説明

車両の制動制御装置

【課題】車両の制動制御装置において、制動時における車両の挙動を安定させることで安全性の向上を可能とする。
【解決手段】ECU41として、車輪FR〜RLのスリップが抑制されるように制動装置22を作動制御するABS制御装置51と、車両11の周辺情報に基づいて制動装置22を作動制御する自動制動制御装置52と、ABS制御装置51の作動開始の閾値を自動制動制御装置52の非作動時より自動制動制御装置52の作動時の方が小さくなるように変更する作動開始閾値変更装置とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の制動時に、車輪のロックやスリップを検出し、この車輪のロック時やスリップ時に自動で制動を緩める制御を行うことで、車輪ロックによる空走を抑制するものとして、アンチロックブレーキ装置(ABS)がある。また、走行する車両にて、運転者の制動操作とは関係なく、前方に障害物を検出したときなど必要に応じて車両を制動するものとして、自動制動装置がある。そして、下記特許文献1に記載された車両のアンチスキッド制御装置では、自動制動装置により車輪に制動力が付与されているか否かに応じてアンチスキッド制御の開始条件を変更することで、制動スリップが通常のアンチスキッド制御開始時よりも高くなるまでアンチスキッド制御が開始されないことに起因して、アンチスキッド制御開始時の制御量が大きくなり制動力が急激に変動することを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−160623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、自動制動装置により運転者の制動操作とは関係なく必要に応じて車両を制動する場合、運転者に対して十分な安全性を確保する必要があり、アンチロックブレーキ装置と自動制動装置との作動の関連性を更に高める必要がある。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、制動時における車両の挙動を安定させることで安全性の向上を可能とする車両の制動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両の制動制御装置は、車両の周辺情報に基づいて制動装置を作動する第1制動制御装置と、車輪のスリップ率が予め設定された所定の範囲に収まるように前記制動装置を作動する第2制動制御装置と、前記第2制動制御装置の作動開始の閾値を前記第1制動制御装置の非作動時より前記第1制動制御装置の作動時の方が小さくなるように変更する作動開始閾値変更装置と、を備えることを特徴とする。
【0007】
上記車両の制動制御装置にて、前記作動開始閾値変更装置は、前記第1制動制御装置による前記制動装置の制動量が運転者の制動操作による前記制動装置の制動量より大きいときに前記第2制動制御装置の作動開始の閾値を小さく変更することが好ましい。
【0008】
上記車両の制動制御装置にて、前記第1制動制御装置による前記制動装置の制動量は、前記車両の周辺情報に基づいて設定される要求制動力であり、運転者の制動操作による前記制動装置の制動量は、ブレーキペダルの踏込み量または踏込み力であることが好ましい。
【0009】
上記車両の制動制御装置にて、前記第2制動制御装置は、前記車輪のロック時にスリップ率が抑制されるように前記制動装置を作動するものであり、前記作動開始閾値変更装置は、前記第2制動制御装置の作動開始の閾値を前記第1制動制御装置の非作動時より作動時の方が小さくなるように変更することで、前記車輪のロック時を抑制することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る車両の制動制御装置によれば、車両の周辺情報に基づいて制動装置を作動する第1制動制御装置と、車輪のスリップ率が所定の範囲に収まるように制動装置を作動する第2制動制御装置と、前記第2制動制御装置の作動開始の閾値を前記第1制動制御装置の非作動時より前記第1制動制御装置の作動時の方が小さくなるように変更する作動開始閾値変更装置とを設けるので、車両の周辺情報に基づいた制動が発生しやすくなり、運転者の意図しない制動に対して車両の挙動を安定させることができ、車両の走行安全性を向上することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る車両の制動制御装置を表す概略構成図である。
【図2】図2は、本実施形態の車両の制動制御装置における制動制御の処理を表すフローチャートである。
【図3】図3は、本実施形態の車両の制動制御装置における制動時の車両の走行状態を表すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係る車両の制動制御装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る車両の制動制御装置を表す概略構成図、図2は、本実施形態の車両の制動制御装置における制動制御の処理を表すフローチャート、図3は、本実施形態の車両の制動制御装置における制動時の車両の走行状態を表すタイムチャートである。
【0014】
本実施形態の車両の制動制御装置により制御される制動装置は、ブレーキペダルから入力されたブレーキ操作量(または、ブレーキ操作力など)に対して、車両の制動力、つまり、制動力を発生させるホイールシリンダへ供給する油圧を電気的に制御する電子制御式制動装置である。具体的に、この電子制御式制動装置としては、ブレーキ操作量に応じて目標制動油圧を設定し、アキュムレータに蓄えられた油圧を調圧してから、ホイールシリンダへ供給することで、制動力を制御するECB(Electronically Controlled Brake)である。但し、ドライバのブレーキペダル操作で発生するマスタシリンダ圧が直接ホイールシリンダに導入される形式のブレーキ制御システムであっても、ドライバのブレーキペダル操作とは独立して車輪の制動力を制御できるものであればよい。
【0015】
また、本実施形態の車両の制動制御装置は、車両の周辺情報に基づいて制動装置を作動する自動制動制御装置(第1制動制御装置)と、車輪のスリップが抑制されるように制動装置を作動するアンチロックブレーキ装置(第2制動制御装置)とを有している。
【0016】
以下、本実施形態の車両の制動制御装置について詳細に説明する。図1に示すように、車両11は、4つの駆動可能な車輪FL,FR,RL,RRを有している。ここで、車輪FRは運転席から見て前方右側、車輪FLは前方左側、車輪RRは後方右側、車輪RLは後方左側の車輪をそれぞれ表している。また、この車両11は、ガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンである内燃機関12と、自動変速機または無段変速機である変速機13を含むトランスアクスル14と、図示されないトランスファとを有している。
【0017】
即ち、本実施形態の車両11は、4輪駆動車両として構成されており、前輪FL,FRに、トランスファ、図示されないフロントデファレンシャル、ドライブシャフト15L,15Rを介して、内燃機関12から動力が伝達される。また、トランスアクスル14のアウトプットシャフト16は、リヤデファレンシャル17に接続されており、このリヤデファレンシャル17に、ドライブシャフト18L,18Rを介して後輪RL,RRが連結されている。そのため、車両11は、後輪RL,RRに、アウトプットシャフト16、リヤデファレンシャル17、ドライブシャフト18L,18Rを介して、内燃機関12から動力が伝達される。
【0018】
なお、本実施形態の車両11は、4輪駆動車両に限定されるものではなく、2輪駆動車両であってもよく、また、内燃機関に代えて電気モータを搭載した電気自動車、内燃機関及び電気モータを搭載したハイブリッド車両であってもよい。
【0019】
また、車両11は、車輪FR〜RLごとに設けられたディスクブレーキユニット21FR,21FL,21RR,21RLを含む制動装置22を有している。この制動装置22は、所謂、EBD(Electronic Brake force Distribution:電子制動力分配制御)付きのABS(Antilock Brake System:アンチロックブレーキ装置)として構成されている。各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、それぞれブレーキディスク23とブレーキキャリパ24を有し、各ブレーキキャリパ24は、ホイールシリンダ25を内蔵している。そして、各ブレーキキャリパ24のホイールシリンダ25は、それぞれ独立の液圧ライン26を介してブレーキアクチュエータを有するブレーキ油圧回路27に接続されている。
【0020】
ブレーキペダル28は、ドライバが踏み込み可能に支持され、ブレーキブースタ29が接続され、このブレーキブースタ29にマスタシリンダ30が固定されている。ブレーキブースタ29は、ドライバによるブレーキペダル28の踏み込み操作に対して所定の倍力比を有するアシスト力を発生することができる。マスタシリンダ30は、内部に図示しないピストンが移動自在に支持されることで、2つの油圧室を有しており、各油圧室には、ブレーキ踏力とアシスト力を合わせたマスタシリンダ圧を発生させることができる。マスタシリンダ30の上部には、リザーバタンク31が設けられており、このマスタシリンダ30とリザーバタンク31とは、ブレーキペダル28が踏み込まれていない状態で連通し、ブレーキペダル28が踏み込まれると閉鎖され、マスタシリンダ30の油圧室が加圧される。マスタシリンダ30は、各油圧室がそれぞれ油圧供給通路32を介してブレーキ油圧回路27に接続されている。
【0021】
ブレーキ油圧回路27は、ドライバによるブレーキペダル28の踏み込み量に応じてブレーキ油圧を生成し、このブレーキ油圧を各液圧ライン26からホイールシリンダ25に供給し、この各ホイールシリンダ25を作動させることで、制動装置22により車輪FR〜RLに対してブレーキ力を付与し、車両11に制動力を作用させることができる。
【0022】
車両11は、電子制御ユニット(ECU)41が搭載されており、このECU41は、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMと、データを一時的に記憶するRAMと、入出力ポート及び通信ポートを有している。従って、このECU41は、内燃機関12、変速機13、ブレーキ油圧回路27などを制御可能となっている。
【0023】
ECU41は、ブレーキペダル28の踏み込み量(ブレーキペダルストローク)を検出するブレーキストロークセンサ42、マスタシリンダ30から供給される油圧(マスタシリンダ圧)を検出するマスタシリンダ圧センサ43が接続されている。従って、ECU41は、検出されたブレーキペダルストローク、マスタシリンダ圧などに基づいてブレーキ油圧回路27により生成されるブレーキ油圧を制御している。なお、ブレーキストロークセンサ42に代えて、ブレーキペダル28の踏み込み力(踏力)を検出するブレーキ踏力センサを用いてもよい。
【0024】
このECU41は、ABS制御装置(第2制動制御装置)51と自動制動制御装置(第1制動制御装置)52とを有している。ABS制御装置51は、車輪FR〜RLのスリップ率が予め設定された所定の範囲に収まるように制動装置22(ブレーキ油圧回路27)を作動制御するものである。ECU41(ABS制御装置51)は、車輪速センサ44と、車速センサ45が接続されている。車輪速センサ44は、それぞれの車輪FR〜RLに装着されてその回転速度を検出しており、検出した各車輪FR〜RLの回転速度(車輪速)をECU41に送信している。車速センサ45は、車体の速度を検出しており、検出した車体速度(車速)をECU41に送信している。
【0025】
ABS制御装置51は、この車輪速センサ44が検出した車輪速Vと、車速センサ45が検出した車速Vに基づいて車輪FR〜RLのスリップ率ΔSを算出し、このスリップ率ΔSに基づいてブレーキ油圧回路27により生成されるブレーキ油圧を制御する。例えば、下記数式によりスリップ率ΔSを演算する。
ΔS=[(V−V)/V]×100
【0026】
なお、車輪FR〜RLに対応して車輪速センサ44が設けられていることから、車輪速Vを求めるとき、各車輪速センサ44による4つの検出値を平均処理して車輪速Vとし、スリップ率ΔSを求めればよい。また、スリップ率ΔSの算出方法は、上記数式によるものに限定されるものではなく、例えば、車速Vと車輪速Vとの偏差をスリップ率ΔSとしてもよく、また、加速度センサの検出値と車輪速Vの微分値との偏差をスリップ率ΔSとしてもよく、また、内燃機関12の出力や変速機13の変速比などから車速Vを推定してもよい。
【0027】
そして、ABS制御装置51は、車輪FR〜RLのスリップ率が所定の範囲に収まるように、ブレーキ油圧回路27の制御を開始するための閾値が設定されている。即ち、現在の車輪FR〜RLのスリップ率ΔSが予め設定されたスリップ率の閾値より大きくなったら、ブレーキ油圧回路27の制御を開始する。
【0028】
また、自動制動制御装置52は、車両11の周辺情報に基づいて制動装置22(ブレーキ油圧回路27)を作動制御するものである。ECU41(自動制動制御装置52)は、カメラやレーダー装置からなる周辺検出センサ46が接続されている。周辺検出センサ46は、車両周辺の情報として、例えば、車両11の走行時には、前方や後方の車両や障害物などを検出し、且つ、その距離を計測してECU41に送信している。
【0029】
自動制動制御装置52は、周辺検出センサ46が検出した前方の車両や障害物までの距離に基づいてブレーキ油圧回路27により生成されるブレーキ油圧を制御する。即ち、自動制動制御装置52は、前方の車両や障害物に衝突しないようにブレーキ油圧回路27、つまり、制動力を調整する。この場合、自動制動制御装置52は、運転者のブレーキペダル28の踏み込み量とは無関係にブレーキ油圧回路27により所望の制動力を出力する。
【0030】
ところで、ABS制御装置51は、上述したように、走行する車両11の車輪FR〜RLのスリップ率ΔSが閾値より大きくなったら、ブレーキ油圧回路27の制御を開始して車両11に対する制動力を調整する。この場合のスリップ率ΔSの閾値は、運転者がブレーキペダル28を踏込んで、意図的に車両11に制動力を作用させているときに適用されるものである。一方で、自動制動制御装置52が車両11の周辺情報に基づいてブレーキ油圧回路27を制御しているときであっても、ABS制御装置51は、走行する車両11の車輪FR〜RLのスリップ率ΔSが閾値より大きくなったら、ブレーキ油圧回路27により制動力を調整する。しかし、この場合、自動制動制御装置52は、運転者が意図することなく車両11に制動力を作用させている。
【0031】
そのため、自動制動制御装置52がブレーキ油圧回路27を制御しているときは、制御していないときに比較して、ABS制御装置51によるブレーキ油圧回路27の制御は、運転者に対してより安全なものである必要がある。
【0032】
そこで、本実施形態の車両の制動制御装置では、ABS制御装置51の作動開始の閾値を自動制動制御装置52の非作動時より自動制動制御装置52の作動時の方が小さくなるように変更する作動開始閾値変更装置を設けている。この作動開始閾値変更装置は、具体的には、ECU41が機能する。即ち、ABS制御装置51は、自動制動制御装置52の非作動時より自動制動制御装置52の作動時の方が早期に作動することとなる。
【0033】
また、本実施形態の車両の制動制御装置では、ECU41(作動開始閾値変更装置)は、自動制動制御装置52による制動装置22(ブレーキ油圧回路27)の制動量が、運転者のブレーキペダル28の踏込みによる制動装置22(ブレーキ油圧回路27)の制動量より大きいときに、ABS制御装置51の作動開始の閾値を小さく変更する。
【0034】
この場合、自動制動制御装置52による制動装置22(ブレーキ油圧回路27)の制動量は、車両11の周辺情報、つまり、周辺検出センサ46の検出結果に基づいてECU41が設定する要求制動力である。また、運転者のブレーキペダル28の踏込みによる制動装置22(ブレーキ油圧回路27)の制動量は、ブレーキペダル28の踏込み量、つまり、ブレーキストロークセンサ42の検出結果に応じてECU41が設定する要求制動力である。なお、各制動量は、これらに限定されるものではなく、自動制動制御装置52による制動量は、マスタシリンダ圧センサ43の検出結果に応じた制動力であってもよく、運転者の制動量は、ブレーキ踏力センサの検出結果に応じた制動力であってもよい。
【0035】
そして、本実施形態の車両の制動制御装置では、ABS制御装置51は、特に、車輪FR〜RLのロック時にスリップ率が抑制されるように制動装置22(ブレーキ油圧回路27)を作動するものであり、ECU41は、ABS制御装置51の作動開始の閾値を自動制動制御装置52の非作動時より自動制動制御装置52の作動時の方が小さくなるように変更することで、車輪FR〜RLのロックを抑制する。なお、ABS制御装置51は、車両の加速時における車輪FR〜RLのスリップ時に、スリップ率が抑制されるように制動装置22(ブレーキ油圧回路27)を作動することで、この車輪FR〜RLのスリップを抑制することもできる。
【0036】
以下、本実施形態の車両の制動制御装置において、ECU41(ABS制御装置51、自動制動制御装置52)による制動制御の具体的な処理について、図2のフローチャートに基づいて詳細に説明する。
【0037】
本実施形態の車両の制動制御装置において、図2に示すように、ステップS11にて、ECU41は、自動制動制御装置52が制動装置22を制御中であるか否かを判定する。ここで、自動制動制御装置52が制動装置22を制御中でない(No)と判定されたら、ステップS19にて、ABS制御装置51の作動開始の判定閾値ΔS1を設定してからこのルーチンを抜ける。一方、ステップS11にて、ECU41は、自動制動制御装置52が制動装置22を制御中である(Yes)と判定したら、ステップS12にて、ECU41(ABS制御装置51)は、車輪速センサ44が検出した各車輪FR〜RLの車輪速Vと、車速センサ45が検出した車速Vに基づいて各車輪FR〜RLのスリップ率ΔSを演算する。
【0038】
ステップS13にて、ECU41は、自動制動制御装置52による制動装置22の制動量が、運転者のブレーキペダル28の踏込みによる制動装置22の制動量より大きいかを判定する。ここで、自動制動制御装置52による制動装置22の制動量が運転者のブレーキペダル28の踏込みによる制動装置22の制動量より大きくない(No)と判定されたら、ステップS14にて、ABS制御装置51の作動開始の判定閾値ΔS1を設定する。一方、自動制動制御装置52による制動装置22の制動量が運転者のブレーキペダル28の踏込みによる制動装置22の制動量より大きい(Yes)と判定されたら、ステップS15にて、ABS制御装置51の作動開始の判定閾値ΔS2を設定する。
【0039】
ここで、ABS制御装置51の作動開始の判定閾値ΔS1,ΔS2とは、各車輪FR〜RLのスリップ率ΔSに対する判定値であって、判定閾値ΔS1より判定閾値ΔS2の方が小さいものとなっている。
【0040】
ステップS16にて、ECU41は、現在の各車輪FR〜RLのスリップ率ΔSが判定閾値ΔS1または判定閾値ΔS2より大きいか否かを判定する。ここで、現在の各車輪FR〜RLのスリップ率ΔSが判定閾値ΔS1または判定閾値ΔS2より大きい(Yes)と判定されたら、ステップS17にて、ABS制御装置51は、各車輪FR〜RLのスリップ率ΔSが減少するように、制動装置22(ブレーキ油圧回路27)の制動量を調整する。一方、現在の各車輪FR〜RLのスリップ率ΔSが判定閾値ΔS1または判定閾値ΔS2以下である(No)と判定されたら、ステップS18にて、ABS制御装置51は、制動装置22(ブレーキ油圧回路27)の制動量の調整を終了する。
【0041】
なお、ECU41は、ステップS16で、車輪FR〜RLのスリップ率ΔSと判定閾値ΔS1または判定閾値ΔS2との比較判定を行うとき、合わせて、ABS制御装置51により制動装置22により各車輪FR〜RLの制動力を制御できる状態であるか、車輪速センサ50や車速センサ45の各検出値が正常であるかどうかなども確認している。
【0042】
従って、ECU41は、自動制動制御装置52が制動装置22を制御中であって、自動制動制御装置52による制動装置22の制動量が運転者のブレーキペダル28の踏込みによる制動装置22の制動量より大きいとき、スリップ率ΔSの判定閾値を判定閾値ΔS1から判定閾値ΔS2に変更、つまり、スリップ率ΔSの判定閾値を小さくする。そのため、制動装置22による制動量が自動制動制御装置52に支配されているときには、そうでないときに比べて、早期にABS制御装置51がスリップ制御を行うこととなり、車両11の挙動の乱れが少なく、運転者に対してより安全な走行となる。
【0043】
ここで、本実施形態の車両の制動制御装置によるABS制御装置51の作動開始動作について、図3のタイムチャートに基づいて説明する。
【0044】
本実施形態の車両の制動制御装置によるABS制御装置51の作動開始動作において、図3に示すように、車両11が、自動制動制御装置52または運転者のブレーキペダル28の踏込みにより制動装置22が作動して減速するとき、車速Vが低下すると共に、各車輪FR〜RLの車輪速Vが低下する。ここで、車輪FR〜RLがロックして空転すると、車輪FR〜RLの車輪速Vが大きく低下することから、スリップ率ΔS(ここでは、V−Vとして説明する。)が大きくなる。
【0045】
すると、スリップ率ΔS(V−V)は、時間t1で判定閾値ΔS2を超え、時間t2で判定閾値ΔS1を超える。また、このとき、車輪加速度(車輪速Vの微分値)Aが車輪加速度基準値Aより低下する。従って、自動制動制御装置52が制動装置22を制御中であり、且つ、自動制動制御装置52による制動装置22の制動量が運転者のブレーキペダル28の踏込みによる制動装置22の制動量より大きいときは、判定閾値ΔS2が設定されていることから、時間t1にて、スリップ率ΔSが判定閾値ΔS2を超え、このときに、ABS制御装置51が制動装置22を制御し、車輪FR〜RLのスリップ率ΔSが低下するような制動制御を開始する。一方、自動制動制御装置52が制動装置22を制御中でなかったり、自動制動制御装置52による制動装置22の制動量が運転者のブレーキペダル28の踏込みによる制動装置22の制動量より大きくなかったりしたときは、判定閾値ΔS1が設定されていることから、時間t1より遅い時間t2にて、スリップ率ΔSが判定閾値ΔS1を超え、このときに、ABS制御装置51が制動装置22を制御し、車輪FR〜RLのスリップ率ΔSが低下するような制動制御を開始する。
【0046】
このように本実施形態の車両の制動制御装置にあっては、ECU41として、車輪FR〜RLのスリップが抑制されるように制動装置22を作動制御するABS制御装置51と、車両11の周辺情報に基づいて制動装置22を作動制御する自動制動制御装置52と、ABS制御装置51の作動開始の閾値を自動制動制御装置52の非作動時より自動制動制御装置52の作動時の方が小さくなるように変更する作動開始閾値変更装置とを設けている。
【0047】
従って、自動制動制御装置52が制動装置22を制御中であるときは、制御中でないときに比べて、ABS制御装置51の作動開始の閾値、つまり、スリップ率ΔSの判定閾値を小さい判定閾値ΔS2に変更することとなる。即ち、制動装置22による制動量が自動制動制御装置52に支配されているときには、早期にABS制御装置51がスリップ制御を開始することとなり、運転者の意図しない制動に対して車両11の挙動を安定させることができ、車両11の走行安全性を向上することができる。
【0048】
この場合、制動装置22による制動量が自動制動制御装置52に支配されているときに、早期にABS制御装置51が作動することで、特に、車輪FR〜RLのロック時にスリップ率が抑制されるように制動装置22が早期に作動され、この車輪FR〜RLのロックを抑制することができる。
【0049】
また、本実施形態の車両の制動制御装置では、ECU41は、自動制動制御装置52による制動装置22の制動量が、運転者の制動操作による制動装置22の制動量より大きいときに、ABS制御装置51の作動開始の閾値(スリップ率ΔSの判定閾値)を小さい判定閾値ΔS2に変更する。従って、制動装置22による制動量が自動制動制御装置52により設定されているときには、早期にABS制御装置51がスリップ制御を開始することとなり、運転者の意図しない制動に対して車両11の挙動を安定させることができる。
【0050】
また、本実施形態の車両の制動制御装置では、自動制動制御装置52による制動装置22の制動量は、周辺検出センサ46が検出した車両11の周辺の車両や障害物との距離に基づいて設定される要求制動力であり、運転者の制動操作による制動装置22の制動量は、ブレーキペダル28の踏込み量に基づいて設定される要求制動力である。従って、自動制動制御装置52は、周辺検出センサ46が検出した車両11の周辺の車両や障害物との距離に基づいて要求制動力を設定し、ABS制御装置51は、この要求制動力がブレーキペダル28の踏込み量に基づいて設定される要求制動力より大きいときに、早期にスリップ制御を開始することとなり、簡単な構成で運転者の意図しない制動に対して車両11の挙動を安定させることができる。
【0051】
なお、上述した実施形態では、ECU41として、ABS制御装置(第2制動制御装置)51と自動制動制御装置(第1制動制御装置)52とを有するものとして説明したが、このABS制御装置51や自動制動制御装置52は、実施形態で説明したものに限定されるものではなく、公知の装置でよいものである。
【符号の説明】
【0052】
11 車両
21FR,21FL,21RR,21RL ディスクブレーキユニット
22 制動装置
25 ホイールシリンダ
27 ブレーキ油圧回路
28 ブレーキペダル
41 電子制御ユニット(ECU)
42 ブレーキストロークセンサ
44 車輪速センサ
45 車速センサ
46 周辺検出センサ
51 ABS制御装置(第2制動制御装置)
52 自動制動制御装置(第1制動制御装置)
FL,FR,RL,RR 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の周辺情報に基づいて制動装置を作動する第1制動制御装置と、
車輪のスリップ率が予め設定された所定の範囲に収まるように前記制動装置を作動する第2制動制御装置と、
前記第2制動制御装置の作動開始の閾値を前記第1制動制御装置の非作動時より前記第1制動制御装置の作動時の方が小さくなるように変更する作動開始閾値変更装置と、
を備えることを特徴とする車両の制動制御装置。
【請求項2】
前記作動開始閾値変更装置は、前記第1制動制御装置による前記制動装置の制動量が運転者の制動操作による前記制動装置の制動量より大きいときに前記第2制動制御装置の作動開始の閾値を小さく変更することを特徴とする請求項1に記載の車両の制動制御装置。
【請求項3】
前記第1制動制御装置による前記制動装置の制動量は、前記車両の周辺情報に基づいて設定される要求制動力であり、運転者の制動操作による前記制動装置の制動量は、ブレーキペダルの踏込み量または踏込み力であることを特徴とする請求項2に記載の車両の制動制御装置。
【請求項4】
前記第2制動制御装置は、前記車輪のロック時にスリップ率が抑制されるように前記制動装置を作動するものであり、前記作動開始閾値変更装置は、前記第2制動制御装置の作動開始の閾値を前記第1制動制御装置の非作動時より作動時の方が小さくなるように変更することで、前記車輪のロックを抑制することを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の車両の制動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−75556(P2013−75556A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215252(P2011−215252)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】