説明

車両の前部車体構造

【課題】フェンダパネルを剛性の高いエプロンレインと剛性の低い連結ステーとに跨って取り付けても、両部材の境界部でのフェンダパネルの変形ストロークが滑らかに変化することを課題とする。
【解決手段】サイドフレーム10の上方かつ後方のエプロンレイン12の前部からサイドフレーム10の前部上部まで連結ステー15を架設する。フェンダパネル16の上縁部から下方に延びる縦壁16aの後部下端部16bでフェンダパネル16をエプロンレイン12に取り付け、前記縦壁16aの前部下端部16bでフェンダパネル16を連結ステー15に取り付ける。エプロンレイン12が存在する範囲と連結ステー15のみが存在する範囲との境界部Xに跨って、上下方向の荷重に対してフェンダパネル16の変形を促進する変形促進用の開口20をフェンダパネル16の縦壁16aに設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の前部車体構造に関し、より詳しくは、車両の前部車体構造のうち歩行者傷害軽減ボディを提供する衝撃吸収フェンダの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車等の車両がその前部から歩行者に接触した場合、歩行者をボンネットの上にすくい上げて、フードパネルやその後方のフロントガラスあるいはフードパネルの側方のフェンダパネル等の車体前部の構成部材に歩行者を2次接触させることがある。そして、その場合の2次接触の衝撃を軽減するための歩行者傷害軽減ボディが様々な態様で提案されている。例えば、車両の側部外表面を構成するフェンダパネルに関しては、フードパネルの側縁部に隣接するフェンダパネルの上縁部に歩行者が2次接触する可能性が大きいことから、その部分の上下方向の荷重に対する変形ストロークを確保して、衝撃吸収型のフェンダパネルとすることがある。
【0003】
この点、特許文献1には、車体両側部で車両前後方向に延びるフロントサイドフレームの上方に配設したアッパメンバにフェンダパネルを取り付けた自動車のフェンダ構造において、フェンダパネルの上部の縦壁部や横壁部に貫通穴を穿設することにより前記壁部の剛性を低下させて、フェンダパネルに上方から作用する荷重に対するフェンダパネルのエネルギ吸収効果を向上させることが開示されている。
【0004】
一方、本出願人は、車体両側部で車両前後方向に延びるフロントサイドフレームと、同じく車両前後方向に延び、前記サイドフレームの上方で該サイドフレームよりも後方に位置するエプロンレインとを備えると共に、このエプロンレインの前部から前記サイドフレームの前部の上部に亘って連結ステーを架設して、この連結ステーにヘッドランプやボンネットステーの基端部を取り付けるようにした車両用ボンネットステー取付構造についてすでに特許出願をしたところである(特願2004−351671)。
【0005】
【特許文献1】特開平11−222154号公報(図2、図4〜図7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記のように、サイドフレームの上方かつ後方のエプロンレインとサイドフレームとに亘って連結ステーを架設した場合、フェンダパネルをエプロンレインだけでなくこの連結ステーにも取り付けることがあり、その場合に、次のような問題が発生する可能性がある。
【0007】
すなわち、図11(a)に示すように、車体両側部で車両前後方向に延びるサイドフレームaの上方かつ後方にエプロンレインbを設け、このエプロンレインbの前部からサイドフレームaの前部の上部に亘って連結ステーcを架設する。フェンダパネルdに、その上縁部から下方に延びる縦壁eを設け、この縦壁eの下端部を車幅方向内方に曲折して取付フランジfとし、この取付フランジfの後部においてフェンダパネルdの後部をボルトgでエプロンレインbに取り付け、前記取付フランジfの前部においてフェンダパネルdの前部をボルトhで連結ステーcに取り付ける。
【0008】
その場合に、エプロンレインbは、サイドフレームaと共に車体骨格部材であるから、例えば断面ロ字状の閉断面構造とされるのが通例であり、その結果、剛性が比較的高くなっているのに対し、連結ステーcは、前述したように、ヘッドランプやボンネットステーの基端部を支持するブラケットとして機能すればよい部材であるから、軽量化のために、例えば断面コ字状の開断面構造とされるのが通例であり、その結果、剛性が比較的低くなっている。それゆえ、これら両部材b,cに跨ってフェンダパネルdを取り付けると、エプロンレインbが存在する範囲と連結ステーcのみが存在する範囲との境界部iで、エプロンレインb、連結ステーc及びフェンダパネルdからなる組立構造体の剛性が急激に変化するため、前記境界部i周辺でフェンダパネルdに上方から荷重jが作用したときには、図11(b)に示すように、低剛性の連結ステーcは下方に大きく撓んで、この連結ステーcに結合されたフェンダパネルdの前部が下方に大きく沈み込む一方、高剛性のエプロンレインbは下方にほとんど撓まず、このエプロンレインbに結合されたフェンダパネルdの後部は下方にほとんど移動しなくなる。つまり、エプロンレインbと連結ステーcとの境界部iでフェンダパネルdの変形ストロークが急変し、結果として、フェンダパネルdの上縁部が上方に山ができるように折れ曲って、その折れ曲りの角部kが車体の前部上面に発生してしまうのである。
【0009】
本発明は車両の前部車体構造における前記不具合に対処するもので、フェンダパネルを剛性が大きく異なる閉断面構造のエプロンレインと開断面構造の連結ステーとに跨って取り付けた場合であっても、両部材の境界部でのフェンダパネルの変形ストロークが滑らかに変化し、フェンダパネルの折れ曲りの角部等が車体の前部上面に発生しないようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本願の請求項1に記載の発明は、車体両側部において車両前後方向に延設されたサイドフレームと、このサイドフレームの上方で該サイドフレームよりも後方に位置し、車両前後方向に延設された閉断面構造のエプロンレインと、このエプロンレインの前部から前記サイドフレームの前部の上部に亘って架設された開断面構造の連結ステーとを備える車両の前部車体構造であって、車両の側部外表面を構成するフェンダパネルが、該フェンダパネルの上縁部から下方に延びる縦壁を有し、この縦壁の後部の下端部で前記エプロンレインに取り付けられ、前記縦壁の前部の下端部で前記連結ステーに取り付けられていると共に、前記フェンダパネルの縦壁に、前記エプロンレインが存在する範囲と前記連結ステーのみが存在する範囲との境界部に跨って、上下方向の荷重に対してフェンダパネルの変形を促進する変形促進部が設けられていることを特徴とする。
【0011】
次に、本願の請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の車両の前部車体構造であって、前記変形促進部は、前記フェンダパネルの縦壁に形成された開口であることを特徴とする。
【0012】
次に、本願の請求項3に記載の発明は、車体両側部において車両前後方向に延設されたサイドフレームと、このサイドフレームの上方で該サイドフレームよりも後方に位置し、車両前後方向に延設された閉断面構造のエプロンレインと、このエプロンレインの前部から前記サイドフレームの前部の上部に亘って架設された開断面構造の連結ステーとを備える車両の前部車体構造であって、車両の側部外表面を構成するフェンダパネルが、該フェンダパネルの上縁部から下方に延びる第1の縦壁と、この第1の縦壁よりも前方の第2の縦壁とを有し、前記第1の縦壁の下端部で前記エプロンレインに取り付けられ、前記第2の縦壁の下端部で前記連結ステーに取り付けられていると共に、前記フェンダパネルの第1の縦壁と第2の縦壁との間には縦壁が欠如されていることにより、前記エプロンレインが存在する範囲と前記連結ステーのみが存在する範囲との境界部に跨って、上下方向の荷重に対してフェンダパネルの変形を促進する変形促進部が設けられていることを特徴とする。
【0013】
次に、本願の請求項4に記載の発明は、前記請求項1から3のいずれかに記載の車両の前部車体構造であって、前記連結ステーは、前記エプロンレインの前部から前方へ延びる前後延伸部分と、この前後延伸部分の前端部から下方へ延びて前記サイドフレームの前部の上部に至る上下延伸部分とを有し、前記フェンダパネルは、前記前後延伸部分に取り付けられていることを特徴とする。
【0014】
次に、本願の請求項5に記載の発明は、前記請求項1から4のいずれかに記載の車両の前部車体構造であって、前記エプロンレインの閉断面積は、平面視で前記変形促進部が設けられている領域に重合する部分のほうが設けられていない領域に重合する部分よりも小さいことを特徴とする。
【0015】
そして、本願の請求項6に記載の発明は、前記請求項1から5のいずれかに記載の車両の前部車体構造であって、前記フェンダパネルを補強するフェンダレインフォースメントが備えられ、このフェンダレインフォースメントは、前記フェンダパネルの本体部分の裏面に連結されたレイン本体部と、このレイン本体部の上縁部から下方に延びるレイン縦壁部とを有し、このレイン縦壁部の後部の下端部で前記エプロンレインに支持され、前記レイン縦壁部の前部の下端部で前記連結ステーに支持されていると共に、前記レイン縦壁部に、前記フェンダパネルの変形促進部よりも大きな範囲で、上下方向の荷重に対してフェンダレインフォースメントの変形を促進するレイン変形促進部が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
まず、請求項1に記載の発明によれば、図12(a)に示すように、閉断面構造で剛性が比較的高いエプロンレインbと、開断面構造で剛性が比較的低い連結ステーcとに跨って、フェンダパネルdをその縦壁eの後部の下端部f及び前部の下端部fで取り付ける場合において、フェンダパネルdの縦壁eに、前記エプロンレインbが存在する範囲と前記連結ステーcのみが存在する範囲との境界部iに跨って、上下方向の荷重jに対してフェンダパネルdの変形を促進する変形促進部m(図例は変形促進部mを開口で構成した場合を示す:請求項2参照)を設けたから、たとえエプロンレインbと連結ステーcとの境界部iで、エプロンレインb、連結ステーc及びフェンダパネルdからなる組立構造体の剛性が大きく変化しても、前記境界部i周辺における上下方向の荷重jに対するフェンダパネルdの変形が促進されるため、該フェンダパネルdの変形ストロークの変化が滑らかとなり(換言すれば、フェンダパネルdは境界部i周辺においては同じ程度に変形し、したがって変形ストロークは急激には変化しない。)、結果として、図12(b)に示すように、例えばフェンダパネルdが折れ曲ってその折れ曲りの角部が車体の前部上面に発生するという不具合を起こさず、フェンダパネルdのエネルギ吸収効果が確実かつ円滑なものとなる。なお、図12(a)及び図12(b)においては、図11(a)及び図11(b)と同じ構成部材には同じ符号を用いてある。
【0017】
次に、請求項2に記載の発明によれば、前記変形促進部をフェンダパネルの縦壁に形成した開口で構成したから、簡単な構成かつ容易に作製できる構成にて、フェンダパネルの縦壁の剛性を十分低下させて、十分大きいエネルギ吸収効果を得ることができる。
【0018】
次に、請求項3に記載の発明によれば、フェンダパネルの後方の第1の縦壁と前方の第2の縦壁との間を縦壁の無い空所とすることにより、エプロンレインが存在する範囲と連結ステーのみが存在する範囲との境界部に跨って上下方向の荷重に対してフェンダパネルの変形を促進する変形促進部を構成するようにしたから、前記請求項1と同様の効果が奏される。
【0019】
次に、請求項4に記載の発明によれば、連結ステーを、エプロンレインの前部から前方へ延びる前後延伸部分と、この前後延伸部分の前端部から下方へ延びてサイドフレームの前部の上部に至る上下延伸部分とで構成し、フェンダパネルを前記前後延伸部分に取り付けるようにしたから、連結ステーが上方からの荷重に対してより一層撓み易くなり、エネルギ吸収効果がより一層高まることとなる。
【0020】
次に、請求項5に記載の発明によれば、エプロンレインの閉断面構造の閉断面積を、平面視で変形促進部が設けられている領域に重合する部分において相対的に小さくし、平面視で変形促進部が設けられていない領域に重合する部分において相対的に大きくしたから、上下方向の荷重に対するエプロンレインの前部の剛性が後部の剛性に比べて低くなり、結果的に、連結ステーとの境界部近傍においてエプロンレインの剛性が低下して、剛性の低い連結ステーとの剛性変化(剛性差)が小さく抑えられ、境界部周辺におけるフェンダパネルの変形ストロークの変化がより一層滑らかなものとなる。
【0021】
そして、請求項6に記載の発明によれば、フェンダパネルを補強するためのフェンダレインフォースメントにおいても、フェンダパネルに準じて、上下方向の荷重に対してフェンダレインフォースメントの変形を促進するレイン変形促進部を設けたから、しかも、フェンダパネルの変形促進部よりも大きな範囲で設けたから、フェンダパネルの変形促進が損なわれず、結果として、フェンダパネルの張り剛性の確保と、上下方向の荷重に対するフェンダパネルの変形及びこのフェンダレインフォースメントの変形によるエネルギ吸収効果とが良好に両立することとなる。以下、発明の最良の実施形態を通して本発明をさらに詳しく説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は、本発明の実施の形態に係る車両の前部車体構造1を示す正面図である。まず、車体両側部においてサイドフレーム10,10が車両前後方向に延設されている。このサイドフレーム10,10の前端部間には、例えばラジエータ等の車両機器(図示せず)を保持するためのシュラウド11が配設されている。また、サイドフレーム10の上方でエプロンレイン12が同じく車両前後方向に延設されている。ただし、エプロンレイン12はサイドフレーム10よりも後方に位置している。エプロンレイン12はサイドフレーム10と共に車体骨格部材であり、高剛性を得るために断面ロ字状の閉断面構造とされている(例えば図8及び図9参照)。そして、このエプロンレイン12の前部から前記サイドフレーム10の前部上部に亘って連結ステー15が架設されている。連結ステー15はヘッドランプ(図示せず)を支持するブラケットとして機能し、軽量化のために断面コ字状の開断面構造とされている(例えば図7及び図8参照)。したがって、連結ステー15の剛性は比較的低く、前記エプロンレイン12の剛性とはその差が大きなものとなっている。
【0023】
その他、この車両の前部車体構造1には、ボンネットを上方から覆うフードパネル2、前輪のサスペンションを収容するサスペンションタワー14,14、及び車両の側部外表面を構成するフェンダパネル16,16等が含まれる。
【0024】
図2は、前記車両の前部車体構造1において、一方の側部を車幅方向内方から見た拡大側面図である。フェンダパネル16は、その上縁部から下方に延びる縦壁16aを有し、この縦壁16aの下端部が車幅方向内方に曲折されて取付フランジ16bが形成されている(例えば図7〜図9参照)。そして、フェンダパネル16は、この取付フランジ16bの後部において、後部ボルト21を用いてエプロンレイン12に取り付けられ、かつ、前記取付フランジ16bの前部において、前部ボルト22を用いて連結ステー15に取り付けられている。その場合に、連結ステー15は、エプロンレイン12の前部から前方へ延びる前後延伸部分15aと、この前後延伸部分15aの前端部から下方へ延びてサイドフレーム10の前部上部に至る上下延伸部分15bとを有し、フェンダパネル16は、前記前後延伸部分15aに取り付けられている[請求項4の構成]。なお、上下延伸部分15bの下端部は、ブラケット15cを介してサイドフレーム10に結合されている。また、エプロンレイン12の下方で、サスペンションタワー14の前方、かつサイドフレーム10の車幅方向外方には、前輪を収容するタイヤハウス13が設けられている。
【0025】
そして、前記フェンダパネル16の縦壁16aには、上下方向の荷重に対してフェンダパネル16の変形を促進する変形促進部としての開口20が前後に延びて設けられている[請求項1の構成及び請求項2の構成]。この変形促進用開口20は、エプロンレイン12が存在する範囲と、連結ステー15のみが存在する範囲との境界部X(換言すれば、エプロンレイン12の前端部)に跨って位置している。つまり、開口20の後端はエプロンレイン12の上方にあり、開口20の前端は連結ステー15の上方にある。
【0026】
図3は、図2の矢印A方向から見たエプロンレイン12と連結ステー15との境界部X周辺の部分図である。これから明らかなように、連結ステー15はエプロンレイン12の上面に載せられて固着されている。エプロンレイン12の上面の裏側及び連結ステー15の上面の裏側には、それぞれ後部ボルト21及び前部ボルト22と螺合するためのウエルドナット21a,21bが接合されている(図6参照)。
【0027】
次に、図4は、図3の構成にフェンダパネル16を補強するためのフェンダレインフォースメント17を組み付けた状態を示す部分図、及び図5は、図4の構成にフェンダパネル16を組み付けた状態を示す部分図である。これらから明らかなように、フェンダレインフォースメント17は、フェンダパネル本体16cの裏面に例えば接着剤17d…17dを用いて連結されたフェンダレイン本体17cと、このフェンダレイン本体17cの上縁部から下方に延びるフェンダレイン縦壁17aとを有し、このフェンダレイン縦壁17aの下端部が車幅方向内方に曲折されてフェンダレイン取付フランジ17bが形成されている(例えば図7〜図9参照)。そして、フェンダレインフォースメント17は、この取付フランジ17bの後部において、エプロンレイン12に支持され、かつ、前記取付フランジ17bの前部において、連結ステー15に支持されている。そして、前記フェンダレイン縦壁17aには、上下方向の荷重に対してフェンダレインフォースメント17の変形を促進するフェンダレイン変形促進部としての開口120が前後に延びて設けられている。その場合に、このフェンダレイン変形促進用開口120は、エプロンレイン12が存在する範囲と、連結ステー15のみが存在する範囲との境界部Xに跨って位置しているばかりでなく、フェンダパネル16の変形促進用開口20よりも大きな範囲で広がっている[請求項6の構成]。
【0028】
図6に、各部材の各部位の積層構造が明示されている。エプロンレイン12においては、次に説明するように、エプロンレインロア12bの上にエプロンレインアッパ12aが積層されている。そして、このエプロンレインアッパ12aの上に連結ステー15の前後延伸部分15aの上面が積層されている。その場合に、連結ステー15の前後延伸部分15aの上面の後端は、エプロンレイン12における後部ボルト21の前方で終わっている。次に、この連結ステー15の前後延伸部分15aの上面及びエプロンレインアッパ12aの上にフェンダレイン取付フランジ17bが積層されている。その場合に、フェンダレイン取付フランジ17bの前端は、連結ステー15における前部ボルト22の後方で終わっており、一方、フェンダレイン取付フランジ17bの後端は、エプロンレイン12における後部ボルト21の後方まで延びている。そして、このフェンダレイン取付フランジ17b及び連結ステー15の前後延伸部分15aの上面の上にフェンダパネル取付フランジ16bが積層されている。その場合に、フェンダパネル取付フランジ16bの前端は、連結ステー15における前部ボルト22の前方まで延びており、かつ、フェンダパネル取付フランジ16bの後端は、エプロンレイン12における後部ボルト21の後方まで延びている。そして、フェンダパネル取付フランジ16bひいてはフェンダパネル16は、前後の取付ボルト22,21により、フェンダレイン取付フランジ17bを挟んだ状態で、前部及び後部が連結ステー15及びエプロンレイン12に固定されている。
【0029】
図7〜図9は、それぞれ図6のII−II線、III−III線及びIV−IV線に沿う縦断面図である。図7から明らかなように、エプロンレイン12の前端部においては、エプロンレインアッパ12aとエプロンレインロア12bとが密着していて、エプロンレイン12の断面ロ字状の閉断面構造がまだ形成されていない。しかし、図8及び図9から明らかなように、エプロンレイン12の前端部から後方に向かうに従って、エプロンレインアッパ12aとエプロンレインロア12bとが離間していき、エプロンレイン12の断面ロ字状の閉断面構造が明確に形成されている。その場合に、図8及び図9から明らかなように、エプロンレイン12の閉断面構造(本実施形態では断面ロ字状)の閉断面積(車幅方向の長さL1×上下方向の長さL2)は、平面視で、変形促進用開口20,120が設けられている領域に重合する部分(図8に該当)のほうが、変形促進用開口20,120が設けられていない領域に重合する部分(図9に該当)よりも、上下方向の長さL2が同じであっても車幅方向の長さL1が短くなっていることにより、小さくなっている[請求項5の構成]。なお、図例では、エプロンレイン12の断面ロ字状の閉断面構造は、車幅方向の長さL1よりも上下方向の長さL2が長い場合であるが、逆に、上下方向の長さL2よりも車幅方向の長さL1が長い場合であっても事情は同様である。
【0030】
次に、この実施の形態の作用を説明する。まず、閉断面構造で剛性が比較的高いエプロンレイン12と、開断面構造で剛性が比較的低い連結ステー15とに跨って、フェンダパネル16をその縦壁16aの後部の下端部16b及び前部の下端部16bで取り付ける場合において、フェンダパネル16の縦壁16aに、エプロンレイン12が存在する範囲と連結ステー15のみが存在する範囲との境界部Xに跨って、上下方向の荷重に対してフェンダパネル16の変形を促進する変形促進部20を設けた(例えば図2参照)。これにより、たとえエプロンレイン12と連結ステー15との境界部Xで、エプロンレイン12、連結ステー15及びフェンダパネル16からなる組立構造体の剛性が大きく変化しても、前記境界部X周辺における上下方向の荷重に対するフェンダパネル16の変形が促進されるため、該フェンダパネル16の変形ストロークの変化が滑らかとなり(換言すれば、フェンダパネル16は境界部X周辺においては同じ程度に変形し、したがって変形ストロークは急激には変化しない。)、結果として、例えばフェンダパネル16が折れ曲ってその折れ曲りの角部が車体の前部上面に発生するという不具合を起こさず、フェンダパネル16のエネルギ吸収効果が確実かつ円滑なものとなる。
【0031】
次に、前記変形促進部20をフェンダパネル16の縦壁16aに形成した開口で構成した(例えば図2参照)。これにより、簡単な構成かつ容易に作製できる構成にて、フェンダパネル16の縦壁16aの剛性を十分低下させて、十分大きいエネルギ吸収効果を得ることが可能となる。
【0032】
次に、連結ステー15を、エプロンレイン12の前部から前方へ延びる前後延伸部分15aと、この前後延伸部分15aの前端部から下方へ延びてサイドフレーム10の前部上部に至る上下延伸部分15bとで構成し、フェンダパネル16を前記前後延伸部分15aに取り付けるようにした(例えば図2参照)。これにより、連結ステー15が上方からの荷重に対してより一層撓み易くなり、エネルギ吸収効果がより一層高まることとなる。
【0033】
次に、エプロンレイン12の閉断面積を、平面視で変形促進部20が設けられている領域に重合する部分において、例えば車幅方向の長さL1を相対的に短くすることにより相対的に小さくし、平面視で変形促進部20が設けられていない領域に重合する部分において、例えば車幅方向の長さL1を相対的に長くすることにより相対的に大きくした(例えば図8及び図9参照)。これにより、上下方向の荷重に対するエプロンレイン12の前部(図8に該当)の剛性が後部(図9に該当)の剛性に比べて低くなり、結果的に、連結ステー15との境界部X近傍においてエプロンレイン12の剛性が低下して、剛性の低い連結ステー15との剛性変化(剛性差)が小さく抑えられ、境界部X周辺におけるフェンダパネル16の変形ストロークの変化がより一層滑らかなものとなる。
【0034】
そして、フェンダパネル16を補強するためのフェンダレインフォースメント17においても、フェンダパネル16に準じて、上下方向の荷重に対してフェンダレインフォースメント17の変形を促進するレイン変形促進部120を設けた(図4及び図6参照)。しかも、フェンダパネル16の変形促進部20よりも大きな範囲で設けた。これにより、フェンダパネル16の変形促進が損なわれず、結果として、フェンダパネル16の張り剛性の確保と、上下方向の荷重に対するフェンダパネル16の変形及びこのフェンダレインフォースメント17の変形によるエネルギ吸収効果とが良好に両立することとなる。
【0035】
次に、本発明の第2の実施の形態を説明する。図10は、この第2実施形態を示すため、前記図5と比較対照し得る部分図である。図示したように、フェンダパネル16は、その上縁部から下方に延びる後方の第1の縦壁(後部縦壁)16a−1と、この第1の縦壁16a−1よりも前方の第2の縦壁(前部縦壁)16a−2とを有し、前記第1の縦壁16a−1の下端部の取付フランジ(後部取付フランジ)16b−1でエプロンレイン12に取り付けられ、前記第2の縦壁16a−2の下端部の取付フランジ(前部取付フランジ)16b−2で連結ステー15に取り付けられている。そして、前記第1の縦壁16a−1と第2の縦壁16a−2との間には縦壁が欠如されていることにより(その結果、後部取付フランジ16b−1と前部取付フランジ16b−2との間には取付フランジも欠如されている)、エプロンレイン12が存在する範囲と連結ステー15のみが存在する範囲との境界部Xに跨って、上下方向の荷重に対してフェンダパネル16の変形を促進する変形促進部としての空所220が形成されている[請求項3の構成]。
【0036】
なお、この第2実施形態では、フェンダレインフォースメント17においても、フェンダパネル16に準じて、上下方向の荷重に対してフェンダレインフォースメント17の変形を促進する変形促進部としての空所320が形成されている。
【0037】
この第2実施形態においては、フェンダパネル16の後方の第1の縦壁16a−1と前方の第2の縦壁16a−2との間を縦壁の無い空所220とすることにより、エプロンレイン12が存在する範囲と連結ステー15のみが存在する範囲との境界部Xに跨って上下方向の荷重に対してフェンダパネル16の変形を促進する変形促進部220を構成するようにしたから、結果として、前記第1の実施の形態と同様の効果が奏されることとなる。
【0038】
なお、前記実施形態は、本発明の最良の実施形態ではあるが、特許請求の範囲を逸脱しない限り、種々の修正や変更を施してよいことはいうまでもない。例えば、前記実施形態では、エプロンレインの閉断面構造をロ字状、つまり四角形状とし、連結ステーの開断面構造をコ字状としたが、これに限らず、例えば、エプロンレインの閉断面構造を四角形状以外の多角形状としたり、連結ステーの開断面構造をL字状とすることもできる。また、第2実施形態において、フェンダレインフォースメント17の変形促進部を開口としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上、具体例を挙げて詳しく説明したように、本発明は、フェンダパネルを剛性が大きく異なる閉断面構造のエプロンレインと開断面構造の連結ステーとに跨って取り付けた場合であっても、両部材の境界部でのフェンダパネルの変形ストロークが滑らかに変化し、フェンダパネルの折れ曲りの角部等が車体の前部上面に発生しないようにすることが可能な技術であるから、車両の前部車体構造の技術分野において広範な産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態に係る車両の前部車体構造を示す正面図である。
【図2】前記車両の前部車体構造において、一方の側部を車幅方向内方から見た拡大側面図である。
【図3】前記図2の矢印A方向から見たエプロンレインと連結ステーとの境界部周辺の部分図である。
【図4】前記図3の構成にフェンダレインフォースメントを組み付けた状態を示す部分図である。
【図5】前記図4の構成にフェンダパネルを組み付けた状態を示す部分図である。
【図6】前記図5のI−I線に沿う縦断面図である。
【図7】前記図6のII−II線に沿う縦断面図である。
【図8】前記図6のIII−III線に沿う縦断面図である。
【図9】前記図6のIV−IV線に沿う縦断面図である。
【図10】本発明の第2の実施の形態を示すため、前記図5と比較対照し得る部分図である。
【図11】発明が解決しようとする課題の説明図であって、(a)は前提構造を示すもの、及び(b)は問題発生時の様子を示すものである。
【図12】本発明の作用効果の説明図であって、(a)は基本構造を示すもの、及び(b)はフェンダパネルの変形時の様子を示すものである。
【符号の説明】
【0041】
1 車両の前部車体構造
10 サイドフレーム
12 エプロンレイン
15 連結ステー
15a 前後延伸部分
15b 上下延伸部分
16 フェンダパネル
16a フェンダパネル縦壁
16a−1 フェンダパネル後部縦壁
16a−2 フェンダパネル前部縦壁
16b フェンダパネル取付フランジ
16b−1 フェンダパネル後部取付フランジ
16b−2 フェンダパネル前部取付フランジ
16c フェンダパネル本体
17 フェンダレインフォースメント
17a フェンダレイン縦壁
17b フェンダレイン取付フランジ
17c フェンダレイン本体
20 フェンダパネル変形促進用開口
21 後部取付ボルト
22 前部取付ボルト
120 フェンダレイン変形促進用開口
220 フェンダパネル変形促進用空所
320 フェンダレイン変形促進用空所
L1 エプロンレインの閉断面構造の車幅方向長さ
L2 エプロンレインの閉断面構造の上下方向長さ
X 境界部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体両側部において車両前後方向に延設されたサイドフレームと、
このサイドフレームの上方で該サイドフレームよりも後方に位置し、車両前後方向に延設された閉断面構造のエプロンレインと、
このエプロンレインの前部から前記サイドフレームの前部の上部に亘って架設された開断面構造の連結ステーとを備える車両の前部車体構造であって、
車両の側部外表面を構成するフェンダパネルが、該フェンダパネルの上縁部から下方に延びる縦壁を有し、この縦壁の後部の下端部で前記エプロンレインに取り付けられ、前記縦壁の前部の下端部で前記連結ステーに取り付けられていると共に、
前記フェンダパネルの縦壁に、前記エプロンレインが存在する範囲と前記連結ステーのみが存在する範囲との境界部に跨って、上下方向の荷重に対してフェンダパネルの変形を促進する変形促進部が設けられていることを特徴とする車両の前部車体構造。
【請求項2】
前記請求項1に記載の車両の前部車体構造であって、
前記変形促進部は、前記フェンダパネルの縦壁に形成された開口であることを特徴とする車両の前部車体構造。
【請求項3】
車体両側部において車両前後方向に延設されたサイドフレームと、
このサイドフレームの上方で該サイドフレームよりも後方に位置し、車両前後方向に延設された閉断面構造のエプロンレインと、
このエプロンレインの前部から前記サイドフレームの前部の上部に亘って架設された開断面構造の連結ステーとを備える車両の前部車体構造であって、
車両の側部外表面を構成するフェンダパネルが、該フェンダパネルの上縁部から下方に延びる第1の縦壁と、この第1の縦壁よりも前方の第2の縦壁とを有し、前記第1の縦壁の下端部で前記エプロンレインに取り付けられ、前記第2の縦壁の下端部で前記連結ステーに取り付けられていると共に、
前記フェンダパネルの第1の縦壁と第2の縦壁との間には縦壁が欠如されていることにより、前記エプロンレインが存在する範囲と前記連結ステーのみが存在する範囲との境界部に跨って、上下方向の荷重に対してフェンダパネルの変形を促進する変形促進部が設けられていることを特徴とする車両の前部車体構造。
【請求項4】
前記請求項1から3のいずれかに記載の車両の前部車体構造であって、
前記連結ステーは、前記エプロンレインの前部から前方へ延びる前後延伸部分と、この前後延伸部分の前端部から下方へ延びて前記サイドフレームの前部の上部に至る上下延伸部分とを有し、
前記フェンダパネルは、前記前後延伸部分に取り付けられていることを特徴とする車両の前部車体構造。
【請求項5】
前記請求項1から4のいずれかに記載の車両の前部車体構造であって、
前記エプロンレインの閉断面積は、平面視で前記変形促進部が設けられている領域に重合する部分のほうが設けられていない領域に重合する部分よりも小さいことを特徴とする車両の前部車体構造。
【請求項6】
前記請求項1から5のいずれかに記載の車両の前部車体構造であって、
前記フェンダパネルを補強するフェンダレインフォースメントが備えられ、
このフェンダレインフォースメントは、前記フェンダパネルの本体部分の裏面に連結されたレイン本体部と、このレイン本体部の上縁部から下方に延びるレイン縦壁部とを有し、このレイン縦壁部の後部の下端部で前記エプロンレインに支持され、前記レイン縦壁部の前部の下端部で前記連結ステーに支持されていると共に、
前記レイン縦壁部に、前記フェンダパネルの変形促進部よりも大きな範囲で、上下方向の荷重に対してフェンダレインフォースメントの変形を促進するレイン変形促進部が設けられていることを特徴とする車両の前部車体構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2007−253913(P2007−253913A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84758(P2006−84758)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】