説明

車両の制御装置

【課題】運転者の加速の意図に反したトルクの抑制を抑え、ドライバビリティーの悪化を抑制することのできる車両の制御装置を提供する。
【解決手段】電子制御ユニット2は、イグニッションスイッチ6がオンとされてからの経過時間が既定時間よりも短いことを実行条件として、強いアクセル操作時にエンジントルクを低減するトルク抑制制御を実行することで、上記経過時間が短く、車両が未だ駐車場内を走行していて、運転者が急な加速を意図したアクセル操作を行うことが余りないときに限り、トルク抑制制御を行う一方で、上記経過時間がある程度長くなり、車両が一般道を走行していることが考えられるときには、トルク抑制制御を行わず、運転者の意図に即した車両の加速が許容されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強い、あるいは大きいアクセル操作時に駆動源の発生するトルクを低減するトルク抑制制御を行う車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1には、変速機のギア比が大きく、かつアクセルペダルの踏力及び踏み込み速度が大きいときに、エンジントルクを低減するトルク抑制制御を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−190135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、交差点での信号待ちからの発進時のように、運転者が急加速を意図して強いアクセルペダルの踏み込みを行うことがある。その点、上記従来の技術では、そうした場合にも一律にエンジントルクが低減されてしまうため、運転者が意図した加速を行えず、ドライバビリティーが悪化してしまう。
【0005】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、運転者の加速の意図に反したトルクの抑制を抑え、ドライバビリティーの悪化を抑制することのできる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、強い、あるいは大きいアクセル操作時に駆動源の発生するトルクを低減するトルク抑制制御を行う車両の制御装置としての請求項1に記載の発明は、イグニッションスイッチがオンとされてからの経過時間に応じてトルク抑制制御の制御態様を変更するようにしている。
【0007】
イグニッションスイッチがオンとされてからしばらくは、車両は駐車場内を走行しており、この間に運転者は急な加速を意図することは余りないと考えられる。一方、イグニッションスイッチがオンとされてからある程度の時間が経過した後は、車両が一般道を走行していることが考えられ、このときには、運転者が急な加速を意図してアクセル操作を行うことがある。このように、運転者が急な加速を意図してアクセル操作を行うか否かは、イグニッションスイッチがオンとされてからの経過時間からある程度に判断することができる。その点、上記構成では、イグニッションスイッチがオンとされてからの経過時間に応じてトルク抑制制御の制御態様を変更するようにしている。そのため、運転者が急な加速を意図してアクセル操作を行うかどうかを考慮して、トルク抑制制御の制御態様を、例えばトルク抑制制御でのトルクの低減量や同制御の実行条件などを設定することができる。そのため、運転者の加速の意図に反したトルクの抑制を抑え、ドライバビリティーの悪化を抑制することができる。
【0008】
上記のように、イグニッションスイッチがオンとされてからしばらくは、車両は駐車場内を走行しており、この間に運転者は急な加速を意図することは余りないと考えられる。そのため、この間にトルク抑制制御によって、トルクを大きく低減しても、運転者の加速の意図を阻害することにはならず、ドライバビリティーは悪化されないようになる。したがって、請求項2によるように、上記経過時間が長いときには、同経過時間が短いときに比して、トルク抑制制御でのトルクの低減量を小さくするようにしたり、請求項3によるように、上記経過時間が既定時間よりも短いことを、トルク抑制制御の実行条件としたりすれば、運転者の加速の意図に反したトルクの抑制が抑えられるようになる。
【0009】
またトルク抑制制御の実行条件を変えることでも、トルク抑制制御によるトルク抑制を抑えることができる。そのため、請求項4によるように、上記経過時間に応じてトルク抑制制御の実行条件を変更することでも、運転者の加速の意図に反したトルクの抑制が抑えることができる。例えば請求項5によるように、イグニッションスイッチがオンとされてからの経過時間が長いほど、トルク抑制制御が実行され難くなるようにその実行条件を変更すれば、車両が未だ駐車場内を走行している間は、積極的にトルク抑制制御を行い、車両が一般道を走行し始めてからは、トルク抑制制御が行われ難くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施の形態にかかる車両の制御装置の構成を模式的に示す略図。
【図2】同実施の形態の車両の制御装置における通常時とトルク抑制制御時とのそれぞれにおけるアクセル操作量とエンジントルクとの関係を示すグラフ。
【図3】同実施の形態に適用されるトルク抑制制御ルーチンのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の車両の制御装置を具体化した一実施の形態を、図1〜図3を参照して詳細に説明する。
まず、図1を参照して本実施の形態の車両の制御装置の構成を説明する。同図に示すように、本実施の形態の車両の制御装置は、車両の駆動源であるエンジン1の制御を司る電子制御ユニット2を中心に構成されている。電子制御ユニット2は、エンジン制御のための各種演算処理を行う中央演算処理装置(CPU)、エンジン制御用のプログラムやデータが記憶された読込専用メモリー(ROM)、CPUの演算結果やセンサーの検出結果等を一時的に記憶するランダムアクセスメモリー(RAM)を備えている。こうした電子制御ユニット2には、車速を検出する車速センサー3、アクセル操作量を検出するアクセルポジションセンサー4、ブレーキ油圧を検出するブレーキ圧センサー5、車両の起動時にオンとされるイグニッションスイッチ6などのセンサー、スイッチが接続されている。
【0012】
電子制御ユニット2は、エンジン制御の一環として、トルク抑制制御を実施する。トルク抑制制御は、エンジントルクを通常よりも低減する制御であり、同制御でのエンジントルクの低減は、例えばエンジン1のスロットル開度の縮小や燃料噴射量の減量などにより行われる。具体的には、図2に示すように、トルク抑制制御の実施時には、アクセル操作量が一定以上のときのアクセル踏み込み時のエンジントルクが通常時よりも小さくされるようになっている。
【0013】
本実施の形態では、トルク抑制制御は、以下の条件(イ)〜(ハ)のすべての成立に応じて実行されている。
(イ)車速が既定値vo未満であること。
(ロ)イグニッションスイッチ6がオンとされてからの経過時間が既定時間Ta未満であること。
(ハ)ブレーキが解除されてからの(ブレーキ油圧が低下してからの)時間Δt1が既定値to1を超えていること。すなわち、ブレーキが解除された直後の発進のためのアクセル操作ではないこと。
(ニ)アクセル操作量の立ち上がり時間Δt2が既定値to2未満であり、急激なアクセル操作が、すなわち強いアクセル操作がなされていること。なお、アクセル操作量の立ち上がり時間Δt2は、アクセル操作量が増大され始めてから、アクセル操作量の増大が終わるまでの時間である。
【0014】
こうしたトルク抑制制御は、図3に示すトルク抑制制御ルーチンの処理を通じて行われる。同ルーチンの処理は、電子制御ユニット2によって、既定の制御周期毎に繰り返し実行されるものとなっている。
【0015】
さて本ルーチンが開始されると、まずステップS100において、車速が既定値vo未満であるか否かが判定される。ここで車速が既定値vo以上であれば(S100:NO)、そのまま今回の本ルーチンの処理が終了される。
【0016】
車速が既定値vo未満であれば(S100:YES)、ステップS101において、イグニッションスイッチ6がオンとされてからの経過時間が既定時間Ta未満であるか否かが判定される。ここで上記経過時間が既定時間Ta以上であれば(S101:NO)、そのまま今回の本ルーチンの処理が終了される。
【0017】
上記経過時間が既定時間Ta未満であれば(S101:YES)、ステップS102において、ブレーキ油圧の検出の有無が、すなわちブレーキ操作の有無が確認される。ここでブレーキ油圧の検出がなければ(S102:NO)、ステップS103において、ブレーキ解除からの時間Δt1に定数t1を設定した上で、ステップS104に処理が移行される。一方、ブレーキ油圧の検出があれば(S102:YES)、そのままステップS104に処理が移行される。
【0018】
処理がステップS104に移行されると、そのステップS104において、ブレーキ解除後の時間Δt1が既定値to1を超えているか否かが判定される。ここで既定値to1は、「0」よりも大きく、かつ上記定数t1よりも小さい値に設定されている。そしてブレーキ解除後の時間Δt1が既定値to1以下であれば(S104:NO)、そのまま今回の本ルーチンの処理が終了される。
【0019】
一方、ブレーキ解除後の時間Δt1が既定値to1を超えていれば(S104:YES)、ステップS105において、アクセル操作量の立ち上がり時間Δt2が既定値to2未満であるか否かが判定される。ここでアクセル操作量の立ち上がり時間Δt2が既定値to2以上であれば(S105:NO)、そのまま今回の本ルーチンの処理が終了される。そしてアクセル操作量の立ち上がり時間Δt2が既定値to2未満であり、急激なアクセル操作がなされたのであれば(S105:YES)、ステップS106において、トルク抑制制御が実施される。
【0020】
続いて、こうした本実施の形態の車両の制御装置の作用について説明する。
イグニッションスイッチ6がオンとされてからしばらくは、車両は駐車場内を走行しており、この間に運転者は急な加速を意図することは余りないと考えられる。一方、イグニッションスイッチ6がオンとされてからある程度の時間が経過した後は、車両が一般道を走行していることが考えられ、このときには、運転者が急な加速を意図してアクセル操作を行うことがある。その点、本実施の形態では、イグニッションスイッチ6がオンとされてからの経過時間が既定時間Ta未満であるときにトルク抑制制御が実施される。そのため、この間にトルク抑制制御によって、エンジントルクを低減しても、運転者の加速の意図を阻害することにはならず、ドライバビリティーは悪化されないようになる。一方、車両が一般道を走行するようになってからは、強いアクセル操作を行っても、トルク抑制制御は実施されず、運転者の意図に即した車両を加速が許容される。したがって、交差点での信号待ちからの発進も、もたつくことなく行うことができるようになる。
【0021】
以上の本実施の形態の車両の制御装置によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本実施の形態では、イグニッションスイッチ6がオンとされてからの経過時間が既定時間Taよりも短いことを、トルク抑制制御の実行条件としている。したがって、本実施の形態によれば、運転者の加速の意図に反したトルクの抑制を抑え、ドライバビリティーの悪化を抑制することができる。
【0022】
なお、上記実施の形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・上記実施の形態では、上記条件(イ)〜(ニ)のすべての成立を、トルク抑制制御の実行条件としていたが、イグニッションスイッチ6がオンとされてからの経過時間が既定時間Ta未満であることが条件に含まれていれば、その実行条件は適宜に変更しても良い。
【0023】
・上記実施の形態では、既定時間Taを境として、トルク抑制制御の実行の有無を切り換えるようにしていたが、イグニッションスイッチ6がオンとされてからの経過時間が長いときには、同経過時間が短いときに比して、トルク抑制制御でのエンジントルクの低減量を小さくするようにしても良い。この場合にも、上記経過時間が短いときには、トルク抑制制御による大幅なエンジントルクの低減が行われるが、このときには運転者が急な加速を意図して強いアクセル操作を行う可能性は少なく、大幅なエンジントルクの低減を行っても、運転者の加速の意図を阻害することにはならない。一方、イグニッションスイッチ6がオンとされてからの経過時間が長いときには、トルク抑制制御でのエンジントルクの低減量は小さくなり、ある程度の加速が許容されることから、運転者の意図に即した加速を行うことが許容される。したがって、こうした場合にも、運転者の加速の意図に反したトルクの抑制を抑え、ドライバビリティーの悪化を抑制することができる。
【0024】
・上記実施の形態では、アクセル操作量の立ち上がり時間Δt2が既定値to2未満であることをもって、強いアクセル操作がなされたことを確認してトルク抑制制御を実行するようにしていた。もっとも、強いアクセル操作の確認は、アクセル操作力(アクセルペダルの踏力)やアクセル操作速度(アクセルペダルの踏み込み速度)に基づいて行うこともできる。また大きいアクセル操作に応じて、すなわちアクセル操作量が既定値よりも大きいことに応じてトルク抑制制御を実行するようにしても良い。
【0025】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の車両の制御装置を具体化した第2の実施の形態について説明する。なお本実施の形態にあって、上記実施の形態と共通する構成については、同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0026】
本実施の形態では、イグニッションスイッチ6がオンとされてからの経過時間に応じてトルク抑制制御の実行条件を変更するようにしている。この実行条件の変更は、上記経過時間が長いほど、トルク抑制制御が実行され難くなるように行われる。
【0027】
例えばアクセル操作量の立ち上がり時間Δt2が既定値to2未満であることをトルク抑制制御の実行条件に含める場合には、イグニッションスイッチ6がオンとされてからの経過時間が長いほど、既定値to2を小さくすることで、トルク抑制制御が実行され難くなるようにその実行条件の変更を行うことができる。
【0028】
また、アクセル操作量(アクセルペダルの踏み込み量)、アクセル操作力(アクセルペダルの踏力)、あるいはアクセル操作速度(アクセルペダルの踏み込み速度)が既定値を超えていることをトルク抑制制御の実行条件に含めることも考えられる。こうした場合には、イグニッションスイッチ6がオンとされてからの経過時間が長いほど、上記既定値を大きい値に設定することで、トルク抑制制御が実行され難くなるようにその実行条件の変更を行うことができる。
【0029】
こうした本実施の形態では、イグニッションスイッチ6がオンとされてからの経過時間が長いほど、トルク抑制制御が実行され難くなる。上記経過時間が短い場合には、車両は駐車場内を走行しており、運転者が急な加速を意図してアクセル操作を行うことは余りないと考えられるため、トルク抑制制御が実行されてエンジントルクが低減されても、運転者の加速の意図を阻害することにはならない。一方、イグニッションスイッチ6がオンとされてからある程度の時間が経過した後は、車両が一般道を走行していることが考えられ、このときには、運転者が急な加速を意図してアクセル操作を行うことがあるが、このときにはトルク抑制制御の実行が抑えられるため、運転者の加速の意図に反したエンジントルクの抑制が抑えられるようになる。
【0030】
本実施の形態の車両の制御装置によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本実施の形態では、イグニッションスイッチ6がオンとされてからの経過時間に応じてトルク抑制制御の実行条件を変更するようにしている。具体的には、上記経過時間が長いほど、トルク抑制制御が実行され難くなるようにその実行条件を変更している。そのため、運転者の加速の意図に反したトルクの抑制を抑えて、ドライバビリティーの悪化を抑制することができる。
【0031】
上記実施の形態は、次のように変更して実施することもできる。
・上記実施の形態では、エンジントルクを低減することでトルク抑制制御を行うようにしていた。もっとも、モータを駆動源として備えるハイブリッド車両や電気車両では、モーターの発生するトルクを低減することで、トルク抑制制御を行うようにすることもできる。
【符号の説明】
【0032】
1…エンジン(駆動源)、2…電子制御ユニット、3…車速センサー、4…アクセルポジションセンサー、5…ブレーキ圧センサー、6…イグニッションスイッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強い、あるいは大きいアクセル操作時に駆動源の発生するトルクを低減するトルク抑制制御を行う車両の制御装置において、
イグニッションスイッチがオンとされてからの経過時間に応じて前記トルク抑制制御の制御態様を変更する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記経過時間が長いときには、同経過時間が短かいときに比して、前記トルク抑制制御での前記トルクの低減量を小さくする
請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記経過時間が既定時間よりも短いことを、前記トルク抑制制御の実行条件とする
請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記経過時間に応じて前記トルク抑制制御の実行条件を変更する
請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記経過時間が長いほど、前記トルク抑制制御が実行され難くなるようにその実行条件を変更する
請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−29048(P2013−29048A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164453(P2011−164453)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】