説明

車両の前部車体構造

【課題】剛体のストライカを介して前突荷重をボンネットに伝達して後退させ、ボンネットを補強することなく、かつ該ボンネット前端の破損を抑制し、以て、歩行者保護要件を加味したうえで、ボンネット前端の前出しが可能となる車両の前部車体構造を提供する。
【解決手段】ボンネット3前部に設けたストライカ17と、ストライカ17に係脱可能なラッチ機構19と、ボンネット3を開閉可能に車体側に取付けるヒンジ機構22とが設けられ、ヒンジ機構22には、ボンネット3の後退を許容する後退許容手段26を備え、ストライカ17に前突時の荷重をボンネット3前端よりも先に伝達する衝突荷重伝達手段17cが設けられたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ボンネット前部に配設された剛体のストライカと、該ストライカに係脱可能な車体側のラッチ機構と、上記ボンネットを開閉可能に車体側部材に取付けるヒンジ機構とが設けられたような車両の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、歩行者の保護を目的として、ボンネットは比較的低剛性で形成されると共に、歩行者保護の関係上、バンパレインフォースメントは、バンパフェースとの間に衝撃緩衝部材を配するために、バンパフェースとラジエータとの間の車両前部内奥寄りに配置されるのが一般的である。
【0003】
一方、車両の軽衝突時には、車両の基本性能としてのボンネットの開閉機能を確保することが望まれる。つまり、車両が軽衝突した際においても、ボンネット前端が破損することなく、ボンネットが確実に開閉する機能を維持することが望まれる。
【0004】
このように、ボンネットを低剛性で形成し、歩行者保護を図る点と、軽衝突時にボンネット前端が破損しない点を満足させるためには、図18に斜視図で示すように、ボンネット100の前端をバンパレインフォースメントよりもリヤ側に設定し、該ボンネット100の前部から前方に意匠面が連続するようにフロントバンパ101を設けることが考えられる。
【0005】
しかしながら、図18に示すように構成すると、フロントバンパ101の上部後端とボンネット100の前端とのパーティングラインPLが、車体前部の意匠面の水平部分(または緩やかに前下に傾斜した略水平部分)に位置することになる。
【0006】
上記パーティングラインPL周辺の意匠面が水平に近付くと、ボンネット100の車体に対する組付け誤差が極度に目立ち、仮に、組付け誤差が大きく、フロントバンパ101の上部後端に対してボンネット100の前端が若干上方位置にずれた場合には、あたかもボンネット100が開いたように見え、違和感が発生する。
【0007】
一方で、車両デザインの関係上、ボンネット前端を可及的前側に設定したいというニーズがあるが、歩行者保護を図りつつ、軽衝突時にボンネット前端が破損しないという要請を両立させるうえで、所謂ボンネット前端の前出しは困難であった。
【0008】
ところで、特許文献1には、ボンネットの後退を許容するラッチ&ストライカ構造が開示されている。
すなわち、ボンネット側のレインフォースメントにラッチ機構を取付け、ラジエータサポートメンバ側には側面視コ字状のストライカを取付けて、該ストライカの上部をその下部に対して長く形成し、ラッチ機構のラッチ爪がストライカの上部に沿って容易に後方へ移動できるように構成し、ボンネット前部における変形可能領域が大きくなるように成したものである。
【0009】
しかしながら、該特許文献1には、後ろ向きの衝突荷重(前突荷重)を、ボンネット前端を介することなくストライカに伝達し、ボンネット前端を破損させることなく該ボンネットを後退させるという構成については、全く開示されておらず、その技術思想もないものであって、車両の軽衝突時にボンネット前端が破損するという問題点があった。
【0010】
また、特許文献2には、ボンネットの後退を許容する前後方向に長いストライカが開示されている。
すなわち、ボンネットの下面に一体的にボンネットレインフォースメントを設け、このボンネットレインフォースメントに対して車両の前後方向に長い側面視凹状のストライカを固定する一方、ボディ側においてラジエータコアサポートの前部にはラッチ機構をボルトアップにて固定し、該ラッチ機構のラッチ爪でストライカを係脱可能に構成したものが開示されている(同公報、第6図参照)。
【0011】
この特許文献2に開示された従来構造においては、歩行者に対する緩衝効果の向上を図ることができるが、この特許文献2においても、後ろ向きの衝突荷重(前突荷重)を、ボンネット前端を介することなくストライカに伝達し、ボンネット前端を破損させることなく該ボンネットを後退させるという構成については、全く開示されておらず、その技術思想もないものであって、車両の軽衝突時にボンネット前端が破損するという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−72594号公報
【特許文献2】実開昭60−131448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者等は、歩行者保護の観点でボンネット前端やボンネット上面を低剛性にするニーズが高まっていることに着目し、ボンネットの前端等を補強するのではなく、ボンネット後退荷重の伝達経路を見直し、歩行者保護に影響のないストライカを伝達経路として活用することを見出した。
【0014】
そこで、この発明は、ストライカに前突時の荷重をボンネット前端よりも先に伝達する衝突荷重伝達手段を設けることで、剛体のストライカを介して前突荷重をボンネットに伝達して後退させ、ボンネットを硬くすることなく、かつ該ボンネット前端の破損を抑制し、以て、歩行者保護要件を加味したうえで、ボンネット前端の前出しが可能となる車両の前部車体構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明による車両の前部車体構造は、ボンネット前部に配設された剛体のストライカと、該ストライカに係脱可能な車体側のラッチ機構と、上記ボンネットを開閉可能に車体側部材に取付けるヒンジ機構とが設けられ、上記ストライカが上記ラッチ機構に前後移動可能に支持、または、ラッチ機構が車体側部材に前後移動可能な機構を介して支持され、上記ヒンジ機構には、ボンネットの後退を許容する後退許容手段を備えた車両の前部車体構造であって、上記ストライカに前突時の荷重をボンネット前端よりも先に伝達する衝突荷重伝達手段が設けられたものである。
【0016】
上述の衝突荷重伝達手段は、ストライカのレイアウトにより構成してもよく、またはストライカ以外の衝突荷重伝達手段や衝突荷重伝達部材により構成してもよい。
上記構成によれば、車両の前突時には、上記衝突荷重伝達手段が剛体のストライカに対してボンネット前端よりも先に衝突荷重(後ろ向きの衝突荷重)を伝達して、該ボンネットを後退させることができる。
これにより、ボンネットを補強することなく、かつ該ボンネット前端の破損を抑制することができ、以て、歩行者保護要件を加味したうえで、車両デザインに対応してボンネット前端の前出しが可能となる。
なお、ボンネット前端の前出し位置は、組付け誤差が目立たなくなることを考慮して、意匠面が前に傾く(前のめりとなる)か、下方に屈曲する位置に設定することが好ましい。
【0017】
この発明の一実施態様においては、上記衝突荷重伝達手段は、上記ストライカの前端が上記ボンネットの前端よりも前方に突出して配設されるものである。
上記構成によれば、上記ストライカのレイアウトにより衝突荷重伝達手段を構成したものであって、ストライカそれ自体で衝突荷重伝達手段を構成するので、追加部品を別途設けなくてもよい。
【0018】
この発明の一実施態様においては、上記衝突荷重伝達手段は、上記ボンネットより車体前方に配設される前側部材に対し上記ストライカへの荷重伝達部が設けられたものである。
上述のボンネットより車体前方に配設される前側部材としては、バンパフェースやフロントグリルに設定してもよい。
上記構成によれば、荷重伝達部で衝突荷重伝達手段を構成し、該荷重伝達部は前側部材に設けられるので、その荷重伝達面の幅の拡大を図ることができると共に、ストライカのレイアウトも容易となる。なお、上記前側部材は、その一部が上記ボンネットよりも車体前方に突出していれば良く、また突出部位が必ずしもストライカと同じ高さでなくともよい。
【0019】
この発明の一実施態様においては、上記ストライカの前端が、上記ボンネットより車体前方に配設される前側部材の上面後縁よりも下方で、かつ該上面後縁よりも前方に突出して配設されると共に、上記ヒンジ機構は、上記ボンネットを開放する時、該ボンネットを後方に移動しつつ上方に移動させる移動機構を有し、該移動機構で上記後退許容手段を構成したものである。
上記構成によれば、ヒンジ機構の移動機構(後退許容手段)はボンネット開時に該ボンネットを後方移動させるので、ストライカを前側部材の上面後縁よりも前方に突出配置することができ、ボンネット閉時にはストライカを前側部材の上面後縁にて隠して、見栄えを確保することができ、かつ、ストライカ前端の上記突出配設によりボンネット前端の前出しが可能となり、前突時には剛体のストライカに対してボンネット前端よりも先に衝突荷重を伝達して、該ボンネット前端を破損させることなく、その後退を図ることができる。
それでいて、上記移動機構は、ボンネットを開放する時、該ボンネットを後方に移動しつつ上方に移動させるので、ボンネットの開閉の際に、ストライカと前側部材とが干渉するのを阻止することができる。
【0020】
この発明の一実施態様においては、上記ヒンジ機構には、上記ストライカに少なくとも上記ボンネットの車両前後方向耐力以下の第1の後退荷重が入力された時、上記後退許容手段による該ボンネットの後退を許容し、上記第1の後退荷重よりも低い第2の後退荷重に対して該ボンネットの後退を規制する後退規制機構が設けられたものである。
上述の第1の後退荷重とは、軽突時の荷重やボンネット開操作時の操作荷重を意味し、上述の第1の後退荷重よりも低い第2の後退荷重とは、車両走行時の走行風による風圧などを意味する。
上記構成によれば、ストライカに第1の後退荷重が入力された時には、後退許容手段によるボンネットの後退を許容するので、軽衝突時におけるボンネットの破損を抑制することができる。
しかも、後退規制機構は、第2の後退荷重の入力時、ボンネットの後退を規制するので、通常の車両走行時においては、走行風の風圧や車両振動等によりボンネットがばたつくのを防止することができる。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、ストライカに前突時の荷重をボンネット前端よりも先に伝達する衝突荷重伝達手段を設けたので、剛体のストライカを介して前突荷重をボンネットに伝達して後退させ、ボンネットを硬くすることなく、かつ該ボンネット前端の破損を抑制し、以て、歩行者保護要件を加味したうえで、ボンネット前端の前出しが可能となる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の前部車体構造を備えた車両の斜視図
【図2】ボンネット開放時の概略斜視図
【図3】ボンネット閉時の車両を車幅方向中央で縦断して示す側面図
【図4】ストライカの拡大側面図
【図5】ボンネットの開放に際して一旦ボンネットを後退させた状態で示す側面図
【図6】ボンネット開放時の側面図
【図7】ヒンジ機構の他の実施例を示すボンネット閉時の側面図
【図8】ボンネット後退時の側面図
【図9】ボンネット開放時の側面図
【図10】車両の前部車体構造の他の実施例を示す車両前側中央部の部分斜視図
【図11】図10の車両を車幅方向中央で縦断して示す側面図
【図12】図11のA‐A線矢視断面図
【図13】車両の前部車体構造のさらに他の実施例を示す側面図
【図14】図13の車両のヒンジ機構を示す側面図
【図15】ヒンジ機構の他の実施例を示す側面図
【図16】図15のB‐B線矢視断面図
【図17】ヒンジ機構のさらに他の実施例を示す側面図
【図18】従来構造の車両を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0023】
剛体のストライカを介して前突荷重をボンネットに伝達し、該ボンネットを後退させ、ボンネットを硬くすることなく、かつ、該ボンネット前端の破損を抑制し、以て、歩行者保護要件を加味したうえで、ボンネット前端の前出しを可能にするという目的を、ボンネット前部に配設された剛体のストライカと、該ストライカに係脱可能な車体側のラッチ機構と、上記ボンネットを開閉可能に車体側部材に取付けるヒンジ機構とが設けられ、上記ストライカが上記ラッチ機構に前後移動可能に支持、または、ラッチ機構が車体側部材に前後移動可能な機構を介して支持され、上記ヒンジ機構には、ボンネットの後退を許容する後退許容手段を備えた車両の前部車体構造において、上記ストライカに、前突時の荷重をボンネット前端よりも先に伝達する衝突荷重伝達手段を設けるという構成にて実現した。
【実施例1】
【0024】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図面は車両の前部車体構造を示し、図1は前部車体構造を備えた車両の斜視図、図2はボンネット開放時の概略斜視図、図3はボンネット閉時の車両を車幅方向の中心で縦断面にして示す側面図である。
【0025】
図2,図3において、エンジン1またはパワートレインが搭載されたエンジンルーム2の上方を開閉可能に覆うボンネット3を設け、このボンネット3の下部にはボンネットレインフォースメント4を一体的に取付けている。ここで、上述のボンネット3は車両デザインの関係上、前側が低く、後側が高くなるように傾斜(前傾)して配設されている。
【0026】
一方、エンジンルーム2の前方部には、熱交換器としてのクーラコンデンサ5およびラジエータ6(エンジン冷却水の放熱器)を配設している。この実施例では、クーラコンデンサ5とラジエータ6とを共に立設配置し、これら両者5,6をシュラウドアッパ部7とシュラウドロア部8とを備えた樹脂製または金属製のシュラウドパネルで囲繞保持している。
また、上述のボンネット3よりも車体前方に配設される前側部材としての合成樹脂製のバンパフェース9(所謂、フロントバンパ)を設けている。
【0027】
このバンパフェース9の下部には、走行風をエンジンルーム2内に取入れる走行風導入口10を形成すると共に、該バンパフェース9の下部後端9aは、ボルト、ナットやクリップなどの取付け部材11を用いて、シュラウドロア部8に取付けられている。
なお、一般的には、上述のシュラウドロア部8とバンパフェース9の下部後端9aとの間には、アンダカバーが設けられるが、図示の便宜上、このアンダカバーの図示を省略している。
上述のエンジンルーム2の左右両サイドを車両の前後方向に延びる車体剛性部材としての左右一対のフロントサイドフレーム(図示せず)を設け、左右一対のフロントサイドフレームの前端部にはクラッシュカン(図示せず)をそれぞれ取付けている。
そして、左右の各クラッシュカンを車幅方向に連結するバンパレインフォースメント12を配設している。このバンパレインフォースメント12は、図3に示すように、車両後方側が開放した断面ハット形状のバンパビーム13と、該バンパビーム13の開放部を閉塞する平板状のクロージングプレート14とを備え、これら両者13,14間には車幅方向に延びる閉断面15が形成されている。
【0028】
図3に示すように、上述のバンパレインフォースメント12は歩行者保護の関係上、バンパフェース9とクーラコンデンサ5との間の車両前部内奥寄りに配置されている。
また、上述のバンパレインフォースメント12におけるバンパビーム13の前面部には、その車幅方向の略全幅にわたってEA部材16(EAはenergy absorberの略で衝撃緩衝部材のこと)を配置している。
さらに、図3に示すように、ボンネット3の前部と対応してボンネットレインフォースメント4の下部には、剛体のストライカ17を固定している。
図2に示すように、該ストライカ17はボンネットレインフォースメント4の車幅方向中央部に設けられている。
【0029】
図3に示すように、ラジエータ6上部に位置するシュラウドアッパ部7の前部には、ラッチ爪18を有するラッチ機構19(以下、単にラッチと略記する)を取付けている。
このラッチ19は、前後方向に延びるストライカ17(後述する下片部17b参照)をラッチ爪18で横方向から係合する通常のもので、車体側に設けた該ラッチ19は、上記ストライカ17を係脱可能に係合すると共に、該ストライカ17はラッチ19に前後移動可能に支持されている。
【0030】
図4はストライカ17の拡大側面図であって、該ストライカ17は、上下方向に延びる前側立片部17aと、この前側立片部17aの下端から車両の前後方向に延びる上片部17bと、この上片部17bの前端から上下方向に延びる前片部17cと、この前片部17cの下端から車両の前後方向に延びる下片部17dと、この下片部17dの後端から上下方向に延びる後側立片部17eとを、この順にループ状に一体形成すると共に、前後の各立片部17a,17eを平板状のベース部17fに一体化したものである。
このストライカ17に、前突時の荷重をボンネット3の前端よりも先に伝達する衝突荷重伝達手段を設けるが、この実施例では、図3に示すように、ストライカ17の前端つまり前片部17cを、ボンネット3の前端よりも車両前方に突出して配設することにより、該前片部17c(ストライカ17の前端)にて衝突荷重伝達手段を構成している。
【0031】
また、この実施例では、図3に示すように、ストライカ17の前端つまり前片部17cが、前側部材としてのバンパフェース9の上面後縁9bよりも下方で、かつ該上面後縁9bよりも前方に突出して配設されている。
さらに、この実施例では、図3に示すように、ストライカ17の前片部17cと前後方向で対向する前側部材としてのバンパフェース9に対して、ストライカ17への荷重伝達部20が設けられている。
この荷重伝達部20は衝突荷重伝達手段を構成するものであって、該荷重伝達部20はストライカ17の前片部17cの上下方向の長さよりも、上下に長く形成されると共に、ストライカ17の前片部17cの車幅方向の長さよりも、車幅方向に長く、望ましくは、走行風導入口10の車幅方向の長さと略同等の長さを有するように形成されている。
また、この荷重伝達部20は、バンパフェース9と一体に形成してもよく、あるいは、バンパフェース9と別体の荷重伝達部を設け、この別体の荷重伝達部を、ボルト、ファスナ、クリップなどの取付け部材を用いて、バンパフェース9に取付けてもよく、また、本体と脚部とを備えた荷重伝達部を設けて、この別体の荷重伝達部の本体をバンパフェース9とストライカ17との間に配設すると共に、別体の荷重伝達部の脚部をバンパレインフォースメント12やEA部材16に取付ける構成を採用してもよい。
ところで、上述のボンネット3を開閉可能に車体側部材としてのカウルサイドメンバ21に取付けるヒンジ機構22を設けている。
【0032】
図2に示すように、上記ヒンジ機構22はボンネット3の車両後方部つまり開閉基端部に左右一対設けられるが、左右の各ヒンジ機構22は左右対称構造に形成されているので、以下の説明においては一方のヒンジ機構22について説明する。
上述のヒンジ機構22は、カウルサイドメンバ21に固定された車体側ヒンジブラケット23と、ボンネットレインフォースメント4に固定されたボンネット側ヒンジブラケット24と、該ボンネット側ヒンジブラケット24に一体的に突出形成されたヒンジピン25とを備えている。
上述のヒンジ機構22は、上記ボンネット3を開放する時、該ボンネット3を後方に移動しつつ上方に移動させる移動機構を有している。この実施例1では、車体側ヒンジブラケット23に車両前後方向に延びる長孔26を開口形成し、この長孔26に上述のヒンジピン25を挿入して、上記移動機構を構成している。
そして、この移動機構(長孔26とヒンジピン25)により、ボンネット3の後退を許容する後退許容手段を構成したものである。
さらに、上述のボンネット側ヒンジブラケット24の取付け部位よりも前方のボンネットレインフォースメント4と、長孔26の形成部位よりも前方の車体側ヒンジブラケット24との間には、ステーダンパ27を張架している。
【0033】
このステーダンパ27は筒部28とロッド29とを備えている。このステーダンパ27は通常の車両走行時において走行風の風圧や車両振動等によりボンネット3がばたつくのを防止する後退規制機構である。
すなわち、上記ヒンジ機構22には、上記ストライカ17に少なくとも上記ボンネット3の車両前後方向耐力以下の第1の後退荷重(軽突時の荷重やボンネット開操作時の操作荷重)が入力された時、上記後退許容手段(長孔26とヒンジピン25参照)による該ボンネット3の後退を許容し、上記第1の後退荷重よりも低い第2の後退荷重(車両走行時の走行風による風圧や車両振動参照)に対して該ボンネット3の後退を規制する後退規制機構(ステーダンパ27参照)が設けられたものである。
なお、図中、矢印Fは車両の前方を示し、矢印Rは車両の後方を示し、矢印UUPは車両の上方を示す。
【0034】
図示実施例は上記の如く構成するものにして、以下作用を説明する。
図3に示すボンネット3の閉時においては、後退規制機構としてのステーダンパ27により該ボンネット3が前方に付勢されているので、通常の車両走行時に第1の後退荷重(軽衝突時の荷重)よりも低い第2の後退荷重(走行風による風圧や車両振動など)がストライカ17およびボンネット3に作用しても、このステーダンパ27によりボンネット3の後退を規制すると共に、該ボンネット3のばたつきを防止することができる。
【0035】
一方、車両の停止時においてボンネット3を開放する場合、ラッチ19によるストライカ17の係合を解除した後に、図3に示す状態から図5に示すように、ステーダンパ27の付勢力に抗して、一旦、ボンネット3を後方に移動させ、ヒンジ機構22のヒンジピン25をボディ側ヒンジブラケット23の長孔26内の後部に位置させ、その後、該ヒンジピン25を支点として図6に示すようにボンネット3前部を上方に移動させると、該ボンネット3を、バンパフェース9の上面後縁9bと干渉することなく開放することができる。
【0036】
次に、軽衝突時の作用について説明する。
図3に示すように、ストライカ17それ自体のレイアウトにより衝突荷重伝達手段(前片部17c参照)を設けており、この衝突荷重伝達手段(前片部17c)はストライカ17に前突時の荷重をボンネット3前端よりも先に伝達するように構成している。つまり、ストライカ17の前片部17cを先当てするように構成している。
【0037】
車両の軽衝突時には、前側部材としてのバンパフェース9および荷重伝達部20を介して、後ろ向きの衝突荷重が入力されるが、この荷重はボンネット3の前端を介することなく剛体のストライカ17に伝達される。
【0038】
ラッチ19に前後移動可能に支持された上記ストライカ17にボンネット3の車両前後方向耐力以下の第1の後退荷重(軽衝突時の荷重)が伝達されると、ボンネット3、ボンネットレインフォースメント4を介してヒンジ機構22に荷重が伝達され、長孔26とヒンジピン25とによる後退許容手段がボンネット3の後退を許容するので、ヒンジピン25が長孔26内の後部に移動する範囲においてボンネット3は後方に移動する。
この結果、車両後ろ向きの衝突荷重が入力される軽衝突時において、ボンネット3の前端が破損するのを抑制することができる。
【0039】
このように、図1〜図6で示した実施例1の車両の前部車体構造は、ボンネット3前部に配設された剛体のストライカ17と、該ストライカ17に係脱可能な車体側のラッチ19と、上記ボンネット3を開閉可能に車体側部材(カウルサイドメンバ21参照)に取付けるヒンジ機構22とが設けられ、上記ストライカ17が上記ラッチ19に前後移動可能に支持され、上記ヒンジ機構22には、ボンネット3の後退を許容する後退許容手段(長孔26、ヒンジピン25参照)を備えた車両の前部車体構造であって、上記ストライカ17に前突時の荷重をボンネット3前端よりも先に伝達する衝突荷重伝達手段(前片部17c、荷重伝達部20参照)が設けられたものである(図3参照)。
【0040】
この構成によれば、車両の前突時には、上記衝突荷重伝達手段(前片部17c、荷重伝達部20参照)が剛体のストライカ17に対してボンネット3前端よりも先に衝突荷重(後ろ向きの衝突荷重)を伝達して、該ボンネット3を後退させることができる。
これにより、ボンネット3を補強することなく、かつ該ボンネット3前端の破損を抑制することができ、以て、歩行者保護要件(ボンネットの低剛性化など)を加味したうえで、車両デザインに対応してボンネット3前端の前出しが可能となる。
なお、ボンネット3前端の前出し位置は、組付け誤差が目立たなくなることを考慮して、意匠面が前に傾く(前のめりとなる)か、あるいは下方に屈曲する位置に設定することが好ましい。
また、上記衝突荷重伝達手段(前片部17c参照)は、上記ストライカ17の前端が上記ボンネット3の前端よりも前方に突出して配設されるものである(図3参照)。
【0041】
この構成によれば、上記ストライカ17のレイアウトにより衝突荷重伝達手段(前片部17c参照)を構成したものであって、ストライカ17それ自体で衝突荷重伝達手段を構成するので、追加部品を別途設けなくてもよい。
さらに、上記衝突荷重伝達手段(荷重伝達部20参照)は、上記ボンネット3より車体前方に配設される前側部材(バンパフェース9参照)に対し上記ストライカ17への荷重伝達部20が設けられたものである(図3参照)。
【0042】
この構成によれば、荷重伝達部20で衝突荷重伝達手段を構成し、該荷重伝達部20は前側部材(バンパフェース9参照)に設けられるので、荷重伝達部20の荷重伝達面(図3のリヤ側の面参照)の幅の拡大を図ることができると共に、ストライカ17のレイアウトも容易となる。
【0043】
ここで、上述の荷重伝達部20は、前側部材としてのバンパフェース9と一体に形成してもよく、あるいは、バンパフェース9とは別部材から成る荷重伝達部を設けて、この別体の荷重伝達部を、ボルト、ファスナ、クリップなどの取付け部材を用いて、バンパフェース9に取付けてもよく、さらには、本体と脚部とを備えた荷重伝達部を設けて、この別体の荷重伝達部の本体をバンパフェース9とストライカ17との間に配設すると共に、別体の荷重伝達部の脚部をバンパレインフォースメント12やEA部材16に取付ける構成を採用してもよい。
加えて、上記ストライカ17の前端(前片部17c参照)が、上記ボンネット3より車体前方に配設される前側部材(バンパフェース9参照)の上面後縁9bよりも下方で、かつ該上面後縁9bよりも前方に突出して配設されると共に、上記ヒンジ機構22は、上記ボンネット3を開放する時、該ボンネット3を後方に移動しつつ上方に移動させる移動機構(長孔26、ヒンジピン25参照)を有し、該移動機構(長孔26、ヒンジピン25)で上記後退許容手段を構成したものである(図3参照)。
【0044】
この構成によれば、ヒンジ機構22の移動機構(長孔26、ヒンジピン25参照)はボンネット3開時に該ボンネット3を後方移動させるので、ストライカ17を前側部材(バンパフェース9)の上面後縁9bよりも前方に突出配置することができ、ボンネット3閉時にはストライカ17を前側部材(バンパフェース9)の上面後縁9bにて隠して、見栄えを確保することができ、かつ、ストライカ17前端の上記突出配設によりボンネット3前端の前出しが可能となり、前突時には剛体のストライカ17に対してボンネット3前端よりも先に衝突荷重を伝達して、該ボンネット3前端を破損させることなく、その後退を図ることができる。
それでいて、上記移動機構(長孔26、ヒンジピン25参照)は、ボンネット3を開放する時、該ボンネット3を後方に移動しつつ上方に移動させるので、ボンネット3の開閉の際に、ストライカ17と前側部材(バンパフェース9参照)とが干渉するのを阻止することができる。
さらに、上記ヒンジ機構22には、上記ストライカ17に少なくとも上記ボンネット3の車両前後方向耐力以下の第1の後退荷重(軽突時の荷重やボンネット開操作時の操作荷重)が入力された時、上記後退許容手段(長孔26、ヒンジピン25参照)による該ボンネット3の後退を許容し、上記第1の後退荷重よりも低い第2の後退荷重(車両走行時の走行風による風圧や車両振動参照)に対して該ボンネット3の後退を規制する後退規制機構(ステーダンパ27参照)が設けられたものである(図3参照)。
【0045】
この構成によれば、ストライカ17に第1の後退荷重が入力された時には、後退許容手段(長孔26、ヒンジピン25参照)によるボンネット3の後退を許容するので、軽衝突時におけるボンネット3の破損を抑制することができる。
しかも、後退規制機構(ステーダンパ27参照)は、第2の後退荷重の入力時、ボンネット3の後退を規制するので、通常の車両走行時においては、走行風の風圧や車両振動等によりボンネット3がばたつくのを防止することができる。
【実施例2】
【0046】
図7,図8,図9はヒンジ機構の他の実施例を示し、図7はボンネット閉時の側面図、図8はボンネット後退時の側面図、図9はボンネット開放時の側面図である。なお、この実施例2においてもボンネット3前側周辺のストライカ17、ラッチ19および衝突荷重伝達手段については先の実施例1と同様であるから、これら各要素の図示は省略している。
【0047】
この実施例においては、車体側部材としてのカウルサイドメンバ21に車体側ヒンジブラケット23を固定すると共に、ボンネット3下部のボンネットレインフォースメント4には、ボンネット側ヒンジブラケット30を固定している。
また、上述の車体側ヒンジブラケット23の後部から上方に立上がる立片部23aには、ヒンジピン31を介してアーム32を取付けている。
そして、該アーム32と上述のボンネット側ヒンジブラケット30との間に、平行リンク機構33を設けることで、ボンネット3を開閉可能に車体側部材(カウルサイドメンバ21参照)に取付けるヒンジ機構34を構成している。
上述の平行リンク機構33は、リンクピン35,36を介してボンネット側ヒンジブラケット30とアーム32との間に張架した前側のリンク37と、リンクピン38,39を介してボンネット側ヒンジブラケット30とアーム32との間に張架した後側のリンク40とを備え、前側のリンク37と後側のリンク40とを平行に配置したものである。
さらに、この実施例においては、ヒンジ機構34の前方において、ボンネットレインフォースメント4下部に、ステーダンパ取付け用のブラケット41を固定し、カウルサイドメンバ21上部に、ステーダンパ取付け用のブラケット42を固定して、これら上下の両ブラケット41,42間にステーダンパ27を張架している。
また、上述のアーム32には、平行リンク機構33の各リンク37,40が図7に示す前傾姿勢から図8に示す後傾姿勢となった時、これら各リンク37,40のリンクピン36,39を支点とする後方へのさらなる回動を阻止するストッパ43を設けている。ここで、ストッパ43をアーム32に設ける構造に代えて、ストッパをリンク40に設ける構造を採用してもよい。
【0048】
図7に示すように、ボンネット3が閉成された状態下においては、平行リンク機構33の各リンク37,40は前方に傾斜(前傾)しており、これらリンク37,40にボンネット3の重量が付加されるように構成している。
つまり、この実施例2においては、第1の後退荷重(軽衝突時の荷重)よりも低い第2の後退荷重(車両走行時の走行風による風圧や車両振動参照)に対してボンネット3の後退を規制する後退規制機構は、ボンネット3閉時に前傾姿勢となるリンク37,40にて構成したものである。
また、この実施例2においても、ヒンジ機構34はボンネット3の後退を許容する後退許容手段としての平行リンク機構33を備えている。
さらに、上記ヒンジ機構34は、ボンネット3を開放する時、該ボンネット3を後方に移動しつつ上方に移動させる移動機構(平行リンク機構33参照)を有し、この移動機構(平行リンク機構33)で上述の後退許容手段を構成したものである。
加えて、上述のヒンジ機構34には、上記ストライカ17に少なくともボンネット3の車両前後方向耐力以下の第1の後退荷重(軽突時の荷重やボンネット開操作時の操作荷重)が入力された時、上記後退許容手段(平行リンク機構33)によるボンネット3の後退を許容し、上記第1の後退荷重よりも低い第2の後退荷重(車両走行時の走行風による風圧や車両振動)に対して該ボンネット3の後退を規制する後退規制機構(リンク37,40の前傾姿勢によりボンネット重量を付加する機構)が設けられたものである。
なお、この実施例2においては、リンク37,40の前傾姿勢(前高後低状に傾斜する姿勢)によりボンネット3の重量を付加する機構(後退規制機構)に加えて、ステーダンパ27による後退規制機構を併用している。
【0049】
このように構成した実施例2の作用を、以下に説明する。
図7に示すボンネット3の閉時においては、リンク37,40の前傾姿勢により該リンク37,40にボンネット3の重量(つまり、ボンネット荷重)が付加されているので、通常の車両走行時に第1の後退荷重よりも低い第2の後退荷重(走行風による風圧や車両振動など)がストライカ17およびボンネット3に作用しても、該ボンネット3のばたつきを防止することができる。
加えて、この実施例2においては、上述のステーダンパ27を併用し、このステーダンパ27によりボンネット3が前方に付勢されているので、走行風による風圧や車両振動などに起因する該ボンネット3のばたつきを、より一層確実に防止することができる。
【0050】
一方、車両の停止時においてボンネット3を乗員が開放する場合、ラッチ19によるストライカ17の係合を解除した後に、図7に示す状態から図8に示すように、ステーダンパ27の付勢力とボンネット重量とに抗して該ボンネット3を後方に移動させると、平行リンク機構33の一対のリンク37,40はリンクピン36,39を支点として後方に回動し、図7の前傾姿勢(前高後低状の傾斜姿勢)から図8の後傾姿勢(前低後高状の傾斜姿勢)に変位する。
上述のリンク37,40の遊端は、リンクピン36,35間のリンク長、リンクピン39,38間のリンク長に対応して略後方に移動し、これら各リンクピン35,38の移動軌跡に対応してボンネット3が略後方に移動するので、ストライカ17がバンパフェース9の上面後縁9bと干渉することはない。
【0051】
図8に示すように、一対のリンク37,40が後傾姿勢に変位すると、後側のリンク40がストッパ43に当接し、これら各リンク37,40のリンクピン36,39を支点とする後方へのさらなる回動が阻止されるので、ボンネット開放操作力をさらに加えると、ボンネット3は図9に示すように、ヒンジピン31を支点として開放する。
【0052】
図9に示す開放状態のボンネット3を閉める場合、ボンネット3の前部にボンネット閉鎖操作力を加えると、該ボンネット3は図9の状態から図8に示す状態に変位するが、該ボンネット3には図9に点線矢印で示すように前方移動する運動エネルギ(慣性力)が作用しているので、この運動エネルギにより、図8の状態から図7に示すように前方移動して、ボンネット3が閉成される。
つまり、通常のボンネット閉時において、単にボンネット3が下動するのみならず、慣性力の利用により該ボンネット3の前方移動をワンアクションにて行なうことができる。
【0053】
次に、軽衝突時の作用について説明する。
なお、この実施例2においてもボンネット3前側周辺のストライカ17、ラッチ19および衝突荷重伝達手段については先の実施例1と同様である。
【0054】
車両の軽衝突時には、バンパフェース9および荷重伝達部20を介して、後ろ向きの衝突荷重が入力されるが、この荷重はボンネット3の前端を介することなく剛体のストライカ17(図3参照)に伝達される。
【0055】
ラッチ19に前後移動可能に支持された上記ストライカ17にボンネット3の車両前後方向耐力以下の第1の後退荷重(軽衝突時の荷重)が伝達されると、ボンネット3、ボンネットレインフォースメント4を介してヒンジ機構34に荷重が伝達され、後退許容手段を構成する平行リンク機構33が図7の状態から図8の状態に変位してボンネット3の後退を許容するので、該ボンネット3は後方に移動する。
これにより、車両後ろ向きの衝突荷重が入力される軽衝突時において、ボンネット3の前端が破損するのを抑制することができる。
【0056】
このように、図7〜図9で示した実施例2の車両の前部車体構造は、ボンネット3前部に配設された剛体のストライカ17と、該ストライカ17に係脱可能な車体側のラッチ19と、上記ボンネット3を開閉可能に車体側部材(カウルサイドメンバ21参照)に取付けるヒンジ機構34とが設けられ、上記ストライカ17が上記ラッチ19に前後移動可能に支持され、上記ヒンジ機構34には、ボンネット3の後退を許容する後退許容手段(平行リンク機構33参照)を備えた車両の前部車体構造であって、上記ストライカ17に前突時の荷重をボンネット3前端よりも先に伝達する衝突荷重伝達手段(前片部17c、荷重伝達部20参照)が設けられたものである(図3,図7,図8参照)。
【0057】
この構成によれば、車両の前突時には、上記衝突荷重伝達手段(前片部17c、荷重伝達部20参照)が剛体のストライカ17に対してボンネット3前端よりも先に衝突荷重(後ろ向きの衝突荷重)を伝達して、該ボンネット3を後退させることができる。
これにより、ボンネット3を補強することなく、かつ該ボンネット3前端の破損を抑制することができ、以て、歩行者保護要件(ボンネットの低剛性化など)を加味したうえで、車両デザインに対応してボンネット前端の前出しが可能となる。
また、上記ストライカ17(図3参照)の前端(前片部17c参照)が、上記ボンネット3より車体前方に配設される前側部材(バンパフェース9)の上面後縁9bよりも下方で、かつ該上面後縁9bよりも前方に突出して配設されると共に、上記ヒンジ機構34は、上記ボンネット3を開放する時、該ボンネット3を後方に移動しつつ、上方に移動させる移動機構(平行リンク機構33参照)を有し、該移動機構(平行リンク機構33)で上記後退許容手段を構成したものである(図3,図7,図8参照)。
【0058】
この構成によれば、ヒンジ機構34の移動機構(平行リンク機構33)はボンネット開時に該ボンネット3を後方移動させるので、ストライカ17を前側部材(バンパフェース9)の上面後縁9bよりも前方に突出配置することができ、ボンネット閉時にはストライカ17を前側部材(バンパフェース9)の上面後縁9bにて隠して、見栄えを確保することができ、かつ、ストライカ前端(前片部17c参照)の上記突出配設によりボンネット前端の前出しが可能となり、前突時には剛体のストライカ17に対してボンネット前端よりも先に衝突荷重を伝達して、該ボンネット前端を破損させることなく、その後退を図ることができる。
それでいて、上記移動機構(平行リンク機構33)は、ボンネット3を開放する時、該ボンネット3を後方に移動しつつ上方に移動させるので、ボンネット3の開閉の際に、ストライカ17と前側部材(バンパフェース9)とが干渉するのを阻止することができる。
さらに、上記ヒンジ機構34には、上記ストライカ17(図3参照)に少なくとも上記ボンネット3の車両前後方向耐力以下の第1の後退荷重(軽突時の荷重やボンネット開操作時の操作荷重)が入力された時、上記後退許容手段(平行リンク機構33参照)による該ボンネット3の後退を許容し、上記第1の後退荷重よりも低い第2の後退荷重(走行風による風圧や車両振動など)に対して該ボンネット3の後退を規制する後退規制機構(前傾姿勢のリンク37,40およびステーダンパ27参照)が設けられたものである(図3,図7参照)。
【0059】
この構成によれば、ストライカ17に第1の後退荷重が入力された時には、後退許容手段(平行リンク機構33)によるボンネット3の後退を許容するので、軽衝突時におけるボンネット3の破損を抑制することができる。
しかも、後退規制機構(前傾姿勢のリンク37,40およびステーダンパ27)は、第2の後退荷重の入力時、ボンネット3の後退を規制するので、通常の車両走行時においては、走行風の風圧や車両振動等によりボンネット3がばたつくのを防止することができる。
【0060】
図7〜図9で示した実施例2においても、その他の構成、作用、効果については、先の実施例1と同様であるから、図7〜図9において前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【実施例3】
【0061】
図10,図11,図12は車両の前部車体構造の他の実施例を示し、図10は車両前側中央部の部分斜視図、図11は図10の車両を車幅方向中央で縦方向に断面して示す側面図、図12は図11のA‐A線矢視断面図である。
この実施例3においては、ボンネット3の前端部中央に装飾部材44を設け、この装飾部材44がボンネット3と一体的に開閉するように構成している。
【0062】
図10に太線で示すように、パーティングラインPLは、左右のヘッドランプ45上端と、装飾部材44の下端とを結ぶように形成されており、パーティングラインPLにおける装飾部材44の直下部には、フロントグリル46が設けられている。
図11に示すように、ボンネット3の前側下部と後側下部とには、ボンネットレインフォースメント4A,4Bが一体的に設けられており、前側のボンネットレインフォースメント4Aの下部には剛体のストライカ17が取付けられている。
このストライカ17も先の各実施例1,2と同様に、その前後方向に延びる部分がラッチ19のラッチ爪18で横方向から係合されるようになっており、該ストライカ17がラッチ19に前後移動可能に支持されている。
【0063】
この実施例3においても、ストライカレイアウトにより衝突荷重伝達手段を構成するので、ストライカ17の前端(前片部17c参照)が上述のボンネット3の前端よりも前方に突出して配設されている。
図10,図11に示すように、上述のストライカ17の前部乃至前端部は、装飾部材44により車外側から目視不可となるように覆われている。
【0064】
ところで、上述のボンネット3を開閉可能にカウルサイドメンバ21に取付けるヒンジ機構22は、カウルサイドメンバ21に固定された車体側ヒンジブラケット23と、ボンネットレインフォースメント4Bに固定されたボンネット側ヒンジブラケット24と、該ボンネット側ヒンジブラケット24に一体的に突出形成されたヒンジピン25とを備えている。
上述の車体側ヒンジブラケット23には、車両の前後方向に延びる長孔26を開口形成し、この長孔26内の前側に上述のヒンジピン25を挿入している。
上記長孔26内のヒンジピン25以外の部分には、図11,図12に示すように合成樹脂板などから成る脆弱な規制部材47を取付けている。
この規制部材47は、通常時におけるヒンジピン25の位置を保持する一方、ストライカ17にボンネット3の車両前後方向耐力以下の第1の後退荷重(軽衝突時の荷重)が入力された時、クラッシュして、または、長孔26内から外れてボンネット3の後退を許容し、上記第1の後退荷重よりも低い第2の後退荷重(走行風による風圧や車両振動など)に対して該ボンネットの後退を規制する後退規制機構である。
つまり、この実施例3においては、長孔26とヒンジピン25との両者によりボンネット3の後退を許容する後退許容手段を構成すると共に、ボンネット3それ自体の重量と規制部材47とにより上述の後退規制機構を構成したものである。
【0065】
図12に示すように、ヒンジピン25の長孔26から突出した部分には、EリングやCリングなどの板止めリング48を嵌着し、各ヒンジブラケット23,24間におけるヒンジピン25外周にはスペーサ49を装着して、ボンネット側ヒンジブラケット24の不所望の車幅方向への移動を防止するように構成している。
なお、図11に示すように、フロントグリル46とクーラコンデンサ5との間において車幅方向に延びるバンパレインフォースメント12は、車両前方側が開放した断面ハット形状のバンパビーム13と、該バンパビーム13の開放部を閉塞する平板状のクロージングプレート14とで構成している。
【0066】
このように構成した実施例3の作用について、以下に説明する。
図11に示すボンネット3の閉時においては、後退規制機構としての規制部材47でヒンジピン25の位置が定位置に保持されると共に、ボンネット重量が下方に付勢されているので、通常の車両走行時に第1の後退荷重(軽衝突時の荷重)よりも低い第2の後退荷重(走行風による風圧や車両振動など)がストライカ17およびボンネット3に作用しても、ボンネット重量および規制部材47によりボンネット3の後退を規制すると共に、該ボンネット3のばたつきを防止することができる。
【0067】
一方、車両の停止時においてボンネット3を開放する場合、ラッチ19によるストライカ17の係合を解除した後に、ボンネット3前端部を上方に持上げると、該ボンネット3のヒンジピン25は規制部材47により定位置に保持されているので、該ボンネット3は装飾部材44と一体にヒンジピン25を支点として開放する。
【0068】
次に、軽衝突時の作用について説明する。
図11に示すように、ストライカ17それ自体のレイアウトにより衝突荷重伝達手段(前片部17c参照)を形成しており、この衝突荷重伝達手段(前片部17c)はストライカ17に前突時の荷重をボンネット3前端よりも先に伝達するように構成している。
【0069】
車両の軽衝突時には、フロントグリル46がクラッシュした後に装飾部材44に対して後ろ向きの衝撃荷重が入力されるが、この荷重はボンネット3の前端を介することなく剛体のストライカ17に伝達される。
【0070】
ラッチ19に前後移動可能に支持された上記ストライカ17にボンネット3の車両前後方向耐力以下の第1の後退荷重(軽衝突時の荷重)が伝達されると、ボンネットレインフォースメント4A、ボンネット3、ボンネットレインフォースメント4Bを介してヒンジ機構22に荷重が伝達され、ヒンジピン25には後ろ向きの荷重が伝達される。これにより規制部材47はクラッシュして破壊又は変形するか、または長孔26から外れるので、長孔26とヒンジピン25とによる後退許容手段がボンネット3の後退を許容し、ヒンジピン25が長孔26内の後部に後退移動する範囲においてボンネット3は後方に移動する。
この結果、車両後ろ向きの衝突荷重が入力される軽衝突時において、ボンネット3の前端が破損するのを抑制することができる。
【0071】
このように、図10〜図12で示した実施例3の車両の前部車体構造は、ボンネット3前部に配設された剛体のストライカ17と、該ストライカ17に係脱可能な車体側のラッチ19と、上記ボンネット3を開閉可能に車体側部材(カウルサイドメンバ21参照)に取付けるヒンジ機構22とが設けられ、上記ストライカ17が上記ラッチ19に前後移動可能に支持され、上記ヒンジ機構22には、ボンネット3の後退を許容する後退許容手段(長孔26、ヒンジピン25参照)を備えた車両の前部車体構造であって、上記ストライカ17に前突時の荷重をボンネット3前端よりも先に伝達する衝突荷重伝達手段(前片部17c参照)が設けられたものである(図11参照)。
【0072】
この構成によれば、車両の前突時には、上記衝突荷重伝達手段(ストライカ17の前片部17c参照)が剛体のストライカ17に対してボンネット3前端よりも先に衝突荷重(後ろ向きの衝突荷重)を伝達して、該ボンネット3を後退させることができる。
これにより、ボンネット3を補強することなく、かつ該ボンネット前端の破損を抑制することができ、以て、歩行者保護要件(ボンネットの低剛性化など)を加味したうえで、車両デザインに対応してボンネット3前端の前出しが可能となる。
また、上記ヒンジ機構22には、上記ストライカ17に少なくとも上記ボンネット3の車両前後方向耐力以下の第1の後退荷重(軽衝突時の荷重)が入力された時、上記後退許容手段(長孔26、ヒンジピン25参照)による該ボンネット3の後退を許容し、上記第1の後退荷重よりも低い第2の後退荷重(走行風による風圧や車両振動など)に対して該ボンネット3の後退を規制する後退規制機構(規制部材47参照)が設けられたものである(図11参照)。
【0073】
この構成によれば、ストライカ17に第1の後退荷重が入力された時には、後退許容手段(長孔26、ヒンジピン25参照)によるボンネット3の後退を許容するので、軽衝突時におけるボンネット3の破損を抑制することができる。
しかも、後退規制機構(規制部材47参照)は、第2の後退荷重の入力時、ヒンジピン25の位置をキープして、ボンネット3の後退を規制するので、通常の車両走行時においては、走行風の風圧や車両振動等によりボンネット3がばたつくのを防止することができる。
【0074】
図10〜図12で示した実施例3においても、その他の構成、作用、効果については、先の実施例とほぼ同様であるから、図10〜図12において前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【実施例4】
【0075】
図13,図14は車両の前部車体構造のさらに他の実施例を示し、図13は車両の車幅方向中央で縦方向に断面して示す側面図、図14はヒンジ機構を示す側面図である。
【0076】
図13に示すように、ボンネット3の下部に一体的に取付けたボンネットレインフォースメント4の下面には、剛体のストライカ17を固定している。この実施例4では、側面視U字形状のストライカ17を用いている。
また、ラジエータ6の上部に位置するシュラウドアッパ部7には、その上面がシュラウドアッパ部7の上面と面一または上方に位置し、かつシュラウドアッパ部7から車両前方に突出するように車体側部材としてのブラケット50(いわゆる台座)を取付けている。
そして、このブラケット50の上面部には、ラッチ19を前後方向に移動可能に取付けている。
すなわち、ラッチ19には該ラッチ19から前方に延びる突出部19aを一体または一体的に形成し、この突出部19aに車両の前後方向に延びる長孔19bを開口形成すると共に、ブラケット50の上面部の下面に溶接固定したナット51に対して、長孔19bに挿通させたボルト52の下部を締結したものであって、ラッチ19が車体側部材としてのブラケット50に前後移動可能な機構53(長孔19b、ボルト52、ナット51からなる機構で、以下単に、前後移動機構53と略記する)を介して支持されたものである。
しかも、バンパフェース9の上部背面には、ストライカ17に前突時の荷重をボンネット3の前端よりも先に伝達する衝突荷重伝達手段としての荷重伝達部54を一体形成している。つまり、ボンネット3よりも車体前方に配設される前側部材としてのバンパフェース9に対して上記ストライカ17への荷重伝達部54が設けられたものである。
この荷重伝達部54は、バンパフェース9の上部背面からリヤ側に向けて延びる複数のリブ54a…をハニカム構造(蜂の巣構造)に組合わせたもので、該荷重伝達部54は、図示はしないが車幅方向に所定幅(望ましくは、図1で示した走行風導入口10と略同等の車幅方向の長さ)を有するように形成されている。
上述の複数のリブ54a…のうち、最上部のリブ54aおよび上から2番目のリブ54aはボンネット3閉時におけるストライカ17に可及的近接しており、上から3番目以降の各リブ54aはラッチ19と干渉しない条件下で、かつ該ラッチ19に可及的近接する位置まで後方に延びている。
【0077】
ここで、上述の荷重伝達部54をバンパフェース9に一体形成する構造に代えて、該荷重伝達部54をバンパフェース9と別部材により形成してもよく、この場合、バンパフェース9と別体の荷重伝達部を、ボルト、ファスナ、クリップなどの取付け部材を用いて上記バンパフェース9に取付けてもよく、本体と脚部とを有する荷重伝達部を構成して、荷重伝達部の本体をバンパフェース9とストライカ17との間に配設すると共に、荷重伝達部の脚部をバンパレインフォースメント12やEA部材16に取付ける構造を採用してもよい。
【0078】
図14はボンネット3のヒンジ機構22を示し、このヒンジ機構22は実施例1のそれと同様に、カウルサイドメンバ21に固定された車体側ヒンジブラケット23と、ボンネットレインフォースメント4に固定されたボンネット側ヒンジブラケット24と、該ボンネット側ヒンジブラケット24に一体的に突出形成したヒンジピン25とを備えている。
上述の車体側ヒンジブラケット23には車両前後方向に延びる長孔26を開口形成し、この長孔26内の前部とワッシャ55の孔部とが連通するように、該ワッシャ55を車体側ヒンジブラケット23に溶接固定している。なお、図14ではワッシャ55の溶接箇所を溶接部55aとして黒丸で示している。
【0079】
ここで、上述の各溶接部55aによる溶接強度は、車両の軽衝突時に溶接が外れる強度に設定している。
そして、上述の長孔26内の前部とワッシャ55の孔部とが連通する連通部に、上述のヒンジピン25を挿入して、ヒンジ機構22を構成したものである。
すなわち、上記ヒンジ機構22には、上記ストライカ17に少なくとも上記ボンネット3の車両前後方向耐力以下の第1の後退荷重(軽突時の荷重)が入力された時、長孔26とヒンジピン25とからなる後退許容手段による該ボンネット3の後退を許容し、上記第1の後退荷重よりも低い第2の後退荷重(走行風による風圧や車両振動など)に対して該ボンネット3の後退を規制する後退規制機構(ブラケット23に溶接固定されたワッシャ55参照)が設けられたものである。
【0080】
このように構成した実施例4の作用について、以下に説明する。
図14に示すボンネット3の閉時においては後退規制機構としてのワッシャ55でヒンジピン25の位置が定位置に保持されると共に、ボンネット重量が下方に付勢されているので、通常の車両走行時に第1の後退荷重(軽衝突時の荷重)よりも低い第2の後退荷重(走行風による風圧や車両振動など)がストライカ17およびボンネット3に作用しても、ボンネット重量およびワッシャ55によりボンネット3の後退を規制すると共に、該ボンネット3のばたつきを防止することができる。
【0081】
一方、車両の停止時においてボンネット3を開放する場合、ラッチ19によるストライカ17の係合を解除した後に、ボンネット3前端部を上方に持上げると、該ボンネット3のヒンジピン25はワッシャ55により定位置に保持されているので、該ボンネット3はヒンジピン25を支点として開放する。
【0082】
次に、軽衝突時の作用について説明する。
図13に示すように、ボンネット3より車体前方に配設される前側部材としてのバンパフェース9に対し上記ストライカ17への荷重伝達部54が設けられ、この荷重伝達部54は前突時の荷重をボンネット3前端よりも先にストライカ17に伝達するように構成している。
【0083】
車両の軽衝突時には、バンパフェース9および荷重伝達部54が後退し、その後ろ向きの衝突荷重が入力されるが、この荷重はボンネット3の前端を介することなく剛体のストライカ17に伝達される。
このストライカ17にボンネット3の車両前後方向耐力以下の第1の後退荷重(軽衝突時の荷重)が伝達されると、ラッチ爪18で係合された状態のストライカ17はラッチ19を伴って後退し、ボンネットレインフォースメント4を介してヒンジ機構22に荷重が伝達され、ヒンジピン25に後ろ向きの荷重が伝達される。これによりワッシャ55の溶接部55aが外れて、該ワッシャ55がフリーとなるので、長孔26とヒンジピン25とによる後退許容手段がボンネット3の後退を許容し、ヒンジピン25が長孔26内の後部に後退移動する範囲においてボンネット3は後方に移動する。
この結果、車両後ろ向きの衝突荷重が入力される軽衝突時において、ボンネット3の前端が破損するのを抑制することができる。
【0084】
このように、図13,図14で示した実施例4の車両の前部車体構造は、ボンネット3前部に配設された剛体のストライカ17と、該ストライカ17に係脱可能な車体側のラッチ19と、上記ボンネット3を開閉可能に車体側部材(カウルサイドメンバ21参照)に取付けるヒンジ機構22とが設けられ、上記ラッチ19が車体側部材(ブラケット50参照)に前後移動可能な機構(前後移動機構53参照)を介して支持され、上記ヒンジ機構22には、ボンネット3の後退を許容する後退許容手段(長孔26、ヒンジピン25参照)を備えた車両の前部車体構造であって、上記ストライカ17に前突時の荷重をボンネット3前端よりも先に伝達する衝突荷重伝達手段(衝突荷重伝達部54参照)が設けられたものである(図13,図14参照)。
【0085】
この構成によれば、車両の前突時には、上記衝突荷重伝達手段(荷重伝達部54)が剛体のストライカ17に対してボンネット3前端よりも先に衝突荷重(後ろ向きの衝突荷重)を伝達して、該ボンネット3を後退させることができる。
これにより、ボンネット3を補強することなく、かつ該ボンネット3前端の破損を抑制することができ、以て、歩行者保護要件(ボンネットの低剛性化など)を加味したうえで、車両デザインに対応してボンネット前端の前出しが可能となる。
また、上記衝突荷重伝達手段は、上記ボンネット3より車体前方に配設される前側部材(バンパフェース9参照)に対し上記ストライカ17への荷重伝達部54が設けられたものである(図13参照)。
【0086】
この構成によれば、荷重伝達部54で衝突荷重伝達手段を構成し、該荷重伝達部54は前側部材(バンパフェース9)に設けられるので、その荷重伝達面の幅の拡大を図ることができると共に、ストライカ17のレイアウトも容易となる。
さらに、上記ヒンジ機構22には、上記ストライカ17に少なくとも上記ボンネット3の車両前後方向耐力以下の第1の後退荷重(軽突時の荷重)が入力された時、上記後退許容手段(長孔26、ヒンジピン25参照)による該ボンネット3の後退を許容し、上記第1の後退荷重よりも低い第2の後退荷重(走行風による風圧や車両振動など)に対して該ボンネット3の後退を規制する後退規制機構(ワッシャ55参照)が設けられたものである。
【0087】
この構成によれば、ストライカ17に第1の後退荷重(軽衝突時の荷重)が入力された時には、ワッシャ55の溶接固定を外して、後退許容手段(長孔26、ヒンジピン25)によるボンネット3の後退を許容するので、軽衝突時におけるボンネット3の破損を抑制することができる。
しかも、後退規制機構(ワッシャ55参照)は、第2の後退荷重(走行風による風圧や車両振動など)の入力時、ヒンジピン25の位置をキープして、ボンネット3の後退を規制するので、通常の車両走行時においては、走行風の風圧や車両振動等によりボンネット3がばたつくのを防止することができる。
また、実施例で開示したように、荷重伝達部54を複数のリブ54aによるハニカム構造(蜂の巣構造)に成すと、重量の過度な増加を招くことなく荷重伝達部54の強度が向上するので、荷重伝達効率の向上を図ることができ、ストライカ17に対してボンネット前端よりも先に前突時の荷重をより一層確実に伝達することができる。
なお、荷重伝達部54はハニカム構造に代えて、格子構造と成してもよい。
さらに、上記荷重伝達部54が車幅方向に所定幅を有すると、斜め方向からの軽衝突時や車両センタから車幅方向にずれた位置に前突された場合においても、該荷重伝達部54を介してストライカ17に前突荷重を適切に伝達することができる。
【0088】
図13,図14で示した実施例4においても、その他の構成、作用、効果については、先の実施例とほぼ同様であるから、図13,図14において前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【実施例5】
【0089】
図15,図16はヒンジ機構の他の実施例を示し、図15は側面図、図16は図15のB‐B線矢視断面図である。なお、この実施例5においては、ボンネット3前側周辺のストライカ17、ラッチ19および衝突荷重伝達手段については実施例3(図11参照)または実施例4(図13参照)で示した構成のものを用いる。
【0090】
図15,図16で示すヒンジ機構22は、カウルサイドメンバ21に固定された車体側ヒンジブラケット23と、ボンネットレインフォースメント4に固定されたボンネット側ヒンジブラケット24と、該ボンネット側ヒンジブラケット24に貫通配置したボルトから成るヒンジピン25とを備えている。
上述の車体側のヒンジブラケット23には車両前後方向に延びる長孔26を開口形成している。また、上述のヒンジピン25の基部には大径部25aを一体形成している。
そして、上述の長孔26内の前部に、ボルトから成るヒンジピン25のネジ部25bを挿入し、該ヒンジピン25のネジ部25bが長孔26から突出した部分に平ワッシャ56およびスプリングワッシャ57を装着した後に、ネジ部25bに対してナット58を締結したもので、締結力を付加する各要素25,56,57,58から成る取付け部材59により後退規制機構を構成したものである。
つまり、ナット58の締結力は車両に軽衝突荷重が入力された時、ヒンジピン25の後退を許容するようになっている。
【0091】
詳しくは、上記ヒンジ機構22には、ストライカ17に少なくともボンネット3の車両前後方向耐力以下の第1の後退荷重(軽衝突時の荷重)が入力された時、ナット58による締結力に抗して長孔26とヒンジピン25とによる後退許容手段にて該ボンネット3の後退を許容し、上記第1の後退荷重よりも低い第2の後退荷重(走行風による風圧や車両振動など)に対して該ボンネット3の後退を規制する後退規制機構(取付け部材59参照)が設けられたもので、上記ナット58による締結力に抗して、ヒンジピン25が長孔26に沿って後方移動するように構成したものである。
また、車体側ヒンジブラケット23とボンネット側ヒンジブラケット24との間において、ヒンジピン25の大径部25a外周には、スペーサ49を装着して、ボンネット側ヒンジブラケット24が不所望に車幅方向に移動するのを防止している。
【0092】
このように構成すると、ストライカ17(図11または図13参照)に第1の後退荷重(軽衝突時の荷重)が入力された時には、後退許容手段(長孔26とヒンジピン25参照)によるボンネット3の後退を許容するので、軽衝突時におけるボンネット3の破損を抑制することができる。
しかも、後退規制機構(取付け部材59)は、第1の後退荷重よりも低い第2の後退荷重の入力時、ボンネット3の後退を規制するので、通常の車両走行時においては、ボンネット3の重量の下方への付勢と相俟って、走行風の風圧や車両振動等によりボンネット3がばたつくのを防止することができる。
【0093】
図15,16において、前図と同一の部分には同一の符号を付してその詳しい説明を省略するが、単一のナット58を用いる構成に代えて、ダブルナット構造を採用してもよく、ヒンジピン25の大径部25b外周と、これに枢着するボンネット側ヒンジブラケット24の孔部との間には軸受メタル等を介設してもよい。
【実施例6】
【0094】
図17はヒンジ機構のさらに他の実施例を示す側面図である。なお、この実施例6においては、ボンネット3前側周辺のストライカ17、ラッチ19および衝突荷重伝達については、実施例5と同様に、実施例3(図11参照)または実施例4(図13参照)で示した構成のものを用いる。
【0095】
図17に示すヒンジ機構22は、車体側部材としてのカウルサイドメンバ21に固定された車体側ヒンジブラケット23と、ボンネットレインフォースメント4に固定されたボンネット側ヒンジブラケット24と、該ボンネット側ヒンジブラケット24に一体的に突出形成したヒンジピン25とを備えている。
上述の車体側ヒンジブラケット23は、カウルサイドメンバ21に当接固定されるベース部23bと、このベース部23bから上方に立上がる立片部23aとを車両正面視でL字形状に一体形成したものである。
【0096】
車体側ヒンジブラケット23の立片部23aには、カラー60(または軸受部材)を介してヒンジピン25を回動自在に取付けて、ボンネット3を開閉可能に構成している。
また、車体側ヒンジブラケット23のベース部23bには、車両前後方向に延びる少なくとも1つの長孔61を開口形成している。図17に示すこの実施例6では互いに平行または一直線上に並ぶ複数の長孔61,61を開口形成している。
上記各長孔61,61内の後部に対して、そのネジ孔が上下方向に一致するように、上述のカウルサイドメンバ21の下部にはナット62,62を溶接固定している。
そして、上述の各長孔61,61内の後部に、上方から下方に向けてボルト63,63を挿入し、これら各ボルト63,63の先端部を上述のナット62,62に締結したものであり、上述の長孔61,61によりボンネット3の後退を許容する後退許容手段を構成すると共に、締結力を付加するボルト63とナット62とで後退規制機構を構成したものである。
【0097】
詳しくは、上述のヒンジ機構22には、ストライカ17に少なくとも上記ボンネット3の車両前後方向耐力以下の第1の後退荷重(軽衝突時の荷重)が入力された時、上記後退許容手段(長孔61参照)による該ボンネット3の後退を許容し、上述の第1の後退荷重よりも低い第2の後退荷重(走行風による風圧や車両振動など)に対して該ボンネット3の後退を規制する後退規制機構(締結力を付加するボルト63とナット62参照)が設けられたものである。
要するに、ボルト63とナット62との締結力により、通常の車両走行時の走行風の風圧や車両振動ではヒンジブラケット23が後退しないように構成すると共に、軽衝突時の荷重入力により上記締結力に抗してヒンジブラケット23が後方へ移動するように構成したものである。
このように構成すると、ストライカ17(図11または図13参照)に第1の後退荷重(軽衝突時の荷重)が入力された時には、後退許容手段(長孔61参照)によるボンネット3の後退を許容するので、軽衝突時におけるボンネット3の破損を抑制することができる。
しかも、後退規制機構(ボルト63、ナット62参照)は、第2の後退荷重の入力時、ボンネット3の後退を規制するので、通常の車両走行時においては、ボンネット3の重量の下方への付勢と相俟って、走行風の風圧や車両振動等によりボンネット3がばたつくのを防止することができる。
さらに、図17で示したこの実施例6においては、ヒンジピン25を締め付けていないので、ボンネット3の開閉抵抗が小さく、ボルト63、ナット62による締結箇所は、ヒンジピン25とは別のボディ側(カウルサイドメンバ21側)で行うので締結力の調整が容易となる。
【0098】
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、
この発明のラッチ機構は、実施例のラッチ19に対応し、
以下同様に、
ボンネットを取付ける車体側部材は、カウルサイドメンバ21に対応し、
ラッチ機構を前後移動可能に支持する車体側部材は、ブラケット50に対応し、
前後移動可能な機構は、前後移動機構53に対応し、
後退許容手段は、ヒンジピン25と長孔26、平行リンク機構33、長孔61に対応し、
衝突荷重伝達手段は、ストライカ17の前片部17c、荷重伝達部20,54に対応し、
ボンネットより車体前方に配設される前側部材は、バンパフェース9に対応し、
移動機構は、ヒンジピン25と長孔26、平行リンク機構33に対応し、
後退規制機構は、ステーダンパ27、リンク37,40、規制部材47、ワッシャ55、取付け部材59、または、締結力を付加するボルト63、ナット62あるいは、ボンネット3それ自体の重量に対応するも、
この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではない。
例えば、実施例3〜6の構成に対して、実施例1で示したステーダンパ27を併用して、通常の車両走行時において走行風の風圧や車両振動等に起因するボンネット3のばたつきを、より一層確実に防止すべく構成してもよく、また、ボンネットより車体前方に配設される前側部材は、バンパフェース9に代えて、フロントグリルであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0099】
以上説明したように、本発明はボンネット前部に配設された剛体のストライカと、ストライカに係脱可能な車体側のラッチ機構と、ボンネットを開閉可能にボディ側に取付けるヒンジ機構とを備え、ヒンジ機構には、ボンネットの後退を許容する後退許容手段が設けられた車両の前部車体構造について有用である。
【符号の説明】
【0100】
3…ボンネット
9…バンパフェース
17…ストライカ
17c…前片部(衝突荷重伝達手段)
19…ラッチ(ラッチ機構)
20,54…荷重伝達部(衝突荷重伝達手段)
21…カウルサイドメンバ(車体側部材)
22,34…ヒンジ機構
25…ヒンジピン(後退許容手段)
26,61…長孔(後退許容手段)
27…ステーダンパ(後退規制機構)
33…平行リンク機構(後退許容手段)
37,40…リンク(後退規制機構)
47…規制部材(後退規制機構)
50…ブラケット(車体側部材)
53…前後移動機構(前後移動可能な機構)
55…ワッシャ(後退規制機構)
59…取付け部材(後退規制機構)
62…ナット(後退規制機構)
63…ボルト(後退規制機構)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボンネット前部に配設された剛体のストライカと、
該ストライカに係脱可能な車体側のラッチ機構と、
上記ボンネットを開閉可能に車体側部材に取付けるヒンジ機構とが設けられ、
上記ストライカが上記ラッチ機構に前後移動可能に支持、または、ラッチ機構が車体側部材に前後移動可能な機構を介して支持され、
上記ヒンジ機構には、ボンネットの後退を許容する後退許容手段を備えた
車両の前部車体構造であって、
上記ストライカに前突時の荷重をボンネット前端よりも先に伝達する衝突荷重伝達手段が設けられたことを特徴とする
車両の前部車体構造。
【請求項2】
上記衝突荷重伝達手段は、上記ストライカの前端が上記ボンネットの前端よりも前方に突出して配設される
請求項1記載の車両の前部車体構造。
【請求項3】
上記衝突荷重伝達手段は、上記ボンネットより車体前方に配設される前側部材に対し上記ストライカへの荷重伝達部が設けられた
請求項1または2記載の車両の前部車体構造。
【請求項4】
上記ストライカの前端が、上記ボンネットより車体前方に配設される前側部材の上面後縁よりも下方で、かつ該上面後縁よりも前方に突出して配設されると共に、
上記ヒンジ機構は、上記ボンネットを開放する時、該ボンネットを後方に移動しつつ上方に移動させる移動機構を有し、
該移動機構で上記後退許容手段を構成した
請求項2または3記載の車両の前部車体構造。
【請求項5】
上記ヒンジ機構には、
上記ストライカに少なくとも上記ボンネットの車両前後方向耐力以下の第1の後退荷重が入力された時、
上記後退許容手段による該ボンネットの後退を許容し、
上記第1の後退荷重よりも低い第2の後退荷重に対して該ボンネットの後退を規制する後退規制機構が設けられた
請求項1〜4の何れか1項に記載の車両の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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