説明

車両の前部車体構造

【課題】フード上部からの荷重を衝撃吸収部材にてサスタワーよりも早く受け、その荷重を吸収し、歩行者の安全性向上を図り、サスタワーとフード間の隙間が小さくても、低面部に衝撃吸収部材を設けて、クラッシュスペースを確保し、かつフードの構造を変更することなく、歩行者保護性能の向上とフードの重量増加防止との両立を図る車両の前部車体構造を提供する。
【解決手段】サスタワー10とフード30とを上下方向に近接配設し、サスタワー10側部にその上面部10cの高さより低位置に低面部33を形成し、低面部33には、該低面部33からサスタワー10より上方の高さまで立設配設され、フード30上方からの荷重を吸収する衝撃吸収部材40を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の前輪を支持する左右一対のサスペンションと、該サスペンションを収納するサスペンションタワー(いわゆるサスタワー)と、左右のサスペンションタワー間を開閉可能に覆うフードと、が設けられたような車両の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両の前部車体構造は、車両の前輪を支持する左右一対のサスペンションと、該サスペンションを収納するサスペンションタワーと、左右のサスペンションタワー間を開閉可能に覆うフード(ボンネットと同意)とを備えている。
このような車両の前部車体構造において、デザイン上の理由で前輪に大径タイヤを採用すると、この大径タイヤの装着により従前のタイヤ装着の場合と比較してホイールセンタが上昇し、これによりサスペンション機構が相対的に上方配置される。
【0003】
このため、サスペンションを収納するサスペンションタワーが上方に配置されるので、フードとサスペンションタワーとの間にエネルギ吸収用の充分な隙間が確保できず、車両と歩行者とが接触して、歩行者がフード上に倒れて、例えば、歩行者の頭部がフードに干渉した際、エネルギ吸収用の充分なストロークが確保できず、衝撃荷重を吸収できない状態のままでサスペンションタワーに干渉するという問題点が発生する。
【0004】
サスペンションタワーとフードとの間にエネルギ吸収用の隙間を確保するには、フードの配設位置を上方に上昇させる構造が考えられるが、この場合には、フードの上昇により運転時の前方視界が悪化するのみならず、空力性能が悪化し、さらには、デザイン上の見栄えも悪化するので、望ましくない。
【0005】
ところで、歩行者の頭部保護を図る構造としては、特許文献1、2に開示された構造がある。
特許文献1に開示された構造は、フードアウタパネルとフードインナパネルとを備えたフードを設け、このフードのサスペンションタワーと対応する部位において、上述のフードアウタパネルとフードインナパネルとの間に、衝撃吸収体を設け、歩行者衝突時に該衝撃吸収体でエネルギを吸収して、歩行者の頭部を保護するものであるが、歩行者のフード上の転倒時に上記フードインナパネルをサスペンションタワーのトップデッキ面に当てる構造であるため、衝撃吸収に必要なクラッシュスペースが小さくなる。
上述の衝撃吸収体が衝撃を吸収して潰れる場合には、必ず、潰れ残りが発生し、この潰れ残りを見込んだ潰れ量を確保する必要があるが、充分なクラッシュスペース、潰れ量の確保が困難となり、特に、大径タイヤ採用時には斯る問題点がより一層顕著となる。
【0006】
特許文献2に開示された構造は、エプロンパネルにフェンダパネルを支持する合成樹脂製のパネル部材を取付け、このパネル部材には、フードと上下方向に対向する第1分岐部と、フェンダパネルの上端部下面と上下方向に対向する第2分岐部と、をそれぞれ一体形成し、フェンダパネルおよびフードに対して上方からの荷重が作用した時、該荷重を上記パネル部材で受け、このパネル部材を屈曲変形させて、上述の荷重を吸収するように構成したものである。
しかしながら、該特許文献2には、サスペンションタワーの上面部(いわゆるサストップ)の高さよりも低位置の低面部に、フード上部からの荷重を伝達するという技術思想については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−285466号公報
【特許文献2】特開2007−182163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、この発明は、サスペンションタワーとフードとを車両上下方向に近接して配設し、サスペンションタワーの側部に、該サスペンションタワーの上面部の高さよりも低位置の低面部を設け、該低面部には、サスペンションタワーより上方の高さまで立設して配設され、かつフードの上方からの荷重を吸収する衝撃吸収部材を設けることで、フード上部からの荷重を衝撃吸収部材にてサスペンションタワーよりも早く受けて、その荷重を吸収し、これにより車両と歩行者とが衝突した際、該歩行者の安全性向上を図ることができ、また、サスペンションタワーとフードとの間の隙間が小さい場合でも、上記低面部に衝撃吸収部材を設けることで、そのクラッシュスペース(潰れ量)を充分確保することができ、さらに、フードの構造を変更することなく、歩行者保護性能の向上とフードの重量増加防止との両立を図ることができる車両の前部車体構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明による車両の前部車体構造は、車両の前輪を支持する左右一対のサスペンションと、該サスペンションを収納するサスペンションタワーと、左右のサスペンションタワー間を開閉可能に覆うフードと、が設けられた車両の前部車体構造であって、上記サスペンションタワーと上記フードとは車両上下方向に近接して配設され、上記サスペンションタワーの側部には、該サスペンションタワーの上面部の高さより低位置に低面部が形成され、上記低面部には、該低面部から上記サスペンションタワーより上方の高さまで立設して配設され、かつ上記フードの上方からの荷重を吸収する衝撃吸収部材が設けられたものである。
上記構成によれば、サスペンションタワーの側部にその上面部の高さより低い位置に低面部を形成し、該低面部からサスペンションタワーより上方の高さまで立設して配設されるように衝撃吸収部材を設けたものである。
【0010】
車両と歩行者とが衝突して、歩行者がフード上に倒れると、フードの上方から荷重が作用するが、このフード上部からの荷重を上述の衝撃吸収部材にてサスペンションタワーよりも早く受けて、その荷重を吸収するので、上記歩行者の安全性向上を図ることができる。
【0011】
また、サスペンションタワーの上端部とフードとの間の隙間が小さい場合であっても、上記低面部に衝撃吸収部材を設けたので、該衝撃吸収部材の車両上下方向の長さを充分に確保することができ、これにより、クラッシュスペース(換言すれば、衝撃吸収部材の潰れ量)を充分確保することができ、特に、大径タイヤを採用した場合においても、フードの位置を上昇させることなく、充分に衝撃吸収を行なうことができる。
さらに、フードの構造を変更することなく、歩行者保護性能の向上と、フードの重量増加防止との両立を図ることができる。
【0012】
この発明の一実施態様においては、上記低面部には、車両の側部を覆うフェンダパネルを支持するフェンダ支持部が備えられ、上記衝撃吸収部材は、該フェンダ支持部より上方に突出するように設けられたものである。
上述のフェンダ支持部は、ブラケットで構成してもよい。
上記構成によれば、フード上部からの荷重を受けた時、上述の衝撃吸収部材がフェンダ支持部よりも先に荷重を受けて、その荷重を吸収するので、車両と接触してフード上に転倒した歩行者の安全性向上を図ることができる。
【0013】
この発明の一実施態様においては、上記衝撃吸収部材には、フェンダパネルを取付ける取付け部が一体形成されたものである。
上記構成によれば、衝撃吸収部材に上記取付け部を一体形成したので、フード上部からの荷重吸収作用と、フェンダパネルの取付けと、の両立を図ることができる。
【0014】
この発明の一実施態様においては、上記衝撃吸収部材は、上記サスペンションタワーの側部にのみ設けられたものである。
上記構成によれば、衝撃吸収部材を必要最低限の位置にのみ配設することで、重量増加の抑制と、低コスト化との両立を図りつつ、クラッシュスペースを確保することができる。
【0015】
この発明の一実施態様においては、上記フードには、上記衝撃吸収部材と車幅方向にオーバラップする位置に第2衝撃吸収部材が設けられたものである。
上記構成によれば、第2衝撃吸収部材をフード側に配設したので、低面部から上方に延びる衝撃吸収部材の上下方向寸法を小さくすることができる。これにより、フード開放時の見栄え低下を防止することができる。
【0016】
この発明の一実施態様においては、上記第2衝撃吸収部材は、上記フードの下面に設けられるフードインナレインに一体形成されたものである。
上記構成によれば、既存の部品(フードインナレイン)を第2衝撃吸収部材として有効利用するので、部品点数および組付け工数の減少と、低コスト化との両立を図ることができる。
【0017】
この発明の一実施態様においては、上記低面部は、車両前後方向に延びる閉断面構造のエプロンレインで構成されたものである。
上記構成によれば、低面部を閉断面構造のエプロンレインで構成したので、剛性が高いエプロンレインに対してフード上方からの荷重を伝達して、荷重分散を図ることができると共に、車体の剛性向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、サスペンションタワーとフードとを車両上下方向に近接して配設し、サスペンションタワーの側部に、該サスペンションタワーの上面部の高さよりも低位置の低面部を設け、該低面部には、サスペンションタワーより上方の高さまで立設して配設され、かつフードの上方からの荷重を吸収する衝撃吸収部材を設けたので、フード上部からの荷重を衝撃吸収部材にてサスペンションタワーよりも早く受けて、その荷重を吸収し、これにより車両と歩行者とが衝突した際、該歩行者の安全性向上を図ることができ、また、サスペンションタワーとフードとの間の隙間が小さい場合でも、上記低面部に衝撃吸収部材を設けることで、そのクラッシュスペース(潰れ量)を充分確保することができ、さらに、フードの構造を変更することなく、歩行者保護性能の向上とフードの重量増加防止との両立を図ることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の車両の前部車体構造を示す斜視図
【図2】車両の前部車体構造を示す正面図
【図3】図2の要部の部分平面図
【図4】図3のA−A線矢視断面図
【図5】図3のB−B線矢視断面図
【図6】図3のC−C線矢視断面図
【図7】フェンダ支持部および衝撃吸収部材の分解斜視図
【図8】車両の前部車体構造の他の実施例を示す斜視図
【図9】車両の前部車体構造の要部の部分平面図
【図10】図9のD−D線矢視断面図
【図11】図9のE−E線矢視断面図
【図12】衝撃吸収部材の斜視図
【図13】車両の前部車体構造のさらに他の実施例を示す正面図
【図14】車両の前部車体構造のさらに他の実施例を示す正面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
フード上部からの荷重を衝撃吸収部材にてサスペンションタワーよりも早く受けて、その荷重を吸収し、これにより車両と歩行者とが衝突した際、該歩行者の安全性向上を図り、また、サスペンションタワーとフードとの間の隙間が小さい場合でも、衝撃吸収部材のクラッシュスペースを充分確保し、さらに、フードの構造を変更することなく、歩行者保護性能の向上とフードの重量増加防止との両立を図るという目的を、車両の前輪を支持する左右一対のサスペンションと、該サスペンションを収納するサスペンションタワーと、左右のサスペンションタワー間を開閉可能に覆うフードと、が設けられた車両の前部車体構造において、上記サスペンションタワーと上記フードが車両上下方向に近接して配設され、上記サスペンションタワーの側部には、該サスペンションタワーの上面部の高さより低位置に低面部を形成し、上記低面部には、該低面部から上記サスペンションタワーより上方の高さまで立設して配設され、かつ上記フードの上方からの荷重を吸収する衝撃吸収部材を設けるという構成にて実現した。
【実施例1】
【0021】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図面は車両の前部車体構造を示し、図1はフードを取外した状態の斜視図、図2はフードを取付けた状態で示す正面図、図3は要部の部分平面図であって、図中、矢印Fは車両の前方を示し、矢印Rは車両の後方を示し、矢印INは車両の内方を示し、矢印OUTは車両の外方を示す。なお、図面では、車両の右側の構成のみを示しているが、車両左側は右側のそれと左右対称に構成される。
【0022】
図1、図2において、エンジンまたは/およびモータを搭載する機関室としてのエンジンルーム1の側方を車両の前後方向に延びるフロントサイドフレーム2を設けている。このフロントサイドフレーム2は、フロントサイドフレームアウタ3とフロントサイドフレームインナ4とを接合固定して、車両の前後方向に延びるフロントサイド閉断面5を備えた車体剛性部材である。
【0023】
また、上述のフロントサイドフレーム2の配設位置に対して上方かつ、車幅方向外方には、車両の前後方向に延びるエプロンレインフォースメント6を設けている。このエプロンレインフォースメント6は、エプロンレインインナ7と、エプロンレインアウタ8とを接合固定して、車両の前後方向に延びるエプロンレイン閉断面9を備えた車体剛性部材である。
さらに、ホイールセンタW2(図2参照)と対応する車両前後方向の所定位置において、エプロンレインフォースメント6とフロントサイドフレーム2との間には、後述するフロントサスペンション20を収納する車体強度部材としてのサスペンションタワー10(以下、単にサスタワーと略記する)を設けている。
【0024】
図3は図2の要部の平面図、図4は図3のA−A線矢視断面図、図5は図3のB−B線矢視断面図、図6は図3のC−C線矢視断面図であって、図5に示すように、このサスタワー10の車幅方向外側の下部10aは、エプロンレインインナ7に接合固定され、サスタワー10の車幅方向内側の下部10bは、フロントサイドフレーム2におけるフロントサイドフレームアウタ3とフロントサイドフレームインナ4との上側接合部の車外側に接合固定され、サスタワー10の上面部としてのトップデッキ10cは、エプロンレインインナ7の上面部よりも上方で、かつ後述するフード30と車両上下方向に近接する位置に配設されている。
【0025】
一方、図2に示すように、前輪11を支持するホイールハブ12を設け、該ホイールハブ12には軸受を介してナックル13を取付けている。
ナックル13の下部は、ジョイントおよび支持ブッシュを介してロアアーム14(サスペンションアーム)の車外側端部に連結し、ナックル13の上部は、ブラケット15を介してショックアブソーバ16(いわゆるストラット)の下部が連結されている。
【0026】
そして、上述のロアアーム14と、ショックアブソーバ16と、アッパシート17、ロアシート18、コイルスプリング19、スタビライザ(図示せず)とにより前輪11を支持するストラット型のフロントサスペンション20を構成し、ショックアブソーバ16と、アッパシート17、ロアシート18、コイルスプリング19とを上述のサスタワー10に収納している。
【0027】
図2においては、前輪11として大径タイヤを用いた場合、その前輪11を仮想線で示し、各要素10、12〜20を実線で示すと共に、従前のタイヤを用いた場合の各要素を図示の便宜上、それぞれの仮想線βで示している。
すなわち、従前のタイヤのホイールセンタW1に対し、大径タイヤを用いた場合のホイールセンタW2は高い位置に上昇し、これによりフロントサスペンション20も従前の仮想線βの位置に対し図2に実線で示すように上方配置され、フロントサスペンション20を収納するサスタワー10も従前の仮想線βの位置に対して図2に実線で示すように上方に配置されて、サスタワー10のトップデッキ10cが後述するフード30と近接することになる。
【0028】
図1において、サスタワー10の前部には、エプロンレインフォースメント6とフロントサイドフレーム2とを接続するホイールエプロンフロント21が設けられ、サスタワー10の後部には、エプロンレインフォースメント6とフロントサイドフレーム2とを接続するホイールエプロンリヤ22が設けられており、これらのホイールエプロンフロント21の後部およびホイールエプロンリヤ22の前部はサスタワー10の前後壁にそれぞれ接続固定されている。ここで、ホイールエプロンリヤ22はサスタワー10の内倒れを防止するレインフォースメントとしても作用する。
また、図1に示すように、エプロンレインフォースメント6およびホイールエプロンフロント21の前部には、シュラウドパネル23が接合固定されていて、このシュラウドパネル23には軽量化を図る目的で、開口部24が形成されている。
【0029】
さらに、図1に示すように、エプロンレインインナ7の略水平な上面部には、フェンダ支持部としてのブラケット25,26を用いてフェンダパネル27を取付けている。
フェンダ支持部としての一方のブラケット25はサスタワー10の前方対応位置に設けられており、また、フェンダ支持部としての他方のブラケット26はサスタワー10の後方対応位置に設けられている(図1、図3参照)。
【0030】
上述のフェンダパネル27は、図2に示すように、前輪11の上部を覆う車体外板であって、このフェンダパネル27がブラケット25,26で支持される部分には、図1、図2に示すように、その上端部27aから下方に延びる縦壁27bと、この縦壁27bから車幅方向内方に延びる略水平な取付け片27cとが車両正面視でL字状に一体に折曲げ形成されている。
また、上述の各ブラケット25,26(フェンダ支持部)は、図7に拡大斜視図で示すように構成されている。
【0031】
すなわち、サスタワー10の前方対応位置に設けられるフェンダ支持部としての前側のブラケット25は、フェンダパネル27の取付け片27cを支持する支持部25aを上方に有する逆L字状の主面部25bと、左右の側壁25c,25dと、下部の複数のフランジ25e,25eとをそれぞれ一体形成したものである。
同様に、サスタワー10の後方対応位置に設けられるフェンダ支持部としての後側のブラケット26は、フェンダパネル27の取付け片27cを支持する支持部26aを上方に有する逆L字状の主面部26bと、左右の側壁26c,26dと、下部の複数のフランジ26e,26eとをそれぞれ一体形成したものである。
【0032】
図1、図4に示すように、前側のブラケット25の下部のフランジ25eは、エプロンレインインナ7の上面部に溶接固定される一方、該ブラケット25の上部の支持部25aには、ボルト、ナットなどの取付け部材28を用いて、フェンダパネル27の取付け片27cを固定している。
【0033】
一方、図2、図3に示すように、左右のサスタワー10,10(但し、図面では車両右側のサスタワー10のみを示す)間を開閉可能に覆うフード30(ボンネットと同意)を設けている。図2、図4、図5、図6に示すように、該フード30はフードアウタパネル31と、該フードアウタパネル31の下面(裏面)に一体的に設けられたフードインナレイン32とを備えている。
このフードインナレイン32には、軽量化を図る目的で、複数の開口部32aが形成されている。
【0034】
図2および図4〜図6に示すように、サスタワー10のトップデッキ10cと上述のフード30とは、車両の上下方向に近接して配設されている。既述したように前輪11に大径タイヤを用いた際には、この近接状態が顕著となる。
【0035】
しかも、これら各図に示すように、サスタワー10の車幅方向外方の側部には、該サスタワー10のトップデッキ10cの高さよりも低い位置に低面部33が形成されている。この実施例では、該低面部33は、車両の前後方向に延びる閉断面9構造のエプロンレインフォースメント6で構成されている。
さらに詳しくは、該エプロンレインフォースメント6を構成するエプロンレインインナ7の略水平な上面部を低面部33に設定し、既存部品の有効利用を図ると共に、フード30上方からの荷重入力時には、剛性が高い該エプロンレインフォースメント6により荷重分散を図るように構成している。
【0036】
図1、図3、図5に示すように、前後のブラケット25,26間で、サスタワー10の車幅方向外方と対応する上記低面部33の所定位置には、この低面部33からサスタワー10のトップデッキ10cよりも、さらに上方の高さまで立設して配設される衝撃吸収部材40が設けられている。
【0037】
この衝撃吸収部材40は、図7に拡大斜視図で示すように構成されている。
すなわち、該衝撃吸収部材40は、フェンダパネル27の取付け片27cを取付ける取付け部40aをもった逆L字状の主面部40bと、左右の側壁40c,40dと、複数のフランジ40e,40eと、上記取付け部40aよりもさらに上方へ突出する突出部40fとそれぞれ一体形成したものである。
【0038】
そして、図1、図5に示すように、衝撃吸収部材40の下部のフランジ40eは、エプロンレインインナ7に溶接固定または接着固定される一方、該衝撃吸収部材40の上方部の取付け部40aには、ボルト、ナットなどの取付け部材34を用いて、フェンダパネル27の取付け片27cを固定しており、突出部40fはこの取付け片27cに対してさらに上方へ突出するものである。
上述の衝撃吸収部材40は、金属板または合成樹脂を用いて構成することができ、金属製の衝撃吸収部材40とする場合には、フランジ40eをエプロンレインインナ7に溶接固定するとよく、合成樹脂製の衝撃吸収部材40とする場合には、フランジ40eをエプロンレインインナ7に接着固定してもよい。
【0039】
図2、図4に示すように、上述の衝撃吸収部材40における突出部40fの上端ラインTOPは、サスタワー10よりも上方の高さ位置に存在する。
【0040】
上述の衝撃吸収部材40は、車両と歩行者とが衝突し、歩行者がフード30上に転倒した時のフード30の上方からの荷重を吸収するためのものであって、該衝撃吸収部材40の上端をサスタワー10のトップデッキ10cよりもさらに上方の高さに設定することにより、フード30上部からの荷重を衝撃吸収部材40にてサスタワー10よりも早く受け、所謂衝撃吸収部材40を先当りさせて、歩行者転倒時のフード30上部からの荷重を吸収するように構成したものである。
【0041】
また、上述の衝撃吸収部材40における突出部40fの上端は、フェンダ支持部としての前後のブラケット25,26の上端よりも、さらに上方に突出するように構成されており、フード30上部からの荷重入力時に該衝撃吸収部材40が前後のブラケット25,26よりも先に荷重を受けて、その荷重を吸収するように構成している。
【0042】
さらに、図1、図3に示すように、上述の衝撃吸収部材40は、サスタワー10の車幅方向外側の側部にのみ設けられており、該衝撃吸収部材40を必要最低限の位置にのみ配設して、重量増加の抑制と、低コスト化との両立を図るように構成している。
【0043】
図2、図4、図5、図6に示すように、上述のフード30には、衝撃吸収部材40と車幅方向にオーバラップし、かつ衝撃吸収部材40と上下方向に対向する位置に第2衝撃吸収部材50が設けられている。この第2衝撃吸収部材50はフード30の下面に設けられるフードインナレイン32に一体形成されたもので、この第2衝撃吸収部材50は車両の前後方向に延びるように形成されていて、既存の部品(フードインナレイン32)を第2衝撃吸収部材50として有効利用することで、部品点数の低減と、低コスト化との両立を図るように構成したものである。
なお、図1において、35はダッシュロアパネル(ダッシュパネル)の前部に車幅方向に延びるように設けられたダッシュクロスメンバであって、このダッシュクロスメンバ35で左右のフロントサイドフレーム2,2間を接続することにより、前部車体剛性の向上を図っている。
【0044】
このように構成した車両の前部車体構造の作用について説明する。
車両と歩行者とが衝突し、歩行者がフード30上部に転倒すると、フード30には図5に矢印aで示すように、上方からの荷重が作用する。
フード30に上方からの荷重が作用すると、フード30がサスタワー10のトップデッキ10cに当接するよりも早く、まず、第2衝撃吸収部材50がその上下方向に対向する衝撃吸収部材40に当接し、この衝撃吸収部材40である程度の初期荷重を付与した後、該衝撃吸収部材40が充分な上下方向のクラッシュスペース内で、図5に仮想線αで示すように潰れることにより、荷重を吸収するので、フード30上に転倒した歩行者の頭部に対するヘッドインパクトを低減して、歩行者の保護を図り、安全性を確保することができる。
【0045】
このように、図1〜図7で示した実施例1の車両の前部車体構造は、車両の前輪11を支持する左右一対のフロントサスペンション20,20(但し、図面では車両右側の構成のみを示す)と、該フロントサスペンション20を収納するサスタワー10と、左右のサスタワー10,10間を開閉可能に覆うフード30と、が設けられた車両の前部車体構造であって、上記サスタワー10と上記フード30とは車両上下方向に近接して配設され、上記サスタワー10の側部(詳しくは、車幅方向外方の側部)には、該サスタワー10の上面部(トップデッキ10c参照)の高さより低位置に低面部33が形成され、上記低面部33には、該低面部33から上記サスタワー10より上方の高さまで立設して配設され、かつ上記フード30の上方からの荷重を吸収する衝撃吸収部材40が設けられたものである(図2参照)。
【0046】
この構成によれば、サスタワー10の側部にその上面部(トップデッキ10c)の高さよりも低い位置に低面部33を形成し、該低面部33からサスタワー10より上方の高さまで立設して配設されるように衝撃吸収部材40を設けたものである。
車両と歩行者とが衝突して、歩行者がフード30上に倒れると、フード30の上方から荷重が作用するが、このフード30上部からの荷重を上述の衝撃吸収部材40にてサスタワー10よりも早く受けて、その荷重を吸収するので、上記歩行者の安全性向上を図ることができる。
【0047】
また、サスタワー10の上端部(トップデッキ10c参照)とフード30との間の隙間が小さい場合であっても、上記低面部33に衝撃吸収部材40を設けたので、該衝撃吸収部材40の車両上下方向の長さを充分に確保することができ、これにより、クラッシュスペース(換言すれば、衝撃吸収部材40の潰れ量)を充分確保することができ、特に、大径タイヤを採用した場合においても、フード30の位置を上昇させることなく、充分に衝撃吸収を行なうことができる。
さらに、フード30の構造を変更することなく、歩行者保護性能の向上と、フード30の重量増加防止との両立を図ることができる。つまり、フード30の位置および構造を変更しないので、前方視界の確保と空力抵抗の維持を図りつつ、上述の各種効果を得ることができる。
【0048】
加えて、上記低面部33には、車両の側部を覆うフェンダパネル27を支持するフェンダ支持部(ブラケット25,26参照)が備えられ、上記衝撃吸収部材40は、該フェンダ支持部(ブラケット25,26)より上方に突出するように設けられたものである(図1、図4、図5、図6参照)。
この構成によれば、フード30上部からの荷重を受けた時、上述の衝撃吸収部材40がフェンダ支持部(ブラケット25,26参照)よりも先に荷重を受けて、その荷重を吸収するので、車両と接触してフード30上に転倒した歩行者の安全性向上を図ることができる。
【0049】
また、上記衝撃吸収部材40には、フェンダパネル27を取付ける取付け部40aが一体形成されたものである(図7参照)。
この構成によれば、衝撃吸収部材40に上記取付け部40aを一体形成したので、フード30上部からの荷重吸収作用と、フェンダパネル27の取付けと、の両立を図ることができる。
【0050】
さらに、上記衝撃吸収部材40は、上記サスタワー10の側部(詳しくは、車幅方向外方の側部)にのみ設けられたものである(図1、図3参照)。
この構成によれば、衝撃吸収部材40を必要最低限の位置にのみ配設することで、重量増加の抑制と、低コスト化との両立を図りつつ、クラッシュスペースを確保することができる。
【0051】
さらにまた、上記フード30には、上記衝撃吸収部材40と車幅方向にオーバラップする位置に第2衝撃吸収部材50が設けられたものである(図5参照)。
この構成によれば、第2衝撃吸収部材50をフード30側に配設したので、低面部33から上方に延びる衝撃吸収部材40の上下方向寸法を小さくすることができる。これにより、フード30の開放時の見栄え低下を防止することができる。
【0052】
また、上記第2衝撃吸収部材50は、上記フード30の下面に設けられるフードインナレイン32に一体形成されたものである(図5参照)。
この構成によれば、既存の部品(フードインナレイン32参照)を第2衝撃吸収部材50として有効利用するので、部品点数および組付け工数の減少と、低コスト化との両立を図ることができる。
【0053】
さらに、上記低面部33は、車両前後方向に延びる閉断面9構造のエプロンレインフォースメント6で構成されたものである(図5参照)。
この構成によれば、低面部33を閉断面9構造のエプロンレインフォースメント6で構成したので、剛性が高いエプロンレインフォースメント6に対してフード30上方からの荷重を伝達して、荷重分散を図ることができると共に、車体の剛性向上を図ることができる。
【実施例2】
【0054】
図8〜図12は車両の前部車体構造の他の実施例を示し、図8はフード30を取外した状態で示す斜視図、図9はフード30を取付けた状態の要部の平面図、図10は図9のD−D線矢視断面図、図11は図9のE−E線矢視断面図、図12は衝撃吸収部材の斜視図である。
【0055】
図1〜図7で示した実施例1においては、衝撃吸収部材40としてフェンダパネル27を取付ける取付け部40aを備えたものを例示したが、図8〜図12で示すこの実施例2においては、フェンダパネル27を取付ける取付け部を有さない衝撃吸収部材60を用いるものである。
図12に該衝撃吸収部材60を斜視図で示すように、この衝撃吸収部材60は、上端に荷重受け部60aを有する逆L字状の主面部60bと左右の側壁60c,60dと、下部の複数のフランジ60e…とを一体形成したものである。
【0056】
図8、図11に示すように、衝撃吸収部材60の下部の複数のフランジ60eは、エプロンレインインナ7に溶接固定または接着固定されている。
この衝撃吸収部材60は、金属板または合成樹脂を用いて構成することができ、金属製の衝撃吸収部材60とする場合には、フランジ60eをエプロンレインインナ7に溶接固定するとよく、合成樹脂製の衝撃吸収部材60とする場合には、フランジ60eをエプロンレインインナ7に接着固定してもよい。
【0057】
この実施例2においても、上述の衝撃吸収部材60は低面部33から立設され、該衝撃吸収部材60の上端は、前後のブラケット25,26より上方に突出すると共に、サスタワー10のトップデッキ10cよりも、さらに上方の高さまで配設されている(図8、図10参照)。
【0058】
また、該衝撃吸収部材60は、図9に示すように、サスタワー10の車幅方向外方の側部にのみ設けられており、この衝撃吸収部材60を必要最低限の位置にのみ配設して、重量増加の抑制と、低コスト化との両立を図るように構成している。
さらに、上述の衝撃吸収部材60は、実施例1のそれと異なり、フェンダパネル27の取付け部を有さないので、フェンダパネル支持剛性を考慮することなく、衝撃エネルギ吸収特性のみを考慮して形成することができる。このため、衝撃吸収部材60の設計自由度の向上を図ることができる。
【0059】
図8〜図12で示した実施例2の車両の前部車体構造においても、車両の前輪11(前図参照)を支持する左右一対のフロントサスペンション20と、該フロントサスペンション20を収納するサスタワー10と、左右のサスタワー10間を開閉可能に覆うフード30と、が設けられた車両の前部車体構造であって、上記サスタワー10と上記フード30とは車両上下方向に近接して配設され、上記サスタワー10の側部(詳しくは、車幅方向外方の側部)には、該サスタワー10の上面部(トップデッキ10c)の高さより低位置に低面部33が形成され、上記低面部33には、該低面部33から上記サスタワー10より上方の高さまで立設して配設され、かつ上記フード30の上方からの荷重を吸収する衝撃吸収部材60が設けられたものである(図10参照)。
【0060】
この構成によれば、サスタワー10の側部にその上面部(トップデッキ10c)の高さより低い位置に低面部33を形成し、該低面部33からサスタワー10より上方の高さまで立設して配設されるように衝撃吸収部材60を設けたものである。
車両と歩行者とが衝突して、歩行者がフード30上に倒れると、フード30の上方から荷重が作用するが、このフード30上部からの荷重を上述の衝撃吸収部材60にてサスタワー10よりも早く受けて、その荷重を吸収するので、上記歩行者の安全性向上を図ることができる。
【0061】
また、サスタワー10の上端部(トップデッキ10c)とフード30との間の隙間が小さい場合であっても、上記低面部33に衝撃吸収部材60を設けたので、該衝撃吸収部材60の車両上下方向の長さを充分に確保することができ、これにより、クラッシュスペース(換言すれば、衝撃吸収部材60の潰れ量)を充分確保することができ、特に、大径タイヤを採用した場合においても、フード30の位置を上昇させることなく、充分に衝撃吸収を行なうことができる。
さらに、フード30の構造を変更することなく、歩行者保護性能の向上と、フード30の重量増加防止との両立を図ることができる。
【0062】
図8〜図12で示したこの実施例2においても、その他の構成、作用、効果については、先の実施例1とほぼ同様であるから、図8〜図12において、前図と同一の部分には、同一符号を付して、その詳しい説明を省略するが、衝撃吸収部材60としては、図13、図14に示す構造のものを採用してもよい。
すなわち、図13に示す衝撃吸収部材60は、その上端の荷重受け部60aの車幅方向の長さを、主面部60bの車幅方向の長さよりも大きく設定すると共に、該衝撃吸収部材60の上下方向中間には変形促進部としてのノッチ61を一体形成して、衝撃吸収性能のさらなる向上を図ったものである。
【0063】
図14に示す衝撃吸収部材60はその上端の荷重受け部60aの車幅方向の長さを、主面部60bの車幅方向の長さよりも大きく設定すると共に、衝撃吸収部材60が変形する時、フェンダパネル27の取付け片27cと干渉しないように、上記荷重受け部60aを車幅方向内方へ延ばして、その車幅方向の長さを拡大したものであり、衝撃吸収部材60のクラッシュ時に該衝撃吸収部材60のフェンダパネル27に対する干渉を可及的回避すべく構成したものである。
【0064】
図13、図14で示した各実施例においても、その他の構成、作用、効果については、図8〜図12で示した実施例2と同様であるから、図13、図14において前図と同一の部分には、同一符号を付して、その詳しい説明省略する。
【0065】
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、
この発明のサスペンションタワーは、実施例のサスタワー10に対応し、
以下同様に、
サスペンションタワーの上面部は、トップデッキ10cに対応し、
フェンダパネルを支持するフェンダ支持部は、ブラケット25,26に対応し、
エプロンレインは、エプロンレインフォースメント6に対応し、
サスペンションは、ストラット型のフロントサスペンション20に対応するも、
この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0066】
6…エプロンレインフォースメント(エプロンレイン)
10…サスタワー(サスペンションタワー)
10c…トップデッキ
11…前軸
20…フロントサスペンション(サスペンション)
25,26…ブラケット(フェンダ支持部)
27…フェンダパネル
30…フード
32…フードインナレイン
33…低面部
40,60…衝撃吸収部材
40a…取付け部
50…第2衝撃吸収部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前輪を支持する左右一対のサスペンションと、
該サスペンションを収納するサスペンションタワーと、
左右のサスペンションタワー間を開閉可能に覆うフードと、が設けられた
車両の前部車体構造であって、
上記サスペンションタワーと上記フードとは車両上下方向に近接して配設され、
上記サスペンションタワーの側部には、該サスペンションタワーの上面部の高さより低位置に低面部が形成され、
上記低面部には、該低面部から上記サスペンションタワーより上方の高さまで立設して配設され、かつ上記フードの上方からの荷重を吸収する衝撃吸収部材が設けられたことを特徴とする
車両の前部車体構造。
【請求項2】
上記低面部には、車両の側部を覆うフェンダパネルを支持するフェンダ支持部が備えられ、
上記衝撃吸収部材は、該フェンダ支持部より上方に突出するように設けられた
請求項1記載の車両の前部車体構造。
【請求項3】
上記衝撃吸収部材には、フェンダパネルを取付ける取付け部が一体形成された
請求項2記載の車両の前部車体構造。
【請求項4】
上記衝撃吸収部材は、上記サスペンションタワーの側部にのみ設けられた
請求項1〜3の何れか1に記載の車両の前部車体構造。
【請求項5】
上記フードには、上記衝撃吸収部材と車幅方向にオーバラップする位置に第2衝撃吸収部材が設けられた
請求項1〜4の何れか1に記載の車両の前部車体構造。
【請求項6】
上記第2衝撃吸収部材は、上記フードの下面に設けられるフードインナレインに一体形成された
請求項5記載の車両の前部車体構造。
【請求項7】
上記低面部は、車両前後方向に延びる閉断面構造のエプロンレインで構成された
請求項1〜6の何れか1に記載の車両の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−31785(P2011−31785A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181199(P2009−181199)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】