説明

車両の前部車体

【課題】フロントサイドフレームを複数の段階に変形させて、フロントサイドフレームの前端部に入力した衝撃荷重を十分に吸収することができる車両の前部車体を提供する。
【解決手段】車両の前部車体10は、左右のフロントサイドフレーム12のフレーム部31が断面略矩形状に形成されている。フレーム部の前部31aに初期折れ領域部32が形成されている。また、前補強部材33の前補強底部62に対して後補強部材34の後補強底部72が所定間隔Sをおいて設けられることで不連続部81が設けられている。さらに、前補強部材の前補強壁部61より後補強部材の後補強壁部71が上方に張り出されている。これにより、前補強部材および後補強部材間に後期折れ領域部35が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の左右側にフロントサイドフレームが設けられ、左右のフロントサイドフレームのフレーム部が車体前後方向に向けて延出されるとともに断面略矩形状に形成された車両の前部車体に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の前部車体のなかには、車体両側に設けられたフロントサイドフレームが車体前後方向に向けて延出され、フロントサイドフレームの内部に前補強部材および後補強部材が車体前後方向に所定間隔をおいて設けられ、前後の補強部材間にノッチが設けられたものが知られている。
【0003】
このフロントサイドフレームによれば、前後の補強部材間にノッチを設けることで、フロントサイドフレームの前端部に車両前方から衝撃荷重が入力した場合に、ノッチでフロントサイドフレームに曲げ変形が発生することを許容している。
フロントサイドフレームに曲げ変形が発生することで、フロントサイドフレームの前端部に入力した衝撃荷重を吸収することが可能である(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
ところで、特許文献1のフロントサイドフレームを複数の段階に変形させるために、前端部に前ビードを設けることが考えられる。
フロントサイドフレームの前端部に前ビードを設けることで、フロントサイドフレームの前端部に衝撃荷重が入力した場合、まず前ビードを圧縮変形(圧潰変形)させて衝撃荷重を吸収することが可能である。
さらに、前ビードを圧縮変形させ後、ノッチでフロントサイドフレームを曲げ変形させて残りの衝撃荷重を吸収することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−199751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1のフロントサイドフレームは前後の補強部材間にノッチが設けられている。よって、フロントサイドフレームの前端部に衝撃荷重が入力した場合に、前ビードを圧縮変形させる前に、ノッチでフロントサイドフレームが曲げ変形してしまうことが考えられる。
このため、フロントサイドフレームを複数の段階に変形させることが難しく、フロントサイドフレームに入力した衝撃荷重の吸収量を確保する工夫が必要とされていた。
【0007】
本発明は、フロントサイドフレームを複数の段階に変形させて、フロントサイドフレームの前端部に入力した衝撃荷重を十分に吸収することができる車両の前部車体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、車両の左右側にフロントサイドフレームが設けられ、前記フロントサイドフレームのフレーム部が車体前後方向に向けて延出され、前記フレーム部が外壁部、内壁部、頂部および底部で断面略矩形状に形成された車両の前部車体であって、前記フレーム部の前部に縦ビードで形成された初期折れ領域部と、前記初期折れ領域部の車体後方において前記フレーム部内に配置され、前記外壁部および前記内壁部の一方の壁部に設けられるとともに前記底部に設けられた前補強部材と、前記前補強部材の車体後方において前記フレーム部内に配置され、前記一方の壁部に設けられるとともに前記底部に設けられた後補強部材と、を備え、前記前補強部材のうち前記底部に設けられた部位に対して、前記後補強部材のうち前記底部に設けられた部位が車体前後方向に所定間隔をおいて設けられることで不連続部が設けられ、前記前補強部材のうち前記一方の壁部に設けられた部位より、前記後補強部材のうち前記一方の壁部に設けられた部位が上方に張り出され、前記前補強部材および前記後補強部材間に形成された後期折れ領域部を備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項2は、前記不連続部は、前記フロントサイドフレームが車幅方向外向きに突出するように曲げられた屈曲部に設けられたことを特徴とする。
【0010】
請求項3は、前記フレーム部の底部に、サブフレームを支える取付ブラケットが取付片で設けられ、前記取付片に沿って前記不連続部が設けられたことを特徴とする。
【0011】
請求項4は、前記フレーム部は、前記外壁部および前記内壁部の他方の壁部から下方に張り出された他方の接合片と、前記底部のうち前記他方の壁部側の端部から前記他方の接合片に沿って下方に張り出された一方の接合片と、を有し、前記前補強部材は、前記前補強部材のうち前記底部に設けられた部位から下方に張り出された接合片を有し、前記接合片が前記他方の接合片および前記一方の接合片間に挟持されたことを特徴とする。
【0012】
請求項5は、前記後補強部材は、前記フレーム部の傾斜部に設けられたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明では、フロントサイドフレームのフレーム部を外壁部、内壁部、頂部および底部で断面略矩形状に形成した。
また、外壁部および内壁部の一方の壁部と、底部とに沿って前補強部材および後補強部材を設けた。さらに、一方の壁部において前補強部材および後補強部材を結合部で連続させた状態に設け、底部において前補強部材および後補強部材間に不連続部を設けた。
加えて、一方の壁部において、前補強部材より後補強部材を上方に張り出すように形成した。
このように構成された前補強部材および後補強部材間を後期折れ領域部とした。
【0014】
よって、フロントサイドフレームの前端部に車体前方から衝撃荷重が入力した場合、一方の壁部のうち結合部に相当する部位(以下、鉛直折曲部位という)に応力を集中させて、一方の壁部の鉛直折曲部位を車幅方向に向けて好適に水平に折り曲げることができる。
すなわち、後期折れ領域部を車幅方向に向けて好適に水平に折り曲げることができる。
【0015】
さらに、一方の壁部において前補強部材より後補強部材が上方に張り出すことで、一方の壁部の鉛直折曲部位を後補強部材の前端部に沿った上下方向(鉛直方向)延びる部位とすることができる。
よって、後期折れ領域部を車幅方向に向けて一層好適に折り曲げることができる。
【0016】
このように、後期折れ領域部を車幅方向に向けて折り曲げることで、フロントサイドフレームに搭載されている動力源(エンジンや変速機など)が車体後方に移動することを防止できる。
これにより、動力源が車体後方に移動することを防いで、動力源でダッシュボードを車体後方に移動することを防止できる。
【0017】
また、後期折れ領域部は縦ビードを備えていない。よって、車体前方から入力した衝撃荷重に対して、後期折れ領域部の剛性を初期折れ領域部より高めることができる。
これにより、車体前方から衝撃荷重が入力した場合、まず初期折れ領域部を圧縮変形させ、つぎに後期折れ領域部を折り曲げることができる。
したがって、フロントサイドフレームを複数の段階に変形させることが可能になり、フロントサイドフレームの前端部に入力した衝撃荷重を十分に吸収することができる。
【0018】
請求項2に係る発明では、不連続部をフロントサイドフレームの屈曲部に設けた。屈曲部はフロントサイドフレームが車幅方向外向きに突出するように曲げられた屈曲部である。
これにより、フロントサイドフレームの前端部に車体前方から衝撃荷重が入力した場合に、入力した衝撃荷重で後期折れ領域部を車幅方向外側に向けて好適に折り曲げることができる。
【0019】
請求項3に係る発明では、フレーム部の底部に取付ブラケットを取付片で設け、取付片に沿わせて不連続部を設けた。
よって、不連続部に隣接する部位を取付片で補強することができる。
これにより、フロントサイドフレームの前端部に車体前方から衝撃荷重が入力した場合に、後期折れ領域部に応力を一層好適に集中させることができる。
したがって、入力した衝撃荷重で後期折れ領域部を車幅方向外側に向けて一層好適に折り曲げることができる。
【0020】
請求項4に係る発明では、前補強部材に接合片を有し、この接合片を下方に張り出した。さらに、張り出した接合片をフレーム部の他方の接合片および一方の接合片間に挟持させた。
よって、フレーム部のうち前補強部材が設けられた前長尺部(前水平フレーム部)の剛性を一層高めることができる。
【0021】
前水平フレーム部の剛性を前補強部材で高めることで、前水平フレーム部の車体後方に隣接する後期折れ領域部に応力を一層好適に集中させることができる。
これにより、入力した衝撃荷重で後期折れ領域部を車幅方向外側に向けて一層好適に折り曲げることができる。
【0022】
加えて、前水平フレーム部の剛性を前補強部材で高めることで、前水平フレーム部の幅寸法を小さく抑えることが可能になる。
よって、前水平フレーム部の車幅方向外側に前輪を配置した際に、前輪のレイアウト(配置)を決める際の設計の自由度を高めることができる。
【0023】
請求項5に係る発明では、フレーム部の傾斜部に後補強部材を設けた。フレーム部の傾斜部に後補強部材を設けことで、後補強部材でフレーム部の傾斜部(特に湾曲部)を補強できる。
よって、入力した衝撃荷重で後期折れ領域部を折り曲げる際に、傾斜部の湾曲部が車体後方に向けて変形することを抑えることができる。
【0024】
ここで、フレーム部の傾斜部からダッシュボードが上方に向けて立設されている。このダッシュボードでエンジンルームおよび車室が仕切る(区画する)されている。
これにより、傾斜部の湾曲部が車体後方に向けて変形することを抑えることによりダッシュボードが車体後方に移動することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る車両の前部車体を下方から見た状態を示す斜視図である。
【図2】図1の車両の前部車体を示す底面図である。
【図3】本発明に係る右フロントサイドフレームの一部を破断した状態を示す斜視図である。
【図4】図3の右フロントサイドフレームを示す分解斜視図である。
【図5】図3の5−5線断面図である。
【図6】図3の6−6線断面図である。
【図7】図4の7部拡大部である。
【図8】本発明に係る初期折れ領域部で衝撃荷重の一部を吸収する例を説明する図である。
【図9】本発明に係る後期折れ領域部で残りの荷重を吸収する例を説明する図である。
【図10】(a)は本発明に係る初期折れ領域部および後期折れ領域部で複数の段階に衝撃荷重を吸収する例を説明する斜視図、(b)は本発明に係る初期折れ領域部および後期折れ領域部で複数の段階に衝撃荷重を吸収した状態を説明する底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、「前(Fr)」、「後(Rr)」、「左(L)」、「右(R)」は運転者から見た方向にしたがう。
【実施例】
【0027】
実施例に係る車両の前部車体(車両の前部構造)10について説明する。
図1、図2に示すように、車両の前部車体10は、車体前後方向に向けて延出された左右のフロントサイドフレーム12と、左右のフロントサイドフレーム12の車幅方向外側に設けられた左右のフロントアッパメンバ13(右側のみを示す)と、左右のフロントサイドフレーム12の底部に設けられた取付ブラケット15と、左右の取付ブラケット15に支持されたサブフレーム18とを備えている。
【0028】
車両の前部車体10は略左右対称に形成されているので、以下、車両の前部車体10の左側の部材(部位を含む)および右側の部材(部位を含む)に同じ符号を付して、左側の部材(部位)の説明を省略する。
【0029】
右フロントサイドフレーム12は、車両の前部右側において、左フロントサイドフレーム12に対して車幅方向に所定間隔をおいて設けられている。
左フロントサイドフレーム12は、車両の前部左側に設けられている。
【0030】
この右フロントサイドフレーム12は、車体前後方向に向けて延出され、前水平フレーム部(前長尺部)21、傾斜フレーム部(傾斜部)22、後水平フレーム部23および屈曲部24を有する。
【0031】
前水平フレーム部21は、右フロントサイドフレーム12の前端部12aから屈曲部24まで車体後方に向けて略水平に延出されている。
傾斜フレーム部22は、屈曲部24からクロスメンバ25まで車体後方に向けて下り勾配の傾斜状に延出されるとともに、車幅方向中央に向けて横向き傾斜状に延出されている。
傾斜フレーム部22の途中に後屈曲部39が設けられている。
傾斜フレーム部22から上方に向けてダッシュボード26が立設されている。
このダッシュボード26でエンジンルームおよび車室が仕切る(区画する)されている。
【0032】
前水平フレーム部21および傾斜フレーム部22が交差する部位に屈曲部24が形成されている。
屈曲部24は、左フロントサイドフレーム12が上向きに突出するように、かつ車幅方向外向きに突出するように曲げられた部位である。
後屈曲部39は、屈曲部24の車体後方において傾斜フレーム部22に設けられ、車幅方向内向きに突出するように曲げられた部位である。
【0033】
後水平フレーム部23は、傾斜フレーム部22の後端部22aから車体後方に向けて略水平に延出されている。
後水平フレーム部23の後端部23aに右フロアフレーム27が連結されている。
さらに、傾斜フレーム部22の後端部22aに右アウトリガー28を介して右サイドシルが連結されている。
【0034】
図3に示すように、右フロントサイドフレーム12は、断面略矩形状に形成されたフレーム部31と、フレーム部31の前部31aに形成された初期折れ領域部32と、初期折れ領域部32の車体後方に設けられた前補強部材33と、前補強部材33の車体後方に設けられた後補強部材34と、前補強部材33および後補強部材34間に形成された後期折れ領域部35とを備えている。
【0035】
フレーム部31は、車体前後方向に向けて延出され、フレーム外壁部(外壁部、他方の壁部)41と、フレーム内壁部(内壁部、一方の壁部)42、フレーム頂部(頂部)43およびフレーム底部(底部)44で断面略矩形状に形成されている。
【0036】
図4に示すように、フレーム部31は、車幅方向外側に設けられた外側パネル46と、外側パネル46より車幅方向内側に設けられた内側パネル51とに2分割されている。
【0037】
図5に示すように、外側パネル46は、車幅方向外側に設けられたフレーム外壁部41と、フレーム外壁部41の上端41aから上方に向けて張り出された外上張出片47と、フレーム外壁部41の下端41bから下方に向けて張り出された外下張出片(他方の接合片)48とを有する。
この外側パネル46は、フレーム外壁部41、外上張出片47および外下張出片48で断面略I字状に形成されている。
【0038】
内側パネル51は、フレーム外壁部41より車幅方向内側に設けられたフレーム内壁部42と、フレーム内壁部42の上端42aから車幅方向外側に折り曲げられたフレーム頂部43と、フレーム内壁部42の下端42bから車幅方向外側に折り曲げられたフレーム底部44とを有する。
さらに、内側パネル51は、フレーム頂部43の外端43aから上方に向けて張り出された内上張出片52と、フレーム底部44の外端(端部)44aから下方に向けて張り出された内下張出片(一方の接合片)53とを有する。
【0039】
この内側パネル51は、フレーム内壁部42、フレーム頂部43およびフレーム底部44で断面略コ字状に形成されている。
【0040】
外側パネル46の外上張出片47および内側パネル51の内上張出片52が溶接で接合されている。また、外側パネル46の外下張出片48および内側パネル51の内下張出片53が溶接で接合されている。
これにより、外側パネル46および内側パネル51が一体に接合されてフレーム部31が形成されている。
【0041】
図4、図5に示すように、フレーム部31は、範囲E1において、外上張出片47および内上張出片52間にホイールハウス29の下端部29aが挟持されている。
また、フレーム底部44のうち傾斜フレーム部22の前端部44bに取付ブラケット15が設けられている。よって、取付ブラケット15は、不連続部81(図7参照)に近接させた状態に設けられている。
この取付ブラケット15は、上端部15aに複数の取付片16が設けられている。
【0042】
取付片16がフレーム底部44に溶接で接合されることにより、取付ブラケット15が傾斜フレーム部22のフレーム底部44に取り付けられている。
この状態で、複数の取付片16のうち車体前方側に設けられた取付片16の前端部16aが不連続部81(図3、図7も参照)に沿って設けられている。
この取付ブラケット15にサブフレーム18(図1参照)が取り付けられている。
【0043】
図1に示すサブフレーム18は、ステアリングギヤボックスなどが搭載可能で、動力源(エンジンや変速機など)がトルクロッドを介して連結可能な部材である。
【0044】
図3、図4に示すように、フレーム部31の前部31aに初期折れ領域部32が形成されている。
初期折れ領域部32は、フレーム外壁部41の前部に複数の外側縦ビード(縦ビード)56が設けられ、フレーム内壁部42の前部に複数の内側縦ビード(縦ビード)57が設けられている。
これにより、右フロントサイドフレーム12の前端部12aに車体前方から衝撃荷重が入力した場合、初期折れ領域部32を好適に圧縮変形(圧潰変形)させることができる。
【0045】
初期折れ領域部32の車体後方に前補強部材33が設けられている。
よって、前補強部材33は、前端部33aが初期折れ領域部32に対して車体後方に間隔Lだけ離れて設けられている。
【0046】
図4、図5に示すように、前補強部材33は、フレーム部31内において前水平フレーム部21に設けられている。
詳しくは、前補強部材33は、フレーム内壁部42の下部42cに沿って設けられた前補強壁部61と、前補強壁部61の底部61aから車幅方向外側に向けて折り曲げられた前補強底部62と、前補強底部62の外端62aから下方に向けて折り曲げられた前補強挟持片(接合片)63とを有する。
【0047】
この前補強部材33は、前補強壁部61、前補強底部62および前補強挟持片63で断面略クランク状に形成されている。
前補強壁部61は、フレーム内壁部42の下部42cに沿って溶接で接合されている(設けられている)。
前補強底部62は、フレーム底部44に沿って溶接で接合されている(設けられている)。
【0048】
すなわち、前補強部材33は、フレーム内壁部42に設けられるとともにフレーム底部44に設けられている。
さらに、前補強挟持片63は、フレーム部31の範囲E2において、内下張出片53に沿って設けられている。
この前補強挟持片63は、内下張出片53および外下張出片48に溶接で接合されることで、内下張出片53および外下張出片48間に挟持されている。
【0049】
よって、前水平フレーム部21の剛性が前補強部材33で高められている。
これにより、図2に示すように、前水平フレーム部21の幅寸法W1を小さく抑えることが可能になる。
よって、前水平フレーム部21の車幅方向外側に前輪66を配置した際に、前輪66のレイアウト(配置)を決める際の設計の自由度を高めることができる。
【0050】
図4、図6に示すように、前補強部材33の車体後方に後補強部材34が設けられている。
後補強部材34は、フレーム部31内において傾斜フレーム部22に設けられている。
詳しくは、後補強部材34は、フレーム内壁部42に沿って設けられた後補強壁部71と、後補強壁部71の下部71aから車幅方向外側に向けて折り曲げられた後補強底部72と、後補強底部72の外端72aから斜め上方に向けて折り曲げられた後補強曲片73とを有する。
【0051】
この後補強部材34は、後補強壁部71、後補強底部72および後補強曲片73で断面略L字状に形成されている。
後補強壁部71は、フレーム内壁部42に沿って溶接で接合されている(設けられている)。
後補強底部72は、フレーム底部44に沿って溶接で接合されている(設けられている)。
すなわち、後補強部材34は、フレーム内壁部42に設けられるとともにフレーム底部44に設けられている。
よって、傾斜フレーム部22の剛性を後補強部材34で一層高めることができる。
【0052】
図3、図7に示すように、前補強部材33および後補強部材34間に、すなわち屈曲部24に後期折れ領域部35が形成されている。
後期折れ領域部35は、前補強部材33および後補強部材34間に不連続部81が設けられ、前補強壁部61より後補強壁部71が上方に張り出され、前補強壁部61の後端部61bが接合部(結合突片)84で後補強壁部71の前端部71bに結合された状態に形成されている。
【0053】
不連続部81は、前補強底部62の後端部62bに対して後補強底部72の前端部72bが車体前後方向に所定間隔Sをおいて設けられることで形成されている。
この不連続部81は、右フロントサイドフレーム12の屈曲部24に設けられ、かつ、取付片16の前端部16aに沿って設けられている。
【0054】
ここで、前補強壁部61の後端部61bから接合部84が車体後方(すなわち、後補強壁部71の前端部71b)に向けて突出されている。
接合部84は、前補強底部62および後補強底部72間の所定間隔Sを超えて後補強壁部71の前端部71bまで突出されている。
この接合部84は、先端部84aが後補強壁部71の前端部71bに溶接で接合されている。
よって、前補強壁部61および後補強壁部71が接合部84を介して連結されている。
【0055】
前補強壁部61は、前補強底部62から上方に向け張り出されることで高さ寸法H1に形成されている。
後補強壁部71は、後補強底部72から上方に向け張り出されることで高さ寸法H2に形成されている。
前補強壁部61の高さ寸法H1より後補強壁部71の高さ寸法H2を大きく設定することで、前補強壁部61より後補強壁部71が上方に張り出されている。
【0056】
このように、後期折れ領域部35は、前補強部材33および後補強部材34間に不連続部81が設けられ、前補強壁部61より後補強壁部71が上方に張り出されている。
この後期折れ領域部35は、前補強部材33および後補強部材34で車体前後方向が補強されている。
さらに、後期折れ領域部35は屈曲部24に設けられている。
よって、右フロントサイドフレーム12の前端部12aに車体前方から衝撃荷重が入力した場合、後期折れ領域部35に応力を集中させて後期折れ領域部35を車幅方向外側に向けて折り曲げることができる。
【0057】
加えて、前補強壁部61より後補強壁部71を上方に張り出すことで、後期折れ領域部35が車体後方に向けて斜め後方に折れ曲がることを後補強壁部71の前端部71bで防止できる。
すなわち、後期折れ領域部35を、フレーム内壁部42の鉛直折曲部位36(想像線で示す)で車幅方向外側に向けて横向き(水平)に確実に折り曲げることができる。
鉛直折曲部位36は、後補強部材71の前端部71bに沿った上下方向(鉛直方向)延びる部位である。
【0058】
よって、右フロントサイドフレーム12に搭載されている動力源(エンジンや変速機など)が車体後方に移動することを防止できる。
これにより、動力源が車体後方に移動することを防いで、動力源でダッシュボード26を車体後方に移動することを防止できる。
【0059】
また、後期折れ領域部35は、縦ビード56,57(縦ビード56は図4参照)を備えていない。よって、車体前方から入力した衝撃荷重に対して、後期折れ領域部35の剛性を初期折れ領域部32より高めることができる。
さらに、不連続部81は右フロントサイドフレーム12の屈曲部24に設けられている。屈曲部24は右フロントサイドフレーム12が車幅方向外側に向けて突出するように曲げられている。
【0060】
これにより、車体前方から衝撃荷重が入力した場合、まず初期折れ領域部32を圧縮変形させ、初期折れ領域部32を圧縮変形させた後、後期折れ領域部35を車幅方向外側に向けて好適に折り曲げることができる。
【0061】
加えて、フレーム底部44に取付ブラケット15が取付片16で設けられ、取付片16の前端部16aに沿わせて不連続部81が設けられている。
よって、不連続部81に隣接する部位が取付片16で補強されている。
これにより、右フロントサイドフレーム12の前端部12aに車体前方から衝撃荷重が入力した場合に、後期折れ領域部35に応力を一層好適に集中させることができる。
したがって、入力した衝撃荷重で後期折れ領域部35を車幅方向外側に向けて一層好適に折り曲げることができる。
【0062】
また、フレーム部31は、範囲E2において、外下張出片48および内下張出片53間に前補強挟持片63が挟持されることで、前水平フレーム部21の剛性が高められている。
前水平フレーム部21の剛性を前補強部材33で高めることで、前水平フレーム部21の車体後方に隣接する後期折れ領域部35に応力を一層好適に集中させることができる。
これにより、入力した衝撃荷重で後期折れ領域部35を車幅方向外側に向けてさらに好適に折り曲げることができる。
【0063】
さらに、傾斜フレーム部22に後補強部材34が設けられることにより後補強部材で傾斜フレーム部22(特に湾曲部22b)が補強されている。
よって、入力した衝撃荷重で後期折れ領域部35を折り曲げる際に、湾曲部22bが車体後方に向けて変形することを抑えることができる。
このように、湾曲部22bの車体後方への変形を抑えることでダッシュボード26が車体後方に移動することを防止できる。
【0064】
つぎに、左フロントサイドフレーム12の前端部12aで衝撃荷重F1を吸収する作用を図8〜図10に基づいて説明する。
なお、図9、図10(a)においては、左フロントサイドフレーム12で衝撃荷重F1を吸収する際の理解を容易にするために内側パネル51を外した状態を示す。
【0065】
図8(a)に示すように、左フロントサイドフレーム12の前端部12aに車体前方から衝撃荷重F1が入力する。
【0066】
図8(b)に示すように、左フロントサイドフレーム12の前端部12aに衝撃荷重F1が入力することで、初期折れ領域部32が圧縮変形する。
初期折れ領域部32が圧縮変形することで衝撃荷重F1の一部を吸収する。
初期折れ領域部32で吸収されなかった残りの荷重F2が前水平フレーム部21を経て後期折れ領域部35に伝えられる。
【0067】
図9(a)に示すように、後期折れ領域部35は、前補強部材33および後補強部材34間に不連続部81が設けられている。
さらに、後期折れ領域部35は、前補強壁部61の後端部61bより後補強壁部71の前端部71bが上方に張り出されている。
【0068】
図9(b)に示すように、前補強部材33および後補強部材34間に不連続部81が設けられることで、後期折れ領域部35に応力が集中して不連続部81が変形する。
ここで、後期折れ領域部35は屈曲部24に設けられている。この屈曲部24は車幅方向外側に向けて折り曲げられている。
よって、左フロントサイドフレーム12が車幅方向外側に向けて折り曲げられる。
【0069】
ところで、前補強壁部61の後端部61bより後補強壁部71の前端部71bが上方に張り出されている。
よって、左フロントサイドフレーム12が後期折れ領域部35で車幅方向外側に向けて折り曲げられる際に、フレーム内壁部42(図8参照)のうち後補強壁部71の前端部71bに沿った鉛直折曲部位36(想像線で示す)で確実に折り曲げられる。
これにより、後期折れ領域部35が車幅方向外側に向けて矢印Aの如く好適に横向きに折り曲げられる。
【0070】
図10(a)に示すように、フレーム内壁部42(図8(b)参照)のうち前補強部材33の前端部33aに相当する前部位37は応力が集中する部位である。
さらに、後屈曲部39(図2も参照)は、車幅方向内向きに突出するように曲げられている。
よって、後期折れ領域部35が折り曲げられることで、前部位37が車幅方向に横向きに折り曲げられるとともに、後屈曲部39が車幅方向に横向きに折り曲げられる。
このように、後期折れ領域部35が折り曲げられるとともに、前部位37および後屈曲部39が折り曲げられることで残りの荷重F2が吸収される。
【0071】
図10(b)に示すように、右フロントサイドフレーム12の初期折れ領域部32を圧縮変形させ、つぎに後期折れ領域部35(鉛直折曲部位37や後屈曲部39を含む)を折り曲げることで、右フロントサイドフレーム12を複数の段階に変形させることができる。
このように、右フロントサイドフレーム12を複数の段階に変形させることで、右フロントサイドフレーム12の前端部12aに入力した衝撃荷重F1を十分に吸収することができる。
【0072】
また、後期折れ領域部35を車幅方向外側に向けて矢印Aの如く横向きに折り曲げるとともに鉛直折曲部位37や後屈曲部39を車幅方向に折り曲げることで、右フロントサイドフレーム12に搭載されている動力源(エンジンや変速機など)が車体後方に移動することを防止できる。
これにより、動力源が車体後方に移動することを防いで、動力源でダッシュボード26(図3参照)を車体後方に移動することを防止できる。
【0073】
なお、本発明に係る車両の前部車体は、前述した実施例に限定されるものではなく適宜変更、改良などが可能である。
例えば、前記実施例では、前補強部材33および後補強部材34をフレーム内壁部42に設けた例について説明したが、これに限らないで、前補強部材33および後補強部材34をフレーム外壁部41に設けることも可能である。
【0074】
また、前記実施例で示した車両の前部車体10、左右のフロントサイドフレーム12、取付ブラケット15、傾斜フレーム部22、屈曲部24、フレーム部31、初期折れ領域部32、前補強部材33、後補強部材34、後期折れ領域部35、外側縦ビード56および内側縦ビード57などの形状や構成は例示したものに限定するものではなく適宜変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、左右のフロントサイドフレームのフレーム部が車体前後方向に向けて延出され、さらにフレーム部が断面略矩形状に形成された自動車への適用に好適である。
【符号の説明】
【0076】
10…車両の前部車体、12…左右のフロントサイドフレーム(フロントサイドフレーム)、12a…左右のフロントサイドフレームの前端部、15…取付ブラケット、16…取付片、22…傾斜フレーム部(傾斜部)、24…屈曲部、31…フレーム部、31a…フレーム部の前部、32…初期折れ領域部、33…前補強部材、34…後補強部材、35…後期折れ領域部、41…フレーム外壁部(外壁部、他方の壁部)、42…フレーム内壁部(内壁部、一方の壁部)、43…フレーム頂部(頂部)、44…フレーム底部(底部)、48…外下張出片(他方の接合片)、53…内下張出片(一方の接合片)、56…外側縦ビード(縦ビード)、57…内側縦ビード(縦ビード)、61…前補強壁部(前補強部材のうち一方の壁部に設けられた部位)、62…前補強底部(前補強部材のうち底部に設けられた部位)、63…前補強挟持片(接合片)、71…後補強壁部(後補強部材のうち前記一方の壁部に設けられた部位)、72…後補強底部(後補強部材のうち底部に設けられた部位)、81…不連続部、S…所定間隔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の左右側にフロントサイドフレームが設けられ、前記フロントサイドフレームのフレーム部が車体前後方向に向けて延出され、前記フレーム部が外壁部、内壁部、頂部および底部で断面略矩形状に形成された車両の前部車体であって、
前記フレーム部の前部に縦ビードで形成された初期折れ領域部と、
前記初期折れ領域部の車体後方において前記フレーム部内に配置され、前記外壁部および前記内壁部の一方の壁部に設けられるとともに前記底部に設けられた前補強部材と、
前記前補強部材の車体後方において前記フレーム部内に配置され、前記一方の壁部に設けられるとともに前記底部に設けられた後補強部材と、
を備え、
前記前補強部材のうち前記底部に設けられた部位に対して、前記後補強部材のうち前記底部に設けられた部位が車体前後方向に所定間隔をおいて設けられることで不連続部が設けられ、
前記前補強部材のうち前記一方の壁部に設けられた部位より、前記後補強部材のうち前記一方の壁部に設けられた部位が上方に張り出され、
前記前補強部材および前記後補強部材間に形成された後期折れ領域部を備えたことを特徴とする車両の前部車体。
【請求項2】
前記不連続部は、
前記フロントサイドフレームが車幅方向外向きに突出するように曲げられた屈曲部に設けられたことを特徴とする請求項1記載の車両の前部車体。
【請求項3】
前記フレーム部の底部に、サブフレームを支える取付ブラケットが取付片で設けられ、
前記取付片に沿って前記不連続部が設けられたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の車両の前部車体。
【請求項4】
前記フレーム部は、
前記外壁部および前記内壁部の他方の壁部から下方に張り出された他方の接合片と、
前記底部のうち前記他方の壁部側の端部から前記他方の接合片に沿って下方に張り出された一方の接合片と、
を有し、
前記前補強部材は、
前記前補強部材のうち前記底部に設けられた部位から下方に張り出された接合片を有し、
前記接合片が前記他方の接合片および前記一方の接合片間に挟持されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の車両の前部車体。
【請求項5】
前記後補強部材は、前記フレーム部の傾斜部に設けられたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の車両の前部車体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−32041(P2013−32041A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167869(P2011−167869)
【出願日】平成23年7月30日(2011.7.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】