説明

車両の懸架装置

【課題】車両の前突時に、車体が大きくは変形しないようにするための車両の懸架装置を提供する。
【解決手段】車体2に枢支され、揺動端部に車輪3を支持するロアアーム18を設ける。ロアアーム18が、車体2の前後方向に延びて前、後部枢支具22,23により車体2に弾性的に枢支されるアーム基部26と、アーム基部26から車体2の外側方に向かって一体的に延出しその延出端部に車輪3を支持するアーム本体27とを備える。車輪3にその前方から衝撃力Fが与えられたとき、ロアアーム18の変形を促進する変形促進部46を形成する。後部枢支具23とアーム本体27の基部との前後方向での間におけるアーム基部26の一部分26aに変形促進部46を形成する。アーム基部26の一部分26aが車両1の平面視の幅方向で衝撃力Fにより座屈変形するよう、変形促進部46を車体2の前方に向かうに従い車体2の内側方に向かって延びるよう形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体に上下に揺動可能に枢支されて、その揺動端部に車輪を支持するロアアームを備えた車両の懸架装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記車両の懸架装置には、従来、下記特許文献1,2に示されるものがある。これら各公報のものによれば、車両の懸架装置には、車体の前後方向に延びる揺動軸心回りに上下に揺動可能となるよう車体に枢支され、その揺動端部に車輪を支持するロアアームが設けられる。このロアアームは、車体の前後方向に延びて前、後部枢支具により車体に弾性的に枢支されるアーム基部と、このアーム基部から車体の外側方に向かって一体的に延出しその延出端部に車輪を支持するアーム本体とを備えている。また、上記車輪にその前方から衝撃力が与えられたとき、この衝撃力による上記ロアアームの変形を促進する変形促進部がこのロアアームに形成されている。
【0003】
車両の走行中、その走行面から上記車輪に対し衝撃や振動が与えられるとき、上記ロアアームと車輪とが一体的に上下に揺動し、この揺動に基づき、走行面から上記車輪を介し車体側に与えられようとする衝撃や振動が吸収、緩和されて、乗り心地のよい円滑な走行が得られるようになっている。
【0004】
一方、車両が前進走行中に、その前方の何らかの物体と衝突(前突)し、上記車輪にその前方から大きい衝撃力が与えられたとする。この場合、この車輪を介して上記ロアアームにおけるアーム本体の延出端部に上記衝撃力が与えられる。すると、上記ロアアームは上記変形促進部で円滑に変形して、上記衝撃力に基づくエネルギーが吸収され、これにより、上記車輪から車体側に与えられようとする衝撃力が緩和される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−300405号公報
【特許文献2】特開2003−146040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1では、上記アーム本体の長手方向の中途部に上記変形促進部が切り欠きにより形成されている。このため、車両の前突時に、車輪に与えられる衝撃力により、上記アーム本体は上記変形促進部で円滑に屈曲変形して、前記したように衝撃力を緩和することとなる。また、この際、上記アーム本体の突出端部は、上記のように屈曲する変形促進部を中心として車輪と共に後方に回動しようとする。
【0007】
ここで、上記変形促進部からアーム本体の突出端部に至る寸法はこのアーム本体の突出寸法に比べ短いため、上記アーム本体の突出端部と車輪とは、上記変形促進部を中心とした小さい回動半径で回動し、つまり、後方に回動しつつ車体の内側方に向かって回動しがちとなる。そして、この回動が進行すると、上記車輪は、車体内部の車室を形成するダッシュパネルなどの車体の一部に対し、その外側方から衝突することとなって、この車体の一部がその車室内部に向かい大きく変形するおそれを生じ、これは車両における乗員の保護上好ましくない。
【0008】
一方、上記特許文献2では、変形促進部は、上記アーム基部とアーム本体とを長孔を通し締結具により締結することにより形成されている。しかし、これでは、懸架装置の部品点数が多くなって、その構成が複雑となり、かつ、この装置の形成作業が煩雑となるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、車両の前突時に、車輪に大きい衝撃力が与えられたとしても、これに因る車体の大きな変形が生じないようにした車両の懸架装置を提供することである。また、このような懸架装置を簡単な構成にできるようにすることである。
【0010】
請求項1の発明は、車体2の前後方向に延びる揺動軸心16回りに上下に揺動A可能となるよう車体2に枢支され、その揺動端部に車輪3を支持するロアアーム18を設け、このロアアーム18が、車体2の前後方向に延びて前、後部枢支具22,23により車体2に弾性的に枢支されるアーム基部26と、このアーム基部26から車体2の外側方に向かって一体的に延出しその延出端部に車輪3を支持するアーム本体27とを備え、上記車輪3にその前方から衝撃力Fが与えられたとき、この衝撃力Fによる上記ロアアーム18の変形を促進する変形促進部46を形成した車両の懸架装置において、
上記後部枢支具23とアーム本体27の基部との前後方向での間における上記アーム基部26の一部分26aに上記変形促進部46を形成し、かつ、上記アーム基部26の一部分26aが車両1の平面視(図1)の幅方向で上記衝撃力Fにより座屈変形するよう、上記変形促進部46を車体2の前方に向かうに従い車体2の内側方に向かって延びるよう形成したことを特徴とする車両の懸架装置である。
【0011】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号や図面番号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0012】
本発明による効果は、次の如くである。
【0013】
請求項1の発明は、車体の前後方向に延びる揺動軸心回りに上下に揺動可能となるよう車体に枢支され、その揺動端部に車輪を支持するロアアームを設け、このロアアームが、車体の前後方向に延びて前、後部枢支具により車体に弾性的に枢支されるアーム基部と、このアーム基部から車体の外側方に向かって一体的に延出しその延出端部に車輪を支持するアーム本体とを備え、上記車輪にその前方から衝撃力が与えられたとき、この衝撃力による上記ロアアームの変形を促進する変形促進部を形成した車両の懸架装置において、
上記後部枢支具とアーム本体の基部との前後方向での間における上記アーム基部の一部分に上記変形促進部を形成し、かつ、上記アーム基部の一部分が車両の平面視の幅方向で上記衝撃力により座屈変形するよう、上記変形促進部を車体の前方に向かうに従い車体の内側方に向かって延びるよう形成しており、これによれば、次の効果が生じる。
【0014】
即ち、車両の前進走行中に、車両がその前方の何らかの物体と衝突(前突)し、上記車輪にその前方から大きい衝撃力が与えられたとする。すると、この車輪を介して上記ロアアームにおけるアーム本体の延出端部に上記衝撃力が与えられる。この場合、上記ロアアームのアーム基部の後端部は上記後部枢支具によって車体に枢支されている。このため、上記衝撃力に基づき上記アーム本体には上記前部枢支具回りで後方に向かう初期曲げモーメントが与えられる。また、これと共に、上記アーム基部にも上記前部枢支具回りで車体の内側方に向かう上記初期曲げモーメントが与えられる。
【0015】
よって、上記車輪に衝撃力が与えられた「衝突初期」には、上記初期曲げモーメントにより上記後部枢支具が弾性変形し、この弾性変形分だけ、上記前部枢支具回りにアーム本体が後方に向かって回動し、かつ、アーム基部が車体の内側方に向かって回動し、これにより、上記衝撃力が緩和される。
【0016】
ここで、前記したように、アーム基部の一部分に形成されている変形促進部は、前方に向かうに従い車体の内側方に向かって延びるよう形成されている。このため、前記「衝突初期」の後段で、上記したようにアーム基部が上記前部枢支具を中心として車体の内側方に向かって回動すると、上記変形促進部は、車体の前後方向に向かって延びるよう姿勢が変化する。
【0017】
よって、上記「衝突初期」の上記衝撃力により、上記アーム基部にはその長手方向に向かう圧縮応力が生じるが、この圧縮応力に上記変形促進部がその長手方向で強固に対抗して、ロアアームの変形が防止される。
【0018】
また、車両の前突が進行して上記「衝突初期」から上記車輪に与えられる衝撃力がより大きくなる「衝突後期」になると、前記初期曲げモーメントの値が大きくなって後期曲げモーメントとなる。しかも、上記「衝突初期」の後段であって上記「衝突後期」への遷移時期には、前記したように、変形促進部は、車体の前後方向に向かって延びるよう姿勢が変化することから、この変形促進部に上記のように値が増大した後期曲げモーメントの作用方向が直交しがちとなる。
【0019】
よって、上記「衝突後期」になると、上記アーム基部の一部分には、その幅方向での圧縮応力が増大することと、上記変形促進部が形成されていることとにより、上記アーム基部の一部分はその幅方向で円滑に座屈変形し始める。この結果、このアーム基部は、円滑に大きく屈曲変形して、前記衝撃力に基づくエネルギーが効果的に吸収され、これにより、上記車輪から車体側に与えられようとする衝撃力が効果的に緩和される。この結果、車両の前突時に、上記車輪にその前方から与えられる衝撃力で、車体の一部が大きく変形することは防止される。
【0020】
また、上記の場合、ロアアームのアーム本体の延出端部は上記前部枢支具回りでの大きい回動半径で、後方に向かって回動するため、上記ロアアームのアーム本体の延出端部に支持された車輪は、ほぼ真直ぐ後方に移動しがちとなる。よって、上記車輪が、車体内部の車室を形成するダッシュパネルなど車体の一部に対し、その外側方から衝突することは抑制されることから、上記車輪に与えられる衝撃力により、車体の一部が車体内部に向かって大きく変形することは防止され、車両における乗員が、より確実に保護される。
【0021】
そして、上記車輪に与えられる衝撃力により車体の一部が大きく変形する、という不都合の発生の防止は、上記したように、ロアアームのアーム基部の一部分に変形促進部を形成して、上記アーム基部の一部分を上記衝撃力により座屈変形させることにより達成されることから、別途の補強材などを設けないで足りる。よって、その分、上記懸架装置の構成を簡単にすることができ、また、これにより、懸架装置の形成作業を容易かつ安価にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図2の部分拡大詳細図である。
【図2】車両の部分簡略平面図である。
【図3】懸架装置の正面図である。
【図4】図1のIV−IV線矢視拡大断面図である。
【図5】図1のV−V線矢視拡大断面図である。
【図6】図1のVI−VI線矢視拡大断面図である。
【図7】作用を説明する図で、図1に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の車両の懸架装置に関し、車両の前突時に、車体が大きくは変形しないようにするための車両の懸架装置を提供することであり、また、この懸架装置の構成を簡単にできるようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための形態は、次の如くである。
【0024】
即ち、車両の懸架装置には、車体の前後方向に延びる揺動軸心回りに上下に揺動可能となるよう車体に枢支され、その揺動端部に車輪を支持するロアアームが設けられる。このロアアームは、車体の前後方向に延びて前、後部枢支具により車体に弾性的に枢支されるアーム基部と、このアーム基部から車体の外側方に向かって一体的に延出しその延出端部に車輪を支持するアーム本体とを備える。上記車輪にその前方から衝撃力が与えられたとき、この衝撃力による上記ロアアームの変形を促進する変形促進部が形成される。
【0025】
上記後部枢支具とアーム本体の基部との前後方向での間における上記アーム基部の一部分に上記変形促進部が形成される。上記アーム基部の一部分が車両の平面視の幅方向で上記衝撃力により座屈変形するよう、上記変形促進部が車体の前方に向かうに従い車体の内側方に向かって延びるよう形成される。
【実施例】
【0026】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0027】
図1〜4において、符号1は、自動車で例示される車両であり、図中矢印Frは、この車両1の進行方向の前方を示している。
【0028】
上記車両1は、その内部が車室とされる車体2と、この車体2の前部に左、右前車輪3をそれぞれ懸架させる懸架装置4と、上記車体2に支持され、上記各車輪3を走行駆動可能とさせるエンジン5とを備え、車体2の前部は、上記各車輪3と懸架装置4とによって走行面上に支持される。
【0029】
上記車体2の前部は、その下部を構成する車体フレーム8と、この車体フレーム8の下側に配置されてこの車体フレーム8に強固に支持されるサブフレーム9と、車体2の上部を構成し上記車体フレーム8に支持される板金製の車体本体10とを備えている。また、この車体本体10は、その左右各側壁の下端縁部を構成してそれぞれ前後方向に延びるロッカ12と、これら各ロッカ12の前後方向の中途部を下方に向かって開くよう切り欠いて形成され、上記車輪3の上半分を収容するホイールハウス13と、この上方に位置するよう形成されるサスペンションタワー14とを備えている。この場合、上記車輪3の後方に位置するロッカ12の上記ホイールハウス13における前端面は、上記車輪3の後方近傍に位置している。
【0030】
上記車体フレーム8、サブフレーム9、ロッカ12、およびサスペンションタワー14は車体2の骨格部材を構成し、十分の強度と剛性とを有している。
【0031】
前記懸架装置4は、車体2の前後方向に延びる揺動軸心16回りに上下に揺動A可能となるようサブフレーム9の側部に枢支され、その揺動端部にステアリングナックル17を介し上記車輪3を支持するロアアーム18と、上下方向に伸縮自在とされて上記ステアリングナックル17をサスペンションタワー14に支持する油圧シリンダ式の緩衝器19とを備えている。
【0032】
上記ロアアーム18は、車体2の前後方向に延びて前、後部枢支具22,23により上記サブフレーム9に弾性的に枢支されるアーム基部26と、このアーム基部26の前部(前端部)から車体2の外側方に向かって一体的に延出するアーム本体27とを備え、このアーム本体27の延出端部に前記のようにステアリングナックル17を介し車輪3が支持されている。なお、上記アーム本体27は、上記アーム基部26の前後方向の中途部から車体2の外側方に向かって一体的に突出するものであってもよい。
【0033】
図1,3,4において、上記前部枢支具22は、前記揺動軸心16上に配置される締結具29と、上記サブフレーム9の前側部に上記揺動軸心16上で上記締結具29により前、後両端支持される支持パイプ30と、この支持パイプ30に外嵌されるゴム製の弾性ブッシュ31とを備えている。そして、上記支持パイプ30に対し上記弾性ブッシュ31を介し上記アーム基部26の前端部が弾性的に枢支される。この場合、上記弾性ブッシュ31はアーム基部26の前端部と支持パイプ30とにそれぞれ加硫接着されている。
【0034】
上記後部枢支具23は、上記揺動軸心16に直交して上下方向に延びる軸心34上に配置される締結具35と、上記サブフレーム9の後側部に上記軸心34で上記締結具35により上、下両端支持される支持パイプ36と、この支持パイプ36に外嵌されるゴム製の弾性ブッシュ37とを備えている。そして、上記支持パイプ36に対し上記弾性ブッシュ37を介し上記アーム基部26の後端部が弾性的に枢支される。この場合、上記弾性ブッシュ37はアーム基部26の後端部と支持パイプ36とにそれぞれ加硫接着されている。
【0035】
図1,4,5において、前記ロアアーム18は、厚い板金材をプレス加工により一体的に形成したものであり、このロアアーム18は、車両1の平面視(図1,2)で全体としてL字形状をなしている。上記アーム基部26は、その横断面(図5)が、倒立U字形状をなし、車体2の幅方向で互いに対面する内、外側板40,41と、これら内、外側板40,41の各上端縁部を一体的に結合する上面板42とを有している。
【0036】
上記上面板42の幅方向の中途部には、断面がU字形状とされ、深さが浅いU字形状部43が形成され、このU字形状部43は、上記上面板42の長手方向に向かって延びている。また、上記アーム本体27も、上記アーム基部26と同様の断面形状とされている。
【0037】
図1,5,6において、上記車輪3にその前方から衝撃力Fが与えられたとき、この衝撃力Fによる上記ロアアーム18の変形を促進する変形促進部46が上記ロアアーム18に屈曲形成されている。
【0038】
上記変形促進部46は、上記後部枢支具23とアーム本体27の基部(アーム基部26側の端部)との前後方向での間における上記アーム基部26の一部分26aに形成されている。具体的には、上記変形促進部46は、上記アーム基部26の後端部近傍の一部分26aにおけるU字形状部43の底板43aを山折れ形状に屈曲させることにより形成されている。また、上記アーム基部26の一部分26aが車両1の平面視(図1)の幅方向で上記衝撃力Fにより座屈変形(図5中一点鎖線)するよう、上記変形促進部46の山折れ形状の稜線は、前方に向かうに従い車体2の内側方に向かって直線的に延びるよう形成され、上記変形促進部46の稜線は前記揺動軸心16に対し傾斜させられている。
【0039】
また、上記と同様に、車輪3にその前方から衝撃力Fが与えられたとき、この衝撃力Fによる上記ロアアーム18の変形を促進する他の変形促進部47が屈曲形成されている。
【0040】
上記他の変形促進部47は、上記後部枢支具23とアーム本体27の基部との前後方向での間における上記アーム基部26の他部分26bに形成され、上記他の変形促進部47は変形促進部46の前側に位置している。つまり、上記アーム基部26の一部分26aよりも上記アーム本体27の基部近傍であって、上記アーム基部26の一部分26aよりも剛性がより大きくなりがちな他部分26bに上記他の変形促進部47が形成されている。
【0041】
より具体的には、上記他の変形促進部47は、上記アーム基部26の他部分26bにおけるU字形状部43の底板43aを谷折れ形状に屈曲させることにより形成されている。また、上記他の変形促進部47の谷折れ形状の谷底線は、車両1の平面視(図1)で、上記アーム基部26の長手方向にほぼ直交して延びるよう形成されている。
【0042】
そして、車両1の走行中、その走行面から上記車輪3に対し衝撃や振動が与えられるとき、上記ロアアーム18と車輪3とが一体的に上下に揺動し、この揺動に基づく上記緩衝器19の伸縮動作により、走行面から上記車輪3を介し車体2側に与えられようとする衝撃や振動が吸収、緩和されて、乗り心地のよい円滑な走行が得られるようになっている。
【0043】
一方、車両1の前進走行中に、車両1がその前方の何らかの物体と衝突(前突)し、上記車輪3にその前方から大きい衝撃力Fが与えられたとする。すると、この車輪3を介して上記ロアアーム18におけるアーム本体27の延出端部に上記衝撃力Fが与えられる。この場合、上記ロアアーム18のアーム基部26の後端部は上記後部枢支具23によって車体2に枢支されている。このため、上記衝撃力Fに基づき上記アーム本体27には上記前部枢支具22回りで後方に向かう初期曲げモーメントM1が与えられる。また、これと共に、上記アーム基部26にも上記前部枢支具22回りで車体2の内側方に向かう上記初期曲げモーメントM1が与えられる。
【0044】
よって、上記車輪3に衝撃力Fが与えられた「衝突初期」には、上記初期曲げモーメントM1により上記後部枢支具23の弾性ブッシュ37が弾性変形し、この弾性変形分だけ、上記前部枢支具22回りにアーム本体27が後方に向かって回動し、かつ、アーム基部26が車体2の内側方に向かって回動し(図1中一点鎖線)、これにより、上記衝撃力Fが緩和される。
【0045】
ここで、前記したように、アーム基部26の一部分26aに形成されている変形促進部46は、前方に向かうに従い車体2の内側方に向かって延びるよう形成されている。このため、図1中一点鎖線で示すように、前記「衝突初期」の後段で、上記したようにアーム基部26が上記前部枢支具22を中心として車体2の内側方に向かって回動すると、上記変形促進部46は、車体2の前後方向に向かって延びるよう姿勢が変化する。
【0046】
よって、上記「衝突初期」の上記衝撃力Fにより、上記アーム基部26にはその長手方向に向かう圧縮応力が生じるが、この圧縮応力に上記変形促進部46がその長手方向で強固に対抗して、ロアアーム18の変形が防止される。
【0047】
また、車両1の前突が進行して、上記「衝突初期」から上記車輪3に与えられる衝撃力Fがより大きくなる「衝突後期」になると、前記初期曲げモーメントM1の値が大きくなって後期曲げモーメントM2となる。しかも、上記「衝突初期」の後段であって上記「衝突後期」への遷移時期には、前記したように、変形促進部46は、車体2の前後方向に向かって延びるよう姿勢が変化することから、この変形促進部46に上記のように値が増大した後期曲げモーメントM2の作用方向が直交しがちとなる。
【0048】
よって、上記「衝突後期」になると、上記アーム基部26の一部分26aには、その幅方向での圧縮応力が増大することと、上記変形促進部46が形成されていることとにより、上記アーム基部26の一部分26aはその幅方向で円滑に座屈変形して、上記変形促進部46は、その断面視(図5中一点鎖線)で示すように、山折れ角が小さくなるよう屈曲変形し始め、これが進行する。
【0049】
この結果、上記アーム基部26は、図7中二点鎖線で示す元の状態から、図7中実線で示すように円滑に大きく屈曲変形して、前記衝撃力Fに基づくエネルギーが効果的に吸収され、これにより、上記車輪3から車体2側に与えられようとする衝撃力Fが効果的に緩和される。このため、車両1の前突時に、上記車輪3にその前方から与えられる衝撃力Fで、車体2の一部が大きく変形することは防止される。
【0050】
また、上記の場合、ロアアーム18のアーム本体27の延出端部は上記前部枢支具22回りでの大きい回動半径で、後方に向かって回動するため、上記ロアアーム18のアーム本体27の延出端部に支持された車輪3は、ほぼ真直ぐ後方に移動しがちとなる。よって、上記車輪3が、車体2内部の車室を形成するダッシュパネルなど車体2の一部に対し、その外側方から衝突することは抑制されることから、上記車輪3に与えられる衝撃力Fにより、車体2の一部が車室内部に向かって大きく変形することは防止され車両1における乗員が、より確実に保護される。
【0051】
また、上記したように車輪3が、ほぼ真直ぐ後方に移動すると、この車輪3の後方近傍に位置する前記ロッカ12の上記ホイールハウス13における前端面に、上記車輪3が衝突可能とされる(図7中一点鎖線)。
【0052】
よって、車体2の前後方向に長く延び、かつ、車体2の骨格部材とされる上記ロッカ12は、その長手方向で上記車輪3の衝突による衝撃力を強固に支持し、かつ、この衝撃力は上記ロッカ12を介し車体2の全体に分散されて支持される。つまり、上記車輪3に与えられる衝撃力Fで、車体2の一部が、その内側方における車体2内部の車室に向かって大きく変形する、という不都合の発生はより確実に防止される。
【0053】
そして、上記車輪3に与えられる衝撃力Fにより車体2の一部が大きく変形する、という不都合の発生の防止は、上記したように、ロアアーム18のアーム基部26の一部分26aに変形促進部46を形成して、上記アーム基部26の一部分26aを上記衝撃力Fにより座屈変形(図5中一点鎖線)させることにより達成されることから、別途の補強材などを設けないで足りる。よって、その分、上記懸架装置4の構成を簡単にすることができ、また、これにより、懸架装置4の形成作業を容易かつ安価にすることができる。
【0054】
一方、前記したように、アーム基部26の一部分26aよりも剛性が大きくなりがちな他部分26bに上記他の変形促進部47が形成され、かつ、この他の変形促進部47は、その谷底線がこのアーム基部26の長手方向にほぼ直交するよう屈曲形成されている。
【0055】
このため、上記したようにアーム基部26の他部分26bは剛性が大きくなりがちではあるが、車輪3にその前方から衝撃力Fが与えられたときには、上記他部分26bに形成された他の変形促進部47は、その谷折れ角が小さくなるよう円滑に座屈変形して、上記衝撃力Fを緩和する。
【0056】
ここで、前記板金製のロアアーム18は、プレス加工により形成されていて全体的に剛性を有し、その一部の剛性を意図的には低下させ難いものではある。しかし、上記したロアアーム18のアーム基部26の一部分26aに変形促進部46を屈曲形成したり、上記アーム基部26の他部分26bに他の変形促進部47を屈曲形成したりすることは、上記ロアアーム18をプレス加工により形成する際に同時に形成できる。よって、上記衝撃力Fにより、上記アーム基部26の一部分26aを座屈変形させたり、上記アーム基部26に生じる圧縮応力により上記他部分26bを座屈変形させたりする、という構成は、上記のようなプレス加工により形成されるロアアーム18についても、適用し易い、という利点がある。
【0057】
なお、以上は図示の例によるが、上記ロアアーム18のアーム本体27は、上記アーム基部26の前後方向の中途部から車体2の外側方に向かって延出するものでもよい。また、上記変形促進部46や他の変形促進部47は、車体2の平面視で谷折れ形状としてもよく、山折れ形状としてもよく、また、プレス加工により薄肉部としたり、スリットとしてもよい。また、上記他の変形促進部47は設けなくてもよい。
【0058】
また、上記衝撃力Fにより、上記前、後部枢支具22,23の上記サブフレーム9に対する締結が破断などにより解除されるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 車両
2 車体
3 車輪
4 懸架装置
8 車体フレーム
9 サブフレーム
10 車体本体
12 ロッカ
16 揺動軸心
18 ロアアーム
22 前部枢支具
23 後部枢支具
26 アーム基部
26a 一部分
26b 他部分
27 アーム本体
46 変形促進部
47 他の変形促進部
A 揺動
F 衝撃力
M1 初期曲げモーメント
M2 後期曲げモーメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の前後方向に延びる揺動軸心回りに上下に揺動可能となるよう車体に枢支され、その揺動端部に車輪を支持するロアアームを設け、このロアアームが、車体の前後方向に延びて前、後部枢支具により車体に弾性的に枢支されるアーム基部と、このアーム基部から車体の外側方に向かって一体的に延出しその延出端部に車輪を支持するアーム本体とを備え、上記車輪にその前方から衝撃力が与えられたとき、この衝撃力による上記ロアアームの変形を促進する変形促進部を形成した車両の懸架装置において、
上記後部枢支具とアーム本体の基部との前後方向での間における上記アーム基部の一部分に上記変形促進部を形成し、かつ、上記アーム基部の一部分が車両の平面視の幅方向で上記衝撃力により座屈変形するよう、上記変形促進部を車体の前方に向かうに従い車体の内側方に向かって延びるよう形成したことを特徴とする車両の懸架装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−158200(P2012−158200A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17171(P2011−17171)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】