説明

車両の前部構造

【課題】車両前部との衝突によって車幅方向に広がりを備えていない障害物がフロントサイドフレーム20の車幅方向外側から侵入した時であっても、この障害物が車室内に侵入することをより確実に抑制できる車両の前部構造を提供することを目的とする。
【解決手段】車両の車室前壁部を構成するダッシュパネル1と、ダッシュパネル1下部の車幅方向両端から車両後方に延びる左右一対のサイドシル10と、ダッシュパネル1下部から車両前方に延びる左右一対のフロントサイドフレーム20と、フロントサイドフレーム20の後端から車両後方へ延びる左右一対のフロアフレーム11と、フロントサイドフレーム20の車幅方向外側に位置する左右一対の前輪50とを備えた車両の前部構造であって、フロントサイドフレーム20には、前輪50より車両前方の離間した位置に、車幅方向外側へ向けて延びる荷重受け部材60を備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、フロントサイドフレームの車幅方向外側に加わる車両前方からの衝突荷重を、フロアフレームとサイドシルとに伝達、分散するような車両の前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車室内の乗員を確実に保護するという観点から、障害物に対して車両前部が衝突した時、障害物の車室内への侵入をいかにして抑制するかが課題となっており、この課題を解決すべく、今日までに様々な構造が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、フロントサイドフレームの略真下に配設されたサブフレームの前端部とフロントサイドフレームとの間に衝突荷重伝達部材を介装したものが開示されている。
【0004】
特許文献1は、ポールのように車幅方向に広がりを備えていない障害物に車両前部が衝突した時を想定したものであり、前記障害物の衝突時にその衝突荷重がサブフレームに加わると、衝突荷重伝達部材を介して衝突荷重をフロントサイドフレームに分散させることが可能になっている。この場合、最終的には、フロントサイドフレームが有する衝突エネルギー吸収機能によって前記衝突荷重を吸収することができる。
【0005】
また、特許文献2では、車両前方からの衝突荷重により前輪をトーアウト方向に積極的に転舵させる前輪位置変化手段を、フロントサイドフレーム(特許文献2の「サイドメンバ」に相当)の略真下に配したサブフレームに備えた技術が開示されている。
【0006】
特許文献2では、車両前方から衝突荷重がサブフレームに加わると、サブフレームの前輪位置変化手段によって、サブフレームが車幅方向外側へ折れるようにして座屈変形することで、前輪がトーアウト方向に転舵するとともに、後方に移動してアウトリガーまたはサイドシルに当接する。これによって、車両前方からの衝突荷重をサイドシルに分散させることができる。
【0007】
また、特許文献3では、バンパレインフォースメント(特許文献3の「バンパリンフォース」に相当)の端部後面と、サイドシル前端部とにエアバックを備えた技術が開示されている。
【0008】
特許文献3では、車両前方から衝突荷重が加わると、バンパレインフォースメントの端部後面及びサイドシル前端部のエアバックを展開して、衝突荷重をエアバック及び前輪を介してサイドシルに分散させることができる。
【0009】
ところで、近年、車両前部がポールのように車幅方向に広がりを備えていない障害物に衝突した時、特にフロントサイドフレームの車幅方向外側から侵入した前記障害物が車室内に侵入することをより確実に抑制したいというニーズが高まっている。
【0010】
ここで、前記特許文献1について見てみると、該特許文献1では、あくまでも前記障害物が車両前部の車幅方向中央部に衝突、侵入した時を想定しているに過ぎない。従って、フロントサイドフレームの略真下に配設されたサブフレームで前記障害物の衝突荷重を受け止める前記特許文献1の構成では、フロントサイドフレームの車幅方向外側から侵入した前記障害物が車室内へ侵入することを確実に抑制できない。
【0011】
また、特許文献2では、左右のフロントサイドフレームまたはサブフレームに、ある程度車幅方向に広がりのある障害物が衝突した時でなければ、サブフレームには衝突荷重が加わり難い。
【0012】
従って、車幅方向に広がりを備えていない前記障害物にフロントサイドフレームの車幅方向外側、すなわちサブフレームの車幅方向外側が衝突すると、特許文献2では、サブフレームに十分な衝突荷重が加わらず、外折れしながら座屈変形することができないため、前輪を介して衝突荷重をサイドシルに伝達、分散させることができない。このため、特許文献2では、フロントサイドフレームの車幅方向外側から侵入した前記障害物が車室内へ侵入することを確実に抑制できない。
【0013】
また、特許文献3では、フロントサイドフレームの車幅方向外側が前記障害物に衝突した時、この障害物への衝突をセンサーで検出できずに、エアバックを展開できないおそれがある。このため、特許文献3では、フロントサイドフレームの車幅方向外側から侵入した前記障害物が車室内へ侵入することを確実に抑制できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2010−83258号公報
【特許文献2】特開2003−182643号公報
【特許文献3】特開2008−195261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
この発明は、上述の問題に鑑み、車両前部との衝突によって車幅方向に広がりを備えていない障害物がフロントサイドフレームの車幅方向外側から侵入した時であっても、この障害物が車室内に侵入することをより確実に抑制できる車両の前部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この発明は、車両の車室前壁部を構成するダッシュパネルと、該ダッシュパネル下部の車幅方向両端から車両後方に延びる左右一対のサイドシルと、該サイドシルより車幅方向内側で前記ダッシュパネル下部から車両前方に延びる左右一対のフロントサイドフレームと、該フロントサイドフレームの後端から車両後方へ延びる左右一対のフロアフレームと、前記フロントサイドフレームの車幅方向外側にて、前記サイドシルの前端より車両前方に位置する左右一対の前輪とを備えた車両の前部構造であって、前記フロントサイドフレームには、前記前輪より車両前方の離間した位置に、車幅方向外側へ向けて延びる荷重受け部材を備えたことを特徴とする。
【0017】
この発明により、車両前部との衝突によって車幅方向に広がりを備えていない障害物がフロントサイドフレームの車幅方向外側から侵入した時であっても、この障害物が車室内に侵入することをより確実に抑制できる。
【0018】
具体的には、前記障害物にフロントサイドフレームの車幅方向外側が衝突すると、荷重受け部材は、前記障害物への衝突時に発生する衝突荷重を受け止めることができる。
【0019】
また、荷重受け部材は、フロントサイドフレームの車幅方向外側からの衝突荷重を、フロントサイドフレームに伝達し、さらに、フロントサイドフレームの車両後方に延びるフロアフレームを介して車両後方に分散することができる。
【0020】
従って、荷重受け部材により、フロントサイドフレームの車幅方向外側から侵入した前記障害物を受け止めて、その衝突荷重を車両後方に伝達、分散することで、前記障害物が車室内へ侵入することをより確実に抑制できる。
【0021】
この発明の態様として、前記フロントサイドフレームの車幅方向外側部に、前記荷重受け部材より車両後方で、車幅方向外側へ向けて膨出した膨出部を備えることができる。
【0022】
この態様により、膨出部は、車両前方からの衝突荷重を受け止めきれずに、フロントサイドフレームから離脱、後退した荷重受け部材と当接して、これを受け止めることができる。
【0023】
また、膨出部は、フロントサイドフレームの車幅方向外側から侵入した前記障害物による衝突荷重を、荷重受け部材を介して受け止めるとともに、フロントサイドフレーム及びフロアフレームを介して車両後方に伝達、分散することができる。
【0024】
従って、膨出部により、フロントサイドフレームから離脱、後退した荷重受け部材を受け止めて、フロントサイドフレームの車幅方向外側からの衝突荷重を車両後方に伝達、分散することで、前記障害物が車室内へ侵入することをより確実に抑制できる。
【0025】
また、この発明の態様として、前記フロントサイドフレームの車幅方向外側部に、前記荷重受け部材より車両後方にて車両前後方向に延びるとともに、車両前方からの荷重入力に対して車両前後方向に圧縮変形する圧縮変形部材を備えることができる。
【0026】
この態様により、荷重受け部材がフロントサイドフレームから離脱、後退する際、圧縮変形部材は、荷重受け部材によって車両後方に押圧されて圧縮変形することで、フロントサイドフレームの車幅方向外側からの衝突荷重を吸収することができる。
【0027】
従って、圧縮変形部材により、フロントサイドフレームの車幅方向外側からの衝突荷重を吸収することで、前記障害物が車室内へ侵入することをより確実に抑制できる。
【0028】
また、この態様として、前記荷重受け部材は、前記フロントサイドフレームの車幅方向外側部に沿って車両前後方向に延びるとともに、車両前方からの荷重入力に対して車両前後方向に圧縮変形する圧縮変形部と、該圧縮変形部の前端から車幅方向斜め前方外側に向けて延出する荷重受け部とを備え、前記荷重受け部の後端に、車両前方からの荷重入力に対して、前記荷重受け部を車幅方向外側に折曲可能な折曲予定部を備えることができる。
【0029】
この態様により、荷重受け部材は、フロントサイドフレームの車幅方向外側に侵入した前記障害物による衝突荷重を荷重受け部で受け止めるとともに、荷重受け部が折曲予定部を中心に車幅方向外側へ倒れるように折れ曲がることで衝突荷重を吸収することができる。
【0030】
さらに、フロントサイドフレームの車幅方向外側で前記障害物の侵入が進行すると、圧縮変形部が荷重受け部によって車両後方に押圧されて圧縮変形することで、衝突荷重を吸収することができる。
【0031】
従って、荷重受け部と、圧縮変形部と、折曲予定部とを備えた荷重受け部材により、フロントサイドフレームの車幅方向外側からの衝突荷重を吸収することで、前記障害物が車室内へ侵入することをより確実に抑制できる。
【0032】
また、この発明の態様として、前記荷重受け部材に、前記前輪の前部を押圧する前輪押圧部材を備えることができる。
【0033】
この態様により、荷重受け部材がフロントサイドフレームの側面から離脱、後退すると、前輪押圧部材が前輪の前部に当接して、フロントサイドフレームの車幅方向外側からの衝突荷重を前輪に伝達することができる。
【0034】
さらに、フロントサイドフレームの車幅方向外側で前記障害物の侵入が進行すると、前輪は、前輪押圧部材で押し潰されながら後退する。そして、最終的には、前輪の後部とサイドシルの前端とが当接することにより、フロントサイドフレームの車幅方向外側からの衝突荷重を、前輪を介してサイドシルに伝達することができる。
【0035】
従って、前輪押圧部材により、フロントサイドフレームの車幅方向外側からの衝突荷重を、前輪を介してサイドシルに伝達させて車両後方に分散することで、前記障害物が車室内へ侵入することをより確実に抑制できる。
【0036】
この発明の態様として、前記荷重受け部材の車両前方に、車両前方からの荷重入力に対して、該荷重を吸収する荷重吸収部材を備えることができる。
衝撃吸収部材は、金属、発泡ウレタンなどの材質で、複数の平板を並べた構成とする、あるいはブロック状の塊などとすることができる。
【0037】
この態様により、車両前部との衝突によって前記障害物がフロントサイドフレームの車幅方向外側から侵入する際、フロントサイドフレームの車幅方向外側からの初期衝突荷重を吸収することができる。
【0038】
また、この発明は、車両の車室前壁部を構成するダッシュパネルと、該ダッシュパネル下部から車両前方に延びる左右一対のフロントサイドフレームと、該フロントサイドフレームの後端から車両後方へ延びる左右一対のフロアフレームとを備えるとともに、前記左右一対のフロントサイドフレームと、前記ダッシュパネルとで形成した車両前部空間に配置するエンジンと、該エンジンを、前記フロントサイドフレームに対して揺動可能に支持するエンジンマウントとを備えた車両の前部構造であって、前記エンジンマウントに、車幅方向外側へ向けて延びる荷重受け部材を備えたことを特徴する。
【0039】
この発明により、車両前部との衝突によって車幅方向に広がりを備えていない障害物がフロントサイドフレームの車幅方向外側から侵入した時であっても、この障害物が車室内に侵入することをより確実に抑制できる。
【0040】
具体的には、前記障害物にフロントサイドフレームの車幅方向外側が衝突すると、荷重受け部材は、前記障害物への衝突時に発生する衝突荷重を受け止めることができる。
【0041】
また、荷重受け部材は、フロントサイドフレームの車幅方向外側からの衝突荷重を、エンジンマウントを介してフロントサイドフレームに伝達し、さらに、フロントサイドフレームの車両後方に延びるフロアフレームを介して車両後方に分散することができる。
【0042】
従って、荷重受け部材により、フロントサイドフレームの車幅方向外側に侵入した前記障害物を受け止めて、衝突荷重を車両後方に伝達、分散することで、前記障害物が車室内へ侵入することをより確実に抑制できる。
【発明の効果】
【0043】
この発明により、車両前部との衝突によって車幅方向に広がりを備えていない障害物がフロントサイドフレームの車幅方向外側から侵入した時であっても、この障害物が車室内に侵入することをより確実に抑制できる車両の前部構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】車両の前部構造を示す底面図。
【図2】車両の前部構造を示す左側面図。
【図3】左フロントサイドフレームの構造を示す平面からの斜視図。
【図4】ポールと車両前部左側との位置関係を示す底面図。
【図5】衝突第1段階の車両の前部状態を示す底面図。
【図6】衝突第2段階の車両の前部状態を示す底面図。
【図7】衝突第3段階の車両の前部状態を示す底面図。
【図8】衝突最終段階の車両の前部状態を示す底面図。
【図9】第2実施形態における車両の前部構造を示す底面図。
【図10】第2実施形態における車両の前部構造を示す左側面図。
【図11】第2実施形態における左フロントサイドフレームの構造を示す平面からの斜視図。
【図12】第2実施形態におけるポールと車両前部左側との位置関係を示す底面図。
【図13】第2実施形態における衝突第1段階の車両の前部状態を示す底面図。
【図14】第2実施形態における衝突第2段階の車両の前部状態を示す底面図。
【図15】第2実施形態における衝突第3段階の車両の前部状態を示す底面図。
【図16】第2実施形態における衝突最終段階の車両の前部状態を示す底面図。
【図17】第3実施形態における車両の前部構造を示す平面図。
【図18】第3実施形態における車両の前部構造を示す底面からの斜視図。
【図19】第3実施形態における衝突時の車両の前部状態を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0045】
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
[実施形態1]
【0046】
図1は、車両の前部構造の底面図を示し、図2は、車両の前部構造の左側面図を示し、図3は、左フロントサイドフレーム20の構造における平面からの斜視図を示している。
【0047】
なお、本明細書において前部とは、車両前方側の部分を示し、後部とは、車両後方側の部分を示す。そして、図中において、矢印Frは車両前方を示し、矢印Rrは車両後方を示すとともに、矢印Rh及びLhは車幅方向を示しており、矢印Rhは車両右方向を示し、矢印Lhは車両左方向を示している。
【0048】
車両の前部構造は、図1及び図2に示すように、ダッシュパネル1と、ダッシュパネル1の下部における車幅方向両端から車両後方に延びる左右一対のサイドシル10と、サイドシル10より車幅方向内側でダッシュパネル1の下部から車両後方に延びる左右一対のフロアフレーム11と、ダッシュパネル1下部から車両後方に延びてサイドシル10及びフロアフレーム11の間を覆うフロアパネル2とを備えている。そして、図示の車両では、ダッシュパネル1を前壁部、フロアパネル2を床面として、これらにより車両の車室空間を形成している。
【0049】
さらに、車両の前部構造は、左右一対のフロアフレーム11の前端から車両前方に延びる左右一対のフロントサイドフレーム20と、左右一対のフロントサイドフレーム20の前端に連結するクラッシュカン30と、クラッシュカン30の前端を車幅方向に連結するバンパレインフォースメント40と、フロントサイドフレーム20の車幅方向外側にて、サイドシル10の前端より車両前方に位置する左右一対の前輪50とを備えている。そして、ダッシュパネル1と、フロントサイドフレーム20と、クラッシュカン30と、バンパレインフォースメント40とで車両の車室部分前方にエンジンなどを配置するエンジンルームEを形成している。
【0050】
ダッシュパネル1は、エンジンルームEと車両の車室とを仕切る車室前壁部を構成している。
サイドシル10は、ダッシュパネル1の下部から略水平に車両後方に延び、車幅方向の断面が閉断面形状の筒状体で構成している。
【0051】
フロアフレーム11は、ダッシュパネル1の下部から略水平に車両後方に延び、車幅方向の断面が閉断面形状の筒状体で構成している。
クラッシュカン30は、車両前後方向に延び、車幅方向の断面が閉断面形状の筒状体で構成し、フロントサイドフレーム20の前端に連結固定している。
【0052】
バンパレインフォースメント40は、閉断面形状の円弧状部材であり、車幅方向において左右のフロントサイドフレーム20間と略同等の幅を有している。
前輪50は、ゴム材でドーナツ状に形成されたタイヤ51と、アルミあるいは鉄で形成したホイール52とで構成している。
【0053】
なお、前輪50は、図1及び図2において、二点鎖線で詳細な図示を省略したフロントサイドフレーム20の略真下に連結したサブフレーム12と、サブフレーム12に連結したロアアーム13とを介して車体に連結支持している。
【0054】
フロントサイドフレーム20は、フロアフレーム11の前端からダッシュパネル1に沿うように斜め上方に延設したのち、車両前方に向けて延出している。なお、フロントサイドフレーム20は、車幅方向の断面が略矩形の閉断面形状の筒状体で構成している。
【0055】
さらに、フロントサイドフレーム20の車幅方向外側における外側面21の車両後部には、車幅方向外側に膨出した膨出部22を形成している。
この膨出部22の前端には、フロントサイドフレーム20の外側面21に対して、略垂直な平面部22aを形成している。
【0056】
また、フロントサイドフレーム20の車幅方向外側の外側面21には、図1から図3に示すように、フロントサイドフレーム20の前端に荷重受け部材60、荷重受け部材60と膨出部22との間に圧縮変形部材61、荷重受け部材60の後面に上下2つの前輪押圧部材62、及び荷重受け部材60の前面に7枚の荷重吸収部材63を設けている。
【0057】
荷重受け部材60は、車両前後方向に一定の厚みを有する平板形状に形成している。また、荷重受け部材60は、フロントサイドフレーム20の外側面21に車幅方向外側に向けて配設するとともに、衝突による荷重入力によって離脱可能となるように外側面21に対して接合している。
【0058】
圧縮変形部材61は、車幅方向の断面が断面略ハット状であって、前端を荷重受け部材60の後面に、後端を膨出部22の平面部22aに固定して、フロントサイドフレーム20の外側面21に沿うように延ばしている。また、圧縮変形部材61は、衝突による荷重入力によって車両前方から順に離脱可能となるように、フロントサイドフレーム20の外側面21に対して、複数箇所スポット溶接などで接合している。
【0059】
前輪押圧部材62は、車両上下方向に一定の厚みを有するとともに、前輪50の車幅方向における幅と略同等の幅を有する水平部62aと、水平部62aの両端から車両後方に突出した爪部62bとで底面視が略コの字状に形成している。また、前輪押圧部材62は、荷重受け部材60の後面において、上端と下端にそれぞれ固定している。
【0060】
荷重吸収部材63は、底面視が扇状の薄平板に形成している。この荷重吸収部材63は、車両上下方向に略等間隔に並べて、荷重受け部材60の前面に固定している。
【0061】
このような車両の前部構造において、車幅方向に広がりを備えていない障害物に車両の左前部が衝突する際の車両の前部状態について、図4から図8を用いて説明する。
【0062】
なお、図4は、ポールPと車両前部左側との位置関係の底面図を示し、図5は、ポールPによって荷重吸収部材63が押し潰される衝突第1段階の車両の前部状態の底面図を示し、図6は、荷重受け部材60がフロントサイドフレーム20から離脱する衝突第2段階の車両の前部状態の底面図を示し、図7は、前輪50のタイヤ51が変形する衝突第3段階の車両の前部状態の底面図を示し、図8は、サイドシル10が前輪50に当接する衝突最終段階の車両の前部状態の底面図を示している。
また、図1及び図2において、二点鎖線で図示したサブフレーム12は、図4から図8では図示を省略する。
【0063】
図4に示すように、車幅方向に広がりを備えていない障害物として、例えば、電信柱のような円柱状のポールPがあり、車両は、左フロントサイドフレーム20の車幅方向外側端が、ポールPの中心に向かうように矢印Xの方向に直進している。
【0064】
このような位置関係にあるポールPに車両前部が衝突し、ポールPがバンパレインフォースメント40に当接すると、衝突によって車両が右方向に若干押し動かされ、図5に示すように、左フロントサイドフレーム20の車幅方向外側からポールPが車両前部に侵入してくる。この時、ポールPは、車幅方向においてサイドシル10とフロントサイドフレーム20との間の比較的剛性の低い領域に位置することになる。
【0065】
そして、左フロントサイドフレーム20の車幅方向外側からポールPが車両前部に侵入すると、衝突第1段階において、荷重吸収部材63は、ポールPによって車両後方に押し潰される。そして、荷重受け部材60は、押し潰された荷重吸収部材63を介してポールPに当接して、ポールPの車室への侵入を阻止する。
【0066】
その後、車両がさらに矢印Xの方向へ進んで、荷重受け部材60がポールPを受け止めきれなくなると、図6に示すように、荷重受け部材60は、衝突第2段階において、左フロントサイドフレーム20の外側面21との接合が剥離して、後面に固定した前輪押圧部材62とともに左フロントサイドフレーム20の外側面21から離脱する。
【0067】
そして、フロントサイドフレーム20の外側面21から荷重受け部材60が離脱すると、圧縮変形部材61は、荷重受け部材60が車両前方から押し潰すように前端から順に車両前後方向に圧縮変形を開始する。
【0068】
この際、上述したように、圧縮変形部材61を、衝突による荷重入力によって車両前方から順に離脱可能となるように、フロントサイドフレーム20の外側面21に対して、複数箇所スポット溶接などで接合することによって、圧縮変形部材61が、車幅方向外側に折れ曲がることなく、前端から車両前後方向に圧縮変形し、外側面21から離脱する。
【0069】
また、荷重受け部材60が外側面21から離脱し、圧縮変形部材61が圧縮変形を開始すると、前輪50のタイヤ51は、荷重受け部材60の後面に固定した前輪押圧部材62の爪部62bに当接する。
【0070】
さらに、車両が矢印Xの方向へ進むと、図7に示すように、圧縮変形部材61は、衝突第3段階において、荷重受け部材60によって車両前方から押し潰されるように圧縮変形が進行する。
【0071】
また、前輪50は、荷重受け部材60の後面に固定した前輪押圧部材62の爪部62bが食い込むとともに水平部62aで押圧されて、タイヤ51が押し潰されるように変形する。
【0072】
この際、矢印Xの方向に進行中の車両は、サブフレーム12及びロアアーム13を介して車体と連結支持している前輪50と、フロントサイドフレーム20の外側面21に接合している圧縮変形部材61とで荷重受け部材60を支持し、ポールPを受け止めるようにして車室への侵入を阻止している。
【0073】
その後、車両が停止せずに矢印Xの方向に進むと、図8に示すように、衝突最終段階において、ロアアーム13がサブフレーム12から切り離されて、前輪50とともに車体から離脱する。
【0074】
そして、サイドシル10の前端が前輪50の後部に当接し、前輪50のタイヤ51は、荷重受け部材60及び前輪押圧部材62と、サイドシル10の前端に挟まれるようにして押し潰される。
【0075】
また、ロアアーム13がサブフレーム12から切り離されると、圧縮変形部材61は、荷重受け部材60によって変形圧縮がさらに進行して完全に押し潰される。
【0076】
そして、完全に押し潰された圧縮変形部材61を介してフロントサイドフレーム20の膨出部22が、荷重受け部材60に当接するとともに、タイヤ51を押し潰された前輪50のホイール52を介してサイドシル10の前端が、荷重受け部材60に当接する。
このようにして、荷重受け部材60と、膨出部22と、前輪50と、サイドシル10とでポールPを受け止めて、ポールPの車室への侵入を阻止する。
【0077】
以上のように、車両の車室前壁部を構成するダッシュパネル1と、ダッシュパネル1下部の車幅方向両端から車両後方に延びる左右一対のサイドシル10と、サイドシル10より車幅方向内側でダッシュパネル1下部から車両前方に延びる左右一対のフロントサイドフレーム20と、フロントサイドフレーム20の後端から車両後方へ延びる左右一対のフロアフレーム11と、フロントサイドフレーム20の車幅方向外側にて、サイドシル10の前端より車両前方に位置する左右一対の前輪50とを備えた車両の前部構造であって、フロントサイドフレーム20には、前輪50より車両前方の離間した位置に、車幅方向外側へ向けて延びる荷重受け部材60を備えている。これにより、車両前部との衝突によってポールPがフロントサイドフレーム20の車幅方向外側から侵入した時であっても、このポールPが車室内に侵入することをより確実に抑制できる。
【0078】
具体的には、ポールPにフロントサイドフレーム20の車幅方向外側が衝突すると、荷重受け部材60は、ポールPへの衝突時に発生する衝突荷重を受け止めることができる。
【0079】
さらに、荷重受け部材60は、フロントサイドフレーム20の車幅方向外側からの衝突荷重を、フロントサイドフレーム20に伝達して、フロントサイドフレーム20の車両後方に延びるフロアフレーム11を介して車両後方に分散することができる。
【0080】
従って、荷重受け部材60により、フロントサイドフレーム20の車幅方向外側から侵入したポールPを受け止めて、その衝突荷重を車両後方に伝達、分散することで、ポールPがサイドシル10とフロントサイドフレーム20との間の領域を経て、車室内に侵入することをより確実に抑制できる。
【0081】
また、荷重受け部材60の車両前方に荷重吸収部材63を備えたことにより、車両前部との衝突によってポールPがフロントサイドフレーム20の車幅方向外側から侵入する際、フロントサイドフレーム20の車幅方向外側からの初期衝突荷重を吸収することができる。
【0082】
また、フロントサイドフレーム20に圧縮変形部材61を備えたことより、荷重吸収部材63と荷重受け部材60とで衝突荷重を吸収しきれずに、荷重受け部材60がフロントサイドフレーム20の外側面21から離脱しても、圧縮変形部材61が、荷重受け部材60によって車両後方に押圧されて圧縮変形することで、フロントサイドフレーム20の車幅方向外側からの衝突荷重を吸収することができる。
【0083】
また、フロントサイドフレーム20に膨出部22を備えたことにより、膨出部22は、車両前方からの衝突荷重を受け止めきれずに、フロントサイドフレーム20の外側面21から離脱した荷重受け部材60と当接して、これを受け止めることができる。
【0084】
さらに、膨出部22は、荷重吸収部材63や圧縮変形部材61で吸収しきれなかった衝突荷重を、荷重受け部材60を介して受け止めるとともに、フロントサイドフレーム20及びフロアフレーム11を介して車両後方に伝達、分散することができる。
【0085】
また、荷重受け部材60に前輪押圧部材62を備えたことにより、荷重受け部材60がフロントサイドフレーム20の外側面21から離脱すると、前輪押圧部材62が前輪50の前部に当接して、フロントサイドフレーム20の車幅方向外側からの衝突荷重を前輪50に伝達することができる。
【0086】
さらに、フロントサイドフレーム20の車幅方向外側で、ポールPの侵入が進行すると、前輪押圧部材62によって前輪50が押し潰されて、衝突荷重を吸収する。そして、最終的には、前輪50の後部とサイドシル10の前端とが当接することにより、フロントサイドフレーム20の車幅方向外側からの衝突荷重を、前輪50(ホイール52)を介してサイドシル10に伝達することができる。
【0087】
従って、フロントサイドフレーム20の車幅方向外側から侵入したポールPを荷重受け部材60で受け止めて、その衝突荷重をフロントサイドフレーム20や前輪50、前輪押圧部材62及びサイドシル10を介して車両後方に伝達、分散することで、ポールPが車室内に侵入することをより確実に抑制できる。
[実施形態2]
【0088】
次に、実施形態1に対して、フロントサイドフレーム20の外側面21に設けたポールPを受け止める構成要素が異なる別の実施形態を、図9から図16を用いて説明する。
【0089】
なお、上述した実施形態1と同じ構成要素は、同じ符号を付与して、その詳細な説明を省略する。
また、図9は、第2実施形態における車両の前部構造の底面図を示し、図10は、第2実施形態における車両の前部構造の左側面図を示し、図11は、第2実施形態における左フロントサイドフレームの構造の平面からの斜視図を示している。
【0090】
まず、フロントサイドフレーム20の外側面21には、図9から図11に示すように、外側面21に沿って接合した荷重受け部材70と、荷重受け部材70の前端に保持部材74を介して固定した前輪押圧部材62とを設けている。さらに、クラッシュカン30の車幅方向外側の外側面31には、3枚の荷重吸収部材63を設けている。
【0091】
荷重受け部材70は、後端がフロントサイドフレーム20の膨出部22に当接して車両前方に延びる圧縮変形部71と、圧縮変形部71から車幅方向斜め前方に延出した荷重受け部72とを一体に備えている。
【0092】
なお、圧縮変形部71から荷重受け部72に屈曲する部分には、衝突荷重に対して荷重受け部材70の折れ曲がり変形を促すために、クサビ状に凹設した折曲予定部73を設けている。
【0093】
圧縮変形部71は、車幅方向の断面が断面略ハット状であって、後端を膨出部22の平面部22aに固定して、フロントサイドフレーム20の外側面21に沿ってフロントサイドフレーム20の車両前後方向中間部まで延びている。また、圧縮変形部71は、衝突による荷重入力によって、車両前方から順に離脱可能なように、フロントサイドフレーム20の外側面21に対して複数箇所スポット溶接などで接合している。
【0094】
荷重受け部72は、圧縮変形部71の前端から車幅方向斜め前方に延出し、フロントサイドフレーム20の前端近傍で、さらに車幅方向外側へ僅かに屈曲した形状に形成している。
【0095】
保持部材74は、車両上下方向に延びた平板であって、前面を荷重受け部材72の後面に固定している。また、保持部材74の後面の上端及び下端には、前輪押圧部材62を固定している。
また、クラッシュカン30の外側面31に固定した荷重吸収部材63は、底面視が扇状の薄平板であって、車幅方向内側側面を外側面31に固定している。
【0096】
このような車両の前部構造において、ポールPに車両の左前部が衝突する際の車両の前部状態について、図12から図16を用いて説明する。
なお、図12は、第2実施形態におけるポールと車両前部左側との位置関係の底面図を示し、図13は、第2実施形態において、荷重吸収部材63が押し潰される衝突第1段階の車両の前部状態の底面図を示し、図14は、荷重受け部材70が折れ曲がり変形する衝突第2段階の車両の前部状態の底面図を示し、図15は、前輪50のタイヤ51が変形する衝突第3段階の車両の前部状態の底面図を示し、図16は、サイドシル10が前輪50に当接する衝突最終段階の車両の前部状態の底面図を示している。
また、図9及び図10において、二点鎖線で図示したサブフレーム12は、図12から図16では図示を省略する。
【0097】
図12に示すように、例えば、電信柱のようなポールPに対して、車両は、左フロントサイドフレーム20の車幅方向外側端が、ポールPの中心に向かうように矢印Xの方向に直進している。
【0098】
このような位置関係にあるポールPに車両前部が衝突し、ポールPがバンパレインフォースメント40に当接すると、衝突によって車両が右方向に若干押し動かされ、図13に示すように、左フロントサイドフレーム20の車幅方向外側からポールPが車両前部に侵入してくる。この時、ポールPは、車幅方向においてサイドシル10とフロントサイドフレーム20との間の比較的剛性の低い領域に位置することになる。
【0099】
そして、左フロントサイドフレーム20の車幅方向外側からポールPが車両前部に侵入すると、衝突第1段階において、荷重吸収部材63がポールPによって押し潰されるとともに、クラッシュカン30の外側面31から離脱する。その後、荷重受け部材70の荷重受け部72の前端が、押し潰された荷重吸収部材63を介してポールPに当接する。
【0100】
荷重受け部72の前端がポールPに当接しながら、車両が矢印Xの方向へ進むと、図14に示すように、荷重受け部材70は、衝突第2段階において、折曲予定部73で荷重受け部72が車両後方に倒れるように変形する。
また、荷重受け部材70が変形すると、荷重受け部72の前端に固定した前輪押圧部材62の爪部62bが、前輪50の前部に当接する。
【0101】
さらに、車両が矢印Xの方向へ進むと、図15に示すように、荷重受け部材70は、衝突第3段階において、荷重受け部72が圧縮変形部71に対して略直角になるように変形する。この際、前輪50は、前輪押圧部材62の爪部62bが食い込むとともに水平部62aで押圧されて、タイヤ51が押し潰されるように変形する。
【0102】
その後、車両が停止せずに矢印Xの方向へ進むと、図16に示すように、圧縮変形部71は、衝突最終段階において、荷重受け部72が車両前方から押し潰すように前端(折曲予定部73)から順に圧縮変形を開始する。
【0103】
この際、上述したように、圧縮変形部71を、衝突による荷重入力によって車両前方から順に離脱可能となるように、フロントサイドフレーム20の外側面21に対して、複数個所スポット溶接などで接合することによって、圧縮変形部71が、車幅方向外側へ折れ曲がることなく、前端(折曲予定部73)から車両前後方向に圧縮変形し、外側面21から離脱する。
【0104】
さらに、ロアアーム13がサブフレーム12から切り離されて、前輪50とともに車体から離脱する。そして、サイドシル10の前端が前輪50の後部に当接し、前輪50のタイヤ51は、荷重受け部72及び前輪押圧部材62と、サイドシル10の前端に挟まれるようにして押し潰される。
また、ロアアーム13がサブフレーム12から切り離されると、圧縮変形部71は、荷重受け部72によって変形圧縮がさらに進行して完全に押し潰される。
【0105】
そして、完全に押し潰された圧縮変形部71を介してフロントサイドフレーム20の膨出部22が荷重受け部72に当接するとともに、タイヤ51が押し潰された前輪50のホイール52を介してサイドシル10の前端が荷重受け部72に当接する。
【0106】
このようにして、荷重受け部材70の荷重受け部72と、膨出部22と、前輪50と、サイドシル10とで、ポールPを受け止めて、ポールPの車室への侵入を阻止する。
【0107】
以上のように、荷重受け部材70が、フロントサイドフレーム20の外側面21に沿って車両前後方向に延びるとともに、車両前方からの荷重入力に対して車両前後方向に圧縮変形する圧縮変形部71と、圧縮変形部71の前端から車幅方向斜め前方外側に向けて延出する荷重受け部72とを備え、荷重受け部72の後端に、車両前方からの荷重入力に対して、荷重受け部72を車幅方向外側に折曲可能な折曲予定部73を備えたことにより、荷重受け部材70は、フロントサイドフレーム20の車幅方向外側に侵入したポールPによる衝突荷重を荷重受け部72で受け止めるとともに、荷重受け部72が折曲予定部73を中心に車幅方向外側へ倒れるように折れ曲がることで衝突荷重を吸収することができる。
【0108】
さらに、フロントサイドフレーム20の車幅方向外側でポールPの侵入が進行すると、圧縮変形部71が荷重受け部72によって車両後方に押圧されて圧縮変形することで、衝突荷重を吸収することができる。
【0109】
従って、荷重受け部72と、圧縮変形部71と、折曲予定部73とを備えた荷重受け部材70により、フロントサイドフレーム20の車幅方向外側からの衝突荷重を吸収することで、ポールPがサイドシル10とフロントサイドフレーム20との間の領域を経て、車室内に侵入することをより確実に抑制できる。
【0110】
そして、フロントサイドフレーム20の膨出部22により、荷重受け部材70を当接して受け止めて、衝突荷重をフロントサイドフレーム20及びフロアフレーム11を介して車両後方に伝達、分散することができる。さらに、前輪押圧部材62によって押し潰された前輪50を介して、荷重受け部材70が受けた衝突荷重をサイドシル10に伝達することができる。
【0111】
従って、車両前部との衝突によってポールPがフロントサイドフレーム20の車幅方向外側から侵入した時であっても、このポールPが車室内に侵入することをより確実に抑制できる。
【0112】
なお、上述した実施形態1の圧縮変形部材61、実施形態2の圧縮変形部71は、フロントサイドフレーム20の外側面21にスポット溶接で接合する固定方法としたが、固定方法はこれに限定するものでなく、フロントサイドフレーム20の車幅方向外側からの衝突荷重によって、圧縮変形部材61、圧縮変形部71が車両前後方向に前方から順に圧縮変形できるように固定していればよい。
【0113】
また、上述した実施形態1及び実施形態2において、前輪押圧部材62は、底面視が略コの字状の形状としたが、これに限定せず前輪50と曲面で当接するような形状であってもよい。
【0114】
また、実施形態1及び実施形態2において、荷重吸収部材63は、薄平板としたが、これに限定せずブロック状の塊に形成してもよい。あるいは、荷重受け部材60の前方に突出したリブ形状であってもよい。
[実施形態3]
【0115】
次に、実施形態1及び実施形態2に対して、フロントサイドフレーム20の外側面21に設けたポールPを受け止める構成要素が異なる別の実施形態を、図17から図19を用いて説明する。
【0116】
なお、上述した実施形態1及び実施形態2と同じ構成要素は、同じ符号を付与して、その詳細な説明を省略する。
また、図17は、第3実施形態における車両の前部構造の平面図を示し、図18は、第3実施形態における車両の前部構造の底面からの斜視図を示し、図19は、第3実施形態における衝突時の車両の前部状態の平面図を示している。
【0117】
まず、車両の前部構造は、図17に示すように、ダッシュパネル1と、左右一対のフロントサイドフレーム20と、フロントサイドフレーム20の前端に固定したクラッシュカン30を介して連結したバンパレインフォースメント40とで形成したエンジンルームEに、エンジン80と、エンジン80に連結したトランスミッション81とを配置している。
【0118】
このエンジン80は、エンジンルームEにおいて、車幅方向右側に位置しており、エンジン80の車幅方向右端を、右エンジンマウントブラケット84を介して右フロントサイドフレーム20に連結支持している。
【0119】
また、トランスミッション81は、エンジンルームEにおいて、エンジン80の車幅方向左側に位置しており、トラスミッション81の車幅方向左端を、左エンジンマウントブラケット87を介して左フロントサイドフレーム20に連結支持している。
【0120】
右エンジンマウントブラケット84は、エンジン80に連結固定する右ロアブラケット82と、右フロントサイドフレーム20に連結固定する右アッパブラケット83とで構成している。この右ロアブラケット82と、右アッパブラケット83は、弾性部材(図示省略)を介して接続し、エンジン80を弾性支持している。
【0121】
さらに、右アッパブラケット83には、図17及び図18に示すように、車幅方向外側に向けて突出した右荷重受け部83aを設けている。
この右荷重受け部83aは、右フロントサイドフレーム20より車幅方向外側に突き出すように、車両上下方向に一定の厚みを有して右アッパブラケット83と一体で形成している。
【0122】
また、左エンジンマウントブラケット87は、図17に示すように、トランスミッション81に連結固定する左ロアブラケット85と、左フロントサイドフレーム20に連結固定する左アッパブラケット86とで構成している。この左ロアブラケット85と、左アッパブラケット86は、弾性部材(図示省略)を介して接続し、トランスミッション81を弾性支持している。
【0123】
さらに、左アッパブラケット86には、車幅方向外側に向けて突出した左荷重受け部86aを設けている。
この左荷重受け部86aは、右荷重受け部83aと同様に、左フロントサイドフレーム20より車幅方向外側に突き出すようにして、車両上下方向に一定の厚みを有して左アッパブラケット86と一体で形成している。
【0124】
このような車両の前部構造において、矢印Xの方向に直進する車両の車両前部がポールPに衝突すると、図19に示すように、右フロントサイドフレーム20の車幅方向外側からポールPが車両前部に侵入してくる。この時、ポールPは、車幅方向においてサイドシル10とフロントサイドフレーム20との間の比較的剛性の低い領域に位置することになる。
【0125】
そして、ポールPが右フロントサイドフレーム20の車幅方向外側から侵入すると、右荷重受け部83aは、ポールPと当接して受け止めて、ポールPの車室への侵入を阻止する。
【0126】
以上のように、車両の車室前壁部を構成するダッシュパネル1と、ダッシュパネル1下部から車両前方に延びる左右一対のフロントサイドフレーム20と、フロントサイドフレーム20の後端から車両後方へ延びる左右一対のフロアフレーム11とを備えるとともに、左右一対のフロントサイドフレーム20と、ダッシュパネル1とで形成したエンジンルームEに配置するエンジン80と、エンジン80を、フロントサイドフレーム20に対して揺動可能に支持する右エンジンマウント84、左エンジンマウント87とを備えた車両の前部構造であって、右エンジンマウント84及び左エンジンマウント87に、車幅方向外側へ向けて延びる右荷重受け部83a、左荷重受け部86aを備えたことにより、車両前部との衝突によってポールPがフロントサイドフレーム20の車幅方向外側から侵入した時であっても、このポールPが車室内に侵入することをより確実に抑制できる。
【0127】
具体的には、ポールPにフロントサイドフレーム20の車幅方向外側が衝突すると、右荷重受け部83aあるいは左荷重受け部86aは、ポールPへの衝突時に発生する衝突荷重を受け止めることができる。
【0128】
また、右荷重受け部材83aあるいは左荷重受け部86aは、フロントサイドフレーム20の車幅方向外側からの衝突荷重を、右エンジンマウント84あるいは左エンジンマウント87を介してフロントサイドフレーム20に伝達し、さらに、フロントサイドフレーム20の車両後方に延びるフロアフレーム11を介して車両後方に分散することができる。
【0129】
従って、右荷重受け部83aあるいは左荷重受け部86aにより、フロントサイドフレーム20の車幅方向外側に侵入したポールPを受け止めて、衝突荷重を車両後方に伝達、分散することで、ポールPがサイドシル10とフロントサイドフレーム20との間の領域を経て、車室内に侵入することをより確実に抑制できる。
【0130】
なお、右荷重受け部83a及び左荷重受け部86aは、本実施形態において右アッパブラケット83及び左アッパブラケット86と一体で形成したが、これに限定せず一体形成でなくともよい。
【0131】
また、上述した各実施形態では、車両前部が車幅方向に広がりを備えていない障害物に衝突した例として、車両前部がポールPに衝突した時について説明したが、車幅方向に広がりを備えていない障害物であれば、必ずしもポールPに限定されるものではない。
例えば、車幅方向に広がりを備えていない障害物を、自動車道の中央分離帯や、ガードレールの端部、ブロック塀などとしてもよい。
【0132】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明の車両前部空間は、実施形態のエンジンルームEに対応し、
以下同様に、
フロントサイドフレームの車幅外側部は、外側面21に対応し、
エンジンマウントは、右エンジンマウント84、左エンジンマウント86に対応し、
荷重受け部材は、右荷重受け部83a、左荷重受け部86aに対応するが、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【符号の説明】
【0133】
1…ダッシュパネル
10…サイドシル
11…フロアフレーム
20…フロントサイドフレーム
21…外側面
22…膨出部
50…前輪
60、70…荷重受け部材
61…圧縮変形部材
62…前輪押圧部材
63…荷重吸収部材
71…圧縮変形部
72…荷重受け部
73…折曲予定部
80…エンジン
84…右エンジンマウント
87…左エンジンマウント
83a…右荷重受け部
86a…左荷重受け部
E…エンジンルーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車室前壁部を構成するダッシュパネルと、
該ダッシュパネル下部の車幅方向両端から車両後方に延びる左右一対のサイドシルと、
該サイドシルより車幅方向内側で前記ダッシュパネル下部から車両前方に延びる左右一対のフロントサイドフレームと、
該フロントサイドフレームの後端から車両後方へ延びる左右一対のフロアフレームと、
前記フロントサイドフレームの車幅方向外側にて、前記サイドシルの前端より車両前方に位置する左右一対の前輪とを備えた車両の前部構造であって、
前記フロントサイドフレームには、
前記前輪より車両前方の離間した位置に、車幅方向外側へ向けて延びる荷重受け部材を備えた
車両の前部構造。
【請求項2】
前記フロントサイドフレームの車幅方向外側部に、
前記荷重受け部材より車両後方で、車幅方向外側へ向けて膨出した膨出部を備えた
請求項1に記載の車両の前部構造。
【請求項3】
前記フロントサイドフレームの車幅方向外側部に、
前記荷重受け部材より車両後方にて車両前後方向に延びるとともに、車両前方からの荷重入力に対して車両前後方向に圧縮変形する圧縮変形部材を備えた
請求項1または請求項2に記載の車両の前部構造。
【請求項4】
前記荷重受け部材は、
前記フロントサイドフレームの車幅方向外側部に沿って車両前後方向に延びるとともに、車両前方からの荷重入力に対して車両前後方向に圧縮変形する圧縮変形部と、
該圧縮変形部の前端から車幅方向斜め前方外側に向けて延出する荷重受け部とを備え、
前記荷重受け部の後端に、
車両前方からの荷重入力に対して、前記荷重受け部を車幅方向外側に折曲可能な折曲予定部を備えた
請求項1または請求項2に記載の車両の前部構造。
【請求項5】
前記荷重受け部材に、
前記前輪の前部を押圧する前輪押圧部材を備えた
請求項1から請求項4のいずれか1つに記載の車両の前部構造。
【請求項6】
前記荷重受け部材の車両前方に、
車両前方からの荷重入力に対して、該荷重を吸収する荷重吸収部材を備えた
請求項1から請求項5のいずれか1つに記載の車両の前部構造。
【請求項7】
車両の車室前壁部を構成するダッシュパネルと、
該ダッシュパネル下部から車両前方に延びる左右一対のフロントサイドフレームと、
該フロントサイドフレームの後端から車両後方へ延びる左右一対のフロアフレームとを備えるとともに、
前記左右一対のフロントサイドフレームと、前記ダッシュパネルとで形成した車両前部空間に配置するエンジンと、
該エンジンを、前記フロントサイドフレームに対して揺動可能に支持するエンジンマウントとを備えた車両の前部構造であって、
前記エンジンマウントに、
車幅方向外側へ向けて延びる荷重受け部材を備えた
車両の前部構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate


【公開番号】特開2012−166743(P2012−166743A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30858(P2011−30858)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】