説明

車両の制動制御装置

【課題】車両の制動制御装置において、制動制御の切換え時における車両の走行安定性の向上を可能とする。
【解決手段】左右の後輪RL,RRのスリップ率に応じてブレーキ油圧回路27により左右のホイールシリンダ25を同時に制御する制動力同時制御モードを実行可能な制動力同時制御モード実行部51と、左右のホイールシリンダ25を独立して制御する制動力独立制御モードを実行可能な制動力独立制御モード実行部52と、車両11の減速度が予め設定された減速度閾値を越えたら制動力同時制御モードから制動力独立制御モードへ切換可能な切換制御部53と、車両11の減速度勾配の上昇に応じて減速度閾値を低下させる切換閾値変更部54とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の制動時に、車輪のロックやスリップを検出し、この車輪のロック時やスリップ時に自動で制動を緩める制御を行うことで、車輪ロックによる空走を抑制するものとして、アンチロックブレーキ装置(ABS)がある。そして、このアンチロックブレーキ装置は、後輪について、左右の制動力を同時に制御する方式と左右の制動力を独立して制御する方式が適用され、切替可能としている。例えば、下記特許文献1に記載されたアンチスキッド制御装置では、車両の走行状態に応じて、セレクトロー制御と独立制限制御と独立制御とを選択的に使用するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平03−042361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来のアンチスキッドブレーキ制御装置では、車速に応じてセレクトロー制御と独立制限制御と独立制御とを選択的に切替えている。この切替時には、左右の車輪(後輪)の制動力差(スリップ率差)が目標値に達するまでの間に所定の時間を要することから、この切替の間に車両の挙動に乱れが発生して走行安定性が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、制動制御の切換え時における車両の走行安定性の向上を可能とする車両の制動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両の制動制御装置は、左右の車輪に対して制動力を付与する左右のアクチュエータと、前記左右の車輪の状態に応じて前記左右のアクチュエータを同時に制御する制動力同時制御モードを実行可能な制動力同時制御モード実行部と、前記左右の車輪の状態に応じて前記左右のアクチュエータを独立して制御する制動力独立制御モードを実行可能な制動力独立制御モード実行部と、車両の減速度が予め設定された減速度閾値を越えたら前記制動力同時制御モードから前記制動力独立制御モードへ切換可能な切換制御部と、車両の減速度勾配の上昇に応じて前記減速度閾値を低下させる切換閾値変更部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
上記車両の制動制御装置にて、前記切換閾値変更部は、車両の減速度勾配が予め設定された減速度勾配閾値以下では前記減速度閾値を予め設定された第1減速度閾値に設定し、車両の減速度勾配が前記減速度勾配閾値を越えると前記減速度閾値を前記第1減速度閾値より低い第2減速度閾値に設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る車両の制動制御装置によれば、左右の車輪に対して制動力を付与する左右のアクチュエータを同時に制御する制動力同時制御モードを実行可能であると共に、左右のアクチュエータを独立して制御する制動力独立制御モードを実行可能であり、車両の減速度が減速度閾値を越えたら制動力同時制御モードから制動力独立制御モードへ切換可能とすると共に、車両の減速度勾配の上昇に応じて減速度閾値を低下させるので、モード切換え時における車両の挙動の乱れの発生を抑制して走行安定性を向上することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る車両の制動制御装置を表す概略構成図である。
【図2】図2は、本実施形態の車両の制動制御装置における制動制御のモード切換え処理を表すフローチャートである。
【図3】図3は、本実施形態の車両の制動制御装置による制動力同時制御処理を表すフローチャートである。
【図4】図4は、本実施形態の車両の制動制御装置による制動力独立制御処理を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明に係る車両の制動制御装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。
【0011】
図1は、本発明の本実施形態に係る車両の制動制御装置を表す概略構成図、図2は、本実施形態の車両の制動制御装置における制動制御のモード切換え処理を表すフローチャート、図3は、本実施形態の車両の制動制御装置による制動力同時制御処理を表すフローチャート、図4は、本実施形態の車両の制動制御装置による制動力独立制御処理を表すフローチャートである。
【0012】
本実施形態の車両の制動制御装置により制御される制動装置は、ブレーキペダルから入力されたブレーキ操作量(または、ブレーキ操作力など)に対して、車両の制動力、つまり、制動力を発生させるホイールシリンダへ供給する油圧を電気的に制御する電子制御式制動装置である。具体的に、この電子制御式制動装置としては、ブレーキ操作量に応じて目標制動油圧を設定し、アキュムレータに蓄えられた油圧を調圧してから、ホイールシリンダへ供給することで、制動力を制御するECB(Electronically Controlled Brake)である。但し、ドライバのブレーキペダル操作で発生するマスタシリンダ圧が直接ホイールシリンダに導入される形式のブレーキ制御システムであっても、ドライバのブレーキペダル操作とは独立して車輪の制動力を制御できるものであればよい。
【0013】
また、本実施形態の車両の制動制御装置は、車両の周辺情報に基づいて制動装置を作動する自動制動制御装置(第1制動制御装置)と、車輪のスリップが抑制されるように制動装置を作動するアンチロックブレーキ装置(第2制動制御装置)とを有している。
【0014】
以下、本実施形態の車両の制動制御装置について詳細に説明する。図1に示すように、車両11は、4つの駆動可能な車輪FL,FR,RL,RRを有している。ここで、車輪FRは運転席から見て前方右側、車輪FLは前方左側、車輪RRは後方右側、車輪RLは後方左側の車輪をそれぞれ表している。また、この車両11は、ガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンである内燃機関12と、自動変速機または無段変速機である変速機13を含むトランスアクスル14と、図示されないトランスファとを有している。
【0015】
即ち、本実施形態の車両11は、4輪駆動車両として構成されており、前輪FL,FRに、トランスファ、図示されないフロントデファレンシャル、ドライブシャフト15L,15Rを介して、内燃機関12から動力が伝達される。また、トランスアクスル14のアウトプットシャフト16は、リヤデファレンシャル17に接続されており、このリヤデファレンシャル17に、ドライブシャフト18L,18Rを介して後輪RL,RRが連結されている。そのため、車両11は、後輪RL,RRに、アウトプットシャフト16、リヤデファレンシャル17、ドライブシャフト18L,18Rを介して、内燃機関12から動力が伝達される。
【0016】
なお、本実施形態の車両11は、4輪駆動車両に限定されるものではなく、2輪駆動車両であってもよく、また、内燃機関に代えて電気モータを搭載した電気自動車、内燃機関及び電気モータを搭載したハイブリッド車両であってもよい。
【0017】
また、車両11は、車輪FR〜RLごとに設けられたディスクブレーキユニット(アクチュエータ)21FR,21FL,21RR,21RLを含む制動装置22を有している。この制動装置22は、所謂、EBD(Electronic Brake force Distribution:電子制動力分配制御)付きのABS(Antilock Brake System:アンチロックブレーキ装置)として構成されている。各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、それぞれブレーキディスク23とブレーキキャリパ24を有し、各ブレーキキャリパ24は、ホイールシリンダ25を内蔵している。そして、各ブレーキキャリパ24のホイールシリンダ25は、それぞれ独立の液圧ライン26を介してブレーキアクチュエータを有するブレーキ油圧回路27に接続されている。
【0018】
ブレーキペダル28は、ドライバが踏み込み可能に支持され、ブレーキブースタ29が接続され、このブレーキブースタ29にマスタシリンダ30が固定されている。ブレーキブースタ29は、ドライバによるブレーキペダル28の踏み込み操作に対して所定の倍力比を有するアシスト力を発生することができる。マスタシリンダ30は、内部に図示しないピストンが移動自在に支持されることで、2つの油圧室を有しており、各油圧室には、ブレーキ踏力とアシスト力を合わせたマスタシリンダ圧を発生させることができる。マスタシリンダ30の上部には、リザーバタンク31が設けられており、このマスタシリンダ30とリザーバタンク31とは、ブレーキペダル28が踏み込まれていない状態で連通し、ブレーキペダル28が踏み込まれると閉鎖され、マスタシリンダ30の油圧室が加圧される。マスタシリンダ30は、各油圧室がそれぞれ油圧供給通路32を介してブレーキ油圧回路27に接続されている。
【0019】
ブレーキ油圧回路27は、ドライバによるブレーキペダル28の踏み込み量に応じてブレーキ油圧を生成し、このブレーキ油圧を各液圧ライン26からホイールシリンダ25に供給し、この各ホイールシリンダ25を作動させることで、制動装置22により車輪FR〜RLに対してブレーキ力を付与し、車両11に制動力を作用させることができる。
【0020】
車両11は、電子制御ユニット(ECU)41が搭載されており、このECU41は、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMと、データを一時的に記憶するRAMと、入出力ポート及び通信ポートを有している。従って、このECU41は、内燃機関12、変速機13、ブレーキ油圧回路27などを制御可能となっている。
【0021】
ECU41は、ブレーキペダル28の踏み込み量(ブレーキペダルストローク)を検出するブレーキストロークセンサ42、マスタシリンダ30から供給される油圧(マスタシリンダ圧)を検出するマスタシリンダ圧センサ43が接続されている。従って、ECU41は、検出されたブレーキペダルストローク、マスタシリンダ圧などに基づいてブレーキ油圧回路27により生成されるブレーキ油圧を制御している。なお、ブレーキストロークセンサ42に代えて、ブレーキペダル28の踏み込み力(踏力)を検出するブレーキ踏力センサを用いてもよい。
【0022】
このECU41は、ABSとして構成される制動装置22を制御可能となっている。即ち、ECU41は、ブレーキ油圧回路27により各ディスクブレーキユニット21FR〜21RL、つまり、各ホイールシリンダ25に供給する油圧を調整可能となっている。具体的に、このECU41は、車輪FR〜RLのスリップ率が抑制されるように制動装置22(ブレーキ油圧回路27)を作動制御する。ECU41は、車輪速センサ44と、車速センサ45と、加速度センサ46とが接続されている。車輪速センサ44は、それぞれの車輪FR〜RLに装着されてその回転速度を検出しており、検出した各車輪FR〜RLの回転速度(車輪速)をECU41に送信している。車速センサ45は、車体の速度を検出しており、検出した車体速度(車速)をECU41に送信している。加速度センサ46は、車体の前後加速度を検出しており、検出した前後加速度をECU41に送信している。
【0023】
ECU41は、この車輪速センサ44が検出した車輪速Vと、車速センサ45が検出した車速Vに基づいて車輪FR〜RLのスリップ率ΔSを算出し、このスリップ率ΔSに基づいてブレーキ油圧回路27により生成されるブレーキ油圧を制御する。例えば、下記数式によりスリップ率ΔSを演算する。
ΔS=[(V−V)/V]×100
【0024】
なお、車輪FR〜RLに対応して車輪速センサ44が設けられていることから、車輪速Vを求めるとき、各車輪速センサ44による4つの検出値を平均処理して車輪速Vとし、スリップ率ΔSを求めればよい。また、スリップ率ΔSの算出方法は、上記数式によるものに限定されるものではなく、例えば、車速Vと車輪速Vとの偏差をスリップ率ΔSとしてもよく、また、加速度センサ46の検出値と車輪速Vの微分値との偏差をスリップ率ΔSとしてもよく、また、内燃機関12の出力や変速機13の変速比などから車速Vを推定してもよい。
【0025】
そして、ECU41は、ブレーキ油圧回路27の制御を開始するための閾値が設定されており、現在の車輪FR〜RLのスリップ率ΔSが予め設定されたスリップ率の閾値より大きくなったら、ブレーキ油圧回路27の制御を開始する。これによりECU41は、車輪FR〜RLのスリップ率が抑制されるように、つまり、車輪FR〜RLのロック(または、スリップ)が抑制されるように制動装置22(ブレーキ油圧回路27)を作動制御する。
【0026】
また、ECU41は、左右の車輪FR〜RLの状態に応じて左右の制動力が同じになるように左右のディスクブレーキユニット(アクチュエータ)21FR,21FL,21RR,21RLを同時に制御する制動力同時制御モードを実行可能な制動力同時制御モード実行部51と、左右の車輪FR〜RLの状態に応じて左右のスリップ率が同じになるように左右のディスクブレーキユニット(アクチュエータ)21FR,21FL,21RR,21RLを独立して制御する制動力独立制御モードを実行可能な制動力独立制御モード実行部52と、制動力同時制御モードと制動力独立制御モードとを切換可能な切換制御部53とを有している。
【0027】
この場合、各モード実行部51,52は、左右の前輪FL,FRを同時に制御可能であると共に独立して制御可能であり、また、左右の後輪RL,RRを同時に制御可能であると共に独立して制御可能である。そして、切換制御部53は、左右の前輪FL,FR及び左右の後輪RL,RRに対してモードを切換可能である。
【0028】
ところが、ECU41は、車両11の走行状態に応じて制動力同時制御モードまたは制動力独立制御モードを選択するものであるが、一般的に、車両11の減速度が低い状態では、制動力同時制御モードを選択し、車両11の減速度が高い状態では、制動力独立制御モードを選択している。即ち、ECU41は、ドライバのブレーキペダル28の踏込み量に応じて制動装置22を作動制御し、車両11の減速度が上昇したとき、つまり、車両11の減速度が予め設定された減速度閾値を越えたら、制動力同時制御モードから制動力独立制御モードに切換えている。このモード切換え時には、左右の車輪FR〜RL、特に、左右の後輪RL,RRの制動力差(スリップ率差)が目標値に達するまでの間に所定の時間を要することから、この切替の間に車両11の挙動に乱れが発生して走行安定性が低下するおそれがある。このような現象は、特に、車両11の急減速時に発生しやすい。
【0029】
そこで、本実施形態の車両の制動制御装置では、ECU41は、車両11の減速度勾配の上昇に応じて減速度閾値を低下させる切換閾値変更部54を有している。従って、ECU41(切換制御部53)は、車両11の減速度が減速度閾値を越えたら制動力同時制御モードから制動力独立制御モードへ切換えるものであるが、このとき、ECU41(切換閾値変更部54)は、車両11の減速度勾配の上昇に応じてこの減速度閾値を低下させている。なお、減速度勾配とは、予め設定された所定時間当たりの減速度の変化量、つまり、減速度の変化率である。
【0030】
具体的にECU41(切換閾値変更部54)は、車両11の減速度勾配が予め設定された減速度勾配閾値以下では、減速度閾値を予め設定された第1減速度閾値に設定し、車両11の減速度勾配が減速度勾配閾値を越えると、減速度閾値を第1減速度閾値より低い第2減速度閾値に設定する。
【0031】
本実施形態の車両の制動制御装置では、車両11の低減速領域では、左右の後輪RL,RRの制動力が等しくなるように制動力を制御する制動力同時制御モードを実行する。一方、車両11の高減速領域では、左右の後輪RL,RRのスリップ率が等しくなるように制動力を制御する制動力独立制御モードを実行する。そして、車両11が低減速領域から高減速領域に移行したとき、つまり、減速度が予め設定された減速度閾値を越えたら、制動力同時制御モードから制動力独立制御モードに切換える。このモード切換え時に、車両11の減速度勾配が減速度勾配閾値以下では第1減速度閾値に設定し、減速度勾配が減速度勾配閾値を越えると第1減速度閾値より低い第2減速度閾値に設定する。そのため、車両11の減速度勾配が大きい、つまり、車両11の急減速時では、緩減速時に比べて、早期に制動力同時制御モードから制動力独立制御モードに切換わることとなる。
【0032】
以下、本実施形態の車両の制動制御装置において、ECU41(切換制御部53、切換閾値変更部54)による制動制御のモード切換え処理について、図2から図4のフローチャートに基づいて詳細に説明する。
【0033】
本実施形態の車両の制動制御装置において、図2に示すように、ステップS11にて、ECU41は、車両11が制動中であるかどうかを判定する。この判定は、例えば、ブレーキストロークセンサ42が検出したブレーキペダル28の踏み込み量、ブレーキ踏力センサが検出したブレーキペダル28の踏み込み力に基づいて判定する。ここで、車両11が制動中でないと判定(No)されたら、何もしないでこのルーチンを抜ける。一方、ステップS11で、車両11が制動中であると判定(Yes)されたら、ステップS12に移行する。
【0034】
ステップS12にて、ECU41は、車両11の減速度が予め設定された第1所定減速度(第1減速度閾値)At1よりも高いかどうかを判定する。この判定は、例えば、加速度センサ46が検出した車両11の加速度(減速度)に基づいて判定する。ここで、減速度が第1所定減速度At1よりも高いと判定(Yes)されたら、ステップS16にて、制動力独立制御モードを実行する。
【0035】
一方、ステップS12にて、ECU41は、減速度が第1所定減速度At1以下であると判定(No)されたら、ステップS13にて、車両11の減速度勾配(減速度変化率)が予め設定された所定減速度勾配(減速度勾配閾値)AGtよりも高いかどうかを判定する。この判定は、例えば、加速度センサ46が検出した車両11の加速度(減速度)を時間微分することで求めた減速度勾配(減速度変化率)に基づいて判定する。ここで、減速度勾配が所定減速度勾配AGt以下であると判定(No)されたら、ステップS15にて、制動力同時制御モードを実行する。
【0036】
一方、ステップS13にて、減速度勾配が所定減速度勾配AGtより大きいと判定(Yes)されたら、ステップS14にて、ECU41は、車両11の減速度が予め設定された第2所定減速度(第2減速度閾値)At2よりも高いかどうかを判定する。ここで、第2所定減速度(第2減速度閾値)At2は、第1所定減速度(第1減速度閾値)At1より低く設定されている。ここで、減速度が第2所定減速度At2よりも高いと判定(Yes)されたら、ステップS16にて、制動力独立制御モードを実行し、減速度が第2所定減速度At2以下であると判定(No)されたら、ステップS15にて、制動同時制御モードを実行する。
【0037】
制動力同時制御モード実行部51による制動力同時制御モードにおいて、図3に示すように、ステップS21にて、ECU41は、ディスクブレーキユニット21RR,21RLの各ホイールシリンダ25に供給する油圧(制動油圧)を保持中であるかどうかを判定する。ここで、制動油圧を保持中でないと判定(No)されたら、ステップS22に移行する。ステップS22にて、ECU41は、左右の後輪RL,RRにおけるスリップ率を算出し、最大スリップ率が予め設定された所定のスリップ率St1よりも大きいかどうかを判定する。左右の後輪RL,RRのスリップ率は、車輪速センサ44が検出した車輪速と車速センサ45が検出した車速に基づいて算出する。そして、左右の後輪RL,RRのスリップ率のうちの大きい方を最大スリップ率とする。ここで、最大スリップ率が所定のスリップ率St1以下であると判定(No)されたら、何もしないでこのルーチンを抜ける。一方、最大スリップ率が所定のスリップ率St1よりも大きいと判定(Yes)されたら、ステップS23にて、現在の左右の後輪RL,RRの制動油圧を保持する。
【0038】
また、ステップS21にて、制動油圧を保持中であると判定(Yes)されたら、ステップS24に移行する。ステップS24にて、ECU41は、左右の後輪RL,RRにおけるスリップ率を算出し、最大スリップ率が予め設定された所定のスリップ率St2よりも大きいかどうかを判定する。ここで、最大スリップ率が所定のスリップ率St2以下であると判定(No)されたら、ステップS25に移行する。ステップS25にて、ECU41は、左右の後輪RL,RRにおけるスリップ率を算出し、最大スリップ率が予め設定された所定のスリップ率St3よりも小さいかどうかを判定する。ここで、最大スリップ率が所定のスリップ率St3以上であると判定(No)されたら、ステップS23にて、現在の左右の後輪RL,RRの制動油圧を保持する。
【0039】
一方、ステップS25にて、最大スリップ率が所定のスリップ率St3よりも小さいと判定(Yes)されたら、ステップS26にて、後輪RL,RRの制動油圧を増加する。また、ステップS24にて、最大スリップ率が所定のスリップ率St2よりも大きいと判定(Yes)されたら、ステップS27にて、後輪RL,RRの制動油圧を減少する。なお、所定のスリップ率St2は、スリップ率上限値であり、所定のスリップ率St3は、スリップ率下限値である。このように左右の後輪RL,RRに対する制動油圧が同時に設定される制動力同時制御モードが実行される。
【0040】
また、制動力独立制御モード実行部52による制動力独立制御モードにおいて、図4に示すように、ステップS31にて、ECU41は、ディスクブレーキユニット21RR,21RLの各ホイールシリンダ25に供給する油圧(制動油圧)を保持中であるかどうかを判定する。ここで、制動油圧を保持中でないと判定(No)されたら、ステップS32に移行する。
【0041】
ステップS32にて、ECU41は、左右の後輪RL,RRにおけるスリップ率を算出し、各後輪RL,RRのうちのスリップ率が予め設定された所定のスリップ率St4よりも大きいかどうかを判定する。ここで、各後輪スリップ率が所定のスリップ率St4以下であると判定(No)されたら、何もしないでこのルーチンを抜ける。一方、各後輪スリップ率が所定のスリップ率St4よりも大きいと判定(Yes)されたら、ステップS33にて、スリップ率が閾値を越えている後輪RL,RRの制動油圧を保持する。
【0042】
一方、ステップS31にて、ECU41は、制動油圧を保持中であると判定(Yes)されたら、ステップS34に移行する。ステップS34にて、ECU41は、左右の後輪RL,RRにおけるスリップ率を算出し、それぞれのスリップ率が予め設定された所定のスリップ率St5よりも大きいかどうかを判定する。ここで、左右の後輪RL,RRのスリップ率が所定のスリップ率St5よりも大きいと判定(Yes)されたら、ステップS35にて、スリップ率が所定のスリップ率St5よりも大きいと判定された後輪RL,RRの制動油圧を減少する。
【0043】
また、ステップS34にて、左右の後輪RL,RRのスリップ率が所定のスリップ率St5以下であると判定(No)されたら、ステップS36に移行する。ステップS36にて、ECU41は、左右の後輪RL,RRにおけるスリップ率を算出し、それぞれのスリップ率が予め設定された所定のスリップ率St6よりも小さいかどうかを判定する。ここで、左右の後輪RL,RRのスリップ率が所定のスリップ率St6よりも小さいと判定(Yes)されたら、ステップS37にて、スリップ率が所定のスリップ率St6よりも小さいと判定された後輪RL,RRの制動油圧を増加する。一方、スリップ率が所定のスリップ率St6以上であると判定(No)されたら、ステップS33にて、現在の左右の後輪RL,RRの制動油圧を保持する。なお、所定のスリップ率St5は、スリップ率上限値であり、所定のスリップ率St6は、スリップ率下限値である。このように左右の後輪RL,RRに対する制動油圧が独立して設定される制動力独立制御モードが実行される。
【0044】
このように本実施形態の車両の制動制御装置にあっては、左右の後輪RL,RRのスリップ率に応じてブレーキ油圧回路27により左右のホイールシリンダ25を同時に制御する制動力同時制御モードを実行可能な制動力同時制御モード実行部51と、左右のホイールシリンダ25を独立して制御する制動力独立制御モードを実行可能な制動力独立制御モード実行部52と、車両11の減速度が予め設定された減速度閾値を越えたら制動力同時制御モードから制動力独立制御モードへ切換可能な切換制御部53と、車両11の減速度勾配の上昇に応じて減速度閾値を低下させる切換閾値変更部54とを設けている。
【0045】
従って、車両11の減速度が減速度閾値を越えたら、つまり、高減速度になったら、制動力同時制御モードから制動力独立制御モードへ切換えるが、車両11の減速度勾配の上昇に応じて減速度閾値を低下させることから、車両11の減速度勾配が大きいときには、早期に制動力同時制御モードから制動力独立制御モードに切換わることとなる。そのため、急減速時には早期に制動力独立制御モードになり、車両11の挙動の乱れの発生を早期に抑制して減速度のロスを低減し、走行安定性を向上することができる。
【0046】
また、本実施形態の車両の制動制御装置では、切換閾値変更部54は、車両11の減速度勾配が予め設定された減速度勾配閾値以下では第1減速度閾値に設定し、車両11の減速度勾配が減速度勾配閾値を越えると第1減速度閾値より低い第2減速度閾値に設定している。従って、車両11の減速度勾配が大きいとき、つまり、車両11の急減速時にて緩減速時に比べて、早期に制動力同時制御モードから制動力独立制御モードに切換えることができる。
【0047】
なお、上述した実施形態では、加速度センサ46が検出した車両11の加速度(減速度)を時間微分することで減速度勾配(減速度変化率)を算出したが、この方法に限定されるものではない。例えば、車輪速、マスタシリンダ圧、ブレーキペダルストロークなどの変化率に基づいて減速度勾配を推定してもよい。
【0048】
また、上述した実施形態では、車両11における左右の後輪RL,RRに対して説明したが、左右の前輪FL,FRに適用してもよい。
【符号の説明】
【0049】
11 車両
21FR,21FL,21RR,21RL ディスクブレーキユニット(アクチュエータ)
22 制動装置
25 ホイールシリンダ(アクチュエータ)
27 ブレーキ油圧回路
28 ブレーキペダル
41 電子制御ユニット(ECU)
42 ブレーキストロークセンサ
44 車輪速センサ
45 車速センサ
46 加速度センサ
51 制動力同時制御モード実行部
52 制動力独立制御モード実行部
53 切換制御部
54 切換閾値変更部
FL,FR,RL,RR 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の車輪に対して制動力を付与する左右のアクチュエータと、
前記左右の車輪の状態に応じて前記左右のアクチュエータを同時に制御する制動力同時制御モードを実行可能な制動力同時制御モード実行部と、
前記左右の車輪の状態に応じて前記左右のアクチュエータを独立して制御する制動力独立制御モードを実行可能な制動力独立制御モード実行部と、
車両の減速度が予め設定された減速度閾値を越えたら前記制動力同時制御モードから前記制動力独立制御モードへ切換可能な切換制御部と、
車両の減速度勾配の上昇に応じて前記減速度閾値を低下させる切換閾値変更部と、
を備えることを特徴とする車両の制動制御装置。
【請求項2】
前記切換閾値変更部は、車両の減速度勾配が予め設定された減速度勾配閾値以下では前記減速度閾値を予め設定された第1減速度閾値に設定し、車両の減速度勾配が前記減速度勾配閾値を越えると前記減速度閾値を前記第1減速度閾値より低い第2減速度閾値に設定することを特徴とする請求項1に記載の車両の制動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−86773(P2013−86773A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232191(P2011−232191)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】