車両の気密性評価方法
【課題】CADデータを用いて作業負荷が低く且つ未知の通気径路の通気部を可視化可能な車両の気密性評価方法を提供する。
【解決手段】評価空間内に相互に運動量による影響を与える多数の粒子を設置した流体解析モデルを作成するステップS2,S3,S4と、評価空間に運動量を付与可能な運動量付与部を作成する運動量付与部作成ステップS5と、運動量の付与条件を設定する条件設定ステップS6と、運動量付与部から運動量が付与される少なくとも一部の粒子を流体解析することにより、少なくとも一部の粒子から近傍粒子へ夫々運動量が伝達される経路を繰り返し探索して運動量伝達経路を演算する演算ステップS7と、運動量伝達経路のうち評価空間の外部へ繋がる運動量伝達経路に基づいて通気径路の隙間を表示装置に表示する表示ステップS8とを有する。
【解決手段】評価空間内に相互に運動量による影響を与える多数の粒子を設置した流体解析モデルを作成するステップS2,S3,S4と、評価空間に運動量を付与可能な運動量付与部を作成する運動量付与部作成ステップS5と、運動量の付与条件を設定する条件設定ステップS6と、運動量付与部から運動量が付与される少なくとも一部の粒子を流体解析することにより、少なくとも一部の粒子から近傍粒子へ夫々運動量が伝達される経路を繰り返し探索して運動量伝達経路を演算する演算ステップS7と、運動量伝達経路のうち評価空間の外部へ繋がる運動量伝達経路に基づいて通気径路の隙間を表示装置に表示する表示ステップS8とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の気密性評価方法に関し、特に車両部材のCADデータに基づき車両内部から外部へ繋がる通気径路の通気部を表示可能な車両の気密性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の気密性評価は、車両の一部の窓部を開放し、残りの窓部を密閉した状態において、開放した窓部から加圧空気を車室内へ注入し、密閉した窓部からの空気漏れを発煙物の煙の揺れや石鹸水の泡の発生の有無により検出し、車両のシール性を評価していた。
特許文献1に記載された車両用気密検査装置は、空気とは異なる検査用ガスを車室内に注入するガス注入手段と、窓部に設定された測定箇所を車両の外側から気密状態で覆う密封部とこの密封部の内部に存在する検査用ガスを検出可能なガス検出部とを備えたガス検出手段を有し、ガス検出部が検出した検査用ガスの濃度、又は検査用ガスの圧力変化により車内から車外へ漏洩した検査用ガスを検出している。
【0003】
特許文献1の車両用気密検査装置では、実際に車両部品の組み立てを完了した完成車両に対して複数の測定箇所を設定し、これら測定箇所における気密性評価を行っている。しかし、コンピュータの演算処理能力の進歩に伴い、車両の設計段階において、CAD(Computer Aided Design)やCAE(Computer Aided Engineering)等の解析ツールを用いて車両設計、構造解析及び性能評価等のシミュレーションが仮想的に行なわれている。このようなシミュレーション手法の1つに、流体の運動に関する方程式をコンピュータで解くCFD(Computational Fluid Dynamics)が存在している。このCFDにより連続体である流体の運動をコンピュータ上で数値解析することができる。
【0004】
一般に、CFDによる流体シミュレーションでは、評価対象空間を格子状の解析要素に分割した上で、格子の節点(ノード)に速度等の変数を付与する有限要素法、有限差分法、或いは有限体積法等の格子法による解析が用いられ、以下の手順で行われている。
(i)評価対象の形状を再現した三次元又は二次元の形状モデルを作成する。
(ii)形状モデルを複数の節点と格子線から構成された計算格子(メッシュ、又はグリツド)で表現する流体解析モデルを作成する。
(iii)計算格子毎にNavier-Stokes等の流体方程式を離散化して近似解を演算する。
(iv)流れの流速、圧力、圧力分布等の解析結果を可視化する。
これにより、連続体である流体の運動について時系列変化を可視的に解析している。
【0005】
特許文献2に記載された工場建屋内の気流シミュレーション方法は、工場建屋の形状データをメッシュ分割した三次元モデルに対して、建屋の複数の開口部位置と、これら開口部の通気流量と、発熱源と、この発熱源からの放熱量と、粉塵発生源と、この粉塵発生源からの粉塵発生量とを夫々設定し、この三次元モデルの熱流体方程式を有限体積法を用いて離散化し、絶対的粉塵濃度分布について時系列変化を予測している。
【0006】
近年、シミュレーションの分野では、対象物を粒子の集まりとして流体解析モデルを作成し、この流体解析モデルに基づき流体方程式を離散化する粒子法が知られている。この粒子法は、MPS(Moving Particle Semi-implicit)法やSPH(Smoothed Particle Hydrodynamics)法に代表され、評価対象空間の中に多数の粒子を配置し、これら多数の粒子が夫々速度等の変数を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−153803号公報
【特許文献2】特開平11−63622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の車両用気密検査装置は、実験場に完成車両を配置した後、実験スタッフが経験に基づきシール性不良の可能性がある車両部分を予め予測し、この予測された車両部分を測定箇所として気密検査を行っている。それ故、実験スタッフが予測しない車両部分は、気密検査自体行われず、シール性不良に対して何ら対策が施されない虞がある。また、検査により測定箇所である車両部分のシール性不良が検出された場合でも、完成車両に対する車体構造や部品構造等の設計変更を伴うため、車両開発期間の長期化や開発コストの増加が懸念される。
【0009】
特許文献2の気流シミュレーション方法のように、車両設計段階において、車両部材の三次元データを組み合わせて車両の形状モデルを作成し、この形状モデルから流体解析モデルを作成することも可能である。しかし、有限要素法、有限差分法、有限体積法のうち、何れの手法を用いる場合であっても、評価対象空間を複数の節点と各節点を連結する格子線とにより形成された計算格子を用いて形状モデルをメッシュ状に分割する必要があるため、適切な解析結果を得るためには最適計算格子を作成するための作業負荷が膨大になる虞がある。
【0010】
しかも、評価対象を計算格子により分割する際、解析される評価対象は外部に対して閉じられた閉空間を形成する必要があるため、評価対象に対してラッピング処理が施される。即ち、車両のシール性不良のように気密性評価を行う場合、車内空間から外部への空気の漏れ箇所を検査する目的であるにも拘わらず、評価対象である車内空間がラッピング処理により疑似的に閉空間にされるため、車内外を連通する通気径路が流体解析モデルから消滅されている。つまり、格子法を用いて気密性評価を行う場合、オペレータが流体解析モデルに空気の漏れ箇所となる開口を意図的に設定した評価空間しか通気径路を評価することができず、設計段階の形状モデルを用いてオペレータの意識しない通気径路を検出することは困難である。
【0011】
本発明の目的は、CADデータを用いて作業負荷が低く且つ未知の通気径路の通気部を可視化可能な車両の気密性評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の車両の気密性評価方法は、車両の気密性評価方法において、車両部材のCADデータを組み合わせて気密性確認の対象空間である評価空間を備えた形状モデルを作成し、この形状モデルの評価空間内に相互に運動量による影響を与える多数の粒子を設置した流体解析モデルを作成するモデル作成ステップと、前記評価空間に運動量を付与可能な運動量付与部を作成する運動量付与部作成ステップと、前記運動量の付与条件を設定する条件設定ステップと、前記運動量付与部から運動量が付与される少なくとも一部の粒子を流体解析することにより、前記少なくとも一部の粒子から近傍粒子へ夫々運動量が伝達される経路を繰り返し探索して運動量伝達経路を演算する演算ステップと、前記運動量伝達経路のうち前記評価空間の外部へ繋がる運動量伝達経路に基づいて通気径路の通気部を表示部に表示する表示ステップと、を備えたことを特徴としている。
【0013】
この車両の気密性評価方法では、流体解析モデルを車両部材のCADデータを組み合わせた形状モデルの評価空間内に相互に運動量による影響を与える多数の粒子を設置して作成しているため、演算処理の前段階において評価空間のラッピング処理や計算格子作成を省略することができる。
【0014】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記表示ステップは前記通気経路を移動する気体流量を前記表示部に表示することを特徴としている。
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、前記表示ステップは前記通気経路を可視化して前記表示部に表示することを特徴としている。
請求項4の発明は、請求項1〜3の何れか1項の発明において、前記表示ステップの後、前記通気部を備えた車両部材のCADデータを修正することを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、演算処理の前段階において評価空間のラッピング処理や計算格子作成を省略しているため、気密性評価における作業負荷を低くすることができる。
また、評価空間内に相互に運動量による影響を与える多数の粒子を設置したため、オペレータの意識しない未知の通気通路や評価対象空間に対しても、少なくとも一部の粒子から近傍粒子へ夫々運動量が伝達される運動量伝達経路を演算することができる。しかも、演算された運動量伝達経路のうち評価空間の外部へ繋がる運動量伝達経路に基づいて通気径路の通気部を表示することができる。それ故、設計段階で未知の通気径路の通気部を可視化でき、各車両部材間の隙間を認識することができる。
【0016】
請求項2の発明によれば、気体流量を表示するため、車両の防音性能やシール性能を評価することができる。
請求項3の発明によれば、評価空間の外部へ繋がる通気径路を正確に把握することができる。
請求項4の発明によれば、車両の騒音や水漏れを設計段階において改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例1に係る車両の気密性評価方法のハードウェア構成図である。
【図2】車両の気密性評価方法の機能ブロック図である。
【図3】車両の気密性評価方法の手順を示すフローチャートである。
【図4】形状モデル作成ステップの表示画面を示す図である。
【図5】評価空間作成ステップの表示画面を示す図である。
【図6】図5の仕切壁を一部省略した図である。
【図7】流体解析モデル作成ステップの表示画面を示す図である。
【図8】粒子間の運動量伝達経路を示す模式図である。
【図9】条件設定ステップの表示画面を示す図である。
【図10】評価空間を側面から視た表示画面を示す図である。
【図11】評価空間を側面から視た別の表示画面を示す図である。
【図12】評価空間を斜め後方から視た表示画面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0019】
以下、本発明の実施例1について図1〜図12に基づいて説明する。
図1,図2に示すように、本実施例の車両の気密性評価方法は、コンピュータ本体1と、キーボード2やマウス3等の入力装置と、液晶表示(LCD)パネル等の表示装置4(表示部)と、ハードティスク(HDD)等の補助記憶装置5と、サイドドアやフレーム等の各種車両部材の3次元CADデータ(以下、CADデータという)を格納した記憶装置6等のハードウェアにより実現される。コンピュータ本体1には、周辺装置2〜6が電気的に接続されている。
【0020】
図2に示すように、コンピュータ本体1は、演算処理を実行するCPUと、後述する処理ステップを実行するためのプログラムを格納するROMと、各種データを一時保持するワークエリアとしてのRAMと、周辺装置2〜6との間でデータの授受を実行するI/O回路を備えている。コンピュータ本体1は、オペレータの操作入力により収集されたCADデータをRAM内に書き込み、各処理ステップを実行している。コンピュータ本体1にプリンタを接続することで、CADデータや評価結果をプリント出力することができる。
【0021】
図3のフローチャート及び図4〜12に基づき、本評価方法の処理手順を説明する。
まず、評価対象を構成する車両部材のCADデータを収集する(S1)。
複数の車両部材のCADデータは、CADソフトを利用して作成されている。これらのCADデータは、オペレータにより記憶装置6から入力装置2,3及び表示装置4を介して収集され、補助記憶装置5に記憶される。コンピュータ本体1は、オペレータの操作入力により収集された車両部材のCADデータをRAM内に書き込む。
【0022】
次に、収集されたCADデータを組み合わせて形状モデル10を作成する(S2)。
図4に示すように、オペレータは、表示装置4の表示画面を参照しながら、収集されたCADデータを相互に組み合わせて車両前部やサイドドア等の評価対象空間を備えた形状モデル10を作成する。本実施例では、複数の車両部材により形成された車両の左側前部を評価空間11とした気密性評価の例を説明するため、評価対象空間として評価空間11が含まれる形状モデル10を作成している。
【0023】
形状モデル10を作成した後、評価空間11を含む形状モデル10からシミュレーションを実行するシミュレーション空間12を作成する(S3)。
図5,図6に示すように、形状モデル10を上下左右前後に形成された6面の仮想仕切壁13〜18にて仕切り、立方体状のシミュレーション空間12を形成している。このシミュレーション空間12は、評価空間11をその内部に含み且つ仕切壁13〜18の外側から遮断された閉空間を形成している。これにより、演算時間の短縮化を図り、作業負荷を低減している。
【0024】
次に、図7に示すように、シミュレーション空間12の内部に多数、例えば200万〜500万個の仮想の粒子Pを設置した流体解析モデル20を作成する(S4)。本実施例の流体解析モデル20では、流体に関する力学を粒子Pの運動に離散化する粒子法を用いてシミュレーション空間12内の空気をラッピング処理を行うことなくモデル化している。尚、S2,S3,S4が、本発明のモデル作成ステップに相当している。
【0025】
ここで、図8に基づき、本発明の探索メカニズムについて基本的な考え方を説明する。
粒子法では、空間の中に座標が変化する、所謂空間内に多数の仮想粒子を配置し、これら粒子に速度等の変数を配列として確保している。
図8に示すように、所定粒子、例えば粒子P1に対して流体の離散化支配方程式を解くことで、影響半径re内に存在する近傍粒子、例えば近傍粒子P2,P3等に対しこれら粒子間に運動量伝達の関係式を作成している。
つまり、粒子P1では、影響半径reの空間内に存在する粒子P2,P3等が影響を受ける近傍粒子とされ、影響半径reよりも離隔した粒子P4は影響を受けない粒子とされる。それ故、粒子P1の運動量は、近傍粒子影響判定の結果、検出された近傍粒子P2,P3等に伝達される。尚、図において、L1〜Ln,K1〜Kmは粒子間の影響が伝達される径路を示している。
【0026】
粒子P1の影響を受けた粒子P2では、影響半径reの空間内に存在する粒子P5,P6等が影響を受ける近傍粒子とされ、影響半径reよりも離隔した粒子P7は影響を受けない粒子とされる。粒子P2の運動量は、近傍粒子影響判定の結果、検出された近傍粒子P5,P6等に伝達される。粒子P1の近傍粒子である粒子P2以外の粒子P3等についても、同様の近傍粒子影響判定を行う。粒子P2の影響を受けた粒子P5では、影響半径reの空間内に存在する粒子P8等が粒子P5からの影響を受ける近傍粒子である。粒子P5の運動量は、近傍粒子影響判定の結果、検出された近傍粒子P8等に伝達される。粒子P2の近傍粒子である粒子P5以外の粒子P6等についても、同様の近傍粒子影響判定を行う。
以上の近傍粒子影響判定を、全ての粒子に対して微小時間毎に行っている。尚、影響半径reは、粒子間において相互に運動量が伝達可能であり、コンピュータ本体1により安定して計算できる値を予め設定している。尚、ここで、各粒子Pが評価空間を移動する粒子法によるモデル化の例を説明したが、評価空間内に設置される粒子Pの座標を用いることなく離散式を作成可能なモデル化手法であれば何れの手法でも適用可能である。
【0027】
流体力学の支配方程式(偏微分方程式)の離散化手法は、公知のMPS法により提案されているように、粒子と近傍粒子との間に差分を形成し、次式(1),(2)に示す重み関数fと重み平均を用いて所定の粒子位置の勾配演算子の粒子間相互作用モデルを作成し、この粒子間相互作用モデルから空間微分の離散式を形成することができる。
0≦r<reのとき、
f(r)=re/r−1 …(1)
re≦rのとき、
f(r)=0 …(2)
ここで、rは粒子間距離、reは探索半径である。
また、SPH法により提案されているように、Kernel関数に粒子の変数を掛けることにより、空間微分の離散式を作成しても良い。
【0028】
流体解析モデル20の作成後、シミュレーション空間12内に設置された一部の粒子Pに運動量Mを付与する運動量付与部19をシミュレーション空間12内に作成し(S5)、シミュレーション空間12内の粒子Pへ運動量Mを付与する条件を設定する(S6)。
オペレータは、付与される運動量Mについて、以下の条件を設定入力する。
(1)運動量Mを付与する部分(領域)
(2)運動量Mの大きさ
(3)運動量Mの方向(流入方向、又は流出方向)
(4)運動量Mの付与時間
図9に示すように、本実施例では、シミュレーション空間12を形成する後仕切壁18を運動量付与部19に利用し、後仕切壁18から後仕切壁18と対向する部分に存在する一部の粒子Pに対して所定運動量を付与している。この運動量Mは、粒子Pを車両前側へ押す方向、所謂流入方向に評価終了時期まで与えられている。これにより、運動量付与部19をシミュレーション空間12内に作成する工程を省略でき、作業負荷を低減することができる。
【0029】
次に、演算により流体解析処理を行う(S7)。
S7では、流体解析モデル20に存在する全ての粒子Pについて、運動量付与後の座標を演算している。微小時間経過後の粒子Pの座標は、近傍粒子影響判定機能を用いて所定の粒子Pから運動量Mの影響を受ける近傍粒子を探索し、流体の運動量保存則から微小時間経過後の速度を算出し、初期座標と微小時間と微小時間経過後の速度から演算している。
【0030】
図8に示すように、S7では、運動量Mが付与される粒子P1から近傍粒子へ夫々運動量Mが伝達される各径路L1〜Ln,K1〜Kmについて繰り返し探索し、評価空間11の外部との境界に位置する又は近傍粒子が存在しない所定の粒子Pn,Pmまで径路L1〜Ln,K1〜Kmを演算している。更に、粒子P1から所定の粒子Pn,Pmに亙って、各径路L1〜Ln,K1〜Kmが一連に連なる運動量伝達経路L,Kを算出している。S7では、運動量Mが付与される一部の粒子Pの全てについて運動量伝達経路L,Kを演算している。これにより、運動量Mが付与される一部の粒子Pは微小時間経過後の座標と速度が算出され、これら粒子Pについて運動量伝達経路L,K、即ち空気の流れる径路を検出することができる。
【0031】
各粒子Pの微小時間毎の座標と速度と、及び各粒子Pの運動量伝達経路L,Kにより、各粒子Pの進行方向と速度に関する流速ベクトルVを計算している。各粒子Pに対応した流速ベクトルVは、形状モデル10における各粒子Pの座標に割り付けられ、これら流速ベクトルVの方向は、各粒子Pの流れの方向を表している。
【0032】
S8では、演算による解析結果を表示装置4に表示している。
図10に示すように、S8では、空気の流れを画面上に表示するため、S7で求めた各粒子Pに対応する流速ベクトルVを形状モデル10上に表示している。更に、表示装置4では、運動量伝達経路L,Kに基づく流速ベクトルVの流速又は流速分布が大きな部分を赤色、流速又は流速分布が中間となる部分を黄色、流速又は流速分布が小さい部分を青色に色分けして色別表示している。これにより、流速ベクトルVの流速又は流速分布が大きな部分、所謂車両部材或いは車両部材間に隙間21,22(通気部)が形成されている部分を赤色表示することができ、オペレータが画面上で車両部材の隙間を視認することができる。
【0033】
表示装置4は、隙間21,22に連なる運動量伝達経路L,Kに沿って移動する空気流量を表示可能に形成されている。シミュレーション空間12に設置された粒子Pの数が予め規定され、微小時間毎に各粒子Pの座標と速度とが演算されているため、単位時間毎に隙間21と隙間22を夫々通過する空気流量を算出することができ、隙間21,22毎に流出する空気流量を画面上に表示できる。(図11参照)
【0034】
表示装置4は、オペレータの操作により表示パターンを切替え可能に構成されている。
図11に示すように、表示装置4は、表示画面上から速度ベクトルVを消去し、形状モデル10と流速ベクトルVの流速又は流速分布を表示可能に形成されている。また、図12に示すように、表示装置4は、オペレータが隙間21,22の位置を視認困難であるとき、評価空間11を画面上で三次元的に回転可能に形成されている。また、表示装置4は、隙間21,22に連なる通気径路に相当する運動量伝達経路L,Kのみを抽出して表示することができる。これにより、オペレータによる隙間21,22の視認能率を高くすることができる。
【0035】
オペレータによる隙間21,22の視認後、オペレータは隙間21,22を塞ぐ必要があるか否か判定している(S9)。
S9の判定の結果、隙間21,22を塞ぐ必要がない場合、評価空間11に対する気密性評価を終了し、隙間21,22を塞ぐ必要がある場合、S10へ移行し、修正ステップを行う。
【0036】
S10では、隙間21が存在するフロントフロアのCADデータの設計変更や、隙間21を塞ぐシール部材の新規追加を行う。また、隙間22のように、通気径路が複数の車両部材間に跨って連なるような複雑形状の場合、隙間22が存在するフロントピラーのCADデータの設計変更や、隙間22を塞ぐシール部材の新規追加を行う他に、通気径路の途中部を形成するフロントピラー以外の車両部材に対して空気の流れを遮断可能な節部材を追加する設計変更を行うことができる。S10にて、車両部材のCADデータの設計変更を行った後、S2へ移行し、設計変更後の新たな形状モデル10を作成し、再度評価を行う。
【0037】
次に、車両の気密性評価方法の作用、効果について説明する。
この車両の気密性評価方法では、流体解析モデル20を車両部材のCADデータを組み合わせた形状モデル10の評価空間に相当する評価空間11内に相互に運動量による影響を与える多数の粒子Pを設置して作成しているため、演算処理の前段階において評価空間11のラッピング処理や計算格子作成を省略することができ、気密性評価における作業負荷を低くすることができる。
【0038】
また、評価空間11内に相互に運動量による影響を与える多数の粒子Pを設置したため、各粒子Pが格子法の節点のように相互の位置関係が固定されることなく、少なくとも一部の粒子Pから近傍粒子へ夫々運動量Mが伝達される運動量伝達経路L,Kを演算することができる。しかも、演算された運動量伝達経路L,Kのうち評価空間11の外部へ繋がる運動量伝達経路L,Kに基づいて通気径路の通気部21,22を表示することができる。それ故、設計段階で未知の通気径路の通気部を可視化でき、各車両部材間の隙間21,22を認識することができる。
【0039】
表示ステップS8は、通気経路を移動する気体流量を表示装置4に表示するため、車両の防音性能やシール性能を評価することができる。
表示ステップS8は、通気経路を可視化して表示装置4に表示するため、評価空間11の隙間21,22から外部へ繋がる通気径路を正確に把握することができる。
表示ステップS8の後、隙間21,22を備えた車両部材のCADデータを修正するため、車両の騒音や水漏れを設計段階において改善することができる。
【0040】
次に、前記実施例を部分的に変更した変形例について説明する。
1〕前記実施例においては、車両全体の形状モデルを作成した例を説明したが、少なくとも形状モデルに評価対象空間である評価空間が含まれれば良く、例えば、評価空間がサイドドアの場合、サイドドアを形成する部材のCADデータを相互に組み合わせてサイドドアの形状モデルを作成することができる。
【0041】
2〕前記実施例においては、運動量付与部を後仕切壁と兼用した例を説明したが、仕切壁とは別に運動量付与部を形成することも可能である。この場合、シミュレーション空間の境界部分に運動量付与部を設定しても良い。また、運動量を運動量付与部から評価空間内へ流入させる例を説明したが、運動量を評価空間内から運動量付与部へ流出させることにより、同様の効果を奏することができる。
【0042】
3〕前記実施例においては、各粒子が評価空間を移動可能な粒子法を用いた流体解析モデルの例を説明したが、少なくとも粒子に付与された運動量が粒子間を相互に伝達可能であれば良く、例えばボクセル法を用いた流体解析モデルを適用可能である。ボクセル法を用いる場合、評価空間を複数のボクセル(直交格子)により分割し、各分割空間のうち部材に占有されない空間の任意の1点、例えば分割空間の重心に粒子を設置した流体解析モデルを用いても良い。
【0043】
4〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、車両部材のCADデータに基づき通気径路を表示可能な車両の気密性評価方法に関し、評価空間内に相互に運動量による影響を与える多数の粒子を設置した流体解析モデルを作成し、一部の粒子から近傍粒子へ夫々運動量が伝達される経路を繰り返し探索して運動量伝達経路を演算することにより、未知の通気径路を可視化することができる。
【符号の説明】
【0045】
4 表示装置
10 形状モデル
11 評価空間
12 シミュレーション空間
19 運動量付与部
20 流体解析モデル
21,22 隙間
P,P1〜P8 粒子
Pn,Pm
M 運動量
L,K 運動量伝達経路
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の気密性評価方法に関し、特に車両部材のCADデータに基づき車両内部から外部へ繋がる通気径路の通気部を表示可能な車両の気密性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の気密性評価は、車両の一部の窓部を開放し、残りの窓部を密閉した状態において、開放した窓部から加圧空気を車室内へ注入し、密閉した窓部からの空気漏れを発煙物の煙の揺れや石鹸水の泡の発生の有無により検出し、車両のシール性を評価していた。
特許文献1に記載された車両用気密検査装置は、空気とは異なる検査用ガスを車室内に注入するガス注入手段と、窓部に設定された測定箇所を車両の外側から気密状態で覆う密封部とこの密封部の内部に存在する検査用ガスを検出可能なガス検出部とを備えたガス検出手段を有し、ガス検出部が検出した検査用ガスの濃度、又は検査用ガスの圧力変化により車内から車外へ漏洩した検査用ガスを検出している。
【0003】
特許文献1の車両用気密検査装置では、実際に車両部品の組み立てを完了した完成車両に対して複数の測定箇所を設定し、これら測定箇所における気密性評価を行っている。しかし、コンピュータの演算処理能力の進歩に伴い、車両の設計段階において、CAD(Computer Aided Design)やCAE(Computer Aided Engineering)等の解析ツールを用いて車両設計、構造解析及び性能評価等のシミュレーションが仮想的に行なわれている。このようなシミュレーション手法の1つに、流体の運動に関する方程式をコンピュータで解くCFD(Computational Fluid Dynamics)が存在している。このCFDにより連続体である流体の運動をコンピュータ上で数値解析することができる。
【0004】
一般に、CFDによる流体シミュレーションでは、評価対象空間を格子状の解析要素に分割した上で、格子の節点(ノード)に速度等の変数を付与する有限要素法、有限差分法、或いは有限体積法等の格子法による解析が用いられ、以下の手順で行われている。
(i)評価対象の形状を再現した三次元又は二次元の形状モデルを作成する。
(ii)形状モデルを複数の節点と格子線から構成された計算格子(メッシュ、又はグリツド)で表現する流体解析モデルを作成する。
(iii)計算格子毎にNavier-Stokes等の流体方程式を離散化して近似解を演算する。
(iv)流れの流速、圧力、圧力分布等の解析結果を可視化する。
これにより、連続体である流体の運動について時系列変化を可視的に解析している。
【0005】
特許文献2に記載された工場建屋内の気流シミュレーション方法は、工場建屋の形状データをメッシュ分割した三次元モデルに対して、建屋の複数の開口部位置と、これら開口部の通気流量と、発熱源と、この発熱源からの放熱量と、粉塵発生源と、この粉塵発生源からの粉塵発生量とを夫々設定し、この三次元モデルの熱流体方程式を有限体積法を用いて離散化し、絶対的粉塵濃度分布について時系列変化を予測している。
【0006】
近年、シミュレーションの分野では、対象物を粒子の集まりとして流体解析モデルを作成し、この流体解析モデルに基づき流体方程式を離散化する粒子法が知られている。この粒子法は、MPS(Moving Particle Semi-implicit)法やSPH(Smoothed Particle Hydrodynamics)法に代表され、評価対象空間の中に多数の粒子を配置し、これら多数の粒子が夫々速度等の変数を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−153803号公報
【特許文献2】特開平11−63622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の車両用気密検査装置は、実験場に完成車両を配置した後、実験スタッフが経験に基づきシール性不良の可能性がある車両部分を予め予測し、この予測された車両部分を測定箇所として気密検査を行っている。それ故、実験スタッフが予測しない車両部分は、気密検査自体行われず、シール性不良に対して何ら対策が施されない虞がある。また、検査により測定箇所である車両部分のシール性不良が検出された場合でも、完成車両に対する車体構造や部品構造等の設計変更を伴うため、車両開発期間の長期化や開発コストの増加が懸念される。
【0009】
特許文献2の気流シミュレーション方法のように、車両設計段階において、車両部材の三次元データを組み合わせて車両の形状モデルを作成し、この形状モデルから流体解析モデルを作成することも可能である。しかし、有限要素法、有限差分法、有限体積法のうち、何れの手法を用いる場合であっても、評価対象空間を複数の節点と各節点を連結する格子線とにより形成された計算格子を用いて形状モデルをメッシュ状に分割する必要があるため、適切な解析結果を得るためには最適計算格子を作成するための作業負荷が膨大になる虞がある。
【0010】
しかも、評価対象を計算格子により分割する際、解析される評価対象は外部に対して閉じられた閉空間を形成する必要があるため、評価対象に対してラッピング処理が施される。即ち、車両のシール性不良のように気密性評価を行う場合、車内空間から外部への空気の漏れ箇所を検査する目的であるにも拘わらず、評価対象である車内空間がラッピング処理により疑似的に閉空間にされるため、車内外を連通する通気径路が流体解析モデルから消滅されている。つまり、格子法を用いて気密性評価を行う場合、オペレータが流体解析モデルに空気の漏れ箇所となる開口を意図的に設定した評価空間しか通気径路を評価することができず、設計段階の形状モデルを用いてオペレータの意識しない通気径路を検出することは困難である。
【0011】
本発明の目的は、CADデータを用いて作業負荷が低く且つ未知の通気径路の通気部を可視化可能な車両の気密性評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の車両の気密性評価方法は、車両の気密性評価方法において、車両部材のCADデータを組み合わせて気密性確認の対象空間である評価空間を備えた形状モデルを作成し、この形状モデルの評価空間内に相互に運動量による影響を与える多数の粒子を設置した流体解析モデルを作成するモデル作成ステップと、前記評価空間に運動量を付与可能な運動量付与部を作成する運動量付与部作成ステップと、前記運動量の付与条件を設定する条件設定ステップと、前記運動量付与部から運動量が付与される少なくとも一部の粒子を流体解析することにより、前記少なくとも一部の粒子から近傍粒子へ夫々運動量が伝達される経路を繰り返し探索して運動量伝達経路を演算する演算ステップと、前記運動量伝達経路のうち前記評価空間の外部へ繋がる運動量伝達経路に基づいて通気径路の通気部を表示部に表示する表示ステップと、を備えたことを特徴としている。
【0013】
この車両の気密性評価方法では、流体解析モデルを車両部材のCADデータを組み合わせた形状モデルの評価空間内に相互に運動量による影響を与える多数の粒子を設置して作成しているため、演算処理の前段階において評価空間のラッピング処理や計算格子作成を省略することができる。
【0014】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記表示ステップは前記通気経路を移動する気体流量を前記表示部に表示することを特徴としている。
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、前記表示ステップは前記通気経路を可視化して前記表示部に表示することを特徴としている。
請求項4の発明は、請求項1〜3の何れか1項の発明において、前記表示ステップの後、前記通気部を備えた車両部材のCADデータを修正することを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、演算処理の前段階において評価空間のラッピング処理や計算格子作成を省略しているため、気密性評価における作業負荷を低くすることができる。
また、評価空間内に相互に運動量による影響を与える多数の粒子を設置したため、オペレータの意識しない未知の通気通路や評価対象空間に対しても、少なくとも一部の粒子から近傍粒子へ夫々運動量が伝達される運動量伝達経路を演算することができる。しかも、演算された運動量伝達経路のうち評価空間の外部へ繋がる運動量伝達経路に基づいて通気径路の通気部を表示することができる。それ故、設計段階で未知の通気径路の通気部を可視化でき、各車両部材間の隙間を認識することができる。
【0016】
請求項2の発明によれば、気体流量を表示するため、車両の防音性能やシール性能を評価することができる。
請求項3の発明によれば、評価空間の外部へ繋がる通気径路を正確に把握することができる。
請求項4の発明によれば、車両の騒音や水漏れを設計段階において改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例1に係る車両の気密性評価方法のハードウェア構成図である。
【図2】車両の気密性評価方法の機能ブロック図である。
【図3】車両の気密性評価方法の手順を示すフローチャートである。
【図4】形状モデル作成ステップの表示画面を示す図である。
【図5】評価空間作成ステップの表示画面を示す図である。
【図6】図5の仕切壁を一部省略した図である。
【図7】流体解析モデル作成ステップの表示画面を示す図である。
【図8】粒子間の運動量伝達経路を示す模式図である。
【図9】条件設定ステップの表示画面を示す図である。
【図10】評価空間を側面から視た表示画面を示す図である。
【図11】評価空間を側面から視た別の表示画面を示す図である。
【図12】評価空間を斜め後方から視た表示画面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0019】
以下、本発明の実施例1について図1〜図12に基づいて説明する。
図1,図2に示すように、本実施例の車両の気密性評価方法は、コンピュータ本体1と、キーボード2やマウス3等の入力装置と、液晶表示(LCD)パネル等の表示装置4(表示部)と、ハードティスク(HDD)等の補助記憶装置5と、サイドドアやフレーム等の各種車両部材の3次元CADデータ(以下、CADデータという)を格納した記憶装置6等のハードウェアにより実現される。コンピュータ本体1には、周辺装置2〜6が電気的に接続されている。
【0020】
図2に示すように、コンピュータ本体1は、演算処理を実行するCPUと、後述する処理ステップを実行するためのプログラムを格納するROMと、各種データを一時保持するワークエリアとしてのRAMと、周辺装置2〜6との間でデータの授受を実行するI/O回路を備えている。コンピュータ本体1は、オペレータの操作入力により収集されたCADデータをRAM内に書き込み、各処理ステップを実行している。コンピュータ本体1にプリンタを接続することで、CADデータや評価結果をプリント出力することができる。
【0021】
図3のフローチャート及び図4〜12に基づき、本評価方法の処理手順を説明する。
まず、評価対象を構成する車両部材のCADデータを収集する(S1)。
複数の車両部材のCADデータは、CADソフトを利用して作成されている。これらのCADデータは、オペレータにより記憶装置6から入力装置2,3及び表示装置4を介して収集され、補助記憶装置5に記憶される。コンピュータ本体1は、オペレータの操作入力により収集された車両部材のCADデータをRAM内に書き込む。
【0022】
次に、収集されたCADデータを組み合わせて形状モデル10を作成する(S2)。
図4に示すように、オペレータは、表示装置4の表示画面を参照しながら、収集されたCADデータを相互に組み合わせて車両前部やサイドドア等の評価対象空間を備えた形状モデル10を作成する。本実施例では、複数の車両部材により形成された車両の左側前部を評価空間11とした気密性評価の例を説明するため、評価対象空間として評価空間11が含まれる形状モデル10を作成している。
【0023】
形状モデル10を作成した後、評価空間11を含む形状モデル10からシミュレーションを実行するシミュレーション空間12を作成する(S3)。
図5,図6に示すように、形状モデル10を上下左右前後に形成された6面の仮想仕切壁13〜18にて仕切り、立方体状のシミュレーション空間12を形成している。このシミュレーション空間12は、評価空間11をその内部に含み且つ仕切壁13〜18の外側から遮断された閉空間を形成している。これにより、演算時間の短縮化を図り、作業負荷を低減している。
【0024】
次に、図7に示すように、シミュレーション空間12の内部に多数、例えば200万〜500万個の仮想の粒子Pを設置した流体解析モデル20を作成する(S4)。本実施例の流体解析モデル20では、流体に関する力学を粒子Pの運動に離散化する粒子法を用いてシミュレーション空間12内の空気をラッピング処理を行うことなくモデル化している。尚、S2,S3,S4が、本発明のモデル作成ステップに相当している。
【0025】
ここで、図8に基づき、本発明の探索メカニズムについて基本的な考え方を説明する。
粒子法では、空間の中に座標が変化する、所謂空間内に多数の仮想粒子を配置し、これら粒子に速度等の変数を配列として確保している。
図8に示すように、所定粒子、例えば粒子P1に対して流体の離散化支配方程式を解くことで、影響半径re内に存在する近傍粒子、例えば近傍粒子P2,P3等に対しこれら粒子間に運動量伝達の関係式を作成している。
つまり、粒子P1では、影響半径reの空間内に存在する粒子P2,P3等が影響を受ける近傍粒子とされ、影響半径reよりも離隔した粒子P4は影響を受けない粒子とされる。それ故、粒子P1の運動量は、近傍粒子影響判定の結果、検出された近傍粒子P2,P3等に伝達される。尚、図において、L1〜Ln,K1〜Kmは粒子間の影響が伝達される径路を示している。
【0026】
粒子P1の影響を受けた粒子P2では、影響半径reの空間内に存在する粒子P5,P6等が影響を受ける近傍粒子とされ、影響半径reよりも離隔した粒子P7は影響を受けない粒子とされる。粒子P2の運動量は、近傍粒子影響判定の結果、検出された近傍粒子P5,P6等に伝達される。粒子P1の近傍粒子である粒子P2以外の粒子P3等についても、同様の近傍粒子影響判定を行う。粒子P2の影響を受けた粒子P5では、影響半径reの空間内に存在する粒子P8等が粒子P5からの影響を受ける近傍粒子である。粒子P5の運動量は、近傍粒子影響判定の結果、検出された近傍粒子P8等に伝達される。粒子P2の近傍粒子である粒子P5以外の粒子P6等についても、同様の近傍粒子影響判定を行う。
以上の近傍粒子影響判定を、全ての粒子に対して微小時間毎に行っている。尚、影響半径reは、粒子間において相互に運動量が伝達可能であり、コンピュータ本体1により安定して計算できる値を予め設定している。尚、ここで、各粒子Pが評価空間を移動する粒子法によるモデル化の例を説明したが、評価空間内に設置される粒子Pの座標を用いることなく離散式を作成可能なモデル化手法であれば何れの手法でも適用可能である。
【0027】
流体力学の支配方程式(偏微分方程式)の離散化手法は、公知のMPS法により提案されているように、粒子と近傍粒子との間に差分を形成し、次式(1),(2)に示す重み関数fと重み平均を用いて所定の粒子位置の勾配演算子の粒子間相互作用モデルを作成し、この粒子間相互作用モデルから空間微分の離散式を形成することができる。
0≦r<reのとき、
f(r)=re/r−1 …(1)
re≦rのとき、
f(r)=0 …(2)
ここで、rは粒子間距離、reは探索半径である。
また、SPH法により提案されているように、Kernel関数に粒子の変数を掛けることにより、空間微分の離散式を作成しても良い。
【0028】
流体解析モデル20の作成後、シミュレーション空間12内に設置された一部の粒子Pに運動量Mを付与する運動量付与部19をシミュレーション空間12内に作成し(S5)、シミュレーション空間12内の粒子Pへ運動量Mを付与する条件を設定する(S6)。
オペレータは、付与される運動量Mについて、以下の条件を設定入力する。
(1)運動量Mを付与する部分(領域)
(2)運動量Mの大きさ
(3)運動量Mの方向(流入方向、又は流出方向)
(4)運動量Mの付与時間
図9に示すように、本実施例では、シミュレーション空間12を形成する後仕切壁18を運動量付与部19に利用し、後仕切壁18から後仕切壁18と対向する部分に存在する一部の粒子Pに対して所定運動量を付与している。この運動量Mは、粒子Pを車両前側へ押す方向、所謂流入方向に評価終了時期まで与えられている。これにより、運動量付与部19をシミュレーション空間12内に作成する工程を省略でき、作業負荷を低減することができる。
【0029】
次に、演算により流体解析処理を行う(S7)。
S7では、流体解析モデル20に存在する全ての粒子Pについて、運動量付与後の座標を演算している。微小時間経過後の粒子Pの座標は、近傍粒子影響判定機能を用いて所定の粒子Pから運動量Mの影響を受ける近傍粒子を探索し、流体の運動量保存則から微小時間経過後の速度を算出し、初期座標と微小時間と微小時間経過後の速度から演算している。
【0030】
図8に示すように、S7では、運動量Mが付与される粒子P1から近傍粒子へ夫々運動量Mが伝達される各径路L1〜Ln,K1〜Kmについて繰り返し探索し、評価空間11の外部との境界に位置する又は近傍粒子が存在しない所定の粒子Pn,Pmまで径路L1〜Ln,K1〜Kmを演算している。更に、粒子P1から所定の粒子Pn,Pmに亙って、各径路L1〜Ln,K1〜Kmが一連に連なる運動量伝達経路L,Kを算出している。S7では、運動量Mが付与される一部の粒子Pの全てについて運動量伝達経路L,Kを演算している。これにより、運動量Mが付与される一部の粒子Pは微小時間経過後の座標と速度が算出され、これら粒子Pについて運動量伝達経路L,K、即ち空気の流れる径路を検出することができる。
【0031】
各粒子Pの微小時間毎の座標と速度と、及び各粒子Pの運動量伝達経路L,Kにより、各粒子Pの進行方向と速度に関する流速ベクトルVを計算している。各粒子Pに対応した流速ベクトルVは、形状モデル10における各粒子Pの座標に割り付けられ、これら流速ベクトルVの方向は、各粒子Pの流れの方向を表している。
【0032】
S8では、演算による解析結果を表示装置4に表示している。
図10に示すように、S8では、空気の流れを画面上に表示するため、S7で求めた各粒子Pに対応する流速ベクトルVを形状モデル10上に表示している。更に、表示装置4では、運動量伝達経路L,Kに基づく流速ベクトルVの流速又は流速分布が大きな部分を赤色、流速又は流速分布が中間となる部分を黄色、流速又は流速分布が小さい部分を青色に色分けして色別表示している。これにより、流速ベクトルVの流速又は流速分布が大きな部分、所謂車両部材或いは車両部材間に隙間21,22(通気部)が形成されている部分を赤色表示することができ、オペレータが画面上で車両部材の隙間を視認することができる。
【0033】
表示装置4は、隙間21,22に連なる運動量伝達経路L,Kに沿って移動する空気流量を表示可能に形成されている。シミュレーション空間12に設置された粒子Pの数が予め規定され、微小時間毎に各粒子Pの座標と速度とが演算されているため、単位時間毎に隙間21と隙間22を夫々通過する空気流量を算出することができ、隙間21,22毎に流出する空気流量を画面上に表示できる。(図11参照)
【0034】
表示装置4は、オペレータの操作により表示パターンを切替え可能に構成されている。
図11に示すように、表示装置4は、表示画面上から速度ベクトルVを消去し、形状モデル10と流速ベクトルVの流速又は流速分布を表示可能に形成されている。また、図12に示すように、表示装置4は、オペレータが隙間21,22の位置を視認困難であるとき、評価空間11を画面上で三次元的に回転可能に形成されている。また、表示装置4は、隙間21,22に連なる通気径路に相当する運動量伝達経路L,Kのみを抽出して表示することができる。これにより、オペレータによる隙間21,22の視認能率を高くすることができる。
【0035】
オペレータによる隙間21,22の視認後、オペレータは隙間21,22を塞ぐ必要があるか否か判定している(S9)。
S9の判定の結果、隙間21,22を塞ぐ必要がない場合、評価空間11に対する気密性評価を終了し、隙間21,22を塞ぐ必要がある場合、S10へ移行し、修正ステップを行う。
【0036】
S10では、隙間21が存在するフロントフロアのCADデータの設計変更や、隙間21を塞ぐシール部材の新規追加を行う。また、隙間22のように、通気径路が複数の車両部材間に跨って連なるような複雑形状の場合、隙間22が存在するフロントピラーのCADデータの設計変更や、隙間22を塞ぐシール部材の新規追加を行う他に、通気径路の途中部を形成するフロントピラー以外の車両部材に対して空気の流れを遮断可能な節部材を追加する設計変更を行うことができる。S10にて、車両部材のCADデータの設計変更を行った後、S2へ移行し、設計変更後の新たな形状モデル10を作成し、再度評価を行う。
【0037】
次に、車両の気密性評価方法の作用、効果について説明する。
この車両の気密性評価方法では、流体解析モデル20を車両部材のCADデータを組み合わせた形状モデル10の評価空間に相当する評価空間11内に相互に運動量による影響を与える多数の粒子Pを設置して作成しているため、演算処理の前段階において評価空間11のラッピング処理や計算格子作成を省略することができ、気密性評価における作業負荷を低くすることができる。
【0038】
また、評価空間11内に相互に運動量による影響を与える多数の粒子Pを設置したため、各粒子Pが格子法の節点のように相互の位置関係が固定されることなく、少なくとも一部の粒子Pから近傍粒子へ夫々運動量Mが伝達される運動量伝達経路L,Kを演算することができる。しかも、演算された運動量伝達経路L,Kのうち評価空間11の外部へ繋がる運動量伝達経路L,Kに基づいて通気径路の通気部21,22を表示することができる。それ故、設計段階で未知の通気径路の通気部を可視化でき、各車両部材間の隙間21,22を認識することができる。
【0039】
表示ステップS8は、通気経路を移動する気体流量を表示装置4に表示するため、車両の防音性能やシール性能を評価することができる。
表示ステップS8は、通気経路を可視化して表示装置4に表示するため、評価空間11の隙間21,22から外部へ繋がる通気径路を正確に把握することができる。
表示ステップS8の後、隙間21,22を備えた車両部材のCADデータを修正するため、車両の騒音や水漏れを設計段階において改善することができる。
【0040】
次に、前記実施例を部分的に変更した変形例について説明する。
1〕前記実施例においては、車両全体の形状モデルを作成した例を説明したが、少なくとも形状モデルに評価対象空間である評価空間が含まれれば良く、例えば、評価空間がサイドドアの場合、サイドドアを形成する部材のCADデータを相互に組み合わせてサイドドアの形状モデルを作成することができる。
【0041】
2〕前記実施例においては、運動量付与部を後仕切壁と兼用した例を説明したが、仕切壁とは別に運動量付与部を形成することも可能である。この場合、シミュレーション空間の境界部分に運動量付与部を設定しても良い。また、運動量を運動量付与部から評価空間内へ流入させる例を説明したが、運動量を評価空間内から運動量付与部へ流出させることにより、同様の効果を奏することができる。
【0042】
3〕前記実施例においては、各粒子が評価空間を移動可能な粒子法を用いた流体解析モデルの例を説明したが、少なくとも粒子に付与された運動量が粒子間を相互に伝達可能であれば良く、例えばボクセル法を用いた流体解析モデルを適用可能である。ボクセル法を用いる場合、評価空間を複数のボクセル(直交格子)により分割し、各分割空間のうち部材に占有されない空間の任意の1点、例えば分割空間の重心に粒子を設置した流体解析モデルを用いても良い。
【0043】
4〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、車両部材のCADデータに基づき通気径路を表示可能な車両の気密性評価方法に関し、評価空間内に相互に運動量による影響を与える多数の粒子を設置した流体解析モデルを作成し、一部の粒子から近傍粒子へ夫々運動量が伝達される経路を繰り返し探索して運動量伝達経路を演算することにより、未知の通気径路を可視化することができる。
【符号の説明】
【0045】
4 表示装置
10 形状モデル
11 評価空間
12 シミュレーション空間
19 運動量付与部
20 流体解析モデル
21,22 隙間
P,P1〜P8 粒子
Pn,Pm
M 運動量
L,K 運動量伝達経路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の気密性評価方法において、
車両部材のCADデータを組み合わせて気密性確認の対象空間である評価空間を備えた形状モデルを作成し、この形状モデルの評価空間内に相互に運動量による影響を与えるように前記評価空間内に多数の粒子を設置した流体解析モデルを作成するモデル作成ステップと、
前記評価空間に運動量を付与可能な運動量付与部を作成する運動量付与部作成ステップと、
前記運動量の付与条件を設定する条件設定ステップと、
前記運動量付与部から運動量が付与される少なくとも一部の粒子を流体解析することにより、前記少なくとも一部の粒子から近傍粒子へ夫々運動量が伝達される経路を繰り返し探索して運動量伝達経路を演算する演算ステップと、
前記運動量伝達経路のうち前記評価空間の外部へ繋がる運動量伝達経路に基づいて通気径路の通気部を表示部に表示する表示ステップと、
を備えたことを特徴とする車両の気密性評価方法。
【請求項2】
前記表示ステップは前記通気経路を移動する気体流量を前記表示部に表示することを特徴とする請求項1に記載の車両の気密性評価方法。
【請求項3】
前記表示ステップは前記通気経路を可視化して前記表示部に表示することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の気密性評価方法。
【請求項4】
前記表示ステップの後、前記通気部を備えた車両部材のCADデータを修正することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の車両の気密性評価方法。
【請求項1】
車両の気密性評価方法において、
車両部材のCADデータを組み合わせて気密性確認の対象空間である評価空間を備えた形状モデルを作成し、この形状モデルの評価空間内に相互に運動量による影響を与えるように前記評価空間内に多数の粒子を設置した流体解析モデルを作成するモデル作成ステップと、
前記評価空間に運動量を付与可能な運動量付与部を作成する運動量付与部作成ステップと、
前記運動量の付与条件を設定する条件設定ステップと、
前記運動量付与部から運動量が付与される少なくとも一部の粒子を流体解析することにより、前記少なくとも一部の粒子から近傍粒子へ夫々運動量が伝達される経路を繰り返し探索して運動量伝達経路を演算する演算ステップと、
前記運動量伝達経路のうち前記評価空間の外部へ繋がる運動量伝達経路に基づいて通気径路の通気部を表示部に表示する表示ステップと、
を備えたことを特徴とする車両の気密性評価方法。
【請求項2】
前記表示ステップは前記通気経路を移動する気体流量を前記表示部に表示することを特徴とする請求項1に記載の車両の気密性評価方法。
【請求項3】
前記表示ステップは前記通気経路を可視化して前記表示部に表示することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の気密性評価方法。
【請求項4】
前記表示ステップの後、前記通気部を備えた車両部材のCADデータを修正することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の車両の気密性評価方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−202914(P2012−202914A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69730(P2011−69730)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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