説明

車両の前部車体構造

【課題】アッパーフレームの取付け剛性を確保しながら位置精度などの品質維持の安定化を図れる車両の前部車体構造を提供する。
【解決手段】車両前後方向aに延びていて、一端10aがフロントピラー9に接合されたアッパーフレーム11を備えた車両の前部車体構造は、アッパーフレーム11が、インナパネル110とこれと重合して接合されるアウタパネ111とを有し、アウタパネル111を車両前後方向において分割して、当該分割部120を、インナパネル110とアウタパネル111の間に配置され、一方側がインナパネルに接合された第1の隔壁130に締結部材135で締結固定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前部車体構造に関し、詳しくはアッパーフレームの接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の前部車体構造は、キャビン前方にエンジンルームが配置されているものが多い。エンジルームを含む車両前部は、車幅方向に位置する左右のフロントサイドメンバと、フロントサイドメンバ間に掛け渡された複数のクロスメンバと、フロントサイドメンバに接合されたサスペンションサポートパネルと、キャビン側を構成するフロントピラーに一端が固定されたアッパーフレームを備えている。左右のサスペンションサポートパネルには、ストラット方式のフロントサスペンションから車体への入力部となるストラット上部がボルトで固定されていて、ストラットハウスを構成している。
車幅方向に位置する左右のアッパーフレームは、車両前後方向に延びていて、それぞれストラットハウスに接合されて固定されたインナパネルと、これと重合して接合されたアウタパネルとで閉断面構造とされている。各アッパーフレームは、アウタパネルの一端が各フロントピラーにアーク溶接されていて、取付け剛性が確保されているとともに、アウタパネルの他端側が車両前方に位置するラジエータブラケットなどと接続されている。このようなアッパーフレームの接合構造としては、特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−39338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のアッパーフレームは、一端側がフロントピラーにアーク溶接されているため、剛性は得られるものの、位置精度などの品質維持が難しい。また、アッパーフレームのアーク溶接箇所は、フロントサスペンションから車体への入力部となるストラットハウスよりも車両後方側に位置し、アッパーフレーム自体もストラットハウスに連結されているため、フロントサスペンションからの車両上下方向への荷重を受ける。このため、アッパーフレームの車両上下方向への荷重に対する剛性が弱いと、操縦性に影響が出てしまうことがあり、アッパーフレームの剛性確保は車両の走行フィーリングを高めるためには必要とされている。
本発明は、アッパーフレームの取付け剛性を確保しながら位置精度などの品質維持の安定化を図れる車両の前部車体構造を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る車両の前部車体構造は、車両前後方向に延びていて、一端が車幅方向に位置するフロントピラーに接合され、他端が車両前部構成部に接合されたアッパーフレームを備え、アッパーフレームは、インナパネルと、これと重合して接合されるアウタパネルとを有し、アウタパネルは、車両前後方向において分割されていて、当該分割部が、インナパネルとアウタパネルの間に配置され、一方側がインナパネルに接合された第1の隔壁に締結部材で締結固定されていることを特徴としている。
本発明に係る車両の前部車体構造において、第1の隔壁よりも車両前方側に、その一方側がインナパネルに接合された第2の隔壁を有し、分割されたアウタパネルのうち、車両前方側に位置する前アウタパネルは第2の隔壁に固定され、前アウタパネルよりも車両後方側に位置する後アウタパネルは、その後端がフロントピラーに接合され、その前端が前アウタパネルの後端と接合されて第1の隔壁に締結部材で締結固定されていることを特徴としている。
本発明に係る車両の前部車体構造において、第1の隔壁または第2の隔壁の少なくとも何れか一方は、インナパネルを介して同インナパネルよりも車両内側に位置し、サスペンションの入力部が装着されるサスペンションサポートパネルに接合されていることを特徴としている。
本発明に係る車両の前部車体構造において、後アウタパネルは、前アウタパネルよりもその厚さが厚く設定されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、一端が車幅方向に位置するフロントピラーに接合され、インナパネルとアウタパネルを備えたアッパーフレームにおいて、アウタパネルを車両前後方向において分割し、その分割部を、インナパネルとアウタパネルの間にインナパネルに接合されて配置された第1の隔壁に締結部材で締結固定するので、分割部の固定が溶接固定に対して耐久強度が増すため、アッパーフレームとフロントピラーの接合をスポット溶接にすることができ、アッパーフレームの取付け剛性を確保しながら位置精度などの品質維持の安定化を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に係る車両の前部車体構造の一形態を示す斜視図。
【図2】アッパーフレームとサスペンションサポートパネルとの結合状態を車両前方から見た断面図。
【図3】アッパーフレームの構成を示す分解斜視図である。
【図4】本発明の特徴部分となるアッパーフレームの構成を示す側面図。
【図5】アッパーフレームの隔壁がある部分を車両前方から見た断面図。
【図6】アッパーフレームの隔壁がある部分を車両上方から見た断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を用いて本発明に係る実施形態について説明する。図1に示す車両の前部車体構造は、キャビン1の前方にエンジンルーム2が配置されている。エンジンルーム2を含む車両前部は、両矢印で示す車幅方向bに位置する左右のフロントサイドメンバ3,4と、フロントサイドメンバ3,4の前端間に掛け渡されたフロントエンドクロスメンバ5と、フロントサイドメンバ3,4にそれぞれ接合されたサスペンションサポートパネル6,7と、車幅方向bに位置しキャビン側を構成するフロントピラー8,9に一端10a,11aが固定され、他端10b、11bが車両前部構成部となるラジエータマウントブラケット12,13から延びるヘッドランプブラケット14,15に連結されたアッパーフレーム10,11を備えている。
【0009】
これらサスペンションサポートパネル6,7、フロントピラー8,9およびアッパーフレーム10,11は、車両の左右に設けられている以外は、それぞれ同一構成であるので、以下、車両の左側の構成を代表して説明する。
【0010】
サスペンションサポートパネル7には、図2に示すように、ストラット方式のフロントサスペンション16から車体への入力部となるストラット17の上部17aが装着されるストラット取付部7bが形成されている。ストラット取付部7bの周囲には、取付けボルト18を挿入する複数のボルト取付穴7cが形成されている。なお、図2ではボルト取付穴7cは1つだけ表示している。ストラット取付部7bには、ボルト取付穴7cにベルト18によってストラット17の上部17aが固定されている。つまり、サスペンションサポートパネル7はストラットハウスを構成している。
【0011】
アッパーフレーム11は、図1,図3に示すように両矢印aで示す車両前後方向に断面積が大きくなるように延びていて、図2に示すように、サスペンションサポートパネル7に接合されて固定されたインナパネル110と、インナパネル110と重合して接合されるアウタパネル111とを備えている。インナパネル110とアウタパネル111は、上下に接合フランジ110a,110bと接合フランジ111a,111bがそれぞれ形成されていて、接合フランジ110aと接合フランジ111aおよび接合フランジ110bと接合フランジ111bを接合させてスポット溶接することで、一体化されて閉断面構造を成している。
【0012】
インナパネル110は、接合フランジ110aと接合フランジ110bの間に位置する側面110cがサスペンションサポートパネル7の側面7aに接合されて溶接などによって固定されることで、サスペンションサポートパネル7に装着されて一体化されている。一般にサスペンションサポートパネル7は、走行中にストラット17から両矢印cで示す車両上下方向への荷重が入力されるため、その剛性はアッパーフレーム11よりも強く形成されている。インナパネル110は、この剛性のあるサスペンションサポートパネル7に固定されることで、その取付け剛性が高められている。
【0013】
本形態に係るアウタパネル111は、図3,図4に示すように、車両前後方向aにおいて二分割されていて、当該分割部120が、インナパネル110とアウタパネル111の間に配置された第1の隔壁130に締結部材となる複数のボルト135で上下方向に締結固定されている。インナパネル110とアウタパネル111の間には、図3に示すように、第1の隔壁130よりも車両前方側に第2の隔壁140が配置されている。
【0014】
第1の隔壁130および第2の隔壁140は、正面形状がインナパネル110とアウタパネル111と接合して形成されるアッパーフレーム11の正面から見た断面形状と類似形状に形成されていて、その一側面130a、140aがインナパネル110に側面110cに、例えば溶接などによって固定されて装着されている。第1の隔壁130と第2の隔壁140は、図6に示すように、サスペンションサポートパネル7に形成されたストラット取付部7b、好ましくは車両前後方向aに位置するボルト取付穴7cを車両前後方向aから挟む位置に配置されている。図5及び図6に示す黒丸は第1の隔壁130とアッパーフレーム11、第2の隔壁140とアッパーフレーム11との接合箇所を示す。
【0015】
図3,図4に示すように、分割されたアウタパネル111のうち、車両前方側に位置するものを前アウタパネル111A、車両後方側に位置するものを後アウタパネル111Bと称する。本形態において、前アウタパネル111Aの中央111Aaは、図4に示すように第2の隔壁140に締結部材となるボルト136で締結されて固定されている。前アウタパネル111Aはボルト136締結ではなく、第2の隔壁140に溶接して固定してもよい。後アウタパネル111Bは、図4に示すように、その後端111Bbがフロントピラー9の下端9aに接合されて上下方向にスポット溶接されることで固定されている。後アウタパネル111Bの前端111Baは前アウタパネル111Aの後端111Abを車幅方向外側から接合し、第1の隔壁130に複数のボルト135で共締めされて固定されている。
【0016】
本形態では、アッパーフレーム11の内部に二つの隔壁となる第1の隔壁130と第2の隔壁140を備えているので、第1および第2の隔壁130,140を、インナパネル110を介して同インナパネル110よりも車両内側に位置するサスペンションサポートパネル7の側面7aに接合しているが、アッパーフレーム11の全長が短い場合には、第1の隔壁130のみをアッパーフレーム11内に配置する形態も想定される。この場合には、第1の隔壁130と対向する部分でアウタパネル111を分割し、当該分割部120を第1の隔壁130にボルト135で締結して固定すればよい。
【0017】
本形態において、アウタパネル111は、分割構造のため、前アウタパネル111Aと後アウタパネル111Bの板厚を互いに異なる板厚に設定している。本形態では、フロントサスペンション16からの車両上下方向cへの荷重がかかるフロントピラー9との接合部となる後端111Bbを備える後アウタパネル111Bの板厚t1を、前アウタパネル111Aの板厚t2よりも厚く設定している。これは負荷の掛かる部分を備える後アウタパネル111Bに剛性を与えるためある。
【0018】
このような車両の前部車体構造によると、一端10aがフロントピラー9に接合され、インナパネル110とアウタパネル111を備えた閉断面構造のアッパーフレーム11において、アウタパネル111を車両前後方向aにおいて分割し、その分割部120をインナパネル110とアウタパネル111の間に配置された第1の隔壁130に、複数のボルト135で締結固定するので、分割部120の固定が溶接固定に対して耐久強度が増す。このため、アッパーフレーム11とフロントピラー9の接合部をスポット溶接にすることができ、アッパーフレーム11の取付け剛性を確保しながら位置精度などの品質維持の安定化を図ることができる。
【0019】
アウタパネル111を車両前後方向aで前アウタパネル111Aと後アウタパネル111Bとに分割したので、車両前方側に位置する前アウタパネル111Aをサスペンションサポートパネル7に接合されたインナパネル110に接合された第2の隔壁140に予めボルト136で締結して固定し、車両後方側に位置する後アウタパネル111Bの後端111Bbをフロントピラー9に予め接合することができる。このため、サスペンションサポートパネル7やインナパネル110を有するエンジンルーム2を構成する車両前部構造体を、フロントピラー9を有するキャビン1側と接合する際に、アウタパネル111の分割部120を、車両前部構造体に一体化されている第1の壁部130にボルト135で締結固定することで、アッパーフレーム11を構成することができ、製造ラインにおける作業工数を低減して組付け時間の短縮を図ることができる。また、アウタパネル111の分割部120の固定構造をボルト締結とすることで、アッパーフレーム11の取付け剛性を高めることができるので、フロントピラー9との接合構造をアーク溶接ではなく、スポット溶接とすることができ、この点からも作業時間の短縮を図ることができる。
【0020】
アウタパネル111を分割構造としたので、前アウタパネル111Aの板厚t2と後アウタパネル111Bの板厚t1を個別に設定することができる。このため、本形態では、フロントサスペンション16からの入力荷重による負荷の掛かるフロントピラー9との接合部を有する後アウタパネル111Bの板厚t1を、前アウタパネル111Aの板厚t2よりも厚くすることができるので、アウタパネル111を分割しないものに比べて、負荷の掛かる接合部を有する後アウタパネル111Bの強度を高めつつも、重量軽減を図ることができる。
【0021】
なお、車体右側に位置するアッパーフレーム10の構造もアッパーフレーム11と同一構成とされているので、アッパーフレーム10側でもアッパーフレーム11側と同様な左右効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0022】
6,7 サスペンションサポートパネル
8,9 フロントピラー
10,11 アッパーフレーム
10a,11a アッパーフレームの一端
110 インナパネル
111 アウタパネル
111A 前アウタパネル
111Ab 前アウタパネルの後端
111B 後アウタパネル
111Ba 後アウタパネルの前端
111Bb 後アウタパネルの後端
120 分割部
130 第1の隔壁
135 締結部材
140 第2の隔壁
a 車両前後方向
b 車幅方向
t1 後アウタパネルの板厚
t2 前アウタパネルの板厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に延びていて、一端が車幅方向に位置するフロントピラーに接合され、他端が車両前部構成部に接合されたアッパーフレームを備えた車両の前部車体構造において、
前記アッパーフレームは、インナパネルと、これと重合して接合されるアウタパネルとを有し、
前記アウタパネルは、車両前後方向において分割されていて、当該分割部が、前記インナパネルと前記アウタパネルの間に配置され、一方側が前記インナパネルに接合された第1の隔壁に締結部材で締結固定されていることを特徴とする車両の前部車体構造。
【請求項2】
請求項1記載の車両の前部車体構造において、
前記第1の隔壁よりも車両前方側に、その一方側が前記インナパネルに接合された第2の隔壁を有し、
前記分割されたアウタパネルのうち、
車両前方側に位置する前アウタパネルは前記第2の隔壁に固定され、
前アウタパネルよりも車両後方側に位置する後アウタパネルは、その後端が前記フロントピラーに接合され、その前端が前記前アウタパネルの後端と接合され前記第1の隔壁に前記締結部材で締結固定されていることを特徴とする車両の前部車体構造。
【請求項3】
請求項1または2記載の車両の前部車体構造において、
前記第1の隔壁または第2の隔壁の少なくとも何れか一方は、前記インナパネルを介して、同インナパネルよりも車両内側に位置し、サスペンションが装着されるサスペンションサポートパネルに接合されていることを特徴とする車両の前部車体構造。
【請求項4】
請求項2または3記載の車両の前部車体構造において、
前記後アウタパネルは、前記前アウタパネルよりも、その厚さが厚く設定されていることを特徴とする車両の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−60087(P2013−60087A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199270(P2011−199270)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】