説明

車両の制御装置

【課題】 車両減速状態における機関出力制御及びロックアップクラッチ締結制御を適切に行い、運転者の違和感を解消するとともに燃費を向上させることができる車両の制御装置を提供する。
【解決手段】 ロックアップクラッチ30を締結するときの目標メインシャフト回転数NTMOBJに応じてLC制御下限トルクTRQLMLを設定し、車両減速中において機関出力がLC制御下限トルクTRQLMLに達した後はLC制御下限トルクTRQLMLに保持する制御を実行し、機関出力がLC制御下限トルクTRQLMLに保持されている期間においてロックアップクラッチ30の締結を実行する(t2)。機関出力をLC制御下限トルクTRQLMLに保持する出力保持制御を実行することにより、機関回転数NEが目標メインシャフト回転数NTMOBJ近傍に維持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関及び自動変速機を備える車両の制御装置に関し、特に車両減速時に自動変速機のロックアップクラッチを締結し、該締結後に機関への燃料供給を停止する燃料カット運転を実行する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両減速状態では、ロックアップクラッチを締結して燃料カット運転を行う時間を可能な限り長く確保することが、燃費を向上させる上で望ましい。ところが、車両減速時においては、機関回転速度が比較的急速に減少するため、ロックアップクラッチを締結させる前に機関回転速度が変速機構の入力軸回転速度より低下し、ロックアップクラッチを締結させることができないことがある。そこでそのよう事態を回避するために、特許文献1及び2には、減速中に機関への燃料供給量を一時的に増加させることにより、機関回転速度の減少速度を抑制する、あるいは機関回転数を若干増加させる手法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2927153号公報
【特許文献2】特許第3125570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、車両減速中に燃料供給量を増加させ、機関回転速度の減少速度を抑制すると、運転者が期待する減速度合とのずれによって違和感を生じさせるという課題がある。また燃料増量によって、燃料カット運転による燃費向上効果を減殺するという課題もある。
【0005】
本発明はこの点に着目してなされたものであり、車両減速状態における機関出力制御及びロックアップクラッチ締結制御を適切に行い、運転者の違和感を解消するとともに燃費を向上させることができる車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、内燃機関(1)と、変速機構(25)及び該変速機構の入力軸(24)と前記機関の出力軸(8)との間に設けられたトルクコンバータ(23)を有する自動変速機(21)とを備え、前記トルクコンバータ(23)は、前記機関の出力軸(8)と前記入力軸(24)とを直結するためのロックアップクラッチ(30)を有する車両の制御装置であって、前記車両の減速時に前記ロックアップクラッチ(30)を締結し、該締結後に前記機関への燃料供給を停止する燃料カット運転を実行する制御装置において、前記ロックアップクラッチ(30)の締結を実行するときの前記入力軸の目標回転速度(NTMOBJ)を設定する目標回転速度設定手段と、前記目標回転速度(NTMOBJ)に応じて前記機関の出力下限値(TRQLML)を設定する出力下限値設定手段と、前記機関の出力が前記出力下限値(TRQLML)に達した後は前記機関出力を前記出力下限値(TRQLML)に保持するように制御する機関出力制御手段と、前記機関出力が前記出力下限値(TRQLML)に保持されている期間において前記ロックアップクラッチ(30)の締結を実行するクラッチ締結手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両の制御装置において、前記ロックアップクラッチ(30)の締結が要求された後であって前記機関出力が前記出力下限値(TRQLML)に達する前に前記機関の点火時期(IGLOG)を遅角させる点火時期制御手段をさらに備えることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の車両の制御装置において、前記機関は作動気筒数を変更する作動気筒数可変機構(50)を有し、前記出力下限値設定手段は、前記作動気筒数が多いほど前記機関の回転速度(NE)が前記目標回転速度(NTMOBJ)に近づくように前記出力下限値(TRQLML)を設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、ロックアップクラッチの締結を実行するときの、変速機構の入力軸の目標回転速度が設定され、目標回転速度に応じて機関の出力下限値が設定され、車両減速中において機関出力が出力下限値に達した後は機関出力を出力下限値に保持する制御が行われ、機関出力が出力下限値に保持されている期間においてロックアップクラッチの締結が実行される。機関出力を出力下限値に保持する出力保持制御を実行することにより、機関回転速度が目標回転速度近傍に維持されるので、出力保持制御実行中にロックアップクラッチを締結することにより、燃料供給量の増量を行うことなく円滑かつ確実に締結を行うことができる。したがって、従来技術のような運転者の違和感がなく、かつ燃費を向上させることができる。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、ロックアップクラッチの締結が要求された後であって機関出力が出力下限値に達する前に機関の点火時期の遅角制御が行われる。これによって、機関回転速度の変動を抑制し、締結時の騒音や振動の発生を回避して滑らかな締結を行うことができる。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、機関の作動気筒数が多いほど機関回転速度が目標回転速度に近づくように出力下限値が設定される。作動気筒数を変更可能な機関では、作動気筒数が増加するほど、機関回転速度変動の振幅が小さくなる傾向がある。したがって、作動気筒数が増加するほど、機関回転速度が目標回転速度に近づくように出力下限値を設定することにより、作動気筒数に適したクラッチ締結制御を行い、ロックアップクラッチの締結をより円滑に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態にかかる車両に搭載された内燃機関及び自動変速機と、その制御装置の構成を示す図である。
【図2】自動変速機のロックアップクラッチを締結するときの協調制御を行う処理のフローチャートである。
【図3】図2の処理で実行される協調実施判定処理のフローチャートである。
【図4】図2の処理で実行される目標回転数算出処理のフローチャートである。
【図5】図2の処理で実行される目標エンジントルク算出処理のフローチャートである。
【図6】図4または図5の処理で参照されるマップ及びテーブルを示す図である。
【図7】協調制御実行時の下限トルク(TRQLML)の設定手法を説明するためのタイムチャートである。
【図8】図2の処理で実行される点火時期制御処理のフローチャートである。
【図9】ロックアップクラッチの締結制御を行う処理のフローチャートである。
【図10】図2の処理による制御を説明するためのタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明の一実施形態にかかる車両を駆動する内燃機関及び自動変速機と、それらの制御装置の構成を示す図である。内燃機関(以下単に「エンジン」という)1は、一部の気筒の吸気弁及び排気弁の作動を停止させることにより、その気筒の作動を休止させる気筒休止機構50を備えている。
【0014】
エンジン1の吸気管2の途中にはスロットル弁3が配置されている。スロットル弁3には、スロットル弁3の開度THを検出するスロットル弁開度センサ4が設けられており、その検出信号がエンジン制御用電子制御ユニット(以下「EG−ECU」という)5に供給される。スロットル弁3には、スロットル弁3を駆動するアクチュエータ7が接続されており、アクチュエータ7は、EG−ECU5によりその作動が制御される。
【0015】
燃料噴射弁6は図示しない吸気弁の少し上流側に各気筒毎に設けられており、各噴射弁は図示しない燃料ポンプに接続されていると共にEG−ECU5に電気的に接続されて当該EG−ECU5からの信号により燃料噴射弁6の開弁時間が制御される。また各気筒の点火プラグ13は、EG−ECU5に接続されており、点火信号がEG−ECU5から供給される。
【0016】
吸気管2のスロットル弁3の上流側には吸入空気量GAIR[g/sec]を検出する吸入空気量センサ14が装着され、エンジン1の本体にはエンジン冷却水温TWを検出する冷却水温センサ9が取り付けられており、これらのセンサの検出信号はEG−ECU5に供給される。
【0017】
EG−ECU5には、エンジン1のクランク軸8の回転角度を検出するクランク角度位置センサ10が接続されており、クランク軸の回転角度に応じた信号がEG−ECU5に供給される。クランク角度位置センサ10は、エンジン1の特定の気筒の所定クランク角度位置でパルス(以下「CYLパルス」という)を出力する気筒判別センサ、各気筒の吸入行程開始時の上死点(TDC)に関し所定クランク角度前のクランク角度位置でTDCパルスを出力するTDCセンサ及びTDCパルスより短い一定クランク角周期(例えば6度周期)でCRKパルスを発生するCRKセンサから成り、CYLパルス、TDCパルス及びCRKパルスがEG−ECU5に供給される。これらの信号パルスは、燃料噴射時期、点火時期等の各種タイミング制御及びエンジン回転数(エンジン回転速度)NEの検出に使用される。
【0018】
気筒休止機構50は電磁弁を備えており、電磁弁はEG−ECU5によりその作動が制御される。電磁弁を開閉することにより、全気筒を作動させる全筒運転と、一部気筒の作動を休止させる一部気筒運転(休筒運転)との切換が行われる。例えばエンジン1が6気筒エンジンであれば、一部気筒運転では3気筒のみを作動させる運転が行われる。
【0019】
EG−ECU5には、エンジン1により駆動される車両のアクセルペダルの踏み込み量(以下「アクセルペダル操作量」という)APを検出するアクセルセンサ11、及びエンジン1により駆動される車両の車速VPを検出する車速センサ12が接続されており、その検出信号がEG−ECU5に供給される。
【0020】
EG−ECU5は、各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定レベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換する等の機能を有する入力回路、中央演算処理回路(以下「CPU」という)、CPUで実行される各種演算プログラム及び演算結果等を記憶する記憶回路、アクチュエータ7、燃料噴射弁6、点火プラグ13、気筒休止機構50などに駆動信号を供給する出力回路から構成される。
【0021】
EG−ECU5は、上述したセンサの検出信号に基づいて、燃料噴射弁6の開弁時間の制御、点火時期制御、及び気筒休止制御を行うとともに、スロットル弁3の目標開度THCMDを算出し、検出したスロットル弁開度THが目標開度THCMDに一致するようにアクチュエータ7を駆動するスロットル弁開度制御を行う。目標開度THCMDは、目標エンジントルクTRQCMDに応じて算出され、エンジン1の出力トルクが目標エンジントルクTRQCMDと一致するように、スロットル弁開度TH(エンジン1の吸入空気量)が制御される。
【0022】
エンジン1のクランク軸8は自動変速機21に接続されており、自動変速機21は、変速制御用電子制御ユニット(以下「TM−ECU」という)20により、油圧制御ユニット22を介して制御される。自動変速機21は、トルクコンバータ23、メインシャフト(入力軸)24と、変速機構25と、出力軸26とを備え、出力軸26は図示しない動力伝達機構を介して当該車両の駆動輪を駆動する。トルクコンバータ23は、周知の構成を有するものであり、ロックアップクラッチ30を備えている。ロックアップクラッチ30は、クランク軸8とメインシャフト24との間に設けられており、ロックアップクラッチ30を締結することにより、クランク軸8とメインシャフト24とが直結される。
【0023】
自動変速機21には、メインシャフト24の回転数(以下「メインシャフト回転数」という)NTMを検出するメインシャフト回転数センサ41が設けられており、その検出信号はTM−ECU20に供給される。
【0024】
TM−ECU20には、シフトレバースイッチ、手動選択スイッチ(図示せず)などが接続されており、それらのスイッチの切換信号がTM−ECU20に供給される。TM−ECU20は、EG−ECU5と同様に、入力回路、CPU、記憶回路、及び出力回路を備えている。TM−ECU20は、EG−ECU5と接続されており、相互に必要な情報の伝達を行う。例えば検出されるアクセルペダル操作量AP、車速VP、エンジン回転数NEなどは、EG−ECU5からTM−ECU20に供給される一方、ロックアップクラッチの締結指令信号、及び変速(シフトアップまたはシフトダウン)の実行を示す信号(変速時のエンジントルク制御指令信号)が、TM−ECU20からEG−ECU5に供給される。
【0025】
TM−ECU20は、アクセルペダル操作量AP、車速VP、エンジン回転数NE、メインシャフト回転数NTMなどに基づく自動変速制御あるいは運転者の指示に応じた変速制御、及びロックアップクラッチ30の締結制御を行う。
【0026】
本実施形態では、車両減速中において、ロックアップクラッチ30の締結制御と協調して、エンジントルク制御(スロットル弁開度制御及び点火時期制御)を行う(以下この制御を「減速LC協調制御」という)。図2は、減速LC協調制御を実行する処理のフローチャートであり、この処理はEG−ECU5のCPUにおいて所定時間毎に実行される。
【0027】
ステップS11では、図3に示す協調実施判定処理を実行し、減速LC協調制御の実行条件を判定する。この実行条件が成立するとき、減速LC協調フラグFDLCが「1」に設定される。ステップS12では、図4に示す目標回転数算出処理を実行し、車両減速時にロックアップクラッチ30を締結させるときの、メインシャフト回転数NTMの目標値である目標メインシャフト回転数NTMOBJを算出する。
【0028】
ステップS13では、図5に示す目標エンジントルク算出処理を実行し、エンジン1の目標エンジントルクTRQCMDを算出する。ステップS14では、図8に示す点火時期算出処理を実行し、点火時期IGLOGを算出する。
【0029】
図3は、図2のステップS11で実行される協調実施判定処理のフローチャートである。ステップS21では、アクセルペダルオンフラグFAPONが「1」であるか否かを判別する。アクセルペダルオンフラグFAPONは、アクセルペダルが踏み込まれると(AP>0)、「1」に設定される。ステップS21の答が肯定(YES)、すなわちアクセルペダルが踏み込まれているときは、減速LC協調フラグセットフラグFDLCSETを「0」に設定し(ステップS22)、さらに減速LC協調フラグFDLCを「0」に設定し(ステップS33)、本処理を終了する。
【0030】
ステップS21の答が否定(NO)であって、アクセルペダルが踏み込まれていないときは、ロックアップオン領域フラグFLCONRが「1」であるか否かを判別する(ステップS23)。ロックアップオン領域フラグFLCONRは、車両運転状態が、ロックアップクラッチ30を締結するロックアップ運転を実行できる所定ロックアップ運転領域にあるとき「1」に設定される。ステップS23の答が肯定(YES)であって、ロックアップ運転が実行可能であるときは、燃料カット領域フラグFFCRが「1」であるか否かを判別する。燃料カット領域フラグFFCRは、車両運転状態が、エンジン1への燃料供給を停止する燃料カット運転を実行する所定燃料カット運転領域にあるとき「1」に設定される。
【0031】
ステップS23またはS24の答が否定(NO)であるときは、前記ステップS33に進む。ステップS24の答が肯定(YES)であって燃料カット運転が実行可能であるときは、減速LC協調フラグFDLCが「0」であってかつ減速LC協調フラグセットフラグFDLCSETが「1」であるか否かを判別する(ステップS25)。最初はこの答は否定(NO)となるので、ステップS26に進み、減速LC協調フラグFDLCが「1」であるか否かを判別する。最初はこの答も否定(NO)であるので、減速LC協調フラグFDLCを「1」に設定し(ステップS27)、ダウンカウントタイマTMDLCを所定LC協調時間TDLCにセットしてスタートさせる(ステップS28)とともに、減速LC協調フラグセットフラグFDLCSETを「1」に設定する(ステップS29)。
【0032】
減速LC協調フラグFDLCが「1」に設定されると、ステップS26からステップS30に進み、クラッチ締結実行フラグFLCONCMDが「1」であるか否かを判別する。クラッチ締結実行フラグFLCONCMDは、図9のロックアップクラッチ制御処理で、ロックアップクラッチ30を締結させるとき「1」に設定される。ステップS30の答が否定(NO)である間は、ステップS31に進み、ステップS28と同様にタイマTMDLCの設定及びスタートを行う。
【0033】
クラッチ締結実行フラグFLCONCMDが「1」に設定されると、ステップS30からステップS32に進み、タイマTMDLCの値が「0」であるか否かを判別する。最初はこの答は否定(NO)であるので直ちに処理を終了する。クラッチ締結実行フラグFLCONCMDが「1」に設定された、すなわちロックアップクラッチ30の締結が開始された時点から所定LC協調時間TDLCが経過すると、ステップS32の答が肯定(YES)となり、ステップS33に進む。これによって減速LC協調制御が終了する。このとき、減速LC協調フラグセットフラグFDLCSETは「1」に設定されているので(ステップS29)、以後はステップS25の答が肯定(YES)となる。したがって、アクセルペダルが踏み込まれない限り、減速LC協調制御が再度実行されることはない。
【0034】
図4は、図2のステップS12で実行される目標回転数算出処理のフローチャートである。ステップS41では、減速LC協調フラグFDLCが「1」であるか否かを判別し、その答が否定(NO)であるときは、処理を終了する。減速LC協調フラグFDLCが「1」であるときは、変速段GP及び車速VPに応じて図6(a)に示すNTMOBJマップを検索し、目標メインシャフト回転数NTMOBJを算出する(ステップS42)。図6(a)のGP1,GP2,及びGP3は、例えば変速段の2速、3速及び4速に対応する(他の変速段に対応する設定値は図示省略)。すなわち、NTMOBJマップは、車速VPが増加するほど目標メインシャフト回転数NTMOBJが増加し、かつ変速段GPが低速側であるほど目標メインシャフト回転数NTMOBJが増加するように設定されている。
【0035】
図5は図2のステップS13で実行される目標エンジントルク算出処理のフローチャートである。ステップS51では、気筒休止フラグFCSTPが「1」であるか否を判別する。気筒休止フラグFCSTPは、一部気筒運転を行うとき「1」に設定される。
【0036】
ステップS51の答が否定(NO)であって全筒運転中であるときは、目標メインシャフト回転数NTMOBJに応じて図6(b)に示すTRQLMLNMテーブルを検索し、全筒運転下限トルクTRQLMLNMを算出する(ステップS54)。TRQLMLNMテーブルは、目標メインシャフト回転数NTMOBJが増加するほど全筒運転下限トルクTRQLMLNMが増加するように設定されている。ステップS55では、LC制御下限トルクTRQLMLを全筒運転下限トルクTRQLMLNMに設定する。
【0037】
ステップS51の答が肯定(YES)であって一部気筒運転中であるときは、目標メインシャフト回転数NTMOBJに応じて図6(c)に示すTRQLMLCSテーブルを検索し、一部気筒運転下限トルクTRQLMLCSを算出する(ステップS52)。TRQLMLCSテーブルは、目標メインシャフト回転数NTMOBJが増加するほど一部気筒運転下限トルクTRQLMLCSが増加するように設定されている。ただし、TRQLMLNMテーブルと比較すると、同一の目標メインシャフト回転数NTMOBJに対応する値は、TRQLMLCS<TRQLMLNMなる関係が成立するように設定されている。ステップS53では、LC制御下限トルクTRQLMLを一部気筒運転下限トルクTRQLMLCSに設定する。
【0038】
ステップS56では、減速LC協調フラグFDLCが「1」であるか否かを判別し、その答が否定(NO)であるときは、目標トルク記憶値TRQCMDTMPを通常目標トルクTRQCMDNに設定し(ステップS57)、目標エンジントルクTRQCMDをその目標トルク記憶値TRQCMDTMPに設定する(ステップS58)。通常目標トルクTRQCMDNは、図示しない他の処理においてアクセルペダル操作量AP、車速VP、及びエンジン回転数NEなどの車両運転状態を示すパラメータに応じて算出される。
【0039】
ステップS56の答が肯定(YES)であって減速LC協調フラグFDLCが「1」であるときは、目標トルク記憶値TRQCMDTMPがLC制御下限トルクTRQLMLより大きいか否かを判別する(ステップS59)。その答が否定(NO)であるときは目標エンジントルクTRQCMDを通常目標トルクTRQCMDNに設定する(ステップS60)。
【0040】
ステップS59の答が肯定(YES)であって、目標トルク記憶値TRQCMDTMPがLC制御下限トルクTRQLMLより大きいときは、通常目標トルクTRQCMDNがLC制御下限トルクTRQLMLより小さいか否かを判別する(ステップS61)。この答が否定(NO)であるときは、目標エンジントルクTRQCMDを通常目標トルクTRQCMDNに設定する(ステップS62)。一方、通常目標トルクTRQCMDNがLC制御下限トルクTRQLMLより小さいときは、目標エンジントルクTRQCMDをLC制御下限トルクTRQLMLに設定する(ステップS62)。
【0041】
図5の処理によれば、目標メインシャフト回転数NTMOBJに応じてLC制御下限トルクTRQLMLが設定され、減速LC協調制御の開始時点において通常目標トルクTRQCMDNがLC制御下限トルクTRQLMLより大きいときは、目標トルクTRQCMDがLC制御下限トルクTRQLMLを下回らないようにリミット処理が行われる。したがって、エンジン出力トルクは、LC制御下限トルクTRQLMLまで低下した後はそのLC制御下限トルクTRQLMLに維持され、エンジン回転数NEは目標メインシャフト回転数NTMOBJの近傍であって目標メインシャフト回転数NTMOBJより僅かに低い回転数に維持される。図9を参照して後述するように、エンジン回転数NEが目標メインシャフト回転数NTMOBJ近傍まで低下した時点から所定時間経過後に、ロックアップクラッチ30の締結が実行される。したがって、従来手法のように燃料供給量の増量を行うことなく円滑かつ確実に締結を行うことができる。その結果、燃料供給量の増量に伴う運転者の違和感がなく、かつ燃費を向上させることができる。
【0042】
次にLC制御下限トルクTRQLMLの設定手法について説明する。LC制御下限トルクTRQLMLは、エンジン回転数NEが目標メインシャフト回転数NTMOBJ近傍であって目標メインシャフト回転数NTMOBJより僅かに低い回転数に維持されるように設定される。図7はこの設定の理由を説明するためのタイムチャートであり、エンジン回転数NEの推移が示されている。図7(a)は、一部気筒運転に対応し、図7(b)は全筒運転に対応する。
【0043】
メインシャフト回転数NTMとエンジン回転数NEとが完全に等しい状態でロックアップクラッチ30を締結するのが最も望ましいが、実際には図7に示すようにエンジン回転数NEは変動しているため、エンジン回転数NEの極大値がメインシャフト回転数NTMより僅かに低い状態でロックアップクラッチ30を締結できるように、LC制御下限トルクTRQLMLが設定される。これにより、クラッチ締結を滑らかに(トルクショックを最小限に抑制して)実行することができる。
【0044】
また図7(a)(b)に示すように、全筒運転の方がエンジン回転数NEの変動振幅が小さいので、エンジン回転数NEの中心値を目標メインシャフト回転数NTMOBJにより近づけることができる。よって本実施形態では、図7(b)に示す全筒運転時の回転数差DNENMが図7(a)に示す一部気筒運転時の回転数差DNECSより小さくなるようにLS制御下限トルクTRQLMLが設定される。換言すれば作動気筒数が多いほどエンジン回転数中心値が目標メインシャフト回転数NTMOBJに近づくように、LC制御下限トルクTRQLMLが設定される。これにより、作動気筒数に適したLC制御下限トルクTRQLMLの設定を行い、一部気筒運転及び全筒運転の双方において、最も円滑なクラッチ締結を実現することができる。
【0045】
図8は、図2のステップS14で実行される点火時期算出処理のフローチャートである。ステップS71では、エンジン運転状態に応じて通常制御点火時期IGNMを算出し、ステップS72では、減速LC協調フラグFDLCが「1」であるか否かを判別する。ステップS72の答が否定(NO)であるときは、点火時期IGLOGを通常制御点火時期IGNMに設定する(ステップS73)。
【0046】
ステップS72の答が肯定(YES)であって減速LC協調フラグFDLCが「1」であるときは、目標メインシャフト回転数NTMOBJに応じて遅角量DIGRTDを算出する(ステップS74)。遅角量DIGRTDは、目標メインシャフト回転数NTMOBJが高いほどより小さな値に設定される。
【0047】
ステップS75では、通常制御点火時期IGNMから遅角量DIGRTDを減算することにより、遅角点火時期IGRTDを算出する。ステップS76では、点火時期IGLOGを下記式(1)により更新する。式(1)の右辺のIGLOGは、前回算出値であり、DIGは点火時期IGLOGを徐々に遅角させるための所定減算値である。
IGLOG=IGLOG−DIG (1)
【0048】
ステップS77では、ステップS76で更新した点火時期IGLOGが遅角点火時期IGRTDより小さい(遅角側)か否かを判別し、その答が否定(NO)であるときは直ちに処理を終了する。ステップS77の答が肯定(YES)であるときは、点火時期IGLOGを遅角点火時期IGRTDに設定する(ステップS78)。
【0049】
図8の処理により、減速LC協調制御が開始されると点火時期IGLOGが遅角点火時期IGRTDに達するまで徐々に遅角され、減速LC協調制御が終了するまで遅角点火時期IGRTDに維持される。
【0050】
EG−ECU5は、点火時期IGLOGの遅角によるエンジン出力トルクの減少を考慮して、スロットル弁の目標開度THCMDを算出し、エンジン出力トルクが目標エンジントルクTRQCMDと一致するようにスロットル弁開度THの制御を行う。
【0051】
図9は、ロックアップクラッチ30の締結/解除の制御を行う処理のフローチャートである。この処理は、TM−ECU20のCPUで所定時間毎に実行される。
ステップS81では減速LC協調フラグFDLCが「1」であるか否かを判別し、その答が否定(NO)であるときは通常の制御を実行する(ステップS82)。
【0052】
ステップS81の答が肯定(YES)であって減速LC協調制御実行中は、目標メインシャフト回転数NTMOBJとエンジン回転数NEとの差が所定閾値DTNより小さいか否かを判別する(ステップS83)。この答が否定(NO)であるときは、ダウンカウントタイマTMLCONを所定時間TLCONに設定してスタートさせる(ステップS84)。ステップS83の答が肯定(YES)であるときは、ステップS85に進み、タイマTMLCONの値が「0」であるか否かを判別する。ステップS85の答が否定(NO)である間は直ちに処理を終了し、タイマTMLCONの値が「0」となったとき、クラッチ締結実行フラグFLCONCMDを「1」に設定し(ステップS86)、ロックアップクラッチ30を締結させる。
【0053】
図10は、上述した減速LC協調制御を説明するためのタイムチャートであり、アクセルペダルオンフラグFAPON、変速段GP、減速LC協調フラグFDLC、減速LC協調制御の終了時点を決定するためのタイマTMDLC、燃料カット運転の開始時点を決定するためのタイマTMFC、エンジン回転数NE及びメインシャフト回転数NTM、ロックアップクラッチの締結力FCL、目標エンジントルクTRQCMD、点火時期IGLOG、及び燃料カットフラグFFCの推移が示されている。
【0054】
図10には、時刻t0においてシフトアップが行われると同時にアクセルペダルが戻され、減速LC協調制御が開始された例が示されている。時刻t0において目標メインシャフト回転数NTMOBJの設定が行われ(図10(f))、目標エンジントルクTRQCMDは直ちにLC制御下限トルクTRQLMLに設定される(図10(h))。図10(h)に示される実線は、一部気筒運転に対応し、太い破線は全筒運転に対応する。また同図の細い破線は、一部気筒運転を実行しているときの実際のエンジン出力トルクの推移を示す。目標エンジントルクTRQCMDは、減速LC協調制御が終了する時刻t4まで、LC制御下限トルクTRQLMLに維持される。
【0055】
エンジン回転数NEは、時刻t0から漸減し、時刻t1において目標メインシャフト回転数NTMOBJ近傍まで低下する一方、メインシャフト回転数NTMはエンジン回転数NEとほぼ一致するまで上昇した後にエンジン回転数NEとともに低下し、時刻t1において目標メインシャフト回転数NTMOBJに達する(図10(f))。時刻t1から所定時間TLCON経過後の時刻t2においてロックアップクラッチ30の締結が指令され、締結力FCLがステップ状に増加する(図10(g))。
【0056】
時刻t2からタイマTMDLCのダウンカウントが開始され、時刻t4において減速LC協調制御を終了する(図10(d)(c))。時刻t4からタイマTMFCのダウンカウントが開始され、時刻t5において燃料カット運転が開始される(図10(e)(j))。
【0057】
図10(f),(g),及び(j)に示す細い破線は、目標エンジントルクTRQCMDをLC制御下限トルクTRQLMLに維持する制御を行わなかった場合におけるエンジン回転数NE及び締結力FCLの推移を示す。この場合には、ロックアップクラッチ30の締結状態を維持できないため、時刻t3に締結が解除され、燃料カット運転を開始することができない。
【0058】
以上のように本実施形態では、ロックアップクラッチ30の締結を実行するときの、目標メインシャフト回転数NTMOBJが設定され、目標メインシャフト回転数NTMOBJに応じてLC制御下限トルクTRQLMLが設定され、車両減速中においてエンジン出力トルクがLC制御下限トルクTRQLMLに達した後はエンジン出力トルクをLC制御下限トルクTRQLMLに保持する制御が実行され、エンジン出力トルクがLC制御下限トルクTRQLMLに保持されている期間においてロックアップクラッチ30の締結が実行される(図10,t2)。エンジン出力トルクをLC制御下限トルクTRQLMLに保持する出力保持制御を実行することにより、エンジン回転数NEが目標メインシャフト回転数NTMOBJ近傍に維持されるので、出力保持制御実行中にロックアップクラッチ30を締結することにより、燃料供給量の増量を行うことなく円滑かつ確実に締結を行うことができる。したがって、従来技術のような運転者の違和感がなく、かつ燃費を向上させることができる。
【0059】
また車両運転状態がロックアップクラッチの締結が可能な運転領域にあり、減速LC協調制御が開始された時点、すなわちロックアップクラッチ30の締結が要求された時点以後であってエンジン出力トルクがLC制御下限トルクTRQLMLに達する前に点火時期IGLOGの遅角制御が行われるので、エンジン回転数NEの変動を抑制し、クラッチ締結時の騒音や振動の発生を回避して滑らかな締結を行うことができる。
【0060】
また図7を参照して説明したように、全筒運転中は一部気筒運転中よりも、エンジン回転数NEが目標メインシャフト回転数NTMOBJに近づくようにLC制御下限トルクTRQLMLが設定されるので、一部気筒運転及び全筒運転の双方において、最も円滑なクラッチ締結を実現することができる。
【0061】
本実施形態では、気筒休止機構50が作動気筒数可変機構に相当し、スロットル弁3及びアクチュエータ7が機関出力制御手段の一部を構成し、EG−ECU5が目標回転速度設定手段、出力下限値設定手段、機関出力制御手段、及び点火時期制御手段を構成し、TM−ECU20がクラッチ締結手段を構成する。具体的には、図4の処理が目標回転速度設定手段に相当し、図5のステップS51〜55が出力下限値設定手段に相当し、ステップS59〜S63が機関出力制御手段の一部に相当し、図9の処理がクラッチ締結手段に相当する。
【0062】
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上述した実施形態では、全筒運転と一部気筒運転とを行うことにより、作動気筒数を例えば6気筒と3気筒とに切り換える気筒休止機構50を使用したが、例えば6気筒、4気筒、2気筒の3段階に切換可能な気筒休止機構も適用可能である。その場合には、LC制御下限トルクTRQLMLは、減速LC協調制御中のエンジン回転数NEが、作動気筒数が増加するほど目標メインシャフト回転数NTMOBJに近づくように設定される。
【0063】
また図8のステップS74では、目標メインシャフト回転数NTMOBJに応じて遅角量DIGRTDを算出するようにしたが、変速段GPが一定であれば目標メインシャフト回転数NTMOBJは車速VPに比例するので、車速VPに応じて遅角量DIGRTDを算出するようにしてもよい。その場合、車速VPが高いほど遅角量DIGRTDをより小さな値に設定する。
また本発明は、クランク軸を鉛直方向とした船外機などのような船舶推進機用エンジンなどの制御にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 内燃機関
3 スロットル弁(機関出力制御手段)
5 エンジン制御用電子制御ユニット(目標回転速度設定手段、出力下限値設定手段、機関出力制御手段、点火時期制御手段)
6 燃料噴射弁
7 アクチュエータ(機関出力制御手段)
13 点火プラグ
20 変速制御用電子制御ユニット(クラッチ締結手段)
41 メインシャフト回転数センサ
50 気筒休止機構(作動気筒数可変機構)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、変速機構及び該変速機構の入力軸と前記機関の出力軸との間に設けられたトルクコンバータを有する自動変速機とを備え、前記トルクコンバータは、前記機関の出力軸と前記入力軸とを直結するためのロックアップクラッチを有する車両の制御装置であって、前記車両の減速時に前記ロックアップクラッチを締結し、該締結後に前記機関への燃料供給を停止する燃料カット運転を実行する制御装置において、
前記ロックアップクラッチの締結を実行するときの前記入力軸の目標回転速度を設定する目標回転速度設定手段と、
前記目標回転速度に応じて前記機関の出力下限値を設定する出力下限値設定手段と、
前記機関の出力が前記出力下限値に達した後は前記機関出力を前記出力下限値に保持するように制御する機関出力制御手段と、
前記機関出力が前記出力下限値に保持されている期間において前記ロックアップクラッチの締結を実行するクラッチ締結手段とを備えることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記ロックアップクラッチの締結が要求された後であって前記機関出力が前記出力下限値に達する前に前記機関の点火時期を遅角させる点火時期制御手段をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記機関は作動気筒数を変更する作動気筒数可変機構を有し、
前記出力下限値設定手段は、前記作動気筒数が多いほど前記機関の回転速度が前記目標回転速度に近づくように前記出力下限値を設定することを特徴とする請求項1または2に記載の車両の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−166588(P2012−166588A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26773(P2011−26773)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】