説明

車両の安全装置およびそれに用いられるプルダウン用連結部材

【課題】 衝突時に自動車のパワーユニットを車両の下方へ引き下げるプルダウン機構を備えた安全装置において、防振支持体によるパワーユニットの防振性能を十分に確保しつつ、前後方向の衝突の際にパワーユニットが車室内に突出することをより確実に防止することの出来る、新規な構造の車両の安全装置を提供すること。
【解決手段】 前後方向の衝突外力により下方に向けて屈曲変形せしめられる前後方向部材30,30を設けると共に、少なくとも前後方向の衝突時に該前後方向部材30,30をパワーユニット32に連結し、該前後方向部材30,30の下方への屈曲変位をパワーユニット32に伝達してパワーユニット32を引き下げるプルダウン連結部38を該パワーユニット32を防振支持する防振支持体18,18,20とは別に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車における車両の安全装置に係り、特に、衝突等に際してのパワーユニットの車室への突出等による悪影響を回避することの出来る、新規な構造の安全装置とそれに用いられるパワーユニットと車両ボデーの連結部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車においては、一般に車室の前方又は後方にエンジンルームが設けられており、そこにエンジンやトランスミッション等からなるパワーユニットが配設されている。かかるパワーユニットは、剛性を有する金属等の大型のブロック構造を有しており、車両ボデーに設けられたサブメンバやクロスメンバといったサブフレーム等に対して、エンジンマウントやトルクロッド等の防振支持体を介して防振支持されている。そして、パワーユニットが配設されたエンジンルームは、パワーユニットで発生する音や熱等の車室への伝達を抑えるために、車両ボデーに形成された隔壁によって車室と仕切られている。
【0003】
ところが、このように車室の前方又は後方にパワーユニットを配設した構造の自動車においては、前後方向での衝突に際して大きな外力が車両ボデーに及ぼされるとエンジンルームが潰されて剛性の大きいブロック体であるパワーユニットが車室側に押し込まれ、隔壁を変形させて或いは隔壁を突き破って車室に突出せしめられるおそれがある。
【0004】
このような問題に対処するために、例えば特許文献1(特開平7−81435号公報)に記載されているように、衝突時にパワーユニットに及ぼされる前後方向の力を利用してパワーユニットの後部を車室のフロア下方に押し下げるようにした構造や、特許文献2(特開2002−274194号公報)に記載されているように、衝突時にパワーユニットに及ぼされる前後方向の力を利用してパワーユニットを特定方向に回転させて車室方向への突出を抑える構造、或いは特許文献3(特許第3381493号公報)に記載されているように、衝突時にパワーユニットに及ぼされる前後方向の力を利用してパワーユニットを下方に押し下げるリンク機構を採用した構造などが、提案されている。
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1,2,3に記載された従来技術では、衝突時においてパワーユニットが必ずしも有効に下方に変位せしめられ得ず、そのために、パワーユニットの車室内への突出を防止するという目的が安定して発揮され難いという問題があったのである。
【0006】
また、特許文献4(特開平9−240291号公報)には、車両ボデーの左右両側に位置して前後方向の衝突外力により下方に屈曲変形するサブメンバを設けて、このサブメンバによってパワーユニットの下部を防振支持体を介して防止支持せしめることにより、衝突時にサブメンバの下方への変位を防振支持体を通じてパワーユニットに伝達して、パワーユニットを下方に引き下げるようにしたパワーユニット支持構造が提案されている。
【0007】
ところが、このような支持構造では、防振支持体の配設位置が、サブメンバの配設位置によって制限されてしまい、パワーユニットの慣性主軸やトルクロール軸との関係等から求められる最適位置への防振支持体の設置が難しいという問題があると共に、特にトルクロール軸回りのパワーユニット変位が大きくなるパワーユニットの下部を、防振支持体を介してサブメンバに連結すると、パワーユニット振動が車両ボデー側に伝達され易くなってしまい、十分な防振性能が得られ難いという問題があった。
【0008】
【特許文献1】特開平7−81435号公報
【特許文献2】特開2002−274194号公報
【特許文献3】特許第3381493号公報
【特許文献4】特開平9−240291号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、衝突時に自動車のパワーユニットを車両の下方へ引き下げるプルダウン機構を備えた安全装置において、パワーユニットを車両ボデーに対して防振支持せしめる防振支持体によるパワーユニットの防振性能を十分に確保しつつ、前後方向の衝突等の際にパワーユニットが車室内に突出することをより確実に防止することの出来る、新規な構造の車両の安全装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様や技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体および図面に記載された、或いはそれらの記載から当業者が把握することの出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
【0011】
(車両の安全装置に関する本発明の態様1)
車両の安全装置に関する本発明の態様1は、複数の防振支持体でパワーユニットを防振支持せしめて車両ボデーに搭載した車両に用いられて、該車両の衝突時に該パワーユニットを該車両の下方に引き下げるプルダウン機構を備えた車両の安全装置であって、車両ボデーの前後方向に延びて、前後方向の衝突外力により下方に向けて屈曲変形せしめられる前後方向部材を設けると共に、少なくとも前後方向の衝突時に該前後方向部材と該パワーユニットを連結状態にして、該前後方向部材の下方への屈曲変位を該パワーユニットに伝達して該パワーユニットを引き下げるプルダウン連結部を、該パワーユニットを防振支持する前記防振支持体とは別に設けたことを、特徴とする。
【0012】
本態様に従う構造とされた車両の安全装置においては、前後方向の衝突時に積極的に下方に屈曲変位せしめられることで衝撃力を吸収して車室への入力を軽減するようにした特定の前後方向部材による車両ボデーの緩衝構造を巧く利用して、衝突時にパワーユニットを強制的に下方に引き下げることが出来るのであり、それによって、パワーユニットの特に広幅とされた下部を車室フロアより下方に落とすことにより、パワーユニットの車室内への大きな突き出しを一層確実に回避することが可能となるのである。
【0013】
しかも、本態様の車両の安全装置においては、衝突時に前後方向部材による下方への強制的な引き下げ力をパワーユニットに及ぼすプルダウン連結部が、エンジンマウントやトルクロッドなどのパワーユニットの防振支持体とは別途に構成されていることから、防振支持体の所期の防振性能に影響を及ぼすことも無く、複数の防振支持体による防振性能が安定して維持され得るのである。
【0014】
なお、本態様におけるプルダウン連結部は、少なくとも前後方向の衝突時に前後方向部材とパワーユニットを連結状態にすれば良いのであり、例えば、斜め前方等の他方向での衝突時にもプルダウン連結部における連結状態が発現してパワーユニットに引き下げ力が作用せしめられるようになっていても良い。また、通常走行状態下でも、前後方向部材とパワーユニットが連結状態とされていても良いし、通常走行状態では前後方向部材とパワーユニットが実質的には相互に係止されていない非連結状態とされていても良い。
【0015】
また、本発明において、パワーユニットを車両ボデーに防振支持せしめるエンジンマウントやトルクロッドなどの防振支持体は、その具体的構造や配設位置等に関して特に限定されるものでなく、従来から公知のものが適宜に採用され得る。そこにおいて、かかる防振支持体の具体的構造や具体的な配設位置等は何等限定されるものでない。例えば、防振支持体は、パワーユニットとサブメンバの間に装着されていても良いが、パワーユニットの慣性主軸やトルクロール軸の関係等を考慮して、一般に、両側サブメンバの上方にそれぞれ離隔位置して車両前後方向に延びるように配設される左右のサイドメンバや、それら左右のサイドメンバやサブメンバの間に跨がって車幅方向に配設されるクロスメンバ等に対してパワーユニットを防振支持せしめる状態で装着されることとなる。その際、それらの防振支持体は、衝突時におけるパワーユニットの下方への引下げ変位を一層確実なものとするために、衝突時に前後方向に入力される外力の作用に基づいて破断等して、パワーユニットの支持状態が実質的に解除されるようにすることが望ましい。
【0016】
(車両の安全装置に関する本発明の態様2)
車両の安全装置に関する本発明の態様2は、前記態様1に係る車両の安全装置において、前記プルダウン連結部は、前記前後方向部材が衝突外力で下方へ屈曲せしめられたことを条件として該前後方向部材と前記パワーユニットを連結状態にすることを、特徴とする。
【0017】
本態様に従う構造とされた車両の安全装置においては、前後方向部材が衝突外力で下方へ屈曲せしめられた際に初めて前後方向部材とパワーユニットが連結状態とされるようになっており、通常走行状態では前後方向部材とパワーユニットが実質的には相互に係止されていない非連結状態とされていることから、プルダウン連結部を通じてのパワーユニットから車両ボデーへの振動伝達が可及的に抑えられるのであり、それ故、複数の防振支持体による防振性能がより一層安定して維持され得る。
【0018】
(車両の安全装置に関する本発明の態様3)
車両の安全装置に関する本発明の態様3は、前記態様1又は2に係る車両の安全装置において、前記前後方向部材と前記パワーユニットの何れか一方に対して固定されて、それらの他方に向かって略上下方向に突出するプルダウンロッドを設けて、該プルダウンロッドの突出側の先端部分を該前後方向部材と該パワーユニットの他方に対して隙間をもった係合状態で取り付けることにより、前記プルダウン連結部が構成されていることを、特徴とする。
【0019】
本態様に従う構造とされた車両の安全装置では、パワーユニットおよび前後方向部材と別部品であるプルダウンロッドを採用したことにより、プルダウンロッドの形状を適当に調節するだけで各種構造の自動車に対して、本発明を有利に適用することが可能となる。そこにおいて、かかるプルダウンロッドは、その一方の端部が前後方向部材とパワーユニットの一方に固定されることによって安定した装着が実現されていると共に、他方の端部が前後方向部材とパワーユニットの他方に対して隙間をもって係合されることによって、実質的に係止されていない非連結状態が有利に実現され得て、パワーユニットから車両ボデーへの振動伝達が効果的に回避されるようになっている。
【0020】
(車両の安全装置に関する本発明の態様4)
車両の安全装置に関する本発明の態様4は、前記態様3に係る車両の安全装置であって、前記プルダウンロッドは、前記前後方向部材において前後方向の衝突外力による下方への屈曲変形量が略最大となる位置に取り付けられていることを、特徴とする。
【0021】
本態様に従う構造とされた車両の安全装置においては、前後方向部材における下方への屈曲変位が大きく生ぜしめられる部位にプルダウンロッドを設けたことから、前後方向部材に衝突時の前後方向外力が及ぼされた際に、プルダウンロッドを介して、パワーユニットを下方へ一層大きく効果的に引き下げることが可能となる。
【0022】
(車両の安全装置に関する本発明の態様5)
車両の安全装置に関する本発明の態様5は、前記態様3又は4に係る車両の安全装置において、前記プルダウンロッドが、前記前後方向部材と前記パワーユニットの何れか一方に対して、弾性的に固定されていることを、特徴とする。
【0023】
本態様に従う構造とされた車両の安全装置においては、走行時の急加減速に際してパワーユニットが大きく変位せしめられてプルダウンロッドの他方の端部に設定された隙間が実質的に消失してしまった場合でも、プルダウンロッドを介しての、パワーユニットから車両ボデーへの衝撃や振動の伝達が、ゴムブッシュ等で弾性的に固定されていることによって軽減乃至は回避され得て、良好な乗り心地が一層有利に維持される。
【0024】
(車両の安全装置に関する本発明の態様6)
車両の安全装置に関する本発明の態様6は、前記態様3乃至5の何れかに係る車両の安全装置において、前記プルダウンロッドの突出側の先端部分に透孔を形成すると共に、前記前後方向部材と前記パワーユニットの他方において該透孔に対して隙間をもって入り込む係合軸を設けることにより、該プルダウンロッドの突出側の先端部分を該前後方向部材と該パワーユニットの他方に対して隙間をもった係合状態で取り付けたことを、特徴とする。
【0025】
本態様に従う構造とされた車両の安全装置においては、プルダウンロッドの他方の端部を、前後方向部材またはパワーユニットに対して、実質的には相互に係止されていない非連結状態で有利に連結することが出来ると共に、衝突時には係合軸が透孔内面に当接することによって、前後方向部材の下方への変位をパワーユニットに対して確実に伝達して、パワーユニットを引き下げることが出来るのであり、それ故、全体として、プルダウンロッドの他方の端部における係合状態が、簡単な構造をもって有利に実現され得るのである。
【0026】
(車両の安全装置に関する本発明の態様7)
車両の安全装置に関する本発明の態様7は、前記態様6に係る車両の安全装置において、前記透孔と前記係合軸との隙間の大きさを、前記車両の衝突時に前記パワーユニットが車両ボデーに対して相対変位して、該パワーユニットを該車両ボデーに対して防振支持せしめる前記防振支持体が破断するために要する該パワーユニットの変位量よりも大きくしたことを、特徴とする。
【0027】
本態様に従う構造とされた車両の安全装置においては、衝突時のパワーユニットの変位における防振支持体の破断に対して、プルダウンロッドの透孔と係合軸が当接して抵抗となるようなことが回避されており、防振支持体が破断することによる衝撃吸収効果を有効に得ることが出来る。更に、防振支持体が破断して、パワーユニットの支持状態が実質的に解除された後に透孔と係合軸が当接することによって、パワーユニットの引き下げを一層確実に行なうことが出来る。
【0028】
(車両の安全装置に関する本発明の態様8)
車両の安全装置に関する本発明の態様8は、前記態様6又は7に係る車両の安全装置において、前記プルダウンロッドの前記透孔内に隙間をもった遊挿状態で取付スリーブを挿通配置すると共に、該取付スリーブを連結ゴムで連結し、前記前後方向部材と前記パワーユニットの他方に対して螺着される係合ボルトを該取付スリーブに挿通して締付固定することによって前記係合軸を構成したことを、特徴とする。
【0029】
本態様に従う構造とされた車両の安全装置においては、取付スリーブを利用して係合ボルトを螺着することにより、前後方向部材とパワーユニットの他方においてプルダウンロッドに対して係合せしめられる係合軸を容易に且つ強固に装着することが出来る。特に、係合ボルトを締付固定するための取付スリーブを、プルダウンロッドに対して連結ゴムで連結したことにより、係合ボルトの螺着作業に際して取付スリーブの取扱作業が容易となる。なお、かかる連結ゴムとしては、例えば十分に細いスポーク状体によって周上の一箇所或いは複数箇所で取付スリーブをプルダウンロッドの透孔内周面に対して軸直角方向に弾性連結したり、或いはプルダウンロッドの透孔と取付スリーブの径方向対向面間に広がる薄膜状体などによって、有利に構成され得る。なお、この連結ゴムは、プルダウンロッドの装着状態下において、ばね成分を有さないように、好ましくは、装着後の車両走行時にパワーユニットの車両ボデーに対する相対変位に基づいて破断されるように構成される。
【0030】
(車両の安全装置に関する本発明の態様9)
車両の安全装置に関する本発明の態様9は、前記態様5に係る車両の安全装置において、金属製のロッドの長手方向一方の端部に固定用孔を設けると共に他方の端部に透孔を形成することによって前記プルダウンロッドを構成し、該固定用孔に対して隙間をもって挿通した内筒金具を該プルダウンロッドに対してゴム弾性体で連結することによって前記ゴムブッシュを構成して、該内筒金具を前記前後方向部材と前記パワーユニットの一方に固定することによって、該プルダウンロッドの一方の端部を該ゴムブッシュを介して該前後方向部材と該パワーユニットの一方に対して弾性的に固定すると共に、該透孔に対して隙間をもって挿通した取付スリーブを該プルダウンロッドに対して連結ゴムで連結して概略位置決めして、該取付スリーブを該前後方向部材と該パワーユニットの他方に固定することによって、該プルダウンロッドの他方の端部を該前後方向部材と該パワーユニットの他方に対して実質的に隙間をもった係合状態で取り付けたことを、特徴とする。
【0031】
本態様に従う構造とされた車両の安全装置においては、一方の端部においてゴムブッシュを備えると共に、他方の端部において係合用の取付スリーブを備えたプルダウンロッドを、一体的な構造をもって効率的に構成することが可能であり、プルダウンロッドの良好な装着作業性のもとで目的とする車両の安全装置が有利に実現可能となる。
【0032】
(車両の安全装置に関する本発明の態様10)
車両の安全装置に関する本発明の態様10は、前記態様8又は9に係る車両の安全装置において、前記連結ゴムが、前記取付スリーブの外周面と前記透孔の内周面との対向面間に収容されていることを、特徴とする。
【0033】
本態様に従う構造とされた車両の安全装置においては、連結ゴムを他部材との接触や衝突から保護することが出来る。それ故、プルダウンロッドの製造工程や輸送工程、或いはストック時において、一般に薄肉で極めて弱い連結ゴムが他部材との干渉で破断してしまうことを回避出来る。なお、連結ゴムは、取付スリーブの外周面と前記透孔の内周面との対向面間の領域で、出来るだけ奥方に収容位置せしめられることが望ましい。
【0034】
(車両の安全装置に関する本発明の態様11)
車両の安全装置に関する本発明の態様11は、前記態様8乃至10の何れかに係る車両の安全装置において、前記連結ゴムが、前記取付スリーブの外周面から前記車両の前後方向および上下方向を避けるように斜め方向に延び出して、該取付スリーブの外周面と前記透孔の内周面との間に跨がって延びていることを、特徴とする。
【0035】
本態様に従う構造とされた車両の安全装置においては、パワーユニットを引き下げる際の当接面となる上下方向と、衝突外力の入力方向での当接面となる前後方向とにおける、取付スリーブ外周面と透孔内面面との対向面間を避けて連結ゴムが配設されていることから、パワーユニットの引き下げ作動に対して連結ゴムが悪影響を及ぼすようなこともない。
【0036】
(車両の安全装置に関する本発明の態様12)
車両の安全装置に関する本発明の態様12は、前記態様1乃至11の何れかに係る車両の安全装置において、前記前後方向部材を車両ボデーの左右両側に位置して前後方向に延びるサブメンバとすると共に、前記プルダウン連結部を、前記パワーユニットの車両左右方向の両側に設けたことを、特徴とする。
【0037】
本態様に従う構造とされた車両の安全装置においては、サブメンバの緩衝構造を巧く利用すると共に、パワーユニットを車両両側で下方に引き下げることによって、パワーユニットをより確実に下方に引き下げることが出来る。
【0038】
(プルダウン用連結部材に関する本発明の態様1)
プルダウン用連結部材に関する本発明の態様1は、車両の安全装置におけるプルダウン用連結部材において、金属製のロッドの長手方向一方の端部に固定用孔が形成されていると共に、該固定用孔に対して隙間をもって内筒金具が挿通されており、該内筒金具が該金属ロッドに対してゴム弾性体で連結されることによりゴムブッシュが構成されている一方、他方の端部に透孔が形成されていると共に、該透孔に対して取付スリーブが隙間をもって挿通配置されており、該取付スリーブが該金属ロッドに対して連結ゴムで連結されて概略位置決めされていることを、特徴とする。
【0039】
このような本態様に従う構造とされたプルダウン用連結部材を採用することにより、上述の本発明の態様1〜12に係る車両の安全装置が、簡単な作業のもとで有利に実現可能となる。
【0040】
また、本態様に従う構造とされたプルダウン用連結部材においては、前記連結ゴムが、前記取付スリーブの外周面と前記透孔の内周面との対向面間に収容されている態様が望ましい。
【0041】
さらに、前記連結ゴムが、前記取付スリーブの外周面から前記車両の前後方向および上下方向を避けるように斜め方向に延び出して、該取付スリーブの外周面と前記透孔の内周面との間に跨がって延びている態様が、より好適に採用される。
【発明の効果】
【0042】
上述の説明から明らかなように、本発明に従う構造とされたプルダウン連結部を設けた車両の安全装置においては、自動車における前後方向の衝突に際して車両ボデーが圧潰するのと略同時にパワーユニットを強制的に下方に引き下げ変位させることが出来るのであり、しかも、パワーユニットを防振支持する防振支持体とプルダウン連結部が別体として構成されていることから、防振支持体の防振性能に影響を与えることも回避乃至は軽減されており、防振支持体による本来の防振性能が十分に維持されて発揮され得るのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について説明する。
【0044】
先ず、図1〜2には、本発明に従う構造とされたパワーユニット支持機構が概略的に示されている。これらの図中、10は、モノコック式フレーム構造の車両ボデーを構成するフレーム構造体であって、図1〜2においては、図面を判り易くするために、ボディーパネルを省略し、ボディーパネルと一体形成された骨格構造部材としてのフレーム構造体10のみを示してある。また、本実施形態のパワーユニット支持機構は、車室12の前方に隔壁14を隔ててエンジンルーム16が設けられたフロントシップタイプのものであって、特にFF(フロントエンジン・フロントドライブ)横置きエンジンタイプのものへの適用例である。そして、このフレーム構造体10に対して、パワーユニット32が、複数の防振支持体18,18,20を介して防振支持されている。
【0045】
より詳細には、フレーム構造体10は、左右両側に位置して前後方向に延びる一対のサイドメンバ22,22と、車幅方向に延びてそれら一対のサイドメンバ22,22を相互に連結補強する複数本のクロスメンバ24,26,28と、更に、左右のサイドメンバ22,22のそれぞれ下方に離隔して前後方向に延びるようにして配設された前後方向部材としての一対のサブメンバ30,30を含んで構成されている。そして、これら複数のメンバ部材22,22,24,26,28,30,30が相互に連結されることによって、パワーユニット32の支持枠体が構成されている。
【0046】
そこにおいて、一対のサイドメンバ22,22は、車両の前面衝突時におけるエネルギー吸収体の主要部材となるものであって、これらのサイドメンバ22,22としては、従来から公知の構造体が採用され得る。即ち、サイドメンバ22,22は、一般に鉄やアルミニウム合金等の金属材によって中空閉状断面をもって形成されており、前面衝突に際して及ぼされる軸方向圧潰荷重によって前後方向に座屈状に変形するように、必要に応じて蛇腹状の易圧潰部を有する構造とされる。
【0047】
そして、これら左右のサイドメンバ22,22に対して、パワーユニット32が、防振支持体としてのエンジンマウント18,18を介して、防振支持されている。なお、これらのエンジンマウント18,18としては、従来構造のものが採用可能であって、詳細な説明を省略するが、パワーユニット32の慣性主軸やトルク中心軸等を考慮して位置や構造が設定されている。また、パワーユニット32の下部の略中央には、クロスメンバ28との間に跨がって、防振支持体としてのトルクロッド20が取り付けられており、このトルクロッド20を介して、パワーユニット32のトルク反力がフレーム構造体10で分担されるようになっている。要するに、本実施形態では、パワーユニット32が、防振支持体としてのエンジンマウント18,18とトルクロッド20を介して、フレーム構造体10によって弾性的に位置決めされて防振支持せしめられているのである。
【0048】
また一方、フレーム構造体10を構成する一対のサブメンバ30,30は、クロスメンバ24,28と協働して全体として略井桁構造とされている。また、各サブメンバ30,30は、前面衝突に際して及ぼされる軸方向圧潰荷重によって長手方向中央部分が両端部に比して下方に向かって変位するように、即ち下方に凸となる屈曲変形が生ぜしめられるように設計されている。具体的には、例えば全体の初期形状が下方に凸となる湾曲乃至は屈曲形状とされていたり、或いは長手方向の中間部分において座屈予定部としての凹部36が形成されていたりすること等によって、各サブメンバ30が構成されている。
【0049】
すなわち、このような構造とされた本実施形態のフレーム構造体10は、前面衝突に際して、前後方向に及ぼされる圧潰荷重によって、図3に示されているように、左右のサイドメンバ22,22が軸方向に押し潰されるように変形せしめられる一方、サブメンバ30,30は、略中央部分において下方に座屈するようにして屈曲せしめられるようになっているのである。
【0050】
ここにおいて、サブメンバ30,30の中間部分には、プルダウン用連結部材38が装着されており、このプルダウン用連結部材38によって、サブメンバ30,30が、パワーユニット32の左右両側に対して、それぞれ、実質的に連結ばねを持たない状態で係合せしめられている。特に本実施形態では、各サブメンバ30の長手方向の略中央部分に凹部36が形成されて衝突時には凹部36における下方への屈曲変形量が最大となるようにされており、この凹部36の近くに位置してプルダウン用連結部材38が装着されている。
【0051】
プルダウン用連結部材38は、その単品構造が、図4〜6に示されているように、全体として上下に延びる厚肉の略矩形板形状を有するプルダウンロッド40を含んで構成されている。このプルダウンロッド40は、鉄やアルミニウム合金等の剛性の大きな金属材によって形成されており、その長手方向一方(図4中の下方)の端部よりも他方の端部側が大きな幅寸法とされている。
【0052】
そして、幅寸法の小さい下端部近くには、厚さ方向に貫通する固定用孔42が円形断面をもって形成されている。また、幅寸法の大きい長手方向他方の上部側には、固定用孔の内径寸法よりも大きな内法寸法を有する透孔としての略小判形の貫通窓44が、板厚方向に貫通して形成されている。更に、長手方向の中間部分には、軽量化のための肉抜孔46が形成されている。
【0053】
また、固定用孔42には、円筒形状を有する内筒金具48が挿通されており、軸方向両端部分が固定用孔42から両側に突出した状態で配設されている。内筒金具48の外径寸法は固定用孔42の内径寸法よりも所定量だけ小さくされており、固定用孔42の中心軸上に内筒金具48が配設されている。また、内筒金具48の外周面と固定用孔42の内周面の間には、全周に亘って形成された隙間を充填するようにしてブッシュ用ゴム弾性体50が形成されている。そして、このブッシュ用ゴム弾性体50で内筒金具48がプルダウンロッド40に弾性連結されることによって、ゴムブッシュ52が構成されている。
【0054】
なお、ゴムブッシュ52を形成するブッシュ用ゴム弾性体50は、プルダウンロッド40の表面にまで広がって延びており、プルダウンロッド40の外表面を実質的に全体に亘って被覆する被覆ゴム層54が形成されている。また、内筒金具48の軸方向一方の開口端縁部には、位置決め用の切欠56が形成されている。
【0055】
また一方、貫通窓44には、該貫通窓44の内法寸法よりも十分に小さな外径寸法を有する円筒形状の金属管体からなる取付スリーブ58が挿通されて、貫通窓44の略中心軸上に配設位置されており、その軸方向両端部分が貫通窓44から軸方向両側に突出せしめられている。そして、この取付スリーブ58の外周面と、貫通窓44の内周面が、それぞれ被覆ゴム層62で被覆されていると共に、取付スリーブ58の軸方向中央部分の外周面から上方に向かってV字形となるように周方向に拡開して広がる一対の薄板状の弾性連結腕60,60が形成されており、これらの弾性連結腕60,60によって、取付スリーブ58が貫通窓44の内周面に対して連結されている。
【0056】
特に、かかる弾性連結腕60,60は、十分に薄肉で且つ幅寸法も小さくされており、貫通窓44の軸方向内方からはみ出すことなく形成されて、他部材との接触や衝突から保護されている。また、弾性連結腕60,60には、パワーユニット32の防振支持特性には何等の影響を与えない程度に極めて小さなばね特性が設定されている。特に本実施形態では、5mm以下の肉厚寸法とされており、プルダウンロッド40を把持して手で振った程度では破断しないが、取付スリーブ58を軸直角方向に強く押圧して、取付スリーブ58の外周面をプルダウンロッド40における貫通窓44の内周面に繰り返し当接させた場合には、かかる弾性連結腕60,60が、生ぜしめられる歪によって破断してしまう程度の強度乃至は耐久性で、取付スリーブ58をプルダウンロッド40に連結し得るものであれば良い。
【0057】
なお、本実施形態では、図4に示されているように、プルダウンロッド40を車両への略装着状態となる上下方向に立てた状態で、弾性連結腕60,60が、取付スリーブ58の上部から略V字状に広がって上方に延び出していることから、僅か一対の弾性連結腕60,60によって、取付スリーブ58を、貫通窓44内の略中央の所定位置に対して、高い精度で位置決めすることが出来るようになっている。また、弾性連結腕60,60はパワーユニット32の引き下げ作動が行なわれる上下方向や衝突外力の入力のおそれのある前後方向から外れた位置に延び出していることから、衝突の際のパワーユニット32の引き下げ作動を阻害することが回避されている。なお、本実施形態では、弾性連結腕60,60や被覆ゴム層62は、ブッシュ用ゴム弾性体50や被覆ゴム層54と一体成形されている。
【0058】
そして、このような構造とされたプルダウン用連結部材38は、図7に示されているように、その下部に形成されたゴムブッシュ52の内筒金具48が、サブメンバ30に対して固定されることによって、略鉛直上方に向かって突出する状態でフレーム構造体10に固定的に装着されている。
【0059】
特に本実施形態では、サブメンバ30における凹部36の僅かに後方に位置して下側ブラケット64がボルト固定されており、この下側ブラケット64に形成された上方に向かって開口するコ字状の取付部に対してプルダウン用連結部材38の下端部分が差し入れられている。そして、下側ブラケット64におけるコ字状の取付部に対して略水平方向に挿通された固定ボルト66がゴムブッシュ52の内筒金具48に挿通されており、軸方向に締め付けられることによって、内筒金具48が下側ブラケット64によって軸方向に挟持された状態で固定されている。なお、図面上に明示はされていないが、下側ブラケット64には、内筒金具48の軸方向端面に重ね合わせられる部分に位置決め突部が形成されており、この位置決め突部が内筒金具48に設けられた切欠56に係止されることによって、固定ボルト66を締め付ける前の状態でも、内筒金具48が周方向に位置決めされて、プルダウン用連結部材38がサブメンバ30から略鉛直上方に立ち上がった状態で位置決め保持されるようになっている。
【0060】
一方、左右のサブメンバ30,30から上方に向かって突出せしめられたプルダウン用連結部材38,38の上端部分は、何れも、パワーユニット32の下部の両側に近接して位置せしめられている。そして、パワーユニット32の側面に直接的に、或いは図7に示されているようにパワーユニット32の側面にボルト固定された上側ブラケット68を介して間接的に、プルダウン用連結部材38の取付スリーブ58がパワーユニット32に対して固定されている。具体的には、例えば図7に示されているように、上側ブラケット68には、下方に向かって開口するコ字状の取付部が形成されており、このコ字状の取付部に対してプルダウン用連結部材38の上端部分が差し入れられている。そして、上側ブラケット68におけるコ字状の取付部に対して略水平方向に挿通された係合ボルト70が取付スリーブ58に挿通されており、軸方向に締め付けられることによって、取付スリーブ58が上側ブラケット68によって軸方向に挟持された状態で固定されている。
【0061】
このように装着されたプルダウン用連結部材38においては、そのプルダウンロッド40が、下端部において、ゴムブッシュ52を介して、サブメンバ30に対して弾性的に連結固定されているのであり、一方、プルダウンロッド40の上端部においては、殆どばね成分を持たないで実質的に独立して離隔配置された取付スリーブ58がパワーユニット32に対して固定されている。従って、プルダウンロッド40は、実質的に車両ボデーを構成するサブメンバ30に対して固定されているだけであって、パワーユニット32からは離隔して独立位置せしめられた状態となっている。
【0062】
また、このようにしてプルダウン用連結部材38が装着された自動車では、その通常走行状態下においてパワーユニット32が振動やトルク反力等の作用により車両ボデーに対して多少変位した場合でも、パワーニット32に固定された取付スリーブ58は、プルダウンロッド40の貫通窓44の中空領域内で変位せしめられるだけとされる。それ故、自動車の通常走行状態下では、プルダウン用連結部材38を介してのパワーユニット32から車両ボデー側への力の伝達が、実質的に為されない状態とされているのである。なお、取付スリーブ58をプルダウンロッド40に連結位置決めする弾性連結腕60,60は、プルダウン用連結部材38の装着作業性の向上を主たる目的とするものであり、取付スリーブ58をパワーユニット32に対して係合ボルト70で締付固定した後は、弾性連結腕60,60が破断しても良い。
【0063】
上述の如くしてパワーユニット32の左右両側に装着されたプルダウン用連結部材38,38は、図3に示されている如き車両の前面衝突に際して、サブメンバ30が下方に屈曲変位せしめられることに伴って、下方に変位せしめられる。そして、下方に変位せしめられるプルダウンロッド40に対して、その貫通窓44に挿通配置されてパワーユニット32に固着された取付スリーブ58が、相対的に上方に変位せしめられて、プルダウンロッド40における貫通窓44の周壁部に対して強固に打ち当たって係合せしめられることとなる。これにより、車両の前面衝突時にパワーユニット32とサブメンバ30がプルダウンロッド40を介して連結状態とされて、サブメンバ30の下方への屈曲変位がパワーユニット32に対する引き下げ力として及ぼされるようになっている。
【0064】
そこにおいて、本実施形態では、パワーユニット32が、前述の如く、枠体状のフレーム構造体10の枠内略中央に位置するようにして配設されて、一対のサイドメンバ22,22に対して左右のエンジンマウント18,18によって、略慣性主軸上で支持されると共に、トルクロッド20を介してクロスメンバ28でトルク反力を分担することによって防振支持せしめられているが、前面衝突に際して、かかるパワーユニット32は、エンジンマウント18,18が、それ自体或いはブラケット等が破損することによって、またトルクロッド20も折れ曲がりや破断等することによって、フレーム構造体10による防振支持状態が実質的に解除されるようになっている。ここにおいて、プルダウンロッド40における貫通窓44と取付スリーブ58の間には、かかる解除に要するパワーユニット32の変位量よりも大きな隙間が形成されて、防振支持装置等が破断される前に貫通窓44と取付スリーブ58が当接するようなことが回避されており、プルダウンロッド40がパワーユニット32の防振支持状態の解除を阻害することが回避されている。
【0065】
従って、前面衝突に際して、パワーユニット32にあっては、防振支持体18,18,20による防振支持状態の解除と略同時に、プルダウン用連結部材38,38を介してサブメンバ30,30からの引き下げ力が作用せしめられることにより、フレーム構造体10の圧潰変形と同時に速やかに全体として下方に向けて強制的に引き下ろされることとなる。特に、パワーユニット32に対して、その左右両側から引き下げ力が作用せしめられることから、パワーユニット32が効率的に引き下げ変位せしめられるのである。
【0066】
その結果、パワーユニット32において特に前後方向に広幅となって後方に突出する下側部分が車室フロアよりも下方(路面側)に変位せしめられて、パワーユニット32が隔壁14を潰して或いは隔壁14を破って車室12内に突出する危険が、効果的に軽減乃至は回避され得る。
【0067】
しかも、このような構造とされたプルダウン用連結部材38は、通常走行状態下において、パワーユニット32に固定された取付スリーブ58と、車両ボデー(サブメンバ30)に固定されたプルダウンロッド40が実質的に分離されていることから、パワーユニットの防振特性に悪影響が及ぼされることがなく、良好なる防振性能が十分に維持され得るのである。
【0068】
加えて、本実施形態では、プルダウンロッド40の下端部がゴムブッシュ52を介して車両ボデーに連結固定されていると共に、パワーユニット32に固定された取付スリーブ58の外周面と貫通窓44の内周面にそれぞれ被覆ゴム層62が形成されていることから、急加減速等に際して走行中に過大な振動荷重が及ぼされてパワーユニット32が車両ボデーに対して大きく変位することで、取付スリーブ58がプルダウンロッド40に打ち当たった場合でも、その打ち当たりに起因する衝撃や、打当り状態下で及ぼされるパワーユニット32の振動の、車両ボデー側への伝達が軽減され得ることとなり、良好なる防振性能が発揮され得る。
【0069】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明はかかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定されることなく、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような態様が本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【0070】
具体的には、例えば、プルダウン用連結部材38において取付スリーブ58をプルダウンロッド40に対して位置決めするための構造は、例示の如き弾性連結腕60に限定されるものでなく、1本或いは3本以上の弾性連結腕を形成しても良い。或いは、図8に示されているように、ゴム弾性体の加硫成形型の型合わせ面に形成されるバリ状の薄膜ゴム72を巧く利用して、取付スリーブ58の外周面と貫通窓44の内周面の間で軸直角方向に広がるようにかかる薄膜ゴム72を形成して、取付スリーブ58をプルダウンロッド40に位置決めすることも可能である。
【0071】
また、取付スリーブ58をプルダウンロッド40に対して弾性的に位置決め(所謂、仮位置決め)する構成は、本発明において必須ではなく、プルダウンロッド40を含むプルダウン用連結部材38から別体形成された取付スリーブ58を、プルダウンロッド40をサブメンバ30に取り付ける作業とは別途に、パワーユニット32に固定するようにしても良い。或いはまた、取付スリーブを採用することなく、パワーユニット32に対して、別体の固定ボルト等のロッドを固設して、かかるロッドを、サブメンバ30に取り付けたプルダウンロッド40の貫通窓44に挿通位置せしめるようにしても良い。
【0072】
更にまた、ゴムブッシュ52を、プルダウンロッド40と別体形成して、プルダウンロッド40の固定用孔42に対して後から圧入等で組み付けるようにしても良い。或いはまた、そのようなゴムブッシュ52を採用することなく、プルダウンロッド40の一方の端部を、直接に、サブメンバ30に対して固定しても良い。
【0073】
また、前記実施形態では、プルダウンロッド40の下端部をサブメンバ30に対して固定する際の位置決めを容易とするために、ゴムブッシュ52の内筒金具48に切欠56を形成すると共に下側ブラケット64において該切欠56に係止される位置決め突部が形成されていたが、その他、内筒金具48の少なくとも軸方向端部の外周面を多角形状としたり、二面幅を形成すること等によって、周方向の位置決め機能も実現することも可能である。尤も、そのような周方向の位置決めは、必要に応じて採用されるものであって、本発明において必須のものではない。
【0074】
また、前記実施形態では、プルダウンロッド40は、ゴムブッシュ52の内筒金具48をサブメンバ30に対して固定されることによって、フレーム構造体10に装着されているが、内筒金具48をパワーユニット32に、略鉛直下方に向かって突出する状態で、固定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の一実施形態としての車両の安全装置を概略的に示す説明図である。
【図2】図1における平面図である。
【図3】図1に示された車両の安全装置における前面衝突時の圧潰状態を概略的に示す説明図である。
【図4】図1に示された車両の安全装置を構成するプルダウン用連結部材を単品で示す縦断面図である。
【図5】図4におけるV−V断面図である。
【図6】図4におけるVI−VI断面図である。
【図7】図1に示された車両の安全装置における要部構造を説明するための斜視図である。
【図8】図1に示された車両の安全装置に採用され得るプルダウン用連結部材の別の態様を示す、図5に対応する縦断面図である。
【符号の説明】
【0076】
10 フレーム構造体
12 車室
16 エンジンルーム
18,20 防振支持体
30 サブメンバ
32 パワーユニット
38 プルダウン用連結部材
40 プルダウンロッド
44 貫通窓
52 ゴムブッシュ
58 取付スリーブ
60 弾性連結腕
66 固定ボルト
70 係合ボルト


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の防振支持体でパワーユニットを防振支持せしめて車両ボデーに搭載した車両に用いられて、該車両の衝突時に該パワーユニットを該車両の下方に引き下げるプルダウン機構を備えた車両の安全装置であって、
車両ボデーの前後方向に延びて、前後方向の衝突外力により下方に向けて屈曲変形せしめられる前後方向部材を設けると共に、少なくとも前後方向の衝突時に該前後方向部材と該パワーユニットを連結状態にして、該前後方向部材の下方への屈曲変位を該パワーユニットに伝達して該パワーユニットを引き下げるプルダウン連結部を、該パワーユニットを防振支持する前記防振支持体とは別に設けたことを特徴とする車両の安全装置。
【請求項2】
前記プルダウン連結部は、前記前後方向部材が衝突外力で下方へ屈曲せしめられたことを条件として該前後方向部材と前記パワーユニットを連結状態にすることを特徴とする請求項1に記載の車両の安全装置。
【請求項3】
前記前後方向部材と前記パワーユニットの何れか一方に対して固定されて、それらの他方に向かって略上下方向に突出するプルダウンロッドを設けて、該プルダウンロッドの突出側の先端部分を該前後方向部材と該パワーユニットの他方に対して隙間をもった係合状態で取り付けることにより、前記プルダウン連結部が構成されている請求項1又は2に記載の車両の安全装置。
【請求項4】
前記プルダウンロッドは、前記前後方向部材において前後方向の衝突外力による下方への屈曲変形量が略最大となる位置に取り付けられている請求項3に記載の車両の安全装置。
【請求項5】
前記プルダウンロッドが、前記前後方向部材と前記パワーユニットの何れか一方に対して、弾性的に固定されている請求項3又は4に記載の車両の安全装置。
【請求項6】
前記プルダウンロッドの突出側の先端部分に透孔を形成すると共に、前記前後方向部材と前記パワーユニットの他方において該透孔に対して隙間をもって入り込む係合軸を設けることにより、該プルダウンロッドの突出側の先端部分を該前後方向部材と該パワーユニットの他方に対して隙間をもった係合状態で取り付けた請求項3乃至5の何れかに記載の車両の安全装置。
【請求項7】
前記透孔と前記係合軸との隙間の大きさを、前記車両の衝突時に前記パワーユニットが車両ボデーに対して相対変位して、該パワーユニットを該車両ボデーに対して防振支持せしめる前記防振支持体が破断するために要する該パワーユニットの変位量よりも大きくした請求項6に記載の車両の安全装置。
【請求項8】
前記プルダウンロッドの前記透孔内に隙間をもった遊挿状態で取付スリーブを挿通配置すると共に、該取付スリーブを連結ゴムで連結し、前記前後方向部材と前記パワーユニットの他方に対して螺着される係合ボルトを該取付スリーブに挿通して締付固定することによって前記係合軸を構成した請求項6又は7に記載の車両の安全装置。
【請求項9】
金属製のロッドの長手方向一方の端部に固定用孔を設けると共に他方の端部に透孔を形成することによって前記プルダウンロッドを構成し、該固定用孔に対して隙間をもって挿通した内筒金具を該プルダウンロッドに対してゴム弾性体で連結することによって前記ゴムブッシュを構成して、該内筒金具を前記前後方向部材と前記パワーユニットの一方に固定することによって、該プルダウンロッドの一方の端部を該ゴムブッシュを介して該前後方向部材と該パワーユニットの一方に対して弾性的に固定すると共に、該透孔に対して隙間をもって挿通した取付スリーブを該プルダウンロッドに対して連結ゴムで連結して概略位置決めして、該取付スリーブを該前後方向部材と該パワーユニットの他方に固定することによって、該プルダウンロッドの他方の端部を該前後方向部材と該パワーユニットの他方に対して実質的に隙間をもった係合状態で取り付けた請求項5に記載の車両の安全装置。
【請求項10】
前記連結ゴムが、前記取付スリーブの外周面と前記透孔の内周面との対向面間に収容されている請求項8又は9に記載の車両の安全装置。
【請求項11】
前記連結ゴムが、前記取付スリーブの外周面から前記車両の前後方向および上下方向を避けるように斜め方向に延び出して、該取付スリーブの外周面と前記透孔の内周面との間に跨がって延びている請求項8乃至10の何れかに記載の車両の安全装置。
【請求項12】
前記前後方向部材を車両ボデーの左右両側に位置して前後方向に延びるサブメンバとすると共に、前記プルダウン連結部を、前記パワーユニットの車両左右方向の両側に設けた請求項1乃至11の何れかに記載の車両の安全装置。
【請求項13】
金属製のロッドの長手方向一方の端部に固定用孔が形成されていると共に、該固定用孔に対して隙間をもって内筒金具が挿通されており、該内筒金具が該金属ロッドに対してゴム弾性体で連結されることによりゴムブッシュが構成されている一方、他方の端部に透孔が形成されていると共に、該透孔に対して取付スリーブが隙間をもって挿通配置されており、該取付スリーブが該金属ロッドに対して連結ゴムで連結されて概略位置決めされていることを特徴とする車両の安全装置におけるプルダウン用連結部材。
【請求項14】
前記連結ゴムが、前記取付スリーブの外周面と前記透孔の内周面との対向面間に収容されている請求項13に記載の車両の安全装置におけるプルダウン用連結部材。
【請求項15】
前記連結ゴムが、前記取付スリーブの外周面から前記車両の前後方向および上下方向を避けるように斜め方向に延び出して、該取付スリーブの外周面と前記透孔の内周面との間に跨がって延びている請求項13又は14に記載の車両の安全装置におけるプルダウン用連結部材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−62587(P2006−62587A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−249842(P2004−249842)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】