説明

車両の前部構造

【課題】車両が前面衝突したときに、衝突荷重を有効に吸収して人体に対する損傷を軽減するとともに、フードロック装置に上方からの荷重が作用したときに、重量の増加を伴わずに熱交換器の損傷や破損を抑制することが可能な車両の前部構造の提供。
【解決手段】フードロック装置60は、フードロックステー50の上端部の車両後方側に固定され、フードロックステー50は、その上端部よりも下方の位置に、上方からの荷重F2が入力されたときに車両後方への変形を促す折れ部50fが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前部構造に係り、特に、ラジエータ支持部材やフードロックステー等の連結部材に、フードロックを配設した車両の前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の前部に配設される前部構造としては、ラジエータ等の熱交換器を支持する、ラジエータ支持部材のアッパ部とロア部との間に、フードロックステーを取り付けるとともに、このフードロックステーの上端部の車両前方側にフードロックを固定する技術が広く知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−243800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、車両が歩行者に前面衝突すると、先ず、バンパによる一次衝突の後、車両進行方向(車両前後方向)に対して斜め上方から、歩行者の大腿部がフロントフード(以下、「フード」と称す)の前端部に接触する。このとき、衝突荷重の作用により、フードは、車両後方への変形を伴いながら、衝突荷重を吸収することとなる。
【0005】
ここで、特許文献1に記載の車両の前部構造では、車両前方から車両後方へ向けて、フードロック、フードロックステー及びラジエータ支持部材の順で配設されている。また、フードロックや、フードロックに係脱自在に支持されるストライカは、何れも剛性の高い部材により形成されるのが一般的である。
【0006】
このため、特許文献1に記載の車両が歩行者に前面衝突して、フードが車両後方へ向けて変形すると、その衝突荷重の大きさによっては、フードは、剛性の高いフードロックやストライカに接触してしまい、その変形が妨げられることとなる。斯かる場合、フードの変形による衝突荷重の吸収を十分に行うことができず、歩行者は、大腿部を中心に重大な損傷を負ってしまうという問題があった。
【0007】
また、車両が上述したような前面衝突をしたり、フードを勢いよく閉めるなどすると、フードロックには、ストライカを介して、上方から下方へ向かう大きな荷重が作用する。
【0008】
このとき、特許文献1に記載の車両の前部構造では、フードロックが、フードロックステーの上端部の車両前方側に固定されているため、フードロックステーの上端部には、下方且つ車両後方へと回転移動させる回転モーメントが作用することとなる。
また、上記上方からの荷重は、フードロックステーの上端部を介して、その高さ方向中央部付近に伝達されるため、フードロックステーには、上記回転モーメントの他、その高さ方向中央部付近を車両後方へ移動させるモーメントも作用することとなる。
【0009】
すなわち、上記2つのモーメントは、何れも車両前方から車両後方へ向かうものであるため、これらモーメントの総和により、フードロックステーは、その高さ方向中央部を中心に車両後方へ向けて座屈変形し易く、上方から入力される荷重の大きさによっては、ラジエータ支持部材に支持される熱交換器が、フードロックステーと接触してしまい、損傷や破損してしまうという不都合があった。
【0010】
このような不都合は、フードロックステーの剛性強度を向上させること(例えば、フードロックステーの厚肉化)により回避することが可能である。しかしながら、このような剛性強度の向上は、通常、重量の増加を伴うものであるため、フードロックステーの軽量化の要請に反する結果を招く。
【0011】
本発明は、上記不都合を解決するためになされたものであり、その目的は、車両が前面衝突したときに、衝突荷重を有効に吸収して人体に対する損傷を軽減するとともに、フードロックに上方からの荷重が作用したときに、重量の増加を伴わずに熱交換器の損傷や破損を抑制することが可能な車両の前部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題は、本発明に係る車両の前部構造によれば、車幅方向に沿って延設されるアッパ部と、該アッパ部の下方で車幅方向に沿って延設されるロア部とを有し、熱交換器を支持するラジエータ支持部材と、前記アッパ部及び前記ロア部のそれぞれの車幅方向の略中央部同士を連結する連結部材と、フードに設けられる係合部材と、該係合部材を係脱自在に支持するフードロックと、を備えた車両の前部構造であって、前記フードロックは、少なくとも前記アッパ部及び前記連結部材の上端部の何れか一方の車両後方側に固定され、前記連結部材は、前記上端部よりも下方の位置に、上方からの荷重が入力されたときに車両後方への変形を促す易変形部を有することにより解決される。
【0013】
上記構成では、フードロックは、少なくとも、ラジエータ支持部材を構成するアッパ部、及び、連結部材の上端部の何れか一方の車両後方側に固定されている。すなわち、上記構成による車両の前部構造では、車両前方から車両後方へ向けて、アッパ部または連結部材、フードロックの順で配設されているため、車両の前端部、特に、フードの前端部から、剛性の高いフードロックまでの距離を増大させることが可能である。斯かる場合、車両が歩行者に前面衝突したときに、その増加した距離分、衝突荷重の吸収量を増加させることが可能なため、衝突による人体への損傷を有効に軽減することができる。
【0014】
また、上記構成では、上述したように、フードロックがアッパ部や連結部材の上端部の車両後方側に固定されている。このため、車両が前面衝突したときや、フードを勢いよく閉めたときなどに、係脱部材を介して、フードロックに上方からの荷重が作用すると、連結部材の上端部には、下方且つ車両前方へ回転移動させるモーメント(以下、「上端部側モーメント」と称す)が作用することとなる。
【0015】
また、上記構成では、連結部材に上方から荷重が入力されると、連結部材は、その上端部よりも下方の位置に設けられる易変形部を中心として、車両後方へ積極的に変形するように構成されている。すなわち、連結部材の易変形部が設けられる位置には、車両後方へ変形移動させるモーメント(以下、「易変形部側モーメント」)が容易に作用することとなる。
【0016】
このように、連結部材には、車両前方へ向かう上端部側モーメント、及び、車両後方へ向かう易変形部側モーメントといった2つのモーメントが作用するが、これらのモーメントは互いに相殺する方向に働くため、その結果、連結部材の変形量を低減させることが可能となる。従って、連結部材の変形による、ラジエータ支持部材に支持される熱交換器の損傷や破損を効果的に抑制することができる。また、斯かる構成では、連結部材の剛性強度を必要以上に高めなくても、その変形量を抑えることができるため、軽量化を図ることが可能となる。
【0017】
このとき、前記アッパ部は、車両後方へ向けて開口する断面略U字状に形成され、前記連結部材は、前記アッパ部の車両後方側で該アッパ部との間で閉断面が形成されるように固定され、前記フードロックは、前記上端部の車両後方側に固定されていると好適である。
【0018】
上記構成では、アッパ部と、フードロックが固定される連結部材の上端部との間に閉断面が形成されているため、この閉断面によって、アッパ部及び連結部材の剛性強度を向上させることができるとともに、連結部材に対するフードロックの支持強度をも向上させることが可能となる。
【0019】
また、前記易変形部は、前記連結部材の高さ方向の略中央部に形成されていると好適である。
【0020】
このように構成すれば、連結部材に、上記上方からの荷重が入力された場合、車両後方へ向かう易変形部側モーメントを良好に生じさせることが可能となる。従って、易変形部側モーメント、及び、車両前方へ向かう上端部側モーメントを、有効に相殺することが可能なため、連結部材の変形に伴う、熱交換器の損傷や破損をより抑制することができる。
【0021】
このとき、前記易変形部は、前記連結部材を車両後方へ向けて折曲又は湾曲させることにより形成されていると好適である。
【0022】
このように構成すれば、簡単な構成により、連結部材に易変形部を形成することが可能となる。
【0023】
また、前記連結部材の車両前方側で車幅方向に沿って延設されるバンパビームをさらに備え、該バンパビームは、車両前方からの衝突荷重が入力されたときに前記易変形部へ向かって移動することが可能な高さ位置に配設されていると好適である。
【0024】
上記構成では、連結部材とバンパビームとの離間距離が確保されるため、特に、前面衝突の態様が軽衝突時である場合、連結部材とバンパビームとの接触を有効に回避することが可能となり、結果として、ラジエータ支持部材に支持される熱交換器の損傷や破損をより効果的に抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明に係る車両の前部構造によれば、車両が前面衝突したときに、衝突荷重を有効に吸収して、人体に対する損傷を軽減することが可能となる。
また、フードロックに上方からの荷重が作用した場合であっても、連結部材の重量の増加を伴わずに熱交換器の損傷や破損を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施形態に係る車両の前部構造の斜視図である。
【図2】図1の分解斜視図である。
【図3】ラジエータ支持部材、フードロックステー及びフードロック装置の分解斜視図である。
【図4】車両後方側から視た場合における、ラジエータ支持部材、フードロックステー及びフードロック装置の組み付け状態を示す斜視図である。
【図5】図4のV−V矢視断面図である。
【図6】車両が前面衝突したときの状態を示す要部拡大断面図であり、(a)は本実施形態に係る車両の前部構造を示し、(b)は(a)の車両の前部構造との比較説明をするための従来の車両の前部構造を示す。
【図7】フードロック装置に対して上方から荷重が入力された状態を説明するための断面図であり、(a)は本実施形態に係る車両の前部構造を示し、(b)は(a)の車両の前部構造との比較説明をするための従来の車両の前部構造を示す。
【図8】上方から荷重が入力されたフードロックステーの変形量を示す模式図であり、(a)は本実施形態に係るフードロックステーを示し、(b)は(a)のフードロックステーと比較説明するための従来のフードロックステーを示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態を、図面に基づいて説明する。なお、図中FRは車両前方を、UPは車両上方を示す。
【0028】
図1、図2及び図5に示すように、本実施形態に係る車両1の前部構造2は、エンジンルームEを覆うフロントフード10と、フロントフード10の前端部に固定されるストライカ20と、車幅方向両側で車両前後方向に沿って延設される左右一対のフロントサイドフレーム30、30と、フロントサイドフレーム30の前部30aに固定されるラジエータ支持部材40と、ラジエータ支持部材40に固定されるフードロックステー50と、フードロックステー50に固定されストライカ20を係脱自在に支持するフードロック装置60と、ラジエータ支持部材40の前方に配設されるバンパビーム70とを備えている。なお、上記フロントフード10と、ストライカ20と、ラジエータ支持部材40と、フードロックステー50と、フードロック装置60と、バンパビーム70とがそれぞれ特許請求の範囲に記載の「フード」と、「係合部材」と、「ラジエータ支持部材」と、「連結部材」と、「フードロック」と、「バンパビーム」とに該当する。
【0029】
図5に示すように、フロントフード10は、鋼板製の部材からなり、フードアウタパネル11と、フードアウタパネル11の下方に張設されたフードインナパネル12とを備えている。またフロントフード10は、その後端部が公知のヒンジ(図示省略)を介して車体本体に揺動自在に支持されている。
【0030】
フードアウタパネル11及びフードインナパネル12は、それぞれの端縁に形成されるフランジ部11a及びフランジ部12aを互いに重ね合わせた状態で、溶接等することにより接合されている。
【0031】
フードインナパネル12の前端部には、その車幅方向中央部にストライカ20を固定するためのストライカ取付部12bが設けられている。このストライカ取付部12bには、後述するストライカ20に設けられたボルト部20aを挿入することが可能なボルト挿通孔(図示省略)が複数形成されている。
【0032】
また、ストライカ取付部12bには、その上面に略板状のストライカ取付用補強部材15が設けられている。このストライカ取付用補強部材15には、ストライカ取付部12bと同様に、ボルト部20aを挿入することが可能なボルト挿通孔(図示省略)が複数形成されている。
【0033】
図5に示すように、ストライカ20は、金属等の剛性の高い部材からなり、略O字状に形成されている。ストライカ20には、フロントフード10のストライカ取付部12bに固定するためのボルト部20aが複数設けられている。
【0034】
ストライカ20は、ボルト部20aを、ストライカ取付部12b及びストライカ取付用補強部材15のそれぞれに形成されたボルト挿入孔に対して、下方から挿入した状態でナット26を螺合して締め込むことにより、フロントフード10に対して固定されるようになっている。
【0035】
フロントサイドフレーム30は、鋼板製の部材からなり、閉断面形状に形成されている。このフロントサイドフレーム30の前部30aには、その前端部に、後述するフロントサイドフレーム・バンパステー取付部42aに固定するためのフランジ部(図示省略)が形成されている。
【0036】
次に、ラジエータ支持部材40について、図1、図2及び図5を参照して説明する。
【0037】
図1、図2及び図5に示すように、ラジエータ支持部材40は、鋼板製の部材により略枠形状に形成され、車幅方向に沿って延設されるアッパ部41と、アッパ部41の車幅方向両端部41aからそれぞれ下方へ向けて延設される左右一対のサイド部42、42と、一対のサイド部42、42の下端部同士を連結するロア部43とを備え、ラジエータ81及びコンデンサ82を支持する。なお、上記ラジエータ81及びコンデンサ82が特許請求の範囲に記載の「熱交換器」に該当する。
【0038】
ラジエータ81及びコンデンサ82の上部と、側部と、下部とは、それぞれアッパ部41と、サイド部42と、ロア部43とに対して、ボルト等により締結固定されている。
【0039】
アッパ部41は、車両後方へ向けて開口する断面略U字状に形成され、上壁部41bと、上壁部41bの前端部から曲設し下方へ向けて延設される前壁部41cと、前壁部41cの下端部から曲折し車両後方へ向けて延設される底壁部41dとを備えている。
【0040】
アッパ部41の車幅方向中央部には、その上壁部41bに、車両後方へ向けて開口する略U字形状を有し、ストライカ20の車両前方側の一部が高さ方向に貫通することが可能なストライカ挿通部41eが形成されている。
【0041】
また、アッパ部41の車幅方向中央部には、その底壁部41dの後端部から曲折し下方へ向けて延設されるフランジ部41fが設けられている。
【0042】
サイド部42は、フロントサイドフレーム30及び後述するバンパステー71に取り付けられるフロントサイドフレーム・バンパステー取付部42aを有している。
【0043】
このフロントサイドフレーム・バンパステー取付部42aの所定位置には、フロントサイドフレーム30を取り付けるためのフロントサイドフレーム30取付用のボルト挿通孔(図示省略)及びバンパステー71を取り付けるためのバンパステー71取付用のボルト挿通孔42bがそれぞれ複数形成されている。
【0044】
フロントサイドフレーム30は、そのフランジ部とフロントサイドフレーム・バンパステー取付部42aとをボルト等により固定することにより、ラジエータ支持部材40に対して取り付けられるようになっている。
【0045】
また、バンパステー71は、後述するフランジ部72に形成されたボルト挿通孔72a及びフロントサイドフレーム・バンパステー取付部42aに形成されたボルト挿通孔42bにボルトを挿通して締め付けることにより、ラジエータ支持部材40に対して取り付けられるようになっている。
【0046】
また、サイド部42は、高さ方向中央部に、側面視で車両後方へ向けて凹設される凹設部45が設けられている。
【0047】
凹設部45は、略平面状に形成される後面部45aと、後面部45aの高さ方向両端部からそれぞれ曲折し車両前方へ向けて傾斜して延びる上下傾斜面部45b、45bとを備えている。
【0048】
後面部45aは、正面視略矩形形状を有し、略水平に配設されるバンパビーム70と高さ方向において略同一の高さに形成されていると共に、その高さ方向の幅がバンパビーム70の高さ方向の幅よりも大きく形成されている。
【0049】
上下傾斜面部45b、45bは、車両前方へ向けて相互に離間するように形成されている。これにより、車両が立壁に前面衝突した際、車両後方へ移動するバンパビーム70は、上下傾斜面部45b、45bにより円滑に案内されて、後面部45aと接触することが可能となっている。
ロア部43は、その車幅方向中央部の車両後方側に、後述するフードロックステー50の下側フランジ部50eを取り付けるためのフードロックステー取付部43aを有している。
【0050】
次に、フードロックステー50について、図3乃至図5を参照して説明する。
【0051】
図3乃至図5に示すように、フードロックステー50は、鋼板製の部材からなり、ラジエータ支持部材40のロア部43の後面に固定される下側立壁部51と、下側立壁部51の上端から曲折し上方且つ車両後方へ向けて傾斜して延びる下側傾斜部52と、下側傾斜部52の上端から曲折し上方且つ車両前方へ向けて傾斜して延びる上側傾斜部53と、上側傾斜部53の上端両側からそれぞれ曲折し車両上方へ向けて傾斜して延びる一対の上側立壁部54と、上側立壁部54の上端から曲折し車両後方へ向けて延びる一対のフランジ部55と、下側傾斜部52と上側傾斜部53との間に形成される折れ部56とを備えている。なお、上記上側立壁部54及びフランジ部55が特許請求の範囲に記載の「上端部」に該当する。また、上記折れ部56が特許請求の範囲に記載の「易変形部」に該当する。
【0052】
上側傾斜部53及び上側立壁部54の所定位置には、それぞれボルト85を挿入することが可能なフードロック装置60取付用のボルト挿通孔57が複数(本実施形態では3箇所)形成されている。
【0053】
上側立壁部54は、車両前方へ向けて開口する断面略U字状に形成されている。
【0054】
フードロックステー50のラジエータ支持部材40に対する取り付けは、先ず、フランジ部55の上面とアッパ部41の上壁部41bの下面とを当接させた状態で、これらを溶接やボルト等により接合する。次に、上側傾斜部53の前面とアッパ部41のフランジ部41fの後面とを当接させた状態で、これらを溶接やボルト等により接合する。最後に、下側立壁部51の前面とロア部43のフードロックステー取付部とを当接させた状態で、これらを溶接やボルト等により接合する。これにより、フードロックステー50がラジエータ支持部材40に固定される。
【0055】
フードロックステー50がラジエータ支持部材40に対して固定された状態では、上側立壁部54と、アッパ部41の上壁部41b、前壁部41c及び底壁部41dとの間に閉断面D(図5参照)が形成される。
本実施形態では、この閉断面Dにより、アッパ部41及びフードロックステー50の上側立壁部54の剛性強度が向上されるようになっている。
【0056】
また、このように構成されたフードロックステー50では、上方からの荷重F2(図7(a)参照)が入力されたときに、折れ部50fを中心として車両後方へ向けて変形されるように構成されている。
【0057】
次に、フードロック装置60について、図3乃至図5を参照して説明する。
【0058】
図3乃至図5に示すように、フードロック装置60は、一般的に使用されている周知のフードロック装置であり、金属等の剛性の高い部材により形成されている。このフードロック装置60は、フロントフード10に閉位置に回動移動させた状態で、ストライカ20と係合するラッチ62を備えている。なお、ストライカ20とラッチ62との係合状態の解除は、解除レバー63を操作することによって行うことが可能である。
【0059】
フードロック装置60は、フードロックステー50に取り付けるためのフードロックステー取付部61を複数(本実施形態では3箇所)有し、これらフードロックステー取付部61には、それぞれボルト85を挿通することが可能なボルト挿通孔61aが形成されている。
【0060】
フードロック装置60は、フードロックステー50の上側傾斜部53及び上側立壁部54に形成されるボルト挿通孔57とフードロック装置60のボルト挿通孔61aとにボルト85を挿通してナット86を螺合して締め付けることにより、フードロックステー50に対して固定されるようになっている。
【0061】
上述したように、本実施形態では、アッパ部41との間で閉断面Dを形成する上側立壁部54に、フードロック装置60を固定しているため、フードロック装置60の支持強度を必然的に向上させることが可能となっている。
【0062】
次に、バンパビーム70について、図1、図2及び図5を参照して説明する。
【0063】
図1、図2及び図5に示すように、バンパビーム70は、バンパ(図示省略)の後方で車幅方向に沿って延設され、鋼板製の部材により断面略矩形形状に形成されている。
【0064】
また、バンパビーム70は、車幅方向両端部70a、70aよりも車幅方向中央部70bの方が車両前方に突出した湾曲形状に形成されている。
【0065】
バンパビーム70の車幅方向両端部70a、70aのそれぞれには、その後面側に多角筒状のバンパステー71がボルト等により固定されている。このバンパステー71には、ラジエータ支持部材40のフロントサイドフレーム・バンパステー取付部42aに取り付けるためのフランジ部72が形成されている。
【0066】
上述したように、バンパビーム70は、ラジエータ支持部材40のフロントサイドフレーム・バンパステー取付部42aと、バンパステー71のフランジ部72とをボルト等により締結固定することにより、ラジエータ支持部材40に対して取り付けられるようになっている。
【0067】
バンパビーム70が、ラジエータ支持部材40及びバンパステー71を介して、フロントサイドフレーム30に固定された状態では、バンパステー71がフロントサイドフレーム30の略延長線上に配置されるようになっている。
【0068】
また、この状態において、バンパビーム70は、ラジエータ支持部材40のサイド部42に形成される凹設部45の後面部45a及びフードロックステー50の下側傾斜部50dの車両前方側に配設されるようになっている。
【0069】
このように、本実施形態では、ラジエータ支持部材40のサイド部42と、フードロックステー50とのそれぞれに、凹設部25と、折れ部56とを形成することにより、ラジエータ支持部材40及びフードロックステー50と、バンパビーム70との間の離間距離が確保されるようになっている。
【0070】
次に、図6乃至図8を参照して、本実施形態に係る車両の前部構造と従来の車両の前部構造とを比較して説明する。ここで、上記「従来の車両の前部構造」とは、例えば、上記特許文献1(特開2004−243800号公報)に開示されているように、フードロック装置が、ラジエータ支持部材のアッパ部又はこれに固定されるフードロックステーの車両前方側に配設されているものをいう。なお、以下に説明する「従来の車両の前部構造」は、上述した本実施形態に係る車両の前部構造のうち、フードロック装置の配置、ラジエータ支持部材のアッパ部の形状及びフードロックステーの形状が異なり、他の構成は本実施形態に係る車両の前部構造と略同様な構成であるため、同一番号を付して重複説明を省略する。
【0071】
先ず、従来の車両の前部構造について、図6(b)及び図7(b)を参照して説明する。
【0072】
図6(b)及び図7(b)に示すように、従来の車両の前部構造102は、本実施形態に係る車両1の前部構造2と同様に、エンジンルームEを覆うフロントフード10と、フロントフード10の前端部に固定されるストライカ20と、ラジエータ支持部材140と、フードロックステー150と、フードロック装置160とを備えている。
【0073】
ラジエータ支持部材140は、本実施形態に係るラジエータ支持部材40と同様に、アッパ部141と、一対のサイド部(図示省略)と、ロア部43とを備えている。アッパ部141は、下方へ向けて開口する断面略U字状に形成されている。
【0074】
フードロックステー150は、側面視において、車両後方へ向けてやや湾曲する湾曲形状を有し、本実施形態に係るフードロックステー50とは異なり、折れ部50fに相当するものは有していない。
【0075】
このフードロックステー150は、その上端部と、下端部とを、それぞれアッパ部141の前側側壁部141aの車幅方向中央部の後面と、ロア部43の前側側壁部の車幅方向中央部とに対してボルト等によって接合することにより、ラジエータ支持部材140に対して固定されるようになっている。
【0076】
フードロック装置160は、アッパ部141の前側側壁部141aの前面及びフードロックステー150の前面に対してボルト等により固定されるようになっている。
【0077】
このように構成された従来の車両の前部構造102では、フロントフード10を閉位置に移動した状態、すなわち、ストライカ20とフードロック装置60とは係合した状態では、ストライカ20及びフードロック装置60が、ラジエータ81等の熱交換器を支持するラジエータ支持部材140よりも車両前方側に位置することとなる。なお、一例である従来の前部構造102では、ストライカ20がフードロック装置60に係合した状態で、フードロック装置60よりもストライカ20の方が車両前方側に位置するようになっている。
【0078】
図6(b)に示すように、従来の前部構造102を備えた車両が、歩行者等の被衝突物90に前面衝突すると、その衝突荷重F1の入力によって、フロントフード10等(以下、「外装部材」と称す)が、変形を伴いながら車両後方への移動を開始することとなる。
【0079】
衝突荷重F1がさらに入力されると、フロントフード10等の外装部材が、距離d2分変形移動し、ストライカ20に接触することとなる。そうすると、上述したように、ストライカ20やフードロック装置60は、剛性の高い部材により形成されているため、それ以降の外装部材の車両後方への変形移動、すなわち、外装部材の変形による衝突荷重F1の吸収が著しく阻害され、被衝突物90に対する、衝突荷重F1の入力方向とは逆向きの抗力が急増することとなる。このため、被衝突物90が歩行者であるような場合、大腿部等を中心に重大な損傷を負ってしまう虞がある。
【0080】
これに対し、本実施形態に係る前部構造2では、図6(a)に示すように、フードロック装置60は、アッパ部41の車両後方側に位置するフードロックステー50の後面に対して固定されるようになっている。すなわち、本実施形態に係るフードロック装置60は、上述した従来のフードロック装置160とは異なり、ラジエータ支持部材40よりも車両後方側に配設されるようになっている。
【0081】
このため、本実施形態に係る前部構造2では、車両1が被衝突物90に接触した時点における、被衝突物90からストライカ20までの距離d1は、フードロック装置60をラジエータ支持部材40の車両後方側に位置させた分、上記距離d2よりもその長さを増大させることが可能となっている。従って、車両1が被衝突物90に前面衝突したときに、その増加した距離分、衝突荷重F1の吸収量を増加させることができ、被衝突物90が歩行者であるような場合、人体に対する損傷を有効に軽減することが可能となる。
【0082】
次に、ストライカに上方からの荷重が入力された場合について、図7及び図8を参照して説明する。なお、ストライカに上方からの荷重が入力される場合としては、フロントフード10を勢いよく閉じたときや車両が前面衝突をしたときなどが挙げられる。
【0083】
図7(b)及び図8(b)に示すように、従来の車両の前部構造102に係るストライカ20に上方からの荷重F2が作用すると、その荷重F2は、ストライカ20とフードロック装置160とが係合する部位(作用点a2)に作用する。そうすると、フードロック装置160は、フードロックステー150の上端部の車両前方側に固定されているため、フードロックステー150の上端部には、その所定位置(回転中心c2)を中心として、下方且つ車両後方に回転移動させるようなモーメントM2−1が作用する。
【0084】
また、上記上方からの荷重F2は、フードロックステー150の上端部を介して、その下方の部位に伝達されるため、フードロックステー150には、上記モーメントM2−1の他、その高さ方向中央部付近を車両後方へ移動させるモーメントM2−2も作用することとなる。
【0085】
このように、従来のストライカ20に上方からの荷重F2が入力されると、フードロックステー150には、モーメントM2−1及びモーメントM2−2といった2つのモーメントが作用することとなる。これら2つのモーメントは、何れも車両後方へ向かうものであるため、これらモーメントの総和(M2−1+M2−2)により、フードロックステー150は、その高さ方向中央部を中心に車両後方へ向けて座屈し易く(M2)、荷重F2の大きさによっては、ラジエータ支持部材140に支持されるコンデンサ82が、フードロックステー150と接触してしまい、ラジエータ81やコンデンサ82が損傷や破損してしまう虞がある。
【0086】
これに対し、本実施形態に係る前部構造2では、図7(a)及び図8(a)に示すように、ストライカ20に上方からの荷重F2が作用すると、その荷重F2は、従来の前部構造102と同様に、ストライカ20とフードロック装置60とが係合する部位(作用点a1)に作用する。そうすると、フードロック装置60は、フードロックステー50の上端部の車両後方側に固定されているため、フードロックステー50の上端部には、その所定位置(回転中心c1)を中心として、下方且つ車両前方に回転移動させるようなモーメントM1−1が作用する。
【0087】
また、本実施形態に係るフードロックステー50は、上方からの荷重F2が入力されると、折れ部50fを中心として、車両後方へ向けて積極的に変形するように構成されている。すなわち、フードロックステー50のうち折れ部50fが形成される位置には、車両後方へ変形移動させるモーメントM1−2が作用することとなる。
【0088】
このように、本実施形態に係るストライカ20に上方からの荷重F2が入力されると、車両前方へ向かうモーメントM1−1、及び、車両後方へ向かうモーメントM1−2といった2つのモーメントが作用するが、これらのモーメントは互いに相殺する方向に働くため(−M1−1+M1−2)、結果として、フードロックステー50の変形量(M1)を低減させることが可能となる。従って、フードロックステー50の変形による、ラジエータ支持部材40に支持されるラジエータ81及びコンデンサ82の損傷や破損を効果的に抑制することができる。また、フードロックステー50の剛性強度を必要以上に高めなくても、その変形量を抑えることが可能なため、フードロックステー50の軽量化を図ることが可能となる。
【0089】
また、図7(a)に示すように、本実施形態では、ラジエータ支持部材40のサイド部42と、フードロックステー50とのそれぞれに、凹設部25と、折れ部50fとを形成することにより、ラジエータ支持部材40及びフードロックステー50と、バンパビーム70との間の離間距離が確保されるようになっている。このため、特に、車両1の前面衝突の態様が軽衝突である場合において、バンパビーム70が車両後方へ向けて移動したとしても、ラジエータ支持部材40やフードロックステー50と、バンパビーム70との接触を有効に回避することが可能となり、結果として、ラジエータ支持部材40に支持されるラジエータ81やコンデンサ82の損傷や破損をより効果的に抑制することが可能となる。
【0090】
なお、本実施形態では、フードロックステー50に折れ部56を形成することによって、上方からの荷重F2が作用したときに、フードロックステー50を車両後方へ向けて変形し易くしたが(フードロックステー50にモーメントM1−2を生じ易くしたが)、折れ部56のように曲折させずに湾曲させることにより形成することも可能である。また、折れ部56に代えて、例えば、フードロックステー50に、切欠きを形成したりやその肉厚を他の部位よりも薄肉化することにより、フードロックステー50を車両後方へ向けて変形し易くすることも可能である。
【0091】
さらに、本実施形態では、フードロック装置60をフードロックステー50の車両後方側のみに固定するようにしたが、アッパ部41の車両後方側にも固定してもよく、また、アッパ部41の車両後方側のみに固定するようにしてもよい。
【0092】
また、本実施形態では、ラジエータ支持部材40のサイド部42に、バンパビーム70との離間距離を確保するための凹設部45を形成したが、凹設部45のように断面凹状に形成する場合に限られず、これ以外の形状により形成することも可能である。また、側面視において、サイド部42が、フードロックステー50の折れ部50fよりも車両前方側に位置していなければ、凹設部45またはこれと同様なものを省略することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明によれば、車両が前面衝突したときに、衝突荷重を有効に吸収して人体に対する損傷を軽減することができ、また、フードロックに上方からの荷重が作用した場合であっても、連結部材の重量の増加を伴わずに熱交換器の損傷や破損を抑制することが可能なため、ラジエータ支持部材やフードロックステー等の連結部材に、フードロック装置を配設した様々な車両に利用することができる。
【符号の説明】
【0094】
1 車両
2、102 前部構造
10 フロントフード(フード)
20 ストライカ(係合部材)
40 ラジエータ支持部材
41 アッパ部
43 ロア部
50 フードロックステー(連結部材)
54 上側立壁部(上端部)
55 フランジ部(上端部)
56 折れ部(易変形部)
60 フードロック装置
70 バンパビーム
81 ラジエータ(熱交換器)
82 コンデンサ(熱交換器)
D 閉断面
a1、a2 作用点
c1、c2 回転中心
F1 衝突荷重
F2 荷重
M1、M1−1、M1−2、M2、M2−1、M2−2 モーメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向に沿って延設されるアッパ部と、該アッパ部の下方で車幅方向に沿って延設されるロア部とを有し、熱交換器を支持するラジエータ支持部材と、
前記アッパ部及び前記ロア部のそれぞれの車幅方向の略中央部同士を連結する連結部材と、
フードに設けられる係合部材と、
該係合部材を係脱自在に支持するフードロックと、を備えた車両の前部構造であって、
前記フードロックは、少なくとも前記アッパ部及び前記連結部材の上端部の何れか一方の車両後方側に固定され、
前記連結部材は、前記上端部よりも下方の位置に、上方からの荷重が入力されたときに車両後方への変形を促す易変形部を有することを特徴とすることを特徴とする車両の前部構造。
【請求項2】
前記アッパ部は、車両後方へ向けて開口する断面略U字状に形成され、
前記連結部材は、前記アッパ部の車両後方側で該アッパ部との間で閉断面が形成されるように固定され、
前記フードロックは、前記上端部の車両後方側に固定されていることを特徴とする請求項1に記載の車両の前部構造。
【請求項3】
前記易変形部は、前記連結部材の高さ方向の略中央部に形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両の前部構造。
【請求項4】
前記易変形部は、前記連結部材を車両後方へ向けて折曲又は湾曲させることにより形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の車両の前部構造。
【請求項5】
前記連結部材の車両前方側で車幅方向に沿って延設されるバンパビームをさらに備え、
該バンパビームは、車両前方からの衝突荷重が入力されたときに前記易変形部へ向かって移動することが可能な高さ位置に配設されていることを特徴とする請求項4に記載の車両の前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−206591(P2012−206591A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73344(P2011−73344)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】