説明

車両の内装用織物

【課題】通気性の向上を可能とする車両の内装用織物を提供する。
【解決手段】タテ糸に対してヨコ糸が上下に交差しない無交絡組織Mと、タテ糸とヨコ糸とが交互に上下に交差する平織りからなる平組織Hとを有し、無交絡組織Mの周囲が平組織Hにより囲まれていることを特徴とする。無交絡組織Mと平組織Hとが形成されることにより、織物組織に疎密が生じ、通気性の向上を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の内装用織物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、車両の内装の表皮、すなわちトリム、シート、天井等の表皮などに織物が用いられることがある。このような車両の内装として用いられる織物は一般には通気性の低いものが多かった。しかし、その一方で、通気性の高いものが求められる場合があった。例えば、シート表皮において蒸れ防止を目的とする場合などである。しかし、従来一般の車両の内装として用をなす織物では通気性向上の要請に対応することができなかった。
【0003】
車両の内装用織物ではないが、通気性を向上させたタオル織物は下記特許文献1に開示されている。このタオル織物は、所定間隔において斜子織の平織り変化組織と組織点が少なく浮沈の長い組織によって、中央部の縦横空間部分の直交部に折り孔を形成し、これにパイル織を所定位置に接続した結合組織を繰り返すことにより、通気性と吸水性と速乾性を向上させたものである。
【0004】
【特許文献1】特開平8−196466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、車両の内装用織物において通気性の向上を可能とすることを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するにあたり、繊維材料の変更を伴うことなく通気性を向上させるべく鋭意検討し、その検討の結果、車両の内装用織物として好適に利用可能でありながら、通気性を向上させることのできる織物の基本組織を見出すことに成功し、本発明に至った。
第1の発明は、タテ糸に対してヨコ糸が上下に交差しない無交絡組織と、タテ糸とヨコ糸とが交互に上下に交差する平織りからなる平組織とを有し、前記無交絡組織の周囲が前記平組織により囲まれていることを特徴とする車両の内装用織物である。
【0007】
第1の発明によれば、タテ糸とヨコ糸とが最も多く交差する平組織と、タテ糸とヨコ糸とが交差しない無交絡組織とが形成されることにより、織物組織に疎密が生じ、通気性を向上させることができる。
【0008】
第2の発明は、上記第1の発明に記載の車両の内装用織物であって、前記無交絡組織を構成するタテ糸は奇数本であることを特徴とする車両の内装用織物である。
【0009】
第2の発明によれば、無交絡組織を構成するタテ糸が奇数本とされていることにより、無交絡組織においてタテ方向に隣り合うヨコ糸が重なり合いやすくなっている。そのため、織物組織全体の密度を一定とした場合、すなわち、一定間隔にあるタテ糸、ヨコ糸の本数が一定の場合、タテ方向でみて、無交絡組織はヨコ糸が重なり合って密度が高く、その分、平組織の密度が低くなる。そのため、織物全体の密度を従来の車両の内装用織物から変更することなく、隙間の多い平組織を形成し、より通気性を向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、車両の内装用織物において通気性の向上が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、必要に応じて図面を参照しながら、本発明の車両の内装用織物(以下、織物と省略することがある。)の実施形態について説明する。本実施形態の織物は織物組織に特徴を有しており、無交絡組織と平組織とを有している。無交絡組織とは、タテ糸に対してヨコ糸が上下に交差しない組織である。平組織は、平織りからなる組織、すなわちタテ糸とヨコ糸とが交互に上下に交差する組織である。本実施形態の織物において、無交絡組織は平組織により囲まれて形状が保持されている。
【0012】
本実施形態の織物の構成繊維は限定されず、例えば、ポリエステル系繊維、アクリル系繊維、ナイロンなどのポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維等の合成繊維、木綿、麻、羊毛、絹などの天然繊維、キュプラ、レーヨン等の再生繊維、アセテートなどの半合成繊維、あるいはこのような繊維を用いた複合化繊維、混綿などを用いることができる。繊維の太さは限定されないが、例えば、ポリエステル繊維を用いる場合には、10〜1000デシテックスの繊維を用いることができる。本実施形態の織物の密度は、従来の車両の内装用織物と同程度とすることができる。例えば、タテ密度(2.54cm当たりのタテ糸の本数)は50本/2.54cm以上、ヨコ密度(2.54cm当たりのヨコ糸の本数)は50本/2.54cm以上とするのが好ましい。
【0013】
[実施形態1]
図1(A)〜(C)には実施形態1に係る織物が示されている。実施形態1に係る織物の基本組織1は、6本のタテ糸12〜17,20〜25に対し、6本のヨコ糸32〜37,40〜45は上下に交差せず浮いた状態となっており、無交絡組織Mが形成されている。この無交絡組織Mの周囲には平組織Hが形成されている。すなわち、タテ糸11,18,19,26とヨコ糸31〜46、及びタテ糸11〜26とヨコ糸31,38,39,46は一本ごと上下に交差して浮き沈みした平織りからなり、平組織Hが形成されている。実施形態1に係る織物の基本組織1によれば、タテ糸とヨコ糸との浮き沈みの無い無交絡組織Mと、タテ糸とヨコ糸との浮き沈みが最も多い平織りからなる平組織Hとが形成されることにより組織内に疎密が形成され通気性に優れる。
【0014】
[実施形態2]
本発明者らは、無交絡組織Mを構成するタテ糸の本数に着目し、無交絡組織Mを構成するタテ糸を奇数本とすることにより更に通気性を向上し得ることを見出した。
図2(A)〜(C)には実施形態2に係る織物が示されている。実施形態2に係る織物の基本組織2では、7本のタテ糸52〜58,61〜67に対し、7本のヨコ糸72〜78,81〜87は上下に交差せず浮いた状態となっており、無交絡組織Mが形成されている。この無交絡組織Mの周囲には平組織Hが形成されている。すなわち、タテ糸51,59,60,68とヨコ糸71〜88、及びタテ糸51〜68とヨコ糸71,79,80,88は一本ごと上下に交差して浮き沈みした平織りをなし、平組織Hが形成されている。
【0015】
図1(A)〜(C)に示されるように、上記実施形態1に係る織物の基本組織1は、無交絡組織Mを構成するタテ糸が6本で偶数本である。この場合、無交絡組織Mを構成するヨコ糸32,34,・・は無交絡組織Mを構成するタテ糸12〜17に対して浮いた状態であり、それに続いて無交絡組織Mの紙面向かって左側に位置する平組織Hを構成するタテ糸11に対しても浮いた状態となっている。これに対し、ヨコ糸33,35・・は無交絡組織Mを構成するタテ糸12〜17に対して浮いた状態であり、それに続いて無交絡組織Mの紙面向かって右側に位置する平組織Hを構成するタテ糸18に対しても浮いた状態となっている。したがって、図1(C)に示されるように、タテ方向でみると、隣接するヨコ糸32,33の浮いた部分は互い違いになっており、ヨコ糸32m,33は相互に動きにくい。
【0016】
一方、図2(A)〜(C)に示されるように、実施形態2に係る織物の基本組織2は、無交絡組織Mを構成するタテ糸が7本で奇数本であることにより、無交絡組織Mでヨコ糸が動きやすい。すなわち、ヨコ糸72,74・・は無交絡組織Mを構成するタテ糸52〜58に対して浮いた状態であるとともに、無交絡組織Mの両側に位置する平組織Hを構成するタテ糸51,59に対しても浮いた状態である。これに対し、ヨコ糸73,75・・は、無交絡組織Mを構成するタテ糸52〜58に対しては浮いた状態であるが、無交絡組織Mの両側に位置する平組織Hを構成するタテ糸51,59に対しては沈んだ状態である。したがって、実施形態2に係る織物の基本組織2では、ヨコ糸73,75・・の浮いた部分がヨコ糸72,74・・の浮いた部分の内側に含まれており、ヨコ糸73,75・・の浮いた部分がヨコ糸72,74・・の浮いた部分に潜り込みやすく、ヨコ糸が相互に動きやすい(図2(C)参照)。そのため、基本組織2をタテ方向でみると、無交絡組織を有する領域(無交絡部)mではヨコ糸が重なり密度が高くなりやすく、織物全体の密度を一定とした場合、タテ方向でみて平組織のみで構成される領域(平組織部)hでは密度が低くなりやすい。その結果、組織内の疎密差が大きくなり、より通気性に優れる。
【0017】
なお、上記実施形態1,2を示す図面は本発明を例示するものであり、本発明の実施形態はかかる図面に限定されるものではない。織物組織全体における無交絡組織Mと平組織Hの比率は要求される通気性に応じて適宜可能であるが、無交絡組織比率は、20%〜70%とすることが好ましい。無交絡組織比率とは織物の組織図における組織全体に占める無交絡組織の比率のことである。無交絡組織比率が20%未満であると、十分に通気性を向上させられない場合があり、無交絡組織比率が70%を超えると、縫目疲労等の車両の内装用織物としての一般要求性能が低下する恐れがある。
【0018】
本実施形態の織物は、車両の内装であるトリム、シート、天井等の表皮として好適に使用することができる。燃焼性付与、糸のほつれ帽子、傷つき防止等を目的としてバッキング層裏面側にバッキング樹脂層を形成してもよい。
【実施例】
【0019】
[試験例1]
タテ糸として110デシテックス、ヨコ糸として168デシテックスのポリエステル繊維を用い、無交絡組織が平組織で囲まれた基本組織の織物を作成した。各織物の密度を、タテ密度は198本/2.54cm、ヨコ密度は80本/2.54cmで一定とし、基本組織に占める無交絡組織の比率を変化させて数種類の織物を作成した。その際、平組織を一定とし、無交絡組織の糸を増減することで組織全体に占める無交絡組織の比率を変化させた。各織物についてJISL1096に準拠してフラジール法により通気度を測定し、その結果を図3に示した。図3では、無交絡組織を構成するタテ糸の本数が偶数本の織物を「偶数」、無交絡組織を構成するタテ糸の本数が奇数本である織物を「奇数」として、無交絡組織比率と通気度の関係を示した。
【0020】
図3に示されるように、「偶数」も「奇数」も無交絡組織比率が高いほど通気度が高くなることが明らかとなった。また、「偶数」の挙動と「奇数」の挙動を比較すると、無交絡組織比率が同程度である場合、「奇数」の方が通気度が高くなることが明らかとなった。言い換えれば、無交絡組織を構成するタテ糸の本数が奇数本の場合は偶数本の場合に比べ、無交絡組織の比率が比較的小さくても優れた通気性を確保することが可能であることが明らかとなった。
【0021】
[試験例2]
タテ糸として110デシテックス、ヨコ糸として168デシテックスのポリエステル繊維を用い、無交絡組織が平組織で囲まれた基本組織の織物を作成した。織物は、タテ密度を198本/2.54cm、ヨコ密度を60本/2.54cmで一定とし、無交絡組織を構成する糸の本数の異なる4系列を作成した。無交絡組織がタテ糸3本、ヨコ糸3本で構成される「無交絡組織3×3」、無交絡組織がタテ糸9本、ヨコ糸9本で構成される「無交絡組織9×9」、無交絡組織がタテ糸17本、ヨコ糸17本で構成される「無交絡組織17×17」、無交絡組織がタテ糸18本、ヨコ糸18本で構成される「無交絡組織18×18」の4系列である。「無交絡組織3×3」及び「無交絡組織9×9」の織物として、平組織を構成する糸の本数を変化させることにより基本組織に占める無交絡組織の比率を変化させ、複数の織物を作成した。「無交絡組織17×17」及び「無交絡組織18×18」の織物として、無交絡組織のヨコ方向の一方に隣接する平組織を構成するタテ糸を2本、無交絡組織のタテ方向の一方に隣接する一つの平組織を構成するヨコ糸を2本とした織物を作成した。各織物について無交絡組織比率と平組織部ヨコ密度との関係を図4に示した。ここでの無交絡組織比率とは織物の組織図における組織全体に占める無交絡組織の比率のことであり、平組織部ヨコ密度とは実際の織物の平組織部(タテ方向でみて平組織のみで構成される領域)におけるヨコ密度のことである。
【0022】
図4に示されるように、「無交絡組織17×17」と「無交絡組織18×18」とを比較すると、無交絡組織比率はほとんど同じであるにも関わらず、平組織部ヨコ密度は「無交絡組織18×18」に比べて「無交絡組織17×17」が小さく、約半分であることが明らかとなった。これは、無交絡組織のタテ糸が17本で奇数本である「無交絡組織17×17」は、無交絡組織のタテ糸が18本で偶数本である「無交絡組織18×18」に比べて無交絡組織でヨコ糸が重なりやすく、その分、平組織部におけるヨコ糸の間隔が大きくなり平組織部ヨコ密度が小さくなったためである。これにより、無交絡組織を構成するタテ糸を奇数本とすると平組織部のヨコ密度が低下し、平組織部のヨコ密度低下が結果的に通気性の向上に寄与していることが示唆される。
また、無交絡組織を構成するタテ糸を奇数本とした「無交絡組織3×3」及び「無交絡組織9×9」の織物は無交絡組織比率を高くするほど平組織部のヨコ密度が小さくなることが明らかとなった。これにより、タテ糸を奇数本としたとき、ヨコ糸が重なりやすい無交絡組織を増やすことにより平組織部のヨコ密度を低下させて通気性を向上させることが可能であることが示唆される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態1の織物を示す図であり、(A)は組織図、(B)は平面的に示した模式図、(C)は部分的に拡大して示した斜視図である。
【図2】本発明の実施形態2の織物を示す図であり、(A)は組織図、(B)は平面的に示した模式図、(C)は部分的に拡大して示した斜視図である。
【図3】試験例1の結果を示すグラフであり、無交絡組織比率と通気度の関係を示すグラフである。
【図4】試験例2の結果を示すグラフであり、無交絡組織の比率と平組織部ヨコ密度の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0024】
1 (実施形態1の織物の)基本組織
2 (実施形態2の織物の)基本組織
H 平組織
M 無交絡組織
h 平組織部
m 無交絡組織部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
タテ糸に対してヨコ糸が上下に交差しない無交絡組織と、タテ糸とヨコ糸とが交互に上下に交差する平織りからなる平組織とを有し、前記無交絡組織の周囲が前記平組織により囲まれていることを特徴とする車両の内装用織物。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の内装用織物であって、
前記無交絡組織を構成するタテ糸は奇数本であることを特徴とする車両の内装用織物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−270233(P2009−270233A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123704(P2008−123704)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】