説明

車両の前部車体構造

【課題】歩行者の脚部がバンパフェースの後側に近接して配置されたシュラウドパネルから衝撃を受ける可能性を軽減し、歩行者の安全性を向上させることができる車両の前部車体構造を提供する。
【解決手段】車両の前部車体構造において、車体前部の外板を形成するバンパフェースと、上記バンパフェースの後側に配置され、車幅方向に延びる上枠部及び下枠部、並びに、車両上下方向に延び該上枠部と下枠部とを接続する1つ又は複数の縦枠部を備えたシュラウドパネルに加えて、車両前後方向にて上記バンパフェースとシュラウドパネルとの間に配置される一方、車幅方向にて該シュラウドパネルの縦枠部と重なる位置に配置されたシュラウドパネル用衝撃吸収部材と、を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジンルームが広く確保されつつ、デザイン性の向上のため、車体前部が短く設計される車両が知られている。かかる車両においては、コンデンサ及びラジエータを支持するための高剛性のシュラウドパネルが車両前方に配設される、つまり、バンパフェースの後側に比較的近接して配設されることとなる。シュラウドパネルは、基本的に、上枠部及び下枠部、上枠部と下枠部とを接続する縦枠部から構成されるが、このような構造上、縦枠部がバンパフェースの下端近傍に形成された走行風取入れ用の開口に対応して位置することとなるため、万一車両が歩行者と接触し、歩行者の脚部がバンパフェースに形成された開口に入り込んだ場合には、シュラウドパネルの縦枠部に直接当たる可能性があり、歩行者の安全性を更に向上させるためには、改善の余地が残されている。
【0003】
従来、歩行者の安全性向上を目的とした車両の前部車体構造としては、例えば特開2001−146140号公報に、バンパフェースの下部に、歩行者の脚部の入り込みを防止する部材が設けられたものが開示されている。また、例えば特開2002−337634号公報には、バンパレインフォースメントの前面部に衝撃吸収材が配設されたものが開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−146140号公報
【特許文献2】特開2002−337634号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1及び2では、歩行者の脚部がバンパフェースに形成された開口から入り込んだ場合に、シュラウドパネルの縦枠部に直接に当たる可能性をなくすることはできない。
【0006】
この発明は、上記技術的課題に鑑みてなされたもので、特に歩行者の脚部がバンパフェースの後側に近接して配置されたシュラウドパネルから衝撃を受ける可能性を軽減し、歩行者の安全性を向上させることができる車両の前部車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本願の請求項1に係る発明は、車体前部の外板を形成するバンパフェースと、該バンパフェースの後側に配置され、車幅方向に延びる上枠部及び下枠部、並びに、車両上下方向に延び該上枠部と下枠部とを接続する1つ又は複数の縦枠部を備えたシュラウドパネルと、車両前後方向にて上記バンパフェースとシュラウドパネルとの間に配置される一方、車幅方向にて該シュラウドパネルの縦枠部と重なる位置に配置されたシュラウドパネル用衝撃吸収部材と、を有していることを特徴としたものである。
【0008】
また、本願の請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、上記シュラウドパネルの後側に配設され、車幅方向両側で、車両前後方向に延びる一対のフロントサイドフレームと、各フロントサイドフレームの前端部を緩衝部材を介して接続し、車両前後方向において上記シュラウドパネルの縦枠部から前方に離間して車幅方向に延びるバンパレインフォースメントと、を有しており、上記シュラウドパネル用衝撃吸収部材が、上記バンパレインフォースメントに取り付けられていることを特徴としたものである。
【0009】
更に、本願の請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明において、上記バンパレインフォースメントの前面部に、バンパレインフォースメント用衝撃吸収部材が設けられており、上記バンパレインフォースメント用衝撃吸収部材が、上記シュラウドパネル用衝撃吸収部材と一体成形されていることを特徴としたものである。
【0010】
また、更に、本願の請求項4に係る発明は、請求項1〜3に係る発明のいずれかにおいて、上記シュラウドパネル用衝撃吸収部材は、その前端側で、上記バンパフェースの後面部に当接する一方、その後端側で、上記シュラウドパネルの縦枠部の前面部に当接することを特徴としたものである。
【0011】
また、更に、本願の請求項5に係る発明は、請求項1〜4に係る発明のいずれかにおいて、上記シュラウドパネルの下枠部の車幅方向に沿って延びつつ、該シュラウドパネルの下枠部に対して固定される一方、上記バンパフェースの下端部後面に向かって突出した突出部を備えている下部衝撃吸収部材が設けられており、上記下部衝撃吸収部材は、少なくとも上記シュラウドパネル用衝撃吸収部材及び上記バンパレインフォースメント用衝撃吸収部材とともに、略枠形状をなすように構成されていることを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0012】
本願の請求項1に係る発明によれば、万一車両が歩行者と接触し、歩行者の脚部がシュラウドパネルの縦枠部に衝突した場合にも、縦枠部の前方に配置されたシュラウドパネル用衝撃吸収部材によって衝突エネルギーが緩和されるため、歩行者の安全性を向上させることができる。
【0013】
また、本願の請求項2に係る発明によれば、シュラウドパネル用衝撃吸収部材が、シュラウドパネルの縦枠部から離間して前方に位置するバンパレインフォースメントに取り付けられることで、衝撃吸収ストロークを確保することができ、衝撃吸収性を向上させることができる。
【0014】
更に、本願の請求項3に係る発明によれば、シュラウドパネル用衝撃吸収部材とバンパレインフォースメント用衝撃吸収部材とを一体成形することで、部品点数を削減しつつ、より広範囲にて衝撃を吸収することができる。
【0015】
また、更に、本願の請求項4に係る発明によれば、上記請求項1に係る発明による効果を奏しつつ、バンパフェースに形成された走行風取入れ用の開口から導入された走行風を妨げることなくラジエータへ導くことができる。
【0016】
また、更に、本願の請求項5に係る発明によれば、少なくとも上記シュラウドパネル用衝撃吸収部材及び上記バンパレインフォースメント用衝撃吸収部材とともに枠形状になすように構成される下部衝撃吸収部材が設けられることで、歩行者の脚部が、車両前後方向軸線に対して傾斜してバンパフェースに形成された開口へ入り込んでも、衝撃吸収性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材が装着された車両1の前部車体構造を示す斜視図(一部断面を示す)である。図2は、バンパフェース2が取り外された状態での車両1の前部車体構造を示す斜視図である。ここでは、シュラウドパネル用衝撃吸収部材10の取付け位置を明示するために、シュラウドパネル用衝撃吸収部材10を破線で示す。また、図3は、車両前後方向に延びる一直線に沿った車両1の前部車体構造の縦断面説明図、より詳しくは、車幅方向側方におけるシュラウドパネル3の縦枠部3cを通過しつつ車両前後方向に延びる直線に沿った縦断面説明図である。更に、図4は、図1中のA−A線に沿った横断面説明図である。なお、以下では、「前方」,「前側」の表現は、車両前方,車両前側を意味し、他方、「後方」,「後側」の表現は、車両後方,車両後側を意味するものとする。
【0018】
この車両1は、前部車体構造として、車体を保護すべく、車体前部の外板を形成するバンパフェース2と、コンデンサ8及びラジエータ9を支持すべく、バンパフェース2の後側に配置されたシュラウドパネル3と、シュラウドパネル3の後側に配設され、車幅方向両側で、車両前後方向に延びる一対のフロントサイドフレーム5と、を有している。シュラウドパネル3は高剛性を有するように構成されており、基本的に、車幅方向に延びるシュラウドアッパ(上枠部)3aと、シュラウドアッパ3aの下方で車幅方向に延びるシュラウドロア(下枠部)3bと、車両上下方向に延びシュラウドアッパ3aとシュラウドロア3bとを接続する複数の(ここでは3本の)縦枠部3cと、を備えている。
【0019】
また、各フロントサイドフレーム5の前端部には、衝撃を緩和するためのクラッシュカン6(図4参照)が前方に向かって突設されるとともに、これらクラッシュカン6の前端同士を橋渡しするバンパレインフォースメント7が車幅方向に延びるように設けられている。バンパレインフォースメント7は、図3から分かるように、車両前後方向においてシュラウドパネル3の縦枠部3cから前方に離間して配置されている。
【0020】
また、バンパフェース2の下端近傍には、シュラウドパネル3により支持されたラジエータ9を冷却するために走行風をエンジンルーム側に導入すべく車幅方向に広がる開口部2aが形成されている。特に図示しないが、この開口部2aには、車幅方向に広がる通気口を備えたグリル部材(不図示)がその全開口領域を覆うように取り付けられている。
【0021】
かかる車両1の前部車体構造においては、シュラウドパネル3が、バンパフェース2の後側でバンパフェース2に対して近接して配置されるが、本実施形態では、歩行者の安全性の向上を目的として、万一車両1が歩行者に接触した場合に、歩行者がシュラウドパネル3から衝撃を受ける可能性を軽減する工夫がなされている。
【0022】
具体的には、車両前後方向にてバンパフェース2とシュラウドパネル3との間に、また、車幅方向にてシュラウドパネル3の縦枠部3cと重なる位置に(つまり縦枠部3cの前方に)、シュラウドパネル用衝撃吸収部材10が配設されている。このシュラウドパネル用衝撃吸収部材10は、例えば高衝撃吸収性を有するウレタン素材から構成されている。また、ここでは、図3に示すように、シュラウドパネル用衝撃吸収部材10が、その上端側で、バンパレインフォースメント7と接触し、その接触部位にてバンパレインフォースメント7に取り付けられている。
【0023】
かかるシュラウドパネル用衝撃吸収部材10が設けられることで、万一車両が歩行者と接触し、歩行者の脚部がシュラウドパネル3の縦枠部3cに衝突した場合にも、衝突エネルギーが緩和されるため、歩行者の安全性を向上させることができる。また、シュラウドパネル用衝撃吸収部材10が、シュラウドパネル3の縦枠部3cから離間して前方に位置するバンパレインフォースメント7に取り付けられることで、衝撃吸収ストロークを確保することができ、衝撃吸収性を向上させることができる。
【0024】
また、本実施形態では、バンパレインフォースメント7の前面部に、バンパレインフォースメント7と同様に車幅方向に延びるバンパレインフォースメント用衝撃吸収部材11が配設されている。このバンパレインフォースメント用衝撃吸収部材11は、例えば締結部材16(図4参照)を用いてバンパレインフォースメント7に取り付けられている。
【0025】
かかるバンパレインフォースメント用衝撃吸収部材11が設けられることで、より広範囲で衝撃を吸収することができ、歩行者の安全性を一層向上させることができる。
【0026】
加えて、本実施形態では、バンパフェース2に形成された開口2aの下側におけるバンパフェース下端部2bの後側に、下部衝撃吸収部材12が設けられている。この下部衝撃吸収部材12は、シュラウドパネル3のシュラウドロア3bの車幅方向に沿って延びつつ、シュラウドロア3bに対して固定されるもので、バンパフェース下端部2bの後面に向かって突出した突出部12aを備えている。ここでは、突出部12aが、バンパレインフォースメント用衝撃吸収部材11の下方に延び、その上面側でシュラウドパネル用衝撃部材10を支持するように設けられている。
【0027】
更に、ここでは、下部衝撃吸収部材12が、シュラウドパネル用衝撃吸収部材10及びバンパレインフォースメント用衝撃吸収部材11とともに、略枠形状をなすように構成されている。かかる構成によれば、歩行者の脚部が車両前後方向軸線に対して傾斜した状態でバンパフェース2の開口2aへ入り込んだ場合にも、いずれかの衝撃吸収部材により衝撃を吸収し、衝突エネルギーを緩和することができる。また、歩行者の脚部が開口2aに入り込んだ場合に限らず、歩行者がバンパフェース2の外面に衝突した場合に、衝撃吸収部材が配設される広い範囲において、衝撃を吸収し、衝突エネルギーを緩和することができる。
【0028】
前述した実施形態では、シュラウドパネル用衝撃吸収部材10とバンパレインフォースメント用衝撃吸収部材11とが別体として設けられたが、これに限定されることなく、両者が一体成形されてもよい。図5には、かかる部材の一例として、衝撃吸収部材30を示す。この衝撃吸収部材30は、車両上下方向に延び、シュラウドパネル3の縦枠部3cの前方に位置するシュラウドパネル用衝撃吸収部材31と、車幅方向に延び、バンパレインフォースメント7の前面部を覆うバンパレインフォースメント用衝撃吸収部材32とが一体成形されて構成されている。この衝撃吸収部材30は、バンパレインフォースメント用衝撃吸収部材32が例えば締結部材16(図4参照)を用いてバンパレインフォーメント7に締結されることで取り付けられている。
【0029】
このように、シュラウドパネル用衝撃吸収部材及びバンパレインフォースメント用衝撃吸収部材が一体成形されることにより、部品の組付け性を向上させることができるとともに、部品点数を削減しつつ、より広範囲に衝撃を吸収することができる。
【0030】
なお、本発明は、例示された実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能であることは言うまでもない。
例えば、前述した実施形態では、シュラウドパネル用衝撃吸収部材10がバンパレインフォースメント7に取り付けられるように配設されたが、これに限定されることなく、その前端側で、バンパフェース2の後面部に当接する一方、その後端側で、シュラウドパネル3の縦枠部3cの前面部に当接するシュラウドパネル用衝撃吸収部材が設けられてもよい。この構造によれば、ラジエータ9を冷却するために、バンパフェース2の開口2aから導入される走行風を妨げることなく、歩行者の脚部がシュラウドパネル3の縦枠部3cに衝突した場合に、シュラウドパネル用衝撃吸収部材によって衝突エネルギーを緩和して、歩行者の安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材が装着された車両の前部車体構造を示す斜視図(一部断面を示す)である。
【図2】バンパフェースが取り外された状態での車両の前部車体構造を示す斜視図である。
【図3】車両前後方向に延びる一直線に沿った車両の前部車体構造の縦断面説明図である。
【図4】図1中のA−A線に沿った横断面説明図である。
【図5】本発明の別の実施形態に係る衝撃吸収部材の斜視図である。
【符号の説明】
【0032】
1…車両,2…バンパフェース,2a…走行風取入れ用開口,2b…バンパフェース下端部,3…シュラウドパネル,3b…シュラウドロア,3c…縦枠部,5…フロントサイドフレーム,6…クラッシュカン,7…バンパレインフォースメント,8…コンデンサ,9…ラジエータ,10…シュラウドパネル用衝撃吸収部材,11…バンパレインフォースメント用衝撃吸収部材,12…下部衝撃吸収部材,30…衝撃吸収部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前部の外板を形成するバンパフェースと、
上記バンパフェースの後側に配置され、車幅方向に延びる上枠部及び下枠部、並びに、車両上下方向に延び該上枠部と下枠部とを接続する1つ又は複数の縦枠部を備えたシュラウドパネルと、
車両前後方向にて上記バンパフェースとシュラウドパネルとの間に配置される一方、車幅方向にて該シュラウドパネルの縦枠部と重なる位置に配置されたシュラウドパネル用衝撃吸収部材と、を有していることを特徴とする車両の前部車体構造。
【請求項2】
更に、上記シュラウドパネルの後側に配設され、車幅方向両側で、車両前後方向に延びる一対のフロントサイドフレームと、
上記各フロントサイドフレームの前端部を緩衝部材を介して接続し、車両前後方向において上記シュラウドパネルの縦枠部から前方に離間して車幅方向に延びるバンパレインフォースメントと、を有しており、
上記シュラウドパネル用衝撃吸収部材が、上記バンパレインフォースメントに取り付けられていることを特徴とする請求項1記載の車両の前部車体構造。
【請求項3】
更に、上記バンパレインフォースメントの前面部に、バンパレインフォースメント用衝撃吸収部材が設けられており、
上記バンパレインフォースメント用衝撃吸収部材が、上記シュラウドパネル用衝撃吸収部材と一体成形されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の前部車体構造。
【請求項4】
上記シュラウドパネル用衝撃吸収部材は、その前端側で、上記バンパフェースの後面部に当接する一方、その後端側で、上記シュラウドパネルの縦枠部の前面部に当接することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一に記載の車両の前部車体構造。
【請求項5】
更に、上記シュラウドパネルの下枠部の車幅方向に沿って延びつつ、該シュラウドパネルの下枠部に対して固定される一方、上記バンパフェースの下端部後面に向かって突出した突出部を備えている下部衝撃吸収部材が設けられており、
上記下部衝撃吸収部材は、少なくとも上記シュラウドパネル用衝撃吸収部材及び上記バンパレインフォースメント用衝撃吸収部材とともに、略枠形状をなすように構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一に記載の車両の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−74264(P2008−74264A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−256153(P2006−256153)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】