方において車両前後方向に延設し、該サスペンションクロスメンバの前部に取り付けられた前後メンバとで構成することができる。
【0021】
これにより、前記前後メンバの座屈変形によって、前突時の衝撃荷重の一部を吸収し、前記サスペンションクロスメンバに伝達される衝撃荷重を緩和することができる。さらに、前記前後メンバの座屈変形によって緩和された衝撃荷重により、前記サスペンションクロスメンバを車体本体から離脱することができる。従って、クラッシュスペースを確保することでき、車両前方からの衝撃荷重を十分吸収することができる。
【0022】
またこの発明の態様として、前記支持部に、前記アーム部材を弾性支持する弾性部材を備えることができる。
【0023】
前記弾性部材は、ゴムブッシュなどの弾性力のある素材で形成することができる。
【0024】
これにより、例えば、前記サブフレームを前記フロントサイドフレームに対してリジットに固定した場合であって、前記弾性部材によって弾性支持された前記アーム部材を介して伝達されるロードノイズを低減することができる。従って、前記サブフレームの前記フロントサイドフレームへの固定に関して、ゴムブッシュなどの弾性部材を不要とすることができ、部品点数と組立工数を低減することができる。これにより、コストと重量を低減することができる。
【0025】
またこの発明の態様として、前記離脱機構を第1離脱機構とし、前記サブフレームの後端部を車体本体と連結支持する第3連結部を備え、前突時における車両前方からの衝撃荷重によって、該第3連結部を、前記車体本体から離脱させる第2離脱機構を備えることができる。
【0026】
これにより、前記サブフレームの後端を前記車体本体に連結して、前記サブフレームの支持剛性をより向上させるとともに、前突時には前記サブフレームを容易に前記車体本体から離脱させることができる。
【0027】
またこの発明の態様として、前記第2離脱機構に、前記サブフレームにおける前記被連結部と前記第3連結部との間に設けた変形促進部を備えることができる。
【0028】
前記変形促進部は、前記サブフレームの片面に設けたビードや、異なる板厚の組合せなどで構成することができる。
【0029】
これにより、前突時における前記サブフレームの座屈変形を促進し、かつ座屈変形によって車両前方からの衝撃荷重を略下向きの荷重に変換して、前記第3連結部を前記車体本体から離脱させることができる。
【0030】
さらに、前記第3連結部が離脱することにより、前記サブフレームが前記フロントサイドフレームから離間しようとする略下向きの荷重を前記第2連結部に作用させ、前記第2連結部を前記フロントサイドフレームから離脱させることができる。従って、前記サブフレームが座屈変形することにより、衝撃荷重を前記サブフレームが離脱する荷重に変換し、前記サブフレームを容易に離脱させることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明により、アーム部材における支持部の取付剛性を向上しながら、かつ前突時の衝撃荷重を十分吸収するクラッシュスペースを確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】車体前部の下部車体構造を示す底面からの斜視図。
【図2】車体前部の下部車体構造を示す底面図。
【図3】車体前部の下部車体構造を示す左側面図。
【図4】第4被連結部についての説明図。
【図5】後部連結部材の底面からの斜視図。
【図6】前突発生初期の車体前部の状態を示す左側面図。
【図7】前突発生後期の車体前部の状態を示す左側面図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
図1は車体前部の下部車体構造の底面からの斜視図を示し、図2は車体前部の下部車体構造の底面図を示し、図3は車体前部の下部車体構造の左側面図を示し、図4は第4被連結部17についての説明図を示し、図5は後部連結部材31の底面からの斜視図を示している。なお、図4(a)は、本実例におけるボルト挿通孔17bを示し、図4(b)は、ボルト挿通孔17bのバリエーションの一例を示している。
【0034】
なお、本明細書において前部とは、車両前方側の部分を示し、後部とは、車両後方側の部分を示す。
【0035】
図1、図2及び図3に示すように、車体前部の下部車体構造は、車体本体10と、車体本体10から車両前方に延設する左右一対のフロントサイドフレーム11と、フロントサイドフレーム11の前部端に連接する上側クラッシュカン12と、上側クラッシュカン12を車幅方向に連接するバンパーレインフォースメント13と、フロントサイドフレーム11の下方に連結するサブフレーム20と、サブフレーム20に連結する左右一対のロアアーム30とで構成している。
【0036】
車体本体10は、本実施例では車室を構成する部分としている。図3に示すように車体本体10の前側部分に、略水平の底面10aの前部端から前方へ上方傾斜する上方傾斜部10bを形成している。
【0037】
また、図1に示すように、車体本体10における底面10aの前部端には、後述するフロントサイドフレーム11より車幅方向内側で、かつフロントサイドフレーム11に近い位置に後述する第3連結部27と連結する第3被連結部18を設けている。なお、第3被連結部18の車室側の内面に第3連結部27を固定するナット18a(図7参照)を固定している。
【0038】
フロントサイドフレーム11は、図1及び図3に示すように、車体本体10の底面10aにおいて、右部及び左部の前部端から上方傾斜部10bに沿って斜め上方に延設し、さらに上方傾斜部10bの上端から車両前方に延びるように配設している。なお、フロントサイドフレーム11は、車幅方向の断面が略ロ字の閉断面形状の筒状体で形成している。
【0039】
図1に示すように、フロントサイドフレーム11の底面11aにおいて、後述するサブフレーム20の第1連結部25と連結する第1被連結部15を前部近傍に設けるとともに、後述する第2連結部26と連結する第2被連結部16を車体本体10の近傍に設けている。さらに、車体本体10における底面10aの前部端に近いフロントサイドフレーム11の後部に、第4連結部33と連結する第4被連結部17を設けている。
【0040】
なお、第4被連結部17は、図4(a)に示すように、ボルト挿通孔17bを底面視レンズ断面形状に開口形成している。さらに、第4被連結部17の閉断面内側に、第4連結部33を固定するナット17aを固定している。
【0041】
上側クラッシュカン12は、図1に示すように、車両前後方向に延びる略ロ字の閉断面形状の筒状体で形成し、フロントサイドフレーム11の前部に連接している。
【0042】
バンパーレインフォースメント13は、図1に示すように、台形の閉断面形状の円弧状部材であり、左右の上側クラッシュカン12の前部端を車幅方向に連結している。
【0043】
サブフレーム20は、図1及び図2に示すように、左右一対の前後メンバ21と、前後メンバ21の前部端に連接する下側クラッシュカン22と、前後メンバ21の前部を車幅方向に連結するフロントクロスメンバ23と、前後メンバ21の後部端を車幅方向に連結するサスペンションクロスメンバ24(以下、サスクロス24という。)とで井桁状に構成している。
【0044】
また、図3に示すように、フロントサイドフレーム11の下方に配設されたサブフレーム20を、後述する第1連結部25及び第2連結部26、第4連結部33を介してフロントサイドフレーム11に固定している。さらに、サブフレーム20は、後述する第3連結部27を介して車体本体10に固定している。
【0045】
なお、サブフレーム20は、フロントサイドフレーム11及び車体本体10に対して弾性部材を介さずリジットに固定している。
【0046】
前後メンバ21は、図1に示すように、車両前後方向に延びる略ロ字の閉断面形状の筒状体で形成し、図2及び図3に示すように、フロントサイドフレーム11の下方に配設している。さらに、図3に示すように、前後メンバ21における上面21aの前部端に、フロントサイドフレーム11の第1被連結部15と連結する第1連結部25を設けている。
【0047】
下側クラッシュカン22は、図1に示すように、寝位の四角錘台状に形成し、前後メンバ21の前部端に連接している。
フロントクロスメンバ23は、図1に示すように、車両前後方向の断面が逆凹の帯状体に形成し、前後メンバ21の前部を車幅方向に連結している。
【0048】
サスクロス24は、図1及び図2に示すように、前後メンバ21の後部端を車幅方向に連結している。さらに、図1及び図3に示すように、サスクロス24の前部に、第2被連結部16と連結する第2連結部26を設けるとともに、サスクロス24の後部に、第3被連結部18と連結する第3連結部27を設けている。
【0049】
また、図2に示すように、サスクロス24の後部において第3連結部27より少し車両前方に、後述する後部連結部材31の第5連結部34と連結する第5被連結部24aを設けている。さらに、図3に示すように、第4連結部33と第3連結部27の間において、サスクロス24の上面に、車幅方向に線条のビード28を設けている。
【0050】
ロアアーム30は、図1及び図2に示すように、車幅方向内側に凸設する略弓形状に形成し、中程に車幅方向内側に突出する支持アーム30aを延設している。支持アーム30aの先端に、サスクロス24の前部に対して揺動可能に連結支持する前部連結部30b(図2参照)を備えている。さらに、ロアアーム30の後部端は、後述する後部連結部材31を介して第4被連結部17及び第5被連結部24aの双方に対して揺動可能に連結支持している。なお、ロアアーム30の前部端は、車輪を支持するナックルアーム(図示省略する)に連結するボールジョイント35を設けている。
【0051】
図5に示すように、後部連結部材31は、ロアアーム30の後部端を支持する支持部32と、支持部32に対して車幅方向外側に第4連結部33と、支持部32に対して車幅方向内側に第5連結部34とで構成している。すなわち、車幅方向内側から第5連結部34、支持部32、第4連結部33の順に配設している。
【0052】
支持部32は、車両前後方向に開口を有する円筒状に形成し、内側にロアアーム30の後部端の嵌入を許容するゴムブッシュ32aを圧入している。
【0053】
第4連結部33は、略垂直方向の鼓型に形成し、支持部32の車幅方向外側の円周面に延設し、中央には略垂直方向にボルト挿入孔33aを備えている。なお、第4連結部33は、フロントサイドフレーム11の第4被連結部17にボルト36で固定されている。
【0054】
第5連結部34は、支持部32の円周面から車幅方向内側に平板状に延設し、先端中央には略垂直方向にボルト挿入孔34aを備えている。なお、第5連結部34は、サスクロス24の第5被連結部24aにボルト37で固定されている。
【0055】
このような構成の車両の下部車体構造において、前突時における車体前部の状態を図6及び図7を用いて説明する。
【0056】
なお、図6は前突発生初期の車体前部の状態の左側面図を示し、図7は前突発生後期の車体前部の状態の左側面図を示している。
【0057】
図6に示すように、前突発生初期において、車両前方からの衝撃荷重により、上側クラッシュカン12及び下側クラッシュカン22が潰れて変形する。このように各クラッシュカン12、22が潰れて変形することによって、衝撃荷重の一部が吸収される。そして、緩和された衝撃荷重は、フロントサイドフレーム11の前部端及び前後メンバ21の前部端から入力され後方に伝達される。
【0058】
車両前方からの衝撃荷重により、フロントサイドフレーム11及び前後メンバ21に、前部端から順にジグザグ状に、かつ双方が上下方向及び車幅方向に離間するような座屈変形が生じる。なお、フロントサイドフレーム11及び前後メンバ21は、ビードや断面積の小さい部分を設けることにより、車両前方からの衝撃荷重に対する脆弱な部分を形成し、座屈変形における変形形状をコントロールしている。
【0059】
フロントサイドフレーム11と前後メンバ21の座屈変形により、第1連結部25及び第2連結部26とがフロントサイドフレーム11から離脱する方向の荷重として作用して、第1連結部25及び第2連結部26がフロントサイドフレーム11から離脱する。
【0060】
さらに、フロントサイドフレーム11と前後メンバ21との座屈変形によって、衝撃荷重の一部を吸収することができる。
【0061】
フロントサイドフレーム11及び前後メンバ21の座屈変形で吸収されない車両前方からの衝撃荷重は、前後メンバ21からサスクロス24に伝達される。このとき、サスクロス24において車幅方向に設けたビード28に、車両前方からの衝撃荷重が作用すると、他の部位よりも脆弱な部分となり、サスクロス24は、ビード28を折り目に谷折れに折れ曲がる。
【0062】
サスクロス24が谷折れに折れ曲がることにより、サスクロス24の後端に、ビード28を中心に略上向きの回転方向の荷重が発生する。この回転方向の荷重により、第3被連結部18周辺は、サスクロス24の後部端に押圧されて圧壊する。その後、サスクロス24の後部端が支点となり、かつビード28に作用する車両前方からの衝撃荷重により、所謂テコの原理によって、略下向きの回転方向の荷重が第3連結部27に作用する。
【0063】
車両前方からの衝撃荷重がさらに車両後方へ伝達すると、図7に示すように、第3連結部27に作用する略下向きの回転方向の荷重により、ボルト29と協働して第3連結部27を係止するナット18aごと第3被連結部18から引き抜く荷重がボルト29に作用し、第3被連結部18を破断しながらナット18aが引き抜かれる。従って、サブフレーム20の第3連結部27が車体本体10から離脱することができる。
【0064】
また、第3連結部27の離脱過程において、サスクロス24の後部端を支点としたテコの原理による略下向きの回転方向の荷重は、ロアアーム30の後部を支持する後部連結部材31にも作用する。
【0065】
この略下向きの荷重は、後部連結部材31の第4連結部33と第5連結部34の双方に作用する。しかし、第4被連結部17のボルト挿通孔17bを底面視レンズ断面形状で形成しているため、略下向きの荷重に対して第4被連結部17は、他の部位よりも脆弱な部分となり、第4被連結部17は、第5被連結部24aに対して略下向きの荷重の影響を受け易い。
【0066】
従って、後部連結部材31に略下向きの荷重が作用することにより、ボルト36と協働して第4連結部33を係止するナット17aごと第4被連結部17から引き抜く荷重がボルト36に作用し、第4被連結部17を破断しながらナット17aが引き抜かれ、第4連結部33がフロントサイドフレーム11から離脱することができる。
【0067】
従って、ロアアーム30とともにサブフレーム20が離脱することにより、車両前方からの衝撃荷重を吸収するクラッシュスペースを確保することができる。
【0068】
このように、この車両の下部車体構造は、車体の前部において前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレーム11と、フロントサイドフレーム11の間に配設され、サスペンション部材を支持するサブフレーム20と、サスペンション部材を構成するロアアーム30とで構成し、ロアアーム30の前部を、サブフレーム20に対して揺動可能に連結支持する前部連結部30aと、ロアアーム30の後部を、サブフレーム20及びフロントサイドフレーム11に対して揺動可能に連結支持する後部連結部材31とを備え、後部連結部材31を、ロアアーム30を連結支持する支持部32と、サブフレーム20における第5被連結部と支持部32とを連結する第5連結部34と、フロントサイドフレーム11における第4被連結部17と支持部32とを連結する第4連結部33とで構成し、前突時における車両前方からの衝撃荷重によって、第4連結部33をフロントサイドフレーム11から離脱させる離脱機構を備え、前突時に、該離脱機構によりフロントサイドフレーム11からサブフレーム20及びロアアーム30を離脱させることにより、ロアアーム30における支持部32の取付剛性を向上しながら、かつ前突時の衝撃荷重を十分吸収するクラッシュスペースを確保することを実現できる。
【0069】
つまり、サスペンションを構成するロアアーム30を、後部連結部材31を介してサブフレーム20とフロントサイドフレーム11の双方に連結することでロアアーム30の後部における支持部32の取付剛性を高めることができる。従って、走行時のロードノイズを低減し、乗員の快適性を向上することができる。
【0070】
また、前突時に、ロアアーム30とともにサブフレーム20を、フロントサイドフレーム11から離脱させることで、車体前部のクラッシュスペースを確保することができる。従って、前突による衝撃荷重を十分吸収することができる。
【0071】
また、離脱機構として、第4連結部33のフロントサイドフレーム11からの離脱を補助するボルト挿通孔17bを備えているため、前突時に、サブフレーム20がフロントサイドフレーム11から離間しようとする略下向きの荷重がボルト挿通孔17bに作用し、第4連結部33をフロントサイドフレーム11から容易に離脱させることができる。
【0072】
また、サブフレーム20を、車幅方向に延びてロアアーム30を支持するサスクロス24と、フロントサイドフレーム11の下方において車両前後方向に延設し、サスクロス24の前部に取り付けられた前後メンバ21とで構成しているため、前後メンバ21の座屈変形によって、前突時の衝撃荷重の一部を吸収し、サスクロス24に伝達される衝撃荷重を緩和することができる。さらに、前後メンバ21の座屈変形によって緩和された衝撃荷重により、サスクロス24を車体本体10から離脱することができる。従って、クラッシュスペースを確保することでき、車両前方からの衝撃荷重を十分吸収することができる。
【0073】
また、支持部32に、ロアアーム30を弾性支持するゴムブッシュ32aを備ええているため、サブフレーム20をフロントサイドフレーム11に対してリジットに固定しても、ゴムブッシュ32aによって弾性支持されたロアアーム30を介して伝達されるロードノイズを低減することができる。従って、サブフレーム20のフロントサイドフレーム11への固定に関して、ゴムブッシュなどの弾性部材を不要とすることができ、部品点数と組立工数を低減することができる。さらに、コストと重量を低減することができる。
【0074】
また、前記離脱機構を第1離脱機構とし、サブフレーム20の後端部を車体本体10と連結支持する第3連結部27を備え、前突時に、第3連結部27を、車体本体10から離脱させる第2離脱機構を備えているため、サブフレーム20の後端を車体本体10に連結して、サブフレーム20の支持剛性をより向上させるとともに、前突時にはサブフレーム20を容易に車体本体10から離脱させることができる。
【0075】
また、前記第2離脱機構に、サブフレーム20における第5被連結部24aと第3連結部27との間に設けたビード28を備えているため、前突時に、サブフレーム20の座屈変形を促進し、かつ座屈変形によって車両前方からの衝撃荷重を略下向きの荷重に変換して、第3連結部27を車体本体10から離脱させることができる。
【0076】
さらに、第3連結部27が離脱することにより、サブフレーム20がフロントサイドフレーム11から離間しようとする略下向きの荷重を第4連結部33に作用させ、第4連結部33をフロントサイドフレーム11から離脱させることができる。従って、サブフレーム20が座屈変形することにより、衝撃荷重をサブフレーム20が離脱する荷重に変換し、サブフレーム20を容易に離脱させることができる。
【0077】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明のアーム部材は、実施形態のロアアーム30に対応し、
以下同様に、
前部連結部材は、前部連結部30bに対応し、
フロントサイドフレームにおける被連結部は、第4被連結部17に対応し、
サブフレームにおける被連結部は、第5被連結部24aに対応し、
第1連結部は、第5連結部34に対応し、
第2連結部は、第4連結部33に対応し、
長孔形状の開口部は、ボルト挿通孔17bに対応し、
弾性部材は、ゴムブッシュ32aに対応し、
変形促進部は、ビード28に対応するが、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【0078】
例えば、ボルト挿通孔17bは、図4(b)に示すよう長孔形状に開口形成したり、第4被連結部17を破断することができる爪などを設けてもよい。
【0079】
また、ビード28で脆弱な部分を形成したが、脆弱な部分をサスクロス24の上面側を底面側より薄い板厚などで構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0080】
この発明は、サブフレームを有する車体前部の下部車体構造に適用することができる。
【符号の説明】
【0081】
10…車体本体
11…フロントサイドフレーム
17…第4被連結部
17b…ボルト挿通孔
20…サブフレーム
21…前後メンバ
24…サスペンションクロスメンバ
24a…第5被連結部
27…第3連結部
28…ビード
30…ロアアーム
30b…前部連結部
31…後部連結部材
32…支持部
32a…ゴムブッシュ
33…第4連結部
34…第5連結部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の前部において前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレームと、
該フロントサイドフレームの間に配設され、サスペンション部材を支持するサブフレームと、
前記サスペンション部材を構成するアーム部材とで構成する車両の下部車体構造であって、
前記アーム部材の前部を、前記サブフレームに対して揺動可能に連結支持する前部連結部材と、
前記アーム部材の後部を、前記サブフレーム及び前記フロントサイドフレームに対して揺動可能に連結支持する後部連結部材とを備え、
該後部連結部材を、
前記アーム部材を連結支持する支持部と、
前記サブフレームにおける被連結部と前記支持部とを連結する第1連結部と、
前記フロントサイドフレームにおける被連結部と前記支持部とを連結する第2連結部とで構成し、
前突時における車両前方からの衝撃荷重によって、該第2連結部を前記フロントサイドフレームから離脱させる離脱機構を備え、
前突時に、該離脱機構により前記フロントサイドフレームから前記サブフレーム及び前記アーム部材を離脱させる
車両の下部車体構造。
【請求項2】
前記離脱機構に、
前記第2連結部の前記フロントサイドフレームからの離脱を補助する長孔形状の開口部を備えた
請求項1に記載の車両の下部車体構造。
【請求項3】
前記サブフレームを、
車幅方向に延びて前記アーム部材を支持するサスペンションクロスメンバと、
前記フロントサイドフレームの下方において前記前後方向に延設し、前記サスペンションクロスメンバの前部に取り付けられた前後メンバとで構成した
請求項1または請求項2に記載の車両の下部車体構造。
【請求項4】
前記支持部に、
前記アーム部材を弾性支持する弾性部材を備えた
請求項1〜3のいずれか1つに記載の車両の下部車体構造。
【請求項5】
前記離脱機構を第1離脱機構とし、
前記サブフレームの後端部を車体本体と連結支持する第3連結部を備え、
前突時における車両前方からの衝撃荷重によって、該第3連結部を、前記車体本体から離脱させる第2離脱機構を備えた
請求項1〜4のいずれか1つに記載の車両の下部車体構造。
【請求項6】
前記第2離脱機構に、
前記サブフレームにおける前記被連結部と前記第3連結部との間に設けた変形促進部を備えた
請求項5に記載の車両の下部車体構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−6545(P2012−6545A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146123(P2010−146123)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】