説明

車両の空調制御装置

【課題】車両の空調制御装置において、空調性能確保のためのアイドルストップ解除をより的確に行い、空調性能を確保しつつ不要なアイドルストップ解除を防止することにある。
【解決手段】エンジン(1)がアイドルストップ状態にあることが検出され、設定温度変更量が設定温度所定値よりも大きいことが検出された場合に、エアミックスドア開度変化評価変数(α(n))を求め、風量変化評価変数(β(n))を求め、吸込口変化評価変数(γ(n))を求め、エアミックスドア開度変化評価変数(α(n))と風量変化評価変数(β(n))と吸込口変化評価変数(γ(n))の合計(α(n)+β(n)+γ(n))と評価変数所定値との大小関係を比較して、エンジン(1)のアイドルストップ状態の解除若しくは継続を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の空調制御装置に係り、特に車室内への送風を行う車両の空調制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃費性能に焦点を当てた自動車開発が増加しており、その一例として、停車時にエンジンを自動停止するアイドルストップ車が挙げられる。
また、車両の空調制御装置として、一般的に搭載されている空調用コンプレッサ、及び空調装置(A/C:HVACユニット)内のヒータコアが、エンジンの動力により機能する車両の場合、エンジンのアイドルストップ中は、動作停止となり、空調能力が低下する結果、ユーザが不快(暑い/寒い)に感じ易くなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−96395号公報
【0004】
特許文献1に係る車両用空気調和装置およびその制御方法は、エンジンのアイドルストップ中に、ユーザが不快と感じて空調装置の設定温度を操作した場合に、その操作量が設定値に達すれば、エンジンを再駆動(アイドルストップ解除)させ、冷暖房性能を確保するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来、空調装置の設定温度の操作等により、空調装置のエアミックスドア開度、風量、吸込口が自動制御される、いわゆる自動式の空調制御装置においては、そのユーザの操作量が設定値に達しても、自動制御の範囲でユーザが快適と感じる状況も存在することがある。
例えば、高外気温(夏場)時に、エンジンのアイドルストップ中である場合において、ユーザが設定値以上の操作量を超えて設定温度を下げたとする。さらに、このとき、吸込口が外気導入から内気循環に変化したとする。すると、車両の外部の比較的高い温度の外気の取り込みが中止され、車室内に送風される空気の温度上昇を防止できて、アイドルストップ解除を行うことなく、ユーザが所望する車室内の温度を維持できる場合がある。
また、上記の特許文献1では、このように空調性能が確保できる場合であっても、アイドルストップ解除が実施されてしまい、燃費の悪化を招く不都合があった。
【0006】
そこで、この発明の目的は、空調性能確保のためのアイドルストップ解除をより的確に行い、空調性能を確保しつつ不要なアイドルストップ解除を防止することを可能とする車両の空調制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、車室内に送風を行うためのブロアファンと、前記車室内に送風される空気を冷却するためのエバポレータと、前記車室内に送風される空気を昇温するヒータコアと、前記車室内に送風される空気の一部をヒータコアに流入させるエアミックスドアと、このエアミックスドアの開度を変更するエアミックスドア開度変更手段と、空気の吸込口を外気導入又は内気循環に切り換える吸込口変更手段とを備える空調装置を設け、この空調装置の送風の温度を変更するための設定温度変更手段を設け、前記空調装置を作動して前記車室内への送風を制御する制御手段を設けた車両の空調制御装置において、前記空調装置の設定温度を検出する設定温度検出手段を設け、エンジンがアイドルストップ実施状態にあることを検出するアイドルストップ実施検出手段を設け、前記アイドルストップ実施状態の解除若しくは継続を実施するアイドルストップ解除継続実施手段を設け、前記制御手段は、前記エアミックスドアの開度を検出するエアミックスドア開度検出手段と、前記アイドルストップ実施状態の解除又は継続を判定するアイドルストップ解除判定手段とを備え、前記エンジンがアイドルストップ状態にあることが検出され、設定温度変更量が設定温度所定値よりも大きいことが検出された場合に、前記エアミックスドアの開度の変化量からエアミックスドア開度変化評価変数を求め、前記車室内への吹出温度の変化量から風量変化評価変数を求め、前記吸込口の変化から吸込口変化評価変数を求め、この吸込口変化評価変数は、所望する暖房若しくは冷房の性能確保を阻害する場合に、前記エアミックスドア開度変化評価変数と前記風量変化評価変数とは異なる増減方向の値に採られ、前記エアミックスドア開度変化評価変数と前記風量変化評価変数と前記吸込口変化評価変数の合計と評価変数所定値との大小関係を比較して、前記アイドルストップ状態の解除若しくは継続を実施することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明の車両の空調制御装置は、空調性能確保のためのアイドルストップ解除をより的確に行い、空調性能を確保しつつ不要なアイドルストップ解除を防止することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は車両の空調制御装置の制御ブロック図である。(実施例)
【図2】図2は車両の空調制御装置のシステム構成図である。(実施例)
【図3】図3は車両の空調制御のフローチャートである。(実施例)
【図4】図4は評価変数J(n)及び補足評価変数J(n−1)を算出するフローチャートである。(実施例)
【図5】図5は吹出温度変化に対する風量変化評価を説明する図である。(実施例)
【図6】図6は吹出温度変化に対する吸込口変化評価を説明する図である。(実施例)
【発明を実施するための形態】
【0010】
この発明は、空調性能確保のためのアイドルストップ解除をより的確に行い、空調性能を確保しつつ不要なアイドルストップ解除を防止する目的を、ユーザによる空調装置の設定温度の操作でのアイドルストップ解除の判定に自動制御(エアミックスドア開度、風量、吸込口)による温調変化の条件を追加して実現するものである。
【実施例】
【0011】
図1〜図6は、この発明の実施例を示すものである。
図2において、1はアイドルストップ車(以下「車両」という)に搭載されるエンジン、2は自動式の空調装置(A/C:HVACユニット)、3は車室である。
空調装置2は、車室3内へ送風を行って空調するものであって、空気流通通路4を形成する通路形成体5を備えている。
この通路形成体5には、上流側となる一端で、外気導入ダクト6が接続する外気吸込口7と内気導入ダクト8が接続する内気吸込口9とを切り替えるように内部側に揺動する内外気切替ダンパ10と、この内外気切替ダンパ10を作動して空気の吸込口を外気導入又は内気循環に切り換える吸込口変更手段(吸込口アクチュエータ)11とが設けられている。
また、通路形成体5には、下流側となる他端で、デフロスタダクト12に接続するデフロスタ吹出口13とベントダクト14に接続するベント吹出口15とを切り替えるように内部側に揺動する第1吹出口切替ダンパ16と、この第1吹出口切替ダンパ16を作動する第1モード変更手段(第1モードアクチュエータ)17と、また、フットダクト18に接続するフット吹出口19を開閉するように内部側に揺動する第2吹出口切替ダンパ20と、この第2吹出口切替ダンパ20を作動する第2モード変更手段(第2モードアクチュエータ)21とが設けられている。
【0012】
更に、通路形成体5内には、内外気切替ダンパ10の直下流側で車室3内に送風を行うためのブロアファン22と、このブロアファン22よりも下流側で車室3内に送風される空気を冷却するためのエバポレータ23と、このエバポレータ23よりも下流側で車室3内に送風される空気を昇温するヒータコア24と、車室3内に送風される空気の一部をヒータコア24に流入させるように揺動するエアミックスドア25と、このエアミックスドア25の開度(エアミックスドア開度:吹出風がヒータコア25を通過する割合)を変更するエアミックスドア開度変更手段(エアミックスドアアクチュエータ)26とが備えられている。
ブロアファン22は、ファンモータ27を備えて、冷却された空気を車室3内に送給するものである。ヒータコア24は、車室3内を暖房するために駆動されるものである。
空調装置2には、電気又はエンジン1により駆動されて車室3内の冷房に用いられる空調用コンプレッサ28が設けられている。
【0013】
また、図1、図2に示すように、空調装置2には、空調制御装置29を構成するように、各種操作状態、各種検出手段からの信号によって車室3内への送風を制御する制御手段(ECU)30が連絡する。
この制御手段(ECU)30は、エンジン用制御手段(エンジン用ECU)31と、空調用制御手段(空調用ECU)32とからなる。
エンジン用制御手段31は、エンジン1のアイドリングストップの開始/解除を可能とするアイドルストップ機能手段33を備え、空調用コンプレッサ28に連絡するとともに、CAN通信等の通信手段34を介して空調用制御手段32に連絡している。
また、エンジン用制御手段31は、エンジン1がアイドルストップ実施状態にあることを検出するアイドルストップ実施検出手段35と、アイドルストップ実施状態の解除若しくは継続を実施するアイドルストップ解除継続実施手段36とを備える。
空調用制御手段32は、入力側で、外気温度を検出する外気温度検出手段37と、車室3内の空気温度を検出する内気温度検出手段38と、空調操作パネル39とに連絡し、また、出力側で、吸込口変更手段11と、第1モード変更手段17と、第2モード変更手段21と、エアミックスドア開度変更手段26と、ブロアファン22のファンモータ27とに連絡している。
空調操作パネル39は、乗員によって操作されるものであって、車室3内への送風の温度を変更するための設定温度変更手段40と、空調装置2の送風の設定温度を検出する設定温度検出手段41とを備える。
【0014】
図1に示すように、空調用制御手段32には、入力側で、アイドルストップ実施検出手段35が連絡するとともに、出力側で、アイドルストップ解除継続実施手段36が連絡している。
また、空調用制御手段32は、入力側で、空調操作パネル39及びアイドルストップ実施検出手段35に連絡するとともに、出力側で、アイドルストップ解除継続実施手段36に連絡するアイドルストップ解除判定手段42を備える。このアイドルストップ解除判定手段42は、エンジン1のアイドルストップ実施状態の解除又は継続を判定するものである。
更に、空調用制御手段32は、エアミックスドア25の開度(エアミックスドア開度:吹出風がヒータコア25を通過する割合)を検出するエアミックスドア開度検出手段43と吹出温度検出手段44と風量変化検出手段45と吸込口検出手段46とを備える。吹出温度検出手段44は、自動式の空調装置2の場合、一般的に、設定温度や車室内外の温度等を基に吹出温度を算出する。
また、空調用制御手段32は、入力側で、エアミックスドア開度検出手段43と吹出温度検出手段44と風量変化検出手段45と吸込口検出手段46とが連絡するとともに、出力側で、アイドルストップ解除判定手段42に連絡して評価変数J(n)を算出する評価変数算出手段47を備える。
ここで、エアミックスドア25の開度(エアミックスドア開度)、ブロアファン22の風量、及び吸込口7、9は、上記の算出された吹出温度により算出される。
【0015】
空調用制御手段32は、エンジン1がアイドルストップ状態にあることが検出され、設定温度変更量が設定温度所定値よりも大きいことが検出された場合に、エアミックスドア25の開度の変化量からエアミックスドア開度変化評価変数α(n)を求め、車室3内への吹出温度の変化量から風量変化評価変数β(n)を求め、吸込口7、9の変化から吸込口変化評価変数γ(n)を求める。この吸込口変化評価変数γ(n)は、所望する暖房若しくは冷房の性能確保を阻害する場合に、前記エアミックスドア開度変化評価変数α(n)と前記風量変化評価変数β(n)とは異なる増減方向の値に採られる。
また、空調用制御手段32は、エアミックスドア開度変化評価変数α(n)と風量産化評価変数β(n)と吸込口変化評価変数γ(n)の合計(α(n)+β(n)+γ(n))と評価変数所定値との大小関係を比較して、エンジン1のアイドルストップ状態の解除若しくは継続を実施する。
これにより、エンジン1のアイドルストップ状態を解除することなく、空調性能が得られる場合において、アイドルストップ状態が不要に解除されることを防止できる。
【0016】
空調用制御手段32は、評価変数算出手段47で、補足評価変数J(n−1)を求める補足評価変数算出手段48と、最新の補足評価変数J(n−1)を記録する補足評価変数記録手段49とを備える。
上記の補足評価変数J(n−1)は、エンジン1がアイドルストップ状態に無いと判断された時のエアミックスドア開度変化評価変数α(n−1)と風量変化評価変数β(n−1)と吸込口変化評価変数γ(n−1)の合計(J(n−2)+α(n−1)+β(n−1)+γ(n−1))により求められる。
補足評価変数算出手段48は、エンジン1がアイドルストップ状態に無いと判断された場合に、所定時間毎に前記補足評価変数J(n−1)を算出する。
空調用制御手段32は、エンジン1がアイドルストップ状態に有ることが検出され、設定温度変更量が設定温度所定値よりも大きいことが検出された場合に、最新の補足評価変数J(n−1)とエアミックスドア開度変化評価変数α(n)と風量変化評価変数β(n)と吸込口変化評価変数γ(n)の合計(J(n−1)+α(n)+β(n)+γ(n))と評価変数所定値との大小関係を比較して、エンジン1のアイドルストップ状態の解除若しくは継続を実施する。
これにより、エンジン1がアイドルストップ状態になる前の空調装置2の状況を考慮して、エンジン1のアイドルストップ時の空調性能確保の可否を判定でき、より確実にエンジン1のアイドルストップ時のアイドルストップ状態の解除若しくは継続を判定できる。
【0017】
次いで、この実施例に係る空調制御を、図3のフローチャートに基づいて説明する。
図3に示すように、空調用制御手段32のプログラムがスタートすると(ステップA01)、補足評価変数J(n−1)を算出する(ステップA02)。この補足評価変数J(n−1)の算出は、後述の図4のフローチャートに沿って行われる。
そして、エンジン1のアイドルストップが開始したか否かを判断する(ステップA03)。
このステップA03がNOの場合には、所定時間経過したか否かを判断し(ステップA04)、このステップA04がNOの場合には、この判断を継続する。
このステップA04がYESの場合には、前記ステップA02で算出された最新の補足評価変数J(n−1)に更新し(ステップA05)、前記ステップA02に戻す。
前記ステップA03がYESの場合には、設定温度(SET_is)を記録する(ステップA06)。
そして、|設定温度操作量|≧設定温度所定値か否かを判断する(ステップA07)。
このステップA07がYESの場合には、評価変数J(n)を算出する(ステップA08)。この評価変数J(n)の算出は、後述の図4のフローチャートに沿って行われる。
次いで、|評価変数J(n)|≦評価変数所定値か否かを判断する(ステップA09)。
このステップA09がYESの場合には、エンジン1のアイドルストップを解除し、エンジン1を駆動する(ステップA10)。
一方、前記ステップA07がNOの場合、前記ステップA09がNOの場合には、エンジン1のアイドルストップを継続する(ステップA11)。
前記ステップA10の処理後、又は、前記ステップA11の処理後は、プログラムをエンドとする(ステップA12)。
【0018】
図4には、評価変数J(n)及び補足評価変数J(n−1)を算出するフローチャートを示す。
この評価変数J(n)と補足評価変数J(n−1)との基本的な算出方法は、以下のように、同じである。
つまり、
評価変数J(n)は、
J(n)=J(n−1)+α(n)+β(n)+γ(n)
で求められる。
補足評価変数J(n−1)は、
J(n−1)=J(n−2)+α(n−1)+β(n−1)+γ(n−1)
で求められる。
この補足評価変数J(n−1)の算出方法において、J(n−2)は、J(n−1)を求める前の評価変数である。この場合、フローチャート開始の初期値のJ(n−2)は、零(0)となる。
【0019】
図4では、評価変数J(n)の算出について説明する。
図4に示すように、空調用制御手段32のプログラムがスタートすると(ステップB01)、エアミックスドア開度変化評価をするために、エアミックスドア開度変化評価変数α(n)を算出する(ステップB02)。
このエアミックスドア開度変化評価変数α(n)は、
α(n)=a1(係数)×(エアミックスドア開度(現在値)−エアミックスドア開度(前回値))(a1(係数)≧0)
で求められる。
このエアミックスドア開度変化評価変数α(n)について具体的に説明すると、エアミックスドア開度変化評価変数α(n)は、エアミックスドア開度の変化から求められる。
このエアミックスドア開度とは、車室3内に送風される空気(吸出風)がヒータコア24を通過する割り合いによって変化する。吸出風のヒータコア24を通過する量の割り合いが大きいほど、エアミックスドア開度は、大となる。
また、エアミックスドア開度変化評価変数α(n)は、吸出風のヒータコア24の通過する割り合いを視ており、つまり、吸出風の純粋な温度変化を視ている。
そして、エアミックスドア開度(現在値)がエアミックスドア開度(前回値)よりも大の場合には、エアミックスドア開度変化評価変数α(n)は、正の値を採る。一方、エアミックスドア開度(現在値)がエアミックスドア開度(前回値)よりも小の場合には、エアミックスドア開度変化評価変数α(n)は、負の値を採る。
エアミックスドア開度(現在値)とエアミックスドア開度(前回値)との差が大きいほど、エアミックスドア開度変化評価変数α(n)の絶対値は、大きくなる。
【0020】
その後、風量変化評価をするために、先ず、風量変化が有るか否かを判断し(ステップB03)、このステップB03がYESの場合には、風量変化評価変数β(n)を算出し(ステップB04)、一方、このステップB03がNOの場合には、風量変化評価変数β(n)を零(0)とする(ステップB05)。
この風量変化評価において、同一方向の温調(暖房/冷房)でも、ブロアファン22の風量増減は、その時点での自動制御状態によって異なる。従って、図5に示すように、吹出温度変化を条件として、風量変化評価変数β(n)(b1(係数)≧0)を算出する。
この風景変化評価変数β(n)について具体的に説明すると、図5に示すように、風量変化評価変数β(n)は、車室3内に送風される空気(吹出風)の温度変化より求められる。また、風量変化評価変数β(n)は、吹出風の温度変化による風量の変化を視ている。
そして、空調装置2の設定温度を上げた(ユーザが「暖房」を強める操作をした)場合には、吹出温度(現在値)が吹出温度(前回値)よりも大きいと、吹出温度変化が正(吹出温度変化>0)となる。このとき、風量変化評価変数β(n)は、正の値を採る。
一方、空調装置2の設定温度を下げた(ユーザが「冷房」を強める操作をした)場合には、吹出温度(現在値)が吹出温度(前回値)よりも小さいと、吹出温度変化が負(吹出温度変化<0)となる。このとき、風量変化評価変数β(n)は、負の値を採る。
そして、吹出温度(現在値)と吹出温度(前回値)との差が大きいほど、風量変化評価変数β(n)の絶対値は、大きくなる。
【0021】
この風量変化評価の処理後は、吸込口変化評価をするために、先ず、吸込口変化が有るか否かを判断し(ステップB06)、このステップB06がYESの場合には、|外気温度−内気温度|≧所定値か否かを判断し(ステップB07)、このステップB07がYESの場合には、吸込口変化評価変数γ(n)を算出し(ステップB08)、一方、前記ステップB06がNOの場合、又は前記ステップB07がNOの場合には、吸込口変化評価変数γ(n)を零(0)とする(ステップB09)。
この吸込口変化評価において、吸込口(外気導入、内気循環)変化及び車室3の内外の温度関係により、実際の吹出風が暖房(又は冷房)を促進するかを、図6に従って判断し、吸込口変化評価変数γ(n)を決定する。
図6においては、ユーザーが「暖房」を強める操作をした場合で、外気温度が内気温度よりも高いと、外気を利用して内気温度の上昇を可能とし、一方、内気温度が外気温度よりも高いと、外気を取り入れることによって内気温度の上昇が期待できない。
また、ユーザーが「冷房」を強める操作をした場合で、外気温度が内気温度よりも高いと、外気を取り入れないことによって内気温度の上昇を防止でき、一方、内気温度が外気温度よりも高いと、外気を利用して内気温度の低下を期待できない。なお、この図6中で、c1〜c4は、係数である。
この吸込口変化評価変数γ(n)について具体的に説明すると、図6に示すように、上記で求めた吹出温度変化が正であれば、吸込口変化評価変数γ(n)の採る値は、c1、c2のいずれかとなり、吹出温度変化が負であれば、吸込口変化評価変数γ(n)の採る値は、c3、c4のいずれかとなる。
さらに、内気温度と外気温度との大小関係を視て、吸込口変化評価変数γ(n)を決定する。
通常、エアミックスドア開度変化評価変数α(n)、風量変化評価変数β(n)は、共に、正、負のいずれかの値を採る。つまり、ユーザが「暖房」を強める操作をした場合には、エアミックスドア開度変化評価変数α(n)、風量変化評価変数β(n)は、共に、正となり、一方、ユーザが「冷房」を強める操作をした場合には、エアミックスドア開度変化評価変数α(n)、風量変化評価変数β(n)は、共に、負となる。
一方、吸込口変化評価変数γ(n)は、吸込口7、9の変化によって、ユーザが所望する「暖房」又は「冷房」の能力が阻害される場合に、評価変数J(n)を小さくする値を採る。具体的には、ユーザが「暖房」を強める操作をした場合に、内気温度よりも低い外気温度の取り込みを行う場合には、エアミックスドア開度変化評価変数α(n)、風量変化評価変数β(n)は正、吸込口変化評価変数γ(n)は負となり、又は、ユーザが「冷房」を強める操作をした場合には、外気温度よりも高い内気温度の取り込みを行う場合には、エアミックスドア開度変化評価変数α(n)、風量変化評価変数β(n)は負、吸込口変化評価変数γ(n)は正となる。
【0022】
この吸込口変化評価の処理後は、評価変数J(n)を算出する(ステップB10)。
この評価変数J(n)の算出では、補足評価変数J(n−1)に、前記ステップB02、前記ステップB04、及び前記ステップB08を反映させ、アイドルストップの開始から現時点までの温調変化を定量的に評価できる。
つまり、
J(n)=J(n−1)+α(n)+β(n)+γ(n)
となる。
ここで、評価変数J(n)の算出にあたり、補足評価変数J(n−1)を考慮しない場合には、
J(n)=α(n)+β(n)+γ(n)
となる。
この評価変数J(n)について具体的に説明すると、評価変数J(n)は、エアミックス開度変化評価変数α(n)、風量変化評価変数β(n)、吸込口変化評価変数γ(n)の値によって変化する。
なお、補足評価変数J(n−1)を求める場合、エアミックスドア開度変化評価変数α(n)は補足評価変数α(n−1)となり、風量変化評価変数β(n)は補足評価変数β(n−1)となり、吸込口変化評価変数γ(n)は補足評価変数γ(n−1)となる。
この補足評価変数J(n−1)を求める算出方法は、評価変数J(n)を求める場合と同様であるので、その詳しい説明は省略する。
評価変数J(n)の算出については、以下のように定めている。
J(n)=J(n−1)+α(n)+β(n)+γ(n)
ここで、J(n−1)は、アイドルストップ状態にない場合の評価変数(補足評価変数)である。
この理由は、補足評価変数J(n−1)を考慮することで、エンジン1がアイドルストップ状態になる前の空調装置2の状況を考慮して、エンジン1のアイドルストップ時の空調性能確保の可否を判定するためである。
これにより、より確実にエンジン1のアイドルストップ時のアイドルストップ状態の解除若しくは継続を判定できる。
なお、評価変数J(n)を求める算出式は、補足評価変数J(n−1)を考慮しない算出式としても良い。この場合の算出式は、以下のようになる。
J(n)=α(n)+β(n)+γ(n)
同様に、補足評価変数J(n−1)を求める算出式を、J(n−2)を考慮しない算出式としても良い。
この場合、J(n−1)の算出式は、以下のようになる。
J(n−1)=α(n−1)+β(n−1)+γ(n−1)
そして、このステップB10の処理後は、プログラムをエンドとする(ステップB11)。
【0023】
即ち、この実施例では、アイドルストップ可能な車両1であって、空調装置2が外気温度検出手段37、内気温度検出手段38等の検出情報から自動制御される自動式の空調装置2を前提とする。
そして、ユーザによる空調装置2の設定温度の操作におけるアイドルストップ解除の判定に、自動制御(エアミックスドア開度、風量、吸込口)による温調変化を条件として追加することにより、自動制御にて、快適状態が維持不可能である場合のみ、アイドルストップ解除とし、燃費悪化を最小限に抑えられる。
アイドルストップ開始からアイドルストップ解除の判定においては、先ず、評価変数J(n)を算出するため、温感に起因するエアミックスドア開度変化、風量変化、及び吸込口変化を評価する。この場合、吹出温度を、外気温度、内気温度等の各検出値、及び設定温度の操作情報より算出する。
自動計算された吹出温度からエアミックスドア開度(吹出風が熱源となるヒータコア24を通過する割合)を取得し、エアミックスドア開度(前回値)からの変化分であるエアミックスドア開度変化評価変数α(n)を計算する(α(n)>0:暖房側変化、α(n)<0:冷房側変化)。
また、風量変化評価として、吹出温度からブロワファン22の風量を取得し、風量(前回値)からの変化分である風量変化評価変数β(n)を計算する。この風量変化評価変数β(n)の正負は、風量の増減ではなく、吹出温度の暖房、又は冷房側変化により判断する(β(n)>0:暖房側変化、β(n)<0:冷房側変化)。
更に、吸込口変化評価として、吹出温度から吸込口(外気導入、内気循環)を取得し、吸込口(前回値)からの変化分である吸込口変化評価変数γ(n)を計算する。この場合、吸込口変化及び車窓内外の温度関係により、吸込口変化による暖房(又は冷房)促進を判断し、吸込口変化評価変数γ(n)を決定する(γ(n)>0:暖房促進、γ(n)<0:冷房促進)。
そして、上記の算出したエアミックスドア開度、風量、及び吸込口の変化を、評価変数J(前回値)に反映させる。
以上により、アイドルストップ開始から現時点までの温調変化を定量的に評価できる。 また、アイドルストップ解除の判定にあっては、第1に、ユーザの誤動作によるアイドルストップ解除の防止のため、アイドルストップ開始からの設定温度の操作量が設定値以上であることを確認する。そして、第1に、設定温度の操作量が設定値以上であれば、第2で、上記の算出した評価変数Jが設定値(操作量により可変)以下であることを確認する。この評価変数Jが設定値(操作量により可変)以下であれば、温調変化が小さいため、ヒータコア24又は空調用コンプレッサ28による冷暖房(エンジン1の駆動)が必要と判断し、アイドルストップが解除される。
【0024】
なお、この実施例においては、電力消費削減を目的に、電動コンプレッサやPTCヒータ等、エンジンの駆動を要しない空調制御システムに対しても適用可能である。
また、エアミックスドア開度変化、吸込口変化の代わりに、吹出温度用センサを設置して、吹出温度変化を評価しても良い。
更に、評価変数J(n)の比較対象となる設定値は、以下の(1)〜(3)の要素により可変させても良い。
(1)、外気温度、日計量等の車室外情報
(2)、省エネ/空調優先のモード情報(省エネ/空調優先切替スイッチを有する場合)
(3)、ファン、吸込口の自動制御状態(自動/手動)
【産業上の利用可能性】
【0025】
この発明に係る車両の空調制御装置を、電気自動車やハイブリッド車等の電動車両や、各種車両に適用可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 エンジン
2 空調装置
3 車室
7 外気吸込口
9 内気吸込口
11 吸込口変更手段
22 ブロアファン
23 エバポレータ
24 ヒータコア
25 エアミックスドア
26 エアミックスドア変更手段
28 空調用コンプレッサ
29 空調制御装置
30 制御手段
31 エンジン制御手段
32 空調用制御手段
35 アイドルストップ実施検出手段
36 アイドルストップ解除継続実施手段
37 外気温度検出手段
38 内気温度検出手段
39 空調操作パネル
40 設定温度変更手段
41 設定温度検出手段
42 アイドルストップ解除判定手段
43 エアミックスドア開度検出手段
44 吹出温度検出手段
45 風量変化検出手段
46 吸込口検出手段
47 評価変数算出手段
48 補足評価変数算出手段
49 補足評価変数記録手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内に送風を行うためのブロアファンと、前記車室内に送風される空気を冷却するためのエバポレータと、前記車室内に送風される空気を昇温するヒータコアと、前記車室内に送風される空気の一部をヒータコアに流入させるエアミックスドアと、このエアミックスドアの開度を変更するエアミックスドア開度変更手段と、空気の吸込口を外気導入又は内気循環に切り換える吸込口変更手段とを備える空調装置を設け、この空調装置の送風の温度を変更するための設定温度変更手段を設け、前記空調装置を作動して前記車室内への送風を制御する制御手段を設けた車両の空調制御装置において、前記空調装置の設定温度を検出する設定温度検出手段を設け、エンジンがアイドルストップ実施状態にあることを検出するアイドルストップ実施検出手段を設け、前記アイドルストップ実施状態の解除若しくは継続を実施するアイドルストップ解除継続実施手段を設け、前記制御手段は、前記エアミックスドアの開度を検出するエアミックスドア開度検出手段と、前記アイドルストップ実施状態の解除又は継続を判定するアイドルストップ解除判定手段とを備え、前記エンジンがアイドルストップ状態にあることが検出され、設定温度変更量が設定温度所定値よりも大きいことが検出された場合に、前記エアミックスドアの開度の変化量からエアミックスドア開度変化評価変数を求め、前記車室内への吹出温度の変化量から風量変化評価変数を求め、前記吸込口の変化から吸込口変化評価変数を求め、この吸込口変化評価変数は、所望する暖房若しくは冷房の性能確保を阻害する場合に、前記エアミックスドア開度変化評価変数と前記風量変化評価変数とは異なる増減方向の値に採られ、前記エアミックスドア開度変化評価変数と前記風量変化評価変数と前記吸込口変化評価変数の合計と評価変数所定値との大小関係を比較して、前記アイドルストップ状態の解除若しくは継続を実施することを特徴とする車両の空調制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、補足評価変数を求める補足評価変数算出手段を備え、この補足評価変数は、前記エンジンがアイドルストップ状態に無いと判断された時の前記エアミックスドア開度変化評価変数と前記風量変化評価変数と前記吸込口変化評価変数の合計により求められ、前記補足評価変数算出手段は、前記エンジンがアイドルストップ状態に無いと判断された場合に、所定時間毎に前記補足評価変数を算出し、前記制御手段は、前記エンジンがアイドルストップ状態に有ることが検出され、設定温度変更量が設定温度所定値よりも大きいことが検出された場合に、最新の補足評価変数とエアミックスドア開度変化評価変数と風量変化評価変数と吸込口変化評価変数の合計と評価変数所定値との大小関係を比較して、前記エンジンのアイドルストップ状態の解除若しくは継続を実施することを特徴とする請求項1に記載の車両の空調制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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