説明

車両の前部車体構造

【課題】パワートレインを車両の後方側に配設して操縦安定性を向上させるとともに、エンジンルーム内の有効スペースを効率よく利用できるようにする。
【解決手段】車室1とエンジンルーム2とを区画するダッシュパネル3に車体の後方側へ凹入する凹入部5が設けられるとともに、この凹入部5内に車輪を駆動するパワートレイン11の一部が配設された車両において、上記エンジンルーム2の内部を区画する縦壁部材35と、上記ダッシュパネル3に形成された凹入部5の左側部36または右側部37の何れか一方を車体の後方側に後退させた後退部を有し、この後退部と上記縦壁部材35とにより区画された空間部内にエアコンユニット39等からなる車両用補機が配設された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室とエンジンルームとを区画するダッシュパネルに車体の後方側へ凹入する凹入部が設けられるとともに、この凹入部内に車輪を駆動するパワートレインの一部が配設された車両の前部車体構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1〜3に示されるように、車室と、その前方にダッシュパネルにより区画されたエンジンルームとが設けられ、上記エンジンルーム内にエンジン本体およびトランスミッション等からなるパワートレインが配設された車両において、上記ダッシュパネルの車幅方向中央部に、その両側部より車両後方に向けて凹入する凹入部を設け、この凹入部内に上記エンジン本体の後端部およびトランスミッション等を配設し、このパワートレインを車体の後方側に位置させることが行われている。
【特許文献1】特開2003−326981号公報
【特許文献2】特開2005−028911号公報
【特許文献3】特開2005−029057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1〜3に開示されているようにダッシュパネルに形成された凹入部内に上記パワートレインを配設した場合には、車両の重心を車体の中心部側に位置させることにより、車両の走行時に作用するヨー慣性モーメントを効果的に低減して操縦安定性を向上させることができるとともに、エンジンルーム内の有効スペースを効果的に拡大することが可能であるため、このエンジンルームの有効スペースを効率よく利用できるようにすることが望まれていた。
【0004】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、車両の走行時における操縦安定性を向上させることができるとともに、エンジンルーム内の有効スペースを効率よく利用することができる車両の前部車体構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、車室とエンジンルームとを区画するダッシュパネルに車体の後方側へ凹入する凹入部が設けられるとともに、この凹入部内に車輪を駆動するパワートレインの一部が配設された車両において、上記エンジンルームの内部を区画する隔壁部材と、上記ダッシュパネルに形成された凹入部の左側部または右側部の何れか一方を車体の後方側に後退させることにより形成された後退部を有し、この後退部と上記隔壁部材とにより区画された空間部内に車両用補機が配設されたものである。
【0006】
請求項2に係る発明は、上記請求項1に記載の車両の前部車体構造において、ダッシュパネルの運転席シート側部位に上記後退部が形成されたものである。
【0007】
請求項3に係る発明は、上記請求項1または2に記載の車両の前部車体構造において、上記車両用補機が空気調和装置のエアコンユニットであるものである。
【0008】
請求項4に係る発明は、上記請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両の前部車体構造において、上記エンジンルーム内に左右一対のフロントサイドフレームが車体の前後方向に延びるように配設されるとともに、この左右のフロントサイドフレームを連結する横壁部材からなる隔壁部材を備えたものである。
【0009】
請求項5に係る発明は、上記請求項4に記載の車両の前部車体構造において、上記縦壁部材とダッシュパネルとを連結するように車体の前後方向に延びる縦壁部材からなる隔壁部材を備えたものである。
【0010】
請求項6に係る発明は、上記請求項1〜5のいずれか1項に記載の車両の前部車体構造において、上記パワートレインが、エンジンルーム内に縦置き式に配設されるエンジン本体と、その後方に接続されたトランスミッションとを備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明では、上記パワートレインの一部をダッシュパネルの凹入部内に配設することにより、エンジンルーム内の重量物である上記パワートレインを、可及的に車両の後方側に配設することができるため、車両の重心を車体の中心部側に位置させることにより、車両の走行時に作用するヨー慣性モーメントを効果的に低減して操縦安定性を向上させることができる。また、上記パワートレインを車両の後方側に配設するとともに、ダッシュパネルの左側部または右側部の一方を車体の後方側に後退させることによりスペース的に余裕が生じたエンジンルームの空間部内に車両用補機を配設したため、車室内のスペースが狭められることを抑制しつつ、エンジンルーム内のスペースを有効に利用して上記車両用補機を適正に配設できるとともに、エンジン本体等において発生した熱の影響が上記車両用補機の設置部に及ぶのを隔壁部材によって効果的に抑制できる等の利点がある。
【0012】
請求項2に係る発明では、ダッシュパネルの運転席シート側部位に上記後退部を形成し、この後退部と上記隔壁部材とにより区画された空間部内に上記車両用補機を配設したため、運転席シートを助手席シートよりも車体の後方側に配設することにより、助手席シートを相対的に車室の前方側に配設したとしても、この助手席シートに着座した乗員の前方に充分な居住スペースが確保されるとともに、その後方側に配設された後列シートに着座した乗員の前方に充分なスペースが確保されて優れた居住性が得られる等の利点がある。
【0013】
請求項3に係る発明では、大型で広い設置スペースを要するエアコンユニットを、上記ダッシュパネルに設けられた後退部等を介して区画されたエンジンルーム内の空間部内に配設したため、車室内のスペースが制限される等の問題を生じることなく、上記エアコンユニットを適正に配設できるという利点がある。
【0014】
請求項4に係る発明では、エンジンルーム内に配設された左右一対のフロントサイドフレームを上記横壁部材によって互いに連結するように構成したため、上記フロントサイドフレームの前後方向中間部を上記横壁部材からなる隔壁部材により効果的に補強することができ、車両の走行時に上記フロントサイドフレームに前輪からサスペンション部材を介して大きな荷重が入力された場合等に、前部車体が変形するのを抑制して操縦安定性を効果的に向上できるという利点がある。
【0015】
請求項5に係る発明では、上記横壁部材とダッシュパネルとを連結するように車体の前後方向に延びる縦壁部材を設置した場合には、車両の衝突時に、上記横壁部材の前方部に位置するフロントサイドフレームの前方部等からなる車体前端部を変形させることにより衝撃荷重を効果的に吸収しつつ、この衝撃荷重が上記エアコンユニット等からなる車両用補機の設置部に及ぶのを上記横壁部材および縦壁部材により効果的に抑制して、上記車両用補機が損傷するのを、より確実に防止できるという利点がある。
【0016】
請求項6に係る発明では、エンジンルーム内において縦置き式に配設された重量物であるエンジン本体およびトランスミッションを有するパワートレインを可及的に車両の後方側に配設することができるため、車両の重心を車体の中心部側に位置させることにより、車両の走行時に作用するヨー慣性モーメントを効果的に低減して操縦安定性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1〜図4は、本発明に係る車両の前部車体構造の第1実施形態を示している。上記車両には、車室1とエンジンルーム2とを区画するダッシュパネル3が設けられるとともに、このダッシュパネル3の下端部にフロアパネル4の前端部が接続されている。上記ダッシュパネル3の車幅方向中央部には、車体の後方側へ凹入する凹入部5が形成されるとともに、上記フロアパネル4の車幅方向中央部には、上方に向けて膨出するトンネル部6が形成され、かつその左右には、運転席シート7および助手席シート8が配設されている。
【0018】
上記エンジンルーム2内には、左右一対のフロントサイドフレーム9,9が車体の前後方向に延びるように配設されるとともに、その先端部にはバンパレインフォースメント10が車幅方向に延びるように設置されている。また、上記エンジンルーム2の後方部には、縦置き式に配設されたロータリエンジン等からなるエンジン本体12と、その後方に接続されたトランスミッション13とを有するパワートレイン11が配設されている。
【0019】
そして、上記エンジン本体12の後部が、ダッシュパネル3に形成された凹入部5内に配設されるとともに、上記トランスミッション13およびこれに接続されたプロペラシャフト14と、パワープラントフレーム15とが上記トンネル部6内に配設されている。そして、上記パワートレイン11の駆動力がプロペラシャフト14を介して図外の後部車輪に伝達されることにより、この後部車輪が駆動されるように構成されている。
【0020】
また、上記パワートレイン11の前方部には、ラジエータ等からなるパワートレイン冷却用の熱交換器本体16と、この熱交換器本体16を冷却する冷却ファン17とを有する熱交換器18が配設され、その前方側には、上記両フロントサイドフレーム9,9の前後方向中間部を連結するように車幅方向に延設されて上記パワートレイン11の前方部位を前後に区画する横壁部材19からなる第1隔壁部材が設けられている。この横壁部材19は、所定の剛性と遮熱性とを有する素材、例えばカーボンファイバー樹脂またはアルミニウム合金等により形成されるとともに、図5に示すように、上下に分割された上方部材20と下方部材21とにより構成されている。
【0021】
すなわち、上記フロントサイドフレーム9の車内側壁面と、その上方に配設されたエプロンレインフォースメント22の車内側壁面には、上方部材20の左右両端部が取付ボルト等を介して脱着可能に取り付けられる取付ブラケット23,23が設けられている。また、図示を省略したサスペンションアーム等が取り付けられる前部車輪用のサスペンションクロスメンバ24の前面に取付ボルト等を介して上記下方部材21の左右両端部が脱着可能に取り付けられることにより、この下方部材21により上記サスペンションクロスメンバ24の前面が覆われるように構成されている。
【0022】
そして、上記取付ブラケット23,23に上方部材20の左右両端部が取り付けられることにより、上記フロントサイドフレーム9およびエプロンレインフォースメント22を連結するように上方部材20が設置された状態で、上記下方部材21が前面に取り付けられたサスペンションクロスメンバ24がフロントサイドフレーム9に固定されることにより、上記上方部材20の下端部と下方部材21の上端部とが突き合わされてパワートレイン11の前方部位を前後に区画する横壁部材19が形成されるようになっている。
【0023】
上記横壁部材19の前方部には、排気ガス浄化用のキャタライザー等からなるパワートレイン用補機25が配設されるとともに、上記下方部材21の上端部には、上記パワートレイン用補機25をパワートレイン11に接続する排気管26からなる接続部材が挿通される挿通孔27,28が形成されている。また、上記横壁部材19を構成する下方部材21の上辺部中央には、上記パワートレイン用補機25の背面部を覆うように突出部32が設けられるとともに、この突出部32に対応する凹部33が上記上方部材20の下辺部中央に形成されている。
【0024】
上記排気管26は、エンジン本体12の一側面部から車体の前方側に延びる前方延長部29と、その前端部からエンジン本体12の他側辺部側に向けて車幅方向に延びる側方延長部30と、その側端部から車体の後方側に延びる後方延長部31とを有している。そして、上記排気管26の前方延長部29および後方延長部31が、上記上方部材20と下方部材21との接続部に形成された挿通孔27,28からなる挿通部を挿通した状態で設置されることにより、上記排気管26の側方延長部30に設けられたパワートレイン用補機25が横壁部材19の前方側に配設されている。
【0025】
また、エンジンルーム2内には、車体の前後方向に延びる左右一対の縦壁部材34,35からなる第2隔壁部材が、上記横壁部材19とダッシュパネル3とを連結するように配設されている。上記両縦壁部材34,35のうち運転席シート7側(車体の左側)に位置する縦壁部材34は、助手席シート8側(車体の右側)に位置する縦壁部材35よりも長尺に形成されている。
【0026】
すなわち、運転席シート7が車体の左側に配設された車両において、上記ダッシュパネル3に設けられた凹入部5の左側部36を右側部37に比べて車体の後方側に後退させた後退部が、上記ダッシュパネル3に形成されることにより、運転席シート7側に位置する縦壁部材34の全長が、上記左側部36の後退量に対応した距離だけ助手席シート8側の縦壁部材35よりも長くなるように設定されている。そして、上記のようにダッシュパネルの左側部36が右側部37よりも車体の後方側に配設されるのに応じ、運転席シート7が助手席シート8よりも車体の後方側に配設され、これにより助手席シート8が相対的に車室1の前方側に配設されるように構成されている。
【0027】
上記運転席シート7側の縦壁部材34(隔壁部材)と、ダッシュパネル3の左側部36(後退部)とにより区画されたエンジンルーム2の側方空間部内には、空気調和装置のブロア、クーラおよびヒータ等がユニット化されたエアコンユニット39からなる車両用補機が配設されている。また、上記ダッシュパネル3の後退部、つまり左側部36には、図6に示すように、運転席シート7に着座した運転者により操作されるブレーキペダル40が車室側壁面に支持されるとともに、ブレーキペダル40の操作力を増大して図外のホイールシリンダに供給する倍力装置(マスターバック)41が、ダッシュパネル3の前面、つまりエンジンルーム2側の壁面に固定されている。
【0028】
上記のように車室1とエンジンルーム2とを区画するダッシュパネル3に車体の後方側へ凹入する凹入部5が設けられるとともに、この凹入部5内に車輪を駆動するパワートレイン11の一部が配設された車両において、上記エンジンルーム2の内部を区画する横壁部材19および縦壁部材34等からなる隔壁部材と、上記ダッシュパネル3に形成された凹入部5の左側部36または右側部37の何れか一方、上記第1実施形態では左側部36を車体の後方側に後退させた後退部とを設けるとともに、このダッシュパネル3の左側部36からなる後退部と上記隔壁部材とにより区画されたエンジンルーム2内の側方空間部に上記エアコンユニット39からなる車両用補機を配設したため、パワートレイン11を車両の後方側に配設して操縦安定性を向上させるとともに、車室1内の乗員用スペースに悪影響を与えることなく、エンジンルーム2内の有効スペースを効率よく利用できるという利点がある。
【0029】
すなわち、上記パワートレイン11を構成するエンジン本体12の後部等を上記ダッシュパネル3の凹入部5内に配設することにより、エンジンルーム2内において縦置き式に配設された重量物である上記エンジン本体12およびトランスミッション13を有するパワートレイン11を、可及的に車両の後方側に配設することができるため、車両の重心を車体の中心部側に位置させることにより、車両の走行時に作用するヨー慣性モーメントを効果的に低減して操縦安定性および走行安定性を向上させることができる。
【0030】
そして、上記のようにパワートレイン11を車両の後方側に配設するとともに、ダッシュパネル3の左側部36を車体の後方側に後退させることによりスペース的に余裕が生じたエンジンルーム2の側方空間部内に上記エアコンユニット39からなる車両用補機を配設した場合には、上記ダッシュパネル3と、その車内側面を覆うように設置されたインストルメントパネルと(図示せず)の間に上記エアコンユニット39を配設する場合のように上記インストルメントパネルを車室1内側に大きく突出させる必要がないため、車室1内のスペースが狭められることを抑制しつつ、エンジンルーム2内のスペースを有効に利用して上記車両用補機を適正に配設できるという利点がある。
【0031】
しかも、上記第1実施形態では、エンジンルーム2の内部を前後に区画する上記横壁部材19からなる第1隔壁部材と、エンジンルーム2の内部を前後に区画する上記縦壁部材34からなる第2隔壁部材と、上記ダッシュパネル3の左側部36とにより区画された側方空間部内に上記エアコンユニット39からなる車両用補機を配設したため、パワートレイン用補機25およびエンジン本体12等において発生した熱の影響が上記エアコンユニット39の設置部に及ぶのを上記第1,第2隔壁部材によって効果的に抑制することができる。したがって、上記エアコンユニット39が熱影響を受けてその空気の調和作用が阻害されること等を効果的に防止できるとともに、上記エアコンユニット39において発生した騒音の影響が車外に及ぶのを上記第1,第2隔壁部材により効果的に防止することにより、環境が悪化するのを防ぐことができる。
【0032】
また、上記第1実施形態に示すように、運転席シート7が車体の左側に配設された車両において、上記ダッシュパネル3に設けられた凹入部5の左側部36を右側部37に比べて車体の後方側に後退させて後退部を形成するとともに、この後退部と上記縦壁部材34等からなる隔壁部材とにより区画された空間部内に上記エアコンユニット39からなる車両用補機を配設した場合には、図2に示すように、運転席シート7を助手席シート8よりも車体の後方側に配設することにより、助手席シート8を相対的に車室1の前方側に配設したとしても、この助手席シート8に着座した乗員の前方に充分な居住スペースを確保することができる。このため、上記助手席シート8を相対的に車室1の前方側に配設することにより、その後方側に配設された後列シート(図示せず)に着座した乗員の前方に充分なスペースを確保して優れた居住性が得られるという利点がある。
【0033】
なお、運転席シート7が車体の右側に配設された車両において、上記ダッシュパネル3に設けられた凹入部5の助手席シート8側に配設された左側部を、運転席シート7側に位置する右側部に比べて車体の後方側に後退させて後退部を形成するとともに、このダッシュパネル3の後退部と、エンジンルーム2の左側に配設された縦壁部材35等からなる隔壁部材とにより区画された空間部内に上記エアコンユニット39からなる車両用補機を配設した構造としてもよい。
【0034】
また、上記後退部をダッシュパネル3の運転席シート7側部位に形成した上記第1実施形態に代え、ダッシュパネル3の助手席シート8側部位に上記後退部を形成してもよい。このように構成した場合には、運転席シート7を助手席シート8よりも車室1の前方側に配設したとしても、この運転席シート7に着座した運転者の前方に充分なスペースが確保されるため、優れた居住性が得られるという利点がある。
【0035】
なお、上記ダッシュパネル3の後退部と隔壁部材とにより区画された空間部内に、空気調和装置のブロア、クーラおよびヒータ等がユニット化された上記エアコンユニット39を配設した上記第1実施形態に代え、車載バッテリまたはアンチロックブレーキシステムの油圧制御装置等からなる車両用補機を上記空間部内に配設することも可能である。しかし、上記エアコンユニット39は大型で広い設置スペースを要するため、上記ダッシュパネル3に設けられた後退部等を介して区画された上記空間部内にエアコンユニット39を配設することにより、車室1内のスペースが制限される等の問題を生じることなく、上記エアコンユニット39を配設できるように構成することが望ましい。
【0036】
また、上記第1実施形態では、前部車体の剛性を確保するためにエンジンルーム2内に配設された左右一対のフロントサイドフレーム9,9を上記横壁部材19によって互いに連結するように構成したため、ダッシュパネル3を介して基端部が互いに連結されるとともに、バンパレインフォースメント10を介して先端部が互いに連結された上記フロントサイドフレーム9,9の前後方向中間部を上記横壁部材19により効果的に補強することができる。したがって、車両の走行時に、上記フロントサイドフレーム9,9に前輪からサスペンション部材を介して大きな荷重が入力された場合等においても、前部車体が変形するのを抑制して操縦安定性を効果的に向上できるという利点がある。
【0037】
さらに、上記第1実施形態に示すように、パワートレイン11の前方部位を前後に区画する上記横壁部材19と、エンジンルーム2の後端部に設けられたダッシュパネル3とを連結するように車体の前後方向に延びる縦壁部材34,35を設置した場合には、車両の衝突時に、上記横壁部材19の前方部に位置するフロントサイドフレーム9の前方部等からなる車体前端部を変形させることにより衝撃荷重を効果的に吸収しつつ、この衝撃荷重が上記エアコンユニット39等からなる車両用補機の設置部に及ぶのを上記横壁部材19および縦壁部材34,35により効果的に抑制することができる。したがって、車両の衝突時に車両用補機が損傷するのを、より効果的に防止できるという利点がある。
【0038】
また、上記第1実施形態では、排気ガス浄化用のキャタライザー等からなるパワートレイン用補機25を上記横壁部材19の前方部に配設するとともに、このパワートレイン用補機25をパワートレイン11に接続する排気管26の前方延長部29および後方延長部31の挿通孔27,28からなる挿通部を上記横壁部材19に形成したため、上記パワートレイン用補機25において発生した反応熱や騒音が、エンジンルーム2内の後方部または車室内等に伝播するのを上記横壁部材19により効果的に阻止できるという利点がある。しかも、フロントグリルの開口部等からなるエンジンルーム2内に導入された走行風によって上記パワートレイン用補機25を効果的に冷却できるため、このパワートレイン用補機25がその反応熱に応じて過度に加熱されることにより早期に熱劣化するのを防止できるとともに、パワートレイン用補機25の温度が適正値以上となって排気ガスの浄化機能が損なわれること等を効果的に防止できるという利点がある。
【0039】
図7および図8は、本発明に係る車両の前部車体構造の第2実施形態を示している。この第2実施形態では、パワートレイン11の前方部位に設置された上記横壁部材19とダッシュパネル3との間に形成された空間部の側面を覆う縦壁部材34,35からなる隔壁部材がエンジンルーム2内に配設された車両において、例えば助手席シート8側に位置する縦壁部材35と、ホイールエプロンパネル42からなるエンジンルーム2の側面板とにより区画された側方空間部が物品の収納部として利用可能に構成されるとともに、その上面部を開閉可能に覆うリッド部材44が設けられている。
【0040】
上記第2実施形態に示すように横壁部材19とダッシュパネル3と縦壁部材34,35とにより区画されたエンジンルーム2内の側方空間部に物品の収納部として利用可能に構成するとともに、その上面部を開閉可能に覆うリッド部材44を設けた場合には、エンジンルーム2内に物品を収納可能に構成してエンジンルーム2におけるデッドスペースの有効利用を図ることができる。しかも、エンジンルーム2の上面を覆うボンネットを開放しなければ、上記側方空間部部内の物品を取り出すことができないため、この側方空間部内に収納された物品が盗難に遭うのを効果的に防止できるという利点がある。
【0041】
上記側方空間部の上面を開閉可能に覆うリッド部材44を設けてなる上記第2実施形態に代え、図9に示すように、車体の右側(助手席シート8側)等に配設された側方空間部に車室1内から連通するアクセス通路45を上記ダッシュパネル3およびその後方側に配設されたインストルメントパネル(図示せず)に設けるとともに、上記アクセス通路45を開閉するリッド部材46を設けた構造としてもよい。このように構成した場合には上記側方空間部に対する物品の出し入れを車室内から容易に行うことができるとともに、車両の走行時においても上記助手席シート8側から側方空間部に対してアクセス可能であるという利点がある。
【0042】
上記各実施形態では、エンジンルーム2内に縦置き式に配設されるエンジン本体12と、その後方に接続されたトランスミッション13とを備えたパワートレイン11の一部を、ダッシュパネル3に形成された後方側への凹入部5内に配設したため、重量物である上記エンジン本体12およびトランスミッション13を、可及的に車両の後方側に配設して車両の重心を車体の中心部側に位置させることにより、車両の走行時に作用するヨー慣性モーメントを効果的に低減して操縦安定性を向上させることができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る車両の前部車体構造の第1実施形態を示す側面断面図である。
【図2】上記前部車体構造の第1実施形態を示す平面断面図である。
【図3】上記前部車体構造の第1実施形態を示す正面断面図である。
【図4】図2のA−A線断面図である。
【図5】隔壁部材等の具体的構成を示す分解斜視図である。
【図6】車両用補機等の取付状態を示す側面断面図である。
【図7】本発明に係る車両の前部車体構造の第2実施形態を示す正面断面図である。
【図8】上記前部車体構造の第2実施形態を示す斜視図である。
【図9】本発明に係る車両の前部車体構造の第3実施形態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0044】
1 車室
2 エンジンルーム
3 ダッシュパネル
5 凹入部
9 フロントサイドフレーム
11 パワートレイン
12 エンジン本体
13 トランスミッション
19 横壁部材(隔壁部材)
34,35 縦壁部材(隔壁部材)
36 ダッシュパネルの左側部(後退部)
39 エアコンユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室とエンジンルームとを区画するダッシュパネルに車体の後方側へ凹入する凹入部が設けられるとともに、この凹入部内に車輪を駆動するパワートレインの一部が配設された車両において、上記エンジンルームの内部を区画する隔壁部材と、上記ダッシュパネルに形成された凹入部の左側部または右側部の何れか一方を車体の後方側に後退させることにより形成された後退部を有し、この後退部と上記隔壁部材とにより区画された空間部内に車両用補機が配設されたことを特徴とする車両の前部車体構造。
【請求項2】
ダッシュパネルの運転席シート側部位に上記後退部が形成されたことを特徴とする請求項1に記載の車両の前部車体構造。
【請求項3】
上記車両用補機が空気調和装置のエアコンユニットであることを特徴とする請求項1または2に記載の車両の前部車体構造。
【請求項4】
上記エンジンルーム内に左右一対のフロントサイドフレームが車体の前後方向に延びるように配設されるとともに、この左右のフロントサイドフレームを連結する横壁部材からなる隔壁部材を備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両の前部車体構造。
【請求項5】
上記縦壁部材とダッシュパネルとを連結するように車体の前後方向に延びる縦壁部材からなる隔壁部材を備えたことを特徴とする請求項4に記載の車両の前部車体構造。
【請求項6】
上記パワートレインは、エンジンルーム内に縦置き式に配設されるエンジン本体と、その後方に接続されたトランスミッションとを備えたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の車両の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−101896(P2009−101896A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276034(P2007−276034)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】