説明

車両の前部領域における対象の衝突領域の幅を識別するための方法と制御装置

本発明は、車両(100)の前部領域(110)における対象(170)の衝突領域(175)の幅を識別するための方法(90)に関する。本方法は、車両(100)の左前部領域内に取り付けられている第1の変形エレメント(130)の複数のコンポーネントの相互の間隔の変化を表す第1の変形エレメント信号(400)を受信するステップ(92)と、車両の右前部領域内に取り付けられている第2の変形エレメント(140)の複数のコンポーネントの相互の間隔の変化を表す第2の変形エレメント信号(410)を取得するステップ(94)と、第1の変形エレメント信号(400)が所定の閾値レベル(430)を超えて第2の変形エレメント信号(410)から偏差する場合には、対象(170)と車両(100)の衝突領域(175)の幅が短いオフセット衝突を識別するステップ(96)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1に記載されている方法、請求項10に記載されている制御装置及び請求項11に記載されているコンピュータプログラム製品に関する。
【0002】
パッセンジャーセルが車両に導入されて以来、車両安全性が飛躍的に進歩した。能動的及び受動的なセキュリティコンポーネントを使用することによって、道路交通における死亡者数を大幅に低減することができた。事故の大部分は、重傷者乃至複数の死者を出す車両と車両の正面衝突である。従来では、100%から40%のオーバーラップでの正面衝突に関する消費者保護テストの採用並びに法的な要求によって、事故結果の緩和に関する実質的な改善が達成されていた。しかしながらこれによって、近年では他のタイプの衝突及び別のテーマに関心が集まってきている。その種の新たなテーマの一つとして、相手方のより強化された保護及び改善された衝突適合性が考えられる。
【0003】
基本的に、車両の受動的なセキュリティの展開プロセスにおいては自衛が重要である。これは、車両同士の衝突においても他の対象との衝突においても車両内の乗員を保護する車両の特性である。これに対して、相手方の保護(これは車両同士の衝突において対向車両の乗員を保護する車両の特性である)は、相手に与える衝撃を可能な限り弱めることが重要である。二つの特性は衝突適合性において組み合わされる。この組み合わせは、列を成す複数の車両における全体の危険が最小になるように、他の運転者や歩行者に与える衝撃が小さい場合の自衛の高い基準を表す。適合性が改善されても個々の車両の自衛に過度の負荷を与えてはならないということは共通の見解である。
【0004】
事故データに基づいて、確かに今日行なわれている衝突テストが自衛を大幅に改善したことを証明できるが、もっともそれと同時に相手方の保護は低下している。その結果、将来的には、車両の適合性特性をより良好に評価できるようにするために、正面衝突のケースに関する新たな消費者保護テストが実施されると考えられる。実際に車両のより高い適合性を達成するために、将来的には車両の前部構造及び後部構造に介入制御が行なわれることが考えられる。これに関しては既に複数のアプローチが存在しており、それらは従来技術とみなすことができる。
【0005】
DE 10 2004 036 836 A1には、第1の力吸収ユニットと、所定の力値を上回る作用力を吸収することができる、少なくとも一つの第2の力吸収ユニットと、変形エレメントに作用する力を検出するセンサとを備えている、車両用の変形エレメントが開示されている。従って変形エレメントは、衝突対象、特に歩行者に適合されており、且つ、歩行者が負傷する危険を低減する吸収特性を有している。
【0006】
発明の開示
上記の背景のもとに、本発明によれば、独立請求項に記載されている方法、並びにこの方法を使用する制御装置、更には相応のコンピュータプログラム製品が提供される。有利な実施の形態はそれぞれの従属請求項及び以下の説明より明らかになる。
【0007】
本発明によれば、車両の前部領域における対象の衝突領域の幅を識別するための方法が提供され、この方法は以下のステップを備えている:
−車両の左前部領域内に取り付けられている第1の変形エレメントの複数のコンポーネントの相互の間隔の変化を表す第1の変形エレメント信号を受信するステップ;
−車両の右前部領域内に取り付けられている第2の変形エレメントの複数のコンポーネントの相互の間隔の変化を表す第2の変形エレメント信号を受信するステップ;
−第1の変形エレメント信号が所定の閾値レベルを超えて第2の変形エレメント信号から偏差する場合には、対象と車両の衝突領域の幅が短いオフセット衝突を識別するステップ。
【0008】
変形エレメントとは、例えば対象が車両に衝突した際に可逆性又は不可逆性に変形するエネルギ吸収エレメントであると解される。変形によってエネルギが吸収され、またこのようにして、対象の車両への衝突(又は反対に車両の対象への衝突)が弱められる。変形エレメントを例えば、対象としての他の車両又は木への衝突時に歪み、且つその際に衝突エネルギのある程度の割合を吸収する、ひだ状の薄板構造から構成することができる。本発明の対象には、可逆性又は適応形の切り換え可能な変形エレメントも含まれる。それらの変形エレメントは既に研究されており、また、分類された状況に応じて変形エレメントを制御するための、既に組み込まれているセンサ系の利点を提供するものである。これによって、事故時に車両乗員又は歩行者の負傷を最小限にすることができる。オフセット衝突とは、対象の車両への衝突領域が車両前部全体にわたっては広がっていない、対象と車両の衝突であると解される。むしろ、その種のオフセット衝突では、対向してくる対象は車両前部の一部の領域にしか衝突しない。
【0009】
本発明によれば、更に、本発明の方法を実施又は使用するために構成されている制御装置が提供される。制御装置の形態の本発明のこの変形の形態によっても、本発明の基礎となる課題を迅速且つ効率的に解決することができる。
【0010】
本発明においては、制御装置とは、センサ信号を処理してそのセンサ信号に依存して制御信号を出力する電気的な装置であると解される。制御装置はインタフェースを有することができ、このインタフェースはハードウェア及び/又はソフトウェアで構成することができる。ハードウェアにより構成されている場合には、インタフェースは例えば、制御装置の種々の機能を含むいわゆるシステムASICの一部で良い。しかしながら、インタフェースは固有の集積回路であっても良く、また、少なくとも部分的に離散的な構成素子から構成されているものであっても良い。ソフトウェアにより構成されている場合には、インタフェースは、例えば他のソフトウェアモジュールと並列してマイクロコントローラに設けられているソフトウェアモジュールで良い。
【0011】
半導体メモリ、ハードディスク記憶装置又は光学的な記憶装置のような機械により読み出し可能な担体に記憶されており、プログラムが制御装置において実行される場合には上記の実施の形態の内の一つの実施の形態による方法を実施するために使用されるコンピュータプログラム製品も有利である。
【0012】
本発明は、既存の変形エレメント及びこの変形エレメントにおけるセンサユニットを非常に簡単に付加的な利用のために更に使用するという知識を基礎としている。走行方向において車両の右側にある変形エレメントにおけるセンサからの信号が、走行において車両の左側にある変形エレメントにおけるセンサから供給された信号と結合される。車両の右側における第1の変形エレメントからの信号は、例えば、この第1の変形エレメントの二つのコンポーネントの間隔変化を表すことができるか、又は、第1の変形エレメントのそれら二つのコンポーネントが相互に移動している速度、もしくは、その速度から導出される別のパラメータ、例えば加速度も表すことができる。同様に、車両の左側における第2の変形エレメントからの信号は、例えば同様に、この第2の変形エレメントの二つのコンポーネントの間隔変化を表すことができるか、又は、第2の変形エレメントのそれら二つのコンポーネントが相互に移動している速度、もしくは、その速度から導出される別のパラメータ、例えば加速度も表すことができる。対向車両のような対象が車両前部の小さいオーバーラップ領域においてのみ自車両に衝突すると、二つの変形エレメントに不均一な負荷が掛けられる。対向してくる対象の衝突に大きく関係している、車両の面に設けられている変形エレメントは、対向してくる対象の衝突に余り関係していないか、全く関係していない車両の面に設けられている変形エレメントよりも遥かに大きく変形する。この理由から、車両の前部領域に衝突する対象の(最大)衝突幅が小さいオフセット衝突の検出は、第1の変形エレメント及び第2の変形エレメントからの相応の信号を評価することによって非常に簡単に達成することができる。このことを、例えば、第1の変形エレメント信号の値が所定の閾値を超えて第2の変形エレメント信号の値から偏差していることが識別されることによって実施することができる。また、例えば差分形成によって、第1の変形エレメント信号を第2の変形エレメント信号と結合させて結合信号を取得し、続けて、結合信号の絶対値が閾値を上回っているか又は下回っているかについて検査することができる。
【0013】
即ち、二つの変形エレメント信号を比較することによって、又はそれら二つの信号を結合させて、続けて結合結果を閾値と比較することによって、二つの変形エレメントの内の一方の変形エレメントの変形が二つの変形エレメントの内の他方の変形エレメントの変形よりも実質的に大きいことを識別することができる。このことから、対向してきた対象は最初に車両前部の幅全体にわたって車両に衝突して車両の構造に侵入したのではなく、最初に車両前部の一部の領域でしか車両に衝突していない、即ち、より大きい変形を被る変形エレメントが配置されている車両前部の一部でしか車両に衝突していないことを推定することができる。適切な比較閾値を選択することによって、自身の車両の車両前部と対向する車両の車両前部とがどれ程の大きさでオーバーラップして衝突したかの経験値を実験室において識別することができる。対向してくる対象と車両前部との衝突領域のオーバーラップが大きくなればなる程、二つの変形エレメントが被る変形は近くなるので、二つの変形エレメントのコンポーネントの間隔変化に関して類似の信号値又はほぼ等しい信号値を予測することができる。この場合には、第1の変形エレメント信号と第2の変形エレメント信号との結合により、所定の閾値を上回る絶対値を有している結合信号をもはや供給しない。
【0014】
本発明は、既存の既に取り付けられているコンポーネントを、車両の安全性のための付加的な利用を実現するために、簡単なやり方で十分に利用することができるという利点を提供する。例えば、車両に衝突した対象が比較的小さいオーバーラップ領域でしか車両に衝突しない場合には、車両が衝突後に回転することが仮定される。この場合には、対向してくる車両と車両の前部領域とのオーバーラップ領域が非常に大きい前部衝突時に必要とされる乗員保護手段とは異なる別の乗員保護手段が起動されることになる。
【0015】
本発明の好適な実施の形態においては、結合信号を取得するために第1の変形エレメント信号を第2の変形エレメント信号と結合させるステップが更に設けられており、この際に識別ステップにおいては、結合信号の絶対信号レベル値が所定の閾値を上回る値を有している場合には、対象が車両に衝突する領域の最大幅よりも小さい幅が識別される。本発明のその種の実施の形態においては、第1の変形エレメント信号及び第2の変形エレメント信号に関して技術的に非常に簡単に実施できる評価を実現することができるという利点を提供する。この評価の際には、異なるオーバーラップ領域を表す異なる閾値レベルとの比較を実現することができる。
【0016】
本発明の好適な実施の形態においては、結合のステップにおいて第1の変形エレメント信号の値と第2の変形エレメント信号の値の差形成、和形成、積形成及び/又は商形成が実施される。本発明のその種の実施の形態は、技術的に非常に簡単且つ高速に実施できる結合信号の決定を実現することができるという利点を提供する。従って、本発明を実施するための付加的な計算ユニット又は比較的大きく且つより性能の高い計算ユニットを設けることを省略することができる。当業者であれば、例えば通常の場合はフィルタ段においても実施される、第1の変形エレメント信号及び第2の変形エレメント信号の既に前もって処理された値も評価に使用できることが分かる。
【0017】
識別のステップにおいては、結合信号の絶対値が所定の閾値を下回るが、しかしながら所定の第2の閾値を上回る値を有している場合には、対象の車両への衝突領域の平均的な幅が識別される。本発明のその種の実施の形態では、異なるレベルの複数の閾値が使用されることによって、対向してくる対象の幅と自身の車両の前部幅とのオーバーラップの種々の度合いを規定することができる。
【0018】
許容差領域内において0の値前後にある信号レベル値を結合信号が有していれば、識別のステップにおいて、対象が車両に衝突する領域の大きい幅が識別される場合にも有利である。本発明のその種の実施の形態は、対象が車両のほぼ全幅にわたって車両に衝突する、対象の車両への正面衝突も識別することができるという利点を提供する。この場合には、車両前部に衝突する対象のどの程度のオーバーラップ幅が識別されたかに応じて、車両の乗員のための種々の乗員保護手段を種々に駆動制御することができる。考慮すべき許容差領域は、第1の変形エレメント信号又は第2の変形エレメント信号の評価のために評価ユニットにおいて使用される値領域の約15%を有することができる。
【0019】
更には、車両の走行方向において正の加速度を表す別の信号が、許容差範囲内で0の値前後の信号値を有している結合信号と共に得られる場合には、識別のステップにおいては、対象の車両への後面衝突も識別することができる。本発明のその種の実施の形態は、本発明を更に後部衝突の妥当性検査のためにも使用できるという利点を提供する。即ち、対象の車両への後面衝突の場合には車両前部の変形は検出されないので、第1の変形エレメント及び/又は第2の変形エレメントの変形も予測されない。それにもかかわらず、後方からの衝突によって、検出可能な加速度が車両に作用するので、この正の加速度と、許容差領域内で0の値に対応する結合信号の信号レベル値との結合(例えばAND結合)により、そのようにして発生した後面衝突を推定することができる。考慮すべき許容差領域は、第1の変形エレメント信号又は第2の変形エレメント信号の評価のために評価ユニットにおいて使用される値領域の約15%を有することができる。更には、補完的又は代替的な別の実施の形態においては、第2の許容差を考慮することができる。第2の許容差は、考慮される時間的なパラメータである。この第2の許容差は、別の結合段(例えばAND結合の形態)において比較される、カウンタユニットを介して実現することができる。このことは、例えば渋滞の状況において更なる衝突が生じる危険があるので必要になる。この場合には、後部領域において最初の衝突が発生し、続いて前部領域において別の二次衝突が発生する。しかしながら、前方車両との間隔に基づき、衝突の前に生じる0.5秒未満の範囲にある時間的な制限を考慮しなければならない。
【0020】
車両乗員に関する安全性を更に高めるために、本方法は更に評価された結合信号に応じて、車両の車両乗員保護ユニットに関する制御信号を出力するステップを有することができる。
【0021】
本発明の別の実施の形態によれば、識別のステップにおいて、更に、第1及び/又は第2の変形エレメント信号の信号振幅が所定の評価時間内で所定の振幅差よりも大きく変化する場合には、対象の車両への衝突の所定の重度が識別される。本発明のその種の実施の形態は、受信した第1の変形信号エレメント又は受信した第2の変形エレメント信号が付加的に評価されるという利点を提供する。この際に、既に受信した信号を付加的な評価判定基準に従い評価することができるので、技術的に簡単に実現できる別の信号評価によって、既存の信号を付加的に利用できる。
【0022】
本発明の付加的な実施の形態によれば、第1の変形エレメント信号及び/又は第2の変形エレメント信号の信号振幅に応じて、識別のステップにおいては、対象の車両への侵入深度を識別することができる。本発明のその種の実施の形態は、同様に、既存の第1の変形エレメント信号及び/又は第2の変形エレメント信号の付加的な評価の利点を提供するので、この信号から、付加的な評価判定基準を使用する技術的に簡単に実現できる別の信号評価によって、付加的な利用が実現される。
【0023】
本発明の別の実施の形態においては、識別のステップにおいて、第1の変形エレメント信号及び第2の変形エレメント信号から、第2の変形エレメントに比べて第1の変形エレメントがより大きく変形したことが識別されると車両の左前部領域における対象の衝突が識別される、及び/又は、識別のステップにおいて、第1の変形エレメント信号及び第2の変形エレメント信号から、第1の変形エレメントに比べて第2の変形エレメントがより大きく変形したことが識別されると、車両の右前部領域における対象の衝突が識別される。本発明のその種の実施の形態は、結果として車両の回転が予測される、前部領域における車両への対象の衝突が識別されるという利点を提供する。これによって、衝突後に予測される車両の回転に応じて、種々の乗員保護手段を早期に起動させることができる。二つの変形エレメントの内の一方の変形エレメントが他方の変形エレメントに比べてより大きく変形することは、比較的小さく変形した変形エレメントの二つのコンポーネントの間隔の変化に比べて、比較的大きく変形した変形エレメントの二つのコンポーネントの間隔の変化が大きいことから識別することができる。
【0024】
以下では、添付の図面に基づいて本発明を例示的により詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施例のブロック回路図を示す。
【図2】車両の前部領域における変形エレメントの構造の実施例の概略図を示す。
【図3a】変形エレメントのコンポーネントの間隔測定部を備えた、衝突適合型の支持エレメントを示す。
【図3b】変形エレメントのコンポーネントの間隔測定部を備えた、衝突適合型の支持エレメントを示す。
【図4】オフセット衝突の概略図と、第1の変形エレメント及び第2の変形エレメントからのセンサ信号がプロットされている所属のグラフを示す。
【図5】完全な正面衝突の概略図と、第1の変形エレメント及び第2の変形エレメントからのセンサ信号がプロットされている所属のグラフを示す。
【図6】オフセット衝突検出のための簡単な第1のアルゴリズムのブロック回路図を示す。
【図7】後面衝突の概略図と、第1の変形エレメント及び第2の変形エレメントからのセンサ信号がプロットされている所属のグラフを示す。
【図8】後面衝突を識別するための簡単なアルゴリズムのブロック回路図を示す。
【図9】本発明による方法の実施例のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図中、同一又は同様の構成要素には同一又は同様の参照番号を付してあるので、それらの構成要素の反復的な説明は省略する。更には、図面における各図、それら図面の説明並びに請求項は、多数の特徴の組み合わせを含んでいる。それらの特徴を個別に考察できること、また、それらの特徴をここでは明示的に示さない別の組み合わせに統合できることも当業者には明らかである。更に以下の説明においては、必要に応じて種々の尺度及び寸法を使用して本発明を説明するが、本発明はそれらの尺度及び寸法に限定されるべきものではない。更に、本発明による方法のステップを繰り返し実施することができ、また上記の順序とは異なる順序で実施することもできる。第1の特徴/ステップと第2の特徴/ステップとの間に「及び/又は」の接続詞を含む実施例の場合、この実施例は、第1の実施の形態によれば第1の特徴/第1のステップも、第2の特徴/第2のステップも有するものであり、また別の実施の形態によれば、第1の特徴/第1のステップのみを有するか、第2の特徴/第2のステップのみを有するものと解される。
【0027】
図1は、本発明の第1の実施例のブロック回路図を示す。図1には車両100が示されており、この車両100は、走行方向115に見て、前部領域110内にクロスビーム120を有している。クロスビーム120は第1の変形エレメント130を介して、車両100の左側の縦ビーム135と接続されている。更に、クロスビーム120は第2の変形エレメント140を介して、車両の右側の縦ビーム145と接続されている。第1の変形エレメント130はセンサ又はセンサ系150を含んでおり、このセンサ又はセンサ系150は、第1の変形エレメント130の少なくとも二つのコンポーネント間の間隔又は間隔変化を測定するために構成されている。第2の変形エレメント140は同様にセンサ155を含んでおり、このセンサ155は、第2の変形エレメント140の少なくとも二つのコンポーネント間の間隔又は間隔変化を測定するために構成されている。第1のセンサ/センサ系150は相応の第1のセンサ信号又は変形エレメント信号を評価ユニット160に伝送し、また、第2のセンサ/センサ系155は相応の第2のセンサ信号又は変形エレメント信号を評価ユニット160に伝送する。
【0028】
ここで、図1に示されている車両170のような対象が車両100の前部領域110に衝突すると、車両100が変形し、この変形によりクロスビーム120が車両の内側の方向へと押し込まれる。しかしながら、対向車両170はオーバーラップ領域175において車両100の前部領域に衝突したので、この衝突時には車両100の複数のコンポーネントの異なる変形特性も生じる。この場合にはオフセット衝突が識別される。このオフセット衝突を偏り衝突と称することもできる。特に、車両の左側の第1の変形エレメント130は、車両の右側の第2の変形エレメント140よりも大きく変形する。この結果、第1のセンサ150は、第2のセンサ155によって記録される第2の変形エレメント140のコンポーネントの間隔の変化よりも大きい、第1の変形エレメント130のコンポーネントの間隔の変化を記録する。従って評価ユニット160においては、第1のセンサ150の第1の変形エレメント信号及び第2のセンサ155の第2の変形エレメント信号に基づき、第2の変形エレメント140のコンポーネントの間隔変化とは異なる、第1の変形エレメント130のコンポーネントの間隔変化を検出することができる。これを例えば、第1の変形エレメント信号の値と第2の変形エレメント信号の値との差分を形成することによって実施することができ、この差分は続いて所定の閾値と比較される。差分(厳密には差分の絶対値)が所定の閾値よりも大きいこと、即ち、第1の変形エレメント130のコンポーネントの間隔の変化が第2の変形エレメント140のコンポーネントの間隔の変化よりも大きいことが確認されると、評価ユニット160によって、対向車両170は、車両100の前部領域110の全幅よりも小さいオーバーラップ領域175内でしか車両100と衝突していないことを推定することができる。
【0029】
前部領域110の全幅に関してそれぞれ異なる大きさのオーバーラップ領域175を表す複数の閾値を使用することもできる。これに対して、対向車両170が車両100の前部領域110の全幅にわたり衝突した場合には、第1の変形エレメント130及び第2の変形エレメント140のほぼ同じ変形特性が予測される。この場合には、第1の変形エレメント130及び第2の変形エレメント140が同一の変形特性を有していることが前提とされる。
【0030】
評価ユニット160において前部領域110の左側の部分における対象170の衝突が識別されると、例えば、衝突直後に車両100が回転することを推定することができる。そのような場合に関して、評価ユニット160は車両の乗員180のための乗員保護手段を起動させることができ、例えば、そのような横方向の回転時に個別に乗員を保護する。例えば、評価ユニット160によってサイドエアバッグ185を起動させ、乗員180を車両シート上の所定の位置に止めることができる。これに対して、評価ユニット160において、車両の前部領域110の全幅に実質的に対応するオーバーラップ領域175が識別されると、オーバーラップの度合いが高い対象170の正面衝突が推定されるので、車両の回転は予測されないか、僅かな回転しか予測されない。この場合には、評価ユニット160によってフロントエアバッグ190が起動され、このフロントエアバッグ190は、車両100が横方向に回転することの無い正面衝突の際に最大限の保護作用をもたらす。
【0031】
本発明を最大限有効に利用できるようにするために、図2に示されているような、適応型の前部構造が使用される。図2は、縦ビーム135又は145(この場合には車両ボディに固定されて構成されている)とクロスビーム120との間に配置されている適応型のクラッシュエレメントとして構成されている変形エレメント130又は140の概略図を示す。二つの適応型のクラッシュエレメント130及び140はその剛性及び変形特性を適応させることができ、また幅広のクロスビームによって結合されており、更には例えば付加的に発泡エレメントが設けられている。
【0032】
適応型の前部構造システム又は適応型のクラッシュボックスの目的は、特に衝突中にも、更にはシステム内に組み込まれている先見的なセンサ系を用いて、前部ビーム構造の適応を実施することである。本発明において使用可能な測定システムの使用の基本原理は図3に概略的に示されている。ここでは、適応型の変形エレメント130はクロスビーム120と縦ビーム(例えば縦ビーム135)との間に設けられている。変形エレメントは測定システム302を含んでおり、この測定システム302は変形エレメント130のコンポーネントの変形、速度又は加速度に応答して、相応の信号を出力する。測定システム302は変形エレメント内部に折り畳み構造を有しており、この折り畳み構造を介して、例えば方向305からの衝突の発生時に、変形エレメント130の全体の長さ変化を検出することができる。その種の測定システムを備えているその種の先見的なセンサ系の例は、車両の左前部の領域における変形エレメント130に関して、図3bに詳細に図示されている。車両の右前部に取り付けられている所属のセンサを含んでいる変形エレメントは、例えば図3bに示したものと同様に構成されている。剛性の適応は、他ならぬこのビームシステム乃至この適応型のクラッシュボックスの開ループ制御/閉ループ制御を基礎としている。このために例えば、図3bに従い例えばレーダエレメント150、もしくは択一的に、間隔変化センサとしての歪みゲージエレメントも変形エレメントの構造に組み込まれ、従って、変形エレメント130の関連するコンポーネント(例えば衝突時に変形する折り畳み薄板の反射面)の実際の間隔又は実際の長さを測定するシステムが提案される。レーダビーム320がセンサ150から車両の走行方向に送出され、このレーダビーム320は折り畳み薄板310の反射領域によって反射される。択一的に、センサ150として例えば歪みゲージが使用される場合には、抵抗変化によって折り畳み薄板320の個々の面の間隔も変化させることができる。衝突方向から来る対象170の衝突によって変形エレメントが変形すると、変形エレメント130の二つのコンポーネントの間隔が変化し、また、間隔変化に対応する測定信号がセンサ150から出力される。適応可能な変形エレメントが選択される場合には、状況に応じて、より高い剛性又はより低い剛性を記録できるように変形エレメントを調整することができる。このようにして、適応型の変形エレメント構造も実現することができる。
【0033】
今日の受動的なシステムにおける乗員保護手段のトリガは、通常の場合、中央のエアバッグ制御装置における加速度信号及び固体伝播音信号を基礎としている。更には、より早期のクラッシュ識別を実現すべきものである複数の周辺センサ、いわゆるアップフロントセンサ(UFS)も使用される。更には、歩行者保護領域に使用されているセンサも、正面衝突を識別するための付加的な入力信号供給部として使用するアプローチ及びアイデアも幾つか存在している。既にかなりの数のセンサが使用されているにもかかわらず、堅い障害物に対する完全な正面衝突(即ち、車両の前部領域の全幅にわたり車両にぶつかる対象の衝突)を確認テスト(AZT)から信号技術的に切り離すことが依然として試みられている。本発明の一つの実施の形態によれば、システム固有の変形識別及び/又は間隔測定のために使用される、適応型の前部構造に取り付けられている複数のセンサが、適応型の前部構造を制御するための本来のタスクの他に、オフセット識別及びクラッシュ識別のためにも使用することができ、また、中央のエアバッグ制御装置に対する別の入力信号供給部として設けられる。更には、既に取り付けられている複数のセンサを使用する本発明によるアプローチでもって、「低オーバーラップ」を検出及び識別することができる。即ち、車両の前部領域の側方の小さい部分領域においてのみ対象が車両と衝突したか否かを識別することができる。低オーバーラップの場合、即ち、左側の縦ビーム構造135の左隣又は右側の縦ビーム構造145の右隣において、車両の前部領域の幅と例えば15%未満しかオーバーラップしない前部からの衝突の場合には、車両の前部構造においては顕著な押し込みは生じず、従って減速は殆ど行なわれないので、このような負荷が生じるケースは、負荷が掛けられていないセンサにおける振幅の無い形の信号にも間接的に反映される。従って、「低オーバーラップ」のケースを、車両の前部領域の幅に関して40%のオーバーラップで対象が衝突する標準オフセットケース、並びに、車両の前部領域の幅に関して100%のオーバーラップで正面衝突するケースと区別することができる。
【0034】
更には、本発明により提案されるアプローチでもって、それらの組込型のセンサ150又は155を用いて後面衝突の妥当性検査を実施することができる。何故ならば、それらのセンサは通常の場合、後面衝突時には起動すべき50ms内に信号を受信しないか、又は、そのようなケースでは変形エレメント130又は140の内部変形が測定されないからである。前述の可能性の他に、中央のエアバッグ制御装置にクラッシュ重度情報を供給することができる。このクラッシュ閾値情報をシステム内部の変形及び所属の変形速度、並びに相応のパターン比較を介して求めることができる。
【0035】
要約すれば、本発明により提案されるアプローチは、システムに組み込まれた上述のセンサ系を用いて実現される幾つかの利点を提供すると言える。
【0036】
第1に、100%のオーバーラップでの正面衝突に対するオフセット衝突を識別及び分類することができる。この識別は、縦ビーム構造の左チャネルにおける信号と右チャネルにおける信号との比較(即ち、車両の左前部構造における変形エレメントの変形エレメントセンサに由来する信号と、車両の右前部における変形エレメントの変形エレメントセンサに由来する信号との比較)を基礎としている。例えば、二つの信号の算術的又は論理的な結合が実施され、結合の結果が評価される。第2に、縦ビームが押し込まれる衝突に比べて、縦ビームの押し込みが行なわれない点に特徴がある低オーバーラップ衝突を識別及び区別することができる。その種の衝突の識別は、押し込みが生じる正面衝突に比べて、縦ビームの押し込みが行なわれないこと、又は、信号の振幅が弱いこと、並びに信号の他の特性を基礎としている。第3に、前部領域における信号が存在しないことによって後面衝突の妥当性検査を実施することができ、これによって既に取り付けられているセンサの信号を更に利用することができる。第4に、本発明により提案されるアプローチは、システムの押し込みに基づいて、即ち、変形エレメントの構造の変形並びに変形エレメントの構造の所属の変形速度vに基づいてクラッシュの重度を決定することができる。
【0037】
本発明の第1の実施の形態によれば、主として適応型の構造に使用される、アクチュエータの開ループ制御/閉ループ制御のためのシステム組込型のセンサを、受動的な乗員拘束システムのセンサとしても利用することができ、それにより特に、前述の利点を実現することができる。更にはセンサ系を、例えば中央の加速度センサのような別のセンサと組み合わせて、受動的な乗員拘束システムをトリガする際の別の入力量供給部として使用することができる。
【0038】
本発明の別の実施の形態によれば、既に取り付けられているセンサ系の使用は特に以下のことを意図している。
【0039】
第1に、情報を提供することができ、例えば、信号がCANバスに供給されるか、エアバッグ制御装置のような中央の制御装置に直接的に供給される。第2に、制御装置内に設けられている評価部において情報を固有に評価することができ、続けて、その評価された信号を別の制御装置、例えば乗員保護手段制御装置にバス信号を用いて供給することができる。第3に、制御装置内に設けられている評価部において情報を固有に評価し、低オーバーラップの衝突時には、例えばフロントエアバッグ及び/又はサイドエアバッグ及び/又はカーテンエアバッグのような別の乗員拘束手段の固有の駆動制御を実施し、これによって乗員の安全性を著しく高めることができる。第4に、既存の周辺センサの信号、例えば、前述の変形エレメントセンサの信号も、能動的及び/又は受動的な乗員拘束手段の構成要素の駆動制御のための入力信号として使用することができる。
【0040】
本発明により提案されるアプローチによって複数の利点を同時に実現することができるので、本発明によるアプローチは特に有利である。更には、オフセットを検出するためのアップフロントセンサ又は周辺センサを省略することによってコストの低減を達成することができる。これに起因して、制御装置における加速度信号の積分の省略、従って相応のソフトウェア及びリソースの省略によって更なるコスト低減を達成することができる。更には、押し込み深さ、押し込み速度及び感度の相応の低下に関する信頼性の高い情報によるエアバッグトリガアルゴリズムの識別ロバスト性の上昇を達成することができる。それと同時に、「低オーバーラップ」の衝突を確実に検出することができ、また更には、車両の前部領域内に既に取り付けられている適応型の構造のセンサ系の多重の有用性によって、後面衝突の妥当性検査のための「−x」センサを省略することも可能である。更には、クラッシュタイプ及びクラッシュ重度を分類するための付加的な情報、従って、改善されたトリガ性能を得て、加速度信号に基づいた分類に比べてより一義的な「低オーバーラップ」衝突の分類を実現することも可能である。付加的に、「低オーバーラップ」衝突、オフセット衝突及び完全な正面衝突の際に受動的な保護システムを適応的に時間調整して駆動制御できることによって、乗員のより高い安全性を達成することができる。従って、本発明により提案されるアプローチを基本原理と見なすことができる。何故ならば、車両内の既存の複数のセンサは将来的に、受動的な保護システムのために多重の有用性を表すからである。
【0041】
本発明によれば、センサ信号の評価が別個の制御装置、又は既存の制御装置、例えばエアバッグ制御装置において行なわれる。中央のトリガ制御装置において評価が行なわれる場合、情報はロー信号及び/又は処理された情報及び/又は前処理された情報としてバスシステムに伝送される。固有の制御装置において評価が行なわれる場合、情報をバス通信によって別の制御装置にも供給することができる。同様に、この情報を、例えば走行ダイナミクス制御システム及び/又は加速度センサからの別の複数の信号と組み合わせて、別の開ループ制御信号及び/又は別の閉ループ制御信号を取得することができ、それによって、例えば可逆性及び/又は不可逆性のシステムの駆動制御を実施することができる。同様に、信号を専用に設けられているレコーダに記録し、衝突後にその情報を再び呼び出すこともできる。更には、アルゴリズムを調整又は較正するために情報をデータバンクに収集し、またデータバンクから呼び出し、制御装置を適切に調整することも可能である。
【0042】
本発明の第1の好適な実施の形態においては、左側のアクチュエータからの信号及び右側のアクチュエータからの信号が相互に結合され、閾値に関する判定によってオフセット衝突に関する情報が提供される。情報の結合を減算/加算/乗算によって、又は、他の算術的な関数によって同様に実現できることは自明である。
【0043】
ここで例示的に説明する実施の形態においては、左チャネルからの右チャネルの減算が実施される。
【0044】
図4においては、二つの車両のオフセット衝突が図示されている。図4において下側に示されている車両100には、上記において説明したような適応型の前部構造が装備されている。信号の測定は例えば上述のようにレーダセンサを介して行なわれる。レーダセンサはシステム内に取り付けられており、構造の移動距離、即ち、レーダセンサが配置されている変形エレメントの移動距離を測定する。
【0045】
車両100の左側の構造が衝突されて押し込まれるが、これに対し車両の右側の構造は押し込まれないか、又は僅かに限定的に押し込まれる。つまり衝突時には、左側の適応型のクラッシュ構造の押し込みが生じる。これにより左側の適応型のクラッシュ構造は変形し、従ってその長さが短くなる。この際にセンサはその移動距離を測定する。例えば、移動距離は短くなる。このことは、左側の変形エレメントのためのこのセンサ150の相応の信号に関して、図4における時間(t)・押し込み(s)グラフにおいて、参照番号400及び負の符号で表されている。これとは異なり、右側の変形エレメント140のセンサからの信号(図4のグラフにおいて参照番号410が付されている)はほぼ一定のままである。この変形に基づき、構造のより比較的小さい変化が予測される。ここで二つの信号400の値と信号410の値の差分420が形成されると、その解として参照番号420が付されている信号が生じる。閾値430を用いることによって、第1の有利な実施例においては、オフセット衝突と完全な正面衝突を区別し識別することができる。差分信号値が値0から閾値430の間の領域内にある場合には(完全な)正面衝突440が想定され、これに対して、差分信号値420が閾値430よりも低い領域内にある場合にはオフセット衝突450を識別することができる。差分値を形成するために信号410と信号420を交換する場合には、差分信号が閾値よりも大きい場合にオフセット衝突が識別されるように評価が行なわれなければならない。従って一般的に、差分信号の絶対値が閾値よりも大きい場合にはオフセット衝突が識別されると言える。しかしながら、本発明により提案されるアプローチでもって、種々のオーバーラップ度を識別することもできる。このためには単に異なる閾値を用いる評価が行なわれさえすれば良く、この場合には各閾値が固有のオーバーラップ度を表す。
【0046】
完全な正面衝突(即ち100%オーバーラップする衝突)が例示的に図5に示されている。この場合には、車両の左側の変形エレメント構造及び右側の変形エレメント構造が衝突されて押し込まれる。二つの車両100及び170はほぼ100%オーバーラップして衝突する。この際に二つの変形構造130及び140が変形される。この変形は左側の適応型の構造130及び右側の適応型の構造140において確かに異なる大きさで現われる可能性があるが、差分信号420(特に絶対値で見て)は閾値430を下回っている。
【0047】
簡単な閾値判定を用いるオフセット検出のための第1の簡単なアルゴリズムは図6のブロック回路図に示されている。適応型の変形エレメント構造の左側の変形エレメント130のセンサ150からの信号400(左チャネルとも称される)及び右側の変形エレメント140のセンサ155からの信号は機能ブロック600に供給される。上記においても示唆したように、この機能はあらゆる算術的な演算を表すことができるが、ここで説明する実施例に関しては差分形成420が使用される。同様に比率形成を使用することも考えられる。結果が閾値430と比較される。この閾値430はパラメータとして形成されており、またメモリから供給することができる。より煩雑な他の機能、例えば閾値430を上回っている論理状態の記憶及び/又はフィルタリング並びに合算、またそれに続く別の閾値についての判定も同様に考えられる。この例における結果は、差分信号420の値が閾値430を上回った際のオフセット衝突610の識別である。
【0048】
図7に概略的に示されているような後面衝突の場合には、前部領域に組み込まれている適応型の構造130又は140の押し込み又は変形は生じない。後面衝突の場合には、左側の構造及び右側の構造が押し込まれないので、従って、それらの変形エレメントのコンポーネントの間隔変化を表す信号変化も検出されない。このようにして、上述の変形エレメント構造130,140を、考察する車両100への後面衝突の妥当性検査のために使用することができる。この情報を中央の加速度信号axと関連させて評価することができる。中央の加速度信号axは例えば正の加速度を示し、従って、そこから導出されるパラメータは後面衝突を示す。これとは異なり、前部構造130及び140の押し込みは生じず、従って前部構造130及び140からの信号も生じない。これによって、後面衝突に関して相応に適した乗員拘束手段を駆動制御する、後面衝突に関する妥当性検査を構成することができる。
【0049】
その種の後面衝突を識別するための第1の簡単なアルゴリズムはブロック回路図として図8に示されている。例えば中央の加速度センサからの加速度信号axが後面衝突アルゴリズム800において処理され、トリガ信号810が出力される。これに並行して、適応型の構造130及び140の二つのチャネル400及び410が別のステップにおいて、例えば差分形成を使用して機能ブロック600において処理される。別の機能も同様に考えられる。合成信号420が、妥当性検査ブロック820において、後面衝突アルゴリズム800からの信号810と結合される。妥当性検査として簡単なブーリアン演算、例えばAND結合が考えられるが、他のより煩雑な機能も考えられるこれに続いて、後面衝突に関する乗員拘束手段、例えばアクティブヘッドレスト又はシート組込型システムの起動830が行なわれる。
【0050】
オフセット識別と同様に、「低オーバーラップ」衝突の識別を実施することができる。この場合には、差分信号が相応に比較的小さくなることが予測される。
【0051】
クラッシュ重度の検出は実質的に、システムの押し込み振幅及び所属の変形速度に関する状態評価を介して実施することができる。特性曲線を介して、どれ程の速さで押し込みが行なわれたか、またどれ程の強さで押し込みが行なわれたかが検査される。相応に特性曲線を介して、乗員拘束手段のトリガ判定を行なうために、アルゴリズムの更なる処理において使用されるクラッシュ重度カテゴリへの対応付けを行なうことができる。
【0052】
後続の処理においては、
ケース(A)完全な正面衝突、
ケース(B)40%のオフセット、
ケース(C)低オーバーラップ、
に単純に分類することによって、オーバーラップの度合いの評価も実施することができる。その種の評価は、二つの車両の相応のビーム構造のコンパティビリティの測定を基礎としている。それらのビーム構造がケース(A)完全な正面衝突(2×2ビーム構造)において完全に合致してぶつかるか、又は、ケース(B)40%のオフセット(1×1ビーム構造)においてぶつかるかに応じて、ビームチェーン、従ってそれぞれのビーム構造によって「支持される」割合が加速度信号に現われる。ケース(C)においては、ビーム構造はもはや殆どぶつからず、従ってこのことは、構造に組み込まれた測定センサ系の変形の測定又は変形速度の測定を介して更に明らかになる。中央の加速度センサ系に由来する測定と組み合わされる、組込型の適応型システムの変形測定又は変形速度の測定の基本的な特性は、オフセットの度合いを本発明の一般化された形態でオフセットの度合いの検出に使用することができる。
【0053】
別の機能も相応に実現されている。更には、それらの信号を他の信号、例えば走行ダイナミクスシステムからの信号と組み合わせて、その信号から導出された、受動的な保護システムの範囲にある新たな機能を形成することも勿論可能である。例えば、車両の回転及び相応の(左側又は右側の)押し込みに応じて、車両内の可逆性の構成要素、例えばシートの構成要素を駆動制御することもできる。
【0054】
図9は、車両の前部領域における対象の衝突領域の幅を識別するための方法90としての、本発明の実施例のフローチャートを示す。この方法は、車両の左前部領域内に取り付けられている第1の変形エレメントのコンポーネント相互の間隔の変化を表す第1の変形エレメント信号を受信するステップ92を含んでいる。更にこの方法は、車両の右前部領域内に取り付けられている第2の変形エレメントのコンポーネント相互の間隔の変化を表す第2の変形エレメント信号を受信するステップ94を含んでいる。最後に、この方法は、第1の変形エレメント信号が所定の閾値レベルを超えて第2の変形エレメント信号から偏差する場合には、対象と車両の衝突領域の幅が短いオフセット衝突を識別するステップ96を含んでいる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(100)の前部領域(110)における対象(170)の衝突領域(175)の幅を識別するための方法(90)において、
前記車両(100)の左前部領域内に取り付けられている第1の変形エレメント(130)の複数のコンポーネントの相互の間隔の変化を表す第1の変形エレメント信号(400)を受信するステップ(92)と、
前記車両の右前部領域内に取り付けられている第2の変形エレメント(140)の複数のコンポーネントの相互の間隔の変化を表す第2の変形エレメント信号(410)を取得するステップ(94)と、
前記第1の変形エレメント信号(400)が所定の閾値レベル(430)を超えて前記第2の変形エレメント信号(410)から偏差する場合には、前記対象(170)と前記車両(100)の衝突領域(175)の幅が短いオフセット衝突を識別するステップ(96)とを備えていることを特徴とする、衝突領域(175)の幅を識別するための方法(90)。
【請求項2】
前記識別のステップは更に、前記第1の変形エレメント信号(400)と前記第2の変形エレメント信号(410)とを結合させて結合信号(420)を取得するステップを含んでおり、
更に前記識別のステップ(96)において、前記結合信号(420)の絶対信号レベル値が所定の閾値(430)を上回る値を有している場合には、前記衝突領域(175)の幅が短いオフセット衝突を識別する、請求項1に記載の方法(90)。
【請求項3】
前記識別のステップにおいて、前記第1の変形エレメント信号(400)と前記第2の変形エレメント信号(410)の差、和、積及び/又は商の形成を実施する、請求項2に記載の方法(90)。
【請求項4】
前記識別のステップ(96)において、前記第1の変形エレメント信号(400)が所定の第2の閾値レベルを上回るが前記閾値レベルを下回って前記第2の変形エレメント信号(410)から偏差する場合、又は、前記結合信号(420)の絶対値が前記所定の閾値(430)を下回るが所定の第2の閾値を上回る値を有している場合には、前記対象(170)の前記車両への衝突領域(175)の平均的な幅を識別する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法(90)。
【請求項5】
前記識別のステップ(96)において、前記結合信号(420)が許容差範囲内で0の値前後にある信号レベル値を有している場合、又は、前記第1の変形エレメント信号(410)の値が許容差範囲内で前記第2の変形エレメント信号(410)から偏差していない場合には、前記対象(170)の前記車両(100)への衝突領域(175)の大きい幅を識別する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法(90)。
【請求項6】
更に前記識別のステップ(96)において、前記車両(100)の走行方向(115)への正の加速度(ax)を表す別の信号が、許容差範囲内で0の値前後の信号レベル値を有している結合信号(420)と共に得られる場合には、対象(170)の前記車両(100)への後面衝突を識別する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法(90)。
【請求項7】
更に前記方法は、評価された結合信号(610)に応答して、前記車両(100)の車両乗員保護手段(185,190)のための制御信号を出力するステップを備えている、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法(90)。
【請求項8】
更に前記識別のステップ(96)において、前記第1の変形エレメント信号(400)及び/又は前記第2の変形エレメント信号(410)の信号振幅が所定の評価時間内で所定の振幅差を超えて変化する場合には、前記対象(170)の前記車両(100)への衝突の所定の重度を識別する、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法(90)。
【請求項9】
更に前記識別のステップ(96)において、前記第1の変形エレメント信号(400)及び/又は前記第2の変形エレメント信号(410)の信号振幅に応じて、前記対象(170)の前記車両(100)への侵入深度を識別する、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の方法(90)。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか一項に記載の方法(90)のステップを実施するように構成されていることを特徴とする、制御装置(160)。
【請求項11】
機械により読み出し可能な担体に記憶されており、制御装置(160)において実行される場合に請求項1から9までのいずれか一項に記載の方法(90)を実施するプログラムコードを有するコンピュータプログラム製品。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2013−511434(P2013−511434A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540383(P2012−540383)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【国際出願番号】PCT/EP2010/067903
【国際公開番号】WO2011/064165
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany