説明

車両の後部車体構造

【課題】空力特性をより高めることのできる車両の後部車体構造を提供する。
【解決手段】燃料タンク20とスペアタイヤパン16aとが前後方向に並び、左右の後輪サスペンション部材32を連結する連結部材34が燃料タンク20とスペアタイヤパン16aとの間で車幅方向に延びる車両の後部車体構造において、燃料タンク20を下方から覆う底面52を有する前部リヤアンダカバー50と、スペアタイヤパン16aを下方から覆う底面62を有する後部リヤアンダカバー64とを設け、前部リヤアンダカバー50をその底面52の後端が連結部材34と略同等の高さ位置となるよう配設し、後部リヤアンダカバー60をその底面62の前端が連結部材34と略同等の高さ位置となり、かつ、当該底面62が後方に向かうに従って上方に傾斜するよう配設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の後部車体構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、燃費性能向上等の観点から車体の空力特性を高めるための開発が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、図9に示すように、車室の床を構成するフロアパネル10の後部に設けられたフロアキックアップ部14と、このフロアパネル10の後部の下方に設けられた後輪のサスペンション部材と、このフロアキックアップ部14の前方に設けられてフロアパネル10の前部を下方から覆うフロアアンダカバー13と、このフロアアンダカバー13の後部に設けられてこのフロアアンダカバー13の下面13aから下方へ突出する整流突出部B80とを有する構造が開示されている。この構造では、フロアアンダカバー13の下面13aに沿って後方へ向かう走行風が前記整流突出部B80によって低位置を流れるように整流されるため、前記走行風と前記サスペンション部材との衝突が抑えられてこの衝突に伴う走行風の乱れが低減され、高い空力特性を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−265677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図9に示すように、前記フロアキックアップ部14の後方等の車体後部に燃料タンク20とスペアタイヤパン16aとが前後方向に並んで配設され、左右の後輪サスペンションを連結する連結部材34が、前記燃料タンク20とスペアタイヤパン16aとの間で車幅方向に延びるように配設されている車両では、前記整流突出部B80を設けても、図9の破線矢印Y1に示すように、この整流突出部B80の後方において、前記走行風が前記連結部材34に衝突する、また、前記走行風が連結部材34と燃料タンク20およびスペアタイヤパン16aとの間の隙間に入り込んで連結部材34周辺での走行風の乱れが十分に抑制されないという問題がある。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、車体後部に燃料タンクとスペアタイヤパンとが前後方向に並んで配設されるとともに、左右の後輪のサスペンション部材を連結する連結部材が、前記燃料タンクとスペアタイヤパンとの間で車幅方向に延びるように配設された車両において、空力特性をより高めることのできる車両の後部車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、燃料タンクとスペアタイヤパンとが車体後部に前後方向に並んで配設されるとともに、左右の後輪サスペンション部材を連結する連結部材が、前記燃料タンクとスペアタイヤパンとの間で車幅方向に延びるように配設された車両の後部車体構造において、前後方向に延びて前記燃料タンクの少なくとも一部を下方から覆う底面を有する前部リヤアンダカバーと、前後方向に延びて前記スペアタイヤパンの少なくとも一部を下方から覆う底面を有する後部リヤアンダカバーとを備え、前記前部リヤアンダカバーは、その底面の後端が前記連結部材と略同等の高さ位置となるように配設され、前記後部リヤアンダカバーは、その底面の前端が前記連結部材と略同等の高さ位置となり、かつ、当該底面が後方に向かうに従って上方に傾斜するように配設されていることを特徴とする車両の後部車体構造を提供する。
【0008】
この構造によれば、車体後部に燃料タンクとスペアタイヤパンとが前後方向に並んで配設されるとともに、左右の後輪のサスペンション部材を連結する連結部材が、前記燃料タンクとスペアタイヤパンとの間で車幅方向に延びるように配設された車両において、前記連結部材周辺での走行風の乱れおよび車体後端での走行風の乱れを抑制することができ、当該車両の空力特性を高めることができる。
【0009】
具体的には、前記構造では、前記前部リヤアンダカバーの底面と後部リヤアンダカバーの底面とが前記燃料タンクおよびタイヤパンの下方において前記連結部材と略同じ高さ位置からそれぞれ前後方向に延びているため、車両後方に向かう走行風はこれら底面に沿って連結部材と略同じ高さ位置およびこの位置よりも下方を通過し、この走行風と連結部材との衝突ひいては連結部材周辺での走行風の乱れが抑制される。そして、前記後部リヤアンダカバーの底面が後方に向かうに従って上方に傾斜しているため、前記走行風はこの後部リヤアンダカバーの底面に沿ってより円滑に車体後方に抜けることができ、車両後端付近での走行風の乱れが抑制される。
【0010】
本発明において、前記後部リヤアンダカバーは、側面視でその底面が前記連結部材の下端とリヤバンパの下端とを結ぶ仮想線上を延びるように配設されているのが好ましい(請求項2)。
【0011】
この構成では、走行風が後部リヤアンダカバーの底面に沿ってリヤバンパの下端に向かって円滑に進むため、この走行風をリヤバンパから車両後方により円滑に流出させることができ、車両後端付近での走行風の乱れをより確実に抑制することができる。
【0012】
また、本発明において、前記前部リヤアンダカバーは、前記連結部材から前方に離間した位置から前方に向かって延びるように配設され、前記後部リヤカバーは、前記連結部材から後方に離間した位置から後方に向かって延びるように配設されているのが好ましい(請求項3)。
【0013】
この構成によれば、後輪のサスペンション部材とともに上下移動する前記連結部材と前記前部リヤアンダカバーおよび後部リヤカバーとの干渉をより確実に抑制することができる。
【0014】
また、本発明において、前記後部リヤカバーは、その底面の前縁に設けられて当該底面から前記スペアタイヤパンに向かって延びる立壁部を有するのが好ましい(請求項4)。
【0015】
この構造によれば、前記後部リヤカバーの底面の前端を前記連結部材と略同じ高さ位置としつつ、前記立壁部により当該底面と前記スペアタイヤパンとの隙間を塞ぐことができ、この隙間に走行風が流入することに伴う走行風の乱れを抑制することができる。
【0016】
ここで、前記後部リヤカバーは、前記スペアタイヤパンの左右方向の略全体にわたって延びており、前記後部リヤカバーの立壁部は、前記後部リヤカバーの底面の前縁の左右方向全体にわたって延びているのが好ましい(請求項5)。
【0017】
このようにすれば、後部リヤカバーの底面によってより広範囲にわたって走行風を円滑に後方へ流出させることができるとともに、後部リヤカバーの立壁部によってより広範囲にわたって前記底面と前記スペアタイヤパンとの隙間に走行風が流入することに伴う乱れを抑制することができる。
【0018】
また、前記構造において、前記燃料タンクと前記スペアタイヤパンとの間に配置されたフィラーパイプを有し、前記後部リヤカバーの立壁部は、車両の衝突時に前記フィラーパイプと衝突する位置に配設されるとともに、前記フィラーパイプとの衝突時に当該フィラーパイプの形状に合わせて変形可能なように、その剛性が前記フィラーパイプの剛性よりも低く設定されているのが好ましい(請求項6)。
【0019】
このようにすれば、車両の衝突に伴い前記後部リヤカバーの立壁部と前記フィラーパイプとが衝突した場合に、前記立壁部によりフィラーパイプの損傷をより確実に抑えることができる。
【0020】
また、本発明において、前記前部リヤカバーは、その底面の外周縁に設けられて当該底面から前記燃料タンクに向かって延びる延出部を有するのが好ましい(請求項7)。
【0021】
この構造によれば、前記前部リヤカバーと燃料タンクとの間の隙間に走行風が流入して走行風が乱れるのを抑制することができる。
【0022】
また、本発明において、前記連結部材の後方かつ前記スペアタイヤパンの左右一方側に、サイレンサが前後方向に延びる姿勢で配設されているのが好ましい(請求項8)。
【0023】
この構造では、前記サイレンサが左右方向に延びる姿勢で配設されている場合に比べて、前記走行風が前後方向により長い距離このサイレンサに沿って流れるため、前記連結部材の後方において走行風の乱れをより確実に抑制することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明によれば、走行風の乱れを抑制して車両の空力特性をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る車両の後部車体構造が適用された車両の概略断面図である。
【図2】図1に示す車両の後部車体構造の概略底面図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】図2のIV−IV線断面の一部を拡大して示した図である。
【図5】前部リヤカバーの概略斜視図である。
【図6】後部リヤカバーの概略斜視図である。
【図7】車両の後突前の状態を示す概略側面図である。
【図8】車両の後突後の状態を示す概略断面図である。
【図9】従来の車体構造を示す車両の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0027】
図1は、本発明に係る車両の後部車体構造が適用された車両1の概略断面図であり、図2は、車両1の後部を下方から見た図であり、図3は図2のIII−III線断面図、図4は図2のIV−IV線断面図である。
【0028】
前記車両1は、その前部に設けられたエンジンルーム2にエンジンが搭載されてこのエンジンにより前輪3が駆動されるFF式の車両である。この車両1は、エンジンルーム2と車室8とを前後方向に仕切るダッシュパネル4と、車室8の床を構成するフロアパネル10とを有している。前記フロアパネル10上には前席シート5と後席シート6とが配設されており、車室8のうちこの後席シート6よりも後方の領域には荷室9が形成されている。
【0029】
前記フロアパネル10は、フロントフロアパネル12と、フロアキックアップ部14と、リヤフロアパネル16とからなる。前記フロントフロアパネル12は、前席シート5が配設される車室8の前部の床を構成する部分であり、ダッシュパネル4から後席シート6付近に向けて略水平に延びている。前記フロアキックアップ部14は、前記フロントフロアパネル12の後端に設けられており、この後端から上方に立ち上がっている。前記リヤフロアパネル16は、後席シート6が配設される車室8の後部の床および荷室9の床を構成する部分であり、前記フロアキックアップ部14の上端から車両1の後端に設けられたリヤバンパ44付近まで延びている。
【0030】
前記リヤフロアパネル16のうち前記荷室9の床を構成する後部の左右略中央の部分は、下方に膨出してその内側にスペアタイヤが収納可能な形に成形されており、このリヤフロアパネル16の後部中央部分はスペアタイヤパン16aとして構成されている。具体的には、このスペアタイヤパン16aは、平面視で、その前部がタイヤ形状に沿って半円状を有する一方その後部がこの前部と連続して四角形状となる形状を有している。このスペアタイヤパン16aは、フロアキックアップ部14の上端とほぼ同じ高さ位置からフロアキックアップ部14の上下略中央部分であって前記リヤパンパ44の下端付近まで下方に膨出している。
【0031】
前記フロアキックアップ部14の後方であって前記リヤフロアパネル16の下方には、燃料タンク20と、後輪サスペンション30と、左右一対のリヤサイドフレーム40,40と、リヤクロスメンバ42と、前部リヤアンダカバー50と、後部リヤアンダカバー60と、サイレンサ70とが配置されている。
【0032】
前記リヤサイドフレーム40,40は、それぞれ、車両の左右両端付近において前記フロアキックアップ部14から前記リヤバンパ44付近まで延びるフレーム部材である。前記リヤクロスメンバ42は、左右に延びるメンバ部材であり、前記リヤサイドフレーム40,40間にわたって延びている。このリヤクロスメンバ42は、前記スペアタイヤパン16aよりも前方に配置されており、前記リヤサイドフレーム40,40の前後略中央部分を連結している。
【0033】
前記燃料タンク20は、その底面20aが略水平に延びる姿勢で前記フロアキックアップ部14と前記リヤクロスメンバ42との間に配設されている。この燃料タンク20は、一方のリヤサイドフレーム40近傍からリヤフロアパネル16の左右中央付近まで延びるとともに、前記フロアキックアップ部14の上端とほぼ同じ高さ位置から、フロアキックアップ部14の下端よりもわずかに上方であって前記スペアタイヤパン16aの下端よりも下方の位置まで延びている。
【0034】
前記燃料タンク20の後面からは、後方に向かってフィラーパイプ22が延びている。このフィラーパイプ22は、燃料タンク20とスペアタイヤパン16aとの間で前記クロスメンバ42に沿って左右に延びた後、後方に向かって後輪7の上方まで延びている。
【0035】
前記後輪サスペンション30は、トーションビーム式サスペンションであって、左右の後輪7,7をそれぞれ支持する左右一対のトレーリングアーム(サスペンション部材)32,32と、これらトレーリングアーム32,32間にわたって左右に延びてこれらトレーリングアーム32,32を連結するトーションビーム(連結部材)34とを有している。前記トレーリングアーム32,32は、前記各リヤサイドフレーム40,40にそれぞれ接続されており、このトレーリングアーム32には、図示を省略したショックアブソーバ、コイルスプリング等が連結されている。
【0036】
前記トーションビーム34は、前記リヤクロスメンバ42の下方に配置されており、前記燃料タンク20と前記スペアタイヤパン16aとの間で左右に延びている。また、このトーションビーム34は、その下端が前記燃料タンク20の底面20aよりも下方となる位置に配置されている。すなわち、本車両1では、このトーションビーム34は、その前後に配置された前記燃料タンク20および前記スペアタイヤパン16aよりも下方に突出する状態で配設されている。なお、本実施形態では、このトーションビーム34は、U字状の横断面を有し、その下端が前記フロアキックアップ部14の下端とほぼ同じ高さ位置となるように配置されている。
【0037】
前記サイレンサ70は、前記リヤクロスメンバ42および前記トーションビーム34の後方であって前記スペアタイヤパン16aの左右一方側に、前後方向に延びる状態すなわち縦置き状態で配設されている。
【0038】
前記前部リヤアンダカバー50は、前記燃料タンク20の下方に設けられるカバー部材である。この前部リヤアンダカバー50は、図5に示すように、板状の底面52と、この底面52の外周縁に設けられた延出部54とを有している。
【0039】
前記前部リヤアンダカバー50の底面52は、前後方向に延びて、その後端が前記トーションビーム34と略同じ高さ位置となるように配設されている。より詳細には、この前部リヤアンダカバー50の底面52は、前記トーションビーム34の下端と同じ高さ位置において、前記燃料タンク20の前端からこの燃料タンク20の後端まで略水平に延びるよう配設されており、トーションビーム34の下端と同じ高さ位置において燃料タンク20を下方から覆っている。本実施形態では、この前部リヤアンダカバー50の底面52は、平面視で燃料タンク20の前縁の左右略中央の部分と燃料タンク20の後縁の左右両端の部分とを結ぶ略三角形状を有しており、燃料タンク20の前端から後方に向かって左右に広がっており、燃料タンク20の一部のみを覆っている。なお、この前部リヤアンダカバー50の底面52は、燃料タンク20全体を覆う形状とされてもよい。
【0040】
前記前部リヤアンダカバー50の延出部54は、前部リヤアンダカバー50の底面52と燃料タンク20との間の隙間を塞ぐためのものであり、この底面52の外周縁から上方すなわち燃料タンク20に向かって延びる板状を有している。この延出部54は、底面52の外周縁全体に設けられており、前記隙間全体を塞ぐように構成されている。本実施形態では、前記前部リヤアンダカバー50の底面52とこの延出部54とは一体に成形されている。
【0041】
前部リヤアンダカバー50の延出部54には複数の取付部54aが設けられており、前部リヤアンダカバー50はこの取付部54aを介して前記燃料タンク20に固定されている。
【0042】
このように構成された前部リヤアンダカバー50は、前記トーションビーム34から前方に離間した位置に設けられており、後輪7,7の変位に伴いトーションビーム34が上下移動した場合に、前部リヤアンダカバー50がトーションビーム34と干渉しないように配置されている。
【0043】
前記後部リヤアンダカバー60は、前記スペアタイヤパン16aの下方に設けられるカバー部材である。この後部リヤアンダカバー60は、図6に示すように、板状の底面62と、この底面62の前縁に設けられた立壁部64とを有している。
【0044】
前記後部リヤアンダカバー60の底面62は、前記スペアタイヤパン16aを下方から覆う部分であり、前記スペアタイヤパン16aの前端付近であって前記トーションビーム34と略同じ高さ位置からスペアタイヤパン16aの後端付近まで、後方に向かうに従って上方すなわちスペアタイヤパン16aに近づく方向に傾斜しつつ延びるよう配設されている。
【0045】
より詳細には、この後部リヤアンダカバー60の底面62は、図3に示すように、側面視で前記トーションビーム34の下端とこのトーションビーム34よりも上方に位置する前記リヤバンパ44の下端とを結ぶ仮想線L1上を延びるように配設されている。そして、この後部リヤアンダカバー60の底面62の前端は、前記トーションビーム34と略同じ高さ位置であって、このトーションビーム34の下端よりも上方かつこのトーションビーム34の上下中央部分よりも下方となる位置に配置されており、この底面62の後端は前記リヤバンパ44とほぼ接する位置に配置されている。
【0046】
本実施形態では、前記後部リヤアンダカバー60の底面62は、前記スペアタイヤパン16aの底面とほぼ同様の形状を有しており、その前部が平面視で略半円状をなしその後部が平面視でこの前部と連続する四角形状をなす形状を有している。ただし、この後部リヤアンダカバー60は、高温の排気が通過する前記サイレンサ70からの熱害が加えられないように、前記サイレンサ70から所定量左右に離間した状態で配置されている。
【0047】
前記後部リヤアンダカバー60の底面62には、上下および左右に延びる複数のリブ62aが設けられており、その剛性が高められている。また、この後部リヤアンダカバー60の底面62には、上方に向かって突出する複数の取付部66が設けられており、後部リヤアンダカバー60は、これら取付部66を介してスペアタイヤパン16aに固定されている。
【0048】
前記後部リヤアンダカバー60の立壁部64は、後部リヤアンダカバー60の底面62の前縁と前記スペアタイヤパン16aの前縁との間の隙間を塞ぐためのものであり、この後部リヤアンダカバー60の底面62の前縁すなわちこの底面62の半円状の前部の外周縁から、上方すなわち前記スペアタイヤパン16aに向かって延びる板状を有している。本実施形態では、この立壁部64は、前記スペアタイヤパン16a近傍まで延びている。また、この立壁部64は、前記後部リヤアンダカバー60の底面62の前縁全体にわたって設けられており、前面視でこの後部リヤアンダカバー60の左右全体ひいてはスペアタイヤパン16aの左右ほぼ全体にわたって延びており、前記隙間全体を塞ぐように構成されている。本実施形態では、前記後部リヤアンダカバー60の底面62とこの立壁部64とは一体に成形されている。
【0049】
ここで、車両1の衝突前の状態を示した図7および車両1の後突時の状態を示した図8に示すように、前記リヤサイドフレーム40は、車両1の後突時に、前記燃料タンク20が潰されないように、リヤクロスメンバ42よりも後方の部分が軸圧縮して衝突エネルギを吸収し、かつ、リヤクロスメンバ42よりも後方に設けられた折れ起点部40aが上方に変位する姿勢で折れ曲がるよう構成されている。そして、前記燃料タンク20は、前記リヤサイドフレーム42の折れ曲がり時に前記リヤサイドフレーム40の前部とともに後方に向かうほど上方に傾斜するように構成され、前記スペアタイヤパン16aはこの折れ曲がり時に前方に変位するように構成されている。そのため、前記後突時において、前記立壁部64と前記燃料タンク20と前記スペアタイヤパン16aとの間に配設された前記フィラーパイプ22とが干渉する場合がある。
【0050】
そのため、前記立壁部64は、フィラーパイプ22との干渉時にフィラーパイプ22を損傷しないようにその剛性が前記フィラーパイプ22の剛性よりも低くなるよう構成されている。本実施形態では、この立壁部64に、前記後部リヤアンダカバー60の底面62と異なりリブを設けないことで、その剛性を小さく抑えている。これにより、図8に示すように、前記干渉時において、前記立壁部64はフィラーパイプ22の形状に合わせて後方に凹むように変形し、立壁部64によるフィラーパイプ22の損傷は抑制される。なお、前記立壁部64は、前記フィラーパイプ22の形状に合わせて変形可能なようにその剛性がフィラーパイプ22よりも低い構造を有していればよく、前記立壁部64は、前記構成に代えて、例えば、その厚みが後部リヤアンダカバー60の底面62等に比べて薄いことでその剛性が低く抑えられていてもよい。また、その材質の設定によりその剛性が低く抑えられていてもよい。
【0051】
このように構成された前記後部リヤアンダカバー60は、前記トーションビーム34から後方に離間した位置に設けられており、後輪7,7の変位に伴いトーションビーム34が上下移動した場合に、前部リヤアンダカバー50がトーションビーム34と干渉しないように配置されている。
【0052】
以上のように構成された前部リヤアンダカバー50および後部リヤアンダカバー60が設けられた車両1では、これらのカバー50,60が設けられていない車両1に比べて、前記リヤフロアパネル16の下方および車両1の後方における走行風の乱れを小さく抑えることができ、車両1の空力特性を高めて、燃費等の性能を高めることができる。
【0053】
具体的には、前述のように前記トーションビーム34がその前後に配置された燃料タンク20およびスペアタイヤパン16aよりも下方に突出している車両では、前部リヤアンダカバー50および後部リヤアンダカバー60が設けられていないと、図9の破線矢印Y1に示すように、前記フロントフロアパネル12の下方を通って前記リヤフロアパネル16の下方に流入した走行風は、前記燃料タンク20の下面に沿って進んだ後、前記トーションビーム34およびスペアタイヤパン16aと衝突する、また、トーションビーム34と前記燃料タンク20の間の隙間およびトーションビーム34と前記スペアタイヤパン16aの間の隙間に流入するため、トーションビーム34周辺において走行風に乱れが生じてしまう。
【0054】
これに対して、前述のように構成された前部リヤアンダカバー50と後部リヤアンダカバー60とが設けられていると、図1および図3の破線矢印X1に示すように、前記リヤフロアパネル16の下方に流入した走行風は、前部リヤアンダカバー50の下面(底面52)に沿って後方に進み、トーションビーム34と衝突することなく、また、トーションビーム34と前記燃料タンク20の間の隙間に流入することなく、トーションビーム34の下方を通って後方に向かう。そして、この走行風は、後部リヤアンダカバー60の下面(底面62)に沿って後方に進み、スペアタイヤパン16aと衝突することなく、トーションビーム34と前記スペアタイヤパン16aの間の隙間に流入することなく、また、トーションビーム34の後方でその向きを急激に上方に変更することなく、徐々に上方に向かいつつ後方に進んで、リヤバンパ44の下端から車両1の後方に向けて流出する。
【0055】
従って、本実施形態に係る前部リヤアンダカバー50と後部リヤアンダカバー60とが設けられた車両1では、前記トーションビーム34の周囲での走行風の乱れが小さく抑えられるとともにこの走行風が車両1から後方に向けて流出する際の乱れが小さく抑えられて、空力特性が高められる。特に、前記後部リヤアンダカバー60の底面62は、前記トーションビーム34の下端とリヤバンパ44の下端とを結ぶ仮想線L1上を延びており、前記走行風は、前記トーションビーム34の周囲での乱れが抑制されつつより円滑に車両1の後方に流出する。すなわち、走行風は、理想的な経路により近い状態で後方に流出することができるため、より高い空力特性が得られる。
【0056】
また、前記前部リヤアンダカバー50の延出部54がこの前部リヤアンダカバー50の底面52と燃料タンク20との間の隙間を塞ぐように延びているため、この延出部54によりこの底面52と燃料タンク20の間に走行風が流入するのがより確実に抑制される。さらに、前記後部リヤアンダカバー60の立壁部64がこの後部リヤアンダカバー60の底面62の前縁とスペアタイヤパン16aとの間の隙間を塞ぐように延びているため、この立壁部64によりこの底面62とスペアタイヤパン16aとの間に走行風が流入するのがより確実に抑制される。
【0057】
ここで、前記後部リヤアンダカバー60が、その底面62がスペアタイヤパン16aの左右中央部のみといったスペアタイヤパン16aの一部のみを覆うように配設されて、前記立壁部64がスペアタイヤパン16aの一部と底面62との間の隙間のみを塞ぐように配設されていてもよい。ただし、本実施形態のように、前記後部リヤアンダカバー60がスペアタイヤパン16aの左右略全体にわたって延びて、前記立壁部64が後部リヤアンダカバー60の前縁の左右方向全体ひいてはスペアタイヤパン16aの左右略全体にわたって延びていれば、より多くの走行風が円滑に車両1の後方に流出するとともに、後部リヤアンダカバー60の底面62とスペアタイヤパン16aとの間に流入する走行風の量を少なく抑えることができ、空力特性をより高めることができる。
【0058】
また、本実施形態に係る車両1では、前記サイレンサ70が前記スペアタイヤパン16aの側方において縦置きとされてこのサイレンサ70が横置きとされている場合に比べてサイレンサ70の左右方向の長さが短く抑えられており、前記走行風がサイレンサ70に衝突する量が少なく抑えられている。従って、本車両1では、前述のように、前記後部リヤアンダカバー60により前記スペアタイヤパン16aの下方において走行風の乱れが抑制されつつ、スペアタイヤパン16aの側方においても前記衝突に伴う走行風の乱れが小さく抑えられて、車両1の後部において高い空力特性を得ることができる。
【0059】
ここで、本発明は、前記トーションビーム式サスペンションを有するものに限らず、後輪のサスペンション部材を連結する連結部材を備えるものであって、この連結部材が燃料タンクとスペアタイヤパンの間で左右に延びるとともにこの連結部材の下端部がこれら燃料タンクとスペアタイヤパンの各下端部よりも下方に位置する車両に適用可能である。
【0060】
また、前記実施形態では、前記前部リヤアンダカバー50がその底面52が前記トーションビーム34と略同等の高さ位置で略水平に延びる場合について説明したが、この前部リヤアンダカバー50は、その後端が前記トーションビーム34と略同等の高さ位置となるよう配設されていればよい。例えば、この前部リヤアンダカバー50は、後方に向かうに従って下方に傾斜していてもよい。ただし、前記実施形態のように、トーションビーム34の下端とフロアキックアップ部14の下端とがほぼ同じ高さ位置にある場合には、前部リヤアンダカバー50をこれらの下端と略同等の高さ位置で略水平に延びるよう配設すれば、リヤフロアパネル16に流入した走行風をより円滑に後方に流出させることができる。
【符号の説明】
【0061】
16 リヤフロアパネル
16a スペアタイヤパン
20 燃料タンク
22 フィラーパイプ
30 サスペンション
32 トレーリングアーム(サスペンション部材)
34 トーションビーム(連結部材)
50 前部リヤアンダカバー
52 前部リヤアンダカバーの底面
54 延出部
60 後部リヤアンダカバー
62 後部リヤアンダカバーの底面
64 立壁部
70 サイレンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンクとスペアタイヤパンとが車体後部に前後方向に並んで配設されるとともに、左右の後輪サスペンション部材を連結する連結部材が、前記燃料タンクとスペアタイヤパンとの間で車幅方向に延びるように配設された車両の後部車体構造において、
前後方向に延びて前記燃料タンクの少なくとも一部を下方から覆う底面を有する前部リヤアンダカバーと、
前後方向に延びて前記スペアタイヤパンの少なくとも一部を下方から覆う底面を有する後部リヤアンダカバーとを備え、
前記前部リヤアンダカバーは、その底面の後端が前記連結部材と略同等の高さ位置となるように配設され、
前記後部リヤアンダカバーは、その底面の前端が前記連結部材と略同等の高さ位置となり、かつ、当該底面が後方に向かうに従って上方に傾斜するように配設されていることを特徴とする車両の後部車体構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の後部車体構造において、
前記後部リヤアンダカバーは、側面視でその底面が前記連結部材の下端とリヤバンパの下端とを結ぶ仮想線上を延びるように配設されていることを特徴とする車両の後部車体構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両の後部車体構造において、
前記前部リヤアンダカバーは、前記連結部材から前方に離間した位置から前方に向かって延びるように配設され、
前記後部リヤカバーは、前記連結部材から後方に離間した位置から後方に向かって延びるように配設されていることを特徴とする車両の後部車体構造。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の車両の後部車体構造において、
前記後部リヤカバーは、その底面の前縁に設けられて当該底面から前記スペアタイヤパンに向かって延びる立壁部を有することを特徴とする車両の後部車体構造。
【請求項5】
請求項4に記載の車両の後部車体構造において、
前記後部リヤカバーの底面は、前記スペアタイヤパンの左右方向の略全体にわたって延びており、
前記後部リヤカバーの立壁部は、前記後部リヤカバーの底面の前縁の左右方向全体にわたって延びていることを特徴とする車両の後部車体構造。
【請求項6】
請求項4または5に記載の車両の後部車体構造において、
前記燃料タンクと前記スペアタイヤパンとの間に配置されたフィラーパイプを有し、
前記後部リヤカバーの立壁部は、車両の衝突時に前記フィラーパイプと衝突する位置に配設されるとともに、前記フィラーパイプとの衝突時に当該フィラーパイプの形状に合わせて変形可能なように、その剛性が前記フィラーパイプの剛性よりも低く設定されていることを特徴とする車両の後部車体構造。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の車両の後部車体構造において、
前記前部リヤカバーは、その底面の外周縁に設けられて当該底面から前記燃料タンクに向かって延びる延出部を有することを特徴とする車両の後部車体構造。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の車両の後部車体構造において、
前記連結部材の後方かつ前記スペアタイヤパンの左右一方側に、サイレンサが前後方向に延びる姿勢で配設されていることを特徴とする車両の後部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−66764(P2012−66764A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215011(P2010−215011)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】