説明

車両の後部車体構造

【課題】ヘッドクリアランスを確保しつつ、リヤヘッダにて車体後部の開口部の剛性向上を図ることができ、しかも、リヤ中央席用のシートベルトのリトラクタを取付けることができる車両の後部車体構造の提供を目的とする。
【解決手段】車体後部の開口部21と、該開口部21の上縁部を形成するリヤヘッダ30と、該リヤヘッダ30にヒンジ26を介して車両上下方向に開閉可能に設けられたバックドア3と、を備え、リヤヘッダ30がヒンジ26のヒンジセンタよりも車両前後方向後方の位置に設けられ、シートベルト装置のリトラクタ40Rがリヤヘッダ30の車両前後方向前方の近接する位置に配設されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車体後部の開口部を開閉可能に覆うバックドアと、該開口部の上縁を形成する閉断面構造のリヤヘッダとを備えたような車両の後部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃費の向上が要求されており、この燃費向上を図る方法に一つとして、空気抵抗を低減させることが考えられる。空気抵抗の低減を達成するためには、ルーフ部の後端を後ろ下がりに構成するとよい。
ルーフ部の後端を後ろ下がりに構成すると、空気抵抗の低減のみならず、車両デザインの自由度も向上するという利点がある反面、図18に示す従来構造のような車両前後方向に合計3列のシートを備えた車両91においては、リヤヘッダ92が車室93内に膨出し、3列目乗員のヘッドクリアランスを損ね、商品性が低下するという難点があった。
【0003】
一方、安全性の観点からリヤ中央席においても3点式シートベルトを採用する車両が増えており、この場合、シートベルトを巻取り可能に繰出すリトラクタをルーフ部に取付けることが知られている。
上述のリトラクタは剛性の高い部位に支持させる必要があり、またヘッドクリアランスとの干渉の問題があることから、該リトラクタはヘッドクリアランスを避けて設けられていた。この場合、リトラクタを取付けた位置と、リヤヘッダの位置との間に距離が生じ、リヤヘッダからリトラクタ取付け位置までブラケット等の補強部材を延ばしてリトラクタ支持剛性を確保する必要があるので、ブラケットによる重量増加に起因して燃費の悪化が懸念される。
【0004】
一方、従来の車両の後部車体構造は、図18に示すように、バックドアヒンジ94の前方にリヤヘッダ92が設けられており、車体後部に形成されたリヤ開口部と上記リヤヘッダ92との間には、車両前後方向の距離が存在し、リヤヘッダ92がリヤ開口部の剛性に効果的に寄与しているとは云い難いものであった。また、上記リヤヘッダ92にはリヤ中央席の乗員用の3点式シートベルトのリトラクタ95が取付けられており、ヘッドクリアランスの悪化を招いている問題点があった。
【0005】
ところで、特許文献1には、3列目の後席(リヤシート)に着座する後席乗員用のシートベルト装置において、ウエビング巻取り用のリトラクタが上記後席乗員の頭部よりも前方においてルーフパネルの下面に取付けられ、該リトラクタよりも後方に位置するリヤヘッダにはシートベルトアンカを配設した構造が開示されている。
【0006】
この特許文献1に開示された従来構造によれば、上記ウエビングで後席中央の乗員を拘束することができると共に、リトラクタが後席乗員の頭部よりも前方に配設されているので、ヘッドクリアランスを確保することができる利点がある。
しかし、該従来構造においては、上記リトラクタがルーフパネルから下方に突出するので、該リトラクタの車室内への膨出量に対応して、後席乗員前方の車室内空間が狭くなり、該乗員に圧迫感を与える問題点があり、さらに、リトラクタを支持するための補強部材を有していることによる重量増加によって燃費の悪化が問題点としてあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−41287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、この発明は、閉断面構造のリヤヘッダを、バックドアヒンジのヒンジセンタよりも車両前後方向後方の位置に設け、シートベルト装置のリトラクタを該リヤヘッダの車両前後方向前方に近接して配置することで、ヘッドクリアランスを確保しつつ、リヤヘッダにて車体後部の開口部の剛性向上を図ることができ、しかも、リヤ中央席用のシートベルトのリトラクタを取付けることができる車両の後部車体構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明による車両の後部車体構造は、車体後部に形成された開口部と、該開口部の上縁部を形成する閉断面構造のリヤヘッダと、該リヤヘッダにヒンジを介して車両上下方向に開閉可能に設けられたバックドアと、を備えた車両の後部車体構造であって、上記リヤヘッダが上記ヒンジのヒンジセンタよりも車両前後方向後方の位置に設けられ、シートベルト装置のリトラクタが上記リヤヘッダの車両前後方向前方の近接する位置に配設されたものである。
【0010】
上記構成によれば、リヤヘッダをヒンジセンタよりも車両前後方向後方の位置に設けたので、このリヤヘッダによるヘッドクリアランスの劣化を防止しつつ、該リヤヘッダにて車体後部の開口部の剛性を高めることができる。すなわち、ヘッドクリアランスの確保と、開口部の剛性向上との両立を図ることができる。
しかも、シートベルト装置のリトラクタを、リヤヘッダの車両前後方向前方の近接位置に設けたので、ヘッドクリアランスの劣化を防止しつつ、リヤ中央席用のシートベルトのリトラクタを取付けることができ、特に、リヤ中央席用の3点式シートベルト構造を構成することが可能となる。
【0011】
この発明の一実施態様においては、上記リヤヘッダに、上記リトラクタを支持するリトラクタ支持部が設けられたものである。
上記構成によれば、車体強度部材としてのリヤヘッダにリトラクタ支持部を設けたので、別途補強部材を追加することなく、リトラクタの支持強度を確保することができる。
【0012】
この発明の一実施態様においては、上記シートベルト装置は、上記リトラクタに巻取り可能に支持されたウエビングと、該ウエビングを上記リヤヘッダの下面に沿って案内するウエビングガイドを有し、該ウエビングガイドが上記リヤヘッダに取付けられたものである。
【0013】
上記構成によれば、ウエビングガイドをリヤヘッダに設けたので、別途補強部材を必要とすることなく、該ウエビングガイドの支持剛性を確保することができ、このウエビングガイドをショルダアンカとして用いることができる。
また、リトラクタはリヤヘッダの前方において該リヤヘッダに近接する位置に配設されており、ウエビングガイドはリヤヘッダに設けられているので、ウエビングを可及的後部から後席乗員の肩部に向けて導出することができ、ウエビング装着時には、該ウエビングによる乗員拘束力の向上を図ることができる。
【0014】
この発明の一実施態様においては、上記リヤヘッダの一部が、車両前後方向に延びて上記車体のルーフを形成するルーフパネルで構成され、上記リヤヘッダの車両前後方向前方の近接する位置に、シートベルト装置の第2のリトラクタが配設され、該シートベルト装置は、上記第2のリトラクタに巻取り可能に支持された第2のウエビングと、該第2のウエビングを、上記ルーフパネルの下面に沿って案内する第2のウエビングガイドとを有し、該第2のウエビングガイドが上記ルーフパネルに取付けられたものである。
上記構成によれば、第2のリトラクタを上記リトラクタと前後方向の同じ位置に配設すると共に、第2のウエビングガイドを、第2のリトラクタよりも車両前方に設けたので、乗員のヘッドクリアランスを損ねることなく、複数列のリヤ中央席のリトラクタ(第2のリトラクタ)を設けることができる。
【0015】
この発明の一実施態様においては、上記ルーフパネルには上記ヒンジを取付けるヒンジ取付け部が設けられ、該ヒンジ取付け部が上記リヤヘッダの一部を形成するものである。
上記構成によれば、ルーフパネルのヒンジ取付け部が、強度部材であるリヤヘッダの一部を形成するので、別途補強部材を追加することなく、ヒンジ取付け部の強度を確保することができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、閉断面構造のリヤヘッダを、バックドアヒンジのヒンジセンタよりも車両前後方向後方の位置に設け、シートベルト装置のリトラクタを該リヤヘッダの車両前後方向前方に近接して配置したので、ヘッドクリアランスを確保しつつ、リヤヘッダにて車体後部の開口部の剛性向上を図ることができ、しかも、リヤ中央席用のシートベルトのリトラクタを取付けることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の後部車体構造を備えた車両の外観斜視図
【図2】図1のA−A線に沿う概略側面図
【図3】図1のB−B線に沿う概略側面図
【図4】バックドアを開放した状態で示す車両の側面図
【図5】リトラクタの取付け構造を示す斜視図
【図6】図2の要部拡大側面図
【図7】リトラクタの取付け構造を示す正面図
【図8】リトラクタの取付け構造を車両前方上部から見た状態で示す斜視図
【図9】リトラクタの取付け構造を車両後方上部から見た状態で示す斜視図
【図10】ウエビングガイドを示す斜視図
【図11】図3の要部拡大側面図
【図12】第2のウエビングの案内構造を示す斜視図
【図13】リトラクタの取付け構造の他の実施例を示す斜視図
【図14】リヤヘッダに対するリトラクタ係止構造の他の実施例を示す側面図
【図15】ヒンジ取付け構造の他の実施例を示す側面図
【図16】車両の後部車体構造の他の実施例を示す側面図
【図17】図16の要部拡大図
【図18】従来の後部車体構造を示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
ヘッドクリアランスを確保しつつ、リヤヘッダにて車体後部の開口部の剛性向上を図り、かつ、リヤ中央席用のシートベルトのリトラクタを取付けることができるという目的を、車体後部に形成された開口部と、該開口部の上縁部を形成する閉断面構造のリヤヘッダと、該リヤヘッダにヒンジを介して車両上下方向に開閉可能に設けられたバックドアと、を備えた車両の後部車体構造であって、上記リヤヘッダが上記ヒンジのヒンジセンタよりも車両前後方向後方の位置に設けられ、シートベルト装置のリトラクタを上記リヤヘッダの車両前後方向前方の近接する位置に配設するという構成にて実現した。
【実施例】
【0019】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図1は後部車体構造を備えた車両の外観斜視図、図2は図1のA−A線に沿う概略側面図、図3は図1のB−B線に沿う概略側面図、図4はバックドアを開放した状態で示す側面図であって、図1〜図4において、このハッチバック車両1は、ルーフパネル2の後端部に、図4に示すように、上方に開放する上開き構造のバックドア3が開閉可能に取付けられている。
【0020】
一方、図2、図3に示すように、車室4の床面部を構成するフロアパネル5を設け、このフロアパネル5の後部には、斜め上方後部に立ち上がるキックアップ部6を介して、水平に後方に延びるリヤフロア7(リヤ側のフロアパネル)を連設している。
【0021】
上述のリヤフロア7の後端部には、リヤエンドパネル8を取付けている。このリヤエンドパネル8はリヤエンドインナパネル9とリヤエンドアウタパネル10とを接合固定して、車幅方向に延びるリヤエンド閉断面11を構成した車体補強部材である。また、上述のリヤエンドパネル8の後部には合成樹脂製のリヤバンパ12を配設している。
【0022】
上述の車室4内においてフロアパネル5の上部には、シートクッション13と、シートバック14と、ヘッドレスト15とを備えた2列目のリヤシート16を配設している。
【0023】
また、車室4内においてリヤフロア7の上部には、シートクッション17と、シートバック18と、ヘッドレスト19とを備えた3列目のリヤシート20を配設している。
ここで、上述の各シートバック14,18は、シートクッション13,17の後部から上方に立ち上がるように構成されており、特に3列目のリヤシート20におけるシートバック18は、バックドア3の前方の車室4内において起立状態に構成されており、該リヤシート20(後部座席)は上述のバックドア3の前方に近接配置されている。
【0024】
図4に示すように、車体後部には開口部21(リヤ開口部)が形成されている。上述のバックドア3はこの開口部21を開閉可能に覆うものである。
このバックドア3は、図2、図3に示すように、バックドアインナパネル22とバックドアアウタパネル23とで、バックドア本体を形成し、バックウインドガラス配設用の開口部3aにはバックウインドガラス24を配設している。
【0025】
図5(但し、図5はルーフトリムを取外して後部車体構造を車室内から見上げた状態で示す要部の斜視図)、図6、図11に示すように、上述のバックドア3は、バックウインドガラス24の窓枠上縁部を形成する車体取付け部3bを備えている。
この車体取付け部3bは、バックドアインナパネル22とバックドアアウタパネル23とで閉断面25を形成している。すなわち、車体取付け部3bは閉断面構造に形成されたものである。
【0026】
また、上述のバックドア3は、図6、図11に示すように、開口部21の上部に設けられたバックドアヒンジ26を介してボディ側に回動可能に支持されたものであり、このバックドアヒンジ26は、ボディ側ヒンジブラケット27と、ドア側ヒンジブラケット28と、ヒンジセンタを構成するヒンジピン29とを備えている。
【0027】
上述のドア側ヒンジブラケット28は、車体取付け部3bを構成するバックドアインナパネル22の下面に取付けられている。
一方、上述のルーフパネル2は、車室4の天井部を形成すると共に、開口部21の上縁を形成するもので、このルーフパネル2と共に該開口部21の上縁を形成する閉断面構造のリヤヘッダ30を設けている。
【0028】
図5、図6、図11に示すように、このリヤヘッダ30は、上述の車体取付け部3bと車両上下方向の下方で並設する位置において、バックドアヒンジ26のヒンジセンタ(ヒンジピン29参照)よりも車両前後方向の後方位置に設けられている。
また、このリヤヘッダ30は、リヤヘッダアウタパネル31とリヤヘッダインナパネル32とで車幅方向に延びる閉断面33を形成している。すなわち、このリヤヘッダ30は閉断面構造に形成されている。
【0029】
さらに、該リヤヘッダ30は上記両パネル31,32の接合により、閉断面33よりも車両前方に位置する前側接合部30Fと、閉断面33よりも車両後方に位置する後側接合部30Rとを備えている。ここで、前側接合部30Fは略水平に形成され、後側接合部30Rは略上下方向に延びるように形成されている。
この実施例においては、リヤヘッダ30の前側接合部30Fと後側接合部30Rとの間に位置する閉断面33が、車体取付部3bの閉断面25と上下方向に対向するように配置されている。
【0030】
上述のルーフパネル2は、その一般面後端2aから下方に立下がる縦壁部2bと、この縦壁部2bの下端に連続して形成されたヒンジ取付け部2cと、このヒンジ取付け部2cの後端に連続して後方に延びるリヤヘッダ沿設部2dと、このリヤヘッダ沿設部2dの後端から上方に立上がるシール部材取付け部2eとを、一体形成している。
【0031】
そして、上述のヒンジ取付け部2cには、バックドアヒンジ26のボディ側ヒンジブラケット27を取付け、リヤヘッダ沿設部2dはリヤヘッダ30のアウタパネル31に接合固定し、シール部材取付け部2eは、リヤヘッダ30の後側接合部30Rと一体化し、これら各要素すなわち、シール部材取付け部2eおよび後側接合部30Rには、シール部材としてのウエザストリップ34を嵌着支持させている。
このウエザストリップ34は、リヤヘッダ30と、バックウインドガラス24の窓枠との間、つまりボディ・ドア間をシールするシール部材である。
【0032】
次に、図2、図5、図6参照して3列目のリヤシート20(特に、リヤ中央席)に着座した後席乗員を3点式シートベルト構造にて拘束するシートベルト装置について説明する。
【0033】
図5、図6に示すように、車両の右側部位は、リヤヘッダ30の前方に、シートベルト装置の3列目のリヤシート20用のリトラクタ40Rを近接して配設している。
すなわち、リヤヘッダ30の前側接合部30Fを、ルーフパネル2の縦壁部2bよりもさらに車両前後方向の前方へ延設して、リトラクタ支持部41を形成し、このリトラクタ支持部41に上述のリトラクタ40Rを取付けるように構成している。図5の実施例では、上述のリトラクタ支持部41は車幅方向のほぼ全幅に連続するように形成されている。
【0034】
上述のリトラクタ40Rは、図6〜図9に示すように、ウエビング巻回部42を内蔵したリトラクタケース43を備えている。
該リトラクタケース43は、図7、図8、図9に示すように、上片部43aと、左右の側片部43b,43bと、後片部43cと、各側片部43b,43bの下端にそれぞれ折曲げ形成したフランジ部43d,43dとを一体形成し、前方および下方が開放する略ボックス形状に構成されている。
【0035】
また、リトラクタケース43の後片部43cには、ウエビング巻回部42からウエビング44を取出すウエビング取出し口43eが開口形成されている。
さらに、リトラクタケース43の後片部43cの下端中央には、該下端から下方に延びる側面視L字状の係止部43fが一体形成されている。
【0036】
一方、上述のリトラクタ支持部41には、該係止部43fを係入する孔部45と、ウエビング44Rを挿通させる孔部46とが前後方向に離間形成されている。
そして、リトラクタ支持部41の孔部45にリトラクタケース43の係止部43fを係止させた後に、左右一対のボルト47、ナット48を用いて、左右のフランジ部43d,43dをリトラクタ支持部41に締結することで、リトラクタ40Rをリヤヘッダ30の前方に近設配置すべく構成している。ここで、上述のナット48は予めフランジ部43dの上面に溶接固定されたものである。
【0037】
また、図6、図10に示すように、ウエビング44Rをリヤヘッダ30の下面に沿って案内するウエビングガイド49を設けている。このウエビングガイド49は図10に示すように取付け片49aとガイド片49bとを所定角度に折曲げ形成したもので、ガイド片49bにはウエビング44のガイド孔49cを開口形成している。
このウエビングガイド49は、リトラクタ40Rよりも後方かつ下方となるように、ボディ側ヒンジブラケット27の下方対応位置におけるリヤヘッダ30のインナパネル32下面に取付けられており、該ウエビングガイド49がショルダアンカとして作用するように構成している。
【0038】
一方、図2、図3、図6に示すように、ルーフパネル2の下方にはルーフトリム36が配設されている。このルーフトリム36はルーフパネル2の下方からリヤヘッダ30のインナパネル32下面を介して後側接合部30Rの後端部までを覆うように形成されている。
つまり、ルーフパネル2の車室4内側には、該ルーフパネル2を覆うルーフトリム36を設け、このルーフトリム36をリヤヘッダ30の後端まで延設して、バックドアトリムをなくしつつ、車室側からの見映えの向上を図っている。
【0039】
そして、図6に示すように、上述のウエビング44Rは、リトラクタ40Rのウエビング巻回部42からウエビング取出し口43e、孔部46、ウエビングガイド49のガイド孔49cを介して、ルーフトリム36のウエビング用の開口36aに導かれ、この開口36aから車室4内へ導出されている。
【0040】
図6に示すように、車室4内へ導出されたウエビング44Rの先端には、先端タング50を取付けると共に、ウエビング44Rの中間位置には中間タング51を設けている。
上述のウエビング44Rの非使用時に、先端タング50および中間タング51を保持する目的で、上述のルーフトリム36には一対のタング保持部52が一体形成されている。
【0041】
3列目のリヤ中央席に着座する後席乗員を3点式シートベルト構造で拘束する場合、ウエビング44Rを乗員の肩部から該乗員の上体前側に斜めに配置した後に、先端タング50をシートクッション17側の一方のバックル(図示せず)に係止し、次に、中間タング51をシートクッション17側の他方のバックルに係止させると、3列目リヤ中央席の乗員を3点式シートベルト構造で拘束することができる。この場合、リヤヘッダ30に固定したウエビングガイド49がショルダアンカとして作用する。
【0042】
次に、図3、図5、図11、図12を参照して2列目のリヤシート16(特に、リヤ中央席)に着座した後席乗員を3点式シートベルト構造にて拘束するシートベルト装置について説明する。
図3、図5、図11に示すように、車両左側部位には、リヤヘッダ30の車両前後方向前方の近接する位置に、シートベルト装置の2列目のリヤシート16用の第2のリトラクタ40Lが配設されている。この第2のリトラクタ40Lもリヤヘッダ30のリトラクタ支持部41に取付けられたものであり、この第2のリトラクタ40Lは図5に示すように、リトラクタ40Rと車両前後方向の同一前後位置に固定されたものである。
【0043】
車両右側の3列目用のリトラクタ40Rと、車両左側の2列目用の第2のリトラクタ40Lとは、そのリトラクタケース43の構造およびリトラクタ40R,40Lのリトラクタ支持部41に対する取付け構造が略同等であるため、図3、図5、図11において前図と同一の部分には同一の符号を付して、その詳しい説明を省略するが、第2のリトラクタ40Lにおいては、リトラクタケース43の後片部43cにウエビング取出し口43eを形成することなく、図12に示すように、該リトラクタケース43に前片部43gを一体に折曲げ形成し、この前片部43gにウエビング取出し口43hを開口形成している。
【0044】
第2のリトラクタ40Lのウエビング巻回部42には、図11に示すように、第2のウエビング44Lが巻回されており、この第2のウエビング44Lは先のウエビング44Rと異なり、ルーフパネル2の下面に沿って車両前方に導出されるので、この第2のウエビング44Lを、ルーフパネル2の下面に沿って案内した後に、2列目のリヤシート16と3列目のリヤシート20との前後方向中間から下方へ案内する第2のウエビングガイド53(図3、図12参照)を設けている。
【0045】
図3、図12に示すように、この第2のウエビングガイド53は第2のリトラクタ40Lよりも車両前方に離間して設けられている。
また、図12に斜視図で示すように、第2のウエビングガイド53は、左右一対の接合フランジ部53a,53aと、一対の縦壁部53b,53bと、底片部53cとを逆ハット形状に一体折曲げ形成すると共に、一対の縦壁部53b,53b間に丸棒または丸パイプから成るガイドロッド53dを横架したものである。
【0046】
この第2のウエビングガイド53はその左右一対の接合フランジ部53a,53aがルーフパネル2の下面に接着固定される。
第2のウエビングガイド53の配置位置の直前部におけるルーフトリム36には、図3に示すように、第2のウエビング44Lを車室4内へ導出する開口36b(ウエビング用の開口)が形成されている。
【0047】
図3に示すように、車室4内へ導出された第2のウエビング44Lの先端には、先端タング54を取付けると共に、第2のウエビング44Lの中間位置には中間タング55を設けている。
また、上述の第2のウエビング44Lの非使用時に、先端タング54および中間タング55を保持する目的で、上述のルーフトリム36には一対のタング保持部56が一体形成されている。
【0048】
2列目のリヤ中央席に着座する後席乗員を3点式シートベルト構造で拘束する場合、第2のウエビング44Lを乗員の肩部から該乗員の上体前側に斜めに配置した後に、先端タング54をシートクッション13側の一方のバックル(図示せず)に係止し、次に、中間タング55をシートクッション13側の他方のバックル(図示せず)に係止させると、2列目リヤ中央席の乗員を3点式シートベルト構造で拘束することができる。この場合、ルーフパネル2に接着固定した第2のウエビングガイド53がショルダアンカとして作用する。
なお、図1において、35はボディ側に左右一対設けられたリヤコンビランプ、また、図中、矢印Fは車両の前方を示す。
【0049】
このように、図1〜図12で示した実施例の車両の後部車体構造は、車体後部に形成された開口部21(図4参照)と、該開口部21の上縁部を形成する閉断面構造のリヤヘッダ30と、該リヤヘッダ30にバックドアヒンジ26を介して車両上下方向に開閉可能に設けられたバックドア3とを備えた車両の後部車体構造であって、上記リヤヘッダ30が上記ヒンジ26のヒンジセンタよりも車両前後方向後方の位置に設けられ、シートベルト装置のリトラクタ40Rが上記リヤヘッダ30の車両前後方向前方の近接する位置に配設されたものである(図4、図6参照)。
【0050】
この構成によれば、リヤヘッダ30をバックドアヒンジ26のヒンジセンタよりも車両前後方向後方の位置に設けたので、このリヤヘッダ30によるヘッドクリアランスの劣化を防止しつつ、該リヤヘッダ30にて車体後部の開口部21の剛性を高めることができる。すなわち、ヘッドクリアランスの確保と、開口部21の剛性向上との両立を図ることができる。
しかも、シートベルト装置のリトラクタ40Rを、リヤヘッダ30の車両前後方向前方の近接位置に設けたので、ヘッドクリアランスの劣化を防止しつつ、リヤ中央席用のシートベルトのリトラクタ40Rを取付けることができ、特に、リヤ中央席用の3点式シートベルト構造を構成することが可能となる。
【0051】
また、上記リヤヘッダ30に、上記リトラクタ40Rを支持するリトラクタ支持部41が設けられたものである(図6参照)。
この構成によれば、車体強度部材としてのリヤヘッダ30にリトラクタ支持部41を設けたので、別途補強部材を追加することなく、リトラクタ40Rの支持強度を確保することができる。
【0052】
さらに、上記シートベルト装置は、上記リトラクタ40Rに巻取り可能に支持されたウエビング44Rと、該ウエビング44Rを上記リヤヘッダ30の下面に沿って案内するウエビングガイド49を有し、該ウエビングガイド49が上記リヤヘッダ30に取付けられたものである(図6参照)。
この構成によれば、ウエビングガイド49をリヤヘッダ30に設けたので、別途補強部材を必要とすることなく、該ウエビングガイド49の支持剛性を確保することができ、このウエビングガイド49をショルダアンカとして用いることができる。
【0053】
また、リトラクタ40Rはリヤヘッダ30の前方において該リヤヘッダ30に近接する位置に配設されており、ウエビングガイド49はリヤヘッダ30に設けられているので、ウエビング44Rを可及的後部から後席乗員の肩部に向けて導出することができ、ウエビング装着時には、該ウエビング44Rによる乗員拘束力の向上を図ることができる。
【0054】
加えて、上記リヤヘッダ30の一部が、車両前後方向に延びて上記車体のルーフを形成するルーフパネル2で構成され、上記リヤヘッダ30の車両前後方向前方の近接する位置(リトラクタ40Rと前後方向の同じ位置)に、シートベルト装置の第2のリトラクタ40Lが配設され、該シートベルト装置は、上記第2のリトラクタ40Lに巻取り可能に支持された第2のウエビング44Lと、該第2のウエビング44Lを、上記ルーフパネル2の下面に沿って案内する第2のウエビングガイド53とを有し、該第2のウエビングガイド53が上記ルーフパネル2に取付けられたものである(図3、図5、図12参照)。
この構成によれば、第2のリトラクタ40Lを上記リトラクタ40Rと前後方向の同じ位置に配設すると共に、第2のウエビングガイド44Lを、第2のリトラクタ40Lよりも車両前方に設けたので、乗員のヘッドクリアランスを損ねることなく、複数列のリヤ中央席のリトラクタ40L(第2のリトラクタ)を設けることができる。
【0055】
また、上記ルーフパネル2には上記バックドアヒンジ26を取付けるヒンジ取付け部2cが設けられ、該ヒンジ取付け部2cに上記リヤヘッダ30の一部を形成するものである(図6参照)。
この構成によれば、ルーフパネル2のヒンジ取付け部2cと、強度部材であるリヤヘッダ30またはその前側接合部30Fとを接合したので、別途補強部材を追加することなく、ヒンジ取付け部2cの強度を確保することができる。
【0056】
図1〜図12で示した実施例の構成に代えて、図13、図14、図15、図16および図17に示す構成を採用してもよい。
【0057】
図13で示す実施例は、リトラクタ40Rおよび第2のリトラクタ40Lが取付けられる部位にのみリトラクタ支持部41,41を延出形成し、リヤヘッダ30全体の軽量化を図り、これら両リトラクタ40R,40Lの支持剛性、取付け剛性を確保しつつ、重量軽減による燃費の向上を図ったものである。
【0058】
図14で示す実施例は、リヤヘッダ30の前側接合部30Fよりも車両前後方向の前方において、該前側接合部30Fを構成するリヤヘッダアウタパネル31を、リトラクタ40L直後において立上げて、立設部31Aを一体形成すると共に、リトラクタ40Lのリトラクタケース43における後片部43cには、上述の立設部31Aの上端部に係合する係合部としての係合爪57を切起こし形成したもので、この立設部31Aに係合する係合爪57と、孔部45の孔縁に係止する係止部43fとの上下二箇所で、リトラクタ40Lを係止することにより、該リトラクタ40Lの保持強度の向上を図ったものである。
【0059】
図15に示す実施例は、バックドアヒンジ26のボディ側ヒンジブラケット27を取付けるルーフパネル2のヒンジ取付け部2c下面に対して、リヤヘッダ30のリヤヘッダアウタパネル31が確実に沿うように、該リヤヘッダアウタパネル31にはバックアップ部31Bを一体に折曲げ形成したものである。
【0060】
このように構成すると、重量増加を招くことなく、ヒンジ取付け部2cの剛性、強度およびバックドアヒンジ26の支持剛性の大幅な向上を図ることができる。さらに、先の実施例に対してリヤヘッダ30の閉断面33が大きくなるので、開口部21のさらなる剛性向上を図ることができる。
図16および17に示す実施例は、ルーフパネル2とバックドア3の車体取付部3bが車両前後方向後方に向かうにしたがって車両上下方向下方に傾斜して設けられ、併せてリトラクタ40とリトラクタ支持部41も車両前後方向後方に向かうにしたがって車両上下方向下方に傾斜して設けられたものである。この構成によれば、所定のヘッドクリアランスを確保しながらリトラクタを配設することができ、特に3列目中央のリトラクタ40Rから延びるウエビング44Rを可及的後部から後席乗員の肩部に向けて導出することで、乗員拘束力を確保しながら、空気抵抗の低減およびデザイン自由度の向上を図ることができる。
図13〜図17に示すように構成しても、その他の構成、作用、効果については、図1〜図12を参照して説明した先の実施例とほぼ同様であるから、図13〜図17において、前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【0061】
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、
この発明のヒンジは、実施例のバックドアヒンジ26に対応し、
以下同様に、
アウタパネルは、リヤヘッダアウタパネル31に対応し、
インナパネルは、リヤヘッダインナパネル32に対応するも、
この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではない。
例えば、リトラクタ40Rと第2のリトラクタ40Lは、上記実施例と左右逆の配置にしてもよく、
図14で示した立設部31Aにウエビング取出し口を形成して、車両右側に配設したリトラクタ40R用の構成としてもよい。
【符号の説明】
【0062】
2…ルーフパネル
2c…ヒンジ取付け部
3…バックドア
3b…車体取付け部
21…開口部
24…バックウインドガラス
25…閉断面
26…バックドアヒンジ(ヒンジ)
30…リヤヘッダ
30F…前側接合部
31…リヤヘッダアウタパネル(アウタパネル)
32…リヤヘッダインナパネル(インナパネル)
33…閉断面
41…リトラクタ支持部
40R…リトラクタ
40L…第2のリトラクタ
44R…ウエビング
44L…第2のウエビング
49…ウエビングガイド
53…第2のウエビングガイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体後部に形成された開口部と、
該開口部の上縁部を形成する閉断面構造のリヤヘッダと、
該リヤヘッダにヒンジを介して車両上下方向に開閉可能に設けられたバックドアと、
を備えた
車両の後部車体構造であって、
上記リヤヘッダが上記ヒンジのヒンジセンタよりも車両前後方向後方の位置に設けられ、
シートベルト装置のリトラクタが上記リヤヘッダの車両前後方向前方の近接する位置に配設されたことを特徴とする
車両の後部車体構造。
【請求項2】
上記リヤヘッダに、上記リトラクタを支持するリトラクタ支持部が設けられた
請求項1記載の車両の後部車体構造。
【請求項3】
上記シートベルト装置は、上記リトラクタに巻取り可能に支持されたウエビングと、
該ウエビングを上記リヤヘッダの下面に沿って案内するウエビングガイドを有し、
該ウエビングガイドが上記リヤヘッダに取付けられた
請求項1または2記載の車両の後部車体構造。
【請求項4】
上記リヤヘッダの一部が、車両前後方向に延びて上記車体のルーフを形成するルーフパネルで構成され、
上記リヤヘッダの車両前後方向前方の近接する位置に、シートベルト装置の第2のリトラクタが配設され、
該シートベルト装置は、上記第2のリトラクタに巻取り可能に支持された第2のウエビングと、該第2のウエビングを上記ルーフパネルの下面に沿って案内する第2のウエビングガイドとを有し、
該第2のウエビングガイドが上記ルーフパネルに取付けられた
請求項3記載の車両の後部車体構造。
【請求項5】
上記ルーフパネルには上記ヒンジを取付けるヒンジ取付け部が設けられ、
該ヒンジ取付け部が上記リヤヘッダの一部を形成する
請求項4の何れか1に記載の車両の後部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−5942(P2011−5942A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−151025(P2009−151025)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】