説明

車両の前部車体構造

【課題】スプラッシュシールドを適正かつコンパクトに設置し、その泥よけ機能を効果的に発揮できるようにする。
【解決手段】左右一対のフロントサイドフレーム1と、該フロントサイドフレーム1の下方に配設されたサブフレーム2と、上記フロントサイドフレームとサブフレーム2との間を覆うように設置されたスプラッシュシールド3とを備え、該スプラッシュシールド3の車幅方向外方側に前輪4が転舵可能に設置された車両の前部車体構造であって、上記サブフレーム2には、車両のトランスアクスル装置8との干渉を回避するための凹入部19が下方に凹設され、上記スプラッシュシールド3には、上記トランスアクスル装置8との干渉を避けるための外向き凹部22,23が車幅方向外方側に向かって凹設されるとともに、該外向き凹部22,23の車幅方向内方側から下方に延びて上記サブフレーム3の凹入部19を車外側から覆う延設部24が形成された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前後方向に延びるフロントサイドフレームと、該フロントサイドフレームの下方に配設されたサブフレームと、上記フロントサイドフレームとサブフレームとの間を覆うように設置されたスプラッシュシールドとを備え、該スプラッシュシールドの車幅方向外方側に前輪が転舵可能に設置された車両の前部車体構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に示されるように、車両の前後方向に延びる左右一対のサイドフレームとその下方に設けられたサスペンションメンバとの間に、車輪によって跳ね上げられた泥水のエンジンルームへの侵入を防ぐためのスプラッシュシールドを配設してなる車両のスプラッシュシールド構造において、上記サスペンションメンバに揺動自在に取り付けられた車輪支持部材にブレーキ機構を配設し、該ブレーキ機構と車体とに跨って、ブレーキ機構の作動に関連するブレーキ関連部材を配設し、該ブレーキ関連部材および車体間に氷雪が堆積するのを防止する堆積防止手段を上記スプラッシュシールドに設けることが行われている。
【0003】
また、下記特許文献2に示されるように、駆動装置から排出されたオイルが溜まってしまうことを防止できるようにするとともに、剛性を高めることが可能なスプラッシュシールドを提供することを目的として、車両の駆動装置とタイヤとの間に配設される側部と、該側部の下方から前記車両の内方に向かって延びている下部とを有し、該下部には、上記駆動装置のオイルドレン口に対向するオイル止め部を立ち上げてなるスプラッシュシールドが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−022103号公報
【特許文献2】特開2006−256404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示されているように、車両の側辺部に配設されたサイドフレームとその下方に配設されたサスペンションメンバ(サブフレーム)との間に配設されたスプラッシュシールドの表面に、車体内方側に窪んだ窪み部からなる堆積防止手段を設けた構造とした場合には、上記サスペンションメンバに配設されたブレーキ関連部材および車体間氷雪が堆積するのを効果的に防止できるという利点がある。
【0006】
しかし、車両のパワートレインを構成するエンジンと、モータジェネレータおよび動力分配機構等を有するトランスアクスル装置とが車幅方向に並設された所謂バイブリッド車両において上記構成を作用した場合には、上記トラスアクスル装置の車幅方向外端部がサスペンションメンバの側端部上に重なる位置まで突出した状態となり、上記スプラッシュシールドに形成された窪み部がトラスアクスル装置に干渉する可能性がある。このような事態を防止するためには、パワートレインの車幅方向寸法に対応させて車幅を増大させる必要があり、車体を効果的にコンパクト化することができないという問題があった。
【0007】
また、上記特許文献2に開示されているように、エンジンとトランスミッションとが車幅方向に併設された横置き式の駆動機構(パワートレイン)と、タイヤ(前輪)との間にスプラッシュシールドが配設された前部車体構造において、前輪用のサスペンション部材を支持するサブフレームを設置した場合には、該サブフレームと上記横置き式のパワートレインとの干渉を防止するために、サブフレームの設置高さを低くする必要があり、これによって車両のアプローチアングルを適正値に設定することが困難になる等の問題が生じる。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、フロントサイドフレームとサブフレームとの間にスプラッシュシールドを適正かつコンパクトに設置し、該スプラッシュシールドによる泥よけ機能を効果的に発揮させることができる車両の前部車体構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、車両の前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレームと、該フロントサイドフレームの下方に配設されたサブフレームと、上記フロントサイドフレームとサブフレームとの間を覆うように設置されたスプラッシュシールドとを備え、該スプラッシュシールドの車幅方向外方側に前輪が転舵可能に設置された車両の前部車体構造であって、上記サブフレームには、車両のパワートレインとの干渉を回避するための凹入部が下方に凹設され、上記スプラッシュシールドには、上記パワートレインとの干渉を避けるための外向き凹部が車幅方向外方側に向かって凹設されるとともに、該外向き凹部の下方には、その車幅方向内方側から下方に向けて延びる延設部が形成され、この延設部により上記サブフレームの凹入部が車外側から覆われるように構成されたものである。
【0010】
請求項2に係る発明は、上記請求項1に記載の車両の前部車体構造において、上記パワートレインの車幅方向外側端部が、前輪の最大転舵時における車幅方向内側端部に対して車両の前後方向にずれた位置に配設され、上記スプラッシュシールドには、該前輪の最大転舵時における車幅方向内側端部に対向する部位を車幅方向内方側に凹入させた内向き凹部が形成されものである。
【0011】
請求項3に係る発明は、上記請求項2に記載の車両の前部車体構造において、上記パワートレインには、車幅方向外方側に突出する一対の膨出部が、上記前輪の最大転舵時における車幅方向内側端部を挟むように前後に離間した位置に配設され、上記スプラッシュシールドには、前後一対の外向き凹部が上記両膨出部に対向する位置に形成されるとともに、該外向き凹部の間に上記内向き凹部が形成されたものである。
【0012】
請求項4に係る発明は、上記請求項2または3に記載の車両の前部車体構造において、上記スプラッシュシールドの内向き凹部の下端が開放形状とされるとともに、該内向き凹部の凹入量が、上記外向き凹部の凹入量よりも小さく設定され、上記内向き凹部の下端部から車幅方向内側に延びる底壁が形成され、該底壁と内向き凹部の下端部とによって車両の前後方向に延びる稜線が形成されたものである。
【0013】
請求項5に係る発明は、上記請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両の前部車体構造において、上記車両には、そのフロアパネルの車幅方向中央部を上方に膨出させたトンネル部が形成されるとともに、上記パワートレインが、横置き式のエンジンと、該エンジンの車幅方向側方に併設されたトランスアクスル装置とを有し、上記トンネル部に沿ってエンジンの排気管が車両の前後方向に延びるように設置され、上記スプラッシュシールドの外向き凹部および内向き凹部が、上記トランスアクスル装置の設置部側にのみ設けられたものである。
【0014】
請求項6に係る発明は、上記請求項1〜5のいずれか1項に記載の車両の前部車体構造において、上記サブフレームには、その凹入部の前後に上記スプラッシュシールドが取り付けられる被取付部が設けられたものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明では、上記サブフレームに、車両のパワートレインとの干渉を回避するための凹入部を形成したため、パワートレインが大型化することが避けられないハイブリッド車両においても、上記サブフレームの設置高さが低くなり過ぎたり、車体前部が大型化したりする等の問題を生じることなく、上記サブフレームおよびパワートレインをコンパクトに設置できるとともに、車両のアプローチアングルを適正値に設定できる等の利点がある。また、上記スプラッシュシールドに、パワートレインとの干渉を避けるための外向き凹部を車幅方向外方側に向かって凹設するとともに、該外向き凹部の下方に、その車幅方向内方側から下方に延びる延設部を設け、該延設部により上記サブフレームの凹入部を車外側から覆うように構成したため、車両の走行時に上記パワートレインが振動した場合においても、該パワートレインがスプラッシュシールドに当接するという事態の発生を確実に防止して、該スプラッシュシールドの損傷や騒音の発生を効果的に防止しつつ、上記スプラッシュシールドによりフロントサイドフレームとサブフレームとの間を所定範囲に亘って車幅方向外面側から覆うことできるとともに、スプラッシュシールドの上記外向き凹部と延設部との間に上下方向および前後方向に延びる稜線を形成することにより、簡単な構成でスプラッシュシールドの強度を充分に確保できるという利点がある。
【0016】
請求項2に係る発明では、上記パワートレインの車幅方向外側端部を、前輪の最大転舵時における車幅方向内側端部に対して車両の前後方向にずれた位置に配設し、上記スプラッシュシールドに、上記前輪の車幅方向内側端部に対向する部位を車幅方向内方側に凹入させた内向き凹部を形成したため、上記前輪の車幅方向内側端部がパワートレインおよびに干渉する防止しつつ、これらを互いに接近させた状態でコンパクトに配設できるとともに、上記内向き凹部に対応した稜線をスプラッシュシールドに形成することにより、該スプラッシュシールドの強度を、さらに効果的に向上できるという利点がある。
【0017】
請求項3に係る発明では、車幅方向外方側に突出する一対の膨出部を、上記前輪の最大転舵時における車幅方向内側端部を挟むように、上記パワートレインの前後に離間した位置に配設し、上記両膨出部に対向する前後一対の外向き凹部を上記スプラッシュシールドに形成するとともに、該外向き凹部の間に上記内向き凹部を形成したため、上記前輪の車幅方向内側端部がパワートレインおよびスプラッシュシールドに干渉するのを防止しつつ、これらを互いに接近させた状態で、よりコンパクトに配設できるとともに、上記スプラッシュシールドの強度を、さらに効果的に向上できるという利点がある。
【0018】
請求項4に係る発明では、上記スプラッシュシールドの内向き凹部の下端を開放形状とするとともに、該内向き凹部の凹入量を、上記外向き凹部の凹入量よりも小さく設定したため、上記前輪からスプラッシュシールドの内向き凹部側に跳ね上げられた泥等が、上記内向き凹部内に堆積するのを防止できるとともに、該内向き凹部の下端部に車両の前後方向に延びる稜線を形成して上記スプラッシュシールドの剛性を効果的に向上できるという利点がある。
【0019】
請求項5に係る発明では、フロアパネルの車幅方向中央部を上方に膨出させたトンネル部が形成されるとともに、上記パワートレインに、横置き式のエンジンと該エンジンの車幅方向側方に併設されたトランスアクスル装置とが設けられた車両において、上記トンネル部に沿ってエンジンの排気管を車両の前後方向に延設し、上記スプラッシュシールドの外向き凹部および内向き凹部を、上記トランスアクスル装置の設置部側にのみ設けた構造としたため、ガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンの他に駆動用電力発電機、および/または駆動用電動機を備えたハイブリッド車両用トランスアクスル装置を有するハイブリッド車両と、ガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンのみを駆動源としたエンジン駆動車両の比較的小型のトランスアクスル装置を有するエンジン駆動車両とで、車体構造を大幅に異ならせることなく、上記パワートレインを前部車体に適正状態で設置することができる。
【0020】
請求項6に係る発明では、上記サブフレームに設けられた凹入部の前後に、上記スプラッシュシールドが取り付けられる被取付部を設けたため、上記サブフレームに形成される凹入部の深さを充分に大きく設定しつつ、上記被取付部の設置強度を充分に確保することができ、上記スプラッシュシールドを安定してサブフレームに取り付けることができる等の利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る車両の前部車体構造の実施形態を示す底面図である。
【図2】上記前部車体構造を左側方から見た状態を示す側面断面図である。
【図3】上記前部車体構造を正面側から見た状態を示す正面断面図である。
【図4】スプラッシュシールドの設置状態を示す側面図である。
【図5】図2のV−V線断面図である。
【図6】図5のVI−VI線断面図である。
【図7】図5のVII−VII線断面図である。
【図8】車両の前部車体構造の第1参考例を示す図7相当図である。
【図9】車両の前部車体構造の第2参考例を示す図7相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1〜図4は、本発明に係る車両の前部車体構造の実施形態を示している。該車両は、その前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレーム1,1と、該フロントサイドフレーム1,1の下方に配設されたサブフレーム2と、上記フロントサイドフレーム1,1とサブフレーム2との間を覆うように設置されたスプラッシュシールド3とを備え、該スプラッシュシールド3の車幅方向外方側に前輪4が転舵可能に設置されている。
【0023】
上記フロントサイドフレーム1,1の先端部には、車両の前突時に圧縮されて潰れることにより衝突エネルギーを吸収する左右のクラッシュカン5,5がそれぞれ取り付けられるとともに、該左右のクラッシュカン5,5を連結するように車幅方向に延びるバンパービーム6が設けられている。また、上記左右のフロントサイドフレーム1,1の間には、バイブリッド車両の駆動機構を構成するエンジン7と、モータジェネレータおよび動力分配機構等からなるトランスアクスル装置8とを備えたパワートレインPTが配設されている。
【0024】
上記エンジン7は、そのクランクシャフトが車幅方向に延びる横置き状態で設置されるとともに、排気マニホールド9がエンジン7の後壁面に接続された後方排気タイプに構成されている。上記排気マニホールド9に接続された排気管10が、車室の底部に設置されたフロアパネル11の車幅方向中央部を上方に膨出させることにより形成されたトンネル部12に沿って車両の前後方向に延設されている。
【0025】
当実施形態では、トランスアクスル装置8が、左右のフロントサイドフレーム1,1とサブフレーム2とにそれぞれ弾性的に支持された所謂ペンデュラム方式の支持構造とされ、具体的には、平面視で車体の右側にエンジン7が配設されるとともに、右フロントサイドフレーム1に図示を省略したマウント部材を介して弾性的に支持され、その左側方にトランスアクスル装置8が併設されるとともに、左フロントサイドフレーム1に図示を省略したマウント部材を介して弾性的に支持されている。そして、該トランスアクスル装置8の車外側壁面には、図5に示すように、車外側に向けて突出するモータジェネレータの軸受部またはプラグの設置部等からなる膨出部13,14が、平面視でサブフレーム2の側辺部と重なる位置に配設されている。
【0026】
上記両膨出部13,14のうち、前方側の膨出部13が上記前輪4の最大転舵時における車幅方向内側端部4aに対して車両の前方側に所定距離だけずれた位置に配設されるとともに、後方側の膨出部14が上記前輪4の車幅方向内側端部4aに対して車両の後方側に所定距離だけずれた位置に配設されている。これにより、上記膨出部13,14からなるパワートレインPTの車幅方向外側端部が、上記前輪4の車幅方向内側端部4aを挟むように、その前後に離間して設置されている。
【0027】
上記サブフレーム2は、図1に示すように、車幅方向の左右に設けられて車両の前後方向に延びる一対のサイドメンバ部15,16と、両サイドメンバ部15,16の後部同士を連結するように車幅方向に延設されたクロスメンバ部17とを有するペリメータフレームからなっている。また、前輪4用のサスペンションアーム18等からなるサスペンション部材が上記サブフレーム2のクロスメンバ部17により支持されるように構成されている。なお、上記パワートレインPTの下部であって、本実施形態におけるトランスアクスル装置8の下部が図外の弾性マウントを介してクロスメンバ17に支持されている。
【0028】
そして、上記トランスアクスル装置8の設置部側(車体の左側)に位置するサブフレーム2のサイドメンバ部15には、図2に示すように、その上面を下方に凹入させた凹入部19が形成され、上記サイドメンバ部15の前後方向中間部における上下寸法がその前後部位に比べて薄肉に形成されることにより、上記サイドメンバ部15とパワートレインPT、具体的にはトランスアクスル装置8との干渉が回避されるようになっている。また、トランスアクスル装置8の設置部側に位置する上記サイドメンバ部15の車幅方向外方側壁面には、スプラッシュシールド3が締結ボルト等を介して取り付けられる取付孔およびウエルドナット等を備えた被取付部20,21が、上記凹入部19の前後に設けられている。
【0029】
なお、上記サブフレーム2の凹入部19は、パワートレインPTの車幅方向外側端部が平面視でサブフレーム2の側辺部と重なる位置に配設されたトランスアクスル装置8側(車幅方向左側)のサイドメンバ部15のみに設けられている。上記エンジン7の設置側(車幅方向左側)に位置するサイドメンバ部16には、上記凹入部19が設けられることなく、上記サイドメンバ部16の厚みが、その全長に亘って略均一に形成されている。
【0030】
上記スプラッシュシールド3は、図4に示すように、その上部前後がフロントサイドフレーム1の外面下辺部にボルト止めされるとともに、下部前後がサブフレーム2の外側面部(被取付部20,21)にボルト止めされることにより、上記フロントサイドフレーム1およびサブフレーム2の車両前後方向の所定範囲を、車幅方向外面側から覆うように設置されている。
【0031】
上記スプラッシュシールド3には、図5に示すように、パワートレインPTのトランスアクスル装置8との干渉を避けるために車幅方向外方側に向かって凹入した前後一対の外向き凹部22,23が、上記トランスアクスル装置8の膨出部13,14に対向する位置に形成されている。また、図6に示すように、上記外向き凹部22,23の下方側には、その車幅方向内方側から下方に向けて延びる延設部24が形成され、該延設部24が上記サブフレーム2の被取付部20,21に取り付けられることにより、該サブフレーム2に形成された上記凹入部19が車外側から覆われるように構成されている。
【0032】
さらに、上記スプラッシュシールド3に形成された前後一対の外向き凹部22,23の間には、上記前輪4の最大転舵時における車幅方向内側端部4aに対向する部位を車幅方向内方側に凹入させてなる内向き凹部25が形成されている。これにより上記前輪4の最大転舵時に、該前輪4が上記スプラッシュシールド3に干渉することが防止されるようになっている(図5参照)。
【0033】
上記スプラッシュシールド3の内向き凹部25は、図7に示すように、下端部の外側に底壁が存在しない開放形状に形成されている。これにより、上記前輪4からスプラッシュシールド3の内向き凹部25側に跳ね上げられた泥等が、該内向き凹部25の壁面に沿って下方へスムーズに流下するように構成されている。また、上記スプラッシュシールド3の内向き凹部25は、延長部24の外側(図7の右側)に凹入した外向き凹部22,23よりも延長部24側の部位に隣接し、該延長部24に対する内向き凹部24の凹入量Aが、上記外向き凹部22,23の凹入量Bよりも小さく設定されることにより、上記内向き凹部23の凹入方向と反対側部位から車幅方向内方側に延びる底壁26が形成されるとともに、これに対応して車両の前後方向に延びる稜線26aが底壁26に沿って形成されている。
【0034】
さらに詳述すると、上記内向き凹部25は外向き凹部22の車幅方向外方側に向かって凹入した部位から車幅方向内側に凹入するように形成されており、稜線26aは、前後方向に延びるだけでなく、その前後方向に連続した外向き凹部22,23を連結することによっても、スプラッシュシールド3の前後方向における剛性の向上に寄与し、また外向き凹部22,23の底部と連続することによっても、前後方向剛性の向上に寄与している。
【0035】
上記のように車両の前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレーム1,1と、該フロントサイドフレーム1,1の下方に配設されたサブフレーム2と、上記フロントサイドフレーム1,1とサブフレーム2との間を覆うように設置されたスプラッシュシールド3とを備え、該スプラッシュシールド3の車幅方向外方側に前輪4が転舵可能に設置された車両の前部車体構造において、上記サブフレーム2には、車両のパワートレインPTとの干渉を回避するための凹入部19が下方に凹設され、上記スプラッシュシールド3には、上記パワートレインPTとの干渉を避けるための外向き凹部22,23が車幅方向外方側に向かって凹設されるとともに、該外向き凹部22,23の車幅方向内方側から下方に延びるように形成された延設部24により上記サブフレーム2の凹入部19が車外側から覆われるように構成したため、フロントサイドフレーム1とサブフレーム2との間にスプラッシュシールド3を適正かつコンパクトに設置し、該スプラッシュシールド3による泥よけ機能を効果的に発揮させることができるという利点がある。
【0036】
すなわち、上記実施形態では、左右のフロントサイドフレーム1,1間に、横置き式のエンジン7と大型のトランスアクスル装置8とが車幅方向に併設された所謂ハイブリッド車両の前部車体構造において、上記トランスアクスル装置8の設置部側に位置するサブフレーム2のサイドメンバ部15に、その上面を下方に凹入させた凹入部19を形成したため、上記サブフレーム2の設置高さを低くする等の手段を講じることなく、上記サイドメンバ部15とパワートレインPTとの干渉を回避することができる。
【0037】
したがって、通常のガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンのみを駆動源としたエンジン駆動車両または電動モータのみを駆動源とした電気自動車に比べ、上記トランスアクスル装置8の存在に起因してパワートレインPTが大型化することが避けられないハイブリッド車両においても、上記サブフレーム2の設置高さが低くなり過ぎたり、車体前部が大型化したりする等の問題を生じることなく、上記サブフレーム2およびパワートレインPTをコンパクトに設置できるとともに、車両のアプローチアングルを適正値に設定できる等の利点がある。
【0038】
そして、上記のようにスプラッシュシールド3には、パワートレインPTのトランスアクスル装置8との干渉を避けるための外向き凹部22,23を車幅方向外方側に向かって凹設するとともに、該外向き凹部22,23の下方には、その車幅方向内方側において上記サブフレーム2の凹入部19を車外側から覆う延設部24を下方に延設した構造としたため、車両の走行時に上記パワートレインPTのトランスアクスル装置8が振動した場合においても、該トランスアクスル装置8がスプラッシュシールド3に当接するという事態の発生を確実に防止し、該スプラッシュシールド3の損傷や騒音の発生を効果的に防止しつつ、上記スプラッシュシールド3によりフロントサイドフレーム1とサブフレーム2との間を所定範囲に亘って車幅方向外面側から覆うことできる。したがって、車両の走行時に前輪4から跳ね上げられた泥や砂利等がエンジンルーム内に侵入するのを上記スプラッシュシールド3により効果的に防止できるという利点がある。
【0039】
しかも、上記外向き凹部22,23をスプラッシュシールド3に設けるとともに、該外向き凹部22,23の下方に上記延設部24を設けた構造とすることにより、上記スプラッシュシールド3の上下方向および前後方向に延びる稜線を形成して、該スプラッシュシールド3の断面二次モーメントを効果的に増大させることができる。このため、記スプラッシュシールド3の剛性を向上させるために特別な補強用ビードやリブを設ける等の手段を講じることなく、簡単な構成で該スプラッシュシールド3の強度を充分に確保できるという利点がある。
【0040】
また、上記実施形態では、パワートレインPTの車幅方向外側端部、具体的には上記トランスアクスル装置8の車外側壁面に設けられた膨出部13等を、前輪4の最大転舵時における車幅方向内側端部4aに対して車両の前後方向にずれた位置に配設するとともに、該前輪4の車幅方向内側端部4aに対向する部位を車幅方向外方側に凹入させた外向き凹部22等を上記スプラッシュシールド3に形成したため、上記前輪4の車幅方向内側端部4aがパワートレインPTのトランスアクスル装置8およびスプラッシュシールド3に干渉するのを防止しつつ、これらを互いに接近させた状態でコンパクトに配設することができる。しかも、上記凹部22等に対応した稜線をスプラッシュシールド3に形成することにより、該スプラッシュシールド3の強度を効果的に向上できるという利点がある。
【0041】
特に、上記実施形態に示すように、パワートレインPTの車外側壁面に前後一対の膨出部13,14が車幅方向外方側に突設されるとともに、該膨出部13,14が前後に離間した状態で、上記前輪4の最大転舵時における車幅方向内側端部4aを挟むように配設された車両において、上記スプラッシュシールド3には、前後一対の外向き凹部22,23を上記パワートレインPTの両膨出部13,14に対向する位置に形成するとともに、上記外向き凹部22,23の間に上記内向き凹部25を形成した構造とすれば、上記前輪4の車幅方向内側端部4aがパワートレインPTのトランスアクスル装置8およびスプラッシュシールド3に干渉するのを防止しつつ、これらを互いに接近させた状態で、よりコンパクトに配設できるとともに、上記スプラッシュシールド3の強度を、さらに効果的に向上できるという利点がある。
【0042】
また、上記実施形態では、スプラッシュシールド3に形成された内向き凹部25の下端を開放形状とするとともに、該内向き凹部25の凹入量を、上記外向き凹部22,23の凹入量よりも小さく設定したため、上記前輪4からスプラッシュシールド3の内向き凹部25側に跳ね上げられた泥等が、上記内向き凹部25内に堆積するのを防止することができるとともに、該内向き凹部23の下端部に稜線を形成することにより、上記スプラッシュシールド3の剛性を効果的に向できるという利点がある。
【0043】
すなわち、図8に示す第1参考例のように、スプラッシュシールド3に形成された内向き凹部25の下端部外側に底部30を形成した場合には、車両の走行時に前輪4からスプラッシュシールド3の内向き凹部25側に跳ね上げられた泥等が上記底部上30に固着して堆積し易いという問題がある。これに対して図7に示すように、内向き凹部25の下端部外側を開放形状とした場合には、車両の走行時に前輪4からスプラッシュシールド3の内向き凹部25側に跳ね上げられた泥等を、内向き凹部25の壁面に沿ってスムーズに流下させて排出することができるため、該内向き凹部25内に上記泥等が固着して堆積するという事態の発生を効果的に防止することができる。
【0044】
また、図9に示す第2参考例ように、スプラッシュシールド3に形成された内向き凹部25および外向き凹部22,23の凹入量を等しく設定した場合には、上記内向き凹部23の凹入方向と反対側部位から車幅方向内方側に延びる底壁を形成することができず、これに対応した稜線を形成することができない。これに対して上記実施形態では、図7に示すように、内向き凹部25の凹入量Aを、上記外向き凹部22,23の凹入量Bよりも小さく設定したため、該内向き凹部23の凹入方向と反対側部位から車幅方向内方側に延びる底壁26を形成するとともに、該底壁26に沿った稜線26aを形成することにより、上記スプラッシュシールド3の断面二次モーメントを効果的に増大させることができる。したがって、上記スプラッシュシールド3の剛性を向上させるために特別な補強用ビードやリブを設ける等の手段を講じることなく、該スプラッシュシールド3の強度を充分に確保できるという利点がある。
【0045】
さらに、上記実施形態では、フロアパネル11の車幅方向中央部を上方に膨出させたトンネル部12が形成されるとともに、上記左右のフロントサイドフレーム1,1間に、横置き式のエンジン7と大型のトランスアクスル装置8とが車幅方向に併設されたパワートレインPTが配設されたハイブリッド車両において、上記スプラッシュシールド3の外向き凹部22,23および内向き凹部25を、上記トランスアクスル装置8の設置部側にのみ設けたため、通常のガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンのみを駆動源としたエンジン駆動車両の比較的小型のトランスアクスル装置を有するエンジン駆動車両と、上記ハイブリッド車両との間で車体構造を大幅に異ならせることなく、上記パワートレインPTを適正に設置することができる。
【0046】
すなわち、上記左右のフロントサイドフレーム1,1間には、横置き式のエンジン7と大型のトランスアクスル装置8とが車幅方向に併設されてなるハイブリッド車両では、通常のガソリンエンジン等のみを駆動源としたエンジン駆動車両に比べ、上記トランスアクスル装置8の存在に起因してパワートレインPTが大型化することが避けられないが、上記トランスアクスル装置8の設置部側に設けられたスプラッシュシールド3のみに、上記内向き凹部22,23および外向き凹部25を設けた構造とすることにより、エンジン側に位置するスプラッシュシールドの形状およびエンジンの配置等をエンジン駆動車両と共通化しつつ、上記大型化のパワートレインPTを適正に配置できるという利点がある。
【0047】
また、上記実施形態では、サブフレーム2に形成された凹入部19の前後に、上記スプラッシュシールド3が締結ボルトを介して取り付けられる取付孔およびウエルドナット等からなる被取付部20,21を設けた構造としたため、上記サブフレーム2に形成される凹入部19の深さを充分に大きく設定しつつ、上記被取付部20,21の設置強度を充分に確保することができ、上記スプラッシュシールド3を安定して取り付けることができる等の利点がある。
【符号の説明】
【0048】
1 フロントサイドフレーム
2 サブフレーム
3 スプラッシュシールド
4 前輪
4a 前輪の車幅方向内側端部
7 エンジン
8 トランスアクスル装置
10 排気管
19 凹入部
11 フロアパネル
12 トンネル部
13,14 膨出部
20,21 被取付部
22,23 内向き凹部
24 延設部
25 外向き凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレームと、該フロントサイドフレームの下方に配設されたサブフレームと、上記フロントサイドフレームとサブフレームとの間を覆うように設置されたスプラッシュシールドとを備え、該スプラッシュシールドの車幅方向外方側に前輪が転舵可能に設置された車両の前部車体構造であって、上記サブフレームには、車両のパワートレインとの干渉を回避するための凹入部が下方に凹設され、上記スプラッシュシールドには、上記パワートレインとの干渉を避けるための外向き凹部が車幅方向外方側に向かって凹設されるとともに、該外向き凹部の車幅方向内方側から下方に向けて延びる延設部が形成され、この延設部により上記サブフレームの凹入部が車外側から覆われるように構成されたことを特徴とする車両の前部車体構造。
【請求項2】
上記パワートレインの車幅方向外側端部が、前輪の最大転舵時における車幅方向内側端部に対して車両の前後方向にずれた位置に配設され、上記スプラッシュシールドには、該前輪の最大転舵時における車幅方向内側端部に対向する部位を車幅方向内方側に凹入させた内向き凹部が形成されたことを特徴とする請求項1に記載の車両の前部車体構造。
【請求項3】
上記パワートレインには、車幅方向外方側に突出する一対の膨出部が、上記前輪の最大転舵時における車幅方向内側端部を挟むように前後に離間した位置に配設され、上記スプラッシュシールドには、前後一対の外向き凹部が上記両膨出部に対向する位置に形成されるとともに、該外向き凹部の間に上記内向き凹部が形成されたことを特徴とする請求項2に記載の車両の前部車体構造。
【請求項4】
上記スプラッシュシールドの内向き凹部は、その下端が開放形状とされるとともに、該内向き凹部の凹入量が、上記外向き凹部の凹入量よりも小さく設定され、上記上向き凹部の下端部から車幅方向内側に延びる底壁が形成され、該底壁と内向き凹部の下端部とによって車両の前後方向に延びる稜線が形成されたことを特徴とする請求項2または3に記載の車両の前部車体構造。
【請求項5】
上記車両には、そのフロアパネルの車幅方向中央部を上方に膨出させたトンネル部が形成されるとともに、上記パワートレインは、横置き式のエンジンと、該エンジンの車幅方向側方に併設されたトランスアクスル装置とを有し、上記トンネル部に沿ってエンジンの排気管が車両の前後方向に延びるように設置され、上記スプラッシュシールドの外向き凹部および内向き凹部は、上記トランスアクスル装置の設置部側にのみ設けられたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両の前部車体構造。
【請求項6】
上記サブフレームには、その凹入部の前後に上記スプラッシュシールドが取り付けられる被取付部が設けられたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の車両の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−14232(P2013−14232A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148522(P2011−148522)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】