説明

車両の制御装置

【課題】燃費(電費)の悪化を回避しつつ、パルス幅過変調制御方式を使用するときのキャリア周波数に起因する雑音を抑制する。
【解決手段】ECU200は、車速Vが予め設定された車速閾値V0以下であって、且つ、第1モータジェネレータMG1の動作状態がパルス幅過変調制御方式での制御が実行される動作状態となった場合に、エンジン1の回転数REを回転数RE1から回転数RE2へ増加させることによって、第1モータジェネレータMG1の回転数RMを回転数RM1から回転数RM2へ増加させて、第1モータジェネレータMG1の動作状態を矩形波電圧制御方式での制御が実行される動作状態に変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行用の駆動源として内燃機関及び交流電動機を備える車両の制御装置に関する。特に、交流電動機について、正弦波パルス幅変調方式よりも基本波成分の振幅を大きくするパルス幅過変調制御方式及び矩形波電圧制御方式による制御が実施可能に構成されている車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、PWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)制御方式を用いた車両の制御装置において、キャリア周波数に基づく騒音を削減する種々の装置、方法が提案されている。
【0003】
例えば、モータの駆動方式がパルス幅過変調制御方式である場合に、コンバータによる昇圧動作を実行してモータの駆動方式をパルス幅過変調制御方式から正弦波パルス幅変調方式に移行させるモータ駆動制御装置が開示されている(特許文献1参照)。このモータ駆動制御装置によれば、パルス幅過変調制御方式におけるキャリア周波数に起因する高周波騒音を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−207030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載のモータ駆動制御装置では、コンバータによる昇圧動作を実行するため、燃費(電費)が悪化することになる。
【0006】
すなわち、コンバータによる昇圧動作を実行すると、リアクトル損失、及び、スイッチング損失が発生するため、エネルギ効率が低下し、燃費(電費)が悪化することになるのである。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、燃費(電費)の悪化を回避しつつ、パルス幅過変調制御方式を使用するときのキャリア周波数に起因する雑音を抑制することが可能な車両の制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る車両の制御装置は、以下のように構成されている。
【0009】
すなわち、本発明に係る車両の制御装置は、走行用の駆動源として内燃機関及び交流電動機を備える車両の制御装置であって、前記交流電動機が、正弦波パルス幅変調方式よりも基本波成分の振幅を大きくするパルス幅過変調制御方式及び矩形波電圧制御方式による制御が実施可能に構成され、車速が予め設定された車速閾値以下であって、且つ、前記交流電動機の動作状態が前記パルス幅過変調制御方式での制御が実行される動作状態となった場合に、前記内燃機関の回転数を増加させることによって、前記交流電動機の動作状態を前記矩形波電圧制御方式での制御が実行される動作状態に変更することを特徴としている。
【0010】
かかる構成を備える車両の制御装置によれば、前記交流電動機が、正弦波パルス幅変調方式よりも基本波成分の振幅を大きくするパルス幅過変調制御方式及び矩形波電圧制御方式による制御が実施可能に構成されている(図4、図5参照)。そして、車速が予め設定された車速閾値以下であって、且つ、前記交流電動機の動作状態が前記パルス幅過変調制御方式での制御が実行される動作状態となった場合に、前記内燃機関の回転数を増加させることによって、前記交流電動機の動作状態を前記矩形波電圧制御方式での制御が実行される動作状態に変更されるため、燃費(電費)の悪化を回避しつつ、パルス幅過変調制御方式を使用するときのキャリア周波数に起因する雑音を抑制することができる。
【0011】
すなわち、車速が予め設定された車速閾値以下の低速走行時には、エンジン音、モータ音、タイヤと路面との摩擦音等の車両走行時に発生する音のレベルが比較的小さくなっているので車内の静粛性が高くなる。よって、キャリア周波数に起因する雑音を抑制する必要性が高まる。また、前記内燃機関の回転数を増加させることによって、前記交流電動機の動作状態が、前記矩形波電圧制御方式での制御が実行される動作状態に変更される(図4、図7参照)ため、燃費(電費)の悪化を回避しつつ、パルス幅過変調制御方式を使用するときのキャリア周波数に起因する雑音を抑制することができるのである。
【0012】
つまり、図1に示すハイブリッド車両では、エンジン1の回転数を増加させることによって、第1モータジェネレータMG1の回転数を回転数RM1から回転数RM2へ増加させる(図4参照)。その結果、第1モータジェネレータMG1の動作状態が点P1から点P2(図4参照)に変化して、パルス幅過変調制御方式から矩形波電圧制御方式に制御方式が変更されるため、パルス幅過変調制御方式を使用するときのキャリア周波数に起因する雑音を抑制することができる。また、エンジン1の回転数の増加に伴って、消費されるエネルギは増大するが、第1モータジェネレータMG1の回転数の増加に伴う余分なエネルギは、第1モータジェネレータMG1によって、バッテリ61(図2参照)に蓄積されるため、燃費(電費)の悪化を回避することができるのである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る車両の制御装置によれば、車速が予め設定された車速閾値以下であって、且つ、前記交流電動機の動作状態が前記パルス幅過変調制御方式での制御が実行される動作状態となった場合に、前記内燃機関の回転数を増加させることによって、前記交流電動機の動作状態を前記矩形波電圧制御方式での制御が実行される動作状態に変更されるため、燃費(電費)の悪化を回避しつつ、パルス幅過変調制御方式を使用するときのキャリア周波数に起因する雑音を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る車両の制御装置が搭載されるハイブリッド車両の一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明に係る車両の制御装置を構成するモータ駆動制御システムの一例を示す全体構成図である。
【図3】図2に示すモータ駆動制御システムにおける交流電動機の制御モードの一例を示す説明図である。
【図4】図3に示す制御モードと交流電動機の動作状態との関係、の一例を示すグラフである。
【図5】図2に示す制御装置の機能構成の一例を示す機能ブロック図である。
【図6】本発明に係る車両の制御装置における機能構成の一例を示す機能ブロック図である。
【図7】図1に示すハイブリッド車両の動力分割機構における共線図の一例を示す図である。
【図8】図6に示す車両の制御装置における動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る「車両の制御装置」の実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態では、本発明に係る「車両の制御装置」を、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)方式のハイブリッド車両に適用した場合について説明する。
【0016】
−ハイブリッド車両HV−
図1は、本発明に係る「車両の制御装置」が搭載されるハイブリッド車両HVの一例を示す概略構成図である。図1に示すように、ハイブリッド車両HVは、車両走行用の駆動力を発生するエンジン1、主に発電機として機能する第1モータジェネレータMG1、主に電動機として機能する第2モータジェネレータMG2、動力分割機構3、リダクション機構4、カウンタドライブギヤ51、カウンタドリブンギヤ52、ファイナルギヤ53、デファレンシャル装置54、前輪車軸(ドライブシャフト)61、左右の駆動輪(前輪)6L,6R、及び、ECU200を備えており、ECU200のROM等に記憶されたプログラムが実行されることによって本発明に係る「車両の制御装置」が実現される。
【0017】
なお、ECU200(Electronic Control Unit)は、例えば、ハイブリッド車両HVを統括的に制御するHV(ハイブリッド)ECU、インバータ63(図2参照)の駆動を制御するインバータECU、エンジン1の駆動を制御するエンジンECU、バッテリ61(図2参照)の状態を管理するバッテリECUなどによって構成されており、これらのECUが互いに通信可能に接続されている。
【0018】
次に、エンジン1、モータジェネレータMG1,MG2、動力分割機構3、リダクション機構4、及び、ECU200などの各部について説明する。
【0019】
−エンジン−
エンジン1は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等の燃料を燃焼させて動力を出力する公知の動力装置であって、吸気通路11に設けられたスロットルバルブ13のスロットル開度(吸入空気量)、燃料噴射量、点火時期などの運転状態を、ECU200からの指示に基づいて制御可能に構成されている。また、燃焼後の排気ガスは排気通路12を経て図略の酸化触媒による浄化が行われた後に外気に放出される。ここで、エンジン1は、特許請求の範囲に記載の「内燃機関」に相当する。
【0020】
エンジン1のスロットルバルブ13の制御には、例えば、エンジン回転数とドライバのアクセルペダル踏み込み量(アクセル開度)等のエンジン1の状態に応じた適正な吸入空気量(目標吸気量)が得られるようにスロットル開度を制御する電子スロットル制御が採用されている。このような電子スロットル制御では、スロットル開度センサ196を用いてスロットルバルブ113の実際のスロットル開度を検出し、その実スロットル開度が、上記目標吸気量が得られるスロットル開度(目標スロットル開度)に一致するようにスロットルバルブ113のスロットルモータ114をフィードバック制御している。
【0021】
そして、エンジン1の出力は、クランクシャフト105及びダンパ2を介してインプットシャフト21に伝達される。ダンパ2は、例えばコイルスプリング式トランスアクスルダンパであってエンジン1のトルク変動を吸収する。
【0022】
−モータジェネレータ−
次に、図1を参照して、第1モータジェネレータMG1及び第2モータジェネレータMG2について説明する。第1モータジェネレータMG1は、インプットシャフト21に対して相対回転自在に支持された永久磁石からなるロータMG1Rと、3相巻線が巻回されたステータMG1Sとを備えた交流同期発電機であって、発電機として機能するとともに電動機(電動モータ)としても機能する。なお、第1モータジェネレータMG1は、特許請求の範囲に記載の「電動機」の一部に相当する。
【0023】
また、第2モータジェネレータMG2も同様に、インプットシャフト21に対して相対回転自在に支持された永久磁石からなるロータMG2Rと、3相巻線が巻回されたステータMG2Sとを備えた交流同期発電機であって、電動機(電動モータ)として機能するとともに発電機としても機能する。第2モータジェネレータMG2は、特許請求の範囲に記載の「電動機」の一部に相当する。
【0024】
また、第1モータジェネレータMG1及び第2モータジェネレータMG2は、それぞれ、インバータ63を介してバッテリ(蓄電装置)61に接続されている(図2参照)。インバータ63はECU200によって制御され、インバータ63が制御されることによって、各モータジェネレータMG1、MG2の回生及び駆動の動作が制御される。また、各モータジェネレータMG1、MG2によって発生する回生電力は、インバータ63を介してバッテリ61に充電される。更に、各モータジェネレータMG1,MG2の駆動用電力は、それぞれ、バッテリ61からインバータ63を介して供給される。
【0025】
−動力分割機構−
次に、図1を参照して、動力分割機構3について説明する。図1に示すように、動力分割機構3は、複数の歯車要素の中心で自転する外歯歯車のサンギヤ3Sと、サンギヤ3Sに外接しながらその周辺を自転しつつ公転する外歯歯車のピニオンギヤ3Pと、ピニオンギヤ3Pと噛合するべく中空環状に形成された内歯歯車のリングギヤ3Rと、ピニオンギヤ3Pを支持するとともに、ピニオンギヤ3Pの公転を通じて自転するプラネタリキャリア3CAと、を有する遊星歯車機構によって構成されている。なお、プラネタリキャリア3CAは、エンジン1側のインプットシャフト21に回転一体に連結されている。サンギヤ3Sは、第1モータジェネレータMG1のロータMG1Rに回転一体に連結されている。
【0026】
また、動力分割機構3は、エンジン1及び第2モータジェネレータMG2の少なくとも一方の駆動力を、カウンタドライブギヤ51、カウンタドリブンギヤ52、ファイナルギヤ53、デファレンシャル装置54、及び、ドライブシャフト55を順次介して左右の駆動輪56L、56Rに伝達する。
【0027】
−リダクション機構−
次に、図1を参照して、リダクション機構4について説明する。図1に示すように、リダクション機構4は、複数の歯車要素の中心で自転する外歯歯車のサンギヤ4Sと、キャリア(トランスアクスルケース)4CAに回転自在に支持され、サンギヤ4Sに外接しながら自転する外歯歯車のピニオンギヤ4Pと、ピニオンギヤ4Pと噛合するべく中空環状に形成された内歯歯車のリングギヤ4Rと、を有する遊星歯車機構によって構成されている。なお、リダクション機構4のリングギヤ4Rと、動力分割機構3のリングギヤ3Rと、カウンタドライブギヤ51とは互いに一体に構成されている。サンギヤ4Sは、第2モータジェネレータMG2のロータMG2Rと回転一体に連結されている。
【0028】
また、リダクション機構4は、第2モータジェネレータMG2の駆動力を適正な減速比で減速し、減速された駆動力は、カウンタドライブギヤ51、カウンタドリブンギヤ52、ファイナルギヤ53、デファレンシャル装置54、及び、ドライブシャフト55を順次介して左右の駆動輪56L、56Rに伝達される。
【0029】
−モータ駆動制御システム−
次に、図2を参照して、本発明に係る「車両の制御装置」を構成するモータ駆動制御システムの全体構成について説明する。図2は、本発明に係る車両の制御装置を構成するモータ駆動制御システムの一例を示す全体構成図である。モータ駆動制御システム100は、直流電圧発生部6αと、平滑コンデンサC0と、インバータ63と、第1モータジェネレータMG1と、ECU200と、を備える。
【0030】
第1モータジェネレータMG1は、例えば、図1に示すハイブリッド車両HVにおいて、その駆動輪56L、56Rを駆動するトルクを発生する交流電動機である。ここで、第1モータジェネレータMG1は、特許請求の範囲の「交流電動機」に相当する。なお、図2においては、便宜上、モータ駆動制御システム100が第1モータジェネレータMG1を制御する場合について説明するが、第2モータジェネレータMG2も、モータ駆動制御システム100と略同一の構成を備えるモータ駆動制御システムによって制御される。
【0031】
直流電圧発生部6αは、バッテリ61と、システムリレーSR1、SR2と、平滑コンデンサC1と、コンバータ62と、を備えている。バッテリ61は、例えば、リチウムイオン等の蓄電池で構成される。バッテリ61の電圧Vb及びバッテリ61に対して入出力される電流Ibは、それぞれ、電圧センサ71及び電流センサ72によって検出される。また、システムリレーSR1は、バッテリ61の正極端子と電流線82との間に介設され、システムリレーSR2は、バッテリ61の負極端子と電流線81との間に介設されている。なお、システムリレーSR1、SR2は、ECU200からの信号SEによってオン、オフ制御される。
【0032】
コンバータ62は、リアクトルL1と、スイッチング素子Q1、Q2と、ダイオードD1、D2と、を備えている。スイッチング素子Q1、Q2は、電流線83と電流線81との間に直列に介設されている。また、スイッチング素子Q1、Q2のオン、オフは、それぞれ、ECU200からのスイッチング制御信号S1、S2によって制御される。
【0033】
なお、スイッチング素子Q1、Q2を構成する電力用半導体スイッチング素子としては、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等を用いることができる。ダイオードD1、D2は、それぞれ、スイッチング素子Q1、Q2と逆並列に接続されている。リアクトルL1は、スイッチング素子Q1、Q2の接続ノードと電流線82との間に介設される。平滑コンデンサC0は、電流線83と電流線81との間に介設されている。
【0034】
インバータ63は、電流線83と電流線81との間に、それぞれ、並列に設けられる、U相の上下アーム631と、V相の上下アーム632と、W相の上下アーム633と、を備えている。各相の上下アームは、電流線83と電流線81との間に直列に接続されたスイッチング素子から構成されている。例えば、U相の上下アーム631は、スイッチング素子Q3、Q4から構成され、V相の上下アーム632は、スイッチング素子Q5、Q6から構成され、W相の上下アーム633は、スイッチング素子Q7、Q8から構成されている。スイッチング素子Q3〜Q8には、それぞれ、ダイオードD3〜D8が逆並列に接続されている。また、スイッチング素子Q3〜Q8のオン、オフは、それぞれ、ECU200からのスイッチング制御信号S3〜S8によって制御される。
【0035】
第1モータジェネレータMG1は、例えば、3相の永久磁石型同期電動機であって、U相、V相、W相の3つのコイルの一端が中性点に共通に接続されて構成されている。そして、各相のコイルの他端は、それぞれ、各相上下アーム631〜633のスイッチング素子の中間点に接続されている。
【0036】
コンバータ62は、各スイッチング周期内でスイッチング素子Q1、Q2が相補的に、且つ、交互にオン、オフするべく制御される。コンバータ62は、昇圧動作時には、バッテリ61から供給される電圧Vbを電圧VH(インバータ63への入力電圧に相当する)へ昇圧する。この昇圧動作は、スイッチング素子Q2のオン期間においてリアクトルL1に蓄積される電磁エネルギを、スイッチング素子Q1及びダイオードD1を介して電流線83へ供給することによって行われる。
【0037】
また、コンバータ62は、降圧動作時には、電圧VHを電圧Vbに降圧する。この降圧動作は、スイッチング素子Q1のオン期間においてリアクトルL1に蓄積される電磁エネルギを、スイッチング素子Q2及びダイオードD2を介して電流線82へ供給することによって行われる。上記昇圧動作及び降圧動作における電圧変換比(電圧VHと電圧Vbとの比)は、上記スイッチング周期に対するスイッチング素子Q1、Q2のオン期間比(デューティ比)によって制御される。なお、スイッチング素子Q1、Q2を、それぞれ、オン及びオフに固定すれば、電圧VH=電圧Vb(電圧変換比=1.0)とすることもできる。
【0038】
平滑コンデンサC0は、コンバータ62からの直流電圧を平滑化し、その平滑化した直流電圧をインバータ63へ供給するコンデンサである。電圧センサ73は、平滑コンデンサC0の両端の電圧、すなわちシステム電圧VHを検出し、その検出値をECU200へ出力するセンサである。
【0039】
インバータ63は、第1モータジェネレータMG1のトルク指令値Trqαが正(Trqα>0)の場合には、ECU200からのスイッチング制御信号S3〜S8に、それぞれ、応答したスイッチング素子Q3〜Q8のスイッチング動作によって直流電圧を交流電圧に変換して、正のトルクを出力するべく第1モータジェネレータMG1を駆動する。また、インバータ63は、第1モータジェネレータMG1のトルク指令値Trqαが「0」の場合(Trqα=0)には、スイッチング制御信号S3〜S8に応答したスイッチング動作によって直流電圧を交流電圧に変換し、トルクを「0」にするべく第1モータジェネレータMG1を駆動する。これによって、第1モータジェネレータMG1は、トルク指令値Trqαで指定された「0」、又は、正のトルクを発生するべく駆動される。
【0040】
更に、モータ駆動制御システム100が搭載された車両の回生制動時には、第1モータジェネレータMG1のトルク指令値Trqαが負に設定される(Trqα<0)。この場合には、インバータ63は、スイッチング制御信号S3〜S8に応答したスイッチング動作によって、第1モータジェネレータMG1が発電した交流電圧を直流電圧に変換して、その変換した直流電圧をコンバータ62へ供給する。ここで、「回生制動」とは、ハイブリッド車両HVを運転するドライバによるフットブレーキ操作があった場合の回生発電を伴う制動、フットブレーキを操作しないものの、走行中にアクセルペダルをオフすることで回生発電をさせながら車両を減速(又は、加速を停止)させることを含む。
【0041】
電流センサ74は、第1モータジェネレータMG1に流れるモータ電流を検出するセンサであって、その検出値をECU200へ出力する。なお、三相電流iu,iv,iwの瞬時値の和は「0」であるので、電流センサ74は、2相分のモータ電流(例えば、V相電流iv及びW相電流iw)を検出するように配置すればよい。
【0042】
回転角センサ(レゾルバ)75は、第1モータジェネレータMG1のロータの回転角θを検出するセンサであって、その検出値をECU200へ出力する。ECU200は、回転角θに基づいて第1モータジェネレータMG1の回転数RM(回転速度)及び角速度ω(rad/s)を算出することができる。
【0043】
−ECUの構成−
ECU(Electronic Control Unit)200は、モータ駆動制御システム100全体の動作を制御する電子制御装置であって、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、及び、バックアップRAM等を備えている。
【0044】
ROMには、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるテーブル、マップ等が記憶されている。CPUは、ROMに記憶された各種制御プログラム、マップ等に基づいて演算処理を実行する。また、RAMはCPUでの演算結果、各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAMはイグニッションスイッチのOFF時などにおいて保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
【0045】
ECU200は、例えば、トルク指令値Trqα、電圧センサ71によって検出された電圧Vb、電流センサ72によって検出された電流Ib、電圧センサ73によって検出されたシステム電圧VH、電流センサ74からのモータ電流iv、iw、回転角センサ75からの回転角θ等に基づいて、後述する制御方式によって、第1モータジェネレータMG1がトルク指令値Trqαに従ったトルクを出力するように、コンバータ62及びインバータ63の動作を制御する。すなわち、ECU200は、コンバータ62及びインバータ63を制御するスイッチング制御信号S1〜S8を生成して、コンバータ62及びインバータ63へ出力する。
【0046】
−制御モード−
次に、ECU200による第1モータジェネレータMG1の制御について詳しく説明する。図3は、図2に示すモータ駆動制御システム100における第1モータジェネレータMG1の制御モードの一例を示す説明図である。図3を参照して、モータ駆動制御システム100では、第1モータジェネレータMG1の制御、すなわちインバータ63における電力変換について、3つの制御を切り換えて使用する。
【0047】
正弦波PWM制御モードでは、正弦波状の電圧指令と搬送波(例えば、三角波)との電圧比較に従って、各相上下アーム素子のオン、オフが制御される。この結果、上アーム素子のオン期間に対応するハイレベル期間と、下アーム素子のオン期間に対応するローレベル期間との集合について、一定期間内でその基本波成分が正弦波となるようにデューティが制御される。なお、正弦波状の電圧指令の振幅が搬送波振幅以下の範囲に制限されるこの正弦波PWM制御モードでは、第1モータジェネレータMG1への印加電圧(以下、「モータ印加電圧」ともいう)の基本波成分を入力電圧の約0.61倍までしか高めることができない。以下では、インバータ63の入力電圧(すなわち、システム電圧VH)に対するモータ印加電圧(線間電圧)の基本波成分(実効値)の比を「変調率」という。
【0048】
過変調PWM制御モードは、電圧指令(正弦波成分)の振幅が搬送波振幅より大きい範囲で上記正弦波PWM制御モードと同様のPWM制御を行うものである。特に、電圧指令を本来の正弦波波形から歪ませること(振幅補正)によって基本波成分を高めることができ、変調率を正弦波PWM制御モードでの最高変調率(0.61)から0.78の範囲まで高めることができる。なお、過変調PWM制御モードでは、電圧指令(正弦波成分)の振幅が搬送波振幅より大きいため、第1モータジェネレータMG1に印加される線間電圧は、正弦波ではなく歪んだ電圧となる。
【0049】
一方、矩形波電圧制御モードでは、上記一定期間内で、ハイレベル期間及びローレベル期間の比が1:1の矩形波1パルス分が交流電動機に印加される。これにより、矩形波電圧制御モードでは、変調率は0.78まで高められる。
【0050】
第1モータジェネレータMG1においては、回転数、出力トルクが増加すると誘起電圧が高くなるので、必要となる駆動電圧(モータ必要電圧)が高くなる。コンバータ62による昇圧電圧、すなわちシステム電圧VHは、このモータ必要電圧よりも高く設定する必要がある。一方、システム電圧VHには、限界値(VH最大電圧)が存在する。したがって、第1モータジェネレータMG1の動作状態に応じて、正弦波PWM制御モード又は過変調PWM制御モードによるPWM制御モードと、矩形波電圧制御モードとが選択的に適用される。なお、矩形波電圧制御モードでは、モータ印加電圧の振幅が固定されるので、トルク指令値に対するトルク偏差(トルク実績値(推定値)とトルク指令値との差)に基づく矩形波電圧パルスの位相制御によってトルク制御が実行される。
【0051】
−制御モードの切り換え−
図4は、図3に示す制御モードと第1モータジェネレータMG1の動作状態と、の関係の一例を示すグラフである。図4に示すように、低回転数域AR1では、トルク変動を小さくするために正弦波PWM制御モードが用いられ、中回転数域AR2では、過変調PWM制御モードが用いられ、高回転数域AR3では、矩形波電圧制御モードが適用される。
【0052】
例えば、第1モータジェネレータMG1に要求されるトルクTAが一定であって、回転数が増加する場合には、図4に示すように、回転数RM1から回転数RM2の範囲で、過変調PWM制御モードが用いられることになる。なお、回転数RM2は、回転数RM1に回転数増分ΔRMを加えた和の回転数である。
【0053】
図5は、図2に示す制御装置(ECU200)の機能構成の一例を示す機能ブロック図である。図5に示すように、ECU200は、PWM制御部201と、矩形波電圧制御部204と、制御モード切換部205とを備えている。PWM制御部201は、正弦波PWM制御部202と、過変調PWM制御部203とを含む。
【0054】
正弦波PWM制御部202は、正弦波PWM制御モードを実行する機能部である。具体的には、正弦波PWM制御部202には、トルク指令値Trqαと、電流センサ74によって検出されるモータ電流iv,iwと、回転角センサ75によって検出される回転角θ、が入力される。そして、正弦波PWM制御部202は、これらの信号に基づいて、インバータ63に印加する電圧指令値Vdα,Vqαを電流フィードバック制御によって生成し、生成された電圧指令値Vdα,Vqαに基づいて、インバータ63を駆動するためのスイッチング制御信号S3〜S8を生成して制御モード切換部205へ出力する。
【0055】
過変調PWM制御部203は、過変調PWM制御モードを実行する機能部である。具体的には、過変調PWM制御部203も、正弦波PWM制御部202と同様の電流フィードバック制御によって、インバータ63を駆動するためのスイッチング制御信号S3〜S8を生成し、生成されたスイッチング制御信号S3〜S8を制御モード切換部205へ出力する。なお、過変調PWM制御部203には、正弦波PWM制御部202による正弦波PWM制御モードに電圧振幅の補正を行う機能が追加されており、電圧指令値の基本波成分を高めることができる。
【0056】
矩形波電圧制御部204は、矩形波電圧制御モードを実行する機能部である。具体的には、矩形波電圧制御部204には、トルク指令値Trqαと、モータ電流iv,iwと、回転角θと、が入力される。そして、矩形波電圧制御部204は、これらの信号に基づいて、インバータ63に印加する電圧の位相をトルクフィードバック制御によって設定し、その設定された電圧位相に基づいて、インバータ63を駆動するためのスイッチング制御信号S3〜S8を生成して制御モード切換部205へ出力する。また、矩形波電圧制御部204は、トルク指令値Trqαに対する実際のトルク(推定値)の差を示すトルク偏差ΔTrqを制御モード切換部205へ出力する。
【0057】
制御モード切換部205は、3つの制御モード(正弦波PWM制御モード、過変調PWM制御モード、矩形波電圧制御モード)を切り換える機能部である。具体的には、制御モード切換部205には、正弦波PWM制御部202から電圧指令値Vdα,Vqαが入力され、電圧センサ73(図2参照)からシステム電圧VHが入力される。そして、制御モード切換部205は、システム電圧VHと電圧指令値Vdα,Vqαとから算出される変調率に基づいて、PWM制御モードから矩形波電圧制御モードへの切り換えを行う。更に具体的には、制御モード切換部205は、変調率が0.78に達するとPWM制御モードから矩形波電圧制御モードへ切り換える。なお、制御モード切換部205は、変調率が0.61以下のときは、正弦波PWM制御モードを選択し、変調率が0.61を超えると、過変調PWM制御モードを選択する。したがって、制御モード切換部205は、変調率が0.78に達すると過変調PWM制御モードから矩形波電圧制御モードへ切り換える。
【0058】
一方、矩形波電圧制御モードでは変調率は0.78(一定)であるので、矩形波電圧制御モードからPWM制御モード(過変調PWM制御モード)への切り換えは、電流位相に基づいて行われる。すなわち、制御モード切換部205は、矩形波電圧制御部204からトルク偏差ΔTrqが入力され、モータ電流iv,iw及び回転角θが入力される。そして、制御モード切換部205は、これらの信号を用いて電流位相に基づいて矩形波電圧制御モードからPWM制御モード(過変調PWM制御モード)への切り換えを行う。
【0059】
−車両の制御装置(ECU)の機能構成−
次に、図6を参照して本発明に係る「車両の制御装置」の主要部の構成について説明する。図6は、本発明に係る車両の制御装置(ECU200)における機能構成の一例を示す機能ブロック図である。
【0060】
図6に示すように、ECU200は、CPUがROM等に記憶された制御プログラムを読み出して実行することによって、機能的に、正弦波PWM制御部202、過変調PWM制御部203、矩形波電圧制御部204、制御モード切換部205、車速判定部206、モード判定部207、回転数算出部208、及び、回転数制御部209等の機能部として機能する。ここで、車速判定部206、モード判定部207、回転数算出部208、及び、回転数制御部209は、本発明に係る「車両の制御装置」を構成する。
【0061】
正弦波PWM制御部202、過変調PWM制御部203、矩形波電圧制御部204、及び、制御モード切換部205については、図5を用いて説明した通りである。また、正弦波PWM制御部202、過変調PWM制御部203、矩形波電圧制御部204、及び、制御モード切換部205は公知である(特開2010−166707号公報参照)ため、ここでは、これらの詳細な構成についての説明を省略する。
【0062】
−走行制御−
ここで、図1を参照して、ECU200によって行われるハイブリッド車両HVの走行制御について説明する。なお、ここでは、便宜上、シフトレバーによって「Dポジション」が設定されている場合の走行制御について説明する。
【0063】
まず、発進時、低速走行時等であって、エンジン1の運転効率が悪い場合には、第2モータジェネレータMG2のみによって駆動されて走行を行う状態(以下、この走行状態を「EV走行モード」ともいう。)に制御される。また、車室内に配置された図略の走行モード選択スイッチによって運転者等によって「EV走行モード」が選択された場合にも「EV走行モード」に制御される。
【0064】
次に、通常走行時には、動力分割機構3によってエンジン1の駆動力が2経路に分けられ(トルクスプリット)、一方で、駆動輪56L、56Rがエンジン1によって直接駆動(直達トルクによる駆動)され、他方で、エンジン1によって第1モータジェネレータMG1が駆動されて発電が行われる走行状態(以下、この走行状態を「通常走行モード」ともいう。)に制御される。このとき、第1モータジェネレータMG1によって発生される電力によって第2モータジェネレータMG2が駆動されて、駆動輪56L、56Rの駆動補助が行われる(電気パスによる駆動)。
【0065】
このように、動力分割機構3が差動機構として機能し、その差動作用によってエンジン1からの動力の主部が駆動輪56L、56Rに機械的に伝達され、エンジン1からの動力の残部が第1モータジェネレータMG1から第2モータジェネレータMG2への電気パスを用いて電気的に伝達されることによって、電気的に変速比が変更される変速機としての機能が発揮される。これによって、駆動輪46L、56R(リングギヤ3R、4R)の回転数及びトルクに依存することなく、エンジン回転数及びエンジントルクを自由に操作することが可能となり、駆動輪56L、56Rに要求される駆動力を得ながらも、燃料消費率が最適化されたエンジンの運転状態を得ることが可能となる。
【0066】
また、高速走行時には、更にバッテリ(走行用バッテリ)61からの電力が第2モータジェネレータMG2に供給されて、第2モータジェネレータMG2の出力が増大されて駆動輪56L、56Rに対して駆動力の追加(駆動力アシスト)が行われる走行状態(以下、この走行状態を「高速走行モード」ともいう。)に制御される。
【0067】
更に、減速時には、第2モータジェネレータMG2が発電機として機能して回生発電が行われ、回収した電力がバッテリ61に蓄えられる。なお、バッテリ61の充電量が低下し、充電が特に必要な場合には、エンジン1の出力を増加して第1モータジェネレータMG1による発電量を増やしてバッテリ9に対する充電量を増加する。もちろん、低速走行時においても必要に応じてエンジン1の駆動力を増大する制御を行う場合もある。例えば、上述のようにバッテリ61の充電が必要な場合、エアコン等の補機を駆動する場合、及び、エンジン1の冷却水の温度を所定温度まで上げる場合等である。
【0068】
また、ハイブリッド車両HVにおいては、車両の運転状態及びバッテリ61の状態に基づいて、燃費を向上させる等の目的で、エンジン1を停止させる場合がある。そして、その後も、車両の運転状態及びバッテリ61の状態に基づいて、エンジン1を再始動させる。このように、ハイブリッド車両HVにおいては、エンジン1は、停止及び再始動を繰り返して間欠運転されることになる。
【0069】
−雑音抑制制御−
車速判定部206は、車速Vが予め設定された車速閾値V0(例えば、40km/時)以下であるか否かを判定する機能部である。ここで、車速判定部206は、車速Vを、例えば、車輪速センサを介して取得する。
【0070】
モード判定部207は、制御モード切換部205によって、第1モータジェネレータMG1が、正弦波PWM制御モード又は矩形波電圧制御モードからパルス幅過変調制御モードでの制御に切り換えられたか否かの判定を行う機能部である。
【0071】
回転数算出部208は、車速判定部206によって車速Vが車速閾値V0以下であるか否かと判定され、且つ、モード判定部207によってパルス幅過変調制御モードでの制御に切り換えられたと判定された場合に、第1モータジェネレータMG1の動作状態を矩形波電圧制御モードでの制御が実行される動作状態に変更するべく、エンジン1の増加すべき回転数増分ΔREを求める機能部である。ここで、図4及び図7を参照して、回転数算出部208によって、エンジン1の増加すべき回転数増分ΔREが求められる方法について説明する。
【0072】
まず、図4に示すように、第1モータジェネレータMG1に要求されるトルクTAが一定であって、回転数が増加する場合には、回転数RM1から回転数RM2の範囲で、過変調PWM制御モードが用いられることになる。したがって、第1モータジェネレータMG1の回転数が回転数RM1となって、制御モード切換部205によって、正弦波PWM制御モードから過変調PWM制御モードでの制御に切り換えられた場合には、第1モータジェネレータMG1の回転数を回転数増分ΔRMだけ増加して、回転数RM2にすることによって、過変調PWM制御モードから矩形波電圧制御モードへ移行させることができる。つまり、過変調PWM制御モードから矩形波電圧制御モードへ移行させるためには、第1モータジェネレータMG1の回転数を回転数増分ΔRMだけ増加すればよい。
【0073】
次に、図7を参照して、第1モータジェネレータMG1の回転数を回転数増分ΔRMだけ増加するために、エンジン1の回転数の増加すべき回転数増分ΔREを求める方法について説明する。図7は、図1に示すハイブリッド車両HVの動力分割機構3における共線図の一例を示す図である。図1に示すように、動力分割機構3において、サンギヤ3Sは、第1モータジェネレータMG1のロータMG1Rに回転一体に連結されており、プラネタリキャリア3CAは、エンジン1側のインプットシャフト21に回転一体に連結されている。サンギヤ3S及びプラネタリキャリア3CAを介して入力される駆動力は、リングギヤ3Rに伝達され、リングギヤ3Rからリダクション機構4、カウンタドライブギヤ51、カウンタドリブンギヤ52、ファイナルギヤ53、デファレンシャル装置54、及び、ドライブシャフト55を順次介して左右の駆動輪56L、56Rに伝達される。
【0074】
図7に示す共線図において、グラフG1で示すように、第1モータジェネレータMG1の回転数が回転数RM1であって、エンジン1の回転数REが回転数RE1である場合に、リングギヤ3Rから出力される駆動回転数が駆動回転数R0であるとする。この状態から、リングギヤ3Rから出力される駆動回転数が駆動輪56L、56Rとの連結によって駆動回転数R0(微視的に一定)に保持されつつ、サンギヤ3Sに回転一体に連結された第1モータジェネレータMG1を、回転数増分ΔRMだけ増加するためには、グラフG2で示すように、プラネタリキャリア3CAに回転一体に連結されたエンジン1の回転数REを回転数RE1から回転数増分ΔREだけ増加して、回転数RE2(=RE1+ΔRE)とすればよい。
【0075】
回転数制御部209は、回転数算出部208によって求められたエンジン1の増加すべき回転数増分ΔREだけ、エンジン1の回転数REを増加する機能部である。具体的には、回転数制御部209は、エンジン1の点火プラグに対する点火時期制御、インジェクタに対する燃料噴射量制御、及び、スロットルモータ114(図1参照)に対するスロットル開度制御(吸入空気量制御)等を実行することによって、エンジン1の回転数REを回転数RE1から回転数増分ΔREだけ増加して、回転数RE2(=RE1+ΔRE)とする。
【0076】
−ECUの動作−
次に、図8を参照して、ECU200の動作を説明する。図8は、図6に示す車両の制御装置(ECU200)における動作の一例を示すフローチャートである。図8に示すように、まず、車速判定部206によって、車速Vが、車速閾値V0以下であるか否かの判定が行われる(ステップS101)。ステップS101でNOの場合には、処理が待機状態とされる。ステップS101でYESの場合には、処理がステップS103へ進められる。
【0077】
そして、モード判定部207によって、パルス幅過変調制御モードでの制御に切り換えられたか否かの判定が行われる(ステップS103)。ステップS103でNOの場合には、処理がステップS101にリターンされ、ステップS101以降の処理が繰り返し実行される。ステップS103でYESの場合には、処理がステップS105へ進められる。次いで、回転数算出部208によって、第1モータジェネレータMG1の動作状態を矩形波電圧制御モードでの制御が実行される動作状態に変更するべく、第1モータジェネレータMGの増加すべき回転数増分ΔRMが求められる(ステップS105)。
【0078】
次に、回転数算出部208によって、第1モータジェネレータMGを回転数増分ΔRMだけ増加させるために、増加すべきエンジン1の回転数増分ΔREが求められる(ステップS107)。そして、回転数制御部209によって、エンジン1の回転数REが回転数増分ΔREだけ増大されて回転数RE2とされる(ステップS109)。そして、処理がステップS101にリターンされ、ステップS101以降の処理が繰り返し実行される。
【0079】
このようにして、車速Vが予め設定された車速閾値V0以下であって、且つ、第1モータジェネレータMG1の動作状態がパルス幅過変調制御方式での制御が実行される動作状態となった場合に、エンジン1の回転数REを増加させることによって、第1モータジェネレータMG1の動作状態を矩形波電圧制御方式での制御が実行される動作状態に変更されるため、燃費(電費)の悪化を回避しつつ、パルス幅過変調制御方式を使用するときのキャリア周波数に起因する雑音を抑制することができる。
【0080】
すなわち、車速Vが予め設定された車速閾値V0(例えば、、40km/時)以下の低速走行時には、エンジン音、モータ音、タイヤと路面との摩擦音等の車両走行時に発生する音のレベルが比較的小さくなっているので車内の静粛性が高くなる。よって、キャリア周波数に起因する雑音を抑制する必要性が高まる。また、エンジン1の回転数REを増加させることによって、第1モータジェネレータMG1の動作状態が、矩形波電圧制御方式での制御が実行される動作状態に変更される(図4、図7参照)ため、燃費(電費)の悪化を回避しつつ、パルス幅過変調制御方式を使用するときのキャリア周波数に起因する雑音を抑制することができるのである。
【0081】
つまり、図1に示すハイブリッド車両HVでは、エンジン1の回転数REを増加させることによって、第1モータジェネレータMG1の回転数RMを回転数RM1から回転数RM2へ増加させる(図4参照)。その結果、第1モータジェネレータMG1の動作状態が点P1から点P2(図4参照)に変化して、パルス幅過変調制御方式から矩形波電圧制御方式に制御方式が変更されるため、パルス幅過変調制御方式を使用するときのキャリア周波数に起因する雑音を抑制することができる。また、エンジン1の回転数REの回転数RE1から回転数RE2へ増加に伴って、エンジン1で消費されるエネルギは増大するが、第1モータジェネレータMG1の回転数RMの回転数RM1から回転数RM2への増加に伴う余分なエネルギは、第1モータジェネレータMG1によって、バッテリ61(図2参照)に蓄積されるため、燃費(電費)の悪化を回避することができるのである。
【0082】
−他の実施形態−
本実施形態では、「車両の制御装置」を構成する車速判定部206、モード判定部207、回転数算出部208、及び、回転数制御部209が機能部として構成されている場合について説明するが、車速判定部206、モード判定部207、回転数算出部208、及び、回転数制御部209の少なくとも1つが電子回路等のハードウェアから構成されている形態でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、走行用の駆動源として内燃機関及び交流電動機を備える車両の制御装置に利用することができる。特に、特に、交流電動機について、正弦波パルス幅変調方式よりも基本波成分の振幅を大きくするパルス幅過変調制御方式及び矩形波電圧制御方式による制御が実施可能に構成されている車両の制御装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0084】
1 エンジン
2 ダンパ
3 動力分割機構
4 リダクション機構
100 モータ駆動制御システム
6α 直流電圧発生部
61 バッテリ
62 コンバータ
63 インバータ
200 ECU(車両の制御装置)
201 PWM制御部
202 正弦波PWM制御部
203 過変調PWM制御部
204 矩形波電圧制御部
205 制御モード切換部
206 車速判定部
207 モード判定部
208 回転数算出部
209 回転数制御部
MG2 第2モータジェネレータ(交流電動機)
MG1 第1モータジェネレータ(交流電動機)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用の駆動源として内燃機関及び交流電動機を備える車両の制御装置であって、
前記交流電動機は、正弦波パルス幅変調方式よりも基本波成分の振幅を大きくするパルス幅過変調制御方式及び矩形波電圧制御方式による制御が実施可能に構成され、
車速が予め設定された車速閾値以下であって、且つ、前記交流電動機の動作状態が前記パルス幅過変調制御方式での制御が実行される動作状態となった場合に、前記内燃機関の回転数を増加させることによって、前記交流電動機の動作状態を前記矩形波電圧制御方式での制御が実行される動作状態に変更することを特徴とする車両の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−107411(P2013−107411A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251372(P2011−251372)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】