説明

車両の牽引用フックの固定部構造

【課題】ナットの車両前後方向の突出長さを短縮することにより牽引用フックの固定部をコンパクト化するとともに、牽引用フックの固定部のデザイン性を向上させ、牽引用フックの固定部に掛かる車両外部からの荷重をクラッシュボックスで効率的に吸収することが可能な車両の牽引用フックの固定部構造を提供することにある。
【解決手段】バンパーメンバーエクステンション31に固定されるナット10と、ナット10に螺合して取付けられ、車両の牽引を可能とする牽引用フックのアイボルト5とを備え、アイボルト5がナット10を介してエクステンション31に螺合される車両の牽引用フックの固定部構造において、ナット10は、エクステンション31に車両前後方向で内方へ向かって延びるように取付けられ、かつ内周にアイボルト5との螺合部が形成されている筒状部11と、筒状部11の先端部外周に張り出して形成されている傘状部12とを有しており、傘状部12の後面12aがエクステンション31の取付面31aに接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車体前面等のバンパーメンバーなどに固定されるナットと、該ナットに螺合して車両の牽引を可能とする牽引用フックのアイボルトを備えた車両の牽引用フックの固定部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、車両の牽引には、車体前面(あるいは後面)のバンパーメンバーなどに固定されるナットと、該ナットに螺合する牽引用フックのアイボルトが用いられており、このアイボルトを引っ張ることによって車両の牽引が行われている。
【0003】
図6(A)及び(B)は、従来の車両の牽引用フックの固定部構造の2例を示している。なお、図6(A)及び(B)は車両前方から見て左側の車体前部のみを示している。
図6(A)は、牽引用フックの固定部構造が車両のクラッシュボックス52及びフロントバンパーメンバー53の前方に配置された場合であり、車両の左右両側のサイドメンバー51の前部には、フロントバンパーメンバー53が車両幅方向に架設され、該フロントバンパーメンバー53の外側端部には、クラッシュボックス52に固定される円筒状のナット54が配設されている。このため、ナット54は、フロントバンパーメンバー53の貫通穴53aを通してクラッシュボックス52の前部に重ね合わせて配置され、重ね合わせ部を溶接にて接合することにより固定され、内周壁には、雌ねじ部54aが形成されている。一方、アイボルト55は、その軸部の雄ねじ部をナット54の雌ねじ部54aに螺合することによって、ナット54に取付けられている。そして、車両の牽引は、アイボルト55にF方向(車両前方)の力を加えることによって行われている。
【0004】
図6(B)は、牽引用フックの固定部構造が車両のクラッシュボックス52の配設位置とずれて配置された場合であり、円筒状のナット54は、フロントバンパーメンバー53において、クラッシュボックス52よりも脇の車両幅方向で内側の位置に固定されている。その他の構成は、図6(A)と同様である。
【0005】
また、特許文献1(特開2011−168077号公報)には、図6(A)と同様に、車両の左右両側のサイドメンバーの前部にバンパーメンバーが車両幅方向に架設され、該バンパーメンバーの端部において、クラッシュボックスに固定される円筒状のナットが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−168077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図6(A)に示される従来の牽引用フックの固定部構造には、次のような問題点がある。
(1)ナット54は円筒形状をしており、円筒体の両端を厚い板材で支持し、クラッシュボックス52に溶接固定しているので、円筒形状のナット54では、ある程度の円筒長さが必要となる。このため、牽引用フックの固定部構造が大型化し、取付作業性も悪くなるおそれがあった。
(2)円筒形状のナット54を、クラッシュボックス52の前部に配置すると、クラッシュボックス52の前方にナット54の先端が突き出てしまうことになる。すなわち、サイドメンバー51からのナット54の突出量が増えることで、フロントバンパーメンバー52の固定位置に負荷が掛かり易くなり、強度的に不利となる。
(3)円筒形状のナット54の先端が突出しているので、牽引用フックの固定部のデザインが制約を受けやすくなる。このため、牽引用フックの固定部における設計の自由度が低減するおそれがあった。
【0008】
また、図6(B)に示される従来の牽引用フックの固定部構造では、図6(A)のものに加えて、通常10°程度傾斜しているインシュランスバリア(図4参照)が、ナット54もしくはその周辺部に接触するとき、従来技術のようにナット54が円筒形状で突出していると、車両外部からの荷重をクラッシュボックス52で効率的に吸収できなくなる。このため、図6(B)に示されるように、フロントバンパーメンバー53において、円筒形状のナット54をクラッシュボックス52よりも脇の車両幅方向で内側の位置に固定する場合には、ナット54にアイボルト55で負荷した場合、フロントバンパーメンバー53そのものにねじりトルクが作用するため、クラッシュボックス52とフロントバンパーメンバー53との接合部を補強する必要があった。
【0009】
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、ナットの車両前後方向の突出長さを短縮することにより牽引用フックの固定部をコンパクト化するとともに、牽引用フックの固定部のデザイン性を向上させ、牽引用フックの固定部に掛かる車両外部からの荷重をクラッシュボックスで効率的に吸収することが可能な車両の牽引用フックの固定部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記従来技術の有する課題を解決するために、本発明は、車体端部のバンパーメンバーに固定されるナットと、該ナットに螺合して取付けられ、車両の牽引を可能とする牽引用フックのアイボルトとを備え、前記アイボルトが前記ナットを介して前記バンパーメンバーに螺合される車両の牽引用フックの固定部構造において、前記ナットは、前記バンパーメンバーに車両前後方向で内方へ向かって延びるように取付けられ、かつ内周に前記アイボルトとの螺合部が形成されている筒状部と、該筒状部の先端部外周に張り出して形成されている傘状部とを有しており、前記傘状部の後面が前記バンパーメンバーの取付面に接合されている。
【0011】
また、本発明において、前記車体端部は、サイドメンバー、前記バンパーメンバー及び緩衝用のクラッシュボックスを備えて構成され、前記クラッシュボックスは、車両前後方向に沿って延在し、前記サイドメンバーと前記バンパーメンバーとの間に配設され、前記バンパーメンバーは、前記クラッシュボックスの端部に接合されており、前記バンパーメンバーには、前記ナットの前記筒状部を挿通する貫通穴が設けられ、前記ナットの前記傘状部は、前記バンパーメンバーを介して前記クラッシュボックスの端部に接合され、前記ナットの前記傘状部と前記クラッシュボックスの端部とは正面視でオーバーラップするように配置されている。
【0012】
さらに、本発明において、前記アイボルトは、前記クラッシュボックスの軸心を通る車両前後方向に配置され、前記クラッシュボックスは、前記ナットの前記傘状部とオーバーラップする際に、前記傘状部の外周よりも前記アイボルト側に接近する複数の辺部を有している。
【0013】
そして、本発明において、前記クラッシュボックスの車両幅方向の左右両側面は、軸心に対して対称の波形状に形成され、前記クラッシュボックスの前記辺部は、前記アイボルトの軸心を中心にして上下左右に等方位に4点配置され、前記ナットの前記傘状部とオーバーラップしている。
【0014】
また、本発明において、前記ナットの前記傘状部の外側には、インシュランスバリアの内面に対して平行面で受けるように、一定の角度で傾斜する傾斜面が形成され、前記バンパーメンバーには、複数の突起が設けられ、前記ナットの前記傘状部が前記突起の間に配置されている。
【0015】
さらに、本発明において、前記クラッシュボックスに接合する前記バンパーメンバーの車両幅方向の左右両端部は、前記バンパーメンバーと別部品のバンパーメンバーエクステンションによって構成されている。
【発明の効果】
【0016】
上述の如く、本発明に係る車両の牽引用フックの固定部構造は、車体端部のバンパーメンバーに固定されるナットと、該ナットに螺合して取付けられ、車両の牽引を可能とする牽引用フックのアイボルトとを備え、前記アイボルトが前記ナットを介して前記バンパーメンバーに螺合されるものであって、前記ナットは、前記バンパーメンバーに車両前後方向で内方へ向かって延びるように取付けられ、かつ内周に前記アイボルトとの螺合部が形成されている筒状部と、該筒状部の先端部外周に張り出して形成されている傘状部とを有しており、前記傘状部の後面が前記バンパーメンバーの取付面に接合されているので、ナットを傘状部のみで保持することが可能となり、バンパーメンバーの取付面から外部に突出する長さが傘状部のみとなり、従来の牽引用フックの固定部構造における円筒部のみのナットよりも車両前後方向の突出長さ及び全長を短くでき、牽引用フックの固定部をコンパクト化できるとともに、デザインの制約を受けることが小さくなり、牽引用フックの固定部のデザイン性を向上させることできる。
しかも、本発明の牽引用フックの固定部構造によれば、アイボルトのナットへの取付時に発生するトルクや、車両牽引時の荷重がナットに作用した場合、傘状部でナットのローリングを抑制し、アイボルトをナットに確実に保持することができる。
【0017】
また、本発明において、前記車体端部は、サイドメンバー、前記バンパーメンバー及び緩衝用のクラッシュボックスを備えて構成され、前記クラッシュボックスは、車両前後方向に沿って延在し、前記サイドメンバーと前記バンパーメンバーとの間に配設され、前記バンパーメンバーは、前記クラッシュボックスの端部に接合されており、前記バンパーメンバーには、前記ナットの前記筒状部を挿通する貫通穴が設けられ、前記ナットの前記傘状部は、前記バンパーメンバーを介して前記クラッシュボックスの端部に接合され、前記ナットの前記傘状部と前記クラッシュボックスの端部とは正面視でオーバーラップするように配置されているので、クラッシュボックス自体をナット取付用の補強部材として利用することが可能となり、特別な補強部材を必要とせず、重量の軽減及びコストダウンを図ることができる。
さらに、本発明の牽引用フックの固定部構造において、車両外部からの荷重がバンパーに掛かると、当該荷重は、バンパーメンバー及びナットが受けてクラッシュボックスに伝達されるが、この際、ナットが補強材の役割を果たし、荷重伝達及びクラッシュボックスへの真っ直ぐな荷重伝達をコントロールするため、クラッシュボックスでの荷重吸収を効率良く行うことができる。しかも、バンパーメンバーの取付面から外部に突出しているは、ナットのうちで傘状部のみであることから、従来のような円筒形状のナットが軸方向に突出したものに比べて、車両外部からの荷重を傘状部を介してクラッシュボックスでより一層効率的に吸収することができる。
【0018】
また、本発明において、前記アイボルトは、前記クラッシュボックスの軸心を通る車両前後方向に配置され、前記クラッシュボックスは、前記ナットの前記傘状部とオーバーラップする際に、前記傘状部の外周よりも前記アイボルト側に接近する複数の辺部を有しているので、上記発明の効果を促進して牽引用フックの固定部の荷重吸収性能を高めることができる。
【0019】
さらに、本発明において、前記クラッシュボックスの車両幅方向の左右両側面は、軸心に対して対称の波形状に形成され、前記クラッシュボックスの前記辺部は、前記アイボルトの軸心を中心にして上下左右に等方位に4点配置され、前記ナットの前記傘状部とオーバーラップしているので、上記発明と同様の効果を得ることができるとともに、ナットを確実に保持できる。
【0020】
そして、本発明において、前記ナットの前記傘状部の外側には、インシュランスバリアの内面に対して平行面で受けるように、一定の角度で傾斜する傾斜面が形成され、前記バンパーメンバーには、複数の突起が設けられ、前記ナットの前記傘状部が前記突起の間に配置されているので、インシュランスバリアの内面がナットの傘状部の外側傾斜面とバンパーメンバーの突起に同時に接触し、クラッシュボックスの幅方向の外側と内側でインシュランスバリアの荷重を受けることが可能となり、ナットが倒れることはなくなり、クラッシュボックスの荷重吸収性能を向上させることができるとともに、インシュランスバリアのナットの傘状部による変形を防止できる。
【0021】
また、本発明において、前記クラッシュボックスに接合する前記バンパーメンバーの車両幅方向の左右両端部は、前記バンパーメンバーと別部品のバンパーメンバーエクステンションによって構成されているので、クラッシュボックスに接合する箇所を複雑な形状とすることが可能になり、良好な成形性を確保できるとともに、バンパーメンバーエクステンションの板厚増加によって牽引用フックの固定部の剛性向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係る車両の牽引用フックの固定部構造が適用された車体前部を示す全体斜視図である。
【図2】図1のZ部を拡大して示す斜視図である。
【図3】図2における牽引用フックの固定部を分解して示す斜視図である。
【図4】図2におけるA−A線断面図である。
【図5】図4におけるB−B矢視図である。
【図6】(A)及び(B)は、従来例における車両の牽引用フックの固定部構造の例を一部を断面にして示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を図示の実施の形態に基づいて詳細に説明する。
図1〜図5は本発明の実施形態に係る車両の牽引用フックの固定部構造を示すものである。図1は牽引用フックの固定部構造が適用された車体前部の斜視図、図2は図1のZ部拡大斜視図、図3は図2の分解斜視図、図4は図2のA−A線断面図、図5は図4のB−B矢視図である。
【0024】
本発明の実施形態に係る車両の牽引用フックの固定部構造は、図1〜図5に示すように、車体30の前部に適用されるものであり、車体30の左右両側部には、車両前後方向に沿って延びるサイドメンバー1がそれぞれ設けられている。これらサイドメンバー1の前端部には、周囲にフランジ部4aを有する平板状の支持ブラケット4が取付けられており、この支持ブラケット4の前面には、後述するクラッシュボックス2の内周を係合支持するための支持部41が起立して形成されている。
【0025】
また、サイドメンバー1の前端部の車両前方側には、車両幅方向に沿って延在するフロントバンパーメンバー3が配設されており、このフロントバンパーメンバー3は、上下端部を車両後方へ向かってそれぞれ直角に折り曲げることにより断面コ字状に形成されている。しかも、サイドメンバー1の支持ブラケット4の前方に位置するフロントバンパーメンバー3の左右両端部は、図2及び図3に示すように、複雑な形状の成形性の確保と板厚増加による剛性向上のため、フロントバンパーメンバー3とは別部品で断面がフロントバンパーメンバー3と同形状のバンパーメンバーエクステンション31によって構成されており、フロントバンパーメンバー3とバンパーメンバーエクステンション31とは、車両前方側から上下端部を互いに重ね合わせて溶接することにより連結されている。
【0026】
本実施形態のバンパーメンバーエクステンション31の中央部は、一般面より陥没した平面状の取付面31aとなっており、この取付面31aには、後述するナット(アイボルトナット)10の傘状部12の後面12aが接合するように構成されている。そのため、バンパーメンバーエクステンション31の取付面31aの中央には、後述するナット(アイボルトナット)10の筒状部11を挿通する貫通穴32が穿設されており、上下の箇所には、貫通穴32を間に置いて、車両幅方向に延びる突起31bが設けられている。後述するナット10の傘状部12は、これら突起31bの上下間に配置されるようになっており、突起31b及び傘状部12の高さは、ほぼ同じ大きさに形成されている。なお、フロントバンパーメンバー3とバンパーメンバーエクステンション31との接合部には、これら部材と同様の断面コ字状の補強部材33が車両後方側から重ね合わせられて接合されている。
【0027】
本実施形態の車体30の前端部には、図2〜図4に示すように、サイドメンバー1、フロントバンパーメンバー3及びバンパーメンバーエクステンション31と一緒になって車体前端部を構成する縦長の緩衝用クラッシュボックス2が設けられている。このクラッシュボックス2は、車両前後方向に沿って延在し、サイドメンバー1の支持ブラケット4の前面とバンパーメンバーエクステンション31の後面との間に配設されている。そして、バンパーメンバーエクステンション31の後面は、クラッシュボックス2の前端部に溶接などで接合され、クラッシュボックス2の後端部は、支持部41に係合支持された状態で、サイドメンバー1の支持ブラケット4に固定されている。
【0028】
本実施形態のクラッシュボックス2は、車両前後方向の荷重を吸収する緩衝部材であり、図2〜図5に示すように、薄板材を用いて断面四角形の筒状に形成されている。また、クラッシュボックス2の前端部は、後述するナット10の傘状部12と正面視でオーバーラップするように配置されている。そのため、クラッシュボックス2は、後述するナット10の傘状部12とオーバーラップする際に、傘状部12の外周よりも後述のアイボルト5側に接近する複数の辺部20を有している。すなわち、クラッシュボックス2の車両幅方向の左右両側面は、軸心Cに対して対称の波形状(蛇腹状)に形成されており、辺部20は、後述のアイボルト5の軸心を中心にして上下左右に等方位に4点配置され、後述するナット10の傘状部12とラップ代tを持たせてオーバーラップしている(図5参照)。
【0029】
一方、本実施形態のクラッシュボックス2の前端部と対応する位置のバンパーメンバーエクステンション31には、該エクステンションの前面に固定されるナット10が配設されている。このナット10は、図4に示すように、バンパーメンバーエクステンション31に車両前後方向で内方(サイドメンバー1側)へ向かって延びるように取付けられ、かつ内周には牽引用フックのアイボルト5と螺合するねじ部11aが形成されている円筒状の筒状部11と、該筒状部11の前端部(先端部)外周に張り出して形成されているリング状の傘状部12とにより構成されている。そして、ナット10は、筒状部11を貫通穴32に挿通してクラッシュボックス2の内部に配置した状態で、傘状部12の車両後方側に位置する後面12aが、バンパーメンバーエクステンション31の取付面31aに溶接などで接合されている。このため、ナット10の筒状部11の外径は、バンパーメンバーエクステンション31の貫通穴32の径とほぼ同じ大きさに形成され、傘状部12の外径は、貫通穴32の径よりも大きく、突起31bの間で取付面31aに設置することが可能な大きさで、後面12aが車両前後方向と直交する方向へ延出する平面に形成されている。傘状部12の内径は、挿入するアイボルト5の軸部外径とほぼ同じ大きさに形成されている。また、アイボルト5は、クラッシュボックス2の軸心Cを通る車両前後方向に同心状に配置されるようになっている。
したがって、ナット10は、取付面31aを介してバンパーメンバーエクステンション31及びクラッシュボックス2に取付けられ、保持されていることになる。これにより、バンパーメンバーエクステンション31の取付面31aから外部に突出する長さが、ナット10のうちで傘状部12のみとなることから、従来のような円筒形状のナットが車両前後方向に突出したものに比べて、突出長さが短くなって、車両前方からの荷重を傘状部12を通してクラッシュボックス2で効率的に吸収することが可能となる。
【0030】
また、本実施形態のナット10の傘状部12の外側には、図4に示すように、インシュランスバリア6の内面6aに対して平行面で受けるように、外周部が車両後方側に向かって一定の傾斜角αで傾斜する傾斜面12bが形成されている。この傾斜角αは、インシュランスバリア6の傾斜角と対応して、例えば10度に設定されている。
このようにすれば、ナット10の傘状部12の傾斜面12bとインシュランスバリア6の内面6aとが平行に接触することになって、インシュランスバリア6のナット10の傘状部12による変形を防ぐことが可能となる。また、インシュランスバリア6は、ナット10の傘状部12の傾斜面12bとバンパーメンバーエクステンション31の突起31bに同時に接触し、クラッシュボックス2の幅方向外側と内側で荷重を受けることになるため、クラッシュボックス2の荷重吸収性能を向上させることが可能となる。
【0031】
以上のように構成された牽引用フックの固定部構造においては、車両の牽引時に、図4に示すように、車両前方から後方へ向かってアイボルト5の軸部をナット10の筒状部11に入れ、ねじ部11aにねじ込みながら螺合させてナット10と連結し、この状態で、アイボルト5にF方向(車両前方)の力を加えれば、車両の牽引を行うことが可能となる。
【0032】
このように本発明の実施形態に係る車両の牽引用フックの固定部構造においては、牽引用フックのアイボルト5を連結させるナット10が、車両前後方向で内方へ向かって延びる筒状部11と、該円筒部11の前端部外周に張り出して形成されている傘状部12とにより構成されているため、フロントバンパーメンバー3のバンパーメンバーエクステンション31の取付面31aから外部に突出する長さが傘状部12のみとなり、従来の円筒形状のみのナットよりも車両前後方向の突出長さが短くなって、牽引用フックの固定部をコンパクトに設計することができ、デザイン性能を高めることができる。
【0033】
また、本実施形態の牽引用フックの固定部構造では、ナット10の傘状部12の後面12aがバンパーメンバーエクステンション31の取付面31aを介してクラッシュボックス2の前端部に接合され、ナット10の傘状部12とクラッシュボックス2の前端部が車両前方からの正面視でオーバーラップするように配置されているため、ナット10に対してアイボルト5の螺合時のトルクや車両の牽引時の荷重が作用した際に、ナット10の傘状部12のローリングを抑制・保持できるとともに、クラッシュボックス2自体をナット10の取付時の補強部材として利用でき、特別な補強部材を設ける必要がなくなる。しかも、車両前方側からの荷重が、フロントバンパーメンバー3及びバンパーメンバーエクステンション31に掛かり、バンパーメンバーエクステンション31及びナット10が受けた荷重がクラッシュボックス2側に伝達される際に、ナット10が補強材となり、当該荷重の伝達及びクラッシュボックス2への真直ぐな荷重伝達をコントロールでき、クラッシュボックス2での荷重の吸収性能を向上させることができる。
【0034】
以上、本発明の実施の形態につき述べたが、本発明は既述の実施の形態に限定されるものでなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。
【0035】
例えば、既述の実施の形態では、本発明の牽引用フックの固定部構造を車体30の前部に適用したが、車体30の後部のリヤバンパーメンバーなどにも適用することができる。また、既述の実施の形態では、フロントバンパーメンバー3の左右両端部に別部品のバンパーメンバーエクステンション31を接合して構成されているが、本発明の牽引用フックの固定部構造は、フロントバンパーメンバー3の左右両端部をバンパーメンバーエクステンション31の配設位置まで延長して一体化したバンパーメンバーに適用されても良い。
【符号の説明】
【0036】
1 サイドメンバー
2 クラッシュボックス
3 フロントバンパーメンバー
4 支持ブラケット
5 アイボルト
6 インシュランスバリア
6a 内面
10 ナット
11 円筒部
11a ねじ部
12 傘状部
12a 後面
12b 傾斜面
20 辺部
30 車体
31 バンパーメンバーエクステンション
31a 取付面
31b 突起
32 貫通穴
33 補強部材
41 支持部
t ラップ代
α 傾斜角


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体端部のバンパーメンバーに固定されるナットと、該ナットに螺合して取付けられ、車両の牽引を可能とする牽引用フックのアイボルトとを備え、前記アイボルトが前記ナットを介して前記バンパーメンバーに螺合される車両の牽引用フックの固定部構造において、
前記ナットは、前記バンパーメンバーに車両前後方向で内方へ向かって延びるように取付けられ、かつ内周に前記アイボルトとの螺合部が形成されている筒状部と、該筒状部の先端部外周に張り出して形成されている傘状部とを有しており、
前記傘状部の後面が前記バンパーメンバーの取付面に接合されていることを特徴とする車両の牽引用フックの固定部構造。
【請求項2】
前記車体端部は、サイドメンバー、前記バンパーメンバー及び緩衝用のクラッシュボックスを備えて構成され、前記クラッシュボックスは、車両前後方向に沿って延在し、前記サイドメンバーと前記バンパーメンバーとの間に配設され、前記バンパーメンバーは、前記クラッシュボックスの端部に接合されており、
前記バンパーメンバーには、前記ナットの前記筒状部を挿通する貫通穴が設けられ、前記ナットの前記傘状部は、前記バンパーメンバーを介して前記クラッシュボックスの端部に接合され、前記ナットの前記傘状部と前記クラッシュボックスの端部とは正面視でオーバーラップするように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の車両の牽引用フックの固定部構造。
【請求項3】
前記アイボルトは、前記クラッシュボックスの軸心を通る車両前後方向に配置され、
前記クラッシュボックスは、前記ナットの前記傘状部とオーバーラップする際に、前記傘状部の外周よりも前記アイボルト側に接近する複数の辺部を有していることを特徴とする請求項2に記載の車両の牽引用フックの固定部構造。
【請求項4】
前記クラッシュボックスの車両幅方向の左右両側面は、軸心に対して対称の波形状に形成され、前記クラッシュボックスの前記辺部は、前記アイボルトの軸心を中心にして上下左右に等方位に4点配置され、前記ナットの前記傘状部とオーバーラップしていることを特徴とする請求項3に記載の車両の牽引用フックの固定部構造。
【請求項5】
前記ナットの前記傘状部の外側には、インシュランスバリアの内面に対して平行面で受けるように、一定の角度で傾斜する傾斜面が形成され、前記バンパーメンバーには、複数の突起が設けられ、前記ナットの前記傘状部が前記突起の間に配置されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の車両の牽引用フックの固定部構造。
【請求項6】
前記クラッシュボックスに接合する前記バンパーメンバーの車両幅方向の左右両端部は、前記バンパーメンバーと別部品のバンパーメンバーエクステンションによって構成されていることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の車両の牽引用フックの固定部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−99999(P2013−99999A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244450(P2011−244450)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】