説明

車両の制御装置

【課題】内燃機関の無駄な再始動を防止することが可能な車両の制御装置を提供する。
【解決手段】マニュアル式の変速機10と、変速機10の入力軸11とクラッチ30を介して接続された内燃機関2と、変速機10の出力軸12と動力伝達可能に接続された駆動輪5と、駆動輪5を駆動可能に設けられたMG3とを備え、MG3の動力のみで駆動輪5を駆動するEV走行モードを実現可能であり、シフトレバー33を1速〜5速、後進R、及びEV走行位置EVに操作可能な車両1に適用され、エンストした場合には内燃機関2を再始動する制御装置において、エンストが発生したときにシフトレバー33が1速、2速又は後進R以外の位置にあり、かつクラッチ30の係合度合いが第1判定値αより大きい場合には内燃機関2の再始動を禁止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の回転を変速するマニュアル式の変速機と、駆動輪を駆動可能な電動モータとを備えた車両に適用され、内燃機関のエンスト時に内燃機関を再始動する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走行用動力源として内燃機関が搭載された車両に組み込まれ、内燃機関が運転者の意向に反してエンストした場合に、クラッチにより変速装置が内燃機関と遮断されると内燃機関の再始動を開始する装置が知られている(特許文献1参照)。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2〜4が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−269214号公報
【特許文献2】特開平11−257117号公報
【特許文献3】特開2010−185315号公報
【特許文献4】特開2011−069303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関及び電動モータが走行用動力源として搭載された車両、いわゆるハイブリッド車両が知られている。また、このような車両においてマニュアル式の変速機が搭載され、その変速機で変速した内燃機関の動力にて駆動輪を駆動する機関走行モード、及び内燃機関を停止させ、電動モータの動力のみで駆動輪を駆動するモータ走行モード等を実現可能な車両が知られている。特許文献1の装置では、内燃機関のエンスト時にクラッチが遮断されると内燃機関の再始動を行う。そのため、このような車両に適用した場合に、無駄に内燃機関を再始動するおそれがある。例えば、運転者がモータ走行モードを選択したつもりだが実際には機関走行モードを選択されていた場合には、エンストしてもその後に運転者が改めてモータ走行モードを選択すると考えられるため、内燃機関の再始動が無駄になる。
【0005】
そこで、本発明は、内燃機関の無駄な再始動を防止することが可能な車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両の制御装置は、互いに大きさが異なる変速比が設定された複数のギア段を有し、シフトレバーの操作にてギア段が切り替えられるマニュアル式の変速機と、前記変速機の入力軸とクラッチ手段を介して接続された内燃機関と、前記変速機の出力軸と動力伝達可能に接続された駆動輪と、前記駆動輪を駆動可能に設けられた電動モータと、を備え、前記電動モータの動力のみで前記駆動輪を駆動するモータ走行モードを実現可能であり、前記シフトレバーが操作される操作位置には、前記変速機の各ギア段に対応する複数のギア段位置及び前記モータ走行モードを選択するEV位置が含まれている車両に適用され、前記内燃機関のエンストが発生した場合に前記内燃機関を再始動する再始動手段を備えた制御装置において、前記再始動手段は、前記内燃機関のエンストが発生したときに前記シフトレバーが前記車両の発進時に使用されるギア段に対応するギア段位置以外の操作位置にあり、かつ前記クラッチ手段の係合度合いが所定の判定値より大きい場合には、前記内燃機関の再始動を禁止する再始動禁止手段を備えている(請求項1)。
【0007】
シフトレバーが車両の発進時に使用されるギア段に対応するギア段位置以外の操作位置にある場合には、運転者が車両を内燃機関で発進させようとしていないと考えられる。また、一般にマニュアル式の変速機を備えた車両では、車両を内燃機関で発進させる場合には運転者がクラッチ手段を解放状態に切り替える。そのため、クラッチ手段の係合度合いが大きい、すなわちクラッチ手段が係合されている場合には運転者が車両を内燃機関で発進させようとしていないと考えられる。本発明の制御装置では、このような場合には内燃機関の再始動を禁止するので、内燃機関の無駄な再始動を防止できる。
【0008】
本発明の制御装置の一形態において、前記再始動禁止手段は、前記内燃機関の再始動を禁止しているときに前記シフトレバーが前記複数のギア段位置のいずれかに操作された場合に、前記内燃機関の再始動を許可してもよい(請求項2)。シフトレバーがいずれかのギア段位置に操作された場合には運転者が内燃機関で車両を走行させようとしていると考えられる。そこで、このような場合には内燃機関の再始動を許可する。これにより内燃機関が再始動されるので、車両の走行モードを内燃機関の動力で車両を走行させるモードに速やかに切り替えることができる。
【0009】
本発明の制御装置の一形態において、前記再始動禁止手段は、前記内燃機関のエンストが発生したときに前記車両の速度が予め設定した所定の閾値以下の場合に、前記内燃機関の再始動を許可してもよい(請求項3)。エンスト時の車両の速度が低い場合には、内燃機関で車両を発進させようとして内燃機関をエンストさせたと考えられる。そのため、このような場合には内燃機関の再始動を許可する。これにより再始動が無駄に禁止されることを防止できる。
【0010】
本発明の制御装置の一形態において、前記再始動禁止手段は、前記クラッチ手段が前記変速機の入力軸と前記内燃機関とが切り離される解放状態であり、かつ前記車両のアクセルペダルが踏み込まれた場合に、前記内燃機関の再始動を許可してもよい(請求項4)。クラッチ手段が解放状態であり、かつアクセルペダルが踏まれている場合には、内燃機関で車両を発進させようとしていると判断できる。そのため、このような場合に内燃機関の再始動を許可することにより、再始動が無駄に禁止されることを防止できる。
【発明の効果】
【0011】
以上に説明したように、本発明の制御装置によれば、シフトレバーの位置やクラッチ手段の係合度合いに基づいて運転者が車両を内燃機関で発進させようとしていない場合には内燃機関の再始動を禁止する。そのため、内燃機関の無駄な再始動を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一形態に係る制御装置が組み込まれた車両を模式的に示す図。
【図2】車両に設けられている複数のペダルを示す図。
【図3】変速機のシフトレバーのシフトパターンを示す図。
【図4】制御装置が実行する再始動制御ルーチンを示すフローチャート。
【図5】再始動制御ルーチンの変形例を示すフローチャート。
【図6】図5に続くフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の一形態に係る制御装置が組み込まれた車両を模式的に示している。この車両1は、走行用動力源として内燃機関(以下、エンジンと称することがある。)2及び電動モータとしてのモータ・ジェネレータ(以下、MGと略称することがある。)3を備えている。すなわち、この車両1はハイブリッド車両として構成されている。エンジン2は、4つの気筒を有する周知の火花点火式内燃機関である。エンジン2には、エンジン2を始動するためのスタータ2aが設けられている。MG3は、ハイブリッド車両に搭載されて電動機及び発電機として機能する周知のものである。MG3は、バッテリ4と電気的に接続されている。車両1には1速〜5速のギア段を有する変速機10が搭載され、エンジン2及びMG3は変速機10と接続されている。また、変速機10には、車両1の駆動輪5に動力を出力するための出力部6も接続されている。出力部6は、出力ギア7と、駆動輪5に連結されたデファレンシャル機構8とを備えている。出力ギア7は、変速機10の出力軸12に一体回転するように取り付けられている。また、出力ギア7は、デファレンシャル機構8のケースに設けられたリングギア8aと噛み合っている。デファレンシャル機構8は、伝達された動力を左右の駆動輪5に分配する周知のものである。
【0014】
変速機10は、入力軸11と、出力軸12とを備えている。入力軸11と出力軸12との間には、第1〜第5変速ギア対G1〜G5及び後進ギア群GRが設けられている。第1変速ギア対G1は互いに噛み合う第1ドライブギア13及び第1ドリブンギア14にて構成され、第2変速ギア対G2は互いに噛み合う第2ドライブギア15及び第2ドリブンギア16にて構成されている。第3変速ギア対G3は互いに噛み合う第3ドライブギア17及び第3ドリブンギア18にて構成され、第4変速ギア対G4は互いに噛み合う第4ドライブギア19及び第4ドリブンギア20にて構成されている。第5変速ギア対G5は互いに噛み合う第5ドライブギア21及び第5ドリブンギア22にて構成されている。第1〜第5変速ギア対G1〜G5は、ドライブギアとドリブンギアとが常時噛み合うように設けられている。各変速ギア対G1〜G5には互いに異なる変速比が設定されている。変速比は、第1変速ギア対G1、第2変速ギア対G2、第3変速ギア対G3、第4変速ギア対G4、第5変速ギア対G5の順に小さくなるように設定されている。後進ギア群GRは、後進ドライブギア23、中間ギア24、及び後進ドリブンギア25にて構成されている。
【0015】
第1〜第5ドライブギア13、15、17、19、21は、入力軸11に対して相対回転可能なように入力軸11に支持されている。後進ドライブギア23は、入力軸11と一体に回転するように入力軸11に固定されている。この図に示したようにこれらのギアは、後進ドライブギア23、第1ドライブギア13、第2ドライブギア15、第3ドライブギア17、第4ドライブギア19、第5ドライブギア21の順番で軸線方向に並ぶように配置されている。第1〜第5ドリブンギア14、16、18、20、22及び後進ドリブンギア25は、出力軸12と一体に回転するように出力軸12に固定されている。
【0016】
入力軸11には第1〜第4スリーブ26〜29が設けられている。第1〜第3スリーブ26〜28は、入力軸11と一体に回転し、かつ軸線方向に移動可能なように入力軸11に支持されている。第4スリーブ29は、入力軸11に対して相対回転可能かつ軸線方向に移動可能なように入力軸11に支持されている。第1スリーブ26及び第4スリーブ29は、第1ドライブギア13と後進ドライブギア23との間に設けられている。第2スリーブ27は、第2ドライブギア15と第3ドライブギア17との間に設けられている。第3スリーブ28は、第4ドライブギア19と第5ドライブギア21との間に設けられている。
【0017】
第1スリーブ26は、入力軸11と第1ドライブギア13とが一体に回転するように第1ドライブギア13と噛み合う1速位置と、その噛み合いが解除される解放位置とに切り替え可能に設けられている。第2スリーブ27は、入力軸11と第2ドライブギア15とが一体に回転するように第2ドライブギア15と噛み合う2速位置と、入力軸11と第3ドライブギア17とが一体に回転するように第3ドライブギア17と噛み合う3速位置と、第2ドライブギア15及び第3ドライブギア17のいずれとも噛み合わない解放位置とに切り替え可能に設けられている。第3スリーブ28は、入力軸11と第4ドライブギア19とが一体に回転するように第4ドライブギア19と噛み合う4速位置と、入力軸11と第5ドライブギア21とが一体に回転するように第5ドライブギア21と噛み合う5速位置と、第4ドライブギア19及び第5ドライブギア21のいずれとも噛み合わない解放位置とに切り替え可能に設けられている。なお、図示は省略したが入力軸11には、第1〜第3スリーブ26〜28と第1〜第5ドライブギア13、15、17、19、21とを噛み合わせる際にこれらの回転を同期させる複数のシンクロ機構が設けられている。これらシンクロ機構には、摩擦係合により回転を同期させるシンクロ機構、例えば周知のキー式シンクロメッシュ機構を用いればよい。そのため、シンクロ機構の詳細な説明は省略する。
【0018】
第4スリーブ29は、中間ギア24を回転可能に支持している。中間ギア24は、第4スリーブ29とともに軸線方向に移動する。第4スリーブ29は、中間ギア24が後進ドライブギア23及び後進ドリブンギア25のそれぞれと噛み合うリバース位置と、中間ギア24と各ギア23、25との噛み合いが解除される解放位置とに切り替え可能に設けられている。
【0019】
この図に示すように入力軸11には、クラッチ手段としてのクラッチ30を介してエンジン2が接続されている。クラッチ30は、エンジン2の出力軸2bと一体に回転する第1係合部材30aと、入力軸11と一体に回転する第2係合部材30bとを備えている。クラッチ30は、第1係合部材30aと第2係合部材30bとが摩擦係合してエンジン2と変速機10との間で動力が伝達される係合状態と、第1係合部材30aと第2係合部材30bとが離間してその動力伝達が遮断される解放状態とに切り替えることが可能な周知の摩擦式のクラッチとして構成されている。車両1には、運転者が足で操作する複数のペダルが設けられている。図2に示すように複数のペダルとしては、アクセルペダルAP、ブレーキペダルBP、及びクラッチペダルCPが設けられている。クラッチ30はクラッチペダルCPにて操作される。クラッチ30は、クラッチペダルCPが踏まれた場合に解放状態に切り替わり、その踏み込みが解除されると係合状態に切り替わる。これら解放状態と係合状態との間における第1係合部材30aと第2係合部材30bとの係合の度合い(以下、係合度合いと称することがある。)は、クラッチペダルCPの踏み込み量θに応じて変化する。係合度合いは、クラッチ30が係合状態において最大になり、解放状態において最小になる。そのため、踏み込み量θが大きくなるに従って係合度合いは小さくなる。このようにクラッチペダルCPの踏み込み量θとクラッチ30の係合度合いは関係を有している。なお、アクセルペダルAP及びブレーキペダルBPは一般に車両に設けられる周知のものである。そのため、これらの説明を省略する。
【0020】
MG3のロータ軸3aには、ドライブギア31が一体に回転するように設けられている。出力軸12には、ドライブギア31と噛み合うドリブンギア32が一体に回転するように設けられている。これらのギア31、32は常時噛み合い式のギア対として構成されている。これによりMG3と出力軸12とが動力伝達可能に接続される。
【0021】
変速機10の各スリーブ26〜29は、運転者が操作するシフトレバー33と接続されている。図3は、シフトレバー33のシフトパターン34を示している。シフトパターン34は、この図の左右方向に延びるセレクト経路35と、そのセレクト経路35から図の上下方向に延びる7つのシフト経路36とを備えている。シフトレバー33は、これらセレクト経路35及び各シフト経路36を移動可能に設けられている。この図に示すように7つのシフト経路36には、1速〜5速、後進R、及びEV走行位置EVが設定されている。なお、1速〜5速については周知のシフトパターンと同様に数字のみを示す。破線で示したようにセレクト経路35には、ニュートラルNが設定されている。なお、これらのうち1速〜5速、後輪R及びEV走行位置EVが本発明の操作位置に相当し、1速〜5速及び後輪Rが本発明の複数のギア段位置に相当する。そして、EV走行位置が本発明のEV位置に相当する。
【0022】
このシフトパターン34において、シフトレバー33が1速に操作された場合、第1スリーブ26が1速位置に、第2〜第4スリーブ27〜29がそれぞれ解放位置に切り替わる。シフトレバー33が2速に操作された場合、第2スリーブ27が2速位置に、第1、第3、第4スリーブ26、28、29がそれぞれ解放位置に切り替わる。シフトレバー33が3速に操作された場合、第2スリーブ27が3速位置に、第1、第3、第4スリーブ26、28、29がそれぞれ解放位置に切り替わる。シフトレバー33が4速に操作された場合、第3スリーブ28が4速位置に、第1、第2、第4スリーブ26、27、29がそれぞれ解放位置に切り替わる。シフトレバー33が5速に操作された場合、第3スリーブ28が5速位置に、第1、第2、第4スリーブ26、27、29がそれぞれ解放位置に切り替わる。シフトレバー33が後進Rに操作された場合、第4スリーブ29がリバース位置に、第1〜第3スリーブ26〜28がそれぞれ解放位置に切り替わる。シフトレバー33がEV走行位置EV又はニュートラルNに操作された場合、第1〜第4スリーブ26〜29が解放位置に切り替わる。この場合、入力軸11と出力軸12との間の動力伝達が遮断される。以降、この状態をニュートラル状態と称する。このようにシフトレバー33と各スリーブ26〜29とは連動するように接続されている。そのため、変速機10は運転者がシフトレバー33を操作して変速を行う、いわゆるマニュアル式の変速機として構成されている。
【0023】
この車両1では、エンジン2及びMG3の動作を制御することにより複数の走行モードが実現される。複数の走行モードとしては、例えばエンジン2の動力で走行する内燃機関走行モード及びMG3の動力のみで走行するEV走行モード等が設定されている。内燃機関走行モードは、シフトレバー33が1速〜5速又は後進Rに操作された場合に実行される。EV走行モードは、シフトレバー33がEV走行位置EVに操作された場合に実行される。なお、このEV走行モードが本発明のモータ走行モードに相当する。
【0024】
内燃機関走行モードでは、エンジン2が停止中に場合にはエンジン2を始動して運転状態とする。変速機10は、1速〜5速又は後進Rのうちのいずれかのギア段が選択されている。そのため、エンジン2の回転が変速機10で変速される。駆動輪5は変速されたエンジン2の動力で駆動される。EV走行モードでは、シフトレバー33がEV走行位置EVに操作されるため上述したように第1〜第4スリーブ26〜29が解放位置に切り替えられる。また、エンジン2を停止させる。そして、MG3を電動機として機能させ、MG3の動力で駆動輪5を駆動する。
【0025】
エンジン2及びMG3の動作は、制御装置50にて制御される。制御装置50は、マイクロプロセッサ及びその動作に必要なRAM、ROM等の周辺機器を含んだコンピュータユニットとして構成されている。制御装置50は、車両1を適切に走行させるための各種制御プログラムを保持している。制御装置50は、これらのプログラムを実行することによりエンジン2及びMG3等の制御対象に対する制御を行っている。制御装置50は、例えばエンジン2の運転中に所定のアイドルストップ条件が成立した場合にはエンジン2を停止させる、いわゆるアイドルストップ制御を行う。なお、アイドルストップ条件は、例えば車両1の速度が0であり、かつその状態が所定時間継続した場合等に成立したと判定される。制御装置50には、車両1に係る情報を取得するための種々のセンサが接続されている。例えば、クラッチペダルCPの踏み込み量θに対応した信号を出力するクラッチペダルセンサ51、駆動輪5の回転速度に対応した信号を出力する車輪速センサ52及び入力軸11の回転数に対応した信号を出力する入力軸回転数センサ53等が接続されている。また、図3に示すように制御装置50には、シフトレバー33がニュートラルNにあるか否かに対応した信号を出力するニュートラルセンサ54及びシフトレバー33がEV走行位置EVにあるか否かに対応した信号を出力するEV走行センサ55も接続されている。この他にも制御装置50には種々のセンサが接続されているが、それらの図示は省略した。
【0026】
制御装置50は、エンジン2のエンストが発生した場合にエンジン2が再始動されるようにスタータ2aの動作を制御する。図4は、制御装置50がこのようなエンジン2の再始動を実現するために実行する再始動制御ルーチンを示している。この制御ルーチンは、車両1の走行状態に拘わりなく所定の周期で繰り返し実行される。また、この制御ルーチンは、制御装置50が実行する他のルーチンと並行に実行される。この制御ルーチンを実行することにより制御装置50及びスタータ2aが本発明の再始動手段として機能する。
【0027】
この制御ルーチンにおいて制御装置50は、まずステップS11で車両1の状態を取得する。走行状態としては、例えば駆動輪5の回転速度、すなわち車両1の速度(車速)、入力軸11の回転数及び現在選択されているギア段等が取得される。ギア段は、例えばシフトパターン34の各ギア段のシフト経路36にセンサを設けて取得すればよい。また、車速に基づいて算出した出力軸12の回転数と入力軸11の回転数との比と各ギア段の変速比とを比較し、その比較結果から選択されているギア段を推定してもよい。次のステップS12において制御装置50は、運転者の意図しないエンストが発生したか否か判定する。なお、意図しないエンストとは運転者がクラッチペダルCPやシフトレバー33等の操作を失敗したことにより発生したエンジン2の停止のことである。そのため、イグニッションキーのオフへの切り替えやアイドルストップ制御によるエンジン2の停止は意図しないエンストではない。そのため、このような予め定められた条件が不成立にも拘わらずエンジン2が停止した場合に意図しないエンストと判定すればよい。意図しないエンストが発生していないと判定した場合はステップS11に戻る。
【0028】
一方、意図しないエンストが発生したと判定した場合にはステップS13に進み、制御装置50は現在選択されているギア段がエンジン2の動力で車両1を発進させるときに使用されるギア段(以降、発進時使用ギア段と称することがある。)か否か判定する。発進時使用ギア段としては、例えば1速、2速及び後進Rが設定される。現在選択されているギア段が発進時使用ギア段ではないと判定した場合はステップS14に進み、制御装置50は車速履歴が有るか否か判定する。車速履歴は、制御装置50が実行する他のルーチンにて設定される。車速履歴は、車速が予め設定した所定の閾値より大きくなるとオンに切り替えられ、エンジン2が始動されたときにオフに切り替えられる。制御装置50は、車速履歴がオンの場合に車速履歴が有ると判定し、オフの場合には車速履歴が無いと判定する。
【0029】
車速履歴が有ると判定した場合にはステップS15に進み、制御装置50はクラッチ30が解放状態であり、かつアクセルペダルAPが踏み込まれているか否か判定する。クラッチ30が係合状態又はアクセルペダルAPが踏み込まれていないと判定した場合にはステップS16に進み、制御装置50はクラッチ30の係合度合いが予め設定した第1判定値αより大きいか否か判定する。第1判定値αは、エンジン2と変速機10との間で動力が伝達されるか否か判定する基準として設定されている。そのため、第1判定値αには係合度合いの最大値よりも少し小さい値が設定される。なお、上述したように係合度合いは踏み込み量θと関係しているので、クラッチペダルセンサ51の出力信号に基づいて算出すればよい。エンスト時にクラッチ30の係合度合いが大きい場合には、運転者はエンジン2で車両1を発進させる意図が無かったと考えられる。
【0030】
クラッチ30の係合度合いが第1判定値αより大きいと判定した場合にはステップS17に進み、制御装置50はシフトレバー33がエンストが発生したときのギア段から内燃機関走行モードで選択されるギア段、すなわち1速〜5速又は後進R(以降、これらをエンジンギア段と称することがある。)にシフトチェンジされたか否か判定する。この判定は、ニュートラルセンサ54の出力信号及びEV走行センサ55の出力信号に基づいて行えばよい。例えば、ニュートラルセンサ54の出力信号が一旦オンに切り替わり、その後ニュートラルセンサ54及びEV走行センサ55の両方のセンサの出力信号がオフになった場合に、エンジンギア段にシフトチェンジされたと判定できる。エンジンギア段にシフトチェンジされていないと判定した場合には、エンジンギア段にシフトチェンジされるまでこの処理を繰り返し実行する。すなわち、この処理は運転者が内燃機関走行モードを選択するまで繰り返し実行される。一方、エンジンギア段にシフトチェンジされたと判定した場合にはステップS18に進み、制御装置50はスタータ2aにてエンジン2を始動する。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0031】
ステップS13が肯定判定された場合、ステップS14が否定判定された場合、ステップS15が肯定判定された場合又はステップS16が否定判定された場合はステップS19に進み、制御装置50はクラッチ30の係合度合いが予め設定した第2判定値β未満か否か判定する。第2判定値βは、クラッチ30が解放状態に切り替えられたか否か判定する基準として設定されている。そのため、第2判定値βには係合度合いの最小値よりも少し大きい値が設定される。従って第2判定値βは、第1判定値αよりも小さい値が設定される。係合度合いが第2判定値β以上と判定した場合には係合度合いが第2判定値β未満になるまでこの処理を繰り返し実行する。すなわち、この処理は運転者がクラッチペダルCPでクラッチ30を解放状態に切り替えるまで繰り返し実行される。一方、係合度合いが第2判定値β未満と判定した場合にはステップS20に進み、制御装置50はスタータ2aにてエンジン2を始動する。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0032】
以上に説明したように、本発明の制御装置によれば、エンストした場合に、シフトレバー33が発進時使用ギア段以外のギア段の位置にあり、かつクラッチ30の係合度合いが第1判定値αより大きい場合には、シフトレバー33がエンスト時のギア段からエンジンギア段にシフトチェンジされるまでエンジン2の再始動が禁止される。このような状態は、例えば運転者がシフトレバー33をEV走行位置EVの位置に操作したつもりが実際にはシフトレバー33が3速の位置に操作されており、かつそのままアクセルペダルAPを踏み込んだ場合等に発生する。この場合、エンスト後に運転者はシフトレバー33をEV走行位置EVの位置にシフトチェンジし、EV走行モードで車両1を走行させると考えられる。そのため、エンジン2の再始動を禁止することで、無駄なエンジン2の再始動を防止できる。また、これにより燃費を改善できる。一方、エンジン2の再始動を禁止中にシフトレバー33がエンジンギア段にシフトチェンジされた場合にはエンジン2を始動するので、速やかに内燃機関走行モードに切り替えることができる。なお、図4のステップS14〜S18を実行することにより制御装置50が本発明の再始動禁止手段として機能する。また、第1判定値αが本発明の判定値に相当する。
【0033】
また、本発明の制御装置では、車速履歴が無い場合すなわちエンスト時の車速が閾値以下の場合又はクラッチ30が解放状態であり、かつアクセルペダルAPが踏み込まれた場合には、エンジン2の再始動が許可される。そのため、運転者がエンジン2で車両1を発進させようとしている場合に、エンジン2の再始動が無駄に禁止されることを防止できる。
【0034】
図5及び図6は、制御装置50が実行する再始動制御ルーチンの変形例を示している。なお、図6は図5に続くフローチャートである。この変形例において図4に示した制御ルーチンと同一の処理には同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0035】
この変形例において制御装置50は、まず図5のステップS11で車両1の状態を取得する。次のステップS21において制御装置50は、車速が予め設定した判定車速VH未満か否か判定する。周知のように車速が過度に低くなるとエンストが発生し易くなる。そこで、判定車速VHには、例えばエンストが発生し易くなる車速範囲の上限値が設定される。車速が判定車速VH未満と判定した場合にはステップS22に進み、制御装置50はシフトレバー33がニュートラルNの位置にあるか否か判定する。シフトレバー33がニュートラルNの位置に無いと判定した場合にはステップS23に進み、クラッチ30の係合度合いが第1判定値α未満か否か判定する。なお、この第1判定値αは上述したステップS15の第1判定値αである。係合度合いが第1判定値α以上と判定した場合にはステップS24に進み、制御装置50はエンジン2の再始動を禁止する再始動待ちフラグをオンに切り替える。
【0036】
ステップS21が否定判定された場合又はステップS22が肯定判定された場合にはステップS25に進み、制御装置50は再始動待ちフラグをオフに切り替える。
【0037】
ステップS24又はステップS25で再始動待ちフラグが設定された後又はステップS23が肯定判定された場合はステップS12に進み、制御装置50は運転者の意図しないエンストが発生したか否か判定する。意図しないエンストが発生していないと判定した場合はステップS11に戻る。一方、意図しないエンストが発生したと判定した場合は図6のステップS13に進み、制御装置50はステップS15まで上述した図4の制御ルーチンと同様に処理を進める。ステップS15が否定判定された場合はステップS26に進み、制御装置50は再始動待ちフラグがオンか否か判定する。再始動待ちフラグがオンの場合にはステップS17に進み、制御装置50は以降図4の制御ルーチンと同様に処理を進める。一方、再始動待ちフラグがオフの場合にはステップS19に進み、制御装置50は以降図4の制御ルーチンと同様に処理を進める。
【0038】
周知のように車速を高くしたりシフトレバー33をニュートラルNの位置に操作したりすることにより、エンストを回避することができる。この変形例では、運転者の意図しないエンストが発生する直前に運転者がこのようなエンストを回避する操作をしたか否か判定し、エンストを回避する操作をしなかったと判定した場合にエンジン2の再始動を禁止する。運転者がエンストを回避する操作をしなかった場合には内燃機関走行モードが選択される可能性は低いと考えられる。そのため、このようにエンジン2の再始動を禁止することにより、エンジン2の無駄な再始動を防止できる。
【0039】
本発明は、上述した形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。例えば、本発明が適用される車両の変速機は最高段が5速の変速機に限定されない。例えば4速又は6速等の5速以外のギア段が最高段の変速機であってもよい。また、複数のスリーブは全て入力軸に設けられていなくてもよい。例えば、複数のスリーブの一部が入力軸に設けられ、残りのスリーブが出力軸に設けられていてもよい。
【0040】
本発明は、モータ・ジェネレータの代わりに電動モータが搭載されたハイブリッド車両に適用してもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 車両
2 内燃機関
2a スタータ(再始動手段)
3 モータ・ジェネレータ(電動モータ)
5 駆動輪
10 変速機
11 入力軸
12 出力軸
30 クラッチ(クラッチ手段)
33 シフトレバー
50制御装置(再始動手段、再始動禁止手段)
α 第1判定値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに大きさが異なる変速比が設定された複数のギア段を有し、シフトレバーの操作にてギア段が切り替えられるマニュアル式の変速機と、前記変速機の入力軸とクラッチ手段を介して接続された内燃機関と、前記変速機の出力軸と動力伝達可能に接続された駆動輪と、前記駆動輪を駆動可能に設けられた電動モータと、を備え、
前記電動モータの動力のみで前記駆動輪を駆動するモータ走行モードを実現可能であり、
前記シフトレバーが操作される操作位置には、前記変速機の各ギア段に対応する複数のギア段位置及び前記モータ走行モードを選択するEV位置が含まれている車両に適用され、
前記内燃機関のエンストが発生した場合に前記内燃機関を再始動する再始動手段を備えた制御装置において、
前記再始動手段は、前記内燃機関のエンストが発生したときに前記シフトレバーが前記車両の発進時に使用されるギア段に対応するギア段位置以外の操作位置にあり、かつ前記クラッチ手段の係合度合いが所定の判定値より大きい場合には、前記内燃機関の再始動を禁止する再始動禁止手段を備えている車両の制御装置。
【請求項2】
前記再始動禁止手段は、前記内燃機関の再始動を禁止しているときに前記シフトレバーが前記複数のギア段位置のいずれかに操作された場合に、前記内燃機関の再始動を許可する請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記再始動禁止手段は、前記内燃機関のエンストが発生したときに前記車両の速度が予め設定した所定の閾値以下の場合に、前記内燃機関の再始動を許可する請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記再始動禁止手段は、前記クラッチ手段が前記変速機の入力軸と前記内燃機関とが切り離される解放状態であり、かつ前記車両のアクセルペダルが踏み込まれた場合に、前記内燃機関の再始動を許可する請求項1〜3のいずれか一項に記載の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−113209(P2013−113209A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260054(P2011−260054)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】