説明

車両の床下構造

【課題】走行中、アンダーカバーからの排水能力を確保しながら、空気抵抗の上昇抑制により車両全体としての空力性能の向上を達成することができる車両の床下構造を提供すること。
【解決手段】車両の床下をリアアンダーカバー7で覆い、前記リアアンダーカバー7に排水手段Dを設けた。この車両の床下構造において、排水手段Dは、前側壁端部26から車両後方に向かって上向きに傾斜し、その壁の少なくとも一部を貫通して水抜き口73を開口した前側傾斜壁21と、前側傾斜壁21に接続する折曲壁部27から後側壁端部28に向かって下向きに傾斜し、その壁面に走行風整流面25を有する後側傾斜壁22と、を備える。リアアンダーカバー7からの車両前後方向の窪み形状を、前側傾斜壁21による第1内角θ1が後側傾斜壁22による第2内角θ2より大きな角度であり2つの壁面長さL1,L2を異ならせた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の床下をアンダーカバーで覆い、このアンダーカバーに排水手段を設けた車両の床下構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の床下を覆うアンダーカバーに排水手段を設けた床下構造としては、下面が凹となる窪みを設けると共に、該窪みの外周部の車体前側に位置する部分にその一部がかかる水抜き孔を設けたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この従来の床下構造では、水抜き孔を、車両前後方向に細長い長円状の孔とし、長円状の孔の一部がかかる窪みを設けることにより、走行中にアンダーカバーの下面に沿って流れる空気がアンダーカバーの上方へ流れ込み難くする。つまり、外部から水が侵入し難い水抜き孔を備えたアンダーカバーを提供することを目指している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−18852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の床下構造にあっては、水抜き孔を、車両前後方向に細長い長円状の孔としている(特許文献1の図4)。このため、空気抵抗の上昇を抑えることはできても、大量の水や泥水等がアンダーカバーに侵入した場合、水抜き孔の開口面積が狭くて排水能力が低いことで、外部から侵入した水や泥水等をアンダーカバー内に溜めてしまう、という問題があった。
【0006】
さらに、従来の床下構造にあっては、水抜き孔の大半の開口部分を、アンダーカバーの走行風の流れに沿って形成されたカバー面に露出させている(特許文献1の図5)。このため、水抜き孔の開口面積拡大により排水能力を高めると、カバー面に対する露出開口面積も広くなることで、水抜き孔から走行風を取り込み、水抜き孔の周囲での走行風の流れに乱れを発生させてしまい、空気抵抗を上昇させてしまう。
【0007】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、走行中、アンダーカバーからの排水能力を確保しながら、空気抵抗の上昇抑制により車両全体としての空力性能の向上を達成することができる車両の床下構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明では、車両の床下をアンダーカバーで覆い、前記アンダーカバーに排水手段を設けた車両の床下構造において、前記排水手段は、前側傾斜壁と後側傾斜壁を備える手段とした。
前記前側傾斜壁は、前記アンダーカバーの車幅方向に延びる前側壁端部から車両後方に向かって上向きに傾斜し、その壁の少なくとも一部を貫通して水抜き口を開口した。
前記後側傾斜壁は、前記前側傾斜壁に接続する折曲壁部から前記アンダーカバーの車幅方向に延びる後側壁端部に向かって下向きに傾斜し、その壁面に走行風の流れを整える走行風整流面を有する。
そして、前記アンダーカバーからの車両前後方向の窪み形状を、前記前側傾斜壁による第1内角が前記後側傾斜壁による第2内角より大きな角度であり2つの壁面長さを異ならせた。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、排水機能と整流機能という2つの機能を両立させることを考慮し、窪みを構成する壁を、折り曲げによる前側傾斜壁と後側傾斜壁の2つに分け、前側傾斜壁に水抜き口を有し、後側傾斜壁に走行風整流面を有する排水手段を採用した。
このため、走行中、前側壁端部から窪みに走行風が流入すると、後側傾斜壁の走行風整流面にて受けた走行風を滑らかな流線を描くように整え、後側壁端部へと流出させる。このとき、アンダーカバーからの車両前後方向の窪み形状を、前側傾斜壁による第1内角が後側傾斜壁による第2内角より大きな角度であり2つの壁面長さを異ならせた。よって、前側壁端部から窪みに流入した走行風は、水抜き口から徐々に遠ざかる流線を描きながら走行風整流面に達する。
このように、水抜き口は、開口面積を拡大しても走行風の取り込みが抑えられる前側傾斜壁に開口し、カバー内の水等を速やかに排水する排水作用を示すことで、アンダーカバーからの排水能力が確保される。一方、走行風整流面は、窪みに流入した走行風の流れをそのまま受ける後側傾斜壁に有し、窪みを流れる走行風の流線を整える整流作用を示すことで、アンダーカバーに沿ってスムーズに走行風が流れ、空気抵抗の上昇が抑えられる。
したがって、走行中、アンダーカバーからの排水能力を確保しながら、空気抵抗の上昇抑制により車両全体としての空力性能の向上を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1の床下構造を適用した電気自動車(車両の一例)の床下全体を示す車両の斜め下側から視た斜視図である。
【図2】実施例1の床下構造におけるリアアンダーカバーを示す車両の斜め上前方側から視た斜視図である。
【図3】実施例1の床下構造におけるリアアンダーカバーを示す車両の斜め上後方側から視た斜視図である。
【図4】実施例1の床下構造におけるリアアンダーカバーに設けられた排水手段を示す拡大斜視図である。
【図5】実施例1の床下構造におけるリアアンダーカバーに設けられた排水手段を示す図4のA−A線断面図である。
【図6】実施例1の床下構造におけるリアアンダーカバーに設けられた排水手段を示す図4のB−B線断面図である。
【図7】一般的な乗用車(エンジン車)における空気抵抗の抵抗発生源分類を示す円グラフ図である。
【図8】実施例1の電気自動車における床下・タイヤ全体の周りを流れる走行風の流れを示す走行風流れ図である。
【図9】実施例1の床下構造を適用した電気自動車において排水手段の窪みを縦断面で横から視たときの排水手段の周りを流れる走行風の流れを示す走行風流線図である。
【図10】実施例1の床下構造を適用した電気自動車において排水手段の窪みを真下から視たときの排水手段の周りを流れる走行風の流れを示す走行風流線図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の車両の床下構造を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0012】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1の床下構造を適用した電気自動車(車両の一例)の床下全体を示す斜視図である。以下、図1に基づき全体床下構造を説明する。
【0013】
実施例1の電気自動車EVの全体床下構造は、図1に示すように、左右一対のフロントタイヤ1L,1Rと、左右一対のリアタイヤ2L,2Rと、フロントアンダーカバー3と、モータルーム後部アンダーカバー4と、第1バッテリアンダーカバー5と、第2バッテリアンダーカバー6と、リアアンダーカバー7(アンダーカバー)と、左右一対のフロントディフレクタ8L,8Rと、左右一対のリアディフレクタ9L,9Rと、を備えている。
【0014】
前記左右一対のフロントタイヤ1L,1Rは、操舵輪であると共に駆動輪であり、図外のフロントサスペンションリンクを介して車体に弾性支持される。
【0015】
前記左右一対のリアタイヤ2L,2Rは、トレーリング式サスペンション等による図外のリアサスペンションを介して車体に弾性支持される。
【0016】
前記フロントアンダーカバー3は、フロントバンパーフェイシャー11のフランジ部11aから図外のフロントサスペンションメンバーまでの前部床下領域を覆う部材である。このフロントアンダーカバー3のカバー面は、車両後方に向かって下方向に傾斜する傾斜部3aと、該傾斜部3aに連続する水平部3bと、により滑らかな折れ面に形成される。傾斜部3aには、車幅方向を長径とする曲面突出部31が形成され、水平部3bには、車両前後方向に延びる4本の突条32と、2つの水抜き口33,34と、が形成される。また、フロントアンダーカバー3は、車両後方に向かって幅寸法を徐々に縮小させた傾斜側面部35,35を有する。
【0017】
前記モータルーム後部アンダーカバー4は、図外のフロントサスペンションメンバーからモータルーム後部までの中央前部床下領域を覆う部材である。このモータルーム後部アンダーカバー4のカバー面は、フロントアンダーカバー3の水平部3bと同じ位置の水平面に形成される。モータルーム後部アンダーカバー4には、車両前後方向に延びる4本の突条41と、車両前方側に開口面積が小さい2つの水抜き口42,43と、車両後方側に開口面積が大きい1つの水抜き口44と、が形成される。
【0018】
前記第1バッテリアンダーカバー5と前記第2バッテリアンダーカバー6は、モータルーム後部から図外のバッテリユニットの後端部までの中央後部床下領域を互いに連接することで覆う部材である。この両バッテリアンダーカバー5,6のカバー面は、モータルーム後部アンダーカバー4のカバー面と同じ位置の水平面に形成される。両バッテリアンダーカバー5,6には、車両前後方向に延びる4本の突条51,61が形成される。なお、モータルーム後部アンダーカバー4と両バッテリアンダーカバー5,6とは、互いに連結して接続することで、全体としてセンターアンダーカバーを構成している。
【0019】
前記リアアンダーカバー7は、図外のリアサスペンション部材からリアバンパーフェイシャー13のフランジ部13aまでの後部床下領域を覆う部材である。このリアアンダーカバー7のカバー面7aは、第2バッテリアンダーカバー6と同じ水平面の位置から車両後方に向かって上方向に緩やかに傾斜する湾曲傾斜面に形成したディフューザー構造とされている。リアアンダーカバー7には、車両前後方向に延び、車両後方に向かって徐々に高さが増す4本の整流突条71と、各整流突条71の間であってディフューザー構造の入口位置に配置された3つの水抜き口72,73,74と、が形成される。
【0020】
前記左右一対のフロントディフレクタ8L,8Rは、左右一対のフロントタイヤ1L,1Rの前方位置から下方に突出して設けられ、走行中、フロントタイヤ1L,1Rの周りを流れる走行風の流れを整える。
【0021】
前記左右一対のリアディフレクタ9L,9Rは、左右一対のリアタイヤ2L,2Rの前方位置から下方に突出して設けられ、走行中、リアタイヤ2L,2Rの周りを流れる走行風の流れを整える。
【0022】
図2および図3は、実施例1の床下構造におけるリアアンダーカバー7を示す斜視図である。以下、図2および図3に基づきリアアンダーカバー7の構成を説明する。
【0023】
実施例1のリアアンダーカバー7は、図2および図3に示すように、後部床下領域を覆うと共に水や泥水等が溜まるようなトレー形状であり、合成樹脂を素材とするプレス成形により一体に製造される。リアアンダーカバー7には、車両前後方向に延び、車両後方に向かって徐々に高さが増す4本の整流突条71,71,71,71が形成される。そして、各整流突条71,71,71,71の間であってディフューザー構造の入口位置に配置された3つの水抜き口72,73,74が開口された排水手段D,D,Dが設けられる。
【0024】
前記リアアンダーカバー7には、リアバンパーフェイシャー13のフランジ部13aをオーバーハングさせる後端部を除くカバー周囲に立ち上がり部7bを形成している。この立ち上がり部7bを含む全周にフランジ部7cを形成し、フランジ部7cに複数のボルト穴7dを開口している。そして、リアアンダーカバー7は、複数のボルト穴7dに図外のボルトを差し込んで締め付けることにより、後部床下に取り付けられる。
【0025】
図4〜図6は、実施例1の床下構造におけるリアアンダーカバー7(アンダーカバーの一例)に設けられた排水手段Dを示す図である。なお、フロントアンダーカバー3に形成された水抜き口33,34と、モータルーム後部アンダーカバー4に形成された水抜き口42,43,44と、リアアンダーカバー7に形成された水抜き口72,73,74は、何れも同じ構成による排水手段Dに開口されている。以下、図4〜図6に基づき、複数の水抜き口のうち、リアアンダーカバー7の水抜き口73を代表例とし、この水抜き口73が開口された排水手段Dの構成を説明する。
【0026】
実施例1の排水手段Dは、図4〜図6に示すように、前側傾斜壁21と、後側傾斜壁22と、左側壁23と、右側壁24と、水抜き口73と、走行風整流面25と、を備えている。すなわち、リアアンダーカバー7に、前側傾斜壁21と後側傾斜壁22と左側壁23と右側壁24により囲まれる窪み空間を形成している。そして、前側傾斜壁21に水抜き口73を有し、後側傾斜壁22に走行風整流面25を有する構成としている。
【0027】
前記前側傾斜壁21は、図5に示すように、リアアンダーカバー7の車幅方向に延びる前側壁端部26から車両後方に向かって上向きに傾斜し、その壁の少なくとも一部を貫通して水抜き口73を開口している。この水抜き口73は、前側傾斜壁21のほぼ外周形状に沿う長方形状に開口すると共に、その開口前端縁73aを、前側傾斜壁21が上向き傾斜を開始する前側壁端部26の領域に設定している。
【0028】
前記後側傾斜壁22は、図5に示すように、前側傾斜壁21に接続する折曲壁部27からリアアンダーカバー7の車幅方向に延びる後側壁端部28に向かって下向きに傾斜し、その壁面に走行風の流れを整える走行風整流面25を有する。この走行風整流面25として、後側傾斜壁22の壁面をそのまま用いている。そして、走行風整流面25は、折曲壁部27から後側壁端部28に向かう平坦面25aと、後側壁端部28の領域にてリアアンダーカバー7のカバー面7aに対し滑らかに接続する円弧面25bと、を有する。
【0029】
前記左側壁23は、図6に示すように、リアアンダーカバー7から折れ曲げた前側傾斜壁21と後側傾斜壁22を窪ませることにより、車幅方向に対向して形成される一対の三角形状空間のうち、左側空間を塞ぐように設けられる。
【0030】
前記右側壁24は、図6に示すように、リアアンダーカバー7から折れ曲げた前側傾斜壁21と後側傾斜壁22を窪ませることにより、車幅方向に対向して形成される一対の三角形状空間のうち、右側空間を塞ぐように設けられる。
【0031】
ここで、前記左側壁23と前記右側壁24は、図4に示すように、車幅方向に対向する2つの壁面23a,24aによる幅Wを、車両前方から車両後方に向かうにしたがって徐々に狭くする設定としている。
【0032】
前記前側傾斜壁21と前記後側傾斜壁22によるリアアンダーカバー7からの車両前後方向の窪み形状について説明する。
リアアンダーカバー7からの車両前後方向の窪み形状は、前側傾斜壁21の壁面21aと後側傾斜壁22の壁面(走行風整流面25)とリアアンダーカバー7のカバー面7aにより形成され、図5に示すように、2つの壁面長さL1,L2を異ならせた三角窪み形状としている。つまり、リアアンダーカバー7のカバー面7aに対して前側傾斜壁21の壁面21aがなす第1内角θ1は、リアアンダーカバー7のカバー面7aに対して後側傾斜壁22の走行風整流面25がなす第2内角θ2より大きく設定している。これにより、前側傾斜壁21の壁面長さをL1とし、後側傾斜壁22の壁面長さをL2とし、前側壁端部26と後側壁端部28を結ぶ窪み長さをL3としたとき、L1<L2<L3という長さ関係に設定している。つまり、水抜き口73を開口する前側傾斜壁21の壁面長さL1を短く、走行風整流面25とする後側傾斜壁22の壁面長さL2を長くしている。
【0033】
ここで、第1内角θ1は、リアアンダーカバー7の前側壁端部26から入る走行風の流入角度より大きな角度に設定している。この走行風の流入角度は、走行風の流速により異なるが、例えば、流入角度の設計値を30°とした場合、第1内角θ1は、30°より大きな角度(例えば、45°〜90°)に設定される。
【0034】
また、第2内角θ2は、走行風整流面25からリアアンダーカバー7の後側壁端部28へ抜ける走行風の流線の偏向を抑える角度に設定している。この走行風の流線の偏向を抑える角度とは、剥離の発生を抑えた走行風の流れを確保する角度のことをいい、例えば、5°〜15°の角度に設定される。
【0035】
次に、作用を説明する。
まず、「車両の空気抵抗について」の説明を行う。続いて、実施例1の電気自動車EVの床下構造における作用を、「床下・タイヤ全体による空力性能向上作用」、「排水手段による排水作用と走行風整流作用」、「排水手段による排水能力確保作用」、「排水手段による走行抵抗上昇抑制作用」に分けて説明する。
【0036】
[車両の空気抵抗について]
車両の空気抵抗D(N)は、
D=CD×1/2×ρ×u2×A …(1)
ここで、CD:空気抵抗係数(無次元)
ρ:空気の密度(kg/m3
u:空気と車両との相対速度(m/sec)
A:前面投影面積(m2
の式で定義される。
上記(1)式から明らかなように、空気抵抗Dは、空気抵抗係数CD(Constant Dragの略)に比例し、空気と車両との相対速度u(=走行風速度、例えば、無風の場合には車両走行速度)の2乗に比例した値となる。
【0037】
この空気抵抗Dを低減するには、
(a) 空気抵抗係数CDが目標からどれだけ乖離するか?
(b) 目標からの乖離の原因はどこにあるか?
(c) その原因を解消すればどれだけ目標に漸近するか?
を把握するのが一連のプロセスである。このうち、(a),(c)は正確な計算流体学で算出された空気抵抗係数CDから知ることができるが、(b)を正確に特定するには、計算流体学から算出される速度や圧力だけでは困難である。
【0038】
この空気抵抗Dについて、図7に一般的な乗用車(エンジン車)における空気抵抗の抵抗発生源分類を示す。一番大きな抵抗発生源は、図7から明らかなように、車両外形である。しかし、二番目に大きな抵抗発生源は、床下・タイヤであり、エンジンルーム通気による空気抵抗を上回っている。すなわち、空気抵抗Dは、車両の外形スタイリングにのみに依存すると断言することはできず、床下・タイヤやエンジンルーム通気(電気自動車の場合はモータルーム通気)という抵抗発生源に対する配慮が必要であることが分かる。
【0039】
これに対し、空気抵抗Dを低減する空力性能改善は、主に車両の外形スタイリングに注目してなされてきた。しかし、例えば、後席の居住性を確保する必要がある車両の場合、車両の外形スタイリングによる空力性能改善を行っても、後席の居住スペース確保という設計上の制約により自ずと限界がある。つまり、航続距離の延長を目指して所望の空力性能を高いレベルに設定した場合、車両の外形スタイリングだけの改善では、所望の空力性能に到達する改善を望むことができない。
【0040】
特に、床下の限られたスペースにバッテリを搭載した電気自動車の場合、フル充電により決まったバッテリ容量でどれだけ航続距離を延ばすかということが生命線ともいえる。この電気自動車において、車両の外形スタイリングによる空力性能改善が限界域にあるとき、床下・タイヤ全体による空気抵抗をできる限り低減することは、電気自動車全体としての空気抵抗低減がそのまま航続距離を延ばすことに繋がることで、きわめて重要な技術課題である。
【0041】
この床下・タイヤ全体の空気抵抗低減の実効を図るためには、床下に空気抵抗係数CDを下げるアンダーカバーを設けることが有効である。そして、アンダーカバーには、排水性を持たせるべく排水手段が設定されるが、この排水手段による排水能力を確保しながら、排水手段による空気抵抗の上昇を抑制することが必要である。
【0042】
[床下・タイヤ全体による空力性能向上作用]
上記のように、電気自動車において、床下・タイヤ全体による空気抵抗をできる限り低減することは、航続距離を延ばす上で重要である。以下、これを反映する実施例1の電気自動車EVにおける床下・タイヤ全体による空力性能向上作用を説明する。
【0043】
電気自動車EVは、図8に示すように、アンダーカバー3,4,5,6,7により、タイヤ等を除く床下のほぼ全領域を覆っている。これにより、車両前端から車両後端まで凹凸の無い連続する平滑面が確保され、車両前方から流入した走行風により、車両センターラインCLを中心とする床下中央部を通過する主流線束FMAINを形成される。このため、車両前方から流入した走行風が、アンダーカバー3,4,5,6,7を通過し、車両後方へとスムーズに抜ける。特に、後部床下を覆うリアアンダーカバー7は、ディフューザー構造とされているため、走行風の車両後方への抜け促進作用も加わる。このように、車両前端から車両後端までの床下中央部領域を整然とスムーズに走行風が流れることで、床下中央部領域での空気抵抗Dが低下する。
【0044】
電気自動車EVは、図8に示すように、左右一対のフロントタイヤ1L,1Rの前方位置に左右一対のフロントディフレクタ8L,8Rを設けている。これにより、走行中、フロントタイヤ1L,1Rの周りを流れる走行風の流れが、フロントタイヤ1L,1Rの周囲への走行風の流れ込みを抑えるように整えられる。この結果、空気抵抗を高める主な原因場所となっているフロントタイヤ1L,1Rの周囲領域への走行風の流れ込み抑制により、フロントタイヤ1L,1Rの周囲領域での空気抵抗Dが低下する。
【0045】
電気自動車EVは、図8に示すように、左右一対のリアタイヤ2L,2Rの前方位置に左右一対のリアディフレクタ9L,9Rを設けている。これにより、走行中、リアタイヤ2L,2Rの周りを迂回するように走行風の流れが整えられる。この結果、リアタイヤ2L,2Rの周りを迂回する走行風により、リアタイヤ2L,2Rの周囲領域での空気抵抗Dが低下する。
【0046】
電気自動車EVは、図8に示すように、フロントアンダーカバー3に走行風の流速をコントロールする曲面突出部31を設けている。これにより、走行中、車両前方から流入した走行風の広がりを抑え、車両センターラインCLを中心とする前部床下中央部を通過する主流線束FMAINを形成する。この結果、車両前端から流入した走行風が前部床下にて中央部領域に集められ、前部床下の中央部領域での空気抵抗Dが低下する。
【0047】
以上説明したように、実施例1の電気自動車EVは、これらの床下・タイヤ全体の空力性能向上を目指した床下構造を採用した。このため、電気自動車EVの床下・タイヤ全体の空気抵抗Dが低減されることになり、電気自動車EVの航続距離を延ばす全体の空力性能向上を達成することができる。
【0048】
[排水手段による排水作用と走行風整流作用]
上記のように、電気自動車において、床下・タイヤ全体の空気抵抗低減の実効を図るためには、アンダーカバーに設定される排水手段による排水能力を確保しながら空気抵抗の上昇を抑制することが必要である。以下、これを反映する実施例1のリアアンダーカバー7に設けた排水手段Dによる排水作用と走行風整流作用を説明する。
【0049】
実施例1では、上記のように、タイヤ等を除く床下のほぼ全領域を、アンダーカバー3,4,5,6,7により覆う構成を採用した。これは、アンダーカバーは、車両の床下における空気抵抗係数CDを下げ、車両全体としての空力性能を向上させる効果があることによる。しかし、アンダーカバーの形状は、外部から侵入した水や泥水等を溜めるトレー形状であるため、排水手段が必要となり、一般的に、カバー面に露出する水抜き穴で行う。この水抜き穴の開口面積を小さくすると、空気抵抗の上昇は抑えられるが、単位時間当たりの排水流量が制限されることで排水能力が低くなる。一方、水抜き穴の開口面積を大きくすると、排水能力が高くなるが、水抜き穴に走行風が取り込まれることで空気抵抗が上昇してしまう。このように、排水能力の確保と空気抵抗の上昇抑制とは、両立し難いトレードオフの関係にある。
【0050】
これに対し、実施例1では、排水機能と整流機能という2つの機能を両立させることを考慮し、窪みを構成する壁を、折り曲げによる前側傾斜壁21と後側傾斜壁22の2つに分け、前側傾斜壁21に水抜き口73を有し、後側傾斜壁22に走行風整流面25を有する排水手段Dを採用した。
【0051】
このため、走行中、リアアンダーカバー7のカバー面7aに沿って流れる走行風は、リアアンダーカバー7の車幅方向に延びる前側壁端部26から窪みに流入する。そして、走行風が窪みに流入すると、図9に示すように、後側傾斜壁22の走行風整流面25にて受け、受けた走行風の流れを緩やかな角度変化により偏向させ、走行風整流面25に沿った滑らかな流線を描くように整えられる。そして、リアアンダーカバー7の車幅方向に延びる後側壁端部28を剥離することなくスムーズに通過し、再び、リアアンダーカバー7のカバー面7aへと流出させる。
【0052】
このとき、リアアンダーカバー7の車両前後方向窪み形状を、カバー面7aに対して前側傾斜壁21の壁面21aがなす第1内角θ1が、カバー面7aに対して後側傾斜壁22の壁面22aがなす第2内角θ2より大きな角度であり2つの壁面長さを異ならせた三角窪み形状に規定した。したがって、前側壁端部26から窪みに流入した走行風は、図9に示すように、水抜き口73から徐々に遠ざかる流線を描きながら走行風整流面25に達することになる。
【0053】
このように、水抜き口73は、開口面積を拡大しても走行風の取り込みが抑えられる前側傾斜壁21に開口したため、図9の矢印Eに示すように、リアアンダーカバー7内にカバー外部から侵入した水や泥水等が多量であっても、これを速やかに排水するという排水作用を示す。つまり、リアアンダーカバー7からの排水能力が確保される。
【0054】
一方、走行風整流面25は、窪みに流入した走行風の流れをそのまま受ける後側傾斜壁22に有するため、図9の流線Fに示すように、窪みを流れる走行風の流速が速くても、剥離や乱流を生じることのない流線を描くように整える整流作用を示す。つまり、リアアンダーカバー7に沿ってスムーズに走行風が流れ、空気抵抗の上昇が抑えられる。
【0055】
以上説明したように、実施例1の排水手段Dは、折り曲げによる前側傾斜壁21と後側傾斜壁22の2つ壁を有して窪みを構成し、前側傾斜壁21に水抜き口73を有し、後側傾斜壁22に走行風整流面25を有する。そして、窪みの形状を、前側傾斜壁21による第1内角θ1が、後側傾斜壁22による第2内角θ2より大きな角度であり2つの壁面長さを異ならせた。このため、走行中、リアアンダーカバー7からの排水能力を確保しながら、空気抵抗の上昇を抑制する結果、車両全体としての空力性能の向上を達成することができる。
【0056】
[排水手段による排水能力確保作用]
排水手段は、アンダーカバーにより覆った部品を水影響から保護するため、雨天路走行等で要求される排水能力を確保することが必要である。以下、これを反映する実施例1のリアアンダーカバー7に設けた排水手段Dによる排水能力確保作用を説明する。
【0057】
上記のように、一般に、水抜き穴の開口面積を小さくすると、空気抵抗の上昇は抑えられるが、小さい開口面積により単位時間当たりの排水流量が制限されることで排水能力が低くなる。このように、排水能力の確保と、空気抵抗の上昇抑制と、は両立し難い関係にある。
【0058】
これに対し、実施例1では、下記の(A),(B),(C)の構成を採用した。
(A) 前側傾斜壁21による第1内角θ1を、リアアンダーカバー7の前側壁端部26から入る走行風の流入角度より大きな角度に設定した。
(B) 水抜き口73は、前側傾斜壁21の外周形状に沿って長方形状に開口すると共に、その開口前端縁73aを、前側傾斜壁21が上向き傾斜を開始する前側壁端部26の領域に設定した。
(C) 車幅方向に対向する左側壁23の壁面23aと右側壁24の壁面24aによる幅Wを、車両前方から車両後方に向かうにしたがって徐々に狭くする設定とした。
【0059】
上記(A)の構成による作用を説明する。水抜き口73は、第1内角θ1により傾斜する前側傾斜壁21に開口される。そして、第1内角θ1は、窪みに入る走行風の流入角度より大きな角度に設定される。このため、前側壁端部26から窪みに流入した走行風は、図9に示すように、水抜き口73から徐々に遠ざかる流線を描きながら走行風整流面25に達するという作用を示す。言い換えると、水抜き口73が走行風の流れから切り離され、水抜き口73の開口面積の拡大が許容される。
【0060】
上記(B)の構成による作用を説明する。前側傾斜壁21の外周形状に沿って長方形状に水抜き口73を開口する構成により、前側傾斜壁21の一部のみを開口する場合に比べ、広い水抜き開口面積を確保することができる。また、水抜き口73の開口前端縁73aを前側壁端部26の領域に設定する構成により、車両前方から水抜き口73を経過して流れ出ようとする水等を、開口前端縁73aから円滑に外部に排出する作用を示す。
【0061】
上記(C)の構成による作用を説明する。車幅方向に対向する両壁面23a,24aを、先細りのノズル構造としたことにより、図10の流線に示すように、走行風整流面25に沿って流れる走行風の流速が、車両後方に向かうにしたがって徐々に速くなる。そして、走行風の流速上昇に伴い水抜き口73の出口領域Gの圧力が低下し、水抜き口73の内側と外側とに圧力差が発生する。この圧力差が、図10の矢印Eに示すように、水抜き口73から水等を外部に向かって吸い出す作用を示す。
【0062】
以上説明したように、実施例1の排水手段Dは、走行風の流れから切り離すように水抜き口73を設定し、かつ、水抜き口73からの排水能力の確保を狙って上記(A),(B),(C)の構成を採用した。このため、走行中、走行風の整流作用に影響を与えることなく、要求に対応する排水能力を確保することができる。
【0063】
[排水手段による走行抵抗上昇抑制作用]
排水手段による走行抵抗の上昇は、床下・タイヤ全体による空気抵抗Dの上昇に繋がるため、排水手段による走行抵抗の上昇を抑制することが必要である。以下、これを反映する実施例1のリアアンダーカバー7に設けた排水手段Dによる走行抵抗上昇抑制作用を説明する。
【0064】
上記のように、一般に、水抜き穴の開口面積を大きくすると、排水能力が高くなるが、水抜き穴に走行風が取り込まれることで、水抜き穴の周囲で走行風の流れが乱れ、渦構造が発生することで空気抵抗が上昇してしまう。このように、排水能力の確保と、空気抵抗の上昇抑制と、は両立し難い関係にある。
【0065】
これに対し、実施例1では、下記の(A),(D),(E)の構成を採用した。
(A) 前側傾斜壁21による第1内角θ1を、リアアンダーカバー7の前側壁端部26から入る走行風の流入角度より大きな角度に設定した。
(D) 後側傾斜壁22による第2内角θ2を、走行風整流面25からリアアンダーカバー7の後側壁端部28へ抜ける走行風の流線の偏向を抑える角度に設定した。
(E) 走行風整流面25を、平坦面25aと円弧面25bを有する後側傾斜壁22の壁面とした。
【0066】
上記(A)の構成による作用は、[排水手段による排水能力確保作用]で述べた通り、水抜き口73が走行風の流れから切り離され、走行風の整流作用へ与える水抜き口73の存在影響が抑えられ、整流構造の設計自由度が増す。
【0067】
上記(D)の構成による作用を説明する。第2内角θ2を後側壁端部28へ抜ける走行風の流線の偏向を抑える角度に設定したことにより、後側壁端部28へ抜ける走行風の流れに、走行抵抗となる剥離や乱流を生じることを抑えるという作用を示す。
【0068】
上記(E)の構成による作用を説明する。走行風整流面25を、平坦面25aと円弧面25bを有する後側傾斜壁22の壁面としたことにより、後側壁端部28へ抜ける走行風の流線を、図9に示すように、乱れなく滑らかに描くことができるという作用を示す。
【0069】
以上説明したように、実施例1の排水手段Dは、走行風の流れとは切り離された位置に水抜き口73を設定し、かつ、空気抵抗の上昇抑制を狙って上記(A),(D),(E)の構成を採用した。このため、水抜き口73による高い排水能力の確保を可能としながら、空気抵抗の上昇を最小限レベルに抑制することができる。
【0070】
なお、実施例1での各作用を、リアアンダーカバー7に設けた水抜き口73を開口する排水手段Dについて説明し、他の水抜き口33,34,42,43,44,72,74を開口する各排水手段の作用説明を省略した。しかし、他の水抜き口33,34,42,43,44,72,74を開口する各排水手段も、上記作用と同様の作用を示す。
【0071】
次に、効果を説明する。
実施例1の電気自動車EVの床下構造にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0072】
(1) 車両の床下をアンダーカバー(リアアンダーカバー7)で覆い、前記アンダーカバー(リアアンダーカバー7)に排水手段Dを設けた車両の床下構造において、
前記排水手段Dは、
前記アンダーカバー(リアアンダーカバー7)の車幅方向に延びる前側壁端部26から車両後方に向かって上向きに傾斜し、その壁の少なくとも一部を貫通して水抜き口73を開口した前側傾斜壁21と、
前記前側傾斜壁21に接続する折曲壁部27から前記アンダーカバー(リアアンダーカバー7)の車幅方向に延びる後側壁端部28に向かって下向きに傾斜し、その壁面に走行風の流れを整える走行風整流面25を有する後側傾斜壁22と、
を備え、
前記アンダーカバー(リアアンダーカバー7)からの車両前後方向の窪み形状を、前記前側傾斜壁21による第1内角θ1が前記後側傾斜壁22による第2内角θ2より大きな角度であり2つの壁面長さL1,L2を異ならせた。
このため、走行中、アンダーカバー(リアアンダーカバー7)からの排水能力を確保しながら、空気抵抗の上昇抑制により車両全体としての空力性能の向上を達成することができる。
【0073】
(2) 前記第1内角θ1は、前記アンダーカバー(リアアンダーカバー7)の前側壁端部26から入る走行風の流入角度より大きな角度に設定した。
このため、(1)の効果に加え、水抜き口73が走行風の流れから確実に切り離され、水抜き口73の開口面積を拡大しても、走行風の整流作用への影響を抑えることができる。
【0074】
(3) 前記第2内角θ2は、前記走行風整流面25から前記アンダーカバー(リアアンダーカバー7)の後側壁端部28へ抜ける走行風の流線の偏向を抑える角度に設定した。
このため、(1)または(2)の効果に加え、後側壁端部28へ抜ける走行風の流れに、走行抵抗となる剥離や乱流を生じることを抑えることができる。
【0075】
(4) 前記水抜き口73は、前記前側傾斜壁21に開口した開口前端縁73aを、前記前側傾斜壁21が上向き傾斜を開始する前記前側壁端部26の領域に設定した。
このため、(1)〜(3)の効果に加え、水抜き口73から円滑に水等を外部に排出する排水能力を確保することができる。
【0076】
(5) 前記走行風整流面25は、前記後側傾斜壁22の壁面であり、前記折曲壁部27から前記後側壁端部28に向かう平坦面25aと、前記アンダーカバー(リアアンダーカバー7)のカバー面7aに対し滑らかに接続する円弧面25bと、を有する。
このため、(1)〜(4)の効果に加え、簡単な構成としながら、後側壁端部28へ抜ける走行風の流線を乱れなく滑らかに描くことができる。
【0077】
(6) 前記排水手段Dは、前記アンダーカバー(リアアンダーカバー7)から前記前側傾斜壁21と前記後側傾斜壁22を窪ませることにより、車幅方向に対向して形成される一対の三角形状空間を塞ぐように設けられた左側壁23および右側壁24と、を備え、
前記左側壁23と前記右側壁24は、車幅方向に対向する2つの壁面23a,24aによる幅Wを、車両前方から車両後方に向かうにしたがって徐々に狭くする設定とした。
このため、(1)〜(5)の効果に加え、窪みを流れる流速を速くするノズル構造により、水抜き口73から水等を外部に吸い出す作用を加えた高い排水能力を得ることができる。
【0078】
(7) 前記アンダーカバー(リアアンダーカバー7)は、ディフューザー構造を有するリアアンダーカバー7であり、前記排水手段Dを、前記ディフューザー構造の入口位置に配置した。
このため、(1)〜(6)の効果に加え、アンダーカバー(リアアンダーカバー7)のカバー面7aに沿って車両後方に流れる流速を速くするディフューザー構造により、水抜き口73から水等を外部に吸い出す作用を加えた高い排水能力を得ることができる。
【0079】
以上、本発明の車両の床下構造を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0080】
実施例1において、リアアンダーカバー7からの車両前後方向の窪み形状を、前側傾斜壁21による第1内角θ1が後側傾斜壁22による第2内角θ2より大きな角度であり2つの壁面長さを異ならせた三角窪み形状とする例を示した。しかし、実施例1のように、前側傾斜壁と後側傾斜壁は平坦壁形状でなく、角度条件と壁面長さ条件が成立すれば、二次曲面壁形状や三次曲面壁形状であっても良い。すなわち、車両前後方向の窪み形状を、例えば、非対称ドーム窪み形状とするような例としても良い。
【0081】
実施例1において、第1内角θ1を、リアアンダーカバー7の前側壁端部26から入る走行風の流入角度より大きく、かつ、プレス成形による製造性を考慮して50°程度の角度に設定する例を示した。しかし、第1内角θ1の設定角度は、50°程度に限られるものではなく、例えば、走行風の流入角度設計値に応じて、50°より小さい角度、あるいは、50°より大きな角度に設定する例としても良い。さらに、製造的に支障がなければ、第1内角θ1は、90°に近い角度であるほど、走行風の流れに対し前側傾斜部が離れることで好ましい。
【0082】
実施例1において、第2内角θ2を、走行風整流面25からリアアンダーカバー7の後側壁端部28へ抜ける走行風の流線の偏向を抑え、かつ、設計的に可能な13°程度の角度に設定する例を示した。しかし、第2内角θ2の設定角度は、13°程度に限られるものではなく、例えば、走行抵抗の上昇抑制目標値に応じて、13°より小さい角度、あるいは、13°より大きな角度に設定する例としても良い。さらに、設計的に支障がなければ、第2内角θ2は、0°に近い角度であるほど、走行風の流れをスムーズに流すことができる。
【0083】
実施例1において、水抜き口73を、プレス成形による製造性を考慮し、前側傾斜壁21の形状に沿ってほぼ全面的に開口し、前側傾斜壁21に開口した開口前端縁73aを前側壁端部26の領域に設定する例を示した。しかし、水抜き口は、要求される排水能力に応じて前側傾斜壁21の一部に開口するような例としても良い。また、水抜き口の開口前端縁を、前側壁端部よりも上側領域に設定するような例としても良い。
【0084】
実施例1において、走行風整流面25を、後側傾斜壁22の壁面とし、折曲壁部27から後側壁端部28に向かう平坦面25aと、リアアンダーカバー7のカバー面7aに対し滑らかに接続する円弧面25bと、を有する例を示した。しかし、走行風整流面を、後側傾斜壁22に別部材による整流部材を設け、整流部材の表面により得るような例としても良い。また、走行風整流面を、平坦面・円弧面・湾曲面・これらの組み合わせ面とするような例としても良い。
【0085】
実施例1において、排水手段Dとして、左側壁23と右側壁24を備え、車幅方向に対向する2つの壁面23a,24aによる幅Wを、車両前方から車両後方に向かうにしたがって徐々に狭くする設定とする例を示した。しかし、排水手段として、前側傾斜壁と後側傾斜壁を、車幅方向のなだらかな曲面変化によりアンダーカバーに接続させることで、明確な左側壁と右側壁が無いような例としても良い。さらに、2つの壁面23a,24aによる幅Wを一定に保つ平行面にて設定する例、あるいは、2つの壁面23a,24aによる幅Wを車両後方に向かうにしたがって徐々に広くする例としても良い。
【0086】
実施例1において、排水手段Dを、リアアンダーカバー7に有するディフューザー構造の入口位置に配置する例を示した。しかし、本発明の排水手段を、実施例1のフロントアンダーカバー等のように、他のアンダーカバーに設けても良い。
【0087】
実施例1では、本発明の床下構造を電気自動車EVに適用する例を示した。しかし、ハイブリッド車や燃料電池車等の電動車両の床下構造に対しても適用することができるのは勿論のこと、エンジン車の床下構造に適用することもできる。なお、電気自動車EV等のようにバッテリを搭載した電動車両に適用した場合には、電費性能の向上を達成できる。また、エンジン車に適用した場合には、燃費向上を達成できる。
【符号の説明】
【0088】
EV 電気自動車(電動車両、車両の一例)
1L,1R 左右一対のフロントタイヤ
2L,2R 左右一対のリアタイヤ
3 フロントアンダーカバー
31 曲面突出部
33 水抜き口
34 水抜き口
4 モータルーム後部アンダーカバー
42 水抜き口
43 水抜き口
44 水抜き口
5 第1バッテリアンダーカバー
6 第2バッテリアンダーカバー
7 リアアンダーカバー(アンダーカバー)
7a カバー面
71 整流突条
72 水抜き口
73 水抜き口
73a 開口前端縁
74 水抜き口
8L,8R 左右一対のフロントディフレクタ
9L,9R 左右一対のリアディフレクタ
D 排水手段
21 前側傾斜壁
21a 壁面
22 後側傾斜壁
23 左側壁
23a 壁面
24 右側壁
24a 壁面
25 整流面
25a 平坦面
25b 円弧面
26 前側壁端部
27 折曲壁部
28 後側壁端部
CL 車両センターライン
θ1 第1内角
θ2 第2内角
L1 前側傾斜壁21の壁面長さ
L2 後側傾斜壁22の壁面長さ
L3 窪み長さ
W 2つの壁面23a,24aによる幅
FMAIN 走行風の主流線束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の床下をアンダーカバーで覆い、前記アンダーカバーに排水手段を設けた車両の床下構造において、
前記排水手段は、
前記アンダーカバーの車幅方向に延びる前側壁端部から車両後方に向かって上向きに傾斜し、その壁の少なくとも一部を貫通して水抜き口を開口した前側傾斜壁と、
前記前側傾斜壁に接続する折曲壁部から前記アンダーカバーの車幅方向に延びる後側壁端部に向かって下向きに傾斜し、その壁面に走行風の流れを整える走行風整流面を有する後側傾斜壁と、
を備え、
前記アンダーカバーからの車両前後方向の窪み形状を、前記前側傾斜壁による第1内角が前記後側傾斜壁による第2内角より大きな角度であり2つの壁面長さを異ならせたことを特徴とする車両の床下構造。
【請求項2】
請求項1に記載された車両の床下構造において、
前記第1内角は、前記アンダーカバーの前側壁端部から入る走行風の流入角度より大きな角度に設定したことを特徴とする車両の床下構造。
【請求項3】

請求項1または請求項2に記載された車両の床下構造において、
前記第2内角は、前記走行風整流面から前記アンダーカバーの後側壁端部へ抜ける走行風の流線の偏向を抑える角度に設定したことを特徴とする車両の床下構造。
【請求項4】
請求項1から請求項3までの何れか1項に記載された車両の床下構造において、
前記水抜き口は、前記前側傾斜壁に開口した開口前端縁を、前記前側傾斜壁が上向き傾斜を開始する前記前側壁端部の領域に設定したことを特徴とする車両の床下構造。
【請求項5】
請求項1から請求項4までの何れか1項に記載された車両の床下構造において、
前記走行風整流面は、前記後側傾斜壁の壁面であり、前記折曲壁部から前記後側壁端部に向かう平坦面と、前記アンダーカバーのカバー面に対し滑らかに接続する円弧面と、を有することを特徴とする車両の床下構造。
【請求項6】
請求項1から請求項5までの何れか1項に記載された車両の床下構造において、
前記排水手段は、前記アンダーカバーから前記前側傾斜壁と前記後側傾斜壁を窪ませることにより、車幅方向に対向して形成される一対の三角形状空間を塞ぐように設けられた左側壁および右側壁と、を備え、
前記左側壁と前記右側壁は、車幅方向に対向する2つの壁面による幅を、車両前方から車両後方に向かうにしたがって徐々に狭くする設定としたことを特徴とする車両の床下構造。
【請求項7】
請求項1から請求項6までの何れか1項に記載された車両の床下構造において、
前記アンダーカバーは、ディフューザー構造を有するリアアンダーカバーであり、前記排水手段を、前記ディフューザー構造の入口位置に配置したことを特徴とする車両の床下構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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