説明

車両の前部構造

【課題】変形ストロークの増大によって前突の衝突エネルギーを良好に吸収し乗員に与えられる衝撃を良好に低減することができるよう改良された車両の前部構造を提供する。
【解決手段】車両の前後方向に延在する左右のフロントサイドメンバ10と、フロントサイドメンバの間に渡設され左右の前側連結部Pf及び後側連結部Prにて左右のフロントサイドメンバに連結されたフロントサスペンションメンバ12とを有する車両の前部構造であって、前側連結部と後側連結部との間の第三の領域A3に於けるフロントサイドメンバの前後方向の耐力はフロントサイドメンバの前端部、即ち前側連結部Pfよりも前方側の第一の領域A1及び第二の領域A2の耐力よりも低く、前突時に第三の領域A3が予め設定された量以上変形すると、前側連結部はその連結を解除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両の前部構造に係り、更に詳細には左右のフロントサイドメンバとそれらの間に渡設されたフロントサスペンションメンバとを有する車両の前部構造に係る。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に於いては、車両が前突した場合にもできるだけ破壊がキャビンに及ぶことを防止して車両の乗員の安全を確保することが重要である。そのため当技術分野に於いては、前突による破壊ができるだけキャビンに及ばないようにするための前部構造が従来種々提案されている。
【0003】
例えば下記の特許文献1には、左右のフロントサイドメンバ25の下方に配置され、車両の前後方向に隔置された左右の前側連結部及び後側連結部にて左右のフロントサイドメンバに連結されたサブフレーム27を有する車両の前部構造が記載されている。特にこの文献の図4に示されている如く、左右のフロントサイドメンバはサブフレーム27よりも前方の前部変形部91、サブフレーム27の前側連結部と後側連結部との間の中央変形部96、後側連結部より後方側の後部変形部97の三つの部分に分けられている。そして前後方向の耐力は前部変形部91、中央変形部96、後部変形部97の順に順次高くなるよう設定されている。
【0004】
この種の前部構造によれば、車両が前突した場合に於ける左右のフロントサイドメンバの変形量は前方側ほど大きく後方側ほど小さくなるので、例えば前後方向の耐力が一定である場合に比して前突による破壊がキャビンに及ぶ虞れを低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−255883号公報
【発明の概要】
【0006】
〔発明が解決しようとする課題〕
しかし上記公開公報に記載された従来の前部構造に於いては、左右のフロントサイドメンバの車両後方への変形量が小さいので、左右のフロントサイドメンバの前端の車両後方への変形ストロークを大きくすることができない。そのため車両の前突に対するEA量(衝突エネルギー吸収量)を大きくすることができない。よって従来の前部構造は変形ストロークの増大によって衝突エネルギーを良好に吸収し乗員に与えられる衝撃を良好に低減することができるよう改善される必要がある。
【0007】
本発明は、左右のフロントサイドメンバの前後方向の耐力が前部より後部へ向かうにつれて順次高くなるよう設定された従来の車両の前部構造に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものである。そして本発明の主要な課題は、従来に比して変形ストロークの増大によって前突の衝突エネルギーを良好に吸収し乗員に与えられる衝撃を良好に低減することができるよう改良された車両の前部構造を提供することである。
〔課題を解決するための手段及び発明の効果〕
【0008】
上述の主要な課題は、本発明によれば、車両の横方向に隔置されて車両の前後方向に延在する左右のフロントサイドメンバと、前記左右のフロントサイドメンバの間に渡設され、車両の前後方向に隔置された左右の前側連結部及び後側連結部にて前記左右のフロントサイドメンバに連結されたフロントサスペンションメンバとを有する車両の前部構造に於いて、前記左右のフロントサイドメンバの前後方向の耐力は、前記前側連結部に対し車両前方側の前端部よりも前記前側連結部と前記後側連結部との間の少なくとも一部に於いて低いことを特徴とする車両の前部構造(請求項1の構成)によって達成される。
【0009】
上記の構成によれば、前突時に左右のフロントサイドメンバの前端部よりも前側連結部と後側連結部との間の領域を優先的に変形させ、これにより左右のフロントサイドメンバの変形ストロークを確保することができる。また衝突荷重を左右のフロントサイドメンバよりフロントサスペンションメンバへ効果的に伝達してこれを変形させることができる。従って前側連結部と後側連結部との間に於ける前後方向の耐力が前端部の前後方向の耐力よりも高い従来の構造の場合に比して、部材の変形による衝突エネルギーの吸収量を大きくすることができる。よって前突による破壊がキャビンに及ぶ虞れを低減しつつ、乗員に与えられる衝撃を良好に低減することができる。
【0010】
また本発明によれば、前記フロントサイドメンバの前端にて車両後方への荷重を受けることにより前記フロントサイドメンバが前記前側連結部と前記後側連結部との間に於いて予め設定された量以上変形すると、前記前側連結部は前記フロントサイドメンバと前記フロントサスペンションメンバとの連結を解除するよう構成される(請求項2の構成)。
【0011】
上記の構成によれば、前側連結部がフロントサイドメンバとフロントサスペンションメンバとの連結を解除することにより前側連結部と後側連結部との間に於ける変形が容易になる。よって前側連結部と後側連結部との間に於ける変形によって変形ストロークを大きくすることができるので、前側連結部が連結を解除しない場合に比して乗員に与えられる衝撃を一層良好に低減することができる。
【0012】
また本発明によれば、前記左右のフロントサイドメンバは前記前端部に於いて補強部材により補強されているよう構成される(請求項3の構成)。
【0013】
上記の構成によれば、補強部材による補強により左右のフロントサイドメンバの前端部の前後方向の耐力を確実に前側連結部と後側連結部との間の少なくとも一部よりも高くすることができる。
【0014】
また本発明によれば、前記左右のフロントサイドメンバには前記前側連結部よりも車両の前方側に於いてスタビライザ取付け用ブラケットが固定されており、前記左右のフロントサイドメンバの前端から前記スタビライザ取付け用ブラケットが固定された領域までの前後方向の耐力は前記前側連結部と前記後側連結部との間に於ける前記左右のフロントサイドメンバの前後方向の耐力よりも高いよう構成される(請求項4の構成)。
【0015】
上記の構成によれば、スタビライザ取付け用ブラケットを補強部材としても機能させることができるので、左右のフロントサイドメンバの前端からスタビライザ取付け用ブラケットが固定された領域までの耐力を確実に高くすることができる。
【0016】
また本発明によれば、前記補強部材及び前記スタビライザ取付け用ブラケットは少なくとも車両の前後方向に互いに隔置されているよう構成される(請求項5の構成)。
【0017】
上記の構成によれば、補強部材及びスタビライザ取付け用ブラケットが互いに隔置された領域の耐力は補強部材及びスタビライザ取付け用ブラケットが設けられた領域の耐力よりも低い。よって補強部材及びスタビライザ取付け用ブラケットが互いに隔置された領域の位置の設定によって前突時に左右のフロントサイドメンバが変形し易い方向を所望の方向に設定することができる。
【0018】
また本発明によれば、前記補強部材は前記フロントサイドメンバが前端にて車両後方への荷重を受けた際に前記フロントサイドメンバが変形する方向を決定する切欠きを有するよう構成される(請求項6の構成)。
【0019】
上記の構成によれば、補強部材の位置及び補強部材に於ける切欠きの位置の設定によって前突時に補強部材が設けられた領域に於いて左右のフロントサイドメンバが変形する方向を所望の方向に設定することができる。
〔課題解決手段の好ましい態様〕
【0020】
本発明の一つの好ましい態様によれば、前端よりスタビライザブラケットの前端までの領域を第一の領域とし、スタビライザブラケットの前端と後端との間の領域を第二の領域とし、フロントサスペンションメンバの前側連結部と後側連結部との間の領域を第三の領域として、第一の領域の前後方向の耐力は第三の領域の前後方向の耐力よりも高く、第二の領域の前後方向の耐力は第一の領域の前後方向の耐力よりも高いよう構成される(好ましい態様1)。
【0021】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、第二の領域と第三の領域との間に第四の領域が存在し、第四の領域の前後方向の耐力は第二の領域の前後方向の耐力よりも低いよう構成される(好ましい態様2)。
【0022】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、補強部材はスタビライザ取付け用ブラケットよりも車両の前方側に位置しているよう構成される(好ましい態様3)。
【0023】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、補強部材及びスタビライザ取付け用ブラケットはフロントサイドメンバの下方部に於いては前後方向に隔置され、フロントサイドメンバの上方部に於いては上下方向に隔置されているよう構成される(好ましい態様3)。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明による車両の前部構造の第一の実施形態に於ける左側のフロントサイドメンバ等を車両の左外側より見た図として示す側面図である。
【図2】本発明による車両の前部構造の第二の実施形態に於ける左側のフロントサイドメンバ等を車両の左外側より見た図として示す側面図である。
【図3】本発明による車両の前部構造の第三の実施形態に於ける左側のフロントサイドメンバ等を車両の左外側より見た図として示す側面図である。
【図4】右側のフロントサイドメンバの前方部を補強するパッチをバルクと共に示す斜視図である。
【図5】車両が前端にて衝突荷重を受けた場合の荷重Fとフロントサイドメンバの前端のストロークSとの関係を各実施形態及び比較例について示すF−S線図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施形態について詳細に説明する。
[第一の実施形態]
【0026】
図1は本発明による車両の前部構造の第一の実施形態に於ける左側のフロントサイドメンバ等を車両の左外側より見た図として示す側面図である。
【0027】
図1に於いて、10及び12はそれぞれフロントサイドメンバ及びフロントサスペンションメンバを示している。図1には一つのフロントサイドメンバしか図示されていないが、車両には車両の横方向に隔置された左右のフロントサイドメンバ10が設けられ、各フロントサイドメンバ10は車両の前後方向に延在している。フロントサスペンションメンバ12は左右のフロントサイドメンバ10の間に渡設されており、周知の如く左右のフロントサスペンションアームを枢支するようになっている。
【0028】
各フロントサイドメンバ10は鋼材又はアルミニウム合金の如き軽合金にて形成されている。また各フロントサイドメンバ10は前方部10Aと、前方部10Aの後端より下方且つアウトボード方向へ延在するキックアップ部10Bと、キックアップ部10Bの後端より車両の後方側へ延在する後方部12Cとよりなっている。前方部10Aは図には示されていないエンジンルームの横方向両側に位置し、後方部12Cは図には示されていない車両のフロアの下方に延在している。前方部10Aの前端にはクラッシュボックス14が固定されており、左右のクラッシュボックス14の前端には図には示されていないフロントバンパーリインフォースが車両の横方向に横断する状態にて固定されている。
【0029】
第一の実施形態に於いては、前方部10Aは車両の横方向外側へ向けて開いたコの字形の断面形状を有する図1には示されていないビーム部材(フロントサイドメンバインナ)を含んでいる。ビーム部材の横方向外側の側縁部にはフロントサイドメンバアウタとしてのフロントプレート16及びリヤプレート18が溶接等の手段により固定され、これにより前方部10Aは閉じた中空の横断面形状を有している。キックアップ部10B及び後方部12Cは上に向けて開いたコの字形の断面形状を有している。図1には示されていないがキックアップ部10B及び後方部12Cの上縁部にはフロアパネルが溶接等の手段により固定され、これによりキックアップ部10B及び後方部12Cはフロアパネルと共働して閉じた中空の横断面形状を有している。
【0030】
フロントサスペンションメンバ12は前方部10Aの車両後方寄りの部分の下方に配設されている。フロントサスペンションメンバ12は車両の横方向の両端近傍に車両の前後方向に隔置された取付け脚部を有している。フロントサスペンションメンバ12は各取付け脚部に於いて、即ち前後方向に互いに隔置された左右の前側取付け点Pf及び後側取付け点Prに於いて左右のフロントサイドメンバ10に固定されている。
【0031】
前側の取付け脚部はボルト20により前方部10Aの前後方向の中央にて前方部10Aのビーム部材の下側の水平壁部に固定されている。また後側の取付け脚部はボルト22によりサスペンションアーム24の後側内端のスリーブ部24Aと共締めにて前方部10Aの後端部に於いてビーム部材の下側の水平壁部に固定されている。ボルト22とスリーブ部24Aとの間にはゴムブッシュ装置(図示せず)が介装されている。また図には示されていないが、サスペンションアーム24の前側内端のスリーブ部はフロントサスペンションメンバ12に設けられた一対のブラケット12Aにより軸線12Bの周りに枢動可能に支持されている。図には示されていないが、軸線12Bに沿って延在するボルトとスリーブ部との間にはゴムブッシュ装置(図示せず)が介装されている。
【0032】
前側取付け点Pfよりも車両の前方側にはフロントプレート16及びリヤプレート18を跨ぐようスタビライザブラケット26が配置されている。スタビライザブラケット26は前方部10Aのビーム部材の垂直壁部及び下側の水平壁部の内面に当接する実質的に断面L形をなし、ボルトの如き固定手段によりビーム部材に固定されている。スタビライザブラケット26の一部はビーム部材の下側の水平壁部より下方へ突出し、該突出した部分の下面にはスタビライザ28を相対回転可能に支持する取付け金具30が取付けられている。
【0033】
スタビライザ28は左右のフロントサイドメンバ10の下方にてそれらを跨ぐよう車両の横方向に延在している。スタビライザ28の両端部は前輪のドライブシャフト32よりも車両の後方側且つ上方に位置し、図には示されていない連結リンクによりサスペンションアーム24又は他のサスペンション部材に連結されている。
【0034】
第一の実施形態に於いては、フロントプレート16はリヤプレート18よりも高い強度若しくは大きい厚さを有している。図1に示されている如く、前方部10Aのうち前端よりスタビライザブラケット26の前端までの領域を第一の領域A1とし、スタビライザブラケット26の前端と後端との間の領域を第二の領域A2とする。また前方部10Aのうちフロントサスペンションメンバ12の前側取付け点Pfと後側取付け点Pとの間の領域を第三の領域A3とする。
【0035】
フロントプレート16はリヤプレート18よりも高い強度若しくは大きい厚さを有しており、またスタビライザブラケット26が補強材としても機能するので、第一の領域A1及び第二の領域A2は第三の領域A3に比して高い車両の前後方向の耐力を有する。また第二の領域A2は第一の領域A1に比して高い車両の前後方向の耐力を有する。
【0036】
尚第二の領域A2と第三の領域A3との間の領域を第四の領域A4とすると、第四の領域A4の車両の前後方向の耐力は、第一の領域A1及び第二の領域A2の車両の前後方向の耐力よりも低く、第三の領域A3の車両の前後方向の耐力と同等である。またクラッシュボックス14の車両の前後方向の耐力は第三の領域A3及び第四の領域A4の車両の前後方向の耐力よりも低い。
【0037】
特に前側取付け点Pfは、フロントサイドメンバ10が第三の領域A3に於いて予め設定された量以上変形すると、フロントサスペンションメンバ12の前側の取付け脚部が破壊され、ボルト20による取付けが解除されるようになっている。従ってボルト20による取付けが解除されると、第三の領域A3はフロントサスペンションメンバ12による変形抑制作用を受けることなく変形し得るようになる。
[第二の実施形態]
【0038】
図2は本発明による車両の前部構造の第二の実施形態に於ける左側のフロントサイドメンバ等を車両の左外側より見た図として示す側面図である。尚図2に於いて図1に示された部材と同一の部材には図1に於いて付された符号と同一の符号が付されている。このことは後述の第三の実施形態についても同様である。
【0039】
この第二の実施形態に於いては、フロントプレート16及びリヤプレート18は互いに実質的に同一の強度及び厚さを有している。しかし前方部10Aのビーム部材の垂直壁部の車両横方向の内側の面には、第三の領域A3の車両の前後方向の範囲内に於いて上下方向に延在する溝状のビード34が設けられている。尚ビード34は図2に於いては一つしか図示されていないが、ビード34は複数設けられてもよい。
【0040】
よってこの第二の実施形態に於いても、第一の領域A1及び第二の領域A2は第三の領域A3に比して高い車両の前後方向の耐力を有し、第二の領域A2は第一の領域A1に比して高い車両の前後方向の耐力を有する。またクラッシュボックス14の車両の前後方向の耐力は第三の領域A3及び第四の領域A4の車両の前後方向の耐力よりも低い。尚第四の領域A4の車両の前後方向の耐力は、第一の領域A1及び第二の領域A2の車両の前後方向の耐力よりも低く、第三の領域A3の車両の前後方向の耐力よりも高い。
[第三の実施形態]
【0041】
図3は本発明による車両の前部構造の第三の実施形態に於ける左側のフロントサイドメンバ等を車両の左外側より見た図として示す側面図、図4は右側のフロントサイドメンバの前方部を補強するパッチをバルクと共に示す斜視図である。
【0042】
この第三の実施形態に於いては、フロントプレート16及びリヤプレート18は互いに実質的に同一の強度及び厚さを有しており、前方部10Aのビーム部材の垂直壁部の車両横方向の内側の面には上下方向に延在する溝状のビード34は設けられていない。しかし第一の領域A1の車両の前後方向の範囲内に於ける前方部10Aのビーム部材の内側には補強部材としてのパッチ36が配置され、ボルト等によりビーム部材に当接して固定されている。
【0043】
図4に示されている如く、パッチ36は前方部10Aのビーム部材(フロントサイドメンバインナ)と同様に車両横方向の外側へ向けて開いたコの字形の断面形状を有し、各外面にてビーム部材の内面に当接するよう配置されている。図示の第三の実施形態に於いては、パッチ36はスタビライザブラケット26よりも車両の前方側へ隔置されている。特にパッチ36の上方部の後端部はパッチの下方部の後端部よりも車両の後方側へ延在し、車両の横方向に見てスタビライザブラケット26の上方に位置している。
【0044】
図示の第三の実施形態に於いては、パッチ36の内側にはパッチの強度を増大させてその変形を抑制するバルク38が配置され、溶接等の手段によりパッチ36に固定されている。バルク38はパッチ36の上下の水平壁部36U、36L及び垂直壁部36Vを接続するよう、実質的に車両の横方向に整合して延在する平板状をなしている。また図示の第三の実施形態に於いては、パッチ36の垂直壁部36Vの外面、即ち車両横方向の内側の面には上下方向に延在する溝状の複数の切欠き40が設けられている。
【0045】
上述の如く第三の実施形態に於いては、第一の領域A1にパッチ36及びバルク38が設けられているので、この第三の実施形態に於いても、第一の領域A1及び第二の領域A2は第三の領域A3に比して高い車両の前後方向の耐力を有する。また第一の領域A1及び第二の領域A2は同等の高い車両の前後方向の耐力を有する。尚パッチ36及びバルク38は鋼材又はアルミニウム合金の如き軽合金にて形成されていてよい。
【0046】
尚第一の実施形態の場合と同様、第四の領域A4の車両の前後方向の耐力は、第一の領域A1及び第二の領域A2の車両の前後方向の耐力よりも低く、第三の領域A3の車両の前後方向の耐力と同等である。またクラッシュボックス14の車両の前後方向の耐力は第三の領域A3及び第四の領域A4の車両の前後方向の耐力よりも低い。
【0047】
以上の説明より解る如く、上述の各実施形態によれば、前突時に第一の領域A1及び第二の領域A2よりも第三の領域A3を優先的に変形させ、これによりフロントサイドメンバ10の変形ストロークを確保することができる。また衝突荷重を左右のフロントサイドメンバ10よりフロントサスペンションメンバ12へ効果的に伝達してこれを変形させることができる。従って第三の領域A3に於ける前後方向の耐力が第一の領域A1及び第二の領域A2の前後方向の耐力よりも高い構造の場合に比して、部材の変形による衝突エネルギーの吸収量を大きくすることができる。よって前突による破壊がキャビンに及ぶ虞れを低減しつつ、乗員に与えられる衝撃を良好に低減することができる。
【0048】
また上述の各実施形態によれば、フロントサイドメンバ10が第三の領域A3に於いて予め設定された量以上変形すると、フロントサスペンションメンバ12の前側の取付け脚部が破壊され、ボルト20による取付けが解除される。従ってボルト20による取付けが解除されると、第三の領域A3はフロントサスペンションメンバ12による変形抑制作用を受けることなく変形し得るようになる。よって第三の領域A3に於ける変形によって変形ストロークを大きくすることができるので、ボルト20による取付けが解除されない場合に比して乗員に与えられる衝撃を一層良好に低減することができる。
【0049】
図5は車両が前端にて衝突荷重を受けた場合の荷重Fとフロントサイドメンバの前端のストロークSとの関係を各実施形態及び比較例について示すF−S線図である。尚図5に於いて実線は各実施形態を示し、破線は比較例を示している。
【0050】
各実施形態によれば、第三の領域A3に於ける前後方向の耐力が第一の領域A1及び第二の領域A2の前後方向の耐力よりも高い比較例の場合に比して、フロントサイドメンバ10の前端の変形ストロークSを大きくすることができる。またピーク荷重も若干低くなる。よって車両の前突に対するEA量、即ちグラフの線より下方の領域の面積を大きくし、乗員に与えられる衝撃を良好に低減することができることが解る。
【0051】
特に上述の第一の実施形態に於いては、フロントプレート16はリヤプレート18よりも高い強度若しくは大きい厚さを有し、これにより第一の領域A1及び第二の領域A2は第三の領域A3に比して高い車両の前後方向の耐力を有している。従って第一の実施形態によれば、第三の領域A3にビード34が設けられる第二の実施形態や第一の領域A1に補強部材が設けられる第三の実施形態の場合に比して簡単な構成にて上記前後方向の耐力関係を設定することができる。
【0052】
また上述の第二の実施形態に於いては、第三の領域A3に前後方向の荷重に対する変形を促進するビード34が設けられ、これにより第三の領域A3は第一の領域A1及び第二の領域A2に比して低い車両の前後方向の耐力を有している。従って第二の実施形態によれば、第四の領域A4の車両の前後方向の耐力を第一の領域A1及び第二の領域A2の車両の前後方向の耐力よりも低くすると共に、第三の領域A3の車両の前後方向の耐力よりも高くすることができる。
【0053】
また第二の実施形態に於いては、ビード34は第三の領域A3の車両の前後方向の範囲内に於いて前方部10Aのビーム部材の垂直壁部の車両横方向の内側の面に上下方向に延在する状態にて設けられている。よってビード34により車両の前突時にフロントサイドメンバ10の先端部が車両横方向の内方へ変位しつつ車両の後方へ移動するようなフロントサイドメンバの変形を促進することができる。
【0054】
また上述の第三の実施形態に於いては、第一の領域A1にパッチ36が設けられ、これにより第一の領域A1及び第二の領域A2は第三の領域A3に比して高い車両の前後方向の耐力を有している。従って第三の実施形態によれば、第一の領域A1の車両の前後方向の耐力を確実に第三の領域A3の車両の前後方向の耐力よりも高くすることができる。また第三の実施形態の如くパッチ36とスタビライザブラケット26とを隔置することにより第一の領域A1に他の領域に比して前後方向の耐力が低くしてフロントサイドメンバ10を所望の方向へ変形させやすくするための領域を容易に設定することができる。
【0055】
特に第三の実施形態に於いては、パッチ36及びスタビライザブラケット26はフロントサイドメンバ10のビーム部材の縦壁部に当接する部分が互いに前後方向に隔置されている。従って車両の前突時にフロントサイドメンバ10の先端部が車両横方向の内方へ変位しつつ車両の後方へ移動するようなフロントサイドメンバの変形を促進することができる。
【0056】
また第三の実施形態に於いては、パッチ36の垂直壁部36Vの外面、即ち車両横方向の内側の面には上下方向に延在する溝状の複数の切欠き40が設けられている。よって切欠き40によっても車両の前突時にフロントサイドメンバ10の先端部が車両横方向の内方へ変位しつつ車両の後方へ移動するようなフロントサイドメンバの変形を促進することができる。
【0057】
以上に於いては本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【0058】
例えば上述の各実施形態に於いては、第三の領域A3が第一の領域A1及び第二の領域A2に比して相対的に低い車両の前後方向の耐力を有するようにするための手段がビード34やパッチ36の如く個別に設定されている。しかし各手段が組合せて組み込まれるよう、第一乃至第三の実施形態の構造が任意の組合せにて組合わされてもよい。
【0059】
また上述の各実施形態に於いては、各フロントサイドメンバ10の前方部10Aは車両横方向の外側へ向けて開いたコの字形の断面形状を有するビーム部材を含んでいるが、ビーム部材は車両横方向の内側へ向けて開いたコの字形の断面形状を有していてもよい。またビーム部材の車両横方向の外側の側縁部にはフロントプレート16及びリヤプレート18が溶接等の手段により固定され、これにより前方部10Aは閉じた中空の横断面形状を有しているが、前方部10Aは任意の断面形状を有していてよい。
【0060】
また上述の各実施形態に於いては、フロントサスペンションメンバ12の後側の取付け脚部はボルト22によりサスペンションアーム24の後側内端のスリーブ部24Aと共に共締めにて前方部10Aの後端部に固定されている。しかしフロントサスペンションメンバ12の後側の取付け脚部を前方部10Aの後端部に固定する手段はサスペンションアーム24の内端を枢支するための手段とは別の手段であってもよい。
【0061】
また上述の各実施形態に於いては、第二の領域A2と第三の領域A3との間に第四の領域A4が存在している。しかし例えばスタビライザブラケット26が第三の領域A3の手前まで車両後方へ延長されることにより、又はパッチの如き補強部材が設けられることにより、第四の領域A4が存在することなく第二の領域A2と第三の領域A3とが隣接するよう修正されてもよい。
【符号の説明】
【0062】
10…フロントサイドメンバ、12…フロントサスペンションメンバ、14…クラッシュボックス、26…スタビライザブラケット、28…スタビライザ、34…ビード、36…パッチ、38…バルク、40…切欠き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の横方向に隔置されて車両の前後方向に延在する左右のフロントサイドメンバと、前記左右のフロントサイドメンバの間に渡設され、車両の前後方向に隔置された左右の前側連結部及び後側連結部にて前記左右のフロントサイドメンバに連結されたフロントサスペンションメンバとを有する車両の前部構造に於いて、
前記左右のフロントサイドメンバの前後方向の耐力は、前記前側連結部に対し車両前方側の前端部よりも前記前側連結部と前記後側連結部との間の少なくとも一部に於いて低いことを特徴とする車両の前部構造。
【請求項2】
前記フロントサイドメンバの前端にて車両後方への荷重を受けることにより前記フロントサイドメンバが前記前側連結部と前記後側連結部との間に於いて予め設定された量以上変形すると、前記前側連結部は前記フロントサイドメンバと前記フロントサスペンションメンバとの連結状態を解除するよう構成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両の前部構造。
【請求項3】
前記左右のフロントサイドメンバは前記前端部に於いて補強部材により補強されていることを特徴とする請求項1に記載の車両の前部構造。
【請求項4】
前記左右のフロントサイドメンバには前記前側連結部よりも車両の前方側に於いてスタビライザ取付け用ブラケットが固定されており、前記左右のフロントサイドメンバの前端から前記スタビライザ取付け用ブラケットが固定された領域までの前後方向の耐力は前記前側連結部と前記後側連結部との間に於ける前記左右のフロントサイドメンバの前後方向の耐力よりも高いことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の車両の前部構造。
【請求項5】
前記補強部材及び前記スタビライザ取付け用ブラケットは少なくとも車両の前後方向に互いに隔置されていることを特徴とする請求項4に記載の車両の前部構造。
【請求項6】
前記補強部材は前記フロントサイドメンバが前端にて車両後方への荷重を受けた際に前記フロントサイドメンバが変形する方向を決定する切欠きを有することを特徴とする請求項3乃至5の何れか一つに記載の車両の前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−111997(P2013−111997A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256924(P2011−256924)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】