説明

車両の後部車体構造

【課題】車両の後突時に入力された衝突荷重を効果的に吸収できるとともに、上記タイヤパンの前方に配設された車両の動力補機を効果的に保護できるようにする。
【解決手段】左右一対のリヤサイドフレーム1と、荷室フロアパネル2とを備え、該荷室フロアパネル2の後部に下方へ凹入したタイヤパン3が設けられた車両の後部車体構造において、上記タイヤパン3の前方側に設置されて左右のリヤサイドフレーム1を連結するクロスメンバ部材8と、該クロスメンバ部材8上に配設されて支持される車両の動力補機10とを有し、上記タイヤパン3内にタイヤ4を倒伏状態で設置し、上記クロスメンバ部材8を荷室フロアパネル2の上方に離間させて設置するとともに、車両の後突時に上記クロスメンバ部材8の下面に沿って車両前方側へタイヤ4を移動させるように該クロスメンバ部材8およびタイヤ4の設置高さをそれぞれ設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右一対のリヤサイドフレームと、荷室フロアパネルとを備え、該荷室フロアパネルの後部に下方へ凹入したタイヤパンが後部に設けられた荷室フロアパネルとを備えた車両の後部車体構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に示されるように、後面衝突時に、スペアタイヤと車両駆動用のバッテリとの干渉を回避し、バッテリの破損を防止できる電動車の車体構造を提供すること目的として、後部座席後方でフロアパネル上に配置された車両駆動用の強電バッテリと、上記強電バッテリの後方で斜め後ろ下がりの傾斜状態でスペアタイヤ固定ブラケットを介してフロアパネルに固定されたスペアタイヤとを備え、上記フロアパネルと上記スペアタイヤ固定ブラケット間の固定位置を、上記スペアタイヤと上記スペアタイヤ固定ブラケット間の固定位置に対して車両前方側にオフセットさせることにより、車両の後面衝突時に、スペアタイヤが傾斜角を増すように回転動作を行わせて、前方に配設された車両駆動用バッテリとの干渉を回避することが行われている。
【0003】
また、下記特許文献2に示されるように、トランクルームに収容された電池パックの搭載構造において、開口部を有するトランクルームと、開口部から離れた所定の位置でトランクルームに収容されてトランクルームの床面上に設置される電池パックと、所定の位置と開口部との間に位置するとともにトランクルームに設けられてトランクルームの床面に開口するスペアタイヤ収容部とを備え、トランクルームの床面を、所定の位置からスペアタイヤ収容部の開口面にまで亘って、略同一水平面上に延在させることが行われている。
【0004】
さらに、下記特許文献3に示されるように、車両が後突された場合に、蓄電機構の損傷を抑制することを目的として、車両前後方向に延びる一対のフレームを車両の側部に設けるとともに、車両前後方向の荷重により上下方向に変形する変形部を上記フレームに設け、変形部が変形した場合に、蓄電機構が上記変形部に対して相対的に移動するように蓄電機構を上記フレームに固定する固定部材を設け、該固定部材に設けられて上記一対のフレームを車幅方向に連結するブリッジ部を介して上記蓄電機構をフレームに固定することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−276605号公報
【特許文献2】特開2007−022140号公報
【特許文献3】特開2005−247063公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に開示された電動車両の車体構造では、車両の後面衝突時に、スペアタイヤを前上がりに回動変位させてその傾斜角度を増大させるように構成したため、衝突荷重が所定値以下であれば、前方に配設された車両駆動用バッテリにスペアタイヤが干渉するのを回避することが可能である。しかし、車両の後部座席後方に位置するフロアパネルの上面に車両駆動用バッテリが固定されているため、後突時に大きな衝突荷重が入力されると、上記フロアパネルが変形することによる影響を車両駆動用バッテリが受けるのを避けられず、かつ上記スペアタイヤが衝突物に押されて前方へ大きく移動すると、車両駆動用バッテリに干渉して該バッテリを損傷させる虞があった。
【0007】
また、上記特許文献2に開示されているように、トランクルームの床面上に設置された電池パック支持ブラケットに電池パックを取り付けるとともに、その後方部位を下方に凹入させてスペアタイヤの収容部を形成した場合には、車両の後突時に前方に付勢されたスペアタイヤが電池パックに当接するのを防止して電池パックを保護することができる。しかし、上記のようにトランクルームのスペアタイヤ収納部前方に位置する床面上に電池パック支持ブラケットが固定されているため、車両の後突時に、上記電池パック支持ブラケットの固定部(スペアタイヤ収納部前方の床面)を、上記スペアタイヤの前方付勢力に対応させて効果的に変形させることができず、衝突荷重を充分に吸収することができないという問題があった。
【0008】
なお、車両の後突時にトランクルームの床面を変形させ得るようにするために、該床面に上記電池パック支持ブラケットを固定することなく載置することも考えられるが、このように構成した場合には、車両の後突荷重に応じて車両の前方側に付勢された上記スペアタイヤおよびスペアタイヤ収容部により上記トランクルームの床面が押動されて変形すると、その影響が電池パックに及ぶのを防止することができず、該電池パックが却って損傷し易くなるという問題がある。
【0009】
また、上記引用文献3に開示された蓄電機構の取付構造では、車両の後突時に蓄電機構を支持するブリッジ部をリヤサイドフレームから離脱させて上方へ揺動変位させるように構成されているため、上記蓄電機構の後方部に収容されたスペアタイヤが、後突荷重に応じて車両の前方側へ真っ直ぐに移動する際に、上記蓄電機構にスペアタイヤが干渉するのを防止することができる。しかし、車両の後突時に上記ブリッジ部とともに蓄電機構が揺動変位して大きな慣性力を受けたり、他の車体側部材に干渉して損傷したりする可能性がある。さらに、車両の後突部に前方へ付勢されたスペアタイヤの移動方向を上記クロスメンバにより規制することができないため、大きな後突荷重が入力されると、上記スペアタイヤが跳ね上がるように変位して蓄電機構に干渉する可能性があった。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、左右一対のリヤサイドフレームと、荷室フロアパネルとを備え、該荷室フロアパネルの後部に下方へ凹入したタイヤパンが後部に設けられた車両の後部車体構造において、車両の後突時に入力された衝突荷重を効果的に吸収することができるとともに、上記タイヤパンの前方に配設された車両の動力補機を効果的に保護できるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、左右一対のリヤサイドフレームと、荷室フロアパネルとを備え、該荷室フロアパネルの後部に下方へ凹入したタイヤパンが設けられた車両の後部車体構造において、上記タイヤパンの前方側に設置されて左右のリヤサイドフレームを連結するクロスメンバ部材と、該クロスメンバ部材上に配設されて支持される車両の動力補機とを有し、上記タイヤパン内にタイヤを倒伏状態で設置し、上記クロスメンバ部材を荷室フロアパネルの上方に離間させて設置するとともに、車両の後突時に上記クロスメンバ部材の下面に沿って車両前方側へタイヤを移動させるように該クロスメンバ部材およびタイヤの設置高さをそれぞれ設定したものである。
【0012】
請求項2に係る発明は、上記請求項1に記載の車両の後部車体構造において、上記クロスメンバ部材が、側面視で車両の前後方向に細長い偏平断面形状に形成されたものである。
【0013】
請求項3に係る発明は、上記請求項1または2に記載の車両の後部車体構造において、上記タイヤが、前下がりの傾斜状態で上記タイヤパンに支持されたものである。
【0014】
請求項4に係る発明は、上記請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両の後部車体構造において、上記クロスメンバ部材の後部が、タイヤパンの前辺部と平面視で重なるように、その前後位置が設定されたものである。
【0015】
請求項5に係る発明は、上記請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両の後部車体構造において、左右のリヤサイドフレームを連結する前方側クロスメンバが、上記クロスメンバ部材の前方側で荷室フロアパネルの上方側に突出するように設置され、かつ上記前方側クロスメンバの前端から、クロスメンバ部材の上部に配設された補機の後端までの前後長が、上記タイヤパン内に倒伏状態で設置されたタイヤの前後長よりも短く設定されたものである。
【0016】
請求項6に係る発明は、上記請求項5に記載の車両の後部車体構造において、上記動力補機が前方側クロスメンバの上方に配設され、該前方側クロスメンバの前部に上記動力補機が支持されたものである。
【0017】
請求項7に係る発明は、上記請求項5または6に記載の車両の後部車体構造において、上記動力補機の左右両側方側にリヤホイールハウスが形成されるとともに、該リヤホイールハウスの車室内側壁面には、上記前方側クロスメンバの側端部から上方に延びる前側上下メンバと、該前側上下メンバの後方に離間した位置で上記リヤサイドフレームの上部から上方に延びる後側上下メンバとが設置され、該後側上下メンバの近傍で上記クロスメンバ部材とリヤサイドフレームとが連結されたものである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明では、クロスメンバ部材を荷室フロアパネルの上方に離間させて設置するとともに、車両の後突時に上記クロスメンバ部材の下面に沿って車両前方側へタイヤを移動させるように該クロスメンバ部材およびタイヤの設置高さをそれぞれ設定したため、車両の後突時に入力された衝突荷重に応じて車両の前方側に押動された上記タイヤが、上記動力補機に当接して動力補機に損傷するのを効果的に防止することができるとともに、上記クロスメンバ部材によりタイヤの前進が規制されることなく、該タイヤをスムーズに前方位動させることができるため、タイヤパンの前方部に位置する荷室フロアパネルの変形が阻害されたり、上記クロスメンバ部材と衝突物との間にタイヤが挟まってリヤサイドフレームの変形が阻害されたりするという事態を生じることなく、該リヤサイドフレームを変形させる等により後突時の衝突荷重を効果的に吸収できるとともに、上記動力補機の損傷を効果的に防止できるという利点がある。
【0019】
請求項2に係る発明では、クロスメンバ部材を、側面視で車両の前後方向に細長い偏平断面形状に形成したため、その上下寸法を効果的にコンパクト化しつつ、上記動力補機の支持剛性を充分に確保することができるとともに、車両の後突時に上記タイヤパン内に収容されたタイヤが跳ね上がるように変位すること等を、上記クロスメンバ部材により効果的に防止し、該クロスメンバ部材の下面に沿ってタイヤを車両前方側へスムーズに移動させることができる。
【0020】
請求項3に係る発明では、上記タイヤを、前下がりの傾斜状態で上記タイヤパンに支持させたため、車両の後突時に該タイヤを上記クロスメンバ部材の下面に沿って車両前方側へタイヤをスムーズに移動させて、その跳ね上がり変位等を、より効果的に防止できるという利点がある。
【0021】
請求項4に係る発明では、上記クロスメンバ部材の後部が、タイヤパンの前辺部と平面視で重なるように、その前後位置を設定したため、車両の後突が発生した初期の時点で上記タイヤパンの前辺部まで移動したタイヤの前端部が浮き上がるように変位することを上記クロスメンバ部材により効果的に規制することができ、上記タイヤの前端部が動力補機に当接することに起因した該動力補機の損傷を、さらに効果的に防止することができる。
【0022】
請求項5に係る発明では、左右のリヤサイドフレームを連結する前方側クロスメンバを、上記クロスメンバ部材の前方側で荷室フロアパネルの上方側に突出させるように設置し、かつ上記前方側クロスメンバの前端から、クロスメンバ部材の上部に配設された補機の後端までの前後長を、上記タイヤパン内に倒伏状態で設置されたタイヤの前後長よりも短く設定したため、上記リヤサイドフレームと前方側クロスメンバと上記クロスメンバ部材とにより動力補機の設置部を効果的に補強することができるとともに、車両の後突時に、上記タイヤがクロスメンバ部材の下面に沿って動力補機の下方に導入された場合に、上記タイヤの後端部を動力補機よりも後方側に位置させることにより、車両の後端部に衝突した衝突物が動力補機に当接するのを防止するための規制部材として上記タイヤを利用することができ、上記動力補機の損傷を簡単な構成で効果的に防止できるという利点がある。
【0023】
請求項6に係る発明では、上記動力補機を前方側クロスメンバの上方に配設し、該前方側クロスメンバの前部に上記動力補機を支持したため、車両の後突時に入力荷重に応じて上記荷室フロアパネルが変形するのを上記動力補機により阻害されるのを防止しつつ、該動力補機の支持剛性を簡単な構成で充分に維持することができ、動力補機の損傷防止効果と、上記荷室フロアパネルが変形させることによる衝突荷重とが同時に得られるという利点がある。
【0024】
請求項7に係る発明では、動力補機の左右両側方側にリヤホイールハウスが形成された車両の後部車体構造において、上記前方側クロスメンバの側端部から上方に延びる前側上下メンバと、該前側上下メンバの後方に離間した位置で上記リヤサイドフレームの上部から上方に延びる後側上下メンバとを、上記リヤホイールハウスの車室内側壁面に設置し、かつ上記後側上下メンバの近傍で上記クロスメンバ部材とリヤサイドフレームとを連結したので、上記リヤホイールハウスの内倒れを防止するために設けられた上記前側上下メンバおよび後側上下メンバからなる強度部材と上記クロスメンバ部材とを互いに連結することにより、特に車両の旋回時における車体後部の剛性および走行安定性を簡単な構成で効果的に向上できる等の利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る車両の後部車体構造の実施形態を示す側面図である。
【図2】上記後部車体構造の具体的構成を示す平面図である。
【図3】動力補機およびタイヤを搭載した状態を示す図1相当図である。
【図4】図2のIV−IV線断面図である。
【図5】車両の後突状態を示す側面図である。
【図6】車両の後突状態を示す平面図である。
【図7】本発明に係る車両の後部車体構造の別の実施形態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1〜図3は、本発明に係る車両の後部車体構造の実施形態を示している。該車両の後部車体構造は、左右一対のリヤサイドフレーム1,1と、後部座席(図示せず)の後方側に配設された後部荷室の床面を構成する荷室フロアパネル2とを備えている。該荷室フロアパネル2の後部には、下方へ凹入したタイヤパン3が所定位置に設けられるとともに、該タイヤパン3内には、予備用のタイヤ4が例えば4°〜7°程度の角度でやや前下がりに傾斜した倒伏状態で設置されるとともに、図略の固定具により取外し可能に固定されている。
【0027】
上記リヤサイドフレーム1は、図4に示すように、断面ハット型の上方部材6と断面逆ハット型の下方部材7とを有している。上記上方部材6および下方部材7が荷室フロアパネル2を挟んで上下に配設されて該荷室フロアパネル2にスポット溶接される等により、後部荷室の側辺部に沿って車両の前後方向に延びる上下一対の閉断面が構成されている。
【0028】
上記タイヤパン3の前方側に位置する荷室フロアパネル2の前部上方には、左右のリヤサイドフレーム1,1を連結するクロスメンバ部材8が配設されるとともに、該クロスメンバ部材8の前方側、具体的には上記荷室フロアパネル2の前端部近傍には前方側クロスメンバ9が配設されている。そして、上記クロスメンバ部材8上に、電気自動車またはハイブリッド車両の駆動モータに電力を供給するバッテリユニットや、燃料電池、燃料ボンベまたは電力制御装置等からなる車両の動力補機10が配設されて支持されている(図3参照)。
【0029】
上記クロスメンバ部材8は、側面視で車両の前後方向に細長い偏平な閉断面形状(中空形状)に形成されるとともに、その前後寸法が、例えば上記動力補機10の前後寸法の2/3程度に設定されている。また、上記クロスメンバ部材8は、その左右両端部がリヤサイドフレーム1の上方部材6の上面に載置されてスポット溶接される等の手段で固定されることにより、該上方部材6の上下寸法に対応する距離だけ荷室フロアパネル2の上方に離間した状態で設置されている。
【0030】
上記クロスメンバ部材8の設置高さは、その下面がタイヤパン3内に収容されたタイヤ4の上面よりもやや上方に位置するように設定されている。これにより後述する車両の後突時に、上記タイヤ4がクロスメンバ部材8の下面に沿って案内されることにより車両前方側へスムーズに移動するように、該クロスメンバ部材8およびタイヤ4の設置高さがそれぞれ設定されている。なお、上記クロスメンバ部材8の下面をタイヤパン3内に収容されたタイヤ4の上面よりもやや下方に位置させ、車両の後突時に上記クロスメンバ部材8の後面下方部にタイヤ4を当接させることにより、該タイヤ4を下方に変位させつつ車両前方側に案内するように構成してもよい。
【0031】
図2に示すように、上記クロスメンバ部材8の後部は、平面視でタイヤパン3の前部3aと重なるように、その前後位置が設定されている。また、上記クロスメンバ部材8の後部には、タイヤパン3内に収容されたタイヤ4の前端部に対応した円弧状の切欠き11が形成されている。これにより、上記タイヤパン3に対してタイヤ4を出し入れする際に該タイヤ4が上記クロスメンバ部材8に当接することが防止されるようになっている。
【0032】
上記前方側クロスメンバ9は、クロスメンバ部材8よりも前方側において、荷室フロアパネル2の上方側に突出するように設置された断面ハット型の上方部材12と、上記荷室フロアパネル2を挟んで上方部材12の下方側に配設された断面逆ハット型の下方部材13とを有している。そして、上記前方側クロスメンバ9の上方部材12および下方部材13が荷室フロアパネル2にそれぞれスポット溶接される等により、後部荷室の前辺部から前下がりに傾斜するように折曲したリヤサイドフレーム1の折曲部Aに対応する位置において車幅方向に延びる上下一対の閉断面が構成されている(図1参照)。
【0033】
また、図3に示すように、上記前方側クロスメンバ9の前端から、クロスメンバ部材8の上部に配設された上記動力補機10の後端までの前後長Lが、上記タイヤパン3内に倒伏状態で設置されたタイヤ4の前後長(直径)Dよりも所定距離だけ短く設定されている。さらに、上記該動力補機10の前部が前方側クロスメンバの上部、つまり上記上方部材12にボルト止めされる等の手段で支持されている。
【0034】
上記動力補機10の左右両側方側には、図1に示すように、リヤホイールハウス16が形成されている。該リヤホイールハウス16の車室内側壁面には、上記前方側クロスメンバ9の側端部から上方に延びる前側上下メンバ17が設置されるとともに、該前側上下メンバ17の後方に離間した位置において、上記リヤサイドフレーム1の上方部材6から上方に延びる後側上下メンバ18が設置されている。また、該後側上下メンバ18の下端部近傍において、上記クロスメンバ部材8とリヤサイドフレーム1とが相連結されている。
【0035】
上記前側上下メンバ17および後側上下メンバ18は、図2に示すように、断面ハット型部材からなり、図1に示すように、上記前側上下メンバ17の上部には後傾姿勢の傾斜部が形成され、かつ後側上下メンバ18の上部には前傾姿勢の傾斜部が形成されている。そして、上記前側上下メンバ17および後側上下メンバ18によりリヤホイールハウス16が補強されることにより、該リヤホイールハウス16の上部に設けられたダンパ支持部に作用する荷重に応じて該リヤホイールハウス16が内倒れするのを防止されるようになっている。
【0036】
上記のように左右一対のリヤサイドフレーム1,1と、荷室フロアパネル2とを備え、該荷室フロアパネル2の後部に下方へ凹入したタイヤパン3が設けられた車両の後部車体構造において、上記タイヤパン3の前方に設置されて左右のリヤサイドフレーム1,1を連結するクロスメンバ部材8と、該クロスメンバ部材8上に配設されて支持される車両の動力補機10とを有し、上記タイヤパン3内にタイヤ4を倒伏状態で設置し、上記クロスメンバ部材8を荷室フロアパネル2の上方に離間させて設置するとともに、車両の後突時にクロスメンバ部材8の下面に沿って上記タイヤ4を車両前方側へ移動させるように該クロスメンバ部材8およびタイヤ4の設置高さをそれぞれ設定したため、車両の後突時に入力された衝突荷重を効果的に吸収することができるとともに、上記タイヤパン3の前方に配設された車両の動力補機10を効果的に保護できるという利点がある。
【0037】
すなわち、上記実施形態では、クロスメンバ部材8の左右両端部をリヤサイドフレーム1の上方部材6上に載置して固定することにより、上記クロスメンバ部材8を荷室フロアパネル2の上方に離間させた状態で設置するとともに、上記クロスメンバ部材8の設置高さを、その下面をタイヤパン3内のタイヤ4の上面よりもやや下方に位置させたため、図5および図6に示すように、車両の後端部に他車等からなる衝突物20が衝突する後突事故が発生時に、上記クロスメンバ部材8の下面に沿ってタイヤ4を車両前方側へスムーズに移動させることができる。そして、例えば左右のリヤサイドフレーム1,1の一方のみに大きな衝突荷重が作用するオフセット衝突時に、上記タイヤパン3の設置部に大きな衝突荷重が入力された場合においても、該タイヤパン3内に収容されたタイヤ4が跳ね上がるように変位するのを上記クロスメンバ部材8により防止できるため、該タイヤ4の前方移動が車体側部材により阻害されるという事態が生じるのを効果的に防止することができる。
【0038】
したがって、車両の後突時に入力された衝突荷重に応じて車両の前方側に押動された上記タイヤパン3内のタイヤ4が、上記動力補機10に当接して動力補機10が損傷することを効果的に防止できるという利点がある。また、上記クロスメンバ部材8によりタイヤ4の前進が規制されるのを防止して、該タイヤ4をスムーズに前方位動させることができるため、上記タイヤパン3の前方部に位置する荷室フロアパネル2の変形が阻害されたり、上記クロスメンバ部材8と衝突物との間にタイヤ4が挟まってリヤサイドフレーム1の変形が阻害されたりするという事態を生じることなく、後突時の衝突荷重を効果的に吸収しつつ、上記動力補機10の損傷を効果的に防止できるという利点がある。
【0039】
また、上記実施形態では、クロスメンバ部材8を側面視で車両の前後方向に細長い偏平断面形状に形成したため、その上下寸法を効果的にコンパクト化しつつ、上記動力補機10の支持剛性を充分に確保することができる。さらに、車両の前後方向における上記クロスメンバ部材8の剛性を効果的に向上させることかできるため、車両の後突時に上記タイヤパン3内に収容されたタイヤ4が跳ね上がるように変位すること等を、上記クロスメンバ部材8により効果的に防止し、該クロスメンバ部材8の下面に沿ってタイヤ4を車両前方側へ、よりスムーズに移動させることができる。
【0040】
なお、上記クロスメンバ部材8を側面視で車両の前後方向に細長い偏平な閉断面形状(中空形状)に形成した上記実施形態に代え、上記クロスメンバ部材8を、例えば側面視で車両の前後方向に細長い偏平な中実状に形成することも可能である。しかし、上記実施形態に示すように、クロスメンバ部材8を側面視で車両の前後方向に細長い偏平な閉断面形状に形成した場合には、クロスメンバ部材8を効果的にコンパクト化して軽量しつつ、その車両の前後方向における剛性を充分に向上させることができる。また、車両の後突荷重に応じて上記タイヤ4が車両の前方側に押動された上記クロスメンバ部材8に当接した場合に、該クロスメンバ部材8の後面下部を変形させて緩衝作用を発揮させることにより、該クロスメンバ部材8上に設置された動力補機10に上記タイヤ4が当接するのを効果的に防止できるという利点がある。
【0041】
ところで、上記クロスメンバ部材8を、例えば所定の高さで上下に離間しつつ車両の前後方向に延びるように設置された上面板と下面板とを単数または複数の連結部で連結することにより側面視でコ字状やトラス形状等の開断面形状とすることも可能である。このような開断面形状を有するクロスメンバ部材8では、上記閉断面形状と同等の剛性を確保しようとすると、その板厚または寸法が大きくなることが避けられないが、中実状のクロスメンバ部材に比べて軽量化することが可能であり、かつ車両の後突荷重に応じて上記タイヤ4が車両の前方側に押動されて上記クロスメンバ部材8に当接した場合に、該クロスメンバ部材8の後面下部を変形させて緩衝作用を発揮させることにより、該クロスメンバ部材8上に設置された動力補機10に上記タイヤ4が当接するのを効果的に防止できるという利点がある。
【0042】
また、上記タイヤ4をタイヤパン3内において前下がりの傾斜状態で支持するよう構成した上記実施形態に代え、図7に示すように、上記タイヤ4をタイヤパン3内において水平状態で設置するように構成することも可能であるが、図3に示す実施形態のように、タイヤ4をタイヤパン3内において前下がりの傾斜状態で支持させるように構成した場合には、車両の後突時に該タイヤ4を上記クロスメンバ部材8の下面に沿って車両前方側へタイヤ4をスムーズに移動させて、その跳ね上がり変位等を、より効果的に防止できるという利点がある。
【0043】
また、図2に示すように、クロスメンバ部材8の後部が、タイヤパン3の前辺部と平面視で重なるように、その前後位置を設定した場合には、車両の後突事故が発生した初期の時点で上記タイヤパン3の前辺部まで移動したタイヤ4の前端部が浮き上がるように変位することを上記クロスメンバ部材8により効果的に規制することができるため、上記タイヤ4の前端部が動力補機10に当接することに起因した該動力補機10の損傷を、さらに効果的に防止することができる。
【0044】
特に、上記実施形態に示すように、クロスメンバ部材8の後部に、タイヤパン3内に収容されたタイヤ4の前端部に対応した円弧状の切欠き11を形成することにより、上記タイヤパン3に対してタイヤ4を出し入れする際に該タイヤ4が上記クロスメンバ部材8に当接するのを防止するように構成した場合には、上記動力補機10を取り外した状態で、上記タイヤ4の出し入れ作業を容易に行うことができるという利点がある。
【0045】
また、上記実施形態では、左右のリヤサイドフレーム1,1を連結する前方側クロスメンバ9の上方部材12を、上記クロスメンバ部材8の前方側で荷室フロアパネル2の上方側に突出させるように設置したため、上記リヤサイドフレーム1の上方部材6と前方側クロスメンバ9の上方部材12と上記クロスメンバ部材8とにより動力補機10の設置部を効果的に補強することができる。
【0046】
さらに、上記前方側クロスメンバ9の前端から、クロスメンバ部材8の上部に配設された動力補機10の後端までの前後長Lを、上記タイヤパン3内に倒伏状態で設置されたタイヤ4の前後長Dよりも短く設定したため、車両の後突時に図5に示すように、上記タイヤ4がクロスメンバ部材8の下面に沿って動力補機10の下方に導入された場合に、上記タイヤ4の後端部を動力補機10よりも後方側に位置させることができる。したがって、車両の後端部に他車等からなる衝突物20が衝突する後突事故が発生時に、該衝突物20が動力補機10に当接するのを防止するための規制部材として上記タイヤ4を利用することができ、該タイヤ4により上記動力補機10を保護してその損傷を簡単な構成で効果的に防止できるという利点がある。
【0047】
また、上記実施形態に示すように、動力補機10を前方側クロスメンバ9の上方に配設し、該前方側クロスメンバ9の前部に上記動力補機10を支持させることにより、上記荷室フロアパネル2の上方に離間した位置において上記動力補機10の前部および後方部の両方をそれぞれ別々に支持するように構成した場合には、車両の後突時に入力荷重に応じて上記荷室フロアパネル2の変形が上記動力補機10により阻害されるのを防止しつつ、該動力補機10の支持剛性を簡単な構成で充分に維持することができ、動力補機10の損傷防止効果と上記荷室フロアパネル2を変形させることによる衝突荷重の吸収効果とが同時に得られるという利点がある。
【0048】
さらに、上記実施形態では、動力補機10の左右両側方側にリヤホイールハウス16が形成された車両の後部車体構造において、上記前方側クロスメンバ9の側端部から上方に延びる前側上下メンバ17と、該前側上下メンバ17の後方に離間した位置で上記リヤサイドフレーム1の上部から上方に延びる後側上下メンバ18とを、それぞれ上記リヤホイールハウス16の車室内側壁面に設置し、かつ上記後側上下メンバ18の近傍で上記クロスメンバ部材8とリヤサイドフレーム1とを連結したので、上記リヤホイールハウス16の内倒れを防止するために設けられた上記前側上下メンバ17および後側上下メンバ18からなる強度部材と上記クロスメンバ部材8とを互いに連結することにより、車両の旋回時における車体後部の剛性および走行安定性を簡単な構成で効果的に向上できる等の利点がある。
【符号の説明】
【0049】
1 リヤサイドフレーム
2 荷室フロアパネル
3 タイヤパン
4 タイヤ
8 クロスメンバ部材
9 前方側クロスメンバ
10 動力補機
17 前側上下メンバ
18 後側上下メンバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対のリヤサイドフレームと、荷室フロアパネルとを備え、該荷室フロアパネルの後部に下方へ凹入したタイヤパンが設けられた車両の後部車体構造において、上記タイヤパンの前方側に設置されて左右のリヤサイドフレームを連結するクロスメンバ部材と、該クロスメンバ部材上に配設されて支持される車両の動力補機とを有し、上記タイヤパン内にタイヤを倒伏状態で設置し、上記クロスメンバ部材を荷室フロアパネルの上方に離間させて設置するとともに、車両の後突時に上記クロスメンバ部材の下面に沿って車両前方側へタイヤを移動させるように該クロスメンバ部材およびタイヤの設置高さをそれぞれ設定したことを特徴とする車両の後部車体構造。
【請求項2】
上記クロスメンバ部材が、側面視で車両の前後方向に細長い偏平断面形状に形成されたことを特徴とする請求項1に記載の車両の後部車体構造。
【請求項3】
上記タイヤは、前下がりの傾斜状態で上記タイヤパンに支持されたことを特徴とする請求項1または2に記載の車両の後部車体構造。
【請求項4】
上記クロスメンバ部材の後部は、タイヤパンの前辺部と平面視で重なるように、その前後位置が設定されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両の後部車体構造。
【請求項5】
左右のリヤサイドフレームを連結する前方側クロスメンバが、上記クロスメンバ部材の前方側で荷室フロアパネルの上方側に突出するように設置され、かつ上記前方側クロスメンバの前端から、クロスメンバ部材の上部に配設された補機の後端までの前後長が、上記タイヤパン内に倒伏状態で設置されたタイヤの前後長よりも短く設定されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両の後部車体構造。
【請求項6】
上記動力補機の前部が前方側クロスメンバの上部に支持されたことを特徴とする請求項5に記載の車両の後部車体構造。
【請求項7】
上記動力補機の左右両側方側にリヤホイールハウスが形成されるとともに、該リヤホイールハウスの車室内側壁面には、上記前方側クロスメンバの側端部から上方に延びる前側上下メンバと、該前側上下メンバの後方に離間した位置で上記リヤサイドフレームの上部から上方に延びる後側上下メンバとが設置され、該後側上下メンバの近傍で上記クロスメンバ部材とリヤサイドフレームとが連結されたことを特徴とする請求項5または6に記載の車両の後部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−23001(P2013−23001A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157690(P2011−157690)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】