説明

車両の変速機のクラッチを制御するための弁

車両の変速機のクラッチを制御するための弁(1)であって、ハウジング切欠き内で運動可能な制御スプール(4)が設けられており、該制御スプールが、少なくとも1つの制御通路(5)を制御する形式のものにおいて、制御スプールが、周期系の第8副族の少なくとも1種の金属と周期系の第5主族の1種の非金属とを有する少なくとも1つの被覆体を備えていることを特徴とする、車両の変速機のクラッチを制御するための弁が提案される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の変速機のクラッチを制御するための弁であって、ハウジング切欠き内で運動可能な制御スプールが設けられており、該制御スプールが、少なくとも1つの制御通路を制御する形式のものに関する。
【0002】
車両技術から、このような形式の弁、特にハイドロリック弁の使用が知られている。たとえば、公知の弁は、オートメーテッド・トランスミッション、つまり自動化された変速機のハイドロリック式のクラッチ制御のために使用される。一般に、弁ハウジングおよび制御スプールはアルミニウムから製造される。ハウジング切欠きのための摩耗防止もしくは孔および該孔内に案内された制御スプールのための摩耗防止を実現するためには、制御スプールの表面が硬化される。制御スプールの表面を硬質陽極酸化により硬化させることが知られている。
【0003】
硬質陽極酸化された制御スプールを備えた公知の弁は、一般にアルミニウムダイカスト孔内で運動可能に弁ハウジング内に収容されており、これにより相応する運動によって種々の制御通路が制御される。このような弁ハウジングは「アルミニウムスプールボックス」とも呼ぶことができる。
【0004】
特にダイカスト孔内では、制御通路の範囲において、高められた摩耗が生じることが判っている。このことは弁の機能や寿命を損なう。特に、孔壁に沿った制御スプールの絶え間ない運動により、段部が発生し、この段部が制御スプールの自由な運動を少なくとも特定の位置で妨げ、そして弁のハイドロリック的な伝達特性を制限してしまうことも判っている。摩耗はさらに、高められた漏れ、ひいては出力損失をも招く。
【0005】
したがって、本発明の根底を成す課題は、冒頭で述べた形式の弁を改良して、その性能および寿命の点で一層改善された弁を提供することである。
【0006】
この課題は車両の変速機のクラッチを制御するための弁であって、ハウジング切欠き内で運動可能な制御スプールが設けられており、該制御スプールが、少なくとも1つの制御通路を制御する形式のものにおいて、制御スプールが、周期系の第8副族(acht. Nebengruppe)、つまり長周期型の元素の周期表で見て第VIII族の少なくとも1種の金属と、周期系の第5主族(fuenft. Hauptgruppe)、つまり長周期型の元素の周期表で見て第VA族の少なくとも1種の非金属とを有する少なくとも1つの被覆体を備えていることを特徴とする、車両の変速機のクラッチを制御するための弁により解決され得る。こうして、ハウジング切欠きもしくは孔と制御スプールとの間の特に効果的な摩耗防止を実現することができるので、全体的に本発明による弁の寿命および性能が向上される。提案された被覆体は、特に弁の伝達特性に課せられた高い要求も保証されるように制御スプールおよび孔壁の負荷された範囲を摩耗から保護することができる。
【0007】
したがって、クラッチ制御のために設けられた弁は、電磁式の作動部材(アクチュエータ)の印加された前制御圧もしくはパイロット圧を、該パイロット圧に比例するクラッチ圧にほとんど変化なく変換することができるので有利である。損失なしの運動に基づき、制御スプールは、各ピストン面に作用する両圧力の間で常時平衡された状態に維持され得る。この場合、この力平衡状態で、対応する制御通路もしくは制御縁と協働して制御スプールを運動させることにより、所望のクラッチ圧が調節可能となる。このことは本発明による弁においては、ハウジング壁もしくは孔壁と制御スプールとの間の不都合な摩擦力またはその他の不都合な力なしに実現され得る。
【0008】
特に、前記副族の金属と前記主族の非金属とから成る化合物が、制御スプールのための最適な摩耗防止を実現するために特に有利な性質を有していることが判った。たとえば別の金属、たとえば鉄および/またはコバルトを被覆体材料として使用することもできる。さらに、被覆体のために別の非金属、たとえば窒素またはこれに類するものを使用することも可能である。
【0009】
有利には、被覆体としてニッケル・リン化合物を使用することができる。化学的に析出されたニッケル化合物(たとえば登録商標Durni-Coat)で被覆された制御ピストンもしくは制御スプールが、特に弁ハウジングに設けられた、アルミニウムから製作された孔壁を摩耗に対して保護することが判った。このことは、ニッケル・リン化合物が制御スプールにおいて、アルミニウムから製作されたハウジング切欠きと協働して特に小さな摩擦係数を示し、このような小さな摩擦係数により、弁にシージング現象(焼付き現象)が生じなくなるという理由に基づいている。さらに、選択されたこのような被覆体により、制御スプールの基本材料を硬質の汚れ粒子の埋込みに対して保護することができる。
【0010】
このことはとりわけ、被覆体において熱処理が有利に実施される場合に云える。なぜならば、熱処理に基づき、前記被覆体の硬度を一層増大させることができるからである。さらに、これにより基本材料に対する粘着を改善することができる。
【0011】
さらに、本発明による弁における摩耗低減により、漏れも寿命にわたって少なく保持され、そしてシステムの効率も全体的に改善される。
【0012】
本発明の可能となる有利な構成では、当該弁が、無段式に調節可能な変速機(CVT)を制御するためのハイドロリック弁として使用される。また、前記制御スプールを、たとえば車両変速機範囲において容積流制御弁のために使用することもできる。このような弁は大きな出力スループットもしくは大きな処理能力に基づき、特別な負荷にさらされていて、特に大きな孔摩耗を引き起こす傾向がある。この場合にも、制御スプールの、本発明により提案された被覆体は摩耗最小限化と共に、制御スプールをエロージョンもしくは浸食に対しても保護する。
【0013】
本発明のさらに別の有利な構成では、本発明による弁が圧力制限弁として形成されている。たとえば、この圧力制限弁は自動化された車両変速機のための制御においてシステム圧を形成するために使用され得る。この実施例の場合にも、特に高い出力スループットに基づいて特別な摩耗防止が得られるので有利である。
【0014】
以下に、本発明の実施例を図面につき詳しく説明する。本発明の唯一つの図面は、車両の変速機のクラッチを制御するための本発明による弁の1実施例を例示するものである。この場合、当該弁はハイドロリック弁1として形成されている。
【0015】
図1に部分的にのみ図示されているハイドロリック弁1は、弁ハウジング2を有している。この弁ハウジング2には、ハウジング切欠きとして形成された孔3が設けられており、この孔3内には、運動可能な制御ピストン4が制御スプールとして案内されている。孔3の一方の端部は閉鎖栓体6により閉鎖されている。孔3には複数の制御通路5が開口しており、これらの制御通路5は、孔3内で運動させられた制御ピストン4によって制御されて、規定の圧力で負荷される。
【0016】
このためには、制御ピストン4が、前制御圧もしくはパイロット圧Pvorsteuerと、このパイロット圧Pvorsteuerに比例するクラッチ圧Pkupplungとの間で常時バランスされた状態にある。両圧力は、制御ピストン4の運動によって制御縁と、対応する制御通路5との協働が実現されて、所望のクラッチ圧Pkupplungが調節されるように制御ピストン4の各ピストン面に作用する。このようなハイドロリック弁1の機能形式自体は公知であるので、これについての詳しい説明は省略する。
【0017】
制御ピストン4と孔3の壁との間の摩耗をできるだけ少なく保持するために、図示の本発明によるハイドロリック弁1の実施例では、制御ピストン4の表面のコーティングもしくは被覆体が設けられている。制御ピストン4はこの場合、化学的に析出されたニッケル・リン化合物(たとえば登録商標Durni-coat)で被覆される。また、被覆体として別の化合物も考えられる。しかし、ニッケル・リン層から成る被覆体が、特に制御ピストン4と孔3との間の摩耗を減少させ、ひいてはハイドロリック弁1の寿命および効率もしくは性能を全体的に向上させることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】車両の変速機のクラッチを制御するための本発明による弁の1実施例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0019】
1 ハイドロリック弁
2 弁ハウジング
3 孔
4 制御ピストン
5 制御通路
6 閉鎖栓体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の変速機のクラッチを制御するための弁であって、ハウジング切欠き内で運動可能な制御スプールが設けられており、該制御スプールが、少なくとも1つの制御通路を制御する形式のものにおいて、制御スプールが、周期系の第8副族の少なくとも1種の金属と周期系の第5主族の1種の非金属とを有する少なくとも1つの被覆体を備えていることを特徴とする、車両の変速機のクラッチを制御するための弁。
【請求項2】
制御スプールの被覆体としてニッケル・リン化合物が設けられている、請求項1記載の弁。
【請求項3】
前記被覆体で熱処理が実施可能である、請求項1または2記載の弁。
【請求項4】
当該弁が、無段式に調節可能な変速機(CVT)を制御するためのハイドロリック弁(1)として形成されている、請求項1から3までのいずれか1項記載の弁。
【請求項5】
当該弁が容積流制御弁として形成されている、請求項1から4までのいずれか1項記載の弁。
【請求項6】
当該弁が圧力制限弁として形成されている、請求項1から5までのいずれか1項記載の弁。

【図1】
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【公表番号】特表2008−530452(P2008−530452A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−554416(P2007−554416)
【出願日】平成18年1月18日(2006.1.18)
【国際出願番号】PCT/DE2006/000059
【国際公開番号】WO2006/084427
【国際公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(390009070)ルーク ラメレン ウント クツプルングスバウ ベタイリグングス コマンディートゲゼルシャフト (236)
【氏名又は名称原語表記】LuK Lamellen und Kupplungsbau  Beteiligungs KG
【住所又は居所原語表記】Industriestrasse 3, D−77815 Buehl, Germany
【Fターム(参考)】