説明

車両の空気抵抗低減構造

【課題】 自動車の車体後面に発生する負圧領域の圧力を効果的に回復させて空気抵抗の低減を図る。
【解決手段】 車体前部に位置するエンジンルーム11に導入された冷却風を、車体下面に沿って前後方向に形成した導風ダクト14を介して車体後部に導き、車体後面に開口する複数の排風口14dから排出するので、車体後面の負圧領域の圧力を排風口14dから排出される冷却風で回復させ、かつ車体下面と路面との間に冷却風を流さないようにして空気抵抗を低減することができる。特に、導風ダクト14は複数の排風口14dを備えているので、車体後面に分布する負圧領域うちの負圧が強い部分に狙いを定めて圧力回復を図ることで、空気抵抗の低減効果が一層高められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行時に車体後面に発生する負圧領域の圧力を回復させることで空気抵抗を低減する車両の空気抵抗低減構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のエンジンを冷却した後の冷却風を、エンジンルームから車体後方に延びる吸入空気通路を通してトランクリッドの前縁部から後方に排出することで、車両の直進安定性の向上および後引気流の低減を図るものが、下記特許文献1により公知である。
【0003】
また車両のフロアパネル下面と、その下方に配置したアンダーカバーとの間に、エンジンルームの冷却風を前輪の前方および後輪の前方に導く通路を形成することで、前輪および後輪の前方部分の気流を乱して空気抵抗の低減を図るものが、下記特許文献2により公知である。
【0004】
また車体前面に形成した空気導入口と車体後面に形成した空気排出口とを、車体中央部を前後方向に延びる空気ダクトで接続し、空気ダクトの空気導入口から導入されて空気排出口から排出される空気で車両の後方に発生する渦流を低減して空力特性を向上させるものが、下記特許文献3により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−344956号公報
【特許文献2】特開2006−168592号公報
【特許文献3】特開2005−170304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車両の後面には走行中に気流が剥離することで圧力が低下する負圧領域が発生し、この負圧領域が車両の空気抵抗を増加させる要因となっている。従って、車体前面からダクトに取り入れた空気を負圧領域を狙って排出すれば、負圧領域の圧力を回復させて空気抵抗を効果的に低減することができる。
【0007】
しかしながら、車体後面の圧力分布は複雑であって局所的に強い負圧領域が発生するのが一般的であるにも関わらず、上記特許文献1あるいは上記特許文献3に記載された発明は車体後面に開口するダクトの空気排出口が一個所しかないため、局所的な負圧領域をピンポイントで狙って空気を排出することができず、車両の空気抵抗を効果的に低減できないという問題があった。
【0008】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、自動車の車体後面に発生する負圧領域の圧力を効果的に回復させて空気抵抗の低減を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、車体前部に位置するエンジンルームに導入された冷却風を、車体下面に沿って前後方向に形成した導風ダクトを介して車体後部に導き、車体後面に開口する複数の排風口から排出することを特徴とする車両の空気抵抗低減構造が提案される。
【0010】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記排風口は、車体後面下部の車幅方向両端部に形成されることを特徴とする車両の空気抵抗低減構造が提案される。
【0011】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1または請求項2の構成に加えて、前記導風ダクトの排風口の近傍に第1のジェットポンプおよび第2のジェットポンプを設け、前記第1のジェットポンプはエンジンの排ガスで作動して外気を前記導風ダクト内に導入するとともに、前記第2のジェットポンプは前記第1のジェットポンプの排ガスで作動してエンジンルームの冷却風を前記導風ダクト内に導入することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の車両の空気抵抗低減構造が提案される。
【0012】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項1〜請求項3の何れか1項の構成に加えて、前記エンジンルームでラジエータおよびエンジンと熱交換した後の冷却風を前記導風ダクトに導入することを特徴とする車両の空気抵抗低減構造が提案される。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の構成によれば、車体前部に位置するエンジンルームに導入された冷却風を、車体下面に沿って前後方向に形成した導風ダクトを介して車体後部に導き、車体後面に開口する複数の排風口から排出するので、車体後面の負圧領域の圧力を排風口から排出される冷却風で回復させ、かつ車体下面と路面との間に冷却風を流さないようにして空気抵抗を低減することができる。特に、導風ダクトは複数の排風口を備えているので、車体後面に分布する負圧領域うちの負圧が強い部分に狙いを定めて圧力回復を図ることができ、空気抵抗の低減効果が一層高められる。
【0014】
また請求項2の構成によれば、導風ダクトの排風口を車体後面下部の車幅方向両端部に形成したので、車体後面のうちで最も強い負圧が発生する領域の圧力を回復させて空気抵抗を効果的に低減することができる。
【0015】
また請求項3の構成によれば、導風ダクトの排風口の近傍に第1のジェットポンプおよび第2のジェットポンプを設け、第1のジェットポンプはエンジンの排ガスで作動して外気を前記導風ダクト内に導入し、第2のジェットポンプは第1のジェットポンプの排ガスで作動してエンジンルームの冷却風を前記導風ダクト内に導入するので、本来導風ダクトを流れる冷却風の流量に、第1、第2のジェットポンプにより導入されたエンジンの排ガスの流量、外気の流量およびエンジンルームの冷却風の流量が加算されて排風口から排出されることになり、車体後面の負圧領域の圧力を充分に高めて空気抵抗を効果的に低減することができる。
【0016】
また請求項4の構成によれば、エンジンルームでラジエータおよびエンジンと熱交換した後の冷却風を導風ダクトに導入するので、車体後面の負圧領域の吸い出し効果でエンジンルーム内の冷却風を導風ダクトを介してスムーズに排出することにより、エンジンルームを流れる冷却風の流量が増加させてラジエータおよびエンジンの冷却効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】自動車の車体の斜視図(第1の実施の形態)。
【図2】図1の2方向矢視図(第1の実施の形態)。
【図3】図2の3−3線断面図(第1の実施の形態)。
【図4】図2の4方向矢視図(第1の実施の形態)。
【図5】前記図2に対応する図(第2の実施の形態)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図1〜図4に基づいて本発明の第1の実施の形態を説明する。
【0019】
図1および図2に示すように、自動車の車体前部に設けられたエンジンルーム11の前端にラジエータ12が配置され、その後方にエンジンEおよびトランスミッションTを一体化したパワーユニット13が配置される。車体前端から後端まで延びる導風ダクト14は、エンジンルーム11の前部に配置されたラジエータ12の後面から後方に延びてパワーユニット13を覆い、エンジンルーム11と車室15とを仕切るダッシュパネル16の開口16aに接続される第1ダクト部14aと、ダッシュパネル16の開口16aから車室15の左右方向中央部を後方に向かって延びる第2ダクト部14bと、第2ダクト部14bの後端から左右方向に二股に分岐し、トランクルーム17の内部を後方に向かって延びる左右一対の第3ダクト部14c,14cとで構成される。
【0020】
図3に示すように、第2ダクト部14bは、車室15の容積を狭めないように概ねフロアパネル18,18の高さに配置され、フロントエンジン・リヤドライブ車両のフロアトンネルのような形状で上半部が車室15内に突出する。フロアパネル18,18は、導風ダクト14の第2ダクト部14bの車幅方向外側面と、左右のサイドシル19,19の車幅方向内側面とを接続しており、フロアパネル18,18の下面に車体前後方向に延びるフロアフレーム20,20が結合される。
【0021】
図4に示すように、トランクルーム17に配置された左右の第3ダクト部14c,14cの排風口14d,14dは、リヤバンパー21の後面の左右両端部近傍に開口する。第3ダクト部14c,14cの排風口14d,14dの位置は、車体の後面の負圧分布のうちで最も低圧になる部分に設定されている。
【0022】
次に、上記構成を備えた本発明の第1の実施の形態の作用を説明する。
【0023】
車両の走行中にフロントグリル等からエンジンルーム11に導入された冷却風は、ラジエータ12を通過して冷却水との間で熱交換し、更にエンジンEを通過して該エンジンEの表面との間で熱交換する。熱交換により温度上昇して体積も増加した冷却風は、エンジンルーム11内に位置する導風ダクト14の第1ダクト部14aに案内されてダッシュパネル16の開口16aを通過し、車室15内の第2ダクト部14bを後方に流れた後に、トランクルーム17内の二股になった第3ダクト部14c,14cを後方に流れてリヤバンパー21の左右両端部に開口する一対の排風口14d,14dから車体後方に排出される。
【0024】
このように、車体の後面の負圧分布のうちで最も低圧になる部分をピンポイントで狙って導風ダクト14から冷却風を供給することで、車体後面の負圧部分の圧力を効果的に回復させて空気抵抗を大幅に低減し、燃料消費量の節減に寄与することができる。また従来は、エンジンルーム11に導入された冷却風を車体のフロア下面と路面との間の空間に排出していたため、フロア下面の空気抵抗が増加する問題があったが、本実施の形態によれば冷却風がフロア下面に排出されないため、フロア下面の空気抵抗の増加を防止することができるだけでなく、エンジンルーム11の冷却風を導風ダクト14を介して車体後面からスムーズに排出することができるので、冷却風の風量を増加させてラジエータ12およびエンジンEの冷却効果を高めることができる。
【0025】
次に、図5に基づいて本発明の第2の実施の形態を説明する。
【0026】
第2の実施の形態は、トランクルーム17内に配置された導風ダクト14の二股になった第3ダクト部14c,14cのそれぞれに、第1、第2のジェットポンプ22A,22Bを設けたものである。第1、第2のジェットポンプ22A,22Bは、車体前後方向に配置されたダクト22aと、開口面積が大きい入口端22bと、開口面積が小さい出口端22cとを備えており、その入口端22bは床下空間に連通するとともに、その出口端22cは第3ダクト部14cの排風口14dの近傍に開口する。
【0027】
エンジンEに固定した排気マニホールド23に接続されて第1、第2ダクト部14a,14bの内部を車体後方に延びる排気管24は二股に分岐し、各分岐管24a,24aは第2ダクト部14bの壁面を内から外に通過した後に、その後端がダクト22aの入口端22bのやや後方部分へと挿入される。排気管24の分岐管24aとダクト22aの入口端22bとで第1のジェットポンプ22Aが構成され、ダクト22aの出口端22cと第3ダクト部14cとで第2のジェットポンプ22Bが構成される。第2ダクト部14bに収納された排気管24にはプレマフラ25が設けられ、各分岐管24a,24aにはメインマフラ26,26が設けられる。
【0028】
この第2の実施の形態によれば、車両の走行中に排気管24を流れる排ガスが分岐管24a,24aから第1のジェットポンプ22A,22Aの内部に高い流速で排出されると、その排ガスの流れにより発生する負圧で床下空間の外気がダクト22a,22aの内部に導入されて第3ダクト部14c,14cに排出される。このように第3ダクト部14c,14cに排出される流体の流量、つまり第2のジェットポンプ22B,22Bを作動させる流体の流量が前記エンジンEの排ガスおよび前記外気の分だけ増加することで、第3ダクト部14c,14cの負圧が強まってエンジンルーム11の冷却風が導風ダクト14の内部に効果的に吸入される。
【0029】
これにより、導風ダクト14の排風口14d,14dから排出される流体は、本来エンジンルーム11から導入される冷却風に、第1のジェットポンプ22A,22Aの寄与分、つまりダクト22a,22aの入口端22b,22bから導入された外気と、排気管24の分岐管24a,24aから排出された排ガスとが加算され、かつ第2のジェットポンプ22B,22Bの寄与分、つまり第1のジェットポンプ22A,22Aの排ガスによる負圧でエンジンルーム11から吸気ダクト13に導入された冷却風が加算されたものとなり、その流量が大幅に増加することで車体後面の負圧部分の圧力を一層効果的に回復させて空気抵抗を更に低減することができる。
【0030】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0031】
例えば、実施の形態では2個の排風口14d,14dを備えているが、排風口14d,14dの数は3個以上であっても良い。
【0032】
また実施の形態のパワーユニット13はエンジンEを駆動源としているが、モータ・ジェネレータを駆動源とするものでも、エンジンおよびモータ・ジェネレータの両方を駆動源とするものであっても良い。
【0033】
また実施の形態ではプレマフラ25を導風ダクト14の内部に配置しているが、それを導風ダクトの外部に配置しても良い。
【符号の説明】
【0034】
11 エンジンルーム
12 ラジエータ
14 導風ダクト
14d 排風口
22A 第1のジェットポンプ
22B 第2のジェットポンプ
E エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前部に位置するエンジンルーム(11)に導入された冷却風を、車体下面に沿って前後方向に形成した導風ダクト(14)を介して車体後部に導き、車体後面に開口する複数の排風口(14d)から排出することを特徴とする車両の空気抵抗低減構造。
【請求項2】
前記排風口(14d)は、車体後面下部の車幅方向両端部に形成されることを特徴とする、請求項1に記載の車両の空気抵抗低減構造。
【請求項3】
前記導風ダクト(14)の排風口(14d)の近傍に第1のジェットポンプ(22A)および第2のジェットポンプ(22B)を設け、前記第1のジェットポンプ(22A)はエンジン(E)の排ガスで作動して外気を前記導風ダクト(14)内に導入するとともに、前記第2のジェットポンプ(22B)は前記第1のジェットポンプ(22A)の排ガスで作動してエンジンルーム(11)の冷却風を前記導風ダクト(14)内に導入することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の車両の空気抵抗低減構造。
【請求項4】
前記エンジンルーム(11)でラジエータ(12)およびエンジン(E)と熱交換した後の冷却風を前記導風ダクト(14)に導入することを特徴とする、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の車両の空気抵抗低減構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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