説明

車両の前部構造

【課題】前方衝突時に効率よくエネルギを吸収することが可能な車両の前部構造の提供。
【解決手段】車両1の前部構造は、一対のサイドフレーム2と第1クロスメンバ31とを備える。一対のサイドフレーム2は、車幅方向両側で前後方向へ延びる。第1クロスメンバ31は、車幅方向へ延びて一対のサイドフレーム2の前端部25同士を連結する。前端部25は、第1クロスメンバ31よりも前方へ一体的に延びる突出部26を有する。車両1の前方衝突時には、突出部26がエネルギを吸収し、サイドフレーム2のうち前端部25の後方の変形を少なくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両は、剛壁(以下バリアという)への正面衝突の際に、バリアに突き当たるシャシフレームを有効に変形させて運動エネルギを吸収することによって、生存空間を確保して乗員の安全性の向上を図っている。
【0003】
特開2000−203451号公報では、前後方向に延び、途中に変曲部を形成する一対のサイドメンバ体に対して、サイドメンバ体の断面剛性をほぼ均一にすべく可変の断面構成を有するインナレインフォースを固着する構造が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−203451号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、乗員の安全性の向上を図るためには、車両の衝突時には乗員の着座位置から離れた位置で入力荷重のエネルギが吸収されることが望ましい。
【0006】
しかし、上記サイドメンバ体の構造のように断面剛性が均一であると、衝突時の荷重のエネルギが乗員の着座位置から離れた位置で十分に吸収されないおそれがある。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、前方衝突時に効率よくエネルギを吸収することが可能な車両の前部構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の第1の態様に係る車両の前部構造は、一対のサイドフレームと、第1クロスメンバとを備える。一対のサイドフレームは、車幅方向両側で前後方向へ延びる。第1クロスメンバは、車幅方向へ延びて一対のサイドフレームの前端部同士を連結する。サイドフレームの前端部は、第1クロスメンバよりも前方へ一体的に延びる突出部を有する。
【0009】
上記構成では、サイドフレームの前端部は、第1クロスメンバよりも前方へ一体的に延びる突出部を有するため、車両の前方衝突時には、突出部の変形によってエネルギが吸収される。従って、サイドフレームのうち前端部の後方の変形を少なく抑えることができる。
【0010】
また、本発明の第2の態様に係る車両の前部構造は、第1の態様に係る車両の前部構造であって、第2クロスメンバを備える。第2クロスメンバは、第1クロスメンバの後方に配置され、車幅方向へ延びて一対のサイドフレーム同士を連結する。サイドフレームのうち、第1クロスメンバと第2クロスメンバとの間の第1の領域は、突出部よりも高い強度を有し、前端部に前方から荷重が入力したときに突出部よりも変形し難い。
【0011】
上記構成では、車両の前方衝突時には、突出部の変形と第1の領域の変形とによってエネルギが吸収される。また、第1の領域が突出部よりも変形し難いため、突出部の変形が第1の領域の変形よりも早く進行し易い。従って、第1の領域から離れた部分で効率よくエネルギを吸収することができ、第1の領域の上方の室内空間の安全性を向上させることができる。
【0012】
また、本発明の第3の態様に係る車両の前部構造は、第2の態様に係る車両の前部構造であって、第3クロスメンバを備える。第3クロスメンバは、第2クロスメンバの後方に配置され、車幅方向へ延びて一対のサイドフレーム同士を連結する。サイドフレームのうち、第2クロスメンバと第3クロスメンバとの間の第2の領域は、第1の領域よりも高い強度を有し、前端部に前方から荷重が入力したときに第1の領域よりも変形し難い。
【0013】
上記構成では、車両の前方衝突時には、突出部の変形と第1の領域の変形と第2の領域の変形とによってエネルギが吸収される。また、第2の領域が第1の領域よりも変形し難いため、第1の領域の変形が第2の領域の変形よりも早く進行し易い。そして、第1の領域が突出部よりも変形し難いため、突出部の変形が第1の領域の変形よりも早く進行し易い。従って、第2の領域から離れた部分で効率よくエネルギを吸収することができ、第2の領域の上方の室内空間の安全性を向上させることができる。
【0014】
また、本発明の第4の態様に係る車両の前部構造は、第1の態様〜第3の態様に係る車両の前部構造であって、サイドフレームが、前後方向に延びるサイドメンバと、サイドメンバに固着されるインナレインフォースとを備える。インナレインフォースは、前後方向の一部に膨出部を有する。
【0015】
上記構成では、サイドフレームのうち、サイドメンバにインナレインフォースを配置した部分の強度が高くなる。従って、サイドメンバにインナレインフォースを配置するという簡単な構成によって、サイドフレームに強度の異なる部分を設けることができる。
【0016】
また、サイドメンバにインナレインフォースを配置した部分のうち、インナレインフォースが膨出部を有する部分においてサイドフレームの強度がさらに高くなる。従って、サイドフレームのうち例えば重量物が取り付けられる部分など所望の部分に膨出部を設けることによって強度を高くすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、前方衝突時に効率よくエネルギを吸収することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1は本実施形態に係る車両の前部構造を示す平面図であり、図2は図1のII方向から見た側面図であり、図3は図1の第1クロスメンバと第2クロスメンバとを含む要部斜視図であり、図4は図1の第3クロスメンバを含む要部斜視図であり、図5は本実施形態に係るサイドフレームのインナレインフォースの側面図であり、図6は図4のVI−VI矢視断面図である。以下、前後方向とは、車両の進行方向の前後方向を意味する。また、図中矢印FRは車両前方を、矢印UPは車両上方を、矢印INは車幅内側方向を、矢印OUTは車幅外側方向をそれぞれ示している。
【0020】
図1〜図6に示すように、車両1の前部構造は、前後方向へ延び車幅方向両側に配置される一対のサイドフレーム2と、一対のサイドフレーム2を連結する複数のクロスメンバ3とを有する。
【0021】
クロスメンバ3のうち第1クロスメンバ31は、開口を後方へ向けた略U字状断面を有し、車幅方向へ延びる。クロスメンバ3のうち第2クロスメンバ32は、矩形閉断面を有し、車幅方向へ延びる。クロスメンバ3のうち第3クロスメンバ33は、閉断面を有し、車幅方向へ延びる。
【0022】
サイドフレーム2は、サイドメンバ20と、インナレインフォース40とを有する。
【0023】
サイドメンバ20は、上下に対向配置された上板21と下板22と、これら上板21と下板22とを連結する縦板23とが一体形成され、開口24を車幅方向内側へ向けた略U字状断面を有し、前後方向へ延びる。一対のサイドメンバ20は、前端部25同士が第1クロスメンバ31に連結される。前端部25は、第1クロスメンバ31よりも前方へ一体的に延びる突出部26を有する。一対のサイドメンバ20の、突出部26の前端縁27同士はバンパ(図示省略)に連結される。また、一対のサイドメンバ20は、前端部25の所定距離後方同士が第2クロスメンバ32に連結され、第2クロスメンバ32に連結された箇所の所定距離後方同士が第3クロスメンバ33に連結される。サイドメンバ20は、第2クロスメンバ32との連結部分の後方から上下方向の幅が広くなり、下板22の高さが僅かに高くなる。また、サイドメンバ20には、インナレインフォース40が固着される。
【0024】
インナレインフォース40は、サイドメンバ20の内側面に沿って配置され、上下に対向配置された上板41及び下板42と、これら上板41と下板42とを連結する縦板43とが一体形成され、開口44を車幅方向内側へ向ける。インナレインフォース40は、サイドメンバ20のうち第1クロスメンバ31との連結部の後方に前端部45を有し、サイドメンバ20のうち第3クロスメンバ33との連結部の後方に後端部46を有する。インナレインフォース40の上板41及び下板42のそれぞれがサイドメンバ20の上板21及び下板22に重なり固着される。インナレインフォース40の縦板43のうち前後方向の一部には、サイドメンバ20の車幅方向内側へ突出した膨出部47が設けられている。膨出部47は、インナレインフォース40の縦板43を上下方向に略3分割したうちの中央部から、インナレインフォース40の上板41を車幅方向に略3分割したうちの一つ分程度突出している。このため、サイドフレーム2内部は、膨出部47を有する部分であっても空間を確保することができる。従って、インナレインフォース40に複数設けられた取付孔48に対して、ハーネス固定用のクリップ50や、配管固定用のクリップ51などを取り付けることができる。なお、本実施形態では、サスペンションが取り付けられる部分に膨出部47が設けられている。
【0025】
本実施形態では、サイドフレーム2の前端部25は、第1クロスメンバ31よりも前方へ一体的に延びる突出部26を有するため、車両1の前方衝突時には、突出部26がエネルギを吸収し、サイドフレーム2のうち前端部25の後方の変形を少なくすることができる。
【0026】
また、サイドフレーム2のうち、第1クロスメンバ31と第2クロスメンバ32との間の第1の領域28は、インナレインフォース40を有するため、突出部26よりも高い強度を有し、前端部25に前方から荷重が入力したときに突出部26より変形し難い。車両1の前方衝突時には、突出部26の変形と第1の領域28の変形とによってエネルギが吸収される。また、第1の領域28が突出部26よりも変形し難いため、突出部26の変形が第1の領域28の変形よりも早く進行し易い。従って、第1の領域28から離れた部分で効率よくエネルギを吸収することができ、第1の領域28の上方の室内空間の安全性を向上させることができる。
【0027】
また、サイドフレーム2のうち、第2クロスメンバ32と第3クロスメンバ33との間の第2の領域29は、サイドメンバ20の上下方向の幅が第1の領域28よりも広いため、第1の領域28よりも高い強度を有し、前端部25に前方から荷重が入力したときに第1の領域28よりも変形し難い。車両1の前方衝突時には、突出部26の変形と第1の領域28の変形と第2の領域29の変形とによってエネルギが吸収される。また、第2の領域29が第1の領域28よりも変形し難いため、第1の領域28の変形が第2の領域29の変形よりも早く進行し易い。そして、第1の領域28が突出部26よりも変形し難いため、突出部26の変形が第1の領域28の変形よりも早く進行し易い。従って、第2の領域29から離れた部分で効率よくエネルギを吸収することができ、第2の領域29の上方の室内空間の安全性を向上させることができる。
【0028】
また、サイドフレーム2に強度の異なる部分を設けるためにサイドメンバ20にインナレインフォース40を配置した部分のうち、インナレインフォース40が膨出部47を有する部分においてサイドフレーム2の強度がさらに高くなる。従って、サイドフレーム2のうち例えば重量物が取り付けられる部分など所望の部分に膨出部47を設けることによって強度を高くすることができる。
【0029】
なお、サイドフレーム2を後方にかけて徐々に強くするためには、本実施形態のように、インナレインフォース40を配置したり、サイドメンバ20の上下方向の幅を広げたりするほか、サイドメンバ20自体の形状(厚さなど)を変更するなどの構成にしてもよい。また、インナレインフォース40の膨出部47は、本実施形態のように前後方向に長い形状で設けるほか、膨出部47をスポット的に設ける構成にしてもよい。
【0030】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本実施形態に係る車両の前部構造を示す平面図である。
【図2】図1のII方向から見た側面図である。
【図3】図1の第1クロスメンバと第2クロスメンバとを含む要部斜視図である。
【図4】図1の第3クロスメンバを含む要部斜視図である。
【図5】本実施形態に係るサイドフレームのインナレインフォースの側面図である。
【図6】図4のVI−VI矢視断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1:車両
2:サイドフレーム
3:クロスメンバ
20:サイドメンバ
25:前端部
26:突出部
28:第1の領域
29:第2の領域
31:第1クロスメンバ
32:第2クロスメンバ
33:第3クロスメンバ
40:インナレインフォース
47:膨出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向両側で前後方向へ延びる一対のサイドフレームと、
車幅方向へ延びて前記一対のサイドフレームの前端部同士を連結する第1クロスメンバと、を備え、
前記サイドフレームの前記前端部は、前記第1クロスメンバよりも前方へ一体的に延びる突出部を有する
ことを特徴とする車両の前部構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の前部構造であって、
前記第1クロスメンバの後方に配置され、車幅方向へ延びて前記一対のサイドフレーム同士を連結する第2クロスメンバを備え、
前記サイドフレームのうち、前記第1クロスメンバと前記第2クロスメンバとの間の第1の領域は、前記突出部よりも高い強度を有し、前記前端部に前方から荷重が入力したときに前記突出部よりも変形し難い
ことを特徴とする車両の前部構造。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の前部構造であって、
前記第2クロスメンバの後方に配置され、車幅方向へ延びて前記一対のサイドフレーム同士を連結する第3クロスメンバを備え、
前記サイドフレームのうち、前記第2クロスメンバと前記第3クロスメンバとの間の第2の領域は、前記第1の領域よりも高い強度を有し、前記前端部に前方から荷重が入力したときに前記第1の領域よりも変形し難い
ことを特徴とする車両の前部構造。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れかに記載の車両の前部構造であって、
前記サイドフレームは、前後方向に延びるサイドメンバと、前記サイドメンバに固着されるインナレインフォースとを備え、
前記インナレインフォースは、前後方向の一部に膨出部を有する
ことを特徴とする車両の前部構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−132830(P2008−132830A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−319232(P2006−319232)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】