説明

車両の前部構造

【課題】 衝突形態にかかわらず、バンパリンフォースメントの機能を充分に発揮することができる車両の前端構造を提供する。
【解決手段】 車両Vの前部構造は、車両前部に開閉可能に取り付けられたフード20と、フード20の前端部下方に車幅方向に設けられたバンパリンフォースメント11と、フード20の左右前端部下面に取り付けられたフードストライカ21と、バンパリンフォースメント11の上面にフードストライカ21と対向する位置に形成された開口部13とを備える。フード20が閉じられる際には、開口部13にフードストライカ21が挿嵌されて、フード20とバンパリンフォースメント11とがロックされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンルームを覆うフードとバンパビームとをブラケットを介してロックする構造が下記特許文献1に記載されている。ここで、このブラケットのバンパビーム取り付け部には車両前後方向に延びる長孔が形成されており、この長孔の車両前方側に差し込まれたボルトによってブラケットとバンパビームとが締結されている。
【0003】
この構造によれば、車両衝突時に衝突荷重が車両前方からバンパビームに加えられた場合、ボルトおよびバンパビームが長孔に沿って車両後方に摺動移動し、フードロック機構が取り付けられたブラケットには直接的な衝突荷重が伝達されないため、フードロック機構にロックされたフードのストライカーにも衝突荷重が伝達されず、フードの変形を防止することができる。
【特許文献1】特開平10−329753号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えば車高が異なる車両、すなわちバンパビーム(以下「バンパリンフォースメント」と呼ぶ)までの地上高が異なる車両と衝突した場合、上述した構造では、バンパリンフォースメントが前後方向に回転してしまい、衝突荷重を充分に受け止め、左右のフロントサイドメンバに効率良く分散することができないおそれがある。すなわち、衝突の形態によっては、バンパリンフォースメントの機能を充分に発揮することができないおそれがある。
【0005】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、衝突形態にかかわらず、バンパリンフォースメントの機能を充分に発揮することができる車両の前端構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両の前部構造は、車両前部に開閉可能に取り付けられたフードと、フードの前端部下方に車幅方向に設けられたバンパリンフォースメントと、フードの前端部下面に取り付けられたフード側ロック手段と、バンパリンフォースメントの上面にフード側ロック手段と対向する位置に配設されたバンパ側ロック手段とを備え、フードが閉じられる際に、バンパ側ロック手段にフード側ロック手段が係止されて、フードとバンパリンフォースメントとがロックされることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る車両の前部構造によれば、バンパ側ロック手段にフード側ロック手段が係止されて、フードとバンパリンフォースメントとが直接ロックされる。そのため、例えばバンパリンフォースメントまでの地上高が異なる車両と衝突した場合に、バンパリンフォースメントを前後方向に回転させるように作用するモーメントがフードの引張力で低減されるため、バンパリンフォースメントの回転を抑制することができる。また、フードをEA(Energy Absorption)材として用いることができる。その結果、衝突荷重を確実に受け止め、効率良く分散することが可能となる。
【0008】
本発明に係る車両の前部構造では、フード側ロック手段が、フードの下面側に突出する凸部を有し、バンパ側ロック手段が、フードを閉じた状態で凸部と対向する位置に形成された開口部であり、フードが閉じられる際に、凸部が開口部に挿嵌され、フードとバンパリンフォースメントとがロックされることが好ましい。
【0009】
この場合、フードの下面側に突出する凸部がバンパ側ロック手段として機能する開口部に挿嵌されることにより、フード側ロック手段がバンパ側ロック手段に確実に係止される。そのため、フードとバンパリンフォースメントとをより確実にロックすることが可能となる。
【0010】
本発明に係る車両の前部構造では、車両前後方向に延設されたフロントサイドメンバの前端部がバンパリンフォースメントに結合されており、バンパ側ロック手段が、フロントサイドメンバの結合部よりもよりも車幅方向において外側に配設されていることが好ましい。
【0011】
例えば、車両の前方中央部付近がポールなどに衝突する形態(以下「ポール衝突」という)では、車両の略中央部に加わる集中荷重によって、バンパリンフォースメントの両端部には該端部が車両前方に反り返るように荷重が作用する。ここで、本発明に係る車両の前部構造によれば、バンパ側ロック手段がフロントサイドメンバの結合部よりもよりも車幅方向において外側に配設されているため、バンパリンフォースメントの曲げ強度に加えフードの引張力を利用して、バンパリンフォースメントの端部を反り返らせるように作用する荷重を効果的に受け止めることができる。そのため、バンパリンフォースメントの反り返りを抑制することができる。また、フードをEA材として用いることができる。その結果、衝突荷重を確実に受け止め、効率良く分散することが可能となる。
【0012】
また、上記フロントサイドメンバが、車幅方向に対を成して離間配置されており、バンパ側ロック手段が、バンパリンフォースメントの両側に配設されていることが好ましい。
【0013】
この場合、バンパ側ロック手段がバンパリンフォースメントの両側に配設されているため、例えばポール衝突において、バンパリンフォースメントの左右両端部の反り返りを効果的に抑制することができる。その結果、衝突荷重をより確実に受け止め、効率良く分散することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、バンパ側ロック手段にフード側ロック手段が係止されて、フードとバンパリンフォースメントとがロックされる構成とすることにより、衝突形態にかかわらず、バンパリンフォースメントの機能を充分に発揮することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。
【0016】
まず、図1〜3を用いて、実施形態に係る車両の前部構造について説明する。図1は、実施形態に係る車両の前部構造が適用された車両の要部正面図である。なお、図1では、フードが開けられた状態が示されている。また、理解を容易にするため、図1では、本発明と関係の無い部材などは適宜省略した。図2は、フードロックの斜視図である。また、図3は、図1のIII−III線に沿った端面図であり、フードロックのロック動作が示されている。以下、本明細書においては、車両が直前進している際の前方方向を「前方」と定め、前後、左右、上下等の方向を表わす語を用いることとする。
【0017】
車両Vの前部の左右両側部には、車両Vの前後方向に延びる一対のフロントサイドメンバ10が設けられている。フロントサイドメンバ10は、断面ロ字状である中空の骨格部材である。
【0018】
一対のフロントサイドメンバ10の前端部間には、バンパリンフォースメント11が車幅方向に向けて横架されている。なお、フロントサイドメンバ10とバンパリンフォースメント11とは、溶接やボルト接合などによって結合されている。バンパリンフォースメント11は、閉断面構造の部材であり、その内部には、2枚の横壁(バルク)12が車高方向に所定の間隔をあけて設けられている(図3参照)。
【0019】
バンパリンフォースメント11、および一対のフロントサイドメンバ10により画成される車両Vの前部エンジンルーム15の上方には、該エンジンルーム15を覆い、保護する外板部材であるフード20が開閉自在に取り付けられている。詳細には、フード20は、その左右後端部に取り付けられたフードヒンジによって、車両ボディに開閉自在に取り付けられている。すなわち、本実施形態のフード20は、後ろヒンジ前開きタイプのものである。
【0020】
フード20は、外板および該外板の内側に取り付けられたリンフォースメントから構成されており、強い張り剛性を有する部材である。フード20は、フード20を閉めたときに、その前端縁部がバンパリンフォースメント11の上面と車高方向から見て重なり合うように取り付けられている。
【0021】
フード20の左右前端部の下面側には、フード20をバンパリンフォースメント11にロックするためのフードストライカ21が取り付けられている。このフードストライカ21は、特許請求の範囲に記載のフード側ロック手段として機能する。図2に示されるように、フードストライカ21は略四角柱状の凸状部材であり、その先端部は、先端に向かって徐々に細くなるように形成されている。フードストライカ21の各側面の下端側には、内側からバネで付勢された4つの鉤型突起22が揺動自在に取り付けられている。
【0022】
すなわち、鉤型突起22に外部からの力が付加されない状態では、該鉤型突起22は、バネの付勢力によってフードストライカ21の外側に突出し、鉤型突起22を外部から押すことにより若しくは内部から引っ張ることにより、フードストライカ21の中に収容されるように構成されている。
【0023】
一方、バンパリンフォースメント11の左右両端部の上面には、フード20が閉じられた状態でフードストライカ21と対向する位置にフードロッカ(特許請求の範囲記載のバンパ側ロック手段に相当)として機能する開口部13が形成されている。開口部13は、フロントサイドメンバ10との結合部よりもよりも車幅方向において外側に形成される。開口部13の形状は、フードストライカ21の横断面と同一形状の略正方形である。また、開口部13の開口面積は、鉤型突起22の突起部分を含まないフードストライカ21の横断面よりも若干大きく、かつ鉤型突起22の突起部分を含むフードストライカ21の横断面よりも若干小さく設定されている。
【0024】
図3に示されるように、フード20が閉じられる際には、フードストライカ21がバンパリンフォースメント11の開口部13に挿嵌される。その際、フードストライカ21に取り付けられた鉤型突起22が開口部13の縁部に押されて一旦フードストライカ21中に収容される。その後、フードストライカ21が開口部13に完全に挿嵌されたときに、バネの付勢力によって鉤型突起22がフードストライカ21の外側に突出して開口部13の縁部に引っ掛かることにより、フード20とバンパリンフォースメント11とがロック(施錠)される。
【0025】
ここで、各鉤型突起22の内側にはワイヤ23の一端が接続されており、ワイヤ23が引っ張られることによって、各鉤型突起22がフードストライカ21の中に収容されるように構成されている。このワイヤ23の他端はフード20をアンロック(開錠)するためのフードオープナー24に接続されている。フードオープナー24は、例えば、フード20の前端部中央にボルト接合などによって取り付けられており、フードオープナー24が操作されてワイヤ23が引っ張られることにより、各鉤型突起22がフードストライカ21内に収容され、フード20がアンロックされる。
【0026】
以上の構成において、自車両Vが自車両Vよりも車高が低い他車両と正面衝突し、図4に白抜き矢印で示されるように、車両前方からバンパリンフォースメント11の下部に衝突荷重が入力された場合、バンパリンフォースメント11を前方向に回転させるようなモーメントMvがバンパリンフォースメント11に作用する。
【0027】
ここで、本実施形態では、フードストライカ21がバンパリンフォースメント11の開口部13に挿嵌されて、フード20とバンパリンフォースメント11とが直接係合されているため、モーメントMvがフード20の引張力Tvで低減される。そのため、バンパリンフォースメント11の回転が抑制される。また、本実施形態では、フード20がEA(Energy Absorption)材として機能する。その結果、衝突荷重は、バンパリンフォースメント11およびフード20によって確実に受け止められ、左右のフロントサイドメンバ10などに効率良く分散される。
【0028】
また、自車両Vの前方中央部付近がポールなどに衝突し、図5に白抜き矢印で示されるように、車両Vの略中央部に衝突荷重が入力された場合、バンパリンフォースメント11の両端部には該端部を車両前方に反り返えらせるような荷重Mhが作用する。
【0029】
ここで、本実施形態では、バンパリンフォースメント11の両側、かつフロントサイドメンバ10との結合部よりもよりも車幅方向外側において、フードストライカ21とバンパリンフォースメント11の開口部13とがロックされているため、バンパリンフォースメント11の曲げ強度に加えフード20の引張力Thによって、バンパリンフォースメント11の左右両端部を反り返らせるように作用する荷重Mhが効果的に低減される。そのため、バンパリンフォースメント11の左右両端部の反り返りが抑制される。また、本実施形態では、フード20がEA材として機能する。その結果、衝突荷重は、バンパリンフォースメント11およびフード20によって確実に受け止められ、左右のフロントサイドメンバ10などに効率良く分散される。
【0030】
このように、本実施形態によれば、衝突形態(車高が異なる車両との衝突やポール衝突など)にかかわらず、バンパリンフォースメント11の機能を充分に発揮することが可能となる。
【0031】
また、本実施形態によれば、フードストライカ21がバンパリンフォースメント11の開口部13に挿嵌されたときに、鉤型突起22がフードストライカ21の外側に突出して開口部13の縁部に引っ掛かることにより、フード20とバンパリンフォースメント11とがロックされるため、フード20とバンパリンフォースメント11とを確実にロックすることが可能となる。
【0032】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、フード20の左右前端部に取り付けられたフードストライカ21をバンパリンフォースメント11の開口部13に挿嵌して、フード20とバンパリンフォースメント11とを2点でロックしたが、フードストライカ21および開口部13の数は2点に限られない。
【0033】
また、フードストライカ21の形状やロック機構などは上記実施形態に限られるものではなく、フード20の重量や想定される衝突荷重の大きさ等に応じて異なる形状やロック機構を採用してもよい。例えば、フードストライカ21の形状は円柱状などでもよい。
【0034】
また、フードのロック方式としては、公知のタブテール・ボルト方式やフォーク・ピン方式などを用いることもできる。さらに、電磁式などの方式でもよい
【0035】
また、本実施形態では、車両の前部がエンジンルームとなっている車両を例にして説明したが、本発明は、車両の前部がトランクルームになっているミッドシップレイアウトの車両やリアエンジン・リアドライブの車両などにも適用することができる。
【0036】
なお、バンパリンフォースメントの上面に凸状の部材であるストライカ(バンパ側ロック手段)を取り付けるとともに、フードを閉じた状態で上記ストライカと対向する位置に開口部(フード側ロック手段)を形成し、フードが閉じられる際に、バンパリンフォースメントに取り付けられたストライカがフードに形成された開口部に挿嵌され、フードとバンパリンフォースメントとがロックされる構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施形態に係る車両の前部構造が適用された車両の要部正面図である。
【図2】フードストライカの斜視図である。
【図3】図1のIII−III線に沿った端面図である。
【図4】自車両よりも車高が低い車両と衝突した場合の動作を説明するための図である。
【図5】ポール衝突した場合の動作を説明するための図である。
【符号の説明】
【0038】
V…車両、10…フロントサイドメンバ、11…バンパリンフォースメント、13…開口部、20…フード、21…フードストライカ、22…鉤型突起、23…ワイヤ、24…フードオープナー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部に開閉可能に取り付けられたフードと、
前記フードの前端部下方に車幅方向に設けられたバンパリンフォースメントと、
前記フードの前端部下面に取り付けられたフード側ロック手段と、
前記バンパリンフォースメントの上面に前記フード側ロック手段と対向する位置に配設されたバンパ側ロック手段と、を備え、
前記フードが閉じられる際に、前記バンパ側ロック手段に前記フード側ロック手段が係止されて、前記フードと前記バンパリンフォースメントとがロックされることを特徴とする車両の前部構造。
【請求項2】
前記フード側ロック手段は、前記フードの下面側に突出する凸部を有し、
前記バンパ側ロック手段は、前記フードを閉じた状態で前記凸部と対向する位置に形成された開口部であり、
前記フードが閉じられる際に、前記凸部が前記開口部に挿嵌され、前記フードと前記バンパリンフォースメントとがロックされることを特徴とする請求項1に記載の車両の前部構造。
【請求項3】
前記バンパリンフォースメントには、車両前後方向に延設されたフロントサイドメンバの前端部が結合されており、
前記バンパ側ロック手段は、前記フロントサイドメンバの結合部よりもよりも車幅方向において外側に配設されていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両の前部構造。
【請求項4】
前記フロントサイドメンバは、車幅方向に対を成して離間配置されており、
前記バンパ側ロック手段は、前記バンパリンフォースメントの両側に配設されていることを特徴とする請求項3に記載の車両の前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−94163(P2008−94163A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−275510(P2006−275510)
【出願日】平成18年10月6日(2006.10.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】