説明

車両の後部車体構造

【課題】ホイールハウス補強部材を有効利用することにより重量増加を抑えつつリトラクタ支持剛性を確保し、かつ、リトラクタをスペース効率の高い部位に配設して、荷室スペースの低減を最小限に抑制する車両の後部車体構造を提供する。
【解決手段】車体の床面を形成するフロアパネル1と、車体側壁から車室内側に向けて膨出して形成され後輪を収容する一対のホイールハウス36と、ホイールハウス36とその上方の車体側壁にわたって設けられたホイールハウス補強部材37と、ホイールハウス補強部材37より前方に配設されたリヤシート25と、リヤシート25より後方に設けられたシートベルト装置50のリトラクタ51とを備え、リトラクタ51がホイールハウス補強部材37に取付けられたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ホイールハウスとその上方の車体側壁にわたって設けられたホイールハウス補強部材と、このホイールハウス補強部材より前方に配設されたリヤシートと、このリヤシートより後方に設けられたシートベルト装置のリトラクタとを備えたような車両の後部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、リヤシートのリトラクタは該リヤシートに内蔵される構成と、トランクサイド等の車体側壁に取付けられる構成とがある。
リヤシートにリトラクタを内蔵した構成では、シートそれ自体の重量が増加する問題点がある反面で、車体側壁にはリトラクタを取付ける必要がないので、車体側壁に、リトラクタ取付けによる凹凸が形成されることがなく、荷室の使い勝手が向上する利点がある。
【0003】
一方、車体側壁にリトラクタを取付ける構成では、リヤシートそれ自体が重量増加する懸念はないが、車体側壁に凹凸が生じ、荷室の使い勝手が劣化する問題点があった。
また、この場合、上述のリトラクタには乗員保護用の大きな負荷が付勢されるので、車体側壁の剛性を高めて、この高剛性部位にリトラクタを取付ける必要がある。
【0004】
そこで、従来においては車体側壁を構成するフレームサイドアウタとフレームサイドインナとの間に補強パネルを追加し、この補強パネルにより剛性が高められた部位にリトラクタを取付けるように構成しているが、重量の増加を招く問題点があった。
【0005】
ところで、特許文献1には、図10に示すように、リヤインナパネル91から車室内側に膨出形成されたホイールハウス92を設け、このホイールハウス92の上面にサスペンションハウジングガセット93を接合固定する一方、上述のリヤインナパネル91の車外側面にアンカプレート94を接合し、このアンカプレート94とリヤインナパネル91とが重合する重合部位に、シートベルト装置のリトラクタ95を取付けた構造が開示されている。
なお、図10において、96はリヤピラーレインフォースメントであり、また、図中、矢印Fは車両前方を示し、矢印Rは車両後方を示し、矢印INは車両内方を示し、矢印OUTは車両外方を示す。
【0006】
この特許文献1に開示された従来構造によれば、リヤインナパネル91とアンカプレート94との重合部にリトラクタ95を設けるので、該リトラクタ95の取付け剛性の向上を図ることができる利点がある反面、アンカプレート94およびリヤピラーレインフォースメント96により重量増加を招く問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−170228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、この発明は、ホイールハウスとその上方の車体側壁にわたって設けられたホイールハウス補強部材を設け、このホイールハウス補強部材にリトラクタを取付けることで、ホイールハウス補強部材を有効利用することにより重量増加を抑えつつリトラクタ支持剛性を確保することができ、かつ、該リトラクタをスペース効率の高い部位に配設することにより、荷室スペースの低減を最小限に抑制することができる車両の後部車体構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明による車両の後部車体構造は、車体の床面を形成するフロアパネルと、車体側壁から車室内側に向けて膨出して形成され後輪を収容する一対のホイールハウスと、該ホイールハウスとその上方の車体側壁にわたって設けられたホイールハウス補強部材と、該ホイールハウス補強部材より前方に配設されたリヤシートと、該リヤシートより後方に設けられたシートベルト装置のリトラクタとを備えた車両の後部車体構造であって、上記リトラクタがホイールハウス補強部材に取付けられたものである。
【0010】
上記構成によれば、ホイールハウスとその上方の車体側壁にわたってホイールハウス補強部材を設け、リトラクタが該ホイールハウス補強部材に取付けられたものであるから、このホイールハウス補強部材を有効利用して重量増加を抑えつつ、支持剛性を確保しながらリトラクタを取付けることができる。
この結果、リトラクタの取付け剛性および支持剛性を確保することができると共に、該リトラクタをスペース効率の高い部位に配設することにより、荷室スペースの低減を最小限に抑制することができる。
【0011】
この発明の一実施態様においては、上記リトラクタは、上記ホイールハウス補強部材の前方かつ、上記リヤシートの後方に配設されたものである。
上記構成によれば、リトラクタをホイールハウス補強部材の前方で、かつ、リヤシートの後方に配設したので、スペース効率の高い部位に配設でき、荷室スペースの低減を抑制した使い勝手の良い荷室を提供することができる。
【0012】
この発明の一実施態様においては、上記ホイールハウス補強部材には、ホイールハウスのトップデッキより上方に車幅方向に延びて立設された縦壁部が設けられ、上記リトラクタが該縦壁部に取付けられたものである。
上記構成によれば、上記縦壁部を設けることでホイールハウスの剛性向上を図ることができ、上記リトラクタも剛性を確保して支持することができる。
しかも、車幅方向に延びる縦壁部を設けることで、リトラクタに付勢される力の方向(乗員が移動する車両前方方向)に対して、強い取付け構造となる。
【0013】
この発明の一実施態様においては、上記リトラクタは、シートベルト装置のウエビングを巻取るリトラクタ本体と、該リトラクタ本体を支持する支持ブラケットとを備え、該支持ブラケットが上記ホイールハウス補強部材に直接取付けられたものである。
上記構成によれば、リトラクタをホイールハウス補強部材に直接取付けるので、重量増加を抑制した状態での取付けが可能となる。
【0014】
この発明の一実施態様においては、上記シートベルト装置は、ウエビングの中間部を案内するショルダアンカを備え、上記リトラクタは該ウエビングの繰出し方向が上記ショルダアンカを向くように上記ホイールハウス補強部材に取付けられたものである。
上記構成によれば、ウエビングの繰出し方向がショルダアンカを向くので、ウエビングの引出し時に該ウエビングが撓んだりすることを防止でき、ウエビングの良好な取出し性を確保することができる。
【0015】
この発明の一実施態様においては、上記ショルダアンカが、リヤシートのシートバック上端より上方の車体側壁に設けられたものである。
上記構成によれば、リトラクタがホイールハウス補強部材に配置された場合であっても、ショルダアンカをリヤシートのシートバック上端より上方の車体側壁に設けることで、ウエビングの適切な取出し性を確保することができる。
【0016】
この発明の一実施態様においては、上記ホイールハウス補強部材は、ホイールハウスの車室内側面からフロアパネルまで延びる延長部を備え、該延長部の下部と上記リトラクタとを連結するレインフォースメントが設けられたものである。
上記構成によれば、リトラクタを、上記レインフォースメントを介して該リトラクタよりも下方に位置する部材(延長部の下部)に連結することができ、リトラクタに対する引っ張り力に対して強い剛性の支持構造が得られる。
【0017】
この発明の一実施態様においては、上記ホイールハウスの車室内側にはホイールハウス補強部材に沿って設けられたトリム部材を備え、該トリム部材がホイールハウス補強部材より上方においては車体側壁に沿って設けられたものである。
上記構成によれば、ホイールハウス補強部材より上方においてはトリム部材が車体側壁に沿って設けられているので、車体側壁の凹凸低減を図って、荷室の使い勝手の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、ホイールハウスとその上方の車体側壁にわたって設けられたホイールハウス補強部材を設け、このホイールハウス補強部材にリトラクタを取付けたので、ホイールハウス補強部材を有効利用することにより重量増加を抑えつつリトラクタ支持剛性を確保することができ、かつ、該リトラクタをスペース効率の高い部位に配設することにより、荷室スペースの低減を最小限に抑制することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の車両の後部車体構造を示す側面図
【図2】図1の要部平面図
【図3】図1のA−A線矢視断面図
【図4】リトラクタ取付け構造を示す斜視図
【図5】車両の後部車体構造の他の実施例を示す平面図
【図6】車両の後部車体構造のさらに他の実施例を示す側面図
【図7】図6のB−B線矢視断面図
【図8】図7のショルダアンカ取付け部の拡大図
【図9】リトラクタ取付け構造の他の実施例を示す斜視図
【図10】従来の車両の後部車体構造を示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
ホイールハウス補強部材を有効利用して重量増加を抑えつつリトラクタを取付け、その支持剛性を確保するという目的を、車体の床面を形成するフロアパネルと、車体側壁から車室内側に向けて膨出して形成され後輪を収容する一対のホイールハウスと、該ホイールハウスとその上方の車体側壁にわたって設けられたホイールハウス補強部材と、該ホイールハウス補強部材より前方に配設されたリヤシートと、該リヤシートより後方に設けられたシートベルト装置のリトラクタとを備えた車両の後部車体構造であって、上記リトラクタをホイールハウス補強部材に取付けるという構成にて実現した。
【実施例1】
【0021】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図1は車両の後部車体構造を示す側面図、図2は図1の要部の平面図、図3は図1のA−A線矢視断面図(背面図)、図4は要部の斜視図である。
【0022】
図1において、車体の床面を形成するフロアパネル1を設けている。このフロアパネル1は、シートパン1Aと、このシートパン1Aに前低後高状に連設されたスラント形状のキックアップ部1Bと、このキックアップ部1Bの上端から後方に向けて延びる荷室フロア1Cと、荷室フロア1Cの車幅方向中央部に一体または一体的に段下げ形成されたスペアタイヤパン1Dと、を備えている。
【0023】
上述のフロアパネル1の後端には、所定量上方に向けて立上がるリヤエンドパネル2を接合固定し、このリヤエンドパネル2のリヤ側には、車幅方向に延びるリヤエンドメンバ3を接合固定して、このリヤエンドメンバ3と上述のリヤエンドパネル2との間には車幅方向に延びるリヤエンド閉断面4を形成して、下部における後部車体剛性の向上を図るように構成している。
上述のリヤエンドメンバ3のさらに後方には、図示しないクラッシュカンおよびバンパビームなどから成るバンパレインフォースメントを介して合成樹脂製のリヤバンパ5を配設している。
【0024】
一方、車室6および荷室7を上方から覆うルーフパネル8を設け、このルーフパネル8の後端部内側には、ルーフレインフォースメント9およびリヤヘッダ10を接合固定すると共に、ルーフレインフォースメント9とリヤヘッダ10との間には、車幅方向に延びるヘッダ閉断面11を形成して、上部における後部車体剛性の向上を図るように構成し、さらに、リヤヘッダ10を含んでルーフパネル8の内側全面をトップシーリング12で覆っている。
【0025】
上述のリヤヘッダ10と対応するルーフパネル8後端の段下げ部には、バックドアヒンジ13を介してバックドア14(リフトゲートと同意)を開閉可能に支持している。
このバックドア14は、バックドアインナパネル15と、バックドアアウタパネル16と、バックドアウインド17と、ボディ側のストライカと係合するラッチ(図示せず)とを有し、荷室7後端の開口部18を開閉するものである。
【0026】
上述のフロアパネル1におけるシートパン1Aの上部には、車幅方向に延びるクロスメンバ19を接合固定して、このクロスメンバ19とフロアパネル1との間に、車幅方向に延びる閉断面20を形成し、下部車体剛性の向上を図るように構成している。
また、上述のフロアパネル1におけるキックアップ部1Bの上部には、車幅方向に延びるリヤクロスメンバ21を接合固定して、このリヤクロスメンバ21とフロアパネル1との間に、車幅方向に延びる閉断面22を形成し、下部車体剛性の向上を図るように構成している。
【0027】
同様に、上述のフロアパネル1におけるキックアップ部1Bの下部にも、リヤクロスメンバ21と上下方向に対向するように、車幅方向に延びるリヤクロスメンバロア23を接合固定して、このリヤクロスメンバロア23とフロアパネル1との間にも、車幅方向に延びる閉断面24を形成し、下部車体剛性の向上を図るように構成している。
上述のフロアパネル1におけるシートパン1Aの上部には、リヤシート25が配設されている。
【0028】
このリヤシート25は、後席乗員の着座面を形成するシートクッション25Cと、後席乗員の背もたれ面を形成するシートバック25Bと、後席乗員の頭部を保持するヘッドレスト25Hと、を有し、複数のブラケット26,27を介してフロアパネル1に支持されると共に、該リヤシート25は、後述するホイールハウス補強部材37よりも前方に配設されている。
【0029】
図1、図2、図3に示すように、フロアパネル1の左右両サイドには、サイドシル28の後部からリヤエンドパネル2まで車両の前後方向に延びるリヤサイドフレームアッパ29とリヤサイドフレームロア30とを設けている。
これらのリヤサイドフレームアッパ29とリヤサイドフレームロア30とは互に接合固定されていて、リヤサイドフレームアッパ29とリヤサイドフレームロア30との間には、車両の前後方向に延びるリヤサイド閉断面31(図3参照)が形成され、側部における下部車体剛性の向上を図るように構成している。
【0030】
上述のリヤサイドフレームアッパ29とリヤサイドフレームロア30の車幅方向内側の接合部32は、フロアパネル1に接合固定され、リヤサイドフレームアッパ29とリヤサイドフレームロア30の車幅方向外側の接合部33は、後述する車体側壁としてのキャブサイドパネル34およびホイールハウスインナ36に接合固定されている。
【0031】
図2、図3に示すように、車体側壁を構成するキャブサイドパネル34を設け、このキャブサイドパネル34の所定部(後輪と対応する部位)には車幅方向外方に向けて膨出形成されたホイールハウスアウタ35を設けている。
このホイールハウスアウタ35の位置と一致するように、キャブサイドパネル34から車室内側に向けて膨出して形成されたホイールハウスインナ36を設けている。
【0032】
この実施例では、キャブサイドパネル34とホイールハウスアウタ35とは一体形成されており、キャブサイドパネル34とホイールハウスインナ36とは別部材にて形成されているが、この構成に代えて、キャブサイドパネルとホイールハウスインナとを一体形成し、キャブサイドパネルとホイールハウスアウタとは別部材にて形成する構造を採用してもよい。
ホイールハウスアウタ35およびホイールハウスインナ36は、図示しない後輪を収容するもので、図2に示すように、これらホイールハウスアウタ35およびホイールハウスインナ36は左右一対設けられている。
【0033】
図1〜図4に示すように、ホイールハウスインナ36は、該ホイールハウスインナ36とその上方のキャブサイドパネル34にわたって設けられたホイールハウス補強部材37(以下単に、ホイールハウスガセットと略記する)を備えている。
【0034】
図4に示すように、このホイールハウスガセット37は、ホイールハウスインナ36のトップデッキとその上方のキャブサイドパネル34にわたって設けられた上部ガセット38と、ホイールハウスインナ36の車室内側面からフロアパネル1まで、詳しくは、ホイールハウスインナ36の車室内側面からリヤサイドフレームアッパ29およびリヤクロスメンバ21まで延びる前後の延長部39,40と、を備えている。
【0035】
図4に示すように、上述の上部ガセット38は、ホイールハウスインナ36のトップデッキより上方に車幅方向に延びて立設された前後の縦壁部38A,38Bと、これら前後の縦壁部38A,38Bを前後方向に連結する連結部38Cと、上部ガセット38をキャブサイドパネル34にスポット溶接固定するための接合フランジ部38Dと、上部ガセット38をホイールハウスインナ36のトップデッキ部にスポット溶接固定するための接合フランジ部38Eと、を一体形成したものである。
【0036】
上述の前側の延長部39は、水平方向で断面した平面視形状がハット断面形状となるように、前片、内片、後片を連設して車両の路上下方向に延びる延長部本体39Aと、この延長部本体39Aに一体形成された複数の接合フランジ部39Bと、を備えている。
そして、上述の複数の接合フランジ部39Bを、ホイールハウスインナ36の車内側の面と、リヤサイドフレームアッパ29と、リヤクロスメンバ21とにスポット溶接固定することで、これら各要素36,29,21と延長部本体39Aとの間に、車両の略上下方向に延びる閉断面を形成している。
【0037】
同様に、上述の後側の延長部40は、水平方向で断面した平面視形状がハット断面形状となるように、前片、内片、後片を連設して車両の略上下方向に延びる延長部本体40Aと、この延長部本体40Aに一体形成された複数の接合フランジ部40Bと、を備えている。
そして、上述の複数の接合フランジ部40Bを、ホイールハウスインナ36の車内側の面と、リヤサイドフレームアッパ29とにスポット溶接固定することで、これら各要素36,29と延長部本体40Aとの間に、車両の略上下方向に延びる閉断面を形成している。
【0038】
ここで、上述の前側の延長部39と、後側の延長部40とは車両の前後方向に離間して配設されたものである。また、前後の各延長部39,40に形成されたそれぞれの閉断面は、上部から下部にかけて次第に大きくなるように形成されている。
【0039】
上述の上部ガセット38と、前側の延長部39と、後側の延長部40とから成るホイールハウスガセット37により、ホイールハウスインナ36を補強して、リヤサスペンションからの入力に起因する該ホイールハウスインナ36の内倒れを防止するように構成している。
【0040】
図1、図2に示すように、上述のリヤシート25は、ホイールハウス補強部材としてのホイールハウスガセット37よりも車両前方に配設されており、このリヤシート25よりも後方には、シートベルト装置50のリトラクタ51が設けられている。
上述のシートベルト装置50は、ウエビング52(いわゆるシートベルト)と、このウエビング52の中間部を案内するショルダアンカ53と、上記リトラクタ51とを備えている。
【0041】
また、該リトラクタ51は、シートベルト装置50のウエビング52を繰出し可能に巻取るリトラクタ本体54と、このリトラクタ本体54を支持する支持ブラケット55とを備えている。図面では、該支持ブラケット55を平面視L字状と成しているが、この支持ブラケット55は平面視コ字状に形成してもよい。
【0042】
図1〜図4に示すように、上述のリトラクタ51は、ホイールガセット37の前方で、かつ、リヤシート25の後方に配設されている。詳しくは、リトラクタ51を構成する支持ブラケット55が上部ガセット38の前側の縦壁部38Aにおける前面に、ボルト、ナットなどの取付け部材を用いて、直接取付けられている。
【0043】
図3、図4に示すように、上述のリトラクタ51は前側の縦壁部38A前面における可及的車幅方向の外側で、荷室スペースに影響を与えない部位に直接取付けられたものである。
【0044】
図1〜図3に示すように、ウエビング52の中間部を案内するショルダアンカ53は、この実施例では、リヤシート25のシートバック25Bにおける車外側上端部に固定されており、図1、図3に示すように、リトラクタ本体54から繰出されたウエビング52を一旦、該ショルダアンカ53で案内した後に、シートバック25Bの前面側に導くように構成している。
なお、ウエビング52の先端部は、フロアパネル1側に設けたアンカプレート(図示せず)に係合されるように構成している。
【0045】
ところで、図3に示すように、ホイールハウスインナ36の車室内側には、ホイールハウスガセット37に沿って設けられたトリム部材としてのキャブサイドトリム60を備えており、同図に示すように、該キャブサイドトリム60は、ホイールハウスガセット37よりも上方部60aが車体側壁としてのキャブサイドパネル34の車室内側面に沿って設けられている。
なお、図中、70は後席乗員の乗降口となるリヤドア開口、71はクオータピラー、72はクオータウインドである。また、図中、矢印Fは車両前方を示し、矢印INは車両内方を示し、矢印OUTは車両外方を示す。
【0046】
このように、図1〜図4で示した実施例の車両の後部車体構造は、車体の床面を形成するフロアパネル1と、車体側壁(キャブサイドパネル34参照)から車室6内側に向けて膨出して形成され後輪を収容する一対のホイールハウス(ホイールハウスインナ36参照)と、該ホイールハウス(ホイールハウスインナ36参照)とその上方の車体側壁(キャブサイドパネル34参照)にわたって設けられたホイールハウス補強部材(ホイールハウスガセット37参照)と、該ホイールハウス補強部材(ホイールハウスガセット37)より前方に配設されたリヤシート25と、該リヤシート25より後方に設けられたシートベルト装置50のリトラクタ51とを備えた車両の後部車体構造であって、上記リトラクタ51がホイールハウス補強部材(ホイールハウスガセット37参照)に取付けられたものである(図1、図3参照)。
【0047】
この構成によれば、ホイールハウス(ホイールハウスインナ36参照)とその上方の車体側壁(キャブサイドパネル34参照)にわたってホイールハウス補強部材(ホイールハウスガセット37参照)を設け、リトラクタ51が該ホイールハウス補強部材(ホイールハウスガセット37)に取付けられたものであるから、このホイールハウス補強部材(ホイールハウスガセット37)を有効利用して重量増加を抑えつつリトラクタ51を取付けることができる。
この結果、重量増加を抑えつつリトラクタ51の支持剛性を確保することができ、リトラクタ支持剛性の確保と燃料改善とを両立させることができる。
【0048】
また、上記リトラクタ51は、上記ホイールハウス補強部材(ホイールハウスガセット37)の前方かつ、上記リヤシート25の後方に配設されたものである(図1参照)。
この構成によれば、リトラクタ51をホイールハウス補強部材(ホイールハウスガセット37)の前方で、かつ、リヤシート25の後方に配設したので、スペース効率の高い部位にリトラクタを配設でき、凹凸の少ない使い勝手の良い荷室7を提供することができる。
【0049】
さらに、上記ホイールハウス補強部材(ホイールハウスガセット37参照)には、ホイールハウス(ホイールハウスインナ36参照)のトップデッキより上方に車幅方向に延びて立設された縦壁部38Aが設けられ、上記リトラクタ51が該縦壁部38Aに取付けられたものである(図4参照)。
この構成によれば、上記縦壁部38Aを設けることでホイールハウス(ホイールハウスインナ36参照)の剛性向上を図ることができ、上記リトラクタ51も剛性を確保して支持することができる。
しかも、車幅方向に延びる縦壁部38Aを設けることで、リトラクタ51に付勢される力の方向(特に、車両衝突時に乗員が移動する車両前方方向)に対して、強い取付け構造となる。
【0050】
しかも、上記リトラクタ51は、シートベルト装置50のウエビング52を巻取るリトラクタ本体54と、該リトラクタ54本体を支持する支持ブラケット55とを備え、該支持ブラケット55が上記ホイールハウス補強部材(ホイールハウスガセット37参照、詳しくは、その縦壁部38A参照)に直接取付けられたものである(図1、図4参照)。
この構成によれば、リトラクタ51をホイールハウス補強部材(ホイールハウスガセット37)に直接取付けるので、重量増加を抑制した状態での取付けが可能となる。
【0051】
加えて、上記ホイールハウス(ホイールハウスインナ36参照)の車室内側にはホイールハウス補強部材(ホイールハウスガセット37参照)に沿って設けられたトリム部材(キャブサイドトリム60参照)を備え、該トリム部材(キャブサイドトリム60)がホイールハウス補強部材(ホイールハウスガセット37)より上方(上方部60a参照)においては車体側壁(キャブサイドパネル34参照)に沿って設けられたものである(図3参照)。
この構成によれば、ホイールハウス補強部材(ホイールハウスガセット37)より上方においてはトリム部材(キャブサイドトリム60)が車体側壁(キャブサイドパネル34)に沿って設けられているので、車体側壁(キャブサイドパネル34)の凹凸低減を図って、荷室7の使い勝手の向上を図ることができる。
【実施例2】
【0052】
図5は車両の後部車体構造の他の実施例を示す要部の平面図である。
この実施例では、ホイールハウスガセット37の上部ガセット38における前側の縦壁部38Aを、その車幅方向外側が前方に位置し、その車幅方向内側が後方に位置するように傾斜構造と成して、この傾斜状の縦壁部38Aの前面に、リトラクタ51の支持ブラケット55を、ボルト、ナットなどの取付け部材を用いて、直接取付けたものである。
このように、傾斜構造の縦壁部38A前面にリトラクタ51を直接固定すると、該リトラクタ51は上述のウエビング52の繰出し方向が上記ショルダアンカ53を向くように配置される。
【0053】
この実施例では、上述のリトラクタ51のみならずシートバック25B上のショルダアンカ53も上記リトラクタ51のウエビング繰出し方向と略平面になるように傾斜配置している。
すなわち、シートバック25Bの車外側上端部に取付けられたショルダアンカ53を、その車幅方向外側が前方に位置し、その車幅方向内側が後方に位置するように傾斜させている。
【0054】
このように、図5で示した実施例2においては、上記シートベルト装置50は、ウエビング52の中間部を案内するショルダアンカ53を備え、上記リトラクタ51は該ウエビング52の繰出し方向が上記ショルダアンカ53を向くように上記ホイールハウス補強部材(ホイールハウスガセット37参照)に取付けられたものである(図5参照)。
この構成によれば、ウエビング52の繰出し方向がショルダアンカ53を向くので、ウエビング52の引出し時に該ウエビング52が撓んだりすることを防止でき、ウエビング52の良好な取出し性を確保することができる。
【0055】
なお、この実施例では縦壁部38Aを傾斜構造にしてウエビングの繰り出し方向がショルダアンカ53を向くように配置しているが、正面視で見たときにもウエビングの繰り出し方向がショルダアンカ53を向くように車両前後方向を軸線として車幅方向内側に向けて傾けても良い。
【0056】
図5で示したこの実施例2においても、その他の構成、作用、効果については、先の実施例1と同様であるから、図5において前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【実施例3】
【0057】
図6、図7、図8は車両の後部車体構造のさらに他の実施例を示し、図6は側面図、図7は図6のB−B線矢視断面図、図8は図7のショルダアンカ取付け部分の拡大図である。
【0058】
図6、図7、図8に示すように、この実施例ではショルダアンカ53が、リヤシート25のシートバック25Bの上端よりも上方の車体側壁としてのクオータピラー71に設けられたものである。
【0059】
図6のB−B線矢視断面図を図7に示すように、上述のクオータピラー71の車外側にはピラーレインフォースメント73が重合するように設けられており、このピラーレインフォースメント73の上端部73aと、前述のホイールハウスアウタ35の車外側下部35aとの間には、車体外板を構成するキャブサイドアウタ74が接合固定されている。
また、上述のショルダアンカ53の具体的取付け構造は、図8に示す通りである。
【0060】
すなわち、クオータピラー71とピラーレインフォースメント73とキャブサイドトリム60とが車幅方向に重合する部分において、クオータピラー71にボルト挿通用の開口部71bを形成し、ピラーレインフォースメント73にもボルト挿通用の開口部73bを形成し、また、キャブサイドトリム60およびショルダアンカ53にもそれぞれボルト挿通用の開口部60b,53bを形成している。
【0061】
また、ピラーレインフォースメント73の車外側面には、予めナット75を溶接固定する一方、フランジ76a,76b,76cを備えたショルダアンカボルト76を設け、このショルダアンカボルト76を各開口部53b,60b,71b,73bを介してナット75に締付けることにより、ナット75とフランジ76aとの間に、クオータピラー71とピラーレインフォースメント73とを締結し、フランジ76a,76b間にキャブサイドトリム60を保持し、フランジ76b,76c間にショルダアンカ53を保持するように構成している。
【0062】
さらに、上述のショルダアンカ53はウエビング52を挿通案内するウエビング挿通口53cを備えており、図6、図7、図8に示すように、リトラクタ51から繰出したウエビング52をキャブサイドトリム60の車内側面に沿って上方へ導いた後に、このウエビング52の中間部をショルダアンカ53のウエビング挿通口53cを通し、該ウエビング52中間部をショルダアンカ53で案内し、さらにウエビング挿通口53cからリヤシート25のシートバック25B側へウエビング52を導出させたものである。
なお、上述のウエビング52には移動タングとしての中間タング77が設けられている(図7参照)。
【0063】
このように、図6〜図8で示した実施例3においては、上記ショルダアンカ53が、リヤシート25のシートバック25B上端より上方の車体側壁(クオータピラー71参照)に設けられたものである(図6参照)。
この構成によれば、リトラクタ51がホイールハウス補強部材(ホイールハウスガセット37参照)に配置された場合であっても、ショルダアンカ53をリヤシート25のシートバック25B上端より上方の車体側壁(クオータピラー71参照)に設けることで、ウエビング52の適切な取出し性を確保することができる。
【0064】
図6〜図8で示したこの実施例3においても、その他の構成、作用、効果については先の実施例とほぼ同様であるから、図6〜図8において前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
なお、図6〜図8で示したこの実施例3においては、ショルダアンカ53はリヤドア開口70の後縁を形成するクオークピラー71に設けられているが、これに限定されることなく、該ショルダアンカ53はシートバック25Bよりも後方の所定部位に設けられておればよく、シートバック25Bの前後位置に応じて、ルーフレールまたはリヤピラー(いわゆるDピラー)に設けてもよい。
【実施例4】
【0065】
図9は車両の後部車体構造のさらに他の実施例を示す斜視図である。
この実施例では、同図に示すように、上述のリトラクタ51の支持ブラケット55は、リトラクタ本体54の一方を支持する外片55aと、この外片55aの後端から車幅方向内方に延びる上部取付け片55bと、この上部取付け片55bの内端から前方に延びてリトラクタ本体54の他方を支持する内片55cと、この内片55cの下部から正面視逆L字状になるようにホイールハウスインナ36のトップデッキ部からホイールハウスインナ36の車室内側面の下部まで下方に延びるレインフォースメント55dと、このレインフォースメント55dの下部後端に屈曲形成された下部取付け片55eと、を一体形成して構成している。
【0066】
また、上述のホイールハウス補強部材としてのホイールハウスガセット37は、ホイールハウスインナ36の車室内側面からフロアパネル1まで、詳しくは、ホイールハウスインナ36の車室内側面からリヤサイドフレームアッパ29およびリヤクロスメンバ21まで延びる延長部39を備えている。
【0067】
そして、上述の支持ブラケット55の上部取付け片55bを、ボルト、ナットなどの取付け部材を用いて、上部ガセット38における前側の縦壁部38Aの前面に直接取付けると共に、下部取付け片55eを、同様にボルト、ナットなどの取付け部材を用いて、延長部39下部における延長部本体39Aの前面に直接取付けたものである。
このように構成することにより、延長部39の下部とリトラクタ51とを、上述のレインフォースメント55dによって連結したものである。
【0068】
このように、図9で示した実施例においては、上記ホイールハウス補強部材(ホイールハウスガセット37参照)は、ホイールハウス(ホイールハウスインナ36参照)の車室内側面からフロアパネル1まで延びる延長部39を備え、該延長部39の下部と上記リトラクタ51とを連結するレインフォースメント55dが設けられたものである(図9参照)。
この構成によれば、リトラクタ51を、上記レインフォースメント55dを介して該リトラクタ51よりも下方に位置する部材(延長部39の下部)に連結することができ、リトラクタ51に対する引っ張り力に対して強い剛性の支持構造が得られる。
【0069】
図9で示した実施例4の構成は、ショルダアンカ53がシートバック25Bの車外側上端部に設けられた実施例1、2、並びに、ショルダアンカ53がシートバック25B上端よりも上方の車体側壁に設けられた実施例3の何れとも組合せて用いることができるが、実施例3のようにリトラクタ本体54とショルダアンカ53との間において、ウエビング52に上方向の引っ張り力が作用する構成と組合せて用いる時に特に効果的である。
【0070】
図9で示した実施例においても、その他の構成、作用、効果については、先の実施例とほぼ同様であるから、図9において前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【0071】
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、
この発明の請求項1の車体側壁は、実施例のキャブサイドパネル34に対応し、
以下同様に、
請求項6の車体側壁は、クオータピラー71に対応し、
ホイールハウスは、主にホイールハウスインナ36に対応し、
ホイールハウス補強部材は、ホイールハウスガセット37に対応し、
トリム部材は、キャブサイドトリム60に対応するも、
この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0072】
1…フロアパネル
6…車室
25…リヤシート
25B…シートバック
34…キャブサイドパネル(車体側壁)
36…ホイールハウスインナ(ホイールハウス)
37…ホイールハウスガセット(ホイールハウス補強部材)
38A…縦壁部
39…延長部
50…シートベルト装置
51…リトラクタ
52…ウエビング
53…ショルダアンカ
54…リトラクタ本体
55…支持ブラケット
55d…レインフォースメント
60…キャブサイドトリム(トリム部材)
71…クオータピラー(車体側壁)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の床面を形成するフロアパネルと、
車体側壁から車室内側に向けて膨出して形成され後輪を収容する一対のホイールハウスと、
該ホイールハウスとその上方の車体側壁にわたって設けられたホイールハウス補強部材と、
該ホイールハウス補強部材より前方に配設されたリヤシートと、
該リヤシートより後方に設けられたシートベルト装置のリトラクタとを備えた
車両の後部車体構造であって、
上記リトラクタがホイールハウス補強部材に取付けられた
車両の後部車体構造。
【請求項2】
上記リトラクタは、上記ホイールハウス補強部材の前方かつ、上記リヤシートの後方に配設された
請求項1記載の車両の後部車体構造。
【請求項3】
上記ホイールハウス補強部材には、ホイールハウスのトップデッキより上方に車幅方向に延びて立設された縦壁部が設けられ、
上記リトラクタが該縦壁部に取付けられた
請求項1または2記載の車両の後部車体構造。
【請求項4】
上記リトラクタは、シートベルト装置のウエビングを巻取るリトラクタ本体と、
該リトラクタ本体を支持する支持ブラケットとを備え、
該支持ブラケットが上記ホイールハウス補強部材に直接取付けられた
請求項1〜3の何れか1に記載の車両の後部車体構造。
【請求項5】
上記シートベルト装置は、ウエビングの中間部を案内するショルダアンカを備え、
上記リトラクタは該ウエビングの繰出し方向が上記ショルダアンカを向くように上記ホイールハウス補強部材に取付けられた
請求項1〜4の何れか1に記載の車両の後部車体構造。
【請求項6】
上記ショルダアンカが、リヤシートのシートバック上端より上方の車体側壁に設けられた
請求項5記載の車両の後部車体構造。
【請求項7】
上記ホイールハウス補強部材は、ホイールハウスの車室内側面からフロアパネルまで延びる延長部を備え、
該延長部の下部と上記リトラクタとを連結するレインフォースメントが設けられた
請求項1〜6の何れか1に記載の車両の後部車体構造。
【請求項8】
上記ホイールハウスの車室内側にはホイールハウス補強部材に沿って設けられたトリム部材を備え、
該トリム部材がホイールハウス補強部材より上方においては車体側壁に沿って設けられた
請求項1〜7の何れか1に記載の車両の後部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−161937(P2011−161937A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22987(P2010−22987)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】