説明

車両の前部構造

【課題】牽引フックとシッピングフックとを兼ねるフックを備えることができる強度が高い車両の前部構造を提供する。
【解決手段】車両の前部構造Iは、U字状であるフック51の両端部が固定されたフック取付部40を備えた車両の前部構造であって、車体の幅方向に延びたフロントエンドクロスメンバ61と、該フロントエンドクロスメンバの両端部にそれぞれ固定された前記フック取付部と、前記フック取付部の上面に設けられ、車体の後方向に延びるサイドメンバ21と、前記フック取付部の下面に設けられ、車体の後方向に延びるサブフレーム71とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両の前部には車両を牽引するための牽引フックが設けられている。また、車両の前部には、さらに車両をトレーラーや船舶で運搬する際にロープで車両を固定するためのシッピングフックが設けられている。
【0003】
これらのフックを別々に設けるとすれば製造コストが高くなることに鑑みて、牽引フックがシッピングフックを兼ねているように構成されているものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載されたフックは、フック本体に対して補助フックを併設してフック本体を補強している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−35920号公報(請求項1、段落0007参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、フックがフック本体及び補助フックからなるため、部品点数を減少させることはない。また、フック本体を補助フックにより補強したとしても、強度が足りずにフックの取付部や車両の前部構造に損傷が生じるおそれがある。これは、両者の負荷の入力方向が異なるために、兼用しようとするとどちらかで強度が足りなくなってしまうことによる。つまり、牽引フックは車両の前後方向に負荷が入力されるが、シッピングフックは車両の幅方向に負荷が入力される。このように負荷が入力される方向が異なることで、一つのフックで用途を兼用しようとするとフックの取付部やその負荷が伝搬される車両の前部構造に損傷が生じてしまうことがある。
【0006】
そこで、本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決することにあり、牽引フックとシッピングフックとを兼ねるフックを備えることができる強度が高い車両の前部構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車両の前部構造は、U字状であるフックの両端部が固定されたフック取付部を備えた車両の前部構造であって、車体の幅方向に延びたフロントエンドクロスメンバと、該フロントエンドクロスメンバの両端部にそれぞれ固定された前記フック取付部と、前記フック取付部の上面に設けられ、車体の後方向に延びるサイドメンバと、前記フック取付部の下面に設けられ、車体の後方向に延びるサブフレームとを備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、フック取付部の上下方向、及びフック取付部の内側方向にサイドメンバ、サブフレーム、及びフロントエンドクロスメンバが存在することで、フック取付部のフックに入力された負荷を車体に分散することができるので、様々な入力方向の負荷が入力されたとしてもその負荷を分散させることができる。
【0009】
前記フロントエンドクロスメンバが、その長手方向において断面構造が同一であることが好ましい。フロントエンドクロスメンバの断面構造がその長手方向で同一であることで、入力された負荷を均一に他の部材へ伝達することができ、負荷を分散させやすい。なお、ここでいう同一には略同一も含まれる。
【0010】
前記サイドメンバ、フロントエンドクロスメンバ、及びサブフレームが、それぞれ長手方向の断面視においてその内部が中空である閉断面構造となるように構成されたことが好ましい。これらの部材が閉断面構造となるように構成されることで、負荷に対して各部材の剛性が高く、これにより強度の高い車両の前部構造とすることができる。
【0011】
前記フック取付部の下端部は、車体の内側方向に延設された延設部を備え、該延設部に前記フロントエンドクロスメンバが固定されていることが好ましい。延設部を設けて車体の内側方向へ入力された負荷を伝達しやすくすることで、より負荷を分散させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の車体の前部構造によれば、負荷を分散させることができるので、牽引フックとシッピングフックとを兼ねるフックを備えることができる程度に強度が高いという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】車両の前部構造を示す模式的斜視図。
【図2】車両の前部構造を示す模式的正面図。
【図3】車体の前部構造を示す模式的側面図。
【図4】フロントエンドクロスメンバの断面構造を示す模式的断面図。
【図5】車体の前部構造を示す模式的分解図。
【図6】車両の前部構造にかかる負荷を説明するための模式的斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の車両の前部構造について図1〜図6を用いて説明する。
【0015】
図1〜図3に示すように、本発明の車両の前部構造Iは、車体左右のサイドメンバ21間を接続するバンパービーム11を有する。バンパービーム11は、車体の車幅方向に延びている。バンパービーム11の両端部の後面(車体の後側の面)には、それぞれバンパービーム11を支持するビームサポート12が設けられている。各ビームサポート12は、サイドメンバ21の車体前方の端部22に形成されたフランジ部23に支持されている。
【0016】
サイドメンバ21は、車体の前後方向に延びたフレームである。各サイドメンバ21の後端部には車体の幅方向に亘ってクロスメンバ(図示せず)が設けられて各サイドメンバ21に接合される。サイドメンバ21は、板状部材が複数互いに接合されてなる中空部材である。即ち、サイドメンバ21は、その長手方向における断面視において例えば矩形状の閉断面構造となっている。図示しないがサイドメンバ21の中空部の開口はフランジ部23に臨んでいる。
【0017】
サイドメンバ21の車体前方の端部22の上面であってフランジ部23の近傍には車体の上部のフレーム(図示せず)を支持するためのサポート部31が設けられている。
【0018】
サイドメンバ21の車体前方の端部22の下面には、延設フレーム24が設けられている。延設フレーム24も板状部材が複数互いに固定されてなる中空部材として構成されており、詳しくは後述するフック取付部40から延設されてなる。具体的には、延設フレーム24は、フック取付部40の車体内側の面を構成する内壁面41が延設されて延設フレーム24の内壁面も兼ねるように構成されている。このような延設フレーム24は、断面視において閉断面構造となっており、中空部の開口がサイドメンバ21に接するように配されている。
【0019】
各延設フレーム24の下端側には、それぞれフック取付部40が設けられている。即ち、フック取付部40は延設フレーム24を介してサイドメンバ21に接続されている。
【0020】
各フック取付部40について説明する。フック取付部40は、複数の板状部材が互いに接合されてなる部材であり、内部が中空となっている。内部の中空部は、サイドメンバ21に開口すると共に後述する延設部44の端部で開口している。
【0021】
フック取付部40の車体の幅方向外側の取付面(内壁面41に対向する面)42には、U字状のフック51が設けられている。フック51は、軸状の部材をU字状に折り曲げたものであり、その両端部が取付面42に固定されている。即ち、フック51は、U字状に折り曲げることで形成される開口52が車体の前後方向に沿うように形成されている。
【0022】
また、フック取付部40は、車体の幅方向内側の端部が、車体の下方側へ延設される。即ち、フック取付部40は、車体の幅方向内側の端部43から延設された延設部44を有する。
【0023】
そして、フック取付部40の延設部44間にフロントエンドクロスメンバ61が配されている。このように二つのフック取付部40間には、車体の幅方向に亘ってフロントエンドクロスメンバ61が設けられている。
【0024】
フロントエンドクロスメンバ61は、断面形状が車体の幅方向亘って均一である略直線状のフレームである。図4は、このフロントエンドクロスメンバ61の長手方向における断面図である。図4に示すように、フロントエンドクロスメンバ61は、板状で底面を形成する底面部62と、底面部62上に設けられ、板状部材が屈曲されて車体上方に突出した凸部が形成された突出部63とからなる。突出部63はその幅方向において設けられた突出部フランジ部64により底面部62に接合されている。接合方法としては、スポット溶接が挙げられる。このような断面構造のフロントエンドクロスメンバ61は、断面形状が車体の幅方向に亘って均一であり、略直線状のフレームである。
【0025】
図1〜図3に戻り、各フック取付部40は、下面側にサブフレーム71の一端部72が接続されている。サブフレーム71は車体の前後方向に延びるフレームである。サブフレーム71も、断面視が閉断面となるように複数の板状部材から構成されている。サブフレーム71の他端部73は、図5に示すように車体後方に位置するシャシークロスメンバ74に接続される。このクロスメンバ74は、上面視においてX字状となっており、このクロスメンバ74のクロスメンバフランジ部75にサブフレーム71の他端部73が接合されている。
【0026】
このように、車体の前部構造Iでは、フック51が取り付けられたフック取付部40は、その上方で延設フレーム24を介してサイドメンバ21に接続されていると共に、その下方でサブフレーム71に接続されている。そして、サイドメンバ21は、図示しない車体のフレーム構造に接続され、サブフレーム71は、シャシークロスメンバ74に接続されている。また、フック取付部40は、車体の幅方向内側でフロントエンドクロスメンバ61に接続されている。
【0027】
即ち、車体の前部構造Iでは、フック取付部40が上下方向、及び車体の幅方向において必ず接続されている部材が存在する。これにより、本実施形態ではフック取付部40にかかる負荷が車体のフレーム構造全域に分散され、負荷が特定の箇所に集中することを抑制することができる。
【0028】
この点について図6を用いて具体的に説明する。
【0029】
フック51から車体の幅方向に対して負荷が入力される場合(負荷の働く方向を矢印A1で示す)には、この幅方向に働く負荷は、フック取付部40に入力され、延設部44を介してフロントエンドクロスメンバ61に伝達され、そして他方側に存在するフック取付部40側へ分散される。この場合に、フック取付部40及びフロントエンドクロスメンバ61は、それぞれ伝達方向に対して閉断面構造となっていることから、この負荷が伝わりやすい。また、フック取付部40及びフロントエンドクロスメンバ61が閉断面構造からなることで、その一部に負荷が集中してしまうことがない。特に、フロントエンドクロスメンバ61は幅方向において同一形状の閉断面構造であることから、負荷が伝わりやすく、かつ、一部に大きな負荷となって車体にダメージを与えることもない。
【0030】
フック51からの車体の幅方向に入力された負荷は、さらにフック取付部40から延設フレーム24を介して上方のサイドメンバ21にも入力されると共に、フック取付部40からサブフレーム71にも入力される。即ち、入力された負荷は車体の上下方向にも伝達される。従って、より負荷は分散される。
【0031】
また、フック51から車体の前後方向に対して負荷が入力される場合(負荷の働く方向を矢印A2で示す)、この幅方向に働く負荷は、フック取付部40に入力され、延設フレーム24を介してサイドメンバ21に入力されると共にサブフレーム71を介して車体の前後方向に分散される。これらのサイドメンバ21及びサブフレーム71は、上述のように、図示しない車体のフレーム構造及びシャシークロスメンバ74に接続されていることから、これにより、車体の前後方向に対して入力された負荷を車体の全体に分散することができる。
【0032】
このように入力された負荷を分散しやすい構造とした本実施形態の車両の前部構造Iにおいては、フック51をシッピングフックとしても牽引フックとしても利用することができる。即ち、フック51を牽引フックとして用いた場合には、車体の前後方向に対して負荷が入力されるが、この負荷はサイドメンバ21及びサブフレーム71を介して車体の前後方向に分散される。また、フック51をシッピングフックとして利用した場合には、車体の左右方向に対して入力される負荷をフロントエンドクロスメンバ61に伝達させて分散することができる。従って、本実施形態では、フック51をシッピングフックとしても牽引フックとしても利用することができるのである。
【0033】
さらに、本実施形態では、フロントエンドクロスメンバ61を用いて二つのフック取付部40間を接続することで、軽量であると共に、フレームの剛性も従来と同様に保持することができている。
【0034】
このように上述した実施形態における車両の前部構造では、フック取付部40の上面、下面及び内側の面にそれぞれ部材を設けることで、フック51に対するあらゆる方向からの入力を車体構造全体に分散させることができる。従って、本実施形態では、負荷がどのように入力されたとしても車体の強度が高いのでフック51をシッピングフックとしても牽引フックとしても利用することができる。
【0035】
本発明は、上述した実施形態に限定されない。例えば、各フレームの構造は本実施形態に限定されず、フック取付部40に入力される負荷が分散できるように構成されていればよい。また、フック取付部40の車体外側の面である取付面42にフックを固定したが、これに限定されない。フック取付部40の下面側であってもよい。
【符号の説明】
【0036】
11 バンパービーム
12 ビームサポート
21 サイドメンバ
22 端部
23 フランジ部
24 延設フレーム
31 サポート部
40 フック取付部
41 内壁面
42 取付面
43 端部
44 延設部
51 フック
52 開口
61 フロントエンドクロスメンバ
62 底面部
63 突出部
64 突出部フランジ部
71 サブフレーム
72 一端部
73 他端部
74 シャシークロスメンバ
75 クロスメンバフランジ部
I 車両の前部構造




【特許請求の範囲】
【請求項1】
U字状であるフックの両端部が固定されたフック取付部を備えた車両の前部構造であって、
車体の幅方向に延びたフロントエンドクロスメンバと、
該フロントエンドクロスメンバの両端部にそれぞれ固定された前記フック取付部と、
前記フック取付部の上面に設けられ、車体の後方向に延びるサイドメンバと、
前記フック取付部の下面に設けられ、車体の後方向に延びるサブフレームとを備えたことを特徴とする車両の前部構造。
【請求項2】
前記フロントエンドクロスメンバが、その長手方向において断面構造が同一であることを特徴とする請求項1記載の車両の前部構造。
【請求項3】
前記サイドメンバ、フロントエンドクロスメンバ、及びサブフレームが、それぞれ長手方向の断面においてその内部が中空である閉断面構造となるように構成されたことを特徴とする請求項1又は2記載の車両の前部構造。
【請求項4】
前記フック取付部の下端部は、車体の内側方向に延設された延設部を備え、
該延設部に前記フロントエンドクロスメンバが固定されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両の前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−35461(P2013−35461A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174221(P2011−174221)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】