車両の制振制御装置
【課題】制振制御に起因して発生し得る音を小さくしつつ、エンジンの出力トルクに起因して発生し得る振動を低減する。
【解決手段】ECUは、エンジンの出力トルクに応じてモータジェネレータの出力トルクを制御することによって、エンジンの出力トルクに起因した振動を打ち消し、低減する制振制御を、所定時間ΔTの間実行する。停車時にクランキング後において制振制御を実行する時間ΔT1は、走行中にクランキング後において制振制御を実行する時間ΔT2よりも長い。
【解決手段】ECUは、エンジンの出力トルクに応じてモータジェネレータの出力トルクを制御することによって、エンジンの出力トルクに起因した振動を打ち消し、低減する制振制御を、所定時間ΔTの間実行する。停車時にクランキング後において制振制御を実行する時間ΔT1は、走行中にクランキング後において制振制御を実行する時間ΔT2よりも長い。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制振制御装置に関し、特に、エンジンの出力トルクに起因して生じる振動を低減するための制振制御を実行する期間を変更する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンに加えて、電動モータを駆動源として搭載したハイブリッド車が知られている。ハイブリッド車は、電気自動車の一種として分類される場合もある。ハイブリッド車は、エンジンを停止したまま電動モータのみを用いて走行することが可能である。このような態様でハイブリッド車が走行した場合、エンジンから出力されるトルクがないため、車両において生じる振動が非常に小さい。しかしながら、たとえばエンジンを始動する場合などには、エンジンの出力トルクの変動が大きいため、エンジンの出力トルクに起因して車両において生じる振動が大きくなり得る。このような振動は乗員に不快感を与え得る。
【0003】
そこで、特開2008−24022号公報(特許文献1)に記載のように、エンジンの出力トルクに応じて電動モータの出力トルクを制御することによって、エンジンの出力トルクに起因した振動を打ち消し、低減する制振制御が実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−24022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、制振制御によって振動を効果的に低減できる一方で、車両の共振周波数と電動モータの回転により発生する一次振動の周波数とが一致すると、電動モータから出力される制振トルクによって逆に車両が加振される。そのため、音が発生し得る。
【0006】
本発明は、上述の課題を鑑みてなされたものであって、その目的は、制振制御により発生した音による不快感を低減しつつ、振動を低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明において、車両の制振制御装置は、エンジンが出力するトルクに起因して生じる振動を低減するためのトルクを出力するための制振制御手段と、制振制御手段により振動を低減するためのトルクを出力する期間を、車速に応じて変更するための変更手段とを備える。
【0008】
この構成によると、たとえば、車両の走行に伴って発生する振動が小さい車速においては、エンジンから出力されるトルクに起因して発生する振動を乗員が感じやすいため、振動を低減するためのトルクを出力する期間を長くする一方で、別の車速においては制振制御に起因して発生する音を低減すべく、振動を低減するためのトルクを出力する期間が短くされる。これにより、制振制御により発生した音による不快感を低減しつつ、振動を低減することができる。
【0009】
第2の発明において、変更手段は、車速が低いほど、制振制御手段により振動を低減するためのトルクを出力する期間を長くする。
【0010】
この構成によると、低車速領域においては、車両の走行に伴って発生する振動が小さく、エンジンから出力されるトルクに起因して発生する振動を乗員が感じやすいため、振動を低減するためのトルクを出力する期間を長くする一方で、高車速領域においては制振制御に起因して発生する音を低減すべく、振動を低減するためのトルクを出力する期間が短くされる。
【0011】
第3の発明において、変更手段は、停車中は、走行中に比べて、制振制御手段により振動を低減するためのトルクを出力する期間を長くする。
【0012】
この構成によると、停車時は、車両の走行に伴って発生する振動が小さく、エンジンから出力されるトルクに起因して発生する振動を乗員が感じやすいため、振動を低減するためのトルクを出力する期間を長くする一方で、走行中は、制振制御に起因して発生する音を低減すべく、振動を低減するためのトルクを出力する期間が短くされる。
【0013】
第4の発明において、制振制御手段は、エンジンのクランキング後に、振動を低減するためのトルクを予め定められた期間出力する。
【0014】
この構成によると、エンジンを始動した直後において発生し得る振動を低減できる。
第5の発明において、制振制御手段は、エンジンを停止するための処理の実行中に、振動を低減するためのトルクを予め定められた期間出力する。
【0015】
この構成によると、エンジンを停止するための処理の実行中に発生し得る振動を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】車両の全体ブロック図である。
【図2】動力分割装置の共線図を示す図である。
【図3】クランキング後に制振制御が実行される期間を示す図である。
【図4】エンジンの停止処理中に制振制御が実行される期間を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号が付されている。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返されない。
【0018】
図1を参照して、本実施の形態に係る車両1の全体ブロック図が説明される。車両1は、エンジン10と、駆動軸16と、第1モータジェネレータ(以下、第1MGと記載する)20と、第2モータジェネレータ(以下、第2MGと記載する)30と、動力分割装置40と、減速機58と、PCU(Power Control Unit)60と、バッテリ70と、駆動輪80と、スタートスイッチ150と、制動装置151と、ECU(Electronic Control Unit)200とを含む。
【0019】
この車両1は、エンジン10および第2MG30の少なくとも一方から出力される駆動力によって走行する。エンジン10が発生する動力は、動力分割装置40によって2経路に分割される。2経路のうちの一方の経路は減速機58を介して駆動輪80へ伝達される経路であり、他方の経路は第1MG20へ伝達される経路である。
【0020】
第1MG20および第2MG30は、たとえば、三相交流回転電機である。第1MG20および第2MG30は、PCU60によって駆動される。
【0021】
第1MG20は、動力分割装置40によって分割されたエンジン10の動力を用いて発電してPCU60を経由してバッテリ70を充電するジェネレータとしての機能を有する。また、第1MG20は、バッテリ70からの電力を受けてエンジン10の出力軸であるクランク軸を回転させる。これによって、第1MG20は、エンジン10を始動するスタータとしての機能を有する。
【0022】
第2MG30は、バッテリ70に蓄えられた電力および第1MG20により発電された電力の少なくともいずれか一方を用いて駆動輪80に駆動力を与える駆動用モータとしての機能を有する。また、第2MG30は、回生制動によって発電された電力を用いてPCU60を経由してバッテリ70を充電するためのジェネレータとしての機能を有する。
【0023】
エンジン10は、たとえば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関である。エンジン10は、複数の気筒102と、複数の気筒102の各々に燃料を供給する燃料噴射装置104とを含む。燃料噴射装置104は、ECU200からの制御信号S1に基づいて、各気筒に対して適切な時期に適切な量の燃料を噴射したり、各気筒に対する燃料の噴射を停止したりする。
【0024】
さらに、エンジン10には、エンジン10のクランク軸の回転速度(以下、エンジン回転速度と記載する)Neを検出するためのエンジン回転速度センサ11が設けられる。エンジン回転速度センサ11は、検出されたエンジン回転速度Neを示す信号をECU200に送信する。
【0025】
動力分割装置40は、駆動輪80を回転させるための駆動軸16、エンジン10の出力軸および第1MG20の回転軸(出力軸)の三要素の各々を機械的に連結する。動力分割装置40は、上述の三要素のうちのいずれか一つを反力要素とすることによって、他の2つの要素間での動力の伝達を可能とする。第2MG30の回転軸(出力軸)は、駆動軸16に連結される。
【0026】
動力分割装置40は、サンギヤ50と、ピニオンギヤ52と、キャリア54と、リングギヤ56とを含む遊星歯車機構である。ピニオンギヤ52は、サンギヤ50およびリングギヤ56の各々と噛み合う。キャリア54は、ピニオンギヤ52を自転可能に支持するとともに、エンジン10のクランク軸に連結される。サンギヤ50は、第1MG20の回転軸に連結される。リングギヤ56は、駆動軸16を介在して第2MG30の回転軸および減速機58に連結される。
【0027】
エンジン10、第1MG20および第2MG30が動力分割装置40によって連結されることにより、第1MG20の回転速度Nm1と、エンジン回転速度Neと、第2MG30の回転速度Nm2とは、図2の共線図上で1本の直線で結ばれる関係を維持するように各要素の回転速度Nm1,Ne,Nm2が変化する。
【0028】
図2に示す共線図の三本の縦軸のうちの左側の縦軸がサンギヤ50の回転速度、すなわち、第1MG20の回転速度Nm1を示す。また、図2に示す共線図の中央の縦軸がキャリア54の回転速度、すなわち、エンジン回転速度Neを示す。また、図2に示す共線図の右側の縦軸がリングギヤ56の回転速度、すなわち、第2MG30の回転速度Nm2を示す。なお、図2の共線図の各縦軸の矢印の方向が正回転方向を示し、矢印の方向と逆方向が負回転方向を示す。
【0029】
一例として、図2の実線に示すように、車両1が、第1MG20の回転速度Nm1がNm1(0)であって、エンジン回転速度NeがNe(0)であって、かつ、第2MG30の回転速度Nm2がNm2(0)であると想定する。
【0030】
停車時または走行時にエンジン10を停止すべく、エンジン10への燃料噴射を停止すると、エンジン回転速度Neはゼロまで低下する。停車時または走行中にエンジンを停止する際には、所定の停止処理が実行される。停止処理においては、エンジン10の回転速度Neがドライブトレーンの共振域内にある期間が短くなるよう、第1MG20によって、エンジン10の回転速度Neが速やかに低下される。また、所定のクランク角においてクランクシャフトを停止するために、第1MG20のトルクが制御される。停止処理はこれらに限定されない。
【0031】
エンジン10を始動させる際には、第1MG20によりエンジン10がクランキングされる。すなわち、第1MG20の回転速度Nm1を引き上げることによって、エンジン回転速度Neが上昇される。クランキングの開始に伴って、エンジン10への燃料噴射ならびに点火が再開される。
【0032】
図1に戻って、減速機58は、動力分割装置40や第2MG30からの動力を駆動輪80に伝達する。また、減速機58は、駆動輪80が受けた路面からの反力を動力分割装置40や第2MG30に伝達する。
【0033】
PCU60は、バッテリ70に蓄えられた直流電力を第1MG20および第2MG30を駆動するための交流電力に変換する。PCU60は、ECU200からの制御信号S2に基づいて制御されるコンバータおよびインバータ(いずれも図示せず)を含む。コンバータは、バッテリ70から受けた直流電力の電圧を昇圧してインバータに出力する。インバータは、コンバータが出力した直流電力を交流電力に変換して第1MG20および/または第2MG30に出力する。これにより、バッテリ70に蓄えられた電力を用いて第1MG20および/または第2MG30が駆動される。また、インバータは、第1MG20および/または第2MG30によって発電される交流電力を直流電力に変換してコンバータに出力する。コンバータは、インバータが出力した直流電力の電圧を降圧してバッテリ70へ出力する。これにより、第1MG20および/または第2MG30により発電された電力を用いてバッテリ70が充電される。なお、コンバータは、省略してもよい。
【0034】
バッテリ70は、蓄電装置であり、再充電可能な直流電源である。バッテリ70としては、たとえば、ニッケル水素やリチウムイオン等の二次電池が用いられる。バッテリ70の電圧は、たとえば200V程度である。バッテリ70は、上述したように第1MG20および/または第2MG30により発電された電力を用いて充電される他、外部電源(図示せず)から供給される電力を用いて充電されてもよい。なお、バッテリ70は、二次電池に限らず、直流電圧を生成できるもの、たとえば、キャパシタ、太陽電池、燃料電池等であってもよい。
【0035】
バッテリ70には、バッテリ70の電池温度TBを検出するための電池温度センサ156と、バッテリ70の電流IBを検出するための電流センサ158と、バッテリ70の電圧VBを検出するための電圧センサ160とが設けられる。
【0036】
電池温度センサ156は、電池温度TBを示す信号をECU200に送信する。電流センサ158は、電流IBを示す信号をECU200に送信する。電圧センサ160は、電圧VBを示す信号をECU200に送信する。
【0037】
スタートスイッチ150は、たとえば、プッシュ式スイッチである。スタートスイッチ150は、キーをキーシリンダに差し込んで所定の位置まで回転させるものであってもよい。スタートスイッチ150は、ECU200に接続される。運転者がスタートスイッチ150を操作することに応じて、スタートスイッチ150は、信号STをECU200に送信する。
【0038】
ECU200は、たとえば、車両1のシステムが停止状態である場合に信号STを受信した場合に、起動指示を受けたと判断して、車両1のシステムを停止状態から起動状態に移行させる。また、ECU200は、車両1のシステムが起動状態である場合に信号STを受信した場合に、停止指示を受けた判断して、車両1のシステムを起動状態から停止状態に移行させる。
【0039】
第1レゾルバ12は、第1MG20の回転速度Nm1を検出する。第1レゾルバ12は、検出された回転速度Nm1を示す信号をECU200に送信する。第2レゾルバ13は、第2MG30の回転速度Nm2を検出する。第2レゾルバ13は、検出された回転速度Nm2を示す信号をECU200に送信する。
【0040】
車輪速センサ14は、駆動輪80の回転速度Nwを検出する。車輪速センサ14は、検出された回転速度Nwを示す信号をECU200に送信する。ECU200は、受信した回転速度Nwに基づいて車速Vを算出する。なお、ECU200は、回転速度Nwに代えて第2MG30の回転速度Nm2に基づいて車速Vを算出するようにしてもよい。
【0041】
制動装置151は、ブレーキアクチュエータ152と、ディスクブレーキ154とを含む。ディスクブレーキ154は、車輪と一体的に回転するブレーキディスクと、油圧を用いてブレーキディスクの回転を制限するブレーキキャリパとを含む。ブレーキキャリパは、ブレーキディスクを回転軸と平行な方向で挟み込むように設けられるブレーキパッドと、油圧をブレーキパッドに伝達するためのホイールシリンダとを含む。ブレーキアクチュエータ152は、ECU200から受信する制御信号S3に基づいて、運転者がブレーキペダルを踏み込むことによって発生する油圧と、ポンプおよび電磁弁等を用いて発生する油圧とを調整してホイールシリンダに供給される油圧を調整する。図1において、制動装置151は、後輪の右側にのみ図示されるが、制動装置151は、各車輪毎に設けられるものとする。
【0042】
ECU200は、エンジン10を制御するための制御信号S1を生成し、その生成した制御信号S1をエンジン10へ出力する。また、ECU200は、PCU60を制御するための制御信号S2を生成し、その生成した制御信号S2をPCU60へ出力する。さらに、ECU200は、ブレーキアクチュエータ152を制御するための制御信号S3を生成し、その生成した制御信号S3をブレーキアクチュエータ152へ出力する。
【0043】
ECU200は、エンジン10およびPCU60等を制御することによって車両1が最も効率よく運行できるようにハイブリッドシステム全体、すなわち、バッテリ70の充放電状態、エンジン10、第1MG20および第2MG30の動作状態を制御する。
【0044】
ECU200は、運転席に設けられたアクセルペダル(図示せず)の踏込み量に対応する要求駆動力を算出する、ECU200は、算出された要求駆動力に応じて、第1MG20および第2MG30のトルクと、エンジン10の出力とを制御する。
【0045】
上述したような構成を有する車両1においては、発進時や低速走行時等であってエンジン10の効率が悪い場合には、第2MG30のみによる走行が行なわれる。また、通常走行時には、たとえば動力分割装置40によりエンジン10の動力が2経路の動力に分けられる。一方の動力で駆動輪80が直接的に駆動される。他方の動力で第1MG20を駆動して発電が行なわれる。このとき、ECU200は、発電された電力を用いて第2MG30を駆動させる。このように第2MG30を駆動させることにより駆動輪80の駆動補助が行なわれる。
【0046】
車両1の減速時には、駆動輪80の回転に従動する第2MG30がジェネレータとして機能して回生制動が行なわれる。回生制動によって回収した電力は、バッテリ70に蓄えられる。なお、ECU200は、蓄電装置の残容量(以下の説明においては、SOC(State of Charge)と記載する)が低下し、充電が特に必要な場合には、エンジン10の出力を増加させて第1MG20による発電量を増加させる。これにより、バッテリ70のSOCが増加させられる。また、ECU200は、低速走行時でも必要に応じてエンジン10からの駆動力を増加させる制御を行なう場合もある。たとえば、上述のようにバッテリ70の充電が必要な場合や、エアコン等の補機が駆動される場合や、エンジン10の冷却水の温度を所定温度まで上げる場合等である。
【0047】
ECU200は、バッテリ70の充電量および放電量を制御する際に、電池温度TBおよび現在のSOCに基づいて、バッテリ70の充電時に許容される入力電力(以下の説明においては、「充電電力上限値Win」と記載する)およびバッテリ70の放電時に許容される出力電力(以下の説明においては、「放電電力上限値Wout」と記載する)を設定する。たとえば、現在のSOCが低下すると、放電電力上限値Woutは徐々に低く設定される。一方、現在のSOCが高くなると、充電電力上限値Winは徐々に低下するように設定される。
【0048】
また、バッテリ70として用いられる二次電池は、低温時に内部抵抗が上昇する温度依存性を有する。また、高温時には、さらなる発熱によって温度が過上昇することを防止する必要がある。このため、電池温度TBの低温時および高温時には、放電電力上限値Woutおよび充電電力上限値Winの各々を低下させることが好ましい。ECU200は、電池温度TBおよび現在SOCに応じて、たとえば、マップ等を用いることによって、充電電力上限値Winおよび放電電力上限値Woutを設定する。
【0049】
本実施の形態においては、車両1の走行中に第1MG20を用いてエンジン10を始動させる場合、第1MG20が発電する電力が充電電力上限値Winよりも小さくなるように、第1MG20のトルクが制限される。
【0050】
さらに、ECU200は、エンジン10の出力トルクに応じて第2MG30の出力トルクを制御することによって、エンジン10の出力トルクに起因した振動を打ち消し、低減する制振制御を実行する。たとえば、第2MG30の出力トルクは、エンジン10の出力トルクと所定のゲインとの積に応じて、振動を打ち消すように制御される。なお、制振制御には周知の一般的な技術を利用すればよいため、ここではその詳細な説明は繰り返さない。
【0051】
たとえば、エンジン10をクランキングした直後は、エンジン10の回転速度Neが低いため、エンジン10のトルク変動が大きい。そのため、エンジン10から出力されたトルクに起因して発生する振動が大きくなり易い。このような振動を低減すべく、本実施の形態においては、図3に示すように、制振制御がクランキング後の所定時間ΔTの間実行される。
【0052】
たとえば、図3に示すように、制振制御が、停車時においてクランキング後の所定時間ΔT1の間実行され、走行中においてクランキング後の所定時間ΔT2の間実行される。
【0053】
より具体的には、シフトレバー(図示せず)を運転者が操作することによって選択されるシフトレンジがパーキングレンジであり、または、車速がしきい値(停車とみなせる速度)以下であり、かつ、クランキングを終了してからの経過時間が所定時間ΔT1以内であると、始動要件による制振制御実行要求フラグがオンにされ、その結果、制振制御が実行される。
【0054】
一方、シフトレンジがパーキングレンジであり、または、車速がしきい値以下であり、かつ、クランキングを終了してからの経過時間が所定時間ΔT1を超えると、始動要件による制振制御実行要求フラグがオフにされる。
【0055】
また、シフトレンジがパーキングレンジ以外であり、または、車速がしきい値より高く、かつ、クランキングを終了してからの経過時間が所定時間ΔT2以内であると、始動要件による制振制御実行要求フラグがオンにされ、その結果、制振制御が実行される。
【0056】
一方、シフトレンジがパーキングレンジ以外であり、または、車速がしきい値より高く、かつ、クランキングを終了してからの経過時間が所定時間ΔT2を超えると、始動要件による制振制御実行要求フラグがオフにされる。
【0057】
図3に示すように、停車時(シフトレンジがパーキングレンジであるか、または車速がしきい値以下である場合)にクランキング後において制振制御を実行する時間ΔT1は、走行中(シフトレンジがパーキングレンジ以外であるか、または車速がしきい値より高い場合)にクランキング後において制振制御を実行する時間ΔT2よりも長い。
【0058】
同様に、エンジン10の停止処理の実行中においても、エンジン10のトルク変動が大きく、車両において発生する振動が大きくなり易いため、図4に示すように、エンジン10の停止処理の実行中においても、制振制御が所定時間ΔTの間実行される。図4に示すように、停車時に停止処理中において制振制御を実行する時間ΔT3は、走行中に停止処理中において制振制御を実行する時間ΔT4よりも長い。
【0059】
図3および図4に示されるように、停車中は、走行中に比べて、制振制御により振動を低減するためのトルクを出力する期間が長くされる。言い換えると、車速が低いほど、制振制御により振動を低減するためのトルクを出力する期間が長くされる。
【0060】
これにより、低車速領域においては、車両の走行に伴って発生する振動が小さく、エンジンから出力されるトルクに起因して発生する振動を乗員が感じやすいため、振動を低減するためのトルクを出力する期間を長くする一方で、高車速領域においては制振制御に起因して発生する音を低減すべく、振動を低減するためのトルクを出力する期間が短くされる。そのため、制振制御により発生した音による不快感を低減しつつ、振動を低減することができる。
【0061】
以上のように、本実施の形態によれば、制振制御により振動を低減するためのトルクを出力する期間が、車速に応じて変更される。たとえば、車両の走行に伴って発生する振動が小さい車速においては、エンジンから出力されるトルクに起因して発生する振動を乗員が感じやすいため、振動を低減するためのトルクを出力する期間を長くする一方で、別の車速においては制振制御に起因して発生する音を低減すべく、振動を低減するためのトルクを出力する期間が短くされる。これにより、制振制御により発生した音による不快感を低減しつつ、振動を低減することができる。
【0062】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0063】
1 車両、10 エンジン、11 エンジン回転速度センサ、12 第1レゾルバ、13 第2レゾルバ、14 車輪速センサ、16 駆動軸、20 第1モータジェネレータ、30 第2モータジェネレータ、40 動力分割装置、50 サンギヤ、52 ピニオンギヤ、54 キャリア、56 リングギヤ、58 減速機、70 バッテリ、80 駆動輪、102 気筒、104 燃料噴射装置、150 スタートスイッチ、156 電池温度センサ、158 電流センサ、160 電圧センサ、200 ECU。
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制振制御装置に関し、特に、エンジンの出力トルクに起因して生じる振動を低減するための制振制御を実行する期間を変更する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンに加えて、電動モータを駆動源として搭載したハイブリッド車が知られている。ハイブリッド車は、電気自動車の一種として分類される場合もある。ハイブリッド車は、エンジンを停止したまま電動モータのみを用いて走行することが可能である。このような態様でハイブリッド車が走行した場合、エンジンから出力されるトルクがないため、車両において生じる振動が非常に小さい。しかしながら、たとえばエンジンを始動する場合などには、エンジンの出力トルクの変動が大きいため、エンジンの出力トルクに起因して車両において生じる振動が大きくなり得る。このような振動は乗員に不快感を与え得る。
【0003】
そこで、特開2008−24022号公報(特許文献1)に記載のように、エンジンの出力トルクに応じて電動モータの出力トルクを制御することによって、エンジンの出力トルクに起因した振動を打ち消し、低減する制振制御が実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−24022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、制振制御によって振動を効果的に低減できる一方で、車両の共振周波数と電動モータの回転により発生する一次振動の周波数とが一致すると、電動モータから出力される制振トルクによって逆に車両が加振される。そのため、音が発生し得る。
【0006】
本発明は、上述の課題を鑑みてなされたものであって、その目的は、制振制御により発生した音による不快感を低減しつつ、振動を低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明において、車両の制振制御装置は、エンジンが出力するトルクに起因して生じる振動を低減するためのトルクを出力するための制振制御手段と、制振制御手段により振動を低減するためのトルクを出力する期間を、車速に応じて変更するための変更手段とを備える。
【0008】
この構成によると、たとえば、車両の走行に伴って発生する振動が小さい車速においては、エンジンから出力されるトルクに起因して発生する振動を乗員が感じやすいため、振動を低減するためのトルクを出力する期間を長くする一方で、別の車速においては制振制御に起因して発生する音を低減すべく、振動を低減するためのトルクを出力する期間が短くされる。これにより、制振制御により発生した音による不快感を低減しつつ、振動を低減することができる。
【0009】
第2の発明において、変更手段は、車速が低いほど、制振制御手段により振動を低減するためのトルクを出力する期間を長くする。
【0010】
この構成によると、低車速領域においては、車両の走行に伴って発生する振動が小さく、エンジンから出力されるトルクに起因して発生する振動を乗員が感じやすいため、振動を低減するためのトルクを出力する期間を長くする一方で、高車速領域においては制振制御に起因して発生する音を低減すべく、振動を低減するためのトルクを出力する期間が短くされる。
【0011】
第3の発明において、変更手段は、停車中は、走行中に比べて、制振制御手段により振動を低減するためのトルクを出力する期間を長くする。
【0012】
この構成によると、停車時は、車両の走行に伴って発生する振動が小さく、エンジンから出力されるトルクに起因して発生する振動を乗員が感じやすいため、振動を低減するためのトルクを出力する期間を長くする一方で、走行中は、制振制御に起因して発生する音を低減すべく、振動を低減するためのトルクを出力する期間が短くされる。
【0013】
第4の発明において、制振制御手段は、エンジンのクランキング後に、振動を低減するためのトルクを予め定められた期間出力する。
【0014】
この構成によると、エンジンを始動した直後において発生し得る振動を低減できる。
第5の発明において、制振制御手段は、エンジンを停止するための処理の実行中に、振動を低減するためのトルクを予め定められた期間出力する。
【0015】
この構成によると、エンジンを停止するための処理の実行中に発生し得る振動を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】車両の全体ブロック図である。
【図2】動力分割装置の共線図を示す図である。
【図3】クランキング後に制振制御が実行される期間を示す図である。
【図4】エンジンの停止処理中に制振制御が実行される期間を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号が付されている。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返されない。
【0018】
図1を参照して、本実施の形態に係る車両1の全体ブロック図が説明される。車両1は、エンジン10と、駆動軸16と、第1モータジェネレータ(以下、第1MGと記載する)20と、第2モータジェネレータ(以下、第2MGと記載する)30と、動力分割装置40と、減速機58と、PCU(Power Control Unit)60と、バッテリ70と、駆動輪80と、スタートスイッチ150と、制動装置151と、ECU(Electronic Control Unit)200とを含む。
【0019】
この車両1は、エンジン10および第2MG30の少なくとも一方から出力される駆動力によって走行する。エンジン10が発生する動力は、動力分割装置40によって2経路に分割される。2経路のうちの一方の経路は減速機58を介して駆動輪80へ伝達される経路であり、他方の経路は第1MG20へ伝達される経路である。
【0020】
第1MG20および第2MG30は、たとえば、三相交流回転電機である。第1MG20および第2MG30は、PCU60によって駆動される。
【0021】
第1MG20は、動力分割装置40によって分割されたエンジン10の動力を用いて発電してPCU60を経由してバッテリ70を充電するジェネレータとしての機能を有する。また、第1MG20は、バッテリ70からの電力を受けてエンジン10の出力軸であるクランク軸を回転させる。これによって、第1MG20は、エンジン10を始動するスタータとしての機能を有する。
【0022】
第2MG30は、バッテリ70に蓄えられた電力および第1MG20により発電された電力の少なくともいずれか一方を用いて駆動輪80に駆動力を与える駆動用モータとしての機能を有する。また、第2MG30は、回生制動によって発電された電力を用いてPCU60を経由してバッテリ70を充電するためのジェネレータとしての機能を有する。
【0023】
エンジン10は、たとえば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関である。エンジン10は、複数の気筒102と、複数の気筒102の各々に燃料を供給する燃料噴射装置104とを含む。燃料噴射装置104は、ECU200からの制御信号S1に基づいて、各気筒に対して適切な時期に適切な量の燃料を噴射したり、各気筒に対する燃料の噴射を停止したりする。
【0024】
さらに、エンジン10には、エンジン10のクランク軸の回転速度(以下、エンジン回転速度と記載する)Neを検出するためのエンジン回転速度センサ11が設けられる。エンジン回転速度センサ11は、検出されたエンジン回転速度Neを示す信号をECU200に送信する。
【0025】
動力分割装置40は、駆動輪80を回転させるための駆動軸16、エンジン10の出力軸および第1MG20の回転軸(出力軸)の三要素の各々を機械的に連結する。動力分割装置40は、上述の三要素のうちのいずれか一つを反力要素とすることによって、他の2つの要素間での動力の伝達を可能とする。第2MG30の回転軸(出力軸)は、駆動軸16に連結される。
【0026】
動力分割装置40は、サンギヤ50と、ピニオンギヤ52と、キャリア54と、リングギヤ56とを含む遊星歯車機構である。ピニオンギヤ52は、サンギヤ50およびリングギヤ56の各々と噛み合う。キャリア54は、ピニオンギヤ52を自転可能に支持するとともに、エンジン10のクランク軸に連結される。サンギヤ50は、第1MG20の回転軸に連結される。リングギヤ56は、駆動軸16を介在して第2MG30の回転軸および減速機58に連結される。
【0027】
エンジン10、第1MG20および第2MG30が動力分割装置40によって連結されることにより、第1MG20の回転速度Nm1と、エンジン回転速度Neと、第2MG30の回転速度Nm2とは、図2の共線図上で1本の直線で結ばれる関係を維持するように各要素の回転速度Nm1,Ne,Nm2が変化する。
【0028】
図2に示す共線図の三本の縦軸のうちの左側の縦軸がサンギヤ50の回転速度、すなわち、第1MG20の回転速度Nm1を示す。また、図2に示す共線図の中央の縦軸がキャリア54の回転速度、すなわち、エンジン回転速度Neを示す。また、図2に示す共線図の右側の縦軸がリングギヤ56の回転速度、すなわち、第2MG30の回転速度Nm2を示す。なお、図2の共線図の各縦軸の矢印の方向が正回転方向を示し、矢印の方向と逆方向が負回転方向を示す。
【0029】
一例として、図2の実線に示すように、車両1が、第1MG20の回転速度Nm1がNm1(0)であって、エンジン回転速度NeがNe(0)であって、かつ、第2MG30の回転速度Nm2がNm2(0)であると想定する。
【0030】
停車時または走行時にエンジン10を停止すべく、エンジン10への燃料噴射を停止すると、エンジン回転速度Neはゼロまで低下する。停車時または走行中にエンジンを停止する際には、所定の停止処理が実行される。停止処理においては、エンジン10の回転速度Neがドライブトレーンの共振域内にある期間が短くなるよう、第1MG20によって、エンジン10の回転速度Neが速やかに低下される。また、所定のクランク角においてクランクシャフトを停止するために、第1MG20のトルクが制御される。停止処理はこれらに限定されない。
【0031】
エンジン10を始動させる際には、第1MG20によりエンジン10がクランキングされる。すなわち、第1MG20の回転速度Nm1を引き上げることによって、エンジン回転速度Neが上昇される。クランキングの開始に伴って、エンジン10への燃料噴射ならびに点火が再開される。
【0032】
図1に戻って、減速機58は、動力分割装置40や第2MG30からの動力を駆動輪80に伝達する。また、減速機58は、駆動輪80が受けた路面からの反力を動力分割装置40や第2MG30に伝達する。
【0033】
PCU60は、バッテリ70に蓄えられた直流電力を第1MG20および第2MG30を駆動するための交流電力に変換する。PCU60は、ECU200からの制御信号S2に基づいて制御されるコンバータおよびインバータ(いずれも図示せず)を含む。コンバータは、バッテリ70から受けた直流電力の電圧を昇圧してインバータに出力する。インバータは、コンバータが出力した直流電力を交流電力に変換して第1MG20および/または第2MG30に出力する。これにより、バッテリ70に蓄えられた電力を用いて第1MG20および/または第2MG30が駆動される。また、インバータは、第1MG20および/または第2MG30によって発電される交流電力を直流電力に変換してコンバータに出力する。コンバータは、インバータが出力した直流電力の電圧を降圧してバッテリ70へ出力する。これにより、第1MG20および/または第2MG30により発電された電力を用いてバッテリ70が充電される。なお、コンバータは、省略してもよい。
【0034】
バッテリ70は、蓄電装置であり、再充電可能な直流電源である。バッテリ70としては、たとえば、ニッケル水素やリチウムイオン等の二次電池が用いられる。バッテリ70の電圧は、たとえば200V程度である。バッテリ70は、上述したように第1MG20および/または第2MG30により発電された電力を用いて充電される他、外部電源(図示せず)から供給される電力を用いて充電されてもよい。なお、バッテリ70は、二次電池に限らず、直流電圧を生成できるもの、たとえば、キャパシタ、太陽電池、燃料電池等であってもよい。
【0035】
バッテリ70には、バッテリ70の電池温度TBを検出するための電池温度センサ156と、バッテリ70の電流IBを検出するための電流センサ158と、バッテリ70の電圧VBを検出するための電圧センサ160とが設けられる。
【0036】
電池温度センサ156は、電池温度TBを示す信号をECU200に送信する。電流センサ158は、電流IBを示す信号をECU200に送信する。電圧センサ160は、電圧VBを示す信号をECU200に送信する。
【0037】
スタートスイッチ150は、たとえば、プッシュ式スイッチである。スタートスイッチ150は、キーをキーシリンダに差し込んで所定の位置まで回転させるものであってもよい。スタートスイッチ150は、ECU200に接続される。運転者がスタートスイッチ150を操作することに応じて、スタートスイッチ150は、信号STをECU200に送信する。
【0038】
ECU200は、たとえば、車両1のシステムが停止状態である場合に信号STを受信した場合に、起動指示を受けたと判断して、車両1のシステムを停止状態から起動状態に移行させる。また、ECU200は、車両1のシステムが起動状態である場合に信号STを受信した場合に、停止指示を受けた判断して、車両1のシステムを起動状態から停止状態に移行させる。
【0039】
第1レゾルバ12は、第1MG20の回転速度Nm1を検出する。第1レゾルバ12は、検出された回転速度Nm1を示す信号をECU200に送信する。第2レゾルバ13は、第2MG30の回転速度Nm2を検出する。第2レゾルバ13は、検出された回転速度Nm2を示す信号をECU200に送信する。
【0040】
車輪速センサ14は、駆動輪80の回転速度Nwを検出する。車輪速センサ14は、検出された回転速度Nwを示す信号をECU200に送信する。ECU200は、受信した回転速度Nwに基づいて車速Vを算出する。なお、ECU200は、回転速度Nwに代えて第2MG30の回転速度Nm2に基づいて車速Vを算出するようにしてもよい。
【0041】
制動装置151は、ブレーキアクチュエータ152と、ディスクブレーキ154とを含む。ディスクブレーキ154は、車輪と一体的に回転するブレーキディスクと、油圧を用いてブレーキディスクの回転を制限するブレーキキャリパとを含む。ブレーキキャリパは、ブレーキディスクを回転軸と平行な方向で挟み込むように設けられるブレーキパッドと、油圧をブレーキパッドに伝達するためのホイールシリンダとを含む。ブレーキアクチュエータ152は、ECU200から受信する制御信号S3に基づいて、運転者がブレーキペダルを踏み込むことによって発生する油圧と、ポンプおよび電磁弁等を用いて発生する油圧とを調整してホイールシリンダに供給される油圧を調整する。図1において、制動装置151は、後輪の右側にのみ図示されるが、制動装置151は、各車輪毎に設けられるものとする。
【0042】
ECU200は、エンジン10を制御するための制御信号S1を生成し、その生成した制御信号S1をエンジン10へ出力する。また、ECU200は、PCU60を制御するための制御信号S2を生成し、その生成した制御信号S2をPCU60へ出力する。さらに、ECU200は、ブレーキアクチュエータ152を制御するための制御信号S3を生成し、その生成した制御信号S3をブレーキアクチュエータ152へ出力する。
【0043】
ECU200は、エンジン10およびPCU60等を制御することによって車両1が最も効率よく運行できるようにハイブリッドシステム全体、すなわち、バッテリ70の充放電状態、エンジン10、第1MG20および第2MG30の動作状態を制御する。
【0044】
ECU200は、運転席に設けられたアクセルペダル(図示せず)の踏込み量に対応する要求駆動力を算出する、ECU200は、算出された要求駆動力に応じて、第1MG20および第2MG30のトルクと、エンジン10の出力とを制御する。
【0045】
上述したような構成を有する車両1においては、発進時や低速走行時等であってエンジン10の効率が悪い場合には、第2MG30のみによる走行が行なわれる。また、通常走行時には、たとえば動力分割装置40によりエンジン10の動力が2経路の動力に分けられる。一方の動力で駆動輪80が直接的に駆動される。他方の動力で第1MG20を駆動して発電が行なわれる。このとき、ECU200は、発電された電力を用いて第2MG30を駆動させる。このように第2MG30を駆動させることにより駆動輪80の駆動補助が行なわれる。
【0046】
車両1の減速時には、駆動輪80の回転に従動する第2MG30がジェネレータとして機能して回生制動が行なわれる。回生制動によって回収した電力は、バッテリ70に蓄えられる。なお、ECU200は、蓄電装置の残容量(以下の説明においては、SOC(State of Charge)と記載する)が低下し、充電が特に必要な場合には、エンジン10の出力を増加させて第1MG20による発電量を増加させる。これにより、バッテリ70のSOCが増加させられる。また、ECU200は、低速走行時でも必要に応じてエンジン10からの駆動力を増加させる制御を行なう場合もある。たとえば、上述のようにバッテリ70の充電が必要な場合や、エアコン等の補機が駆動される場合や、エンジン10の冷却水の温度を所定温度まで上げる場合等である。
【0047】
ECU200は、バッテリ70の充電量および放電量を制御する際に、電池温度TBおよび現在のSOCに基づいて、バッテリ70の充電時に許容される入力電力(以下の説明においては、「充電電力上限値Win」と記載する)およびバッテリ70の放電時に許容される出力電力(以下の説明においては、「放電電力上限値Wout」と記載する)を設定する。たとえば、現在のSOCが低下すると、放電電力上限値Woutは徐々に低く設定される。一方、現在のSOCが高くなると、充電電力上限値Winは徐々に低下するように設定される。
【0048】
また、バッテリ70として用いられる二次電池は、低温時に内部抵抗が上昇する温度依存性を有する。また、高温時には、さらなる発熱によって温度が過上昇することを防止する必要がある。このため、電池温度TBの低温時および高温時には、放電電力上限値Woutおよび充電電力上限値Winの各々を低下させることが好ましい。ECU200は、電池温度TBおよび現在SOCに応じて、たとえば、マップ等を用いることによって、充電電力上限値Winおよび放電電力上限値Woutを設定する。
【0049】
本実施の形態においては、車両1の走行中に第1MG20を用いてエンジン10を始動させる場合、第1MG20が発電する電力が充電電力上限値Winよりも小さくなるように、第1MG20のトルクが制限される。
【0050】
さらに、ECU200は、エンジン10の出力トルクに応じて第2MG30の出力トルクを制御することによって、エンジン10の出力トルクに起因した振動を打ち消し、低減する制振制御を実行する。たとえば、第2MG30の出力トルクは、エンジン10の出力トルクと所定のゲインとの積に応じて、振動を打ち消すように制御される。なお、制振制御には周知の一般的な技術を利用すればよいため、ここではその詳細な説明は繰り返さない。
【0051】
たとえば、エンジン10をクランキングした直後は、エンジン10の回転速度Neが低いため、エンジン10のトルク変動が大きい。そのため、エンジン10から出力されたトルクに起因して発生する振動が大きくなり易い。このような振動を低減すべく、本実施の形態においては、図3に示すように、制振制御がクランキング後の所定時間ΔTの間実行される。
【0052】
たとえば、図3に示すように、制振制御が、停車時においてクランキング後の所定時間ΔT1の間実行され、走行中においてクランキング後の所定時間ΔT2の間実行される。
【0053】
より具体的には、シフトレバー(図示せず)を運転者が操作することによって選択されるシフトレンジがパーキングレンジであり、または、車速がしきい値(停車とみなせる速度)以下であり、かつ、クランキングを終了してからの経過時間が所定時間ΔT1以内であると、始動要件による制振制御実行要求フラグがオンにされ、その結果、制振制御が実行される。
【0054】
一方、シフトレンジがパーキングレンジであり、または、車速がしきい値以下であり、かつ、クランキングを終了してからの経過時間が所定時間ΔT1を超えると、始動要件による制振制御実行要求フラグがオフにされる。
【0055】
また、シフトレンジがパーキングレンジ以外であり、または、車速がしきい値より高く、かつ、クランキングを終了してからの経過時間が所定時間ΔT2以内であると、始動要件による制振制御実行要求フラグがオンにされ、その結果、制振制御が実行される。
【0056】
一方、シフトレンジがパーキングレンジ以外であり、または、車速がしきい値より高く、かつ、クランキングを終了してからの経過時間が所定時間ΔT2を超えると、始動要件による制振制御実行要求フラグがオフにされる。
【0057】
図3に示すように、停車時(シフトレンジがパーキングレンジであるか、または車速がしきい値以下である場合)にクランキング後において制振制御を実行する時間ΔT1は、走行中(シフトレンジがパーキングレンジ以外であるか、または車速がしきい値より高い場合)にクランキング後において制振制御を実行する時間ΔT2よりも長い。
【0058】
同様に、エンジン10の停止処理の実行中においても、エンジン10のトルク変動が大きく、車両において発生する振動が大きくなり易いため、図4に示すように、エンジン10の停止処理の実行中においても、制振制御が所定時間ΔTの間実行される。図4に示すように、停車時に停止処理中において制振制御を実行する時間ΔT3は、走行中に停止処理中において制振制御を実行する時間ΔT4よりも長い。
【0059】
図3および図4に示されるように、停車中は、走行中に比べて、制振制御により振動を低減するためのトルクを出力する期間が長くされる。言い換えると、車速が低いほど、制振制御により振動を低減するためのトルクを出力する期間が長くされる。
【0060】
これにより、低車速領域においては、車両の走行に伴って発生する振動が小さく、エンジンから出力されるトルクに起因して発生する振動を乗員が感じやすいため、振動を低減するためのトルクを出力する期間を長くする一方で、高車速領域においては制振制御に起因して発生する音を低減すべく、振動を低減するためのトルクを出力する期間が短くされる。そのため、制振制御により発生した音による不快感を低減しつつ、振動を低減することができる。
【0061】
以上のように、本実施の形態によれば、制振制御により振動を低減するためのトルクを出力する期間が、車速に応じて変更される。たとえば、車両の走行に伴って発生する振動が小さい車速においては、エンジンから出力されるトルクに起因して発生する振動を乗員が感じやすいため、振動を低減するためのトルクを出力する期間を長くする一方で、別の車速においては制振制御に起因して発生する音を低減すべく、振動を低減するためのトルクを出力する期間が短くされる。これにより、制振制御により発生した音による不快感を低減しつつ、振動を低減することができる。
【0062】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0063】
1 車両、10 エンジン、11 エンジン回転速度センサ、12 第1レゾルバ、13 第2レゾルバ、14 車輪速センサ、16 駆動軸、20 第1モータジェネレータ、30 第2モータジェネレータ、40 動力分割装置、50 サンギヤ、52 ピニオンギヤ、54 キャリア、56 リングギヤ、58 減速機、70 バッテリ、80 駆動輪、102 気筒、104 燃料噴射装置、150 スタートスイッチ、156 電池温度センサ、158 電流センサ、160 電圧センサ、200 ECU。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンが出力するトルクに起因して生じる振動を低減するためのトルクを出力するための制振制御手段と、
前記制振制御手段により振動を低減するためのトルクを出力する期間を、車速に応じて変更するための変更手段とを備える、車両の制振制御装置。
【請求項2】
前記変更手段は、車速が低いほど、前記制振制御手段により振動を低減するためのトルクを出力する期間を長くする、請求項1に記載の車両の制振制御装置。
【請求項3】
前記変更手段は、停車中は、走行中に比べて、前記制振制御手段により振動を低減するためのトルクを出力する期間を長くする、請求項2に記載の車両の制振制御装置。
【請求項4】
前記制振制御手段は、前記エンジンのクランキング後に、振動を低減するためのトルクを予め定められた期間出力する、請求項1または2に記載の車両の制振制御装置。
【請求項5】
前記制振制御手段は、前記エンジンを停止するための処理の実行中に、振動を低減するためのトルクを予め定められた期間出力する、請求項1または2に記載の車両の制振制御装置。
【請求項1】
エンジンが出力するトルクに起因して生じる振動を低減するためのトルクを出力するための制振制御手段と、
前記制振制御手段により振動を低減するためのトルクを出力する期間を、車速に応じて変更するための変更手段とを備える、車両の制振制御装置。
【請求項2】
前記変更手段は、車速が低いほど、前記制振制御手段により振動を低減するためのトルクを出力する期間を長くする、請求項1に記載の車両の制振制御装置。
【請求項3】
前記変更手段は、停車中は、走行中に比べて、前記制振制御手段により振動を低減するためのトルクを出力する期間を長くする、請求項2に記載の車両の制振制御装置。
【請求項4】
前記制振制御手段は、前記エンジンのクランキング後に、振動を低減するためのトルクを予め定められた期間出力する、請求項1または2に記載の車両の制振制御装置。
【請求項5】
前記制振制御手段は、前記エンジンを停止するための処理の実行中に、振動を低減するためのトルクを予め定められた期間出力する、請求項1または2に記載の車両の制振制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図2】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2012−236470(P2012−236470A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105813(P2011−105813)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]