説明

車両の動力伝達制御装置

【課題】電動機の出力軸に対する駆動輪の減速比を変更する切替機構を備えたHV−MT車において、運転者が前記減速比の変更に伴うショックを感知し難くすること。
【解決手段】この動力伝達制御装置は、動力源として内燃機関E/GとモータM/Gとを備えたハイブリッド車両に適用され、手動変速機M/Tと、摩擦クラッチC/Tと、減速比切替機構とを備える。減速比切替機構は、「M/Gの出力軸と接続される第1軸」に対する「M/Tの出力軸と接続される第2軸」の減速比を変更可能となっている。第1軸に対する第2軸の減速比を変更することにより、M/Gの出力軸に対する駆動輪の減速比が変更される。運転者がクラッチペダルCPを操作している間に減速比を変更する作動が実行される。即ち、運転者は、何らかの操作を行っている間に減速比変更作動に伴うショックを受けることなり、運転者は係るショックを感知し難くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の動力伝達制御装置に関し、特に、動力源として内燃機関と電動機とを備えた車両に適用され、手動変速機と摩擦クラッチとを備えたものに係わる。
【背景技術】
【0002】
従来より、動力源としてエンジンと電動機(電動モータ、電動発電機)とを備えた所謂ハイブリッド車両が広く知られている(例えば、特許文献1を参照)。近年、ハイブリッド車両に適用され、且つ手動変速機と摩擦クラッチとを備えた動力伝達制御装置(以下、「HV−MT車用動力伝達制御装置」と呼ぶ)が開発されてきている。ここにいう「手動変速機」とは、運転者により操作されるシフトレバーのシフト位置に応じて変速段が選択されるトルクコンバータを備えない変速機(所謂、マニュアルトランスミッション、MT)である。また、ここにいう「摩擦クラッチ」とは、内燃機関の出力軸と手動変速機の入力軸との間に介装されて、運転者により操作されるクラッチペダルの操作量に応じて摩擦プレートの接合状態が変化するクラッチである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−224710号公報
【発明の概要】
【0004】
ところで、HV−MT車用動力伝達制御装置において、電動機の駆動トルクに基づく駆動輪の十分な駆動トルクを安定して確保するためには、必要に応じて駆動輪の回転に対して電動機の出力軸の回転を減速又は増速することが好ましい。このため、HV−MT車用動力伝達制御装置に対し、手動変速機の変速段を変更することなく(手動変速機とは別に)電動機の出力軸に対する駆動輪の減速比(駆動輪の回転速度に対する電動機の出力軸の回転速度の割合)を変更する切替機構を設けることが考えられる。
【0005】
係る切替機構が設けられた場合、前記減速比の変更の際、電動機の出力軸から駆動輪へのトルクの伝達を一時的に遮断する必要が不可避的に生じる。従って、前記減速比の変更に伴うショック(車両前後方向の加速度の変化)が不可避的に発生する。係るショックの発生は、運転者に不快感を与えることに繋がる。
【0006】
本発明の目的は、電動機の出力軸に対する駆動輪の減速比を変更する切替機構を備えたHV−MT車用動力伝達制御装置であって、前記減速比の変更に伴うショックを運転者が感知し難いものを提供することにある。
【0007】
本発明に係る車両の動力伝達制御装置は、動力源として内燃機関と電動機とを備えたハイブリッド車両に適用される。この動力伝達装置は、手動変速機と、摩擦クラッチと、切替機構と、制御手段とを備える。
【0008】
手動変速機は、運転者により操作されるシフト操作部材のシフト位置に応じて変速段が選択されるトルクコンバータを備えない変速機であって、前記内燃機関の出力軸から動力が入力される入力軸と前記車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸とを備える。前記手動変速機の入力軸又は前記出力軸には、前記電動機の出力軸が接続される。
【0009】
摩擦クラッチは、前記内燃機関の出力軸と前記手動変速機の入力軸との間に介装されて、運転者により操作されるクラッチ操作部材の操作量に応じて接合状態が変化するクラッチである。前記クラッチ操作部材の操作は、第1検出手段により検出される。
【0010】
切替機構は、前記手動変速機の変速段を変更することなく前記電動機の出力軸に対する前記駆動輪の減速比(駆動輪の回転速度に対する電動機の出力軸の回転速度の割合)を変更する。制御手段は、前記内燃機関の出力軸の駆動トルク(内燃機関駆動トルク)、前記電動機の出力軸の駆動トルク(電動機駆動トルク)、及び、前記切替機構の状態を制御する。
【0011】
具体的には、前記切替機構は、前記電動機の出力軸と前記手動変速機の出力軸との間で前記手動変速機を介することなく形成される動力伝達系統に介装され、前記電動機の出力軸と接続される第1軸と、前記手動変速機の出力軸と接続される第2軸とを備え、前記第1軸に対する前記第2軸の減速比を変更する機構とされ得る。この場合、前記制御手段は、前記第1軸に対する前記第2軸の減速比を変更することにより、前記電動機の出力軸に対する前記駆動輪の減速比を変更するように構成される。
【0012】
或いは、前記切替機構は、前記電動機の出力軸と前記手動変速機の出力軸との間で前記手動変速機を介することなく形成される第1動力伝達系統、並びに、前記電動機の出力軸と前記手動変速機の入力軸との間で前記手動変速機を介することなく形成される第2動力伝達系統に介装され、前記第1動力伝達系統が確立され且つ前記第2動力伝達系統が確立されない第1状態と、前記第1動力伝達系統が確立されず且つ前記第2動力伝達系統が確立される第2状態とを選択的に実現する機構とされ得る。この場合、前記制御手段は、前記第1状態及び前記第2状態のうち実現される状態を変更することにより、前記電動機の出力軸に対する前記駆動輪の減速比を変更するように構成される。
【0013】
本発明に係る動力伝達制御装置の特徴は、前記制御手段が、前記クラッチ操作部材の操作が検出されている間に、前記切替機構の状態を制御して前記電動機の出力軸に対する前記駆動輪の減速比を変更する減速比変更作動を実行するように構成されたことにある。
【0014】
HV−MT車用動力伝達制御装置では、手動変速機の変速段を変更する場合、運転者がクラッチ操作部材を操作しながらシフト操作部材を操作する必要がある。一般に、人間は、何らかの操作を行っているとき、外部から受けるショック等を感知し難くなるものである。上記構成は、係る観点に基づく。
【0015】
上記構成によれば、運転者がクラッチ操作部材を操作している間に減速比変更作動が実行される。換言すれば、運転者は、クラッチ操作部材を操作している間に減速比変更作動に伴うショックを受けることなる。従って、運転者が係るショックを感知し難くなる。
【0016】
具体的には、前記減速比変更作動は、前記クラッチ操作部材の操作に基づいて開始され得る。或いは、前記減速比変更作動は、前記クラッチ操作部材の操作及び前記シフト操作部材の操作に基づいて開始され得る。好ましくは、クラッチ操作部材の操作の開始から終了までの間(クラッチペダルの踏み始めから戻し終わりまでの間)に、前記減速比変更作動が実行されることが好適である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る「HV−MT車用の動力伝達制御装置」を搭載した車両の概略構成図である。
【図2】図1に示した手動変速機のシフトパターンの一例を示した図である。
【図3】切替機構による減速比の変更タイミングと、シフト位置の変更タイミングとの関係の一例を示した図である。
【図4】切替機構による減速比の変更タイミングと、シフト位置の変更タイミングとの関係の他の例を示した図である。
【図5】図1に示した装置によって、クラッチペダル操作中に切替機構の減速比が変更される場合の一例を示したタイムチャートである。
【図6】本発明の実施形態の変形例に係る「HV−MT車用の動力伝達制御装置」を搭載した車両の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明による車両の動力伝達制御装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0019】
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る動力伝達制御装置(以下、「本装置」と称呼する。)を搭載した車両の概略構成を示している。この車両は、動力源として内燃機関とモータジェネレータとを備えたハイブリッド車両であり、本装置は、トルクコンバータを備えない手動変速機と摩擦クラッチとを備える。即ち、本装置は、上述した「HV−MT車用動力伝達制御装置」である。
【0020】
この車両は、エンジンE/Gと、手動変速機M/Tと、摩擦クラッチC/Tと、モータジェネレータM/Gと、減速比切替機構と、を備えている。エンジンE/Gは、周知の内燃機関であり、例えば、ガソリンを燃料として使用するガソリンエンジン、軽油を燃料として使用するディーゼルエンジンである。
【0021】
手動変速機M/Tは、運転者により操作されるシフトレバーSLのシフト位置に応じて変速段が選択されるトルクコンバータを備えない変速機(所謂、マニュアルトランスミッション)である。M/Tは、E/Gの出力軸から動力が入力される入力軸と、車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸とを備える。M/Tは、例えば、図2のシフトパターンに示すように、選択される変速段として、前進用の4つの変速段(1速〜4速)、及び後進用の1つの変速段(R)を備えている。
【0022】
M/Tの変速段は、シフトレバーSLとM/T内部のスリーブ(図示せず)とを機械的に連結するリンク機構等を利用してシフトレバーSLのシフト位置に応じて機械的に選択・変更されてもよいし、シフトレバーSLのシフト位置を検出するセンサ(後述するセンサS2)の検出結果に基づいて作動するアクチュエータの駆動力を利用して電気的に(所謂バイ・ワイヤ方式で)選択・変更されてもよい。
【0023】
摩擦クラッチC/Tは、E/Gの出力軸とM/Tの入力軸との間に介装されている。C/Tは、運転者により操作されるクラッチペダルCPの操作量(踏み込み量)に応じて摩擦プレートの接合状態(より具体的には、E/Gの出力軸と一体回転するフライホイールに対する、M/Tの入力軸と一体回転する摩擦プレートの軸方向位置)が変化する周知のクラッチである。
【0024】
C/Tの接合状態(摩擦プレートの軸方向位置)は、クラッチペダルCPとC/T(摩擦プレート)とを機械的に連結するリンク機構等を利用してCPの操作量に応じて機械的に調整されてもよいし、CPの操作量を検出するセンサ(後述するセンサS1)の検出結果に基づいて作動するアクチュエータの駆動力を利用して電気的に(所謂バイ・ワイヤ方式で)調整されてもよい。
【0025】
モータジェネレータM/Gは、周知の構成(例えば、交流同期モータ)の1つを有していて、例えば、ロータ(図示せず)がM/Gの出力軸と一体回転するようになっている。M/Gの出力軸は、減速比切替機構を介してM/Tの出力軸に動力伝達可能に接続されている。以下、E/Gの出力軸の駆動トルクを「EGトルク」と呼び、M/Gの出力軸の駆動トルクを「MGトルク」と呼ぶ。
【0026】
減速比切替機構は、M/Gの出力軸と接続される第1軸と、M/Tの出力軸と接続される第2軸とを備え、第1軸に対する第2軸の減速比(第2軸の回転速度に対する第1軸の回転速度の割合)を変更可能となっている。第1軸に対する第2軸の減速比を変更することにより、M/Gの出力軸に対する駆動輪の減速比が変更される。第1軸に対する第2軸の減速比は複数段階に選択的に設定可能となっている。減速比の切り替えは、アクチュエータの駆動力を利用してなされる。減速比切替機構は、周知の構成の1つからなるので、ここではその構成の詳細な説明を省略する。
【0027】
本装置は、クラッチペダルCPの操作量(踏み込み量、クラッチストローク等)を検出するクラッチ操作量センサS1と、シフトレバーSLの位置を検出するシフト位置センサS2と、アクセルペダルAPの操作量(アクセル開度)を検出するアクセル操作量センサS3と、ブレーキペダルBPの操作量(踏力、操作の有無等)を検出するブレーキ操作量センサS4と、を備えている。
【0028】
更に、本装置は、電子制御ユニットECUを備えている。ECUは、上述のセンサS1〜S4、並びにその他のセンサ等からの情報等に基づいて、E/Gの燃料噴射量(スロットル弁の開度)を制御することによりEGトルクを制御し、インバータ(図示せず)を制御することによりMGトルクを制御し、加えて、減速比切替機構のアクチュエータを制御することにより第1軸に対する第2軸の減速比を複数段階に選択的に設定する。以下、減速比切替機構の減速比を変更する作動を「MG接続切替作動」と呼ぶ。MG接続切替作動中は、MGトルクがゼロに維持される。
【0029】
(MG接続切替作動のタイミング)
上述のように、MG接続切替作動の際、M/Gの出力軸から駆動輪へのトルクの伝達が一時的に遮断され得る。従って、MG接続切替作動に伴うショック(車両前後方向の加速度の変化)が不可避的に発生する。係るショックの発生は、運転者に不快感を与える。
【0030】
本装置のようなHV−MT車用動力伝達制御装置では、M/Tの変速段を変更する場合、運転者がクラッチペダルCPを操作しながらシフトレバーSLを操作する必要がある。他方、人間は、何らかの操作を行っているとき、外部から受けるショック等を感知し難くなるものである。
【0031】
そこで、本装置では、M/Tの変速段を変更するために運転者が操作を行っている間にMG接続切替作動が実行される。具体的には、クラッチペダルCPが操作されている間(踏み始めから戻し終わりまでの間)にMG接続切替作動が実行される。以下、一例として、減速比切替機構において、第1軸に対する第2軸の減速比が、Low(減速比大)とHigh(減速比小)の2段階に選択的に設定可能な場合について説明する。
【0032】
この場合、例えば、図3に示すように、1速から2速(又は3速、4速)にシフトアップする際に減速比がLowからHighに変更され、3速(又は4速)から2速(又は1速)にシフトダウンする際に減速比がHighからLowへと変更され得る。或いは、図4に示すように、2速(又は1速)から3速(又は4速)にシフトアップする際に減速比がLowからHighに変更され、2速(又は3速、4速)から1速にシフトダウンする際に減速比がHighからLowへと変更され得る。図3に示すパターンに比べて、図4に示すパターンでは、減速比変更の頻度が少なくなり、減速比切替機構のアクチュエータを駆動するために必要な電力を少なくすることができる。
【0033】
図3、図4に示すように、シフト位置が低速側(高速側)にあるときにLow(High)が選択されるのは、シフト位置が低速側にあるときには車速が低い(駆動輪の回転速度が小さい)のでM/Gの出力軸の回転を増速する必要があり、シフト位置が高速側にあるときには車速が高い(駆動輪の回転速度が大きい)のでM/Gの出力軸の回転を減速する必要があることに基づく。
【0034】
図5は、本装置によってクラッチペダルCPの操作中にMG接続切替作動が行われる場合の一例を示す。この例では、シフト位置が2速から3速にシフトアップされる際(図2の矢印を参照)に減速比切替機構の減速比がLowからHighに変更される場合が示されている。
【0035】
具体的には、時刻t1にてクラッチペダルCPの操作が開始され(踏み込み開始)、時刻t1以降、クラッチペダルCPの踏み込み量が増大し、時刻t2にてクラッチC/Tが完全分断状態に移行する。時刻t2の前後からシフトレバーSLの2速から3速への操作が開始・実行される。シフトレバーSLの2速から3速への操作が完了した後、クラッチペダルCPの踏み込み量が減少してクラッチC/Tが半接合状態に調整され、その後、クラッチペダルCPの踏み込み量が更に減少していく。時刻t5にてクラッチペダルCPの操作が終了している(戻し終わり)。
【0036】
この例では、時刻t1〜t5の間の時刻t3〜t4にて、MG接続切替作動、即ち、「減速比切替機構の減速比をLowからHighに変更する作動」が実行されている。なお、少なくとも時刻t3〜t4の間は、MGトルクがゼロに維持される。時刻t3以前、及び、時刻t4以降は、MGトルクがゼロより大きい値に調整されてよい。
【0037】
この例では、時刻t3は、変速機M/Tの変速段がニュートラルから3速に移行する時点(具体的には、M/T内のスリーブと3速ギヤ固定用のティースとのスプライン嵌合が開始する時点)に対応している。即ち、時刻t3は、ニュートラルを経て次のシフト位置が確定する時点(この例では、2速から3速へのシフトアップが確定する時点)ということができる。
【0038】
次のシフト位置が確定するまでは、今回のシフト操作がシフトダウンであるのかシフトアップであるのかが判明しないので、今回のシフト操作がMG接続切替作動を実行するタイミングであるのか否かが不明である。これに対し、この例では、次のシフト位置が確定したことがMG接続切替作動の開始条件とされるので、MG接続切替作動を実行するタイミングでないにもかかわらずMG接続切替作動が実行される事態が発生し得ない。
【0039】
上述のように、この例では、MG接続切替作動の開始条件が、「(クラッチペダルCPが操作されていて且つ)次のシフト位置が確定したこと」とされているが、次のシフト位置が確定する前にMG接続切替作動が開始されてもよい。この場合、MG接続切替作動の開始条件として、「(クラッチペダルCPが操作されていて且つ)シフトレバーSLの移動が開始されたこと」(図5では、時刻t2の直後)、「(クラッチペダルCPが操作されていて且つ)クラッチペダルCPの踏み込み量が所定量を超えたこと」(図5では、時刻t1〜t2の間の任意の時点)が採用され得る。また、「(クラッチペダルCPが操作されていて且つ)変速機M/Tの入力軸の回転速度の変化勾配が所定値以上となったこと」が採用されてもよい。
【0040】
このように、次のシフト位置が確定する前にMG接続切替作動が開始される場合、次のシフト位置を推定する必要(即ち、今回のシフト操作がシフトダウンであるのかシフトアップであるのかを推定する必要)が生じる。この推定は、例えば、車速、車両の前後加速度、ブレーキペダルBPの操作状態、アクセルペダルAPの操作状態等に基づいて実行され得る。
【0041】
MG接続切替作動の開始タイミングとして上述した種々のタイミングのうちの1つのみが使用されてもよいし、上述した種々のタイミングのうちからMG接続切替作動の開始タイミングとして使用されるタイミングを車両の走行状態に応じて選択・変更してもよい。また、減速比切替機構の減速比がLowの場合とHighの場合とで、上述した種々のタイミングのうちからMG接続切替作動の開始タイミングとして使用されるタイミングを異ならせてもよい。
【0042】
(作用・効果)
上述したように、本装置では、M/Tの変速段を変更するために運転者が操作を行っている間にMG接続切替作動が実行される。具体的には、クラッチペダルCPが操作されている間(踏み始めから戻し終わりまでの間)にMG接続切替作動が実行される。即ち、運転者は、クラッチペダルCPを操作している間にMG接続切替作動に伴うショックを受けることなる。従って、運転者が係るショックを感知し難くなる。
【0043】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、「切替機構」として、第1軸に対する第2軸の減速比を変更する減速比切替機構が採用されている。これに対し、図6に示すように、「切替機構」として接続切替機構が採用されてもよい。
【0044】
図6に示す接続切替機構は、M/Gの出力軸とM/Tの出力軸との間で形成される第1動力伝達系統、並びに、M/Gの出力軸とM/Tの入力軸との間で形成される第2動力伝達系統に介装されている。図6に示す接続切替機構は、第1動力伝達系統が確立され且つ第2動力伝達系統が確立されないOUT接続状態と、第1動力伝達系統が確立されず且つ第2動力伝達系統が確立されるIN接続状態とを選択的に実現する。OUT・IN接続状態を選択的に変更することにより、M/Gの出力軸に対する駆動輪の減速比が変更される。OUT・IN接続状態の間の切り替えは、アクチュエータの駆動力を利用してなされる。図6に示す接続切替機構は、周知の構成の1つからなるので、ここではその構成の詳細な説明を省略する。
【0045】
図6に示す接続切替機構が採用される場合も、OUT・IN接続状態の間の切り替えの際、M/Gの出力軸から駆動輪へのトルクの伝達を一時的に遮断する必要が不可避的に生じ、この結果、ショック(車両前後方向の加速度の変化)が不可避的に発生する。OUT・IN接続状態の間の切り替えがクラッチペダルCPが操作されている間に実行されることにより、運転者が係るショックを感知し難くなる。
【0046】
また、上記実施形態では、M/Tの変速段(1速〜4速)として、EGトルクを利用する通常走行用(MGトルクによるアシストが可能)の「M/Tの入力軸とM/Tの出力軸との間で動力伝達系統が確立される変速段」(以下、「EG走行変速段」と呼ぶ)のみが採用されているが、EG走行変速段に加えて、EV走行用の「M/Tの入力軸とM/Tの出力軸との間で動力伝達系統が確立されず且つM/Gの出力軸とM/Tの出力軸との間で動力伝達系統が確立される変速段」(ニュートラルとは異なる変速段、以下、「MG走行変速段」と呼ぶ)が設けられてもよい。「EV走行」とは、E/Gを停止状態(E/Gの出力軸の回転が停止した状態)に維持しながらMGトルクのみを利用して車両が走行する状態を指す。
【0047】
図6に示す接続切替機構が採用され、且つ、車両発進用に「MG走行変速段」(例えば、1速)が設けられている場合、「MG走行変速段」(例えば、1速)が選択されているときにOUT接続状態が選択され、「EG走行変速段」(例えば、2速〜4速)が選択されているときにIN接続状態が選択され得る。
【符号の説明】
【0048】
M/T…変速機、E/G…エンジン、C/T…クラッチ、M/G…モータジェネレータ、CP…クラッチペダル、AP…アクセルペダル、S1…クラッチ操作量センサ、S2…シフト位置センサ、S3…アクセル操作量センサ、ECU…電子制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源として内燃機関と電動機とを備えた車両に適用され、
前記内燃機関の出力軸から動力が入力される入力軸と前記車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸とを備え、前記入力軸又は前記出力軸に前記電動機の出力軸が接続され、運転者により操作されるシフト操作部材のシフト位置に応じて変速段が選択されるトルクコンバータを備えない手動変速機と、
前記内燃機関の出力軸と前記手動変速機の入力軸との間に介装されて、運転者により操作されるクラッチ操作部材の操作量に応じて接合状態が変化する摩擦クラッチと、
前記手動変速機の変速段を変更することなく前記電動機の出力軸に対する前記駆動輪の減速比を変更する切替機構と、
前記内燃機関の出力軸の駆動トルクである内燃機関駆動トルク、前記電動機の出力軸の駆動トルクである電動機駆動トルク、及び、前記切替機構の状態を制御する制御手段と、
を備えた車両の動力伝達制御装置であって、
前記クラッチ操作部材の操作を検出する第1検出手段を備え、
前記制御手段は、
前記クラッチ操作部材の操作が検出されている間に、前記切替機構の状態を制御して前記電動機の出力軸に対する前記駆動輪の減速比を変更する減速比変更作動を実行するように構成された、車両の動力伝達制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記クラッチ操作部材の操作に基づいて、前記減速比変更作動を開始するように構成された、車両の動力伝達制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の動力伝達制御装置であって、
前記シフト操作部材の操作を検出する第2検出手段を備え、
前記制御手段は、
前記クラッチ操作部材の操作及び前記シフト操作部材の操作に基づいて、前記減速比変更作動を開始するように構成された、車両の動力伝達制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記切替機構は、
前記電動機の出力軸と前記手動変速機の出力軸との間で前記手動変速機を介することなく形成される動力伝達系統に介装され、前記電動機の出力軸と接続される第1軸と、前記手動変速機の出力軸と接続される第2軸とを備え、前記第1軸に対する前記第2軸の減速比を変更する機構であり、
前記制御手段は、
前記第1軸に対する前記第2軸の減速比を変更することにより前記減速比変更作動を実行するように構成された、車両の動力伝達制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記切替機構は、
前記電動機の出力軸と前記手動変速機の出力軸との間で前記手動変速機を介することなく形成される第1動力伝達系統、並びに、前記電動機の出力軸と前記手動変速機の入力軸との間で前記手動変速機を介することなく形成される第2動力伝達系統に介装され、前記第1動力伝達系統が確立され且つ前記第2動力伝達系統が確立されない第1状態と、前記第1動力伝達系統が確立されず且つ前記第2動力伝達系統が確立される第2状態と、を選択的に実現する機構であり、
前記制御手段は、
前記第1状態及び前記第2状態のうち実現される状態を変更することにより前記減速比変更作動を実行するように構成された、車両の動力伝達制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−121442(P2012−121442A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273561(P2010−273561)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】