説明

車両の前部車体構造

【課題】 部品点数を減らして作業工数を低減しつつも、カウルトップパネルの取付け剛性と歩行者保護を図れる車両の前部車体構造を提供する。
【解決手段】 この前部車体構造は、車幅方向bに位置する一対のフロントピラー8,9の下部8a、9aに結合されたアッパーフレーム10,11と、一対のフロントピラーの下部にその両端20a、20bが結合されたカウルトップパネル20の端部との間に配置され、同アッパーフレームとカウルトップパネルとを接合する第1支持部310と、アッパーフレームよりも車両外側に配置されるフェンダーパネル32,33が装着される第2支持部311とが一体的に設けられた連結部材30,31を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前部車体構造に関し、詳しくはアッパーフレームとカウルトップバネルの結合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
カウルトップと車両サイドに位置するフロントピラーは、車幅方向に延在するカウルトップパネルで、その下端がそれぞれ連結されることでフロントピラーの間に装着されるフロントガラスの下端を保持している。また、フロントピラーとカウルトップパネルとの結合部近傍には、車両前後方向に延びるアッパーフレームの一端が接合されている。アッパーフレームとカウルトップパネルの間には、両者を結合するためのブラケットと、フェンダーパネルを装着するためのブラケットの二つのブラケットを用いて結合している。このような構成の車両の前部車体構造としては、特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−23663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のように、アッパーフレームとカウルトップパネルを結合するためのブラケットと、フェンダーパネルを装着するためのブラケットとの二つのブラケットを用いる構成であると、作業工数の要するため改善の余地がある。また、カウルトップパネルには、車幅方向の撓みは抑えつつも剛性の確保が必要あるため、一般にカウルトップパネルに隔壁を設けて強度アップを図っている。しかし、隔壁による強度アップはカウルトップパネルの車両上下方向への撓みを規制する方向に作用するため、歩行者保護の観点からはカウルトップパネルの車両上下方向への撓みはできるだけ規制したくない要望がある。
本発明は、部品点数を減らして作業工数を低減しつつも、カウルトップパネルの取付け剛性と歩行者保護を図れる、新たな車両の前部車体構造を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る車両の前部車体構造は、車両前後方向に延びていて、一端が車幅方向に位置する一対のフロントピラーの下部に結合されたアッパーフレームと、一対のフロントピラーの下部にその両端が結合されたカウルトップパネルと、アッパーフレームとカウルトップパネルとの間に配置され、同アッパーフレームとカウルトップパネルとを接合する第1支持部と、アッパーフレームよりも車両外側に配置されるフェンダーパネルが装着される第2支持部とが一体的に設けられた連結部材を備えたことを特徴としている。
本発明に係る車両の前部車体構造において、第1支持部は、車両前後方向と車両内側に向かって屈曲形成されていて、この屈曲部を境にして、車両前後方向に延びる部位がアッパーフレームとの接合面を構成し、車両幅方向に延びる部位がカウルトップパネルとの接合面を構成していて、各接合面がそれぞれアッパーフレームとカウルトップパネルに溶接により結合されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、フェンダーパネルが装着される第2支持部を有する連結部材に、アッパーフレームとカウルトップパネルとを接合する第1支持部を一体的に形成すると、従来のようにカウルトップパネルに隔壁を設けて強度アップを図らなくても、連結部材によって、カウルトップパネルとアッパーフレームとが連結されるので、部品点数を削減して作業工数を低減しつつも、従来のように隔壁を設けることなくカウルトップパネルの車幅方向への強度を確保できるため、歩行者との接触時にカウルトップパネルの車両上下方向へ撓みを確保でき、歩行者保護と車両の剛性確保の両立を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に係る車両の前部車体構造の一形態を示す斜視図。
【図2】アッパーフレームとサスペンションサポートパネルとの結合状態を車両前方から見た断面図。
【図3】アッパーフレームの構成を示す分解斜視図である。
【図4】アッパーフレームとカウルトップパネルの結合部の構成を示す側面図。
【図5】アッパーフレームの隔壁がある部分を車両前方から見た断面図。
【図6】カウルトップパネルの構成を示す分割斜視図である。
【図7】連結部材の構成を示す拡大図。
【図8】アッパーフレームとカウルトップパネルの結合分部の構成を示す拡大斜視図。
【図9】連結部材とカウルトップパネルとの連結部の概略を示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を用いて本発明に係る実施形態について説明する。図1に示す車両の前部車体構造は、キャビン1の前方にエンジンルーム2が配置されている。エンジルーム2を含む車両前部は、両矢印bで示す車幅方向に位置する左右のフロントサイドメンバ3,4と、フロントサイドメンバ3,4の前端間に掛け渡されたフロントエンドクロスメンバ5と、フロントサイドメンバ3,4にそれぞれ接合されたサスペンションサポートパネル6,7と、車幅方向bに位置しキャビン側を構成するフロントピラー8,9に一端10a,11aが固定されたアッパーフレーム10,11と、フロントピラー8,9の下部8a、9aにその両端20a、20bが結合されたカウルトップパネル20と、アッパーフレーム10とカウルトップパネル20の一端20aおよびアッパーフレーム11とカウルトップパネル20の他端20bとをそれぞれ接合する連結部材30,31と、アッパーフレーム10,11の外側から装着されるフェンダーパネル32,33を備えている。アッパーフレーム10,11の他端10b、11bには、車両前部構成部となるフロントエンドアッパバー12の両端から延びるヘッドランプブラケット14,15が連結されている。
【0009】
これらサスペンションサポートパネル6,7、フロントピラー8,9およびアッパーフレーム10,11、連結部材30,31、フェンダーパネル32,33は、車両の左右に設けられている以外は、それぞれ同一構成であるので、以下、車両の左側の構成を代表して説明する。
【0010】
サスペンションサポートパネル7は、図2に示すように、ストラット方式のフロントサスペンション16から車体への入力部となるストラット17の上部17aが図示しないボルトで固定されていて、ストラットハウスを構成している。
【0011】
アッパーフレーム11は、図1、図3に示すように両矢印aで示す車両前後方向に延びていて、図2に示すように、サスペンションサポートパネル7に接合されて固定されたインナパネル110と、インナパネル110と重合して接合されるアウタパネル111とを備えている。インナパネル110とアウタパネル111は、上下に接合フランジ110a,110bと接合フランジ111a,111bがそれぞれ形成されていて、接合フランジ110aと接合フランジ111aおよび接合フランジ110bと接合フランジ111bを接合させてスポット溶接することで、一体化されて閉断面構造を成している。
【0012】
インナパネル110は、接合フランジ110aと接合フランジ110bの間に位置する側面110cがサスペンションサポートパネル7の側面7aに接合されて溶接などによって固定されることで、サスペンションサポートパネル7に装着されて一体化されている。一般にサスペンションサポートパネル7は、走行中にストラット17から両矢印cで示す車両上下方向への荷重が入力されるため、その剛性はアッパーフレーム11よりも強く形成されており、この剛性のあるサスペンションサポートパネル7にインナパネル110が固定されることで、その取付け剛性は高められる。
【0013】
本形態に係るアウタパネル111は、図3,図4に示すように、車両前後方向aにおいて二分割されていて、当該分割部120が、インナパネル110とアウタパネル111の間に配置された第1の隔壁130に締結部材となる複数のボルト135で上下方向に締結固定されている。インナパネル110とアウタパネル111の間には、図3に示すように、第1の隔壁130よりも車両前方側に第2の隔壁140が配置されている。
【0014】
第1の隔壁130および第2の隔壁140は、正面形状がインナパネル110とアウタパネル111と接合して形成されるアッパーフレーム11の正面から見た断面形状と類似形状に形成されていて、その一側面130a、140aがインナパネル110に側面110cに、例えば溶接などによって固定されて装着されている。図5は第1の隔壁130とアッパーフレーム11との接合箇所を示す。
【0015】
図3,図4に示すように、分割されたアウタパネル111のうち、車両前方側に位置するものを前アウタパネル111A、車両後方側に位置するものを後アウタパネル111Bと称する。本形態において、前アウタパネル111Aの中央111Aaは、図4に示すように第2の隔壁140に締結部材となるボルト136で締結されて固定されている。前アウタパネル111Aはボルト136締結ではなく、第2の隔壁140に溶接して固定してもよい。後アウタパネル111Bは、図4に示すように、その後端111Bbがフロントピラー9の下端9aに接合されて上下方向にスポット溶接されることで固定されている。後アウタパネル111Bの前端111Baは前アウタパネル111Aの後端111Abと接合され第1の隔壁130に複数のボルト135で上下方向に共締めされて固定されている。
【0016】
本形態では、アッパーフレーム11の内部に二つの隔壁となる第1の隔壁130と第2の隔壁140を備えているので、第1および第2の隔壁130,140を、インナパネル110を介して同インナパネル110よりも車両内側に位置するサスペンションサポートパネル7の側面7aに接合しているが、アッパーフレーム11の全長が短い場合には、第1の隔壁130のみをアッパーフレーム11内に配置する形態も想定される。この場合には、第1の隔壁130と対向する部分でアウタパネル111を分割し、当該分割部120を第1の隔壁130にボルト135で締結して固定すればよい。
【0017】
本形態において、アウタパネル111は、分割構造のため、前アウタパネル111Aと後アウタパネル111Bの板厚を互いに異なる板厚に設定している。本形態では、フロントサスペンション16からの車両上下方向cへの荷重がかかるフロントピラー9との接合部となる後端111Bbを備える後アウタパネル111Bの板厚t1を、前アウタパネル111Aの板厚t2よりも厚く設定している。これは負荷の掛かる部分を備える後アウタパネル111Bに剛性を与えるためある。
【0018】
このような車両の前部車体構造によると、一端10aがフロントピラー9に接合され、インナパネル110とアウタパネル111を備えた閉断面構造のアッパーフレーム11において、アウタパネル111を車両前後方向aにおいて分割し、その分割部120をインナパネル110とアウタパネル111の間に配置された第1の隔壁130に、複数のボルト135で締結固定するので、分割部120の固定が溶接固定に対して耐久強度が増す。このため、アッパーフレーム11とフロントピラー9の接合部をスポット溶接にすることができ、アッパーフレーム11の取付け剛性を確保しながら位置精度などの品質維持の安定化を図ることができる。
【0019】
アウタパネル111を車両前後方向aで前アウタパネル111Aと後アウタパネル111Bとに分割したので、車両前方側に位置する前アウタパネル111Aをサスペンションサポートパネル7に接合されたインナパネル110に接合された第2の隔壁140に予めボルト136で締結して固定し、車両後方側に位置する後アウタパネル111Bの後端111Bbをフロントピラー9に予め接合することができる。このため、サスペンションサポートパネル7やインナパネル110を有するエンジンルーム2を構成する車両前部構造体を、フロントピラー9を有するキャビン1側と接合する際に、アウタパネル111の分割部120を、車両前部構造体に一体化されている第1の壁部130にボルト135で締結固定することで、アッパーフレーム11を構成することができ、製造ラインにおける作業工数を低減して組付け時間の短縮を図ることができる。また、アウタパネル111の分割部120の固定構造をボルト締結とすることで、アッパーフレーム11の取付け剛性を高めることができるので、フロントピラー9との接合構造をアーク溶接ではなく、スポット溶接とすることができ、この点からも作業時間の短縮を図ることができる。
【0020】
アウタパネル111を分割構造としたので、前アウタパネル111Aの板厚t2と後アウタパネル111Bの板厚t1を個別に設定することができる。このため、本形態では、フロントサスペンション16からの入力荷重による負荷の掛かるフロントピラー9との接合部を有する後アウタパネル111Bの板厚t1を、前アウタパネル111Aの板厚t2よりも厚くすることができるので、アウタパネル111を分割しないものに比べて、負荷の掛かる接合部を有する後アウタパネル111Bの強度を高めつつも、重量軽減を図ることができる。
【0021】
なお、車体右側に位置するアッパーフレーム10の構造もアッパーフレーム11と同一構成とされているので、アッパーフレーム10側でもアッパーフレーム11側と同様な作用効果を得ることができる。
【0022】
カウルトップパネル20は、図6に示すように、カウルトップアッパー201と、カウルトップロア202と、カウルトップフロント203、カウルトップサイド204,205の5つの部材で構成されている。カウルトップアッパー201、カウルトップロア202およびウルトップフロント203は、それぞれ車幅方向bに長く形成された板金製である。カウルトップアッパー201は、断面コ字型であって、カウルトップロア202の上部202cに被せられて溶接などによって結合される。カウルトップフロント203は、カウルトップロア202よりも車両前方に配置され、カウルトップサイド204,205を介してカウルトップロア202の両端202a、202bと接合されて連結される。このように構成によってカウルトップパネル20は、車幅方向bに長い箱形形状に形成される。
【0023】
連結部材31は、図7に示すように、アッパーフレーム11とカウルトップパネル30とを接合する第1支持部310と、アッパーフレーム11よりも車両外側に配置されるフェンダーパネル33が装着される第2支持部311とを備えている。
【0024】
連結部材31は、図8に示すようにアッパーフレーム11とカウルトップパネル20の他端20bとの間に配置され、第1支持部310によってアッパーフレーム11とカウルトップパネル20の他端20bとを連結している。第1支持部310は、図8に示すように車両平面視において車両前後方向と車両内側に向かって屈曲形成されていて、この屈曲部310aを境にして、車両前後方向aに延びる部位がアッパーフレーム11との接合面310bを構成し、車幅方向bに延びる部位がカウルトップパネル20の他端20bとの接合面310cを構成している。接合面310bは、図4に示すように、アッパーフレーム11のアウタパネル111の上部に形成された取付けフランジ111eにスポット溶接により結合されている。接合面310cは、図9に示すように、カウルトップパネル20のカウルトップパネルアッパー201に溶接されて結合されている。図中黒丸は溶接部分を示す。
【0025】
第2支持部311は、図7に示すように、第1支持部310から車両上方に向かって延びていて、その先端311aが車両内側に向かって屈曲されている。より詳細に説明すると、第2支持部311は、アッパーフレーム11との接合面310bから車両上方に延びていて、車両内側に屈曲された先端311aにフェンダーパネル33を装着するための取付穴315が形成されている。この先端311aには、取付穴315と位置合わせされてナット316が固定されている。フェンダーパネル33は、その一部が先端311aに重ね合わされ、ボルトなどの締結部材317を取付穴315に挿入してナット316に締め込むことで、連結部材31に装着される。
【0026】
このような車両の前部車体構造によると、フェンダーパネル33が装着される第2支持部311を有する連結部材31に、アッパーフレーム11とカウルトップパネル20の端部となる他端20bとを接合する第1支持部310を一体的に形成していたので、従来のようにカウルトップパネル20に隔壁を設けて強度アップを図らなくても、連結部材31によって、カウルトップパネル20とアッパーフレーム11とが連結される。このため、部品点数を削減して作業工数を低減しながらも、隔壁を設けることなくカウルトップパネル20の車幅方向への強度を確保でき、歩行者との接触時にカウルトップパネル20の車両上下方向cへ撓みを確保でき、歩行者保護と車両の剛性確保の両立を図ることができる。
【0027】
なお、車体右側に位置する連結部材30の構造も連結部材31と同一構成とされているので、連結部材30側でも連結部材31側と同様な作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0028】
8,9 フロントピラー
8a,9a フロントピラー
10,11 アッパーフレーム
10a,11a アッパーフレーム一端
20 カウルトップパネル
20a,20b カウルトップパネルの両端
30,31 連結部材
32,33 フェンダーパネル
310 第1支持部
310a 屈曲部
310b アッパーフレームとの接合面
310c カウルトップパネルとの接合面
311 第2支持部
a 車両前後方向
b 車幅方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に延びていて、一端が車幅方向に位置する一対のフロントピラーの下部に結合されたアッパーフレームと、
前記一対のフロントピラーの下部にその両端が結合されたカウルトップパネルと、
前記アッパーフレームと前記カウルトップパネルとの間に配置され、同アッパーフレームとカウルトップパネルとを接合する第1支持部と、前記アッパーフレームよりも車両外側に配置されるフェンダーパネルが装着される第2支持部とが一体的に設けられた連結部材を備えたことを特徴とする車両の前部車体構造。
【請求項2】
請求項1記載の車両の前部車体構造において、
前記第1支持部は、車両平面視において車両前後方向と車両内側に向かって屈曲形成されていて、この屈曲部を境にして、車両前後方向に延びる部位が前記アッパーフレームとの接合面を構成し、車両幅方向に延びる部位が前記カウルトップパネルとの接合面を構成していて、各接合面がそれぞれ前記アッパーフレームと前記カウルトップパネルに溶接により結合されていることを特徴とする車両の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−60088(P2013−60088A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199271(P2011−199271)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】