説明

車両の後部車体構造

【課題】 後部車体の剛性、特に捻り剛性を向上する。
【解決手段】 リアフロアパネル1はサイドレインフォースメント5を介してリアサイドインナーパネル4に連結されている。サイドレインフォースメント5は車幅方向外方向に向けて開口する断面略コ字状の形状を有し、このサイドレインフォースメント5とリアサイドインナーパネル4とで第1の閉断面6が形成される。リアフロアパネル1の側部には、その下面に従来と同様にリアサイドフレーム2が設けられており、このリアサイドフレーム2によって第2の閉断面7が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の後部車体構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両は、車体形式によって様々に分類される。例えば、トランクリッドを備えたセダン型、バックドアを備えたハッチバック型、後方に向けて大きな開口を備えたワゴンやワンボックス型などの各種の車両が知られている。これら各種の車両は、一般的に、その後部にラゲッジルームを含む(特許文献1)。
【0003】
このような後部ラゲッジルームを備えた車両の後部車体構造の一般的な構造を図7に示す。同図の参照符号1は、リアフロアパネルを示し、リアフロアパネル1の下面には、両側部つまり車幅方向両端から車幅方向内方に離間した部位に、車体前後方向に延びるリアサイドフレーム2が接合されている。参照符号3、4は、リアサイドアウターパネル、リアサイドインナーパネルである。この図7を参照して、従来の後部車体構造を説明すると、従来の後部車体構造は、リアフロアパネル1の両側縁つまり車幅方向両端を夫々リアサイドインナーパネル4に接合する構成が採用されていた。
【特許文献1】実開平1−161885号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既知のように、環境負荷の問題から、燃料消費率に大きく影響する車体重量を軽量化する動きの中で、車体剛性の向上の努力が自動車メーカで行われている。言うまでもないことであるが、車体剛性は、車両の走行性能や乗り心地など車両の品質を左右する重要な要素である。
【0005】
本発明の目的は、後部車体の剛性、特に捻り剛性を向上することのできる車両の後部車体構造を提供することにある。
【0006】
本発明の更なる目的は、後部車体の剛性に加えて後輪サスペンションの取付剛性を向上することのできる車両の後部車体構造を提供することにある。
【0007】
本発明の更なる目的は、ホイールハウスを含めて後部車体の剛性を向上することのできる車両の後部車体構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の技術的課題は、本発明にあっては、
後部車体の側壁の外面を構成するリアサイドアウターパネルと、
前記後部車体の側壁の内面を構成するリアサイドインナーパネルと、
後部車体の床を構成するリアフロアパネルと、
該リアフロアパネルの車幅方向両側部の下面に接合され、車体前後方向に延びる左右のリアサイドフレームと、
上壁面と縦壁面と下壁面とを有し、該上壁面と下壁面の車幅方向外端が前記リアサイドインナーパネルに接合されて、該リアサイドインナーパネルと協同して閉断面を形成する断面略コ字状のサイドレインフォースメントとを有し、
前記リアフロアパネルの車幅方向両端が前記サイドレインフォースメントに接合されていることを特徴とする車両の後部車体構造を提供することにより達成される。
【0009】
前述した従来の構造を示す図7と対比して、本発明の基本的な構成を示す図1を参照して、本発明の構成を説明すると、リアフロアパネル1は、リアサイドインナーパネル4に対して、車体前後方向に延びるサイドレインフォースメント5を介して連結されている。このサイドレインフォースメント5は車幅方向外方向に向けて開口する断面略コ字状の形状を有し、このサイドレインフォースメント5とリアサイドインナーパネル4とで第1の閉断面6が形成される。
【0010】
すなわち、本発明の後部車体構造にあっては、リアフロアパネル1の両側部のリアサイドフレーム2が形成する第2の閉断面7の他に、その車幅方向外方に隣接して、サイドレインフォースメント5により形成される第1の閉断面6が追加され、この第1の閉断面6によって後部車体の車幅方向のコーナ部の剛性を高める構造となっている。
【0011】
したがって、後部車体の剛性、特に捻れ剛性を従来に比べて向上できることは勿論であるが、第1の閉断面6を形成するサイドレインフォースメント5は、リアフロアパネル1やリアサイドインナーパネル4とは別部材であることから、サイドレインフォースメント5の大きさ等に対する設計上の束縛が小さい。このことから、後部車体剛性を高めるために、リアフロアパネル1やリアサイドインナーパネル4の形状などを工夫して複雑な形状を採用するよりも、サイドレインフォースメント5の大きさなどの設計を変更だけで、所望の後部車体剛性を確保することができ、従って、後部車体剛性の向上を意図する設計上の自由度を大幅に改善することできる。例えば、図1を参照して、サイドレインフォースメント5の上下高さを上方に拡大することで、後部車体剛性を一層向上することができる。リアフロアパネル1を接合するサイドレインフォースメント5の部位は、典型的には、車幅方向外方に開口した断面略コ字状のサイドレインフォースメント5の車幅方向内面つまり車室内側に向いた縦壁面5aである。
【0012】
本発明の上記目的や他の目的及び作用効果の詳細は、以下の実施例の説明から明らかになろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の実施例を図2〜図6に基づいて説明する。図示の車両10は、「ミニバン」と通称されている比較的小型のワンボックスカーであり、後部車体構造を車室空間から見た車両の側部の構造を概略的に示す図2から理解できるように、ルーフパネル11は後方にほぼ真っ直ぐに延びており、これにより車室空間の後部領域のラゲッジルーム12は、その前方の乗員座席領域と実質的に同じ高さ寸法を有している。なお、ラゲッジルーム12には必要に応じて第3列目の座席(図示せず)が設置可能である。
【0014】
図3は図2のIII−III線に沿った断面図であり、図4は、図2のIV−IV線に沿った断面図である。後部車体の側壁は、従来と同様に、リアサイドアウターパネル3とリアインナーパネル4とで構成され、リアインナーパネル4の車室側にはリヤサイドトリム13(図3)が配設されている。なお、図2などでは、説明の都合上、リアサイドトリム13を外した状態で図示してある。
【0015】
リアサイドインナーパネル4には、大きな開口4aが形成されており、この開口4aを通じて、リアサイドアウターパネル3とリアインナーパネル4とで挟まれた空間14に、リアエアコンユニット15(図2、図3参照)が搭載される。
【0016】
リアサイドインナーパネル4に連なるホイールハウス16(図2)は、車体内方に膨出した形状を有し、このホイールハウス16内に、既知のように、後輪及びサスペンション機構(共に図示せず)が収容される。
【0017】
リアラゲッジルーム12の床を構成するリアフロアパネル1は、その車幅方向中央部1aが相対的に低く、側部1bが相対的に高くなる車幅方向に段付きの形状を有し、この段付きリアフロアパネル1を採用することにより低床化が図られている。リアフロアパネル1の側部1bには、その下面に、従来から知られているリアサイドフレーム2が接合され、このリアサイドフレーム2は車体前後方向に延びている。
【0018】
リアフロアパネル1の両側縁つまり車幅方向両端は、車体前後方向に延びるサイドレインフォースメント5を介して、リアサイドインナーパネル4に連結されている。
【0019】
図5はサイドレインフォースメント5の斜視図である。サイドレインフォースメント5は車体前後方向に延び、その横断面は、車幅方向外方に向けて開口した横断面略コ字状の形状を有する。すなわち、サイドレインフォースメント5は、車室内に対面して縦方向に延びる縦壁面5aと、この縦壁面5aの上端から車外側に向けて延びる上壁面5bと、縦壁面5aの下端から車外側に向けて延びる下壁面5cとを有する。
【0020】
上壁面5bは、その外端縁から上方向に屈曲した上フランジ5dを有し、また、下壁面5cは、その外端縁から下方向に屈曲した下フランジ5eを有し、これら上下のフランジ5d、下フランジ5eは、共に、サイドレインフォースメント5のほぼ前端から後端まで車体前後方向に延びている。
【0021】
サイドレインフォースメント5の後端は、上壁面5b、縦壁面5a、下壁面5cに亘って実質的に連続した後フランジ5fを有している。他方、サイドレインフォースメント5の前端には、下壁面5cの部分だけに前フランジ5gが形成され、縦壁面5a及び上壁面5bにはフランジが設けられていない。
【0022】
なお、サイドレインフォースメント5の上壁面5bには、開口5hが設けられているが、この開口5hを設けるか否かは任意である。サイドレインフォースメント5に開口5hを設けたときには、サイドレインフォースメント5が形成する第1閉断面6の内部を、例えばジャッキなどの備品の収容空間に利用することができ、また、開口5hを通じた溶接作業を行うことができるので都合がよい。
【0023】
サイドレインフォースメント5は、上フランジ5d及び下フランジ5eをリヤサイドインナーパネル4に溶接することによりリアサイドインナーパネル4に接合されているが、下フランジ5eは、リヤサイドアウターパネル3とリアサイドインナーパネル4との溶接箇所に重ね合わせた状態でリアサイドインナーパネル4に接合されている。
【0024】
サイドレインフォースメント5の後端は、その後フランジ5fの、例えばサイドレインフォースメント5の上壁面5bに対応する部分が、車両の後端面を構成するリアエンドパネル17に溶接される等、車体のリアエンド壁の車幅方向外端のコーナ部分を構成する部材に溶接により接合されている。このエンドパネル17は、図6に参照符号17aで示すように後方に向けて大きく開放した開口を有し、この開口17aは図外のバックドアで開閉される。
【0025】
サイドレインフォースメント5は、その前端がホイールハウス16の後部に連結されている。最も好ましい態様として、サイドレインフォースメント5は、その一部が、図2、図5、図6に参照符号18で示すホイールハウスレインフォースメントを介してホイールハウス16に連結される。
【0026】
ホイールハウスレインフォースメント18は、ホイールハウス16のサスペンション取付部を補強するために設けられており、このホイールハウスレインフォースメント18にサスペンションが固定される。ホイールハウスレインフォースメント18はホイールハウス16の後部の形状に沿った形状を有し、その後端には、後方に延びる溶接用フランジ18aが形成されている。この溶接用フランジ18aは、図5から理解できるように、サイドレインフォースメント5の上壁面5bの前端部に対応した形状を有する。
【0027】
サイドレインフォースメント5の上壁面5bは、水平面であってもよいが、この実施例では、図4などから分かるように、ホイールハウスレインフォースメント18の溶接用フランジ18aの車幅方向長さ寸法を拡大することを意図して、車幅方向内方側に向かうに従って低所となるように傾斜した傾斜面で構成されている。すなわち、上壁面5bの少なくとも前端部は、これを水平面で構成するよりも傾斜面で構成する方が、溶接用フランジ18aの車幅方向長さを相対的に大きく設計することが可能であり、後に説明するように、溶接用フランジ18aをサイドレインフォースメント5の前端に接合する面積を車幅方向に拡大することができる。
【0028】
再び、サイドレインフォースメント5の前端の説明に戻ると、サイドレインフォースメント5の下壁面5cだけに設けられた前フランジ5g(図5)は、ホイールハウス16に直接的に溶接される。他方、サイドレインフォースメント5の上壁面5bの前端部は、その下にホイールハウスレインフォースメント18の溶接用フランジ18aを重ね合わせた状態でこの溶接用フランジ18aに接合される。すなわち、サイドレインフォースメント5の上壁面5bの前端は、図4及び図5から理解できるように、その下面と溶接用フランジ18aの上面とを重ねた状態で接合されている。
【0029】
上述した後部車体構造を採用したミニバン10は、リアフロアパネル1が従来とは異なる特別の形状に成形されていないにもかかわらず、リアフロアパネル1とリアサイドインナーパネル4との連結部に介在するサイドレインフォースメント5によって第1閉断面6が形成されているため、後部車体の剛性を向上することができる。特に、ミニバン10のように、リアエアコンユニット15などの補機を搭載するために、リアサイドインナーパネル4の下部まで大きく広がる開口4aが設けられている場合には、効果的に後部車体の剛性、特に捻れ剛性を高めることができる。同様に、ミニバン10のようなワンボックスカーでは、リアサイドインナーパネル4は比較的縦長であるが、サイドレインフォースメント5を採用して後部車体の捻り剛性を向上させることで、この種の車両の走行性や乗り心地を向上させることができる。
【0030】
また、サイドレインフォースメント5は、リアフロアパネル1及びリアサイドインナーパネル4とは別部材であることから、上下に拡大して第1閉断面6の断面積を大きくすることは容易であり、逆に、上下に縮小して第1閉断面6の断面積を小さくすることも、リアフロアパネル1及びリアサイドインナーパネル4の束縛を受けることなく可能であることから、車両の種類に限定されることなく、各種の車両の後部車体の剛性の確保又は向上を意図したサイドレインフォースメント5の設計は容易であり、これにより、後部車体の剛性の確保や向上のための車体設計の自由度を高めることができる。
【0031】
実施例のように、サイドレインフォースメント5の前端をホイールハウス16に連結することで、このサイドレインフォースメント5によってホイールハウス16の剛性を高めることができる。特に、サスペンションからの入力によるホイールハウス16の内倒れ現象をサイドレインフォースメント5によって効果的に抑えることができるため、サスペンションの取付剛性をこのサイドレインフォースメント5によって高めることができる。この効果は、サイドレインフォースメント5の後端をエンドパネル17に連結することで一層顕著なものとなる。
【0032】
特に、サイドレインフォースメント5の前端を、サスペンションが固定されるホイールハウスレインフォースメント18に接合することにより、ホイールハウスレインフォースメント18の補強部材としてサイドレインフォースメント5が機能することから、これによりサスペンションの取付剛性を高めて乗り心地を向上させるのにも役立つことができる。
【0033】
更に、サイドレインフォースメント5の上壁面5bを傾斜面で構成した場合には、上述したように、ホイールハウスレインフォースメント18の溶接用フランジ18aの車幅方向長さを拡大することにより、サイドレインフォースメント5の前端との接合面積を増やすことができるため、この点からもホイールハウス16の内倒れ現象を効果的に抑えることができる。
【0034】
更にサイドレインフォースメント5の後端を、実施例のように、車体後端の車幅方向端部のコーナ部を構成する部材に連結することで、上述した効果を一層顕著なものにすることができるが、特に、サイドレインフォースメント5の上壁面5bに相当する後フランジ5fの部分をリアエンドパネル17に接合することで、この上壁面5bの支持剛性を高めることができる。そして、この上壁面5bの前端は、前述したように、ホイールハウスレインフォースメント18に接合されているため、ホイールハウス16の内倒れ現象を更に効果的に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の後部車体構造を説明するための図である。
【図2】リアサイドトリムを取り外して後部車体の側部を車室内から見た図である。
【図3】図2のIII−III線に沿った断面図である。
【図4】図2のIV−IV線に沿った断面図である。
【図5】サイドレインフォースメントの斜視図である。
【図6】車体後端部分の車幅方向端部のコーナ部分を車室内側から見た図である。
【図7】従来の一般的な後部車体構造を説明するための図である。
【符号の説明】
【0036】
1 リアフロアパネル
2 リアサイドフレーム
3 リアサイドアウターパネル
4 リアサイドインナーパネル
4a リアサイドインナーパネルの補機類用の開口
5 サイドレインフォースメント
5a サイドレインフォースメントの縦壁面
5b サイドレインフォースメントの上壁面
5c サイドレインフォースメントの下壁面
6 サイドレインフォースメントが形成する第1の閉断面
7 リアサイドフレームが形成する第2の閉断面
16 ホイールハウス
17 リアエンドパネル
18 ホイールハウスレインフォースメント
18a ホイールハウスレインフォースメントの後方に延びる溶接用フランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
後部車体の側壁の外面を構成するリアサイドアウターパネルと、
前記後部車体の側壁の内面を構成するリアサイドインナーパネルと、
後部車体の床を構成するリアフロアパネルと、
該リアフロアパネルの車幅方向両側部の下面に接合され、車体前後方向に延びる左右のリアサイドフレームと、
上壁面と縦壁面と下壁面とを有し、該上壁面と下壁面の車幅方向外端が前記リアサイドインナーパネルに接合されて、該リアサイドインナーパネルと協同して閉断面を形成する断面略コ字状のサイドレインフォースメントとを有し、
前記リアフロアパネルの車幅方向両端が、各々、前記サイドレインフォースメントに接合されていることを特徴とする車両の後部車体構造。
【請求項2】
前記リアサイドインナーパネルに連なり且つ車幅方向内方に膨出した、後輪及びそのサスペンションを収容するためのホイールハウスと、
該ホイールハウスの後部に設けられ、前記サスペンションが固定されるホイールハウスレインフォースメントとを更に有し、
該ホイールハウスレインフォースメントの後端には、前記サイドレインフォースメントの前端部に溶接可能な溶接用フランジが設けられ、
該溶接用フランジが、前記サイドレインフォースメントの上壁面の前端部の下に重ね合った状態で接合されている、請求項1に記載の車両の後部車体構造。
【請求項3】
前記サイドレインフォースメントの前記上壁面の少なくとも前部分が、車幅方向内方に向かうに従って下位に位置する傾斜面で構成されている、請求項2に記載の車両の後部車体構造。
【請求項4】
前記サイドレインフォースメントの少なくとも前記上壁面の後端が、車両の後端面を構成するリアエンドパネルに接合されている、請求項3記載の車両の後部車体構造。
【請求項5】
前記サイドインナーパネルには、その下部まで広がる開口を有し、該開口を通じて前記サイドインナーパネルと前記サイドアウターパネルとで挟まれた空間に補機が搭載される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両の後部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−7801(P2006−7801A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−183519(P2004−183519)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】