説明

車両の制動制御装置

【課題】車両の制動制御装置に関し、エネルギーの有効利用とブレーキ性能の向上とを両立させる。
【解決手段】回生発電により車輪11に回生制動力を付与するモータ装置1と、車輪11に摩擦制動力を付与するブレーキ装置2とが設けられた車両の制動制御装置において、モータ装置1で発電された電力の充電先であるバッテリ9の充電量を検出する検出手段7aと、バッテリ9の電力で駆動されブレーキ装置2の摩擦面に空気を送風する送風手段3とを備える。
また、バッテリ9の電力で駆動され送風手段3が送風する前記空気を冷却する冷却手段4,5と、検出手段7aで検出された前記充電量に応じて、送風手段3及び冷却手段4,5を駆動する制御手段7cとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回生ブレーキと機械式ブレーキとを備えた車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バッテリ電力でモータを駆動して走行する電気自動車やハイブリッド車両では、車両減速時や制動時に車輪の運動エネルギーを利用してモータで発電し、電力を回生する回生制御が実施されている。回生制御時には、発電された電力がバッテリに充電されるとともに、充電された電力量に対応する大きさの回生制動力が車輪に与えられる。また、車輪にはディスクブレーキやドラムブレーキ等といった、車輪に摩擦制動力を与える機械式のブレーキ装置も併設されている。したがって、車輪に与えられる制動力は、回生制動力に係る回生ブレーキと摩擦制動力に係る機械式ブレーキとを併用しつつ、制動要求に応じた適切な大きさに制御される。
【0003】
ところで、回生ブレーキによる回生制動力の大きさは、バッテリの充電状態に左右される。例えば、バッテリが満充電に満たない場合には、モータでの発電量を増大させることで充電量も増加させることができ、大きな回生制動力を得ることが可能である。一方、バッテリが満充電の状態であればそれ以上の充電はできないため、モータでの発電量を増大させることができず回生制動力が減少する。したがって、バッテリの充電量が十分である状態では相対的に機械式ブレーキの負担が高まり、摩擦面での発熱量が増大してフェードを生じやすいという課題がある。
【0004】
特に、電気自動車の場合には、車両に走行用バッテリを大量に搭載する必要があるため車両重量が大きくなる。そのため、機械式ブレーキの容量が不足しがちであり、摩擦面での発熱量が増大しやすい。また、相対的に回生ブレーキの負担が弱まることで、運転者が強くブレーキペダルを踏み込むような操作が生じやすくなる。これにより、機械式ブレーキの負担がさらに高まり、発熱量がさらに増大する可能性もある。
【0005】
そこで、回生電力による充電がバッテリに対して過充電となる場合に、バッテリの電力を強制的に電装品に消費させる技術が開発されている。例えば、特許文献1には、バッテリの入出力電圧が規定値以上であるときに、バッテリの電力を空調装置や補機類に供給し、バッテリの充電量を減少させる制御が記載されている。このような制御によりバッテリの過充電が防止されるため、回生制動力が減少するような事態が回避される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−39885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、減速,制動操作が車両走行時に随時入力されうる操作であるのに対し、空調装置,補機類は常に作動しているわけではない。そのため、バッテリの充電量が十分であるにも関わらず電力が消費されない可能性があり、回生制動力の減少を回避できない場合がある。つまりこの場合、相対的に機械式ブレーキの負担が高まり、摩擦面での発熱量が増大してフェードが発生するおそれがある。
このような課題に対し、空調装置が作動していない状態であっても、空調装置に含まれる電動アクチュエータを駆動することでバッテリ電力を減少させることも考えられる。しかしこの場合、バッテリ電力が無駄に消費されることになり、省エネ性能やエコロジー性能が大きく低下する。
【0008】
また、機械式ブレーキによって車輪に与えられる摩擦制動力の大きさは、車両の走行状態に応じて変化する。例えば、摩擦係合部材とブレーキ回転体との接触摩擦によりそれらの表面温度が上昇すると、摩擦係数が変化するため、摩擦係合要素とブレーキ回転体との間の押圧力が同一であっても摩擦制動力が低下する。特に、機械式ブレーキの負担が大きい電気自動車では機械式ブレーキの摩擦制動力が低下しやすく、良好な制動フィーリングを実現することが難しい。
【0009】
本件の目的の一つは上記のような課題に鑑み創案されたもので、車両の制動制御装置に関し、エネルギーの有効利用とブレーキ性能の向上とを両立させることである。
なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)ここで開示する車両の制動制御装置は、回生発電により車輪に回生制動力を付与するモータ装置と、前記車輪に摩擦制動力を付与するブレーキ装置とが設けられた車両の制動制御装置である。まず、前記モータ装置で発電された電力の充電先であるバッテリの充電量を検出する検出手段と、前記バッテリの電力で駆動され、前記ブレーキ装置の摩擦面に空気を送風する送風手段とを備える。また、前記バッテリの電力で駆動され、前記送風手段が送風する前記空気を冷却する冷却手段と、前記検出手段で検出された前記充電量に応じて、前記送風手段及び前記冷却手段を駆動する制御手段とを備える。
【0011】
(2)また、前記制御手段が、前記検出手段で検出された前記充電量に応じて、前記冷却手段で冷却される前記空気の温度を制御することが好ましい。
(3)また、前記制御手段が、前記充電量が満充電量に近いほど、前記冷却手段に前記空気の温度を低下させることが好ましい。
(4)また、前記制御手段が、前記充電量が満充電量に近いほど、前記送風手段に前記空気の送風量を増大させることが好ましい。
【0012】
(5)また、前記制御手段が、前記充電量が所定量以上である場合に、前記送風手段による送風量及び前記冷却手段による冷却量が最大となるように、前記送風手段及び前記冷却手段を駆動することが好ましい。
(6)さらに、前記冷却手段が、車室内に供給される空気を冷却する空調装置とは別体に設けられることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
開示の車両の制動制御装置によれば、充電量に応じて送風手段及び冷却手段を駆動しブレーキ装置を冷却することで、摩擦熱によるフェードの発生を防止することができる。また、送風手段,冷却手段を駆動することでバッテリの充電量を減少させることができ、回生制動力を確保することができる。これにより、摩擦ブレーキ性能と回生ブレーキ性能との双方を同時に確保することができ、エネルギーの有効利用を図りつつ全体としての車両のブレーキ性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態に係る車両の制動制御装置の構成を例示するブロック図である。
【図2】(a)は図1の制動制御装置で実施される制御内容を示すフローチャートであり、(b)はその変形例としてのフローチャートである。
【図3】変形例としての制動制御装置の構成を例示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照して車両の制動制御装置について説明する。なお、以下に示す実施形態は、あくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。
【0016】
[1.構成]
本実施形態の制動制御装置は、図1に示す車両10に適用されている。この車両10は、バッテリ9の電力でモータ1(モータ装置)を駆動することによって走行する電気自動車である。モータ1は、バッテリ9の電力を消費して車輪11を回転駆動する機能と、制動時における車輪11のトルクを利用した発電によって電力を回生する機能とを兼ね備えたモータ・ジェネレータである。これらの二種類の機能は、車両10の走行状態に応じて適宜制御される。図1では、後輪の二輪がトランスミッション14を介してモータ1と機械的に接続されたものが例示されており、図1の紙面上方が車両前方に対応する。モータ1によって駆動される車輪11は少なくとも前輪又は後輪の二輪であればよく、全ての車輪11を駆動輪としてもよい。
【0017】
各車輪11には、ディスクブレーキやドラムブレーキといった機械式のブレーキ2(ブレーキ装置)が併設されている。各車輪11のブレーキ2には、ブレーキペダル15の踏み込み量に対応する油圧を伝達する油圧ライン17が接続されている。また、ブレーキペダル15にはその踏み込み量を検出するストロークセンサ16が付設され、ここで検出された踏み込み量がEV-ECU7に伝達され、ブレーキ2から各車輪11に与えられる制動力の設定等に用いられる。
【0018】
EV-ECU7(Electric Vehicle Electronic Control Unit)は、車両10に搭載される各種電子制御装置を統括管理する最上位の電子制御ユニットである。EV-ECU7の下位の電子制御ユニットとしては、バッテリ9を管理するBMU(Battery Management Unit)やモータ1の動作を管理するMCU(Motor Control Unit),車両10の空調状態を管理する空調ECU6等が挙げられる。EV-ECU7を含む全ての電子制御装置は、マイクロコンピュータで構成された電子制御装置であり、例えば周知のマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成される。また、これらの電子制御装置は、CAN,FlexRay等の通信ライン18を介して互いに接続されている。なお、図1中では空調ECU6及びEV-ECU7以外の電子制御装置の記載が省略されている。
【0019】
空調ECU6は、車両10の車室内の温度,湿度といった空調環境を調節するHVAC8(Heater, Ventilator and Air Conditioner,車室内空調装置)の動作を制御するコントローラである。HVAC8の内部には、空調エバポレータ8a,空調ヒータ8b,空調ファン8c等が内蔵され、空調エバポレータ8aには冷媒を圧縮するコンプレッサ5が接続されている。HVAC8は、車室内又は車外から空気を吸い込んでその温度,湿度を調節し、空調ダクト13を介して車室内へと供給する。
【0020】
空調エバポレータ8aは、コンプレッサ5側から導入される冷媒を減圧して気化させることにより吸熱する膨張器であり、空調ファン8cによって吸い込まれた空気を冷却する冷房装置として機能する。空調エバポレータ8aとコンプレッサ5との間は、内部に冷媒が流通する冷媒ライン20で接続されている。空調ヒータ8bは、電気やエンジン冷却水の熱を利用して空気を加熱する暖房装置として機能する。車室内に供給される空気の温度は空調エバポレータ8a及び空調ヒータ8bによって調節され、空気量(風量)は、空調ファン8cの回転数制御によって調節される。
なお、バッテリ9の電力はモータ1だけでなく車両10に搭載される各種電装品にも供給される。例えば、HVAC8やコンプレッサ5の駆動電力は、バッテリ9から供給されている。
【0021】
この車両10には、各車輪11に設けられたブレーキ2を冷却するためのブレーキ冷却構造が適用されており、図1に示すように、ファン3,エバポレータ4及びブレーキダクト12が設けられている。ブレーキダクト12の一端は車室内又は車外に開放され、他端は各ブレーキ2の摩擦面の近傍まで延設されている。また、ファン3及びエバポレータ4はブレーキダクト12内に設けられている。
エバポレータ4は、空調エバポレータ8aと同様に、コンプレッサ5から冷媒の供給を受けてブレーキダクト12内の空気を冷却する膨張器である。コンプレッサ5とエバポレータ4との間は、空調エバポレータ8aとコンプレッサ5との間を接続するものとは別の冷媒ライン20で接続されている。
【0022】
また、ファン3は車室内又は車外から空気を吸い込むとともに、コンプレッサ5で冷却された空気を各ブレーキ2の摩擦面に供給するものである。ファン3とバッテリ9との間には電源ライン19が接続されており、ファン3の駆動電力はバッテリ9から供給されている。
ファン3及びコンプレッサ5の動作は空調ECU6及びEV-ECU7で制御されている。以下、EV-ECU7での制御内容について詳述する。なお、図1中では冷却対象となるブレーキ2が車両10の前輪のみとなっているが、ブレーキダクト12を後輪のブレーキ2の近傍まで延設し、車両10の後輪を冷却対象とすることも可能である。
【0023】
[2.制御構成]
EV-ECU7では、回生制御及びブレーキ冷却制御が実施される。回生制御とは、車両減速時や制動時に車輪の運動エネルギーを利用してモータで発電し、電力を回生する制御である。また、ブレーキ冷却制御とは、各車輪11のブレーキ2の摩擦面を冷却することで摩擦制動力を向上させる制御である。これらの制御を実施するための要素として、EV-ECU7にはバッテリ充電量検出部7a,回生制御部7b及びブレーキ冷却制御部7cが設けられている。これらのバッテリ充電量検出部7a,回生制御部7b及びブレーキ冷却制御部7cの各機能は、電子回路(ハードウェア)によって実現してもよく、あるいはソフトウェアとしてプログラミングされたものとしてもよいし、あるいはこれらの機能のうちの一部をハードウェアとして設け、他部をソフトウェアとしたものであってもよい。
【0024】
バッテリ充電量検出部7aは、バッテリ9の充電率(SOC,State Of Charge)を検出又は算出するものである。例えば、バッテリの開放電圧Vに基づいて充電の度合いを百分率で表した値(完全に放電した状態を0[%]とし、満充電状態を100[%]としたものなど)が算出される。なお、バッテリ9の内部抵抗値やバッテリ放電量,バッテリ温度等に基づく公知の手法を用いて充電率を検出又は算出してもよい。ここで検出又は算出された充電率は、回生制御部7b及びブレーキ冷却制御部7cに伝達される。
回生制御部7bは、車両減速時や制動時にモータ1で回生制御を実施するものである。回生制御部7bは、例えばストロークセンサ16でブレーキペダル15の踏み込み操作が検出されたときに、モータ1を発電機として作動させる信号を出力し、回生電力をバッテリ9に充電させる。ただし、バッテリ充電量検出部7aで検出された充電率が満充電に近い所定充電率(例えば98[%])以上である場合には回生制御を抑制又は禁止し、バッテリ9への過充電を防止する。
【0025】
ここでいう回生制御の抑制とは、通常の回生制御時よりも発電電力を減少させる制御のことをいう。例えば、モータ1に印加される電圧及び電流を制御するインバータ装置をバッテリ9及びモータ1間に介装した場合には、電圧及び電流の調節により発電量を増減させることが可能である。したがって、充電率が高まるほど発電量が減少するような制御とすることで、回生制御に係る発電量を抑制することができる。
なお、回生制御時には、バッテリ9への充電量に応じた大きさの回生制動力が各車輪11に作用する。車輪11は、回生制御によって生じる回生制動力と、ブレーキ2によって与えられる摩擦制動力との二種類の制動力を受けて制動される。
【0026】
ブレーキ冷却制御部7cは、バッテリ9の充電率に応じてブレーキ冷却制御を実施するものである。ブレーキ冷却制御では、ブレーキ冷却制御部7cが空調ECU6に制御信号を出力し、制御信号を受けた空調ECU6がファン3及びコンプレッサ5を駆動してブレーキ2の摩擦面を冷却する。ブレーキ冷却制御の開始条件は、例えば充電率が上記の所定充電率以上であることである。また、ファン3及びコンプレッサ5の具体的な制御内容は任意に設定可能である。なお、ブレーキ冷却制御の開始条件に係る所定充電率は、回生制御が抑制又は禁止される所定充電率以下であることが好ましい。
典型的な制御例としては、充電率が上記の所定充電率以上である場合に、ファン3をその最高回転数で駆動するとともにコンプレッサ5をその最大能力で駆動することが考えられる。この場合、ブレーキ2に供給される冷却風の送風量が最大となり、かつ、冷却風の温度が最低温となる。
【0027】
[3.フローチャート]
図2(a)のフローチャートを用いて、ブレーキ冷却制御の手順を説明する。このフローチャートは、EV-ECU7内で所定の周期で繰り返し実行されている。なお、回生制御は、本フローチャートから独立した別のフローチャートに基づき、ブレーキ冷却制御と並行して実施される。
ステップA10では、EV-ECU7のバッテリ充電量検出部7aにおいて、バッテリ9の開放電圧Vが読み込まれ、続くステップA20で充電率が算出される。ステップA30では、ブレーキ冷却制御部7cにおいて、バッテリ9の充電率が所定充電率以上であるか否かが判定される。
【0028】
充電率が所定充電率未満である場合には、たとえ回生制御が実施されたとしてもバッテリ9が過充電されるおそれがないため、制御がステップA40に進み、ブレーキ冷却制御が不実施とされる。一方、充電率が所定充電率以上である場合、制御がステップA50に進み、ブレーキ冷却制御が実施される。すなわち、ブレーキ冷却制御部7cから空調ECU6へと制御信号が出力され、ファン3が最大回転数で駆動されるとともにコンプレッサ5が最大能力で駆動される。これにより、ブレーキ2の摩擦面が冷却され、摩擦係数の低下が抑制される。
【0029】
ステップA50でのファン3及びコンプレッサ5の駆動により、バッテリ9の充電率が低下することになる。したがって、仮に回生制御が実施されていたとしても、その回生制御が停止するようなことがなく、回生制動力の減少が回避される。また、次回以降の制御周期でバッテリ9の充電率が所定充電率未満まで低下すると、ブレーキ冷却制御が不実施となり、ファン3が停止する。なお、空調ECU6が室内空調のためにコンプレッサ5を作動させている状態でなければ、コンプレッサ5の動作は停止する。
【0030】
[4.作用,効果]
本実施形態の制動制御装置によれば、バッテリ9の充電量に応じてブレーキ冷却制御の実施/不実施が選択され、充電量が所定充電量以上である場合には、ファン3及びコンプレッサ5が最大能力を発揮したときの送風量及び冷却量が得られるように、ブレーキ冷却制御が実施される。このとき、ブレーキ2の摩擦面に供給される冷却風はエバポレータ4で冷却されるため、その冷却風の温度は外気温又は室温よりも低温となる。
したがって、充電量に応じてブレーキ2への送風を制御することで摩擦熱によるフェードの発生を防止することができる。また、充電量に応じてファン3及びコンプレッサ5を駆動することで、バッテリ9の充電量を減少させることができ、回生制動力を確保することができる。
【0031】
例えば、バッテリ9の充電量が仮に所定充電量以上になると、EV-ECU7の回生制御部7bで回生制御が抑制又は禁止されるため、車輪11に付与される二種類の制動力のうち、回生制動力が減少してしまう。一方、本制動制御装置では、ファン3及びコンプレッサ5を駆動することでバッテリ9の電力が消費されるため、回生制御が継続されることになる。これにより、摩擦ブレーキ性能と回生ブレーキ性能との双方を同時に確保することができ、全体としての車両10のブレーキ性能を向上させることができる。
【0032】
また、ブレーキ2に供給される冷風の温度を充電量に応じて制御しているため、バッテリ9の充電量を素早く減少させることができ、すなわち、過充電により回生制御が禁止されるような事態を素早く回避することができ、回生ブレーキ性能を維持することができる。さらに、ブレーキ2の摩擦面温度を迅速に冷却することもでき、摩擦ブレーキ性能を向上させることができる。
特に、本制動制御装置ではファン3及びコンプレッサ5をその最大能力で駆動しているため、バッテリ9の充電量を効率的に消費することができ、モータ1の回生駆動によって回生制動力を確実に付与することができ、車両10に対して常時適切なブレーキ力を確保することができる。
【0033】
さらに、上記の制動制御装置では、ファン3及びエバポレータ4がHVAC8とは別体に設けられているため、車室内の空調制御とは別個にブレーキ冷却制御に係る冷却風の温度及び風量管理が可能となる。これにより、車室内の空調環境や車両10の走行状態に関わらず、摩擦ブレーキ性能と回生ブレーキ性能とをともに向上させることができる。例えば、車両10の搭乗者の手動操作によりHVAC8の暖房機能が働いていたとしても、その制御とは独立してブレーキ冷却制御を実施することができる。
【0034】
[5.変形例等]
上述した実施形態に関わらず、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。本実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせてもよい。
上述のブレーキ冷却制御では、ファン3をその最高回転数で駆動するとともにコンプレッサ5をその最大能力で駆動するものを例示したが、ブレーキ2に供給される冷却風の送風量や送風温度を充電量に応じて設定することが好ましい。例えば、充電量が大きいほど(満充電に近いほど)送風温度を低下させることが考えられる。あるいは、充電量が大きいほど送風量を増加させることが考えられる。
【0035】
この場合、図2(b)に示すような手順でブレーキ冷却制御を実施することが考えられる。ステップA10〜A40は前述のフローチャートと同様であるが、ブレーキ冷却制御の内容が相違する。ステップA60では、バッテリ9の充電率に応じた大きさのファン3の目標回転数が設定される。充電率と目標回転数との関係は、充電量が満充電量に近いほど高回転とする(つまり、充電量が多いほど送風量を増大させる)。
続くステップA70では、バッテリ9の充電率に応じた大きさのコンプレッサ5の目標出力が設定される。充電率と目標出力との関係も、充電量が満充電量に近いほど大出力とする(つまり、充電量が多いほど送風温度を低下させる)。
【0036】
送風温度を低下させるべくコンプレッサ5の出力を高めるほど、コンプレッサ5の消費電力が増大し、バッテリ9の充電量の減少速度が増加する。これにより、速やかに充電量を低下させることができる。したがって、たとえ回生制御が開始されて充電量が急激に増大したとしても、充電量に相当する電力を速やかにコンプレッサ5で消費することができ、確実に車輪11に回生制動力を付与することができる。また、コンプレッサの出力を高めることでより冷たい空気がブレーキ2の摩擦面に供給されることになり、摩擦制動力を強化することができる。
【0037】
同様に、送風量を増大させるべくファン3の回転数を上昇させるほど、ファン3の消費電力が増大し、バッテリ9の充電量の減少速度が増加する。したがって、確実に車輪11に回生制動力を付与することができる。また、送風量を増大させることでブレーキ2の摩擦面からの放熱量を増大させることができ、摩擦制動力を強化することができる。
【0038】
また、上述の実施形態では、ファン3及びエバポレータ4がHVAC8とは別体に設けられたものを例示したが、HVAC8に内蔵された空調エバポレータ8a及び空調ファン8cを利用してブレーキ冷却制御を実施する構成としてもよい。例えば、図3に示すように、HVAC8から室内へと通じる空調ダクト13から通路を分岐させてブレーキダクト12に接続し、空調ダクト13内の分岐位置に空気の流通方向を変更するためのダンパー21を設ける。
【0039】
ブレーキ冷却制御の非実施時には、図3中に実線で示すように、ダンパー21にブレーキダクト12を閉鎖させる。一方、ブレーキ冷却制御の実施時には、破線で示すように、室内へ通じる通路をダンパー21に閉鎖させる。このような制御により、少なくとも上述のものと同様のブレーキ冷却制御を実施することが可能となる。ダンパー21の開度制御によりHVAC8から供給される空気を室内側とブレーキダクト12側とに適切に分配すれば、ブレーキ冷却制御と室内空調とを同時に実施することも可能である。
なお、上記の制動制御装置は、回生制動力及び摩擦制動力の双方を用いて車輪11を制動する車両全般に適用可能であり、例えば電気自動車やエンジンを搭載したハイブリッド車両に適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 モータ(モータ装置)
2 ブレーキ(ブレーキ装置)
3 ファン(送風手段)
4 エバポレータ(冷却手段)
5 コンプレッサ(冷却手段)
6 空調ECU
7 EV-ECU
7a バッテリ充電量検出部(検出手段)
7b 回生制御部
7c ブレーキ冷却制御部(制御手段)
8 HVAC(空調装置)
8a 空調エバポレータ
8b 空調ヒータ
8c 空調ファン
9 バッテリ
10 車両
11 車輪
12 ブレーキダクト
13 空調ダクト
14 トランスミッション
15 ブレーキペダル
16 ストロークセンサ
17 油圧ライン
18 通信ライン
19 電源ライン
20 冷媒ライン
21 ダンパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回生発電により車輪に回生制動力を付与するモータ装置と、前記車輪に摩擦制動力を付与するブレーキ装置とが設けられた車両の制動制御装置であって、
前記モータ装置で発電された電力の充電先であるバッテリの充電量を検出する検出手段と、
前記バッテリの電力で駆動され、前記ブレーキ装置の摩擦面に空気を送風する送風手段と、
前記バッテリの電力で駆動され、前記送風手段が送風する前記空気を冷却する冷却手段と、
前記検出手段で検出された前記充電量に応じて、前記送風手段及び前記冷却手段を駆動する制御手段と
を備えたことを特徴とする、車両の制動制御装置。
【請求項2】
前記制御手段が、
前記検出手段で検出された前記充電量に応じて、前記冷却手段で冷却される前記空気の温度を制御する
ことを特徴とする、請求項1記載の車両の制動制御装置。
【請求項3】
前記制御手段が、
前記充電量が満充電量に近いほど、前記冷却手段に前記空気の温度を低下させる
ことを特徴とする、請求項1又は2記載の車両の制動制御装置。
【請求項4】
前記制御手段が、
前記充電量が満充電量に近いほど、前記送風手段に前記空気の送風量を増大させる
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の車両の制動制御装置。
【請求項5】
前記制御手段が、
前記充電量が所定量以上である場合に、前記送風手段による送風量及び前記冷却手段による冷却量が最大となるように、前記送風手段及び前記冷却手段を駆動する
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の車両の制動制御装置。
【請求項6】
前記冷却手段が、
車室内に供給される空気を冷却する空調装置とは別体に設けられる
ことを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載の車両の制動制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−76636(P2012−76636A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224677(P2010−224677)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】