説明

車両の前部構造

【課題】本発明は、車両前部のエンジンルームに横置きにエンジンを配置して、エンジン前方に吸気管を配置して、エンジン後方に排気管を配置した車両の前部構造において、排気管二本をトンネル部内に配置しつつ、排気管の排気効率をできるだけ高めて、エンジン出力を高めることができる車両の前部構造を提供することを目的とする。
【解決手段】トンネル拡大部20に配置される直キャタリスト21A,20Bは、二つを車幅方向に並設して車両前後方向に延びるように設定している。そして、直キャタリスト21A,21Bの下方には、プロペラシャフト31を配置している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の前部構造に関し、特に、車両前部のエンジンルームにエンジンを横置き配置して、エンジン前方に吸気管を配置して、エンジン後方に排気管を配置した車両の前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、一般的な車両においては、車室空間をできるだけ広く確保するために、フロントエンジン・フロントドライブ方式(以下、FF方式)が採用されることが多い。このとき、エンジンは、エンジンの出力軸とドライブシャフトが並行に位置する方が駆動効率の点で優れるため、通常、横置き(気筒列が車幅方向に向いた位置)に配置される。
【0003】
また、近年においては、排気ガスの低エミッション化を図るため、排気管をエンジンの後方側に配置して、排気ポートからキャタリストまでの距離を短くする後方排気レイアウトを採用する車両が多くなっている。
【0004】
例えば、下記特許文献1では、エンジン横置きのFF方式の車両において、エンジン後方に排気管を配置した後方排気レイアウトを採用した車両が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−198663号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、エンジンの排気効率を高めエンジン出力を高めるためには、できるだけ、排気管を直線状に延びるようにレイアウトするのが望ましい。
【0007】
しかし、前述の特許文献1に記載された車両の排気管は、ダッシュパネルが後方に位置しているため、エンジン上部から下方側垂直方向に屈曲して、また、その下端で後方側水平方向に屈曲するように、略クランク形状にレイアウトされている。
【0008】
このため、特許文献1に記載された車両のエンジンにおいては、排気管が複雑に屈曲して、排気効率を高めることができず、エンジン出力を十分に高めることができないという問題がある。
【0009】
また、エンジンの後方に排気管をレイアウトすると、車両衝突時にエンジンの後退によって、排気管がダッシュパネルを押圧することになり、ダッシュパネルの後方側への変形を大きくするおそれがある。
【0010】
こうした問題を対策する方法として、ダッシュパネルの車幅方向中央位置に、大きな内部空間を有するトンネル拡大部を形成し、このトンネル拡大部内に略直線状に車両後方側斜め下方に延びるように排気管をレイアウトすることが考えられる。
【0011】
しかし、トンネル拡大部をあまりに大きくすると、車室の前方空間が影響を受けることになり、車室空間が狭まるという問題がある。
【0012】
特に、各気筒間の排気干渉をなくすため、各気筒から延びる複数の排気管を、一旦二本に集合させて、その後に一本に集合するように構成した場合には、排気管二本をトンネル拡大部内にレイアウトする必要があるため、特に大きくなる可能性がある。
【0013】
ここで仮に、二本の排気管を上下方向に並設すると、車幅方向に並ぶ気筒列との関係で、二つの排気管が上下方向にオフセットして配置されることになり、排気管を略直線状に配置して排気効率を高めようとした効果を十分に得られないとう問題が生じる。
【0014】
そこで、本発明は、車両前部のエンジンルームに横置きにエンジンを配置して、エンジン前方に吸気管を配置して、エンジン後方に排気管を配置した車両の前部構造において、排気管二本をトンネル部内に配置しつつ、排気管の排気効率をできるだけ高めて、エンジン出力を高めることができる車両の前部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明の車両の前部構造は、車両前部のエンジンルームに横置きにエンジンを配置して、該エンジンの前方に吸気管を配置して、該エンジンの後方に排気管を配置した車両の前部構造であって、車室の前壁を構成するダッシュパネルとフロアパネルとの接続部の車幅方向中央に、車室内方側へ突出して車両前後方向に延びるトンネル部を設け、該トンネル部の前部に、車室内方側に大きく突出するトンネル拡大部を形成して、前記排気管が、エンジンの各気筒に接続された複数の独立排気管と、該独立排気管の下流側で独立排気管を二つに集合する集合排気管とを備え、該二つの集合排気管を、前記トンネル拡大部に対応する位置で車幅方向に並列して配置したものである。
【0016】
上記構成によれば、二つの集合排気管を、トンネル拡大部に対応する位置で車幅方向に並列して配置することで、二本の集合排気管を、上下方向にオフセットすることなく、側面視で略直線状にレイアウトすることができる。
このため、二つの集合排気管を、側面視でそれぞれ略直線状に配設することができるため、エンジンの排気効率を高めることができる。
【0017】
この発明の一実施態様においては、エンジンの駆動力を、後輪に伝達するプロペラシャフトを備え、該プロペラシャフトを前記二つの集合排気管の下方に配置したものである。
上記構成によれば、プロペラシャフトを集合排気管の下方に配置することで、プロペラシャフトが邪魔になることがなく、プロペラシャフトの上方空間を有効に利用して、集合排気管を配置することができる。
このため、二本の集合排気管を、プロペラシャフトによって制限を受けることなく、それぞれ略直線状に配設することができる。
よって、プロペラシャフトを有する四輪駆動車においても、エンジンの排気効率を高めることができる。
【0018】
この発明の一実施態様においては、前記二つの集合排気管の後方で排気管を一つに集合する集合部を設け、該集合部を、プロペラシャフトの側方に配置したものである。
上記構成によれば、排気管を一つに集合する集合部をプロペラシャフトの側方に配置することで、排気管の占有するスペースを小さくした上で、プロペラシャフトを回避して、車両後方側斜め下方に延びるように配置できる。
よって、トンネル拡大部を車幅方向に大きくすることなく、排気管を、プロペラシャフトを回避して、略直線状にレイアウトすることができる。
【0019】
この発明の一実施態様においては、前記集合排気管に、キャタリスト又はフレキシブルチューブを設けて、該キャタリスト又はフレキシブルチューブを、前記トンネル拡大部に対応する位置に配置したものである。
上記構成によれば、トンネル拡大部内の空間を利用して、占有スペースの大きいキャタリスト又はフレキシブルチューブを、レイアウトすることになる。
よって、エンジンとダッシュパネルとの間には、占有スペースの大きなキャタリスト又はフレキシブルチューブを設置する必要がなくなり、衝突安全性を高めることができる。
また、キャタリストを設けた場合には、加熱されるキャタリスト周りの空気(熱気)を前後方向に延びるトンネル部を利用して、車両後方側に排出することができるため、キャタリスト周りの熱害を防止することができる。
【0020】
この発明の一実施態様においては、前記キャタリストの車両前方側に、前輪を操舵するステアリング機構を配置したものである。
上記構成によれば、キャタリストの車両前方側にステアリング機構を配置したことにより、車両走行中、ステアリング機構には、キャタリスト周りの熱気が流れにくくなる。
よって、ステアリング機構に対するキャタリストによる熱害を抑制することができ、ステアリング機構の耐久性を高めることができる。
【0021】
この発明の一実施態様においては、前記エンジンを、エンジン上部が車両後方側に位置するように傾斜配置したものである。
上記構成によれば、エンジンが車両後方側に傾斜配置(スラント配置)されることで、エンジン上部前方とエンジン下部後方にスペースが確保できる。また、エンジンの排気ポートの位置も低くできる。
このため、エンジン前方に配置される吸気管の配置スペースを拡大することができる。また、エンジン後方に配置されるフロントデフを車両前方側に配置することができる。さらに、排気ポートの位置が低くなるため、より排気管を直線状にレイアウトしやすくなり、エンジンの排気効率を高めることができる。加えて、キャタリストまでの距離も短くできるため、触媒の早期活性化を図ることができる。
よって、エンジンを後方に傾斜配置することで、後方排気エンジンの吸排気系の性能を高めることができ、また、車両のオーバーハング量を低減できるため、車両の操安性能も高めることができる。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、二つの集合排気管を、側面視でそれぞれ略直線状に配設することができるため、エンジンの排気効率を高めることができる。
よって、車両前部のエンジンルームに横置きにエンジンを配置して、エンジン前方に吸気管を配置して、エンジン後方に排気管を配置した車両の前部構造において、排気管二本をトンネル部内に配置しつつ、排気管の排気効率をできるだけ高めて、エンジン出力を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面に基づいて、本実施形態の車両の前部構造について説明する。
まず、図1〜図5で、車両の前部構造の全体構造について説明する。図1は車両の前部構造の特徴部分を示した斜視図、図2は車両の前部構造の全体側面図、図3はエンジンを除いた全体正面図、図4は車体フレーム等も含めた全体平面図、図5は車体フレーム等も含めた全体底面図である。
【0024】
図2に示すように、車両の前部には、エンジン7を配置するエンジンルームERと、その後方に形成される車室CRとを備えている。
【0025】
エンジンルームERは、上部を前下がりに車両前後方向に延びるボンネット1で区画され、前部を上下に位置するフロントグリル2とフロントバンパー3で区画され、さらに、後部を上下方向に延びるダッシュパネル4等によって区画されて構成している。
【0026】
また、車室CRは、上部を図示しないルーフパネルで区画され、前部を前述のダッシュパネル4で区画され、下部を車両前後方向に延びるフロアパネル5と車両前後方向に延びるにトンネル部6とで区画されて構成している。
【0027】
このうち、エンジンルームERには、直列四気筒のI型エンジン7を横置き配置している。すなわち、四つの気筒を有するI型エンジン7を気筒列が車幅方向に延びるように配置している。そして、エンジン上部7aがやや後方側に位置するように、エンジン7を後方側に傾斜(スラント)して配置している。この傾斜角αは約15°に設定している。
【0028】
また、エンジン上部7a前方には、各気筒に吸気を導入する吸気マニホールド8を設置して、エンジン上部7a後方には、各気筒の排気を排出する排気マニホールド9を設置している。
【0029】
吸気マニホールド8は、気筒列方向に延びるサージタンク10を取り囲むように湾曲形成されて、それぞれ所定の吸気通路長を確保している。
【0030】
一方、排気マニホールド9は、後方側に傾斜したエンジン上部7a後面の排気ポート11から略直線状に車両後方側斜め下方に延びるように形成されている。
【0031】
また、図4に示すように、エンジン7の一側方(図4では図面左側)には、変速機12を配置している。また、この変速機12の後部には、フロントデフ13を配置している。さらに、フロントデフ13の他方側(図4では図面右側)には、トランスファ装置30を配置している。このトランスファ装置30は、後輪(図示せず)に対してプロペラシャフト31を介して駆動力を伝達するように構成している。
変速機12は、図示しない入力軸と出力軸が車幅方向に延びるいわゆる横置きタイプの変速機12であり、エンジン7の駆動力を、方向変換することなく、そのままヘリカルギア等(平歯車)でフロントデフ13へ伝達するように構成している。
【0032】
フロントデフ13は、変速機12からの出力を、左右の前輪14,14に伝達するように構成して、図示しないドライブシャフトの出力位置を規定している。ドライブシャフトは車幅方向に延びて、車両両側に設置される前輪14,14に対して駆動力を伝達している。
【0033】
トランスファ装置30は、図示しないトランスファ軸を介してベベルギア等の方向変換歯車を用いて駆動力をプロペラシャフト31に伝達するように構成している。プロペラシャフト31は、トンネル部6内を車両前後方向に延びるように配置され、図示しない後輪に対して駆動力を伝達するように構成している。こうして前輪14,14と後輪に駆動力を伝達することで、本実施形態では、車両を四輪駆動車として構成している。
【0034】
なお、図2に示すように、エンジン7の前方のエンジンルームER前部には、ラジエータ15を設置している。また、エンジン下部7b後方には、前輪14を操舵するステアリング機構のステアリングラック16を設置している。
【0035】
車室前壁を構成するダッシュパネル4は、図3に示すように、上下方向且つ車幅方向の全域に延びるパネル体で構成している。そして、このダッシュパネル4の車幅中央には、トンネル部6につながるトンネル開口部17を設けている。
【0036】
車室床面を構成するフロアパネル5は、図1に示すように、ダッシュパネル4の下端から車両後方側に広がり且つ車幅方向に延びている。そして、フロアパネル5の両側端には車体骨格部材であるサイドシル18,18が車両前後方向に延びている(図5参照)。
【0037】
このフロアパネル5の車幅方向中央には、図1に示すように、略ハット状に上方(車室内方)に隆起する車両前後方向に延びるトンネル部6を形成している。このトンネル部6の車幅方向の幅W及び上下方向高さHは、全体に内部(車室外方)に一本の排気管(後部排気管19)と、プロペラシャフト31を配設できる程度に設定している。
【0038】
このトンネル部6の前部には、上方及び車幅方向にさらに大きく突出したトンネル拡大部20を形成している。このトンネル拡大部20は、その内部(車室外方)に、前述の排気マニホールド9から後方に延びる排気系の構成要素とプロペラシャフト31をレイアウトできるように大きく且つ高く形成している。
【0039】
すなわち、前述の排気マニホールド9の傾斜に対応して、ダッシュパネル4上部から車両後方に傾斜して延びる上壁面20aと、複数の排気マニホールド9に対応して車両後方に向かうに従い中央側に傾斜して延びる側壁面20b,20cとによって、内部空間Sを大きく確保したトンネル拡大部20を形成して、そのトンネル拡大部20の内部空間Sに、直キャタリスト21A,21B、Y字排気管22等の排気系の構成要素と、車両前後方向に延びるプロペラシャフト31をレイアウトしている。
【0040】
このうち、排気系の構成要素について詳述する。
図4に示すように、エンジン7の後方には、排気マニホールド9(9a,9b,9c,9d)を配設している。この排気マニホールド9は、排気干渉を避けるために、四本の排気マニホールド9a,9b,9c,9dが、一旦二本に集合するように構成している。すなわち、燃焼タイミングを、一番気筒E1→三番気筒E3→四番気筒E4→二番気筒E2として設定しているため、両端の一番気筒E1の排気マニホールド9aと四番気筒E4の排気マニホールド9dと集合させて、中央の二番気筒E2の排気マニホールド9bと三番気筒E3の排気マニホールド9cとを集合させて構成している。
【0041】
そして、この集合した排気マニホールド9a,9b,9c,9dに対応して、略円筒形状の直キャタリスト21A,21Bを車幅方向に二つ並設するように設けている。具体的には、一番気筒E1の排気マニホールド9aと四番気筒E4の排気マニホールド9dを集合された管に対応して、第一キャタリスト21Aを設け、二番気筒E2の排気マニホールド9bと三番気筒E3の排気マニホールド9cを集合させた管に対応して、第二キャタリスト21Bを設けている。
【0042】
このように、車幅方向に二つの直キャタリスト21A,21Bを並設することで、車幅方向に並ぶ各排気マニホールド9a,9b,9c,9dからの排気を、それぞれ上下方向にオフセットさせることなく、滑らかに下流側に排出するようにしている。
【0043】
この直キャタリスト21A,21Bは、三元触媒で構成しているが、主に、冷間時のHC(炭化水素)及びCO(一酸化炭素)の浄化を図るために、この位置に設置している。
【0044】
この後方には、二つの管路を一つに集合する略Y字状のY字排気管22を設けている。排気ガスが直キャタリスト21A,21Bを通過すると、排気干渉の影響を受けにくいため、この位置で排気系を一本に集合するように構成している。
【0045】
また、この後方には、略円筒状のフレキシブルジョイント23を設けて、エンジン7のロール振動等を、このフレキシブルジョイント23で吸収するようにしている。このため、このフレキシブルジョイント23までの排気系が、エンジン7と共に揺動することになる。
【0046】
このフレキシブルジョイント23の後方には、略円筒状のアンダーフットキャタリスト24を設けている。このアンダーフットキャタリスト24も、三元触媒で構成しているが、主に、NOx(窒素酸化物)の浄化を図るため、この位置に設置している。
【0047】
この後方(下流)には、一本の後部排気管19を、トンネル部6内を車両後方側に延びるように形成し、この後端に図示しないサイレンサーを設けて、車両後方に排気ガスを排出するように構成している。
【0048】
このように構成される排気系の構成要素のうち、図4に示すように、直キャタリスト21A,21Bは、前後方向でトンネル拡大部20に対応するように設けている。
【0049】
これは、前述のように、排気マニホールド9が側面視でエンジン上部7aの排気ポート11から略直線状に斜め下方に延びるように形成されていることに伴い、直キャタリスト21を、その直線状の配置に対応して、斜め下方に延びるよう配置するためである。
【0050】
このように、排気系を略直線状に並ぶように配置することにより、エンジン7の排気効率を高めることができる。
【0051】
こうして、トンネル部6前部に大きなトンネル拡大部20を形成することによって、排気系の構成要素を略直線状にレイアウトすることが可能となる。
【0052】
このトンネル拡大部における、排気系の構成要素とプロペラシャフトの位置関係を、図6及び図7でより詳細に説明する。図6はトンネル拡大部近傍の詳細側方断面図、図7は図6のA−A線矢視断面図である。
【0053】
図6に示すように、トンネル拡大部20の上壁面20aは、ダッシュパネル4の上部4a近傍から下方に所定の傾斜角β(例えばβ=20°)をもって傾斜するように形成している。この傾斜角βは、直キャタリスト21の傾斜角γ(例えばγ=20°)とほぼ同様の値としている。これは、後述するように、車両衝突の際に、排気系がこの上壁面20aに沿って、できるだけトンネル部6内に潜り込みやすくするためである。
【0054】
また、この上壁面20aの傾斜角βの延長線Lよりも下方に、排気ポート11が位置するように設定している。これは、車両が衝突した際には、より排気マニホールド9をトンネル部6の空間内6Aに案内しやすくすると共に、排気系の構成要素をより直線状にレイアウトするためである。
【0055】
また、トンネル拡大部20に配置される直キャタリスト21A,21Bは、二つを車幅方向に並設して車両前後方向に延びるように設定している。そして、直キャタリスト21A,21Bの下方には、プロペラシャフト31を配置している。
【0056】
図7に示すように、トンネル拡大部20の内部空間Sに設置される二つの直キャタリスト21A,21Bは、第一キャタリスト21Aと第二キャタリスト21Bとで構成し、それぞれ上下同じ位置に並設してレイアウトしている。
【0057】
このようにレイアウトすることで、前述したように第一キャタリスト21Aと第二キャタリスト21Bが上下方向にオフセットしないため、全ての排気系の構成要素を側面視で略直線状にレイアウトすることが可能となり、排気効率を高めることができる。
【0058】
また、プロペラシャフト31を、この直キャタリスト21A,21Bの下方にレイアウトすることで、二つの直キャタリスト21A,21Bのレイアウト自由度を阻害することがなく、トンネル拡大部21の内部空間Sの上部を、直キャタリスト21A,21Bのレイアウトスペースとして有効に利用することができる。
【0059】
図6に示すように、直キャタリスト21A,21Bの後方には、Y字排気管22を介して一本のフレキシブルジョイント23を設けている。このフレキシブルジョイント23は、直キャタリスト21A,21Bの傾斜よりも大きく傾斜配置されており、ちょうどプロペラシャフト31の側方に配置している。
【0060】
図8に示すように、フレキシブルジョイント23をプロペラシャフト31の側方にレイアウトすることにより、排気管を一本に集合した部分でプロペラシャフト31を回避することができ、プロペラシャフト31と排気系との交差領域での、トンネル部6の幅の拡大を防止している。
【0061】
次に、車両衝突時の挙動について、図9により説明する。
【0062】
図9は、側面視における車両衝突時の挙動を示した説明図であり、(a)が衝突初期、(b)が衝突中期、(c)が衝突後期を示した図である。
【0063】
図9(a)に示すように、車両前方から衝突荷重Fが作用すると、エンジン7が後退して排気マニホールド9も後退する。このとき、トンネル拡大部20の上壁面20aが傾斜していることにより、直キャタリスト21等が上壁面20aに当接して排気系の構成要素(9、21,22,23,24)が下方に案内されることになる。
【0064】
このとき、直キャタリスト21後方のフレキシブルジョイント23が、比較的脆弱であるため、この部分で折れ曲りが生じて、より排気系の構成要素(9、21,22,23,24)がトンネル拡大部20の内部空間S及びトンネル部6の内部空間6Aに潜り込みやすくなる。
【0065】
(b)に示すように、衝突中期になると、直キャタリスト21がトンネル拡大部20の上壁面20aで下方に案内される。これにより、エンジン7もその上部7aが、さらに後方側に回転して、さらに排気系の構成要素(9、21,22,23,24)がトンネル拡大部20の内部空間Sやトンネル部6の内部空間6Sに潜り込みやすくなる。
【0066】
(c)に示すように、さらに衝突後期になると、エンジン7の排気系の構成要素(9、21,22,23,24)がほぼ全てトンネル拡大部20及びトンネル部6に潜り込むことになり、ダッシュパネル4には、排気系の構成要素(9、21,22,23,24)が何ら影響を与えることはない。
【0067】
また、下方に配置しているプロペラシャフト31は、図示しないセンターベアリングサポートに脱落機構による衝突安全機構を設けているため、図示するようにトンネル部6から下方に脱落することになり、プロペラシャフト31がエンジン7の後退を妨げることなく、車両の衝突安全性を高めている。
【0068】
なお、プロペラシャフト31の衝突安全機構は、この他に、軸方向に圧縮力が作用した際にシャフトが縮まるように構成した、いわゆるコラプス機構であってもよい。
【0069】
このように、二つの直キャタリスト21A,21Bを車幅方向に並設していても、プロペラシャフト31が下方に脱落するため、二つの直キャタリスト21A,21Bの下方移動を阻害しないため、車両の衝突安全性を確保することができる。
【0070】
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
この実施形態の車両の前部構造は、ダッシュパネル4とフロアパネル5との間の車幅方向中央に、車室内方側へ突出して車両前後方向に延びるトンネル部6を設け、このトンネル部6の前部に、車室内方側に大きく突出するトンネル拡大部20を形成して、このトンネル拡大部20に対応する位置に、排気マニホールド9を集合させた二つの直キャタリスト21A,21Bを車幅方向に並列して配置している。
【0071】
これにより、二つの直キャタリスト21A,21Bを、上下方向にオフセットすることなく、側面視で略直線状にレイアウトすることができる。
このため、二つの直キャタリスト21A,21Bを、側面視でそれぞれ略直線状に配設することができるため、エンジン7の排気効率を高めることができる。
【0072】
よって、車両前部のエンジンルームERに横置きにエンジン7を配置して、エンジン7前方に吸気マニホールド8を配置して、エンジン7後方に排気マニホールド9を配置した車両の前部構造において、直キャタリストの二つ21A,21Bをトンネル拡大部20内に配置しつつ、排気系の排気効率をできるだけ高めて、エンジン出力を高めることができる。
【0073】
また、この実施形態では、エンジン7の駆動力を、後輪に伝達するプロペラシャフト31を備え、このプロペラシャフト31を二つの直キャタリスト21A,21Bの下方に配置している。
これにより、プロペラシャフト31が邪魔になることがなく、プロペラシャフト31の上方空間を有効に利用して、直キャタリスト21A,21Bを自由に配置することができる。
このため、直キャタリスト21A,21Bを、プロペラシャフト31によって制限を受けることなく、それぞれ略直線状に配設することができる。
よって、プロペラシャフト31を有する四輪駆動車においても、エンジン7の排気効率を高めることができる。
【0074】
また、この実施形態では、二つの直キャタリスト21A,21Bの後方に排気系を一つに集合したフレキシブルジョイント23を設け、このフレキシブルジョイント23を、プロペラシャフト31の側方に配置している。
これにより、排気系の占有するスペースを小さくした上で、プロペラシャフト31を回避して、車両後方側斜め下方に延びるように配置できる。
よって、トンネル部6やトンネル拡大部20を車幅方向に大きくすることなく、排気系の構成要素(9、21,22,23,24)を、プロペラシャフト31を回避して、略直線状にレイアウトすることができる。
【0075】
また、この実施形態では、直キャタリスト21A,21Bを、トンネル拡大部20に対応する位置に配置している。
これにより、トンネル拡大部20の内部空間Sを利用して、占有スペースの大きい直キャタリスト21を、レイアウトすることができる。
よって、エンジン7とダッシュパネル4との間には、占有スペースの大きな直キャタリスト21を設置する必要がなくなり、エンジン7の後退によって直キャタリスト21がダッシュパネル4を押圧しないため、より衝突安全性を高めることができる。
また、加熱される直キャタリスト21周りの空気(熱気)を前後方向に延びるトンネル部6を利用して、車両後方側に排出することができるため、キャタリスト周りの熱害を防止することができる。
【0076】
また、この実施形態では、直キャタリスト21の後方位置に、フレキシブルジョイント23を設けている。
このため、このフレキシブルジョイント23の脆弱性を利用して、より排気系の構成要素を下方に変形し易くして、車両衝突時のトンネル拡大部20内への潜り込みを促進することができる。
【0077】
また、この実施形態では、直キャタリスト21の車両前方側に、前輪14を操舵するステアリングラック16を配置している(図2及び図5参照)。
これにより、車両走行中、ステアリングラック16には、直キャタリスト21周りの熱気が流れにくくなる。
よって、ステアリングラック16に対する直キャタリスト21による熱害を抑制することができ、ステアリングラック16の耐久性を高めることができる。
【0078】
また、この実施形態では、エンジン7を、エンジン上部7aが車両後方側に位置するように傾斜配置している(図2参照)。
これにより、エンジン上部7a前方とエンジン下部7b後方にスペースが確保できる。また、エンジン7の排気ポート11の位置も低くできる。
このため、エンジン7前方に配置される吸気マニホールド8の配置スペースを拡大することができる。また、エンジン7後方に配置されるフロントデフ13を車両前方側に配置することができる。さらに、排気ポート11の位置が低くなるため、より排気系の構成要素(9、21,22,23,24)を略直線状にレイアウトしやすくなり、エンジン7の排気効率を高めることができる。加えて、直キャタリスト21A、21Bまでの距離も短くできるため、触媒の早期活性化を図ることができる。
よって、エンジン7を後方に傾斜配置することで、後方排気エンジンの吸排気系の性能を高めることができ、また、車両のオーバーハング量を低減できるため、車両の操安性能も高めることができる。
【0079】
なお、他の実施形態として、図9に示すような、車両の前部構造も考えられる。すなわち、排気マニホールド9の直後に二つのフレキシブルジョイント123A,123Bを配置し(図面では一つだけ示す)、この二つのフレキシブルジョイント123A,123Bの後方にY字排気管122を配置し、その後方にキャタリスト124を配置するように構成して、このうち、二つのフレキシブルジョイント123A,123Bをトンネル拡大部20内で車幅方向に並設してレイアウトする構造である。
【0080】
このように、フレキシブルジョイント123A,123Bをトンネル拡大部20内にレイアウトすることで、この実施形態でも、トンネル拡大部20内の比較的大きな空間(内部空間S)を利用して、占有スペースの大きいフレキシブルジョイント123A,123Bを容易にレイアウトできる。
【0081】
また、フレキシブルジョイント123A,123Bを車幅方向に並設したことで、前述の実施形態と同様に、排気系の構成要素を、上下方向にオフセットさせることなく、略直線状にレイアウトできるため、排気効率を高めることができる。
【0082】
よって、排気マニホールド9の直後に二つのフレキシブルジョイント123A,123Bを配置したものであっても、エンジン7の排気効率を高め、エンジン出力の向上を図ることができる。
【0083】
以上、この発明の構成と、前述の実施形態との対応において、
この発明の吸気管は、吸気マニホールド8、サージタンク10に対応し、
以下、同様に
排気管は、排気マニホールド9、直キャタリスト21A,21B、Y字排気管22、フレキシブルジョイント23、アンダーフットキャタリスト24に対応し、
ステアリング機構は、ステアリングラック16に対応するも、
この発明は、前述の実施形態に限定されるものではなく、あらゆる車両の前部構造の実施形態を含むものである。
【0084】
本実施形態では、変速機12を備えた一般的な車両で説明したが、モータ・ジュネレータを備えたハイブリッド車両の前部構造で実施してもよい。
【0085】
また、排気マニホールド9の直後の集合管は、直キャタリスト21やフレキシブルジョイント123を設けることなく、単なる筒状の集合排気管で構成してもよい。さらに、その位置も側面視で一部重合していれば、やや上下方向にオフセットしていてもよい。
【0086】
また、集合させる排気マニホールドの組み合わせも、前述の実施形態のものに限定されるものではなく、さらに、集合する排気マニホールドの本数についても、二本に限定されず、三本、四本であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】車両の前部構造の特徴部分を示した斜視図。
【図2】車両の前部構造の全体側面図。
【図3】エンジンを除いた全体正面図。
【図4】車体フレーム等も含めた全体平面図。
【図5】車体フレーム等も含めた全体底面図。
【図6】トンネル拡大部近傍の詳細側方断面図。
【図7】A−A線矢視断面図。
【図8】B−B線矢視断面図。
【図9】側面視における車両衝突時の挙動を示した説明図で、(a)が衝突初期、(b)が衝突中期、(c)が衝突後期を示した図。
【図10】他の実施形態の車両の前部構造の全体側面図。
【符号の説明】
【0088】
ER…エンジンルーム
CR…車室
4…ダッシュパネル
5…フロアパネル
7…エンジン
8…吸気マニホールド
9…排気マニホールド
20…トンネル拡大部
21A,21B…直キャタリスト
23…フレキシブルジョイント
24…アンダーフットキャタリスト
31…プロペラシャフト
123A,123B…フレキシブルジョイント



【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部のエンジンルームに横置きにエンジンを配置して、該エンジンの前方に吸気管を配置して、該エンジンの後方に排気管を配置した車両の前部構造であって、
車室の前壁を構成するダッシュパネルとフロアパネルとの接続部の車幅方向中央に、車室内方側へ突出して車両前後方向に延びるトンネル部を設け、
該トンネル部の前部に、車室内方側に大きく突出するトンネル拡大部を形成して、前記排気管が、エンジンの各気筒に接続された複数の独立排気管と、該独立排気管の下流側で独立排気管を二つに集合する集合排気管とを備え、
該二つの集合排気管を、前記トンネル拡大部に対応する位置で車幅方向に並列して配置した
車両の前部構造。
【請求項2】
エンジンの駆動力を、後輪に伝達するプロペラシャフトを備え、
該プロペラシャフトを前記二つの集合排気管の下方に配置した
請求項1記載の車両の前部構造。
【請求項3】
前記二つの集合排気管の後方で排気管を一つに集合する集合部を設け、
該集合部を、プロペラシャフトの側方に配置した
請求項2記載の車両の前部構造。
【請求項4】
前記集合排気管に、キャタリスト又はフレキシブルチューブを設けて、
該キャタリスト又はフレキシブルチューブを、前記トンネル拡大部に対応する位置に配置した
請求項2又は3記載の車両の前部構造。
【請求項5】
前記キャタリストの車両前方側に、前輪を操舵するステアリング機構を配置した
請求項4記載の車両の前部構造。
【請求項6】
前記エンジンを、エンジン上部が車両後方側に位置するように傾斜配置した
請求項1〜5いずれか記載の車両の前部構造。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−265691(P2008−265691A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115073(P2007−115073)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】