説明

車両の前部車体構造

【課題】アッパノーズ部にて空力性能の向上を図り、また、アッパノーズと中間ノーズ部との両者により歩行者保護性能の向上を図って、ノーズ部全体の広範囲で歩行者保護を図り、特に、アッパノーズ部と中間ノーズ部とで子供保護エリアと大人保護エリアとを分担し得る車両の前部車体構造を提供する。
【解決手段】フロントノーズ部50と、中間ノーズ部51と、フロントウインドパネルと、を備え、フロントノーズ部50より上方に所定間隔離間して車幅方向に延びるアッパノーズ部56を備え、アッパノーズ部56後方の中間ノーズ部51を、車両と歩行者との接触が検出、もしくは予知された時、上方に所定量リフトさせるリフト駆動手段72を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両前方から後方に傾斜して延びるフロントノーズ部と、このフロントノーズ部と連続して後方に延びて車体前方外面を形成する中間ノーズ部と、この中間ノーズ部の後方に設けられた車室の前方を車外が視認可能となるように覆ったフロントウインドパネル(フロントウインドガラスと同意)と、を備えたような車両の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両の空力特性を向上させるためには、車両前方から後方に傾斜して延びるノーズパネルの高さ位置を低く設定すると共に、このノーズパネルの前端部上方にスポイラを配設するとよいことが知られている。
すなわち、特許文献1に開示されているように、傾斜した上面を有して配設されたノーズパネルと、このノーズパネルの傾斜上面から上方に離間して配設されたバンパ部材(フローティングタイプのスポイラ)とを具備し、このバンパ部材がスポイラ機能を有するように形成したものがある。
【0003】
この特許文献1に開示された従来構造によれば、車両前部構造を低ノーズ化して、ボンネットラインを低く抑え、上記バンパ部材にスポイラとしての機能を発揮させながら、ノーズパネルとバンパ部材との間の開口から導入した走行風を、ボンネット、フロントウインドガラス、ルーフに沿って流し、空力抵抗の低減を図って、空力特性の向上を図ることができる。
【0004】
また、特許文献2には、ノーズパネルと、該ノーズパネルの上方に配置されスポイラ機能を備えたバンパ部材(フローティングタイプのスポイラ)との間に開口を有する車両において、上述のバンパ部材の下側に、走行風導入用の開口を設け、走行風を有効利用して、エンジンルームの冷却、またはオイルクーラの冷却、あるいは、エンジンへの吸気導入を行なうように構成したものが開示されている。
この特許文献2に開示された従来構造によれば、空力特性の向上と、走行風の有効利用とを両立させることができる。
【0005】
さらに、特許文献3には、車両の前端ノーズ部より上方に離間して車幅方向に延びるスポイラが配設された車両の前部車体構造において、上記スポイラには上方からの荷重を緩衝する緩衝部が設けられ、かつ、上記スポイラの下面と前端ノーズ部上面との間に走行風流入用の開口部を形成した構造が開示されている。
この特許文献3に開示された従来構造によれば、スポイラによる空力特性の確保と、緩衝部による歩行者保護との両立を図ることができる。
【0006】
しかし、この特許文献3に開示された従来構造においては、緩衝部が設けられたスポイラの配設部位としての前端ノーズ対応部においては、車両と歩行者との接触時に、スポイラに傾倒する歩行者を確実に保護することができるが、歩行者(特に、その頭部)がスポイラ後端よりもさらに後方に傾倒した場合には、歩行者保護性能が低くなる。
このような車両の前部車体構造においては、空力特性のさらなる向上が要請されると共に、これと併せて、車両が歩行者と接触、衝突した場合、ボンネットの全域において当該歩行者を適切に保護するという安全性(歩行者保護性能)のさらなる向上が求められている。
【0007】
【特許文献1】特開平5−69861号公報
【特許文献2】特開平9−86449号公報
【特許文献3】特開2001−138963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、この発明は、フロントノーズ部より上方に所定間隔離間して車幅方向に延びるアッパノーズ部を備え、該アッパノーズ部後方の中間ノーズ部を、車両と歩行者との接触が検出、もしくは予知された時、上方に所定量リフトさせるリフト駆動手段を備えることで、上記アッパノーズ部にて空力性能の向上を図り、また、該アッパノーズと中間ノーズ部との両者により歩行者保護性能の向上を図って、ノーズ部全体の広範囲で歩行者保護を図ることができ、特に、アッパノーズ部と中間ノーズ部とで子供保護エリアと大人保護エリアとを分担することができる車両の前部車体構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明による車両の前部車体構造は、車両前方から後方に傾斜して延びるフロントノーズ部と、該フロントノーズ部に連続して後方に延びて車体前方外面を形成する中間ノーズ部と、該中間ノーズ部の後方に設けられた車室の前方を車外が視認可能となるように覆ったフロントウインドパネルと、を備えた車両の前部車体構造であって、上記フロントノーズ部より上方に所定間隔離間して車幅方向に延びるアッパノーズ部を備え、該アッパノーズ部後方の上記中間ノーズ部を、車両と歩行者との接触が検出、もしくは予知された時、上方に所定量リフトさせるリフト駆動手段を備えたものである。
【0010】
上記構成によれば、アッパノーズ部の下面とフロントノーズ部の上面との間には、走行風の通過が可能な通路が形成され、該アッパノーズ部がスポイラとして作用するので、空力特性の向上を図ることができる。
また、車両が歩行者と接触した際、車両前部上側に倒れる歩行者を上記アッパノーズ部にて受け止めるので、歩行者保護性能の向上を図ることができる。
【0011】
しかも、車両と歩行者との接触が検出、または予知された時、上述のリフト駆動手段が中間ノーズ部を所定量上方にリフトアップさせるので、この中間ノーズ部でも歩行者保護を図ることができる。
つまり、アッパノーズ部と、このアッパノーズ部の後方に位置する中間ノーズ部との両者により、歩行者保護性能の向上を図って、ノーズ部全体の広範囲で歩行者保護を図ることができる。
【0012】
特に、アッパノーズ部と中間ノーズ部とで子供保護エリアと大人保護エリアとを分担することができる。すなわち、アッパノーズ部は相対的に身長が低い子供を保護するエリアに対応し、中間ノーズ部は相対的に身長が高い大人を保護するエリアに対応するので、衝撃エネルギの吸収量の設定が容易となる。
【0013】
この発明の一実施態様においては、上記リフト駆動手段は、上記中間ノーズ部を上記アッパノーズ部の高さ以上にリフト移動させるものである。
上記構成によれば、アッパノーズ部と、リフト移動された中間ノーズ部とで、歩行者を車両前後方向の広い範囲で保護することができる。
【0014】
この発明の一実施態様においては、上記中間ノーズ部にはボンネット開口が設けられ、該ボンネット開口を覆うボンネット部材が設けられると共に、上記リフト駆動手段は上記ボンネット部材をリフト移動させるものである。
上記構成によれば、ボンネット開口を覆うボンネット部材を設けたので、空力特性向上および歩行者保護性能向上と併せて、ボンネット下部空間(例えば、エンジンルーム内)のサービス性を確保することができる。
【0015】
この発明の一実施態様においては、上記リフト駆動手段は上記ボンネット部材の後部において該ボンネット部材と車体との間に設けられ、上記ボンネット部材の中間乃至前部には上記リフト駆動手段に追従するリンク機構が配設されたものである。
【0016】
上記構成によれば、ボンネット部材の後部に設ける必要最小限のリフト駆動手段により、歩行者保護に対応してボンネット部材をリフトアップさせることができ、しかも、上記リンク機構を配設したことで、該ボンネット部材を上記アッパノーズ部の略延長線上の高さにリフト移動できるので、歩行者保護性能のさらなる向上を図ることができる。
また、上記リフト駆動手段は車体に設けるので、該リフト駆動手段の支持剛性を確保することができる。
【0017】
この発明の一実施態様においては、上記アッパノーズ部は、上下方向の荷重に対してエネルギ吸収可能に形成されたものである。
上記構成によれば、アッパノーズ部が上下方向に衝撃荷重(エネルギ)を吸収するので、特に、子供保護エリアにおいて歩行者の頭部を適切に保護することができる。
【0018】
この発明の一実施態様においては、上記フロントノーズ部と上記アッパノーズ部との間に走行風を通過させて整流可能な整流通路を形成し、該整流通路の下面部を形成する整流下部面部と、上記中間ノーズ部上面と、上記フロントウインドパネル前面と、を所定の角度で略連続した形状に形成したものである。
上述の所定の角度は、水平面に対して約20度から25度の範囲、望ましくは、22度に設定してもよい。
【0019】
上記構成によれば、整流通路の形成と併せて、整流下部面部、中間ノーズ部上面およびフロントウインドパネル前面を所定角度で略連続させたので、空力特性の向上を図ることができ、また、上記所定角度によりノーズライン全体を低く設定して、前方視認性の向上を図ることができ、さらには、低ノーズ化によりフロントオーバハングの短縮を図ることもできる。
【0020】
この発明の一実施態様においては、上記中間ノーズ部の下方には、車両を駆動するパワートレインが配設されたものである。
上記構成によれば、中間ノーズ部の下方にパワートレインを配設したので、該パワートレイン前方のスペース自由度が拡大し、フロントノーズ部の高さや傾斜角度などのレイアウト自由度が確保できる。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、フロントノーズ部より上方に所定間隔離間して車幅方向に延びるアッパノーズ部を備え、該アッパノーズ部後方の中間ノーズ部を、車両と歩行者との接触が検出、もしくは予知された時、上方に所定量リフトさせるリフト駆動手段を備えたので、上記アッパノーズ部にて空力性能の向上を図り、また、該アッパノーズと中間ノーズ部との両者により歩行者保護性能の向上を図って、ノーズ部全体の広範囲で歩行者保護を図ることができ、特に、アッパノーズ部と中間ノーズ部とで子供保護エリアと大人保護エリアとを分担することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
空力性能向上および歩行者保護性能向上を図り、ノーズ全体の広範囲で歩行者保護が図れ、アッパノーズ部と中間ノーズ部とで子供保護エリアと大人保護エリアとを分担するという目的を、車両前方から後方に傾斜して延びるフロントノーズ部と、該フロントノーズ部に連続して後方に延びて車体前方外面を形成する中間ノーズ部と、該中間ノーズ部の後方に設けられた車室の前方を車外が視認可能となるように覆ったフロントウインドパネルと、を備えた車両の前部車体構造において、上記フロントノーズ部より上方に所定間隔離間して車幅方向に延びるアッパノーズ部を備え、該アッパノーズ部後方の上記中間ノーズ部を、車両と歩行者との接触が検出、もしくは予知された時、上方に所定量リフトさせるリフト駆動手段を備えるという構成にて実現した。
【実施例1】
【0023】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図面は車両の前部車体構造を示すが、まず、図1〜図3を参照して、車両の全体構造について詳述する。ここで、図1は車両の側面図、図2は車両の平面図、図3は車両の正面図である。
【0024】
図1において、エンジンルーム1と車室2とを前後方向に仕切るダッシュパネルとしてのダッシュロアパネル3を設け、このダッシュロアパネル3の下部には、後方に向けて略水平に延びるフロアパネル4を、一体または一体的に連設している。上記フロアパネル4は車室2の床面を形成するパネルであって、該フロアパネル4の後部には、上方に立上がるキックアップ部5および側面視凹形状のリヤシートパン6を形成し、このリヤシートパン6にはバルクヘッド7を介してリヤフロア8(フロアパネル)を連設している。
【0025】
上述のフロアパネル4の車幅方向中央部には、図1、図2に示すように、車室2内へ突出して、車両の前後方向に延びるトンネル部9を設けている。このトンネル部9は、上述のダッシュロアパネル3とバルクヘッド7との間を車両の前後方向に延びており、該トンネル部9(フロアトンネル)は車体剛性の中心となるものである。
なお、上記トンネル部9の上部には、該トンネル部9の上部に沿って、車両の前後方向に延びるトンネルメンバ(いわゆる、ハイマウント・バックボーン・フレーム)を設けて、下部車体剛性の向上を図るように構成してもよい。
【0026】
また、上述のフロアパネル4の左右両サイドには、図2、図3に示すように、車両の前後方向に延びるサイドシル10を接合固定している。このサイドシル10は、サイドシルインナ11と、サイドシルアウタ12とを接合固定して、車両の前後方向に延びるサイドシル閉断面13を有する車体剛性部材である。なお、必要に応じて該サイドシル閉断面13内にはサイドシルレインフォースメントを設けてもよい。
【0027】
さらに、図1、図2に示すように、上述のダッシュロアパネル3とキックアップ部5との前後方向中間部において、上述のフロアパネル4上には、トンネル部9の縦壁と、サイドシルインナ11の縦壁と、の間を車幅方向に連結する左右分割構造のフロアクロスメンバ14,14を設け、このフロアクロスメンバ14とフロアパネル4との間には、車幅方向に延びる閉断面15を形成している。なお、このフロアクロスメンバ14は、トンネル部9を跨ぐ左右一体構造のクロスメンバであってもよい。
【0028】
図2に示すように、上述のトンネル部9とサイドシル10との間の車幅方向の中間部において、フロアパネル4の下部には、車両の前後方向に延びる左右一対のフロアフレーム16,16を接合固定して、このフロアフレーム16と上述のフロアパネル4との間には、車両の前後方向に延びる閉断面を形成している。
【0029】
また、リヤフロア8の下部両サイドには、図1、図2に示すように、車両の前後方向に延びる左右一対のリヤサイドフレーム17,17(リヤフレーム)を接合固定して、このリヤサイドフレーム17とリヤフロア8との間には、車両の前後方向に延びる閉断面を形成すると共に、これら左右一対のリヤサイドフレーム17,17の前部を、左右一対のサイドシル10,10の後部と車両前後方向にオーバラップする位置まで前方へ延設させている。
【0030】
一方、エンジンルーム1の左右両サイドを車両の前後方向に延びるフロントフレームとしての左右一対のフロントサイドフレーム18,18を設けている。これら左右のフロントサイドフレーム18,18は、図1に示すように、その後部(いわゆるキックアップ部)がダッシュロアパネル3の前面に沿って下方に延び、該フロントサイドフレーム18の後端部は上述のフロアフレーム16の前端部に連結されていて、このフロントサイドフレーム18とフロアフレーム16とは、図2に示すように、平面から見て車両の前後方向に略一直線状に連続するものである。
ここで、上述のサイドシル10、フロアクロスメンバ14、フロアフレーム16、リヤサイドフレーム17、フロントサイドフレーム18はそれぞれ車体剛性部材であって、これらの各車体剛性部材により、車体剛性を確保すべく構成している。
【0031】
また、図2に示すように、左右一対のフロントサイドフレーム18,18間には、車幅方向に延びる閉断面構造のフロントクロスメンバ19(いわゆるNo.1.5クロスメンバ)を設ける一方、一対のフロントサイドフレーム18,18の前方には、クラッシュカン20,20(衝突エネルギ吸収部材)を介して、車幅方向に延びるバンパレイン21を設けている。
【0032】
このバンパレイン21の車幅方向中間部には、後方に後退する中間後退部21Aを形成すると共に、バンパレイン21の両端部にも後方に後退するサイド後退部21B,21Cを形成し、該バンパレイン21の平面から見た全体形状をW字状と成している。上述のサイド後退部21B,21Cを形成し、図2に示すように、該バンパレイン21の平面から見た全体形状をW字状と成している。上述のサイド後退部21B,21Cを設けることで、車両前部のデザイン性の自由度を確保するように構成している。
さらに、バンパレイン21の中間後退部21Aと上述のフロントクロスメンバ19の車幅方向中央部との間を、クラッシュカン22(衝突エネルギ吸収部材)で連結している。
【0033】
図1〜図3に示すように、上述のフロントクロスメンバ19の近傍において、左右一対のフロントサイドフレーム18,18間には、後部にファン23を備えたラジエータ24を前低後高状に傾斜させてスラント配設している。このラジエータ24は後述するエンジン25の前方に配設されたものである。
【0034】
ところで、図1、図2に示すように、エンジンルーム1内の後部およびトンネル部9の車外側(つまり下側)には、エンジン25とトランスミッション26とから成るパワートレイン27を配設し、重量物としてのエンジン25を可及的車両中心部に後退配置して、所謂フロント・ミッドシップ・エンジン車と成している。
【0035】
また、上述のトンネル部9の車外側(下側)には、トランスミッション26の出力を、リヤディファレンシャル装置28に伝達するプロペラシャフト29を設け、上述のリヤディファレンシャル装置28の差動出力を左右のドライブシャフト30,30(図2参照)を介して左右の後輪31,31に差動伝達すべく構成して、FR(前部機関後輪駆動)タイプの車両と成している。
【0036】
一方、図2に示すように、車室2内において、フロアクロスメンバ14と上下方向に対応する位置には、運転席シート32と助手席シート33とを車幅方向に並設している。これらの前列シートは、シートクッション34とシートバック35とをそれぞれ備えたバケットシート(セパレート・シート)である。この実施例では、運転席シート32を左側に配設して、左ハンドル車と成しているが、右ハンドル車と成してもよいことは勿論である。
【0037】
また、図1、図2に示すように、車室2内において、リヤシートパン6に対応する位置には、リヤシート36を配設している。この後列シートは、シートクッション37とシートバック38とを備えたベンチタイプのシートであるが、リヤシート36は、セパレートシートで構成してもよい。
なお、図中、39はステアリングホイール、40はインストルメントパネル、41はステアリングラック、42はフロントサスペンション(図示せず)を支持するサブフレーム、43は前輪、44はリヤシートパン6の下部およびバルクヘッド7の後部に設けられた燃料タンクである。
【0038】
次に、車両の前部車体構造について詳述する。
図4は図1の要部拡大側面図であって、図1、図4に示すように、この車両は、車両前方から後方に傾斜して延びるフロントノーズ部50と、このフロントノーズ部50と連続して後方に延びて車体前方外面を形成する中間ノーズ部51と、この中間ノーズ部51の後方に設けられた車室2の前方を車外が視認可能となるように覆ったフロントウインドパネル(フロントウインドガラスと同意、但し、ガラス製、合成樹脂の何れでもよく、以下単にフロントウインドと略記する)52と、を備えている。
【0039】
図3に示すように、上述のフロントウインド52は、左右のフロントピラー53,53と、ルーフ部54の前端と、カウル部上端との間に形成されたフロントウインド開口を覆うもので、このフロントウインド52の下端部は、カウル部(図示せず)で支持される一方、図2に示すように、フロントウインド52の下方には該フロントウインド52を払拭する一対のワイパ装置55,55が設けられている。
【0040】
図3、図4に示すように、上述のフロントノーズ部50より上方に所定間隔離間して車幅方向に延びるアッパノーズ部56を設けている。
このアッパノーズ部56は、エネルギ吸収可能なEA部材(エネルギ・アブソーバ部材)としての発泡ウレタン部材57と、この発泡ウレタン部材57の外部を覆う樹脂製の外皮58とから構成されていて、上下方向の荷重に対してエネルギ吸収可能に形成されている。
【0041】
図3に示すように、上述のアッパノーズ部56は、その車幅方向中央が上方に位置するなだらかな曲面形状に形成されており、該アッパノーズ部56の車幅方向両サイド部は、上述のフロントノーズ部50を介して、左右のフロントフェンダ59,59と連続するように構成されている。
【0042】
図2に示すように、このアッパノーズ部56は、その車幅方向の中央部前端が上述の中間後退部21Aよりも前方に位置し、その中央部後端が前輪43の中心と略対応する部位に位置するように設定されている。
【0043】
また図3、図4に示すように、上述のフロントノーズ部50とアッパノーズ部56との間には、走行風を通過させて整流可能な整流通路60を形成している。すなわち、この実施例のアッパノーズ部56は、バンパ機能と、スポイラ機能と、歩行者保護機能とを兼ねるように構成している。
【0044】
さらに、図1に示すように、上述の整流通路60の下面部を形成する整流下部面部60a(図4参照)と、上述の中間ノーズ部51上面と、上述のフロントウインド52前面とを、所定の角度θで略連続した形状に形成している。
【0045】
この実施例では、上述の整流下部面部60a(図4参照)と、中間ノーズ部51上面と、フロントウインド52前面とを、図1に示すように、水平面(HOR)に対して約20度から25度の間の角度θで前低後高状に傾斜させている。
ここで上記角度θは20〜25度のうちで、22度が最も好ましい。また、上記角度θを20〜25度の範囲内に設定すると、空気抗力係数をCd=0.27だけ改善することができ、空力特性の向上を図ることができた。
【0046】
一方、車両を駆動するパワートレイン27、特にそのエンジン25は上述の中間ノーズ部51の下方に配設されており、エンジン25前方のスペース自由度の拡大を図るように構成している。すなわち、中間ノーズ部51の下方にエンジン25を配設することで、重量物としてのエンジン25を可及的車両中心側に寄せてレイアウトして、ヨー慣性モーメントの低減を図ることができるのは勿論、エンジン25よりも前方のスペース自由度の拡大を図って、フロントノーズ部50の高さや、傾斜角度などのレイアウトの自由度を確保すべく構成している。
【0047】
また、図3、図4に示すように、上述の一対のフロントサイドフレーム18,18は、フロントノーズ部50および中間ノーズ部51の下方に設けられており、一対のフロントサイドフレーム18,18の前方に設けられたバンパレイン21における中間後退部21Aは、上述のフロントノーズ部50の下方において後方に後退するように形成されており、この後退構造により、フロントノーズ部50の先端部の高さを低く設定して、低ノーズ化を図ると共に、フロントオーバハングの短縮を図るように構成している。
さらに、図2で示したように、バンパレイン21の両端部にも後方に後退する左右のサイド後退部21B,21Cをそれぞれ形成することで、車両前部のデザインの自由度向上を図るように構成している。
【0048】
ところで、上述の中間ノーズ部51には、図5、図6に示すようにボンネット開口70が設けられると共に、このボンネット開口70を覆うボンネット部材71を設けている。
ここで、上述のボンネット開口70の開口範囲は、図5に示すように、フロントノーズ部50の後端からダッシュロアパネル3の配設位置前部に対応し、ボンネット部材71の車幅方向の長さは、図2、図3に示すように、その両端部が前輪43の車幅方向の中間位置に相当する部位に位置する所定の車幅方向の長さに設定されている。
【0049】
しかも、車両と歩行者との接触がGセンサ等により検出、もしくは近接センサ等により予知された時、上述のボンネット部材71を上方に所定量リフトさせるリフト駆動手段72を設けている。
このリフト駆動手段72は、図6、図7に示すように、カウルサイドフロントまたはエプロンレインフォースメントなどの車体73に固定されるヒンジベース74と、このヒンジベース74に支点75を介して取付けられたリフトアーム76と、上述の車体73とリフトアーム76の中間との間に設けられたアクチュエータ77とを備えている。
【0050】
このアクチュエータ77は、火薬を内蔵したベース部77aと、火薬の爆発時に多段状に上動する一方、上方からの荷重が付加された時、EA機能(エネルギ吸収機能)を発揮しつつ下動する複数の可動部77bとを備えている。
【0051】
また、この実施例では、上述のリフトアーム76の遊端部には長孔76aが形成されている。
一方、上述のボンネット部材71の後部下面には、ヒンジブラケット78を取付け、このヒンジブラケット78とリフトアーム76とを、その長孔76a内に配設する連結ピンのような連結部材79により連結している。
【0052】
つまり、上述のリフト駆動手段72は、ボンネット部材71の後部において該ボンネット部材71と車体73との間に設けられたものであり、さらに詳しくは、カウルサイドフロントまたはエプロンレインフォースメントなどの車体73に対して、ボンネット部材71の車幅方向両サイド部に合計2つ設けられたものである。
【0053】
また、上述のボンネット部材71の前端部は、ヒンジ80(ヒンジ部材)を介してボンネット開口70の前側口縁としてのフロントノーズ部50の後端下部に回動可能に支持されている。なお、このヒンジ80をフロントノーズ部50の後端下部に設ける構成に代えて、該ヒンジ80をサスタワーに設ける構成を採用してもよい。
【0054】
図4は上述のリフト駆動手段72が作動していないノーマルな状態を示し、この状態下においては、空力特性を向上すべく、整流下部面部60aと、ボンネット部材71を含む中間ノーズ部51の上面と、フロントウインド52前面と、が図4、図1に示すように、所定の角度θで略連続している。
【0055】
車両と歩行者との接触が検出、または予知されると、リフト駆動手段72におけるアクチュエータ77のベース部77a内の火薬が爆発して、複数の可動部77bが多段状に上動するので、リフトアーム76が支点75を中心に上方へ回動し、ボンネット部材71はヒンジ80を支点として上方に所定量リフトして、図5、図6の状態となる。
【0056】
このボンネット部材71のリフト状態は、図3に仮想線でも示すように、該ボンネット部材71はアッパノーズ部56の高さ以上にリフト移動すべく構成されている。
なお、図7において、矢印Fは車両前方を示し、矢印Rは車両後方を示す。
【0057】
このように構成した車両の前部車体構造の作用について説明する。
車両の前進走行時、該車両には前方からの走行風が相対的に吹付けられ、この走行風は車体前部に当って、アッパノーズ部56の上側を吹抜ける風と、整流通路60内を吹抜ける風(図4の点線矢印参照)とに分れ、翼理論から風の吹抜け長さの短い面から長い面に向けて、押下げ力(いわゆる、ダウンフォース)が発生する。
【0058】
このため、アッパノーズ部56を備えた車両の前部車体構造は、全体的に路面に対して押付けられるような力を受け、前輪43,43の接地力が増加し、走行安定性が増す。このように上述のアッパノーズ部56による空力特性が確保され、車両の走行安定性の向上によって、走行性能が改善される。
【0059】
しかも、整流下部面部60aと、ボンネット部材71の上面を含む中間ノーズ部51上面と、フロントウインド52前面とを、図1で示したように、水平面(HOR)に対して約20〜25度の間の角度θで前低後高状に傾斜させたので、空気抗力係数の改善により、空力特性をさらに向上させることができた。
【0060】
一方、車両と歩行者との接触が検出、もしくは、予知された際には、中間ノーズ部51のボンネット部材71が所定量上方にリフトアップし、車両側に傾倒する歩行者の頭部、特に相対的に身長が高い大人の頭部を保護することができる。
【0061】
相対的に身長が低い子供の場合には、車両と当該歩行者(子供)とが接触すると、車両側に傾倒する子供の頭部は、アッパノーズ部56の位置に対応するので、このアッパノーズ部56のエネルギ吸収作用により、子供の頭部を保護することができる。
要するに、アッパノーズ部56と、EA機能を備えたボンネット部材71とで、子供保護エリアと大人保護エリアとを分担することができる。また、シンプルなボンネット部材71のリフトアップ構造により、衝突時の衝撃を吸収して、歩行者保護性能の向上を図ることができる。
【0062】
このように、図1〜図7で示した実施例の車両の前部車体構造は、車両前方から後方に傾斜して延びるフロントノーズ部50と、該フロントノーズ部50に連続して後方に延びて車体前方外面を形成する中間ノーズ部51と、該中間ノーズ部51の後方に設けられた車室2の前方を車外が視認可能となるように覆ったフロントウインド52と、を備えた車両の前部車体構造であって、上記フロントノーズ部50より上方に所定間隔離間して車幅方向に延びるアッパノーズ部56を備え、該アッパノーズ部56後方の上記中間ノーズ部51(特に、ボンネット部材71参照)を、車両と歩行者との接触が検出、もしくは予知された時、上方に所定量リフトさせるリフト駆動手段72を備えたものである(図1、図5参照)。
【0063】
この構成によれば、アッパノーズ部56の下面とフロントノーズ部50の上面との間には、走行風の通過が可能な通路が形成され、該アッパノーズ部56がスポイラとして作用するので、空力特性の向上を図ることができる。
また、車両が歩行者と接触した際、車両前部上側に倒れる歩行者を上記アッパノーズ部56にて受け止めるので、歩行者保護性能の向上を図ることができる。
【0064】
しかも、車両と歩行者との接触が検出、または予知された時、上述のリフト駆動手段72が中間ノーズ部51(特に、ボンネット部材71参照)を所定量上方にリフトアップさせるので、この中間ノーズ部51(特に、ボンネット部材71参照)でも歩行者保護を図ることができる。
つまり、アッパノーズ部56と、このアッパノーズ部56の後方に位置する中間ノーズ部51(ボンネット部材71参照)との両者により、歩行者保護性能の向上を図って、ノーズ部全体の広範囲で歩行者保護を図ることができる。
【0065】
特に、アッパノーズ部56と中間ノーズ部51(ボンネット部材71参照)とで子供保護エリアと大人保護エリアとを分担することができる。すなわち、アッパノーズ部56は相対的に身長が低い子供を保護するエリアに対応し、中間ノーズ部51(ボンネット部材71参照)は相対的に身長が高い大人を保護するエリアに対応するので、衝撃エネルギの吸収量の設定が容易となる。
【0066】
また、上記リフト駆動手段72は、上記中間ノーズ部51(特に、ボンネット部材71参照)を上記アッパノーズ部56の高さ以上にリフト移動させるものである(図5参照)。
この構成によれば、アッパノーズ部56と、リフト移動された中間ノーズ部51(ボンネット部材71参照)とで、歩行者を車両前後方向の広い範囲で保護することができる。
【0067】
さらに、上記中間ノーズ部51にはボンネット開口70が設けられ、該ボンネット開口70を覆うボンネット部材71が設けられると共に、上記リフト駆動手段72は上記ボンネット部材71をリフト移動させるものである(図5参照)。
この構成によれば、ボンネット開口70を覆うボンネット部材71を設けたので、空力特性向上および歩行者保護性能向上と併せて、上記ボンネット部材71は火薬の爆発以外に手動で強制的に上方へ持ち上げると図5に示すようにリフトアップするので、ボンネット下部空間(例えば、エンジンルーム1内)のサービス性を確保することができる。
【0068】
加えて、上記アッパノーズ部56は、上下方向の荷重に対してエネルギ吸収可能に形成されたものである(図5参照)。
この構成によれば、アッパノーズ部56が上下方向に衝撃荷重(エネルギ)を吸収するので、特に、子供保護エリアにおいて歩行者の頭部を適切に保護することができる。ここで、アッパノーズ部56によるエネルギ吸収は、発泡ウレタン部材57によるエネルギ吸収と、アッパノーズ部56全体の撓みによるエネルギ吸収との双方を含む。
【0069】
また、上記フロントノーズ部50と上記アッパノーズ部56との間に走行風を通過させて整流可能な整流通路60を形成し、該整流通路60の下面部を形成する整流下部面部60aと、上記中間ノーズ部51上面(但し、ボンネット部材71の上面を含む)と、上記フロントウインド52前面と、を所定の角度θで略連続した形状に形成したものである(図1、図4参照)。
上述の所定の角度θは、実施例で示したように、水平面HORに対して約20度から25度の範囲、望ましくは、22度に設定する。
【0070】
この構成によれば、整流通路60の形成と併せて、整流下部面部60a、中間ノーズ部51(但し、ボンネット部材71の上面を含む)上面およびフロントウインド52前面を所定角度θで略連続させたので、空力特性の向上を図ることができ、また、上記所定角度θによりノーズライン全体を低く設定して、前方視認性の向上を図ることができ、さらには、低ノーズ化によりフロントオーバハングの短縮を図ることもできる。
【0071】
さらに、上記中間ノーズ部51の下方には、車両を駆動するパワートレイン27(特に、エンジン25参照)が配設されたものである(図4参照)。
この構成によれば、中間ノーズ部51の下方にパワートレイン27(特に、エンジン25)を配設したので、該パワートレイン27前方のスペース自由度が拡大し、フロントノーズ部50の高さや傾斜角度などのレイアウト自由度が確保できる。
【0072】
また、実施例で開示したように、フロントノーズ部50および中間ノーズ部51の下方に、車幅方向で離間して車両の前後方向に延びるフロントサイドフレーム18,18(フロントフレーム)を一対設け、該フロントサイドフレーム18の前方に、車幅方向に延びるバンパレイン21(詳しくは、バンパレインフォースメント)を、設け、該バンパレイン21の中間部に、上記フロントノーズ部50下方において後方に後退する後退部としての中間後退部21Aを形成するという構成を採用すると、次の効果がある。
すなわち、フロントノーズ部50の先端部の高さを低く設定することができ、より一層良好な低ノーズ化を図ることができる。
【0073】
因に、上記後退部を設けない場合には、フロントノーズ部50の先端部、特に、先端中央を下げると、バンパレイン21とフロントノーズ部50の先端部とが干渉するが、実施例で開示したように、上記バンパレイン21に中間後退部21
Aを形成することにより、フロントノーズ部50の先端を下げても、これら両者(バンパレイン21と、フロントノーズ部50)の干渉を回避することができ、低ノーズ化が達成できる。
【実施例2】
【0074】
図8〜図10は車両の前部車体構造の他の実施例を示すものである。
図8〜図10に示すように、この実施例においてもボンネット部材71と、カウルサイドフロントまたはエプロンレインフォースメントなどの車体73と、の間にリフト駆動手段72を設ける構成については、図1〜図7で示した先の実施例と同様であるが、図8〜図10で示すこの実施例では、ボンネット部材71の前後方向中間の下面にブラケット81を取付けると共に、フロントノーズ部50の後端下面に別のブラケット82を取付けている。
【0075】
また、上述のリフト駆動手段72に追従するリンク部材83を設け、このリンク部材83の前端部基端部を上記ブラケット82にピン連結する一方、このリンク部材83の遊端側(リヤ側)には長孔83aを形成し、上記ブラケット81側のピン84を該長孔83aに摺動可能に挿入している。
【0076】
図8に示すノーマル状態では、ボンネット部材71でボンネット開口70を閉塞しており、整流下部面部60aと、ボンネット部材71の上面を含む中間ノーズ部51上面と、フロントウイン52(図1参照)前面と、が所定の角度θで略連続し、空力性能の向上を図ることができる。
【0077】
車両と歩行者との接触が検出、または予知された場合には、リフト駆動手段72の複数の可動部77b(図10参照)が多段状に上動し、リフトアーム76は支点75を中心に上方へ回動し、リフト駆動手段72に追従するリンク部材83はその前端のピン連結部を支点として可動するので、図9、図10に示すように、ボンネット部材71はアッパノーズ部56の高さ以上で、かつ、アッパノーズ部56の略延長線上の高さにリフトアップする。
【0078】
このように、上方に所定量リフトしたボンネット部材71により、車両前部上面に傾倒する歩行者、特に子供に対して相対的に身長が高い大人の頭部を保護することができる。また、大人に対して相対的に身長が低い子供については、上下方向の荷重に対してエネルギ吸収可能に形成したアッパノーズ部56にて保護することができ、シンプルなボンネット部材71のリフトアップ構造により、衝突時の衝撃吸収を図って、歩行者保護性能の向上を図ることができる。
【0079】
このように、図8〜図10で示した実施例においては、上記リフト駆動手段72は上記ボンネット部材71の後部において該ボンネット部材71と車体73との間に設けられ、上記ボンネット部材71の中間部には、上記リフト駆動手段72に追従するリンク部材83が配設されたものである(図8〜図10参照)。
【0080】
この構成によれば、ボンネット部材71の後部に設ける必要最小限(この実施例では2つ)のリフト駆動手段72,72により、歩行者保護に対応してボンネット部材71をリフトアップさせることができ、しかも、上記リンク部材83を配設したことで、該ボンネット部材71を上記アッパノーズ部56の高さ以上で、かつ、該アッパノーズ部56の略延長線上の高さにリフト移動できるので、歩行者保護性能のさらなる向上を図ることができる。
【0081】
また、上記リフト駆動手段72は車体73に設けるので、該リフト駆動手段72の支持剛性を確保することができる。
図8、図9、図10で示したこの実施例においても、その他の構成、作用、効果については図1〜図7で示した先の実施例とほぼ同様であるから、図8〜図10において、前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【実施例3】
【0082】
図11〜図13は車両の前部車体構造のさらに他の実施例を示すものである。
図11〜図13に示すように、この実施例においてもボンネット部材71と、カウルサイドフロントまたはエプロンレインフォースメントなどの車体73と、の間にリフト駆動手段72を設ける構成については、先の実施例1、実施例2と同様であるが、図11〜図13で示すこの実施例では、ボンネット部材71の前部下面にブラケット85を取付けると共に、車体73におけるアクチュエータ77取付け部よりも前方に別のブラケット86を取付けている。
【0083】
また、上述のリフト駆動手段72に追従するリンク部材87を設け、このリンク部材87の前端部(遊端部)を、ピン88を用いてボンネット部材71側のブラケット85に連結する一方、リンク部材87の後端部(基端部)を、ピン89を用いて車体73側のブラケット86に連結している。
【0084】
図11に示すノーマル状態では、ボンネット部材71でボンネット開口70を閉塞しており、整流下部面部60aと、ボンネット部材71の上面を含む中間ノーズ部51上面と、フロントウインド52(図1参照)前面と、が所定の角度θで略連続し、空力性能の向上を図ることができる。
【0085】
車両と歩行者との接触が検出、または予知された場合には、リフト駆動手段72の複数の可動部77b(図13参照)が多段状に上動し、リフトアーム76は支点75を中心に上方へ回動し、リフト駆動手段72に追従するリンク部材87はその後端側のピン89を支点として揺動するので、図12、図13に示すように、ボンネット部材71はアッパノーズ部56の高さ以上で、かつ該アッパノーズ部56の略延長線上の高さにリフトアップする。
【0086】
このように、上方に所定量リフトしたボンネット部材71により、車両前部上面に傾倒する歩行者、特に、子供よりも相対的に身長が高い大人の頭部を保護することができる。また、大人よりも相対的に身長が低い子供については、上下方向の荷重に対してエネルギ吸収可能に形成したアッパノーズ部56にて保護することができ、シンプルなボンネット部材71のリフトアップ構造により、衝突時の衝撃吸収を図って、歩行者保護性能の向上を図ることができる。
【0087】
このように、図11〜図13で示した実施例においては、上記リフト駆動手段72は上記ボンネット部材71の後部において該ボンネット部材71と車体73との間に設けられ、上記ボンネット部材71の前部には上記リフト駆動手段72に追従するリンク部材87が配設されたものである(図11〜図13参照)。
【0088】
この構成によれば、ボンネット部材71の後部に設ける必要最小限(この実施例では2つ)のリフト駆動手段72,72により、歩行者保護に対応してボンネット部材71をリフトアップさせることができ、しかも、上記リンク部材87を配設したことで、該ボンネット部材71を上記アッパノーズ部56の高さ以上で、かつ該アッパノーズ部56の略延長線上の高さにリフト移動できるので、歩行者保護性能のさらなる向上を図ることができる。
【0089】
また、上記リフト駆動手段72およびリンク部材87は共に車体73に設けるので、該リフト駆動手段72およびリンク部材87の支持剛性を確保することができるうえ、これら両者72,87およびボンネット部材71の組付け性向上を図ることができる。
【0090】
図11、図12、図13で示したこの実施例においても、その他の構成、作用、効果については、先の実施例1、実施例2とほぼ同様であるから、図11〜図13において、前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【0091】
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、
この発明のフロントウインドパネルは、実施例のフロントウインド52に対応し、
以下同様に、
リンク機構は、リンク部材83(図8〜図10参照)またはリンク部材87(図11〜図13参照)に対応するも、
この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではない。
【0092】
例えば、上記ボンネット部材71の車幅方向サイド部において、前後左右の合計4箇所にリフト駆動手段72,72…をそれぞれ配置して、これら複数の各リフト駆動手段72,72…により、上記ボンネット部材71をリフトアップすべく構成してもよい。また、図示実施例のボンネット部材71の車幅方向の長さよりも、その長さが短いボンネット部材とする場合には、リフト駆動手段72の所定部をサスタワー(図示せず)に取付けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の車両の前部車体構造を示す概略側面図
【図2】図1の要部平面図
【図3】図1の要部正面図
【図4】図1の要部拡大側面図
【図5】ボンネット部材リフトアップ時の側面図
【図6】図5の要部拡大側面図
【図7】リフト駆動手段の斜視図
【図8】車両の前部車体構造の他の実施例を示す要部側面図
【図9】ボンネット部材リフトアップ時の側面図
【図10】図9の要部拡大側面図
【図11】車両の前部車体構造のさらに他の実施例を示す要部側面図
【図12】ボンネット部材リフトアップ時の側面図
【図13】図12の要部拡大側面図
【符号の説明】
【0094】
2…車室
27…パワートレイン
50…フロントノーズ部
51…中間ノーズ部
52…フロントウインド(フロントウインドパネル)
56…アッパノーズ部
60…整流通路
60a…整流下部面部
70…ボンネット開口
71…ボンネット部材
72…リフト駆動手段
73…車体
83,87…リンク部材(リンク機構)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前方から後方に傾斜して延びるフロントノーズ部と、該フロントノーズ部に連続して後方に延びて車体前方外面を形成する中間ノーズ部と、該中間ノーズ部の後方に設けられた車室の前方を車外が視認可能となるように覆ったフロントウインドパネルと、を備えた車両の前部車体構造であって、
上記フロントノーズ部より上方に所定間隔離間して車幅方向に延びるアッパノーズ部を備え、
該アッパノーズ部後方の上記中間ノーズ部を、車両と歩行者との接触が検出、もしくは予知された時、
上方に所定量リフトさせるリフト駆動手段を備えた
車両の前部車体構造。
【請求項2】
上記リフト駆動手段は、上記中間ノーズ部を上記アッパノーズ部の高さ以上にリフト移動させる
請求項1記載の車両の前部車体構造。
【請求項3】
上記中間ノーズ部にはボンネット開口が設けられ、該ボンネット開口を覆うボンネット部材が設けられると共に、上記リフト駆動手段は上記ボンネット部材をリフト移動させる
請求項1または2記載の車両の前部車体構造。
【請求項4】
上記リフト駆動手段は上記ボンネット部材の後部において該ボンネット部材と車体との間に設けられ、
上記ボンネット部材の中間乃至前部には上記リフト駆動手段に追従するリンク機構が配設された
請求項3記載の車両の前部車体構造。
【請求項5】
上記アッパノーズ部は、上下方向の荷重に対してエネルギ吸収可能に形成された
請求項1〜4の何れか1に記載の車両の前部車体構造。
【請求項6】
上記フロントノーズ部と上記アッパノーズ部との間に走行風を通過させて整流可能な整流通路を形成し、
該整流通路の下面部を形成する整流下部面部と、上記中間ノーズ部上面と、上記フロントウインドパネル前面と、を所定の角度で略連続した形状に形成した
請求項1〜5の何れか1に記載の車両の前部車体構造。
【請求項7】
上記中間ノーズ部の下方には、車両を駆動するパワートレインが配設された
請求項1〜6の何れか1に記載の車両の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−166747(P2009−166747A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−8663(P2008−8663)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】