説明

車両の前部車体構造

【課題】フード上部からの荷重を、サスタワーとの当接より早く衝撃吸収部により吸収して、歩行者の安全性向上を図り、サスタワーとフードとの間の隙間が小さい場合でも、サスタワーの上面よりも低い位置に衝撃吸収部を当てることで、衝撃吸収部の潰れ量増加を図り、衝撃を吸収する車両の前部車体構造を提供する。
【解決手段】サスタワー10とフード27とは車両上下方向に近接して配設され、サスタワー10の側部に、サスタワー10の上面部10cより低位置の低面部30が形成され、フード27には、その上方からの入力荷重により、低面部30と当接する衝撃吸収部31が設けられ、衝撃吸収部31の下端部と低面部30間の寸法が、サスタワー10の上面とフード27間の寸法に比べて小さくなるように設けられたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の前輪を支持する左右一対のサスペンションと、該サスペンションを収納するサスペンションタワー(いわゆるサスタワー)と、左右のサスペンションタワー間を開閉可能に覆うフードと、が設けられたような車両の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両の前部車体構造は、車両の前輪を支持する左右一対のサスペンションと、該サスペンションを収納するサスペンションタワーと、左右のサスペンションタワー間を開閉可能に覆うフード(ボンネットと同意)とを備えている。
このような車両の前部車体構造において、デザイン上の理由で前輪に大径タイヤを採用すると、この大径タイヤの装着により従前のタイヤ装着の場合と比較してホイールセンタが上昇し、これによりサスペンション機構が相対的に上方配置される。
【0003】
このため、サスペンションを収納するサスペンションタワーが上方に配置されるので、フードとサスペンションタワーとの間にエネルギ吸収用の充分な隙間が確保できず、車両と歩行者とが接触して、歩行者がフード上に倒れて、例えば、歩行者の頭部がフードに干渉した際、エネルギ吸収用の充分なストロークが確保できず、衝撃荷重を吸収できない状態のままでサスペンションタワーに干渉するという問題点が発生する。
【0004】
サスペンションタワーとフードとの間にエネルギ吸収用の隙間を確保するには、フードの配設位置を上方に上昇させる構造が考えられるが、この場合には、フードの上昇により運転時の前方視界が悪化するのみならず、空力性能が悪化し、さらには、デザイン上の見栄えも悪化するので、望ましくない。
【0005】
ところで、歩行者の頭部保護を図る構造としては、特許文献1、2に開示された構造がある。
特許文献1に開示された構造は、フードアウタパネルとフードインナパネルとを備えたフードを設け、このフードのサスペンションタワーと対応する部位において、上述のフードアウタパネルとフードインナパネルとの間に、衝撃吸収体を設け、歩行者衝突時に該衝撃吸収体でエネルギを吸収して、歩行者の頭部を保護するものであるが、歩行者のフード上の転倒時に上記フードインナパネルをサスペンションタワーのトップデッキ面に当てる構造であるため、衝撃吸収に必要なクラッシュスペースが小さくなる。
【0006】
上述の衝撃吸収体が衝撃を吸収して潰れる場合には、必ず、潰れ残りが発生し、この潰れ残りを見込んだ潰れ量を確保する必要があるが、充分なクラッシュスペース、潰れ量の確保が困難となり、特に、大径タイヤ採用時には斯る問題点がより一層顕著となる。
【0007】
特許文献2に開示された構造は、フードアウタパネルの下面に、該フードアウタパネルを補強するインナリブを設け、このインナリブの底面には下方に突出する環状の凸部を一体形成する一方、サスペンションタワー部のトップデッキ部には、ストラットマウントの防振ゴムを設け、この防振ゴムの上部を露呈させ、露呈させた防振ゴムと上述のインナリブの凸部とを上下方向に対向させ、衝撃吸収時には、インナリブの凸部を防振ゴムに当接させるものである。
しかしながら、該特許文献2に開示された構造では、防振ゴムが外部に露呈しているので、構造が限定され、構造上の制約を受けるうえ、インナリブを防振ゴムを介してサスペンションタワーのトップデッキ部に当てるものであるから、潰れ量、クラッシュスペースが小さくなる問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−285466号公報
【特許文献2】特開2003−327075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、この発明は、サスペンションタワーとフードとが車両上下方向に近接配設され、サスペンションタワーの側部に、その上面部よりも低位置の低面部を形成し、上記フードには、該フード上方からの入力荷重により、上記低面部と当接する衝撃吸収部が設けられ、該衝撃吸収部の下端部と上記低面部間の幅寸法が、上記サスペンションタワーの上面と上記フード間の幅寸法に比べて小さくなるように設けることで、フード上部からの荷重を、サスペンションタワーとの当接より早く衝撃吸収部により吸収でき、歩行者の安全性向上を図ることができ、サスペンションタワーとフードとの間の隙間が小さい場合であっても、サスペンションタワーの上面よりも低い位置に衝撃吸収部を当てることにより、衝撃吸収部の潰れ量増加を図って、衝撃を吸収することができる車両の前部車体構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明による車両の前部車体構造は、車両の前輪を支持する左右一対のサスペンションと、該サスペンションを収納するサスペンションタワーと、左右のサスペンションタワー間を開閉可能に覆うフードと、が設けられた車両の前部車体構造であって、上記サスペンションタワーと上記フードとは車両上下方向に近接して配設され、上記サスペンションタワーの側部に、該サスペンションタワーの上面部より低位置の低面部が形成され、上記フードには、該フード上方からの入力荷重により、上記低面部と当接する衝撃吸収部が設けられ、該衝撃吸収部の下端部と上記低面部間の幅寸法が、上記サスペンションタワーの上面と上記フード間の幅寸法に比べて小さくなるように設けられたものである。
上述の低面部は、既存車体部材であるエプロンレインフォースメントの上面に設定してもよい。
【0011】
上記構成によれば、上記フードに、低面部と近接する位置まで垂下されて、該フード上方からの入力荷重によって低面部と当接する衝撃吸収部を設けたので、フード上部からの荷重をサスペンションタワーとの当接よりも早く衝撃吸収部によって吸収することができる。
このため、歩行者が車両と接触して、該歩行者がフード上に転倒した場合、歩行者の頭部を保護して、その安全性向上を図ることができる。
また、サスペンションタワーのトップデッキとフードとの間の隙間が小さい場合でも、サスペンションタワーの上面よりも低い位置の低面部に衝撃吸収部を当てるので、該衝撃吸収部の潰れ量が増加して、衝撃を吸収することができる。
【0012】
この発明の一実施態様においては、上記サスペンションタワーの上面部は、上記前輪の上部を覆うフェンダパネル上端部の高さと略同じ高さに設けられたものである。
上記構成によれば、デザイン性を確保しつつ、フードの上昇を抑えることができる。
【0013】
この発明の一実施態様においては、上記低面部は、上記前輪の上部を覆うフェンダパネルを支持する支持部を有し、該支持部は上記サスペンションタワーの前方および後方に設けられ、上記衝撃吸収部は、上記前後の支持部間に配設されたものである。
上述の支持部は、ブラケットで構成してもよい。
上記構成によれば、支持部をサスペンションタワーの前方、後方に設けたので、前後2箇所の支持部にてフェンダパネルの支持剛性を確保することができ、この場合においても、衝撃吸収部をこれら支持部と干渉しないようにレイアウトすることができる。
【0014】
この発明の一実施態様においては、上記衝撃吸収部は、上記フードの下部に配設されたフードインナレインと一体的に設けられたものである。
上記構成によれば、既存の部品(フードインナレイン)を衝撃吸収部として有効利用することができるので、部品点数の削減とコストの低減との両立を図ることができる。
【0015】
この発明の一実施態様においては、上記衝撃吸収部は、上記サスペンションタワーと車幅方向にオフセットする位置に設けられた第1衝撃吸収部と、上記サスペンションタワーの上面と対向する位置に設けられた第2衝撃吸収部と、を備えたものである。
上記構成によれば、第1衝撃吸収部で初期荷重を受け、その後、ある程度の衝撃を吸収した後に、再度第2衝撃吸収部で荷重を吸収することができるので、歩行者の安全性をさらに向上することができる。
【0016】
この発明の一実施態様においては、上記サスペンションタワーの上面から上方に突出する突出部を備え、上記第2衝撃吸収部は該突出部と対応する位置に該突出部との干渉を回避する退避部を備えたものである。
上記構成によれば、突出部による衝撃吸収部の変形を抑止することができるので、該衝撃吸収部にて、より一層確実に衝撃を吸収することができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、サスペンションタワーとフードとが車両上下方向に近接配設され、サスペンションタワーの側部に、その上面部よりも低位置の低面部を形成し、上記フードには、該フード上方からの入力荷重により、上記低面部と当接する衝撃吸収部が設けられ、該衝撃吸収部の下端部と上記低面部間の幅寸法が、上記サスペンションタワーの上面と上記フード間の幅寸法に比べて小さくなるように設けたので、フード上部からの荷重を、サスペンションタワーとの当接より早く衝撃吸収部により吸収でき、歩行者の安全性向上を図ることができ、サスペンションタワーとフードとの間の隙間が小さい場合であっても、サスペンションタワーの上面よりも低い位置に衝撃吸収部を当てるので、衝撃吸収部の潰れ量増加を図って、衝撃を吸収することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の車両の前部車体構造を示す斜視図
【図2】車両の前部車体構造を示す正面図
【図3】車両の前部車体構造を示す部分平面図
【図4】フードの底面図
【図5】図3のA−A線矢視断面図
【図6】図3のB−B線矢視断面図
【図7】図3のC−C線矢視断面図
【図8】衝突時の減速度変化を示す特性図
【図9】車両の前部車体構造の他の実施例を示す部分平面図
【図10】フードの底面図
【図11】図9のD−D線矢視断面図
【図12】車両の前部車体構造のさらに他の実施例を示す正面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
フード上部からの荷重を、サスペンションタワーとの当接よりも早く衝撃吸収部により吸収することができ、歩行者の安全性向上を図り、かつ、サスペンションタワーとフードとの間の隙間が小さい場合であっても、サスペンションタワーの上面よりも低い位置に衝撃吸収部を当てることにより、衝撃吸収部の潰れ量増加を図って、衝撃を吸収するという目的を、車両の前輪を支持する左右一対のサスペンションと、該サスペンションを収納するサスペンションタワーと、左右のサスペンションタワー間を開閉可能に覆うフードと、が設けられた車両の前部車体構造において、上記サスペンションタワーと上記フードとは車両上下方向に近接して配設され、上記サスペンションタワーの側部に、該サスペンションタワーの上面部より低位置の低面部が形成され、上記フードには、該フード上方からの入力荷重により、上記低面部と当接する衝撃吸収部が設けられ、該衝撃吸収部の下端部と上記低面部間の幅寸法が、上記サスペンションタワーの上面と上記フード間の幅寸法に比べて小さくなるように設けられるという構成にて実現した。
【実施例1】
【0020】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図面は車両の前部車体構造を示し、図1はフードを取外した状態の斜視図、図2はフードを取付けた状態で示す正面図、図3は要部の部分平面図であって、図中、矢印Fは車両の前方を示し、矢印Rは車両の後方を示し、矢印INは車両の内方を示し、矢印OUTは車両の外方を示す。なお、図面では、主として、車両の右側の構成のみを示しているが、車両左側は右側のそれと左右対称に構成される。
【0021】
図1、図2において、エンジンルーム1の側方を車両の前後方向に延びるフロントサイドフレーム2を設けている。このフロントサイドフレーム2は、フロントサイドフレームアウタ3とフロントサイドフレームインナ4とを接合固定して、車両の前後方向に延びるフロントサイド閉断面5を備えた車体剛性部材である。
【0022】
また、上述のフロントサイドフレーム2の配設位置に対して上方かつ、車幅方向外方には、車両の前後方向に延びるエプロンレインフォースメント6を設けている。このエプロンレインフォースメント6は、エプロンレインインナ7と、エプロンレインアウタ8とを接合固定して、車両の前後方向に延びるエプロンレイン閉断面9を備えた車体剛性部材である。
さらに、ホイールセンタW2(図2参照)と対応する車両前後方向の所定位置において、エプロンレインフォースメント6とフロントサイドフレーム2との間には、後述するサスペンション17を収納する車体強度部材としてのサスペンションタワー10(以下、単にサスタワーと略記する)を設けている。
【0023】
図2に示すように、このサスタワー10の車幅方向外側の下部10aは、エプロンレインインナ7に接合固定され、サスタワー10の車幅方向内側の下部10bは、フロントサイドフレーム2におけるフロントサイドフレームアウタ3とフロントサイドフレームインナ4との上側接合部の車外側に接合固定され、サスタワー10の上面部としてのトップデッキ10cは、エプロンレインインナ7の上面部より上方で、かつ後述するフード27と車両上下方向に近接する位置に配設されている。
【0024】
一方、図2に示すように、前輪11を支持するホイールハブ12を設け、該ホイールハブ12には軸受を介してナックル13を取付けている。
ナックル13の下部は、ジョイントおよび支持ブッシュを介してロアアーム14の車外側端部に連結し、ナックル13の上部は、ブラケット15を介してショックアブソーバ16(いわゆるストラット)の下部が連結されている。
【0025】
そして、上述のロアアーム14と、ブラケット15と、ショックアブソーバ16と、図示しないアッパシート、ロアシート、コイルスプリング、スタビライザとにより前輪11を支持するストラット型のフロントサスペンション17を構成し、ショックアブソーバ16と、図示しないアッパシート、ロアシート、コイルスプリングとを上述のサスタワー10に収納している。
【0026】
図2においては、前輪11として大径タイヤを用いた場合、その前輪11を仮想線で示し、各要素10、12〜17を実線で示すと共に、従前のタイヤを用いた場合の各要素を図示の便宜上、それぞれ点線で示している。
すなわち、従前のタイヤのホイールセンタW1に対し、大径タイヤを用いた場合のホイールセンタW2は高い位置に上昇し、これによりサスペンション17も点線の位置に対し図2に実線で示すように上方配置され、サスペンション17を収納するサスタワー10も点線の位置に対して図2に実線で示すように上方に配置されて、サスタワー10のトップデッキ10cが後述するフード27と近接することになる。
【0027】
図1において、サスタワー10の前部には、エプロンレインフォースメント6とフロントサイドフレーム2とを接続するホイールエプロンフロント18が設けられ、サスタワー10の後部には、エプロンレインフォースメント6とフロントサイドフレーム2とを接続するホイールエプロンリヤ19が設けられており、これらのホイールエプロンフロント18の後部およびホイールエプロンリヤ19の前部はサスタワー10の前後壁にそれぞれ接続固定されている。
また、図1に示すように、エプロンレインフォースメント6およびホイールエプロンフロント18の前部には、シュラウドパネル20が接合固定されていて、このシュラウドパネル20には軽量化を図る目的で、開口部21が形成されている。
【0028】
さらに、図1に示すように、エプロンレインインナ7の略水平な上面部には、支持部としてのブラケット22,23を用いてフェンダパネル24を取付けている。
支持部としての一方のブラケット22はサスタワー10の前方対応位置に設けられており、また、支持部としての他方のブラケット23はサスタワー10の後方対応位置に設けられている。
【0029】
上述のフェンダパネル24は、図2に示すように、前輪11の上部を覆う車体外板であって、このフェンダパネル24がブラケット22,23で支持される部分には、図1、図2に示すように、その上端部24aから下方に延びる縦壁24bと、この縦壁24bから車幅方向内方に延びる略水平な取付け片24cとが車両正面視でL字状に一体に折曲げ形成されている。
【0030】
また、上述の各ブラケット22,23は、図1に示すように、フェンダパネル24の取付け片24cを支持する支持部22a,23aと、複数のフランジ22b,22b、23b,23bとをそれぞれ一体形成したもので、各フランジ22b,23bはエプロンレインインナ7の上面部に溶接固定される一方、支持部22a,23aには、ボルト、ナットなどの取付け部材25,26を用いて、フェンダパネル24の取付け片24cを固定している。
さらに、図2に示すように、サスタワー10のトップデッキ10cは、前輪11の上部を覆うフェンダパネル24の上端部24aの高さと略同じ高さに設けられている。
【0031】
一方、図2、図3に示すように、左右のサスタワー10,10(但し、図面では車両右側のサスタワー10のみを示す)間を開閉可能に覆うフード27を設けている。図2に示すように、該フード27はフードアウタパネル28と、フードインナレイン29とを備えている。
【0032】
図4はフード27の底面図(裏面図)であって、フードインナレイン29には軽量化を図る目的で、複数の開口部29a…が開口形成されている。
【0033】
図5は図3のA−A線矢視断面図、図6は図3のB−B線矢視断面図、図7は図3のC−C線矢視断面図であって、図5、図6に示すように、サスタワー10のトップデッキ10cとフード27とは車両上下方向に近接して配設されている。
【0034】
また、図5〜図7に示すように、サスタワー10の車幅方向外方の側部には、該サスタワー10のトップデッキ10cよりも低位置の低面部30が形成されている。この実施例では、エプロンレインフォースメント6のエプロンレインインナ7における略水平な上面部を低面部30として有効利用するように構成している。
しかも、この低面部30と上下方向に対向する位置において、フード27の下部に配設されたフードインナレイン29には、該低面部30と近接する位置まで垂下された衝撃吸収部31が、フードインナレイン29と一体形成されている。
【0035】
この衝撃吸収部31は、図3、図4にも示すように、前片31a、後片31b、側片31c,31d、底片31eを有し、これら各片31a〜31eを、フードインナレイン29のプレス加工時に一体形成したもので、通常時(歩行者がフード27上に転倒しない非衝突時)にあっては、衝撃吸収部31の底片31e下面と低面部30との間には、クリアランスが形成されていて、フード27の開閉時および車両走行時に異音が発生するのを防止すると共に、歩行者が車両に衝突し、該歩行者がフード27上に転倒して、該フード27上方から荷重が入力した時に上述の低面部30と当接して、該衝撃吸収部31が変形することで、衝撃を吸収するように構成している。
【0036】
また、上述の衝撃吸収部31は、図3に平面図で示すように、支持部としての前後の各ブラケット22,23間と対応して、フードインナレイン29に一体的に設けられたものであり、図5、図6に示すように、この衝撃吸収部31の上下方向の中間には変形促進部としてのノッチ32が両サイドに一体形成されている。
要するに、上記フード27には、該フード27上方からの入力荷重により、上記低面部30と当接する衝撃吸収部31が設けられ、該衝撃吸収部31の下端部と上記低面部30間の幅寸法が、上記サスタワー10の上面と上記フード27間の幅寸法に比べて小さくなるように設けられたものである。
なお、図1において、33はダッシュロアパネルの前面において左右のフロントサイドフレーム2,2間を車幅方向に接続するダッシュクロスメンバ、図1、図3において、34,35,36はサスタワー10のトップデッキ10cから上方へ突出するボルト、ナットなどの突出部である。
【0037】
このように構成した車両の前部車体構造の作用について、以下に説明する。
図5に実線で示す通常の状態から、車両と歩行者とが接触して、歩行者がフード27上部に転倒すると、該フード27にはその上方から歩行者なかんずく頭部の転倒荷重が、矢印aで示すように、作用するので、衝撃吸収部31およびフード27は同図に仮想線で示すように変形して、荷重を吸収する。
【0038】
この点を、図8に示す特性図を参照して、さらに詳述する。
図8において実線の特性は本実施例のものであり、点線の特性は衝撃吸収部31を備えていない比較例のものである。
【0039】
図8の特性図において、範囲bは衝撃吸収部31の底片31eが低面部30に当接するまでの時間を示し、範囲cは衝撃吸収部31を低面部30に先当たり(フード27がサスタワー10のトップデッキ10cに当接するよりも早く当接)させて、初期荷重を高め、これにより限られた上下方向のストロークにおいてもヘッドインパクトの低減を図ることを示す。
【0040】
範囲dは衝撃吸収部31が低面部30に当った後に潰れる量を示し、その後、フード27がサスタワー10のトップデッキ10cに当接した時の荷重を範囲eで示す。最終的にフード27は範囲fで示すように変形するが、衝撃吸収部31が存在しないものは範囲gで示すようにフード27とサスタワー10とが干渉した時の荷重が大となり、ヘッドインパクトが悪化する。
【0041】
このように、図1〜図8で示した実施例の車両の前部車体構造は、車両の前輪11を支持する左右一対のサスペンション17と、該サスペンション17を収納するサスタワー10と、左右のサスタワー10,10間を開閉可能に覆うフード27と、が設けられた車両の前部車体構造であって、上記サスタワー10と上記フード27とは車両上下方向に近接して配設され、上記サスタワー10の側部に、該サスタワー10の上面部(トップデッキ10c参照)より低位置の低面部30が形成され、上記フード27には、該フード27上方からの入力荷重により、上記低面部30と当接する衝撃吸収部31が設けられ、該衝撃吸収部31の下端部と上記低面部30間の幅寸法が、上記サスタワー10の上面と上記フード30間の幅寸法に比べて小さくなるように設けられたものである(図2、図5参照)。
【0042】
この構成によれば、上記フード27に、低面部30と近接する位置まで垂下されて、該フード27上方からの入力荷重によって低面部30と当接する衝撃吸収部31を設けたので、フード27上部からの荷重を、サスタワー10との当接よりも早く衝撃吸収部31によって吸収することができる。
【0043】
このため、歩行者が車両と接触して、該歩行者がフード27上に転倒した場合、歩行者の頭部を保護して、その安全性向上を図ることができる。
また、サスタワー10のトップデッキ10cとフード27との間の隙間が小さい場合でも、サスタワー10の上面(トップデッキ10c参照)よりも低い位置の低面部30に衝撃吸収部31を当てるので、該衝撃吸収部31の潰れ量が増加して、衝撃を吸収することができる。
【0044】
さらに、上記サスタワー10の上面部(トップデッキ10c参照)は、上記前輪11の上部を覆うフェンダパネル24の上端部24aの高さと略同じ高さに設けられたものである(図2、図5参照)。
この構成によれば、デザイン性を確保しつつ、フード27の上昇を抑えることができる。
【0045】
また、上記低面部30は、上記前輪11の上部を覆うフェンダパネル24を支持する支持部(ブラケット22,23参照)を有し、該支持部(ブラケット22,23)は上記サスタワー10の前方および後方に設けられ、上記衝撃吸収部31は、上記前後の支持部(ブラケット22,23参照)間に配設されたものである(図1、図3参照)。
この構成によれば、支持部(ブラケット22,23参照)をサスタワー10の前方、後方に設けたので、前後2箇所の支持部(ブラケット22,23)にてフェンダパネル24の支持剛性を確保することができ、この場合においても、衝撃吸収部31をこれら支持部(ブラケット22,23)と干渉しないようにレイアウトすることができる。
【0046】
さらに、上記衝撃吸収部31は、上記フード27の下部に配設されたフードインナレイン29と一体的に設けられたものである(図5参照)。
この構成によれば、既存の部品(フードインナレイン29)を衝撃吸収部31として有効利用することができるので、部品点数の削減とコストの低減との両立を図ることができる。
【0047】
また、実施例で開示したように、低面部30を車体剛性部材であるエプロンレインフォースメント6のエプロンレインインナ7に設定すると、既存部品を有効利用することができると共に、大形タイヤの採用時においてもエプロンレインフォースメント6の上下方向の位置は変化しないので、さらに有効となる。
【実施例2】
【0048】
図9、図10、図11は車両の前部車体構造の他の実施例を示し、図9は要部の部分平面図、図10はフード27の底面図、図11は図9のD−D線矢視断面図である。
【0049】
この実施例2では、実施例1で示した衝撃吸収部31を、サスタワー10に対して車幅方向外方側部にオフセットする位置に設けられた第1衝撃吸収部に設定すると共に、サスタワー10のトップデッキ10cと上下方向に対応する位置には、第2衝撃吸収部40を設け、この第2衝撃吸収部40を上述のフードインナレイン29に一体形成したものである。
【0050】
図11に示すように、該第2衝撃吸収部40は、フードインナレイン29から下方に向けて垂下形成されたもので、複数の下方凸部40aと、これら下方凸部40a,40a間に位置し、上方に向けて窪む凹部40b,40bとを一体形成したものである。
【0051】
図11に示すように、2つの凹部40b,40bのうち車両左側の凹部40bは、上述の突出部34と上下方向に対応する位置に形成されており、この凹部40bは突出部34との干渉を回避する退避部に設定されている。
【0052】
また、図9、図10に示すように、第1衝撃吸収部31と第2衝撃吸収部40とは、その車両前後方向の長さが略同等になるように形成されており、第1衝撃吸収部31は図9に示すように、前後のブラケット22,23間に位置するように形成されている。
【0053】
図11で示した断面構造に代えて、図12で示す断面構造を採用してもよい。
すなわち、図11で示す2つの凹部40b,40bを図12に示すように凹部面積が大きい1つの凹部40bに変更形成し、プレス加工の容易化を図ると共に、突出部34に対する対応性の向上を図ってもよい。また第1衝撃吸収部31に形成される変形促進部としてのノッチ32は、該第1衝撃吸収部31から外側に突出するノッチ32(図11参照)から、図12に示すように該第1衝撃吸収部31から内側に窪むノッチ32に変更形成し、第1衝撃吸収部31の車幅方向の長さに対する設定自由度の向上を図ってもよい。
【0054】
このように、図9〜図12で示した実施例においては、上記衝撃吸収部は、上記サスタワー10と車幅方向にオフセットする位置に設けられた第1衝撃吸収部31と、上記サスタワー10の上面(トップデッキ10c参照)と対向する位置に設けられた第2衝撃吸収部40と、を備えたものである(図11、図12参照)。
この構成によれば、第1衝撃吸収部31で初期荷重を受け、その後、ある程度の衝撃を吸収した後に、再度第2衝撃吸収部40で荷重を吸収することができるので、歩行者の安全性をさらに向上することができる。
【0055】
また、上記サスタワー10の上面(トップデッキ10c参照)から上方に突出する突出部34を備え、上記第2衝撃吸収部40は該突出部34と対応する位置に該突出部34との干渉を回避する退避部(凹部40b参照)を備えたものである(図11、図12参照)。
この構成によれば、突出部34による第2衝撃吸収部40の変形を抑止することができるので、該第2衝撃吸収部40にて、より一層確実に衝撃を吸収することができる。
【0056】
図9〜図12で示した実施例2においても、その他の構成、作用、効果については、先の実施例1とほぼ同様であるから、図9〜図12において前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【0057】
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、
この発明のサスペンションタワーは、実施例のサスタワー10に対応し、
以下同様に、
サスペンションタワーの上面部は、サスタワー10のトップデッキ10cに対応し、
支持部は、ブラケット22,23に対応し、
退避部は、凹部40bに対応するも、
この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0058】
10…サスタワー(サスペンションタワー)
10c…トップデッキ(上面部)
11…前輪
17…サスペンション
22,23…ブラケット(支持部)
24…フェンダパネル
27…フード
29…フードインナレイン
30…低面部
31…衝撃吸収部(第1衝撃吸収部)
34…突出部
40…第2衝撃吸収部
40b…凹部(退避部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前輪を支持する左右一対のサスペンションと、
該サスペンションを収納するサスペンションタワーと、
左右のサスペンションタワー間を開閉可能に覆うフードと、が設けられた
車両の前部車体構造であって、
上記サスペンションタワーと上記フードとは車両上下方向に近接して配設され、
上記サスペンションタワーの側部に、該サスペンションタワーの上面部より低位置の低面部が形成され、
上記フードには、該フード上方からの入力荷重により、上記低面部と当接する衝撃吸収部が設けられ、
該衝撃吸収部の下端部と上記低面部間の幅寸法が、上記サスペンションタワーの上面と上記フード間の幅寸法に比べて小さくなるように設けられたことを特徴とする
車両の前部車体構造。
【請求項2】
上記サスペンションタワーの上面部は、上記前輪の上部を覆うフェンダパネル上端部の高さと略同じ高さに設けられた
請求項1記載の車両の前部車体構造。
【請求項3】
上記低面部は、上記前輪の上部を覆うフェンダパネルを支持する支持部を有し、
該支持部は上記サスペンションタワーの前方および後方に設けられ、
上記衝撃吸収部は、上記前後の支持部間に配設された
請求項1または2記載の車両の前部車体構造。
【請求項4】
上記衝撃吸収部は、上記フードの下部に配設されたフードインナレインと一体的に設けられた
請求項1〜3の何れか1に記載の車両の前部車体構造。
【請求項5】
上記衝撃吸収部は、上記サスペンションタワーと車幅方向にオフセットする位置に設けられた第1衝撃吸収部と、
上記サスペンションタワーの上面と対向する位置に設けられた第2衝撃吸収部と、を備えた
請求項1〜4の何れか1に記載の車両の前部車体構造。
【請求項6】
上記サスペンションタワーの上面から上方に突出する突出部を備え、
上記第2衝撃吸収部は該突出部と対応する位置に該突出部との干渉を回避する退避部を備えた
請求項5記載の車両の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−25788(P2011−25788A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172182(P2009−172182)
【出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】