説明

車両の船積み用係止部構造

【課題】バンパ部の補強による重量増加やバンパ部の衝撃吸収機能の低下を招くことなく、既存の部品を利用して係止具を係止して車両を船体に固定することができる車両の船積み用係止部構造を提供すること。
【解決手段】サスペンションフレームとその前方に配置されたラジエータサポートメンバ(車体部品)とをガセット12によって連結し、該ガセット12にベルト(船積み用係止具)19を係止するための係止部を設けて成る車両の船積み用係止部構造として、前記ガセット12の前記サスペンションフレームへの取付部と前記ラジエータサポートメンバへの取付部との間に、ベルト19が入り込む係止孔17を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両を船積みして輸送する場合に、船に車両を固定するためのロープやベルト等の係止具を車両に係止するための係止部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両を船積みして輸送する場合、該車両を車体固定用のベルト等の係止具によって船体に固定する必要がある。従来は、例えばバンパ部にアイボルトをねじ込み、そのアイボルトにベルト等の係止具をフック掛けすることによって車両を船体に固定することが行われていた。
【0003】
尚、特許文献1には、タイダウン用或いは牽引用の係止具を掛けるフック部とガード部を備えるロッドを補強用のステーに取り付ける構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−289100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来のようにバンパ部にねじ込まれたアイボルトにベルト等の係止具をフック掛けすると、バンパ先端に通常の使用状態と異なる下向きの引張荷重が負荷されるため、その引張荷重に絶えることができるよう通常の使用状態では不要の補強部材にてバンパ部を補強する必要がある。しかし、バンパ部を補強部材で補強すると、その重量が増すばかりか、剛性が高くなり過ぎ衝撃を吸収するというバンパ部本来の機能が損なわれる可能性があり、補強部材の形状等の設計や試験に多大な工数が掛かるという問題がある。
【0006】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、バンパ部の補強による重量増加やバンパ部の衝撃吸収機能の低下を招くことなく、既存の部品を利用して係止具を係止させ、車両を船体に固定することができる車両の船積み用係止部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、サスペンションフレームとその前方に配置された車体部品とをガセットによって連結し、該ガセットに船積み用係止具を係止するための係止部を設けて成る車両の船積み用係止部構造として、前記ガセットの前記サスペンションフレームへの取付部と前記車体部品への取付部との間に、船積み用係止具が入り込む係止孔を形成したことを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記ガセットを車体に対して略水平且つ前方側が後方側に対して車幅方向中央側に寄るよう斜めに配置するとともに、前記係止孔をガセットの長手方向に沿って長い長孔として形成し、ガセットの少なくとも係止孔よりも車幅方向中央側に補強部材を取り付けたことを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記補強部材を前記ガセットの前記サスペンションフレームへの取付部の下方まで延設し、その延設部を下方へ屈曲させて第2の係止部を形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明によれば、バンパ部ではなく、補強部材である既存のガセットのサスペンションフレームへの取付部と車体部品への取付部との間に形成された係止孔にベルト等の係止具を係止するようにしたため、簡単な構成で車両を船体に固定することができ、バンパ部の補強が不要となり、補強による重量増加やバンパ部の衝撃吸収機能の低下を防ぐことができる。
【0011】
請求項2記載の発明によれば、ガセットを車体に対して略水平且つ前方側が後方側に対して車幅方向中央側に寄るよう斜めに配置したため、該ガセットの全長が長くなり、この長いガセットの長手方向に沿って比較的大きな係止孔を形成することができ、該係止孔への係止具の係止作業が容易化する。又、ガセットの少なくとも係止孔よりも車幅方向中央側に補強部材を取り付け、係止孔よりも車幅方向中央側に係止具を係止可能としたため、該補強部材によってガセットの強度と剛性が高められ、係止具による引張りによってガセットの変形が防がれるともに、ガセットによって連結されるサスペンションフレームと車体部品を含む前部車体構造の剛性が高められて車両の走行安定性が高められる。
【0012】
請求項3記載の発明によれば、補強部材をガセットのサスペンションフレームへの取付部の下方まで延設し、その延設部を下方へ屈曲させて第2の係止部を形成したため、係止具の係止位置の自由度が増えるとともに、下方へ屈曲する第2の係止部への係止具の係止が容易化して作業性が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】車両前部の車体構造を示す斜視図である。
【図2】車両前部を斜め下方から見た部分斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る船積み用係止部構造を示すガセットの平面図である。
【図4】図3のA−A線断面図である。
【図5】図3のB−B線断面図である。
【図6】本発明の実施の形態1に係る船積み用係止部構造を備えるガセットの使用状態を示す斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態1に係る船積み用係止部構造を備えるガセットの使用状態を示す底面図である。
【図8】本発明の実施の形態2に係る船積み用係止部構造を備えるガセットの使用状態を示す斜視図である。
【図9】図8のC−C線断面図である。
【図10】本発明の実施の形態2に係る船積み用係止部構造を備えるガセットの使用状態を示す底面図である。
【図11】本発明の実施の形態2に係る船積み用係止部構造の変形例を示す図9と同様の図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は車両前部の車体構造を示す斜視図、図2は車両前部を斜め下方から見た部分斜視図であり、図1に示すように、車両1の前端上部には車幅方向に水平に延びるアッパクロスメンバ(フードロックメンバ)2が配されており、このアッパクロスメンバ2の左右両端部は、上下方向に延びるランプサポートブレース3を介して左右一対のエプロンサイドメンバ4に連結されている。
【0016】
上記エプロンサイドメンバ4は、エンジンルームSの左右両側に車両前後方向に沿って配設されており、これらのエプロンサイドメンバ4の各前端には、閉断面構造を有して垂直下方に延びるエプロンサイドメンバフロント4Aがそれぞれ設けられている。そして、左右のエプロンサイドメンバフロント4Aの下端部前面には、車幅方向に配されたラジエータサポートメンバ5の左右両端部が車両前方から固定されている。又、左右のエプロンサイドメンバフロント4Aの上部前面には、前記ラジエータサポートメンバ5の上方に車幅方向に配されたバンパメンバ6の左右両端部がクラッシュボックス7及び矩形板状の取付フランジ8を介してそれぞれ取り付けられている。
【0017】
尚、車体前部の前記バンパメンバ6の後方には不図示のラジエータが垂直に配されるが、このラジエータの上部は前記アッパクロスメンバ2に取り付けられ、下部は前記ラジエータサポートメンバ5上に支持される。そして、ラジエータと左右のエプロンサイドメンバ4及びダッシュパネル9によって囲まれる前記エンジンルームSには駆動源である不図示のエンジンやトランスミッション等が収容されており、このエンジンルームSの上方は前開き式の不図示のフロントフードによって覆われている。
【0018】
又、図2に示すように、エンジンルームSの底部には前後方向に延びる左右一対のサスペンションフレーム10が配設されており、これらのサスペンションフレーム10の各前端部はマウントボルト11によって左右の前記エプロンサイドメンバフロント4Aの各底面に取り付けられている。そして、左右のサスペンションフレーム10の前端の取付部とラジエータサポートメンバ5の車幅方向両端部の各底面とは補強用のガセット12によって連結されており、各ガセット12の前端は左右2本のボルト13によってラジエータサポートメンバ5の車幅方向両端部の底面に取り付けられ、後端はサスペンションフレーム10の前端に取り付けられた不図示のマウントブッシュに挿通する前記マウントボルト11によってサスペンションフレーム10と共にエプロンサイドメンバフロント4Aの各底面に共締めされて取り付けられている。
【0019】
而して、本実施の形態においては、ラジエータサポートメンバ5の左右両端部の上部はエプロンサイドメンバフロント4Aの前面に固定され、この固定点よりも車幅方向の車両中央側の下部はガセット12によってエプロンサイドメンバフロント4Aの底面に連結されて補強されるため、該ラジエータサポートメンバ5の取付強度と取付剛性が高められ、車体全体の剛性も高められる。特に、各ガセット12は、その前端部が後端部に比較して車幅方向中央に位置するよう斜めに配置されているため、フロントサイドメンバフロント4Aとラジエータサポートメンバ5との結合部の結合剛性がガセット12によって高められる。
【0020】
ところで、車両1は船積みされて輸送される場合があり、船積み時には車両1が車体固定用のベルト等の係止具によって船体に固定され、係止具の一端は車両1に設けられた係止部に係止される。ここで、本発明に係る船積み用係止部構造の実施の形態について説明するが、本発明は従来のバンパ部に代えて前記ガセット12に係止部を設けたことを特徴としている。
【0021】
<実施の形態1>
図3は本発明の実施の形態1に係る船積み用係止部構造を示すガセットの平面図、図4は図3のA−A線断面図、図5は図3のB−B線断面図、図6はガセットに係止具を係止した状態を示す斜視図、図7は同底面図である。尚、図3〜図7は左右一対のガセットの一方のみを図示するが、両ガセットは左右対称の形状であり、その基本構成は同じであるため、以下、一方のガセット及びこれに設けられた係止部構造についてのみ説明する。
【0022】
前記ガセット12は、板金のプレス成形品であって、その前端のラジエータサポートメンバ5への取付部の左右には前記ボルト13が挿通するための円孔14と長孔15が形成されている。又、ガセット12の後端のサスペンションフレーム10と共締めされる取付部には前記マウントボルト11が挿通するための円孔16が形成されている。
【0023】
ここで、ガセット12の後端のサスペンションフレーム10と共締めされる取付部は上方に膨出して下方が開口する円形の逆カップ状に成形されてその頂上に前記円孔16が形成されており、この取付部と前端のラジエータサポートメンバ5への取付部との間には、該ガセット12の長手方向に沿う長孔状の係止孔17が形成されている。この係止孔17によって、後述するベルト19の一端が係止されるガセット12の係止部を比較的細く形成することができる。
【0024】
ところで、ガセット12の前端のラジエータサポートメンバ5への取付部を除く外周部分と係止孔17の周縁は下方に向けて直角に折り曲げられて補強用のフランジが形成されており、ガセット12の係止孔17よりも車幅方向中央側の下面には、当該ガセット12の周縁フランジに沿わせて丸棒状の補強部材18が取り付けられている。
【0025】
而して、車両1を船積みする際には、図6及び図7に示すように、係止具である例えばベルト19の一端がガセット12の係止孔17に通され、該ベルト19の一端は、ガセット12の補強部材18によって補強された部位(係止孔17より車幅方向中央側の部分)に掛けられて係止される。ここで、ベルト19の他端は船体に固定されており、車両1はその前端の左右がそれぞれベルト19によって船体に固定される。尚、図示しないが、車両1の後端の左右も同様にベルト19によって船体に固定される。
【0026】
ところで、ガセット12の後端のサスペンションフレームへ10と共締めされる取付部は、前述のようにサスペンションフレーム10に取り付けられた不図示のマウントブッシュと重ねられて共締めによってサスペンションフレーム10と共にエプロンサイドメンバフロント4Aの各底面に取り付けられるため、ガセット12とサスペンションフレーム10との間には隙間が形成されており、この隙間をベルト19の係止作業用空間として利用することができるために作業性が高められる。
【0027】
以上において、本実施の形態では、従来のようにバンパ部ではなく、補強部材であり比較的強度剛性のある既存のガセット12に形成された係止孔17を利用して補強部材18によって補強された部位(係止孔17より車幅方向中央側の部分)に係止具であるベルト19の一端を係止するようにしたため、簡単な構成で車両1を船体に固定することができる。このため、バンパ部の補強が不要となり、補強による重量増加やバンパ部の衝撃吸収機能の低下を防ぐことができる。
【0028】
又、本実施の形態では、ガセット12を車体に対して略水平且つ前方側が後方側に対して車幅方向中央側に寄るよう斜めに配置したため、該ガセット12の全長が長くなり、この長いガセット12の長手方向に沿って比較的大きな係止孔17を形成することができ、係止孔17と共に係止孔17より車幅方向中央側の部分を比較的長く形成することができ、該係止孔17へのベルト19の係止作業を容易化することができる。そして、本実施の形態では、ガセット12の係止孔17よりも車幅方向中央側に補強部材18を取り付けたため、該補強部材18によってガセット12の強度と剛性が高められ、ベルト19による引張りによってガセット12の変形が防がれるともに、ガセット12によって連結されるサスペンションフレーム10とラジエータサポートメンバ5を含む前部車体構造の剛性が高められて車両1の走行安定性が高められる。
【0029】
<実施の形態2>
次に、本発明の実施の形態2に係る船積み用係止部構造を図8〜図10に基づいて以下に説明する。
【0030】
図8は本発明の実施の形態2に係る船積み用係止部構造を備えるガセットの使用状態を示す斜視図、図9は図8のC−C線断面図、図10は同ガセットの使用状態を示す底面図であり、これらの図においては図3〜図7において示したものと同一要素には同一符号を付しており、以下、それらについての再度の説明は省略する。
【0031】
本実施の形態では、U字状の補強部材20を使用し、そのU字状の直線状部分を係止孔17の両側に配置するとともに、そのU字状の屈曲部をガセット12の後端のサスペンションフレーム10と共締めされる取付部の下方に配置し、そのU字状の屈曲部を第2の係止部20aとして構成したことを特徴とする。
【0032】
而して、本実施の形態に係る係止部構造によれば、車両1を船積みする際には、図10に示すように、係止具である例えばベルト19の一端に取り付けられたフック21を補強部材20の第2の係止部20aに掛けることによってベルト19の一端がガセット12に係止され、車両1はその前端の左右がそれぞれベルト19によって船体に固定される。尚、図示しないが、車両の後端の左右も同様にベルト19によって船体に固定される。
【0033】
従って、本実施の形態においても、前記実施の形態1と同様の効果が得られるが、本実施の形態では係止孔17以外に補強部材20によって上方に膨出しているガセット12の後端のサスペンションフレーム10と共締めされる取付部の下方に第2の係止部20aを形成したため、ベルト19の係止位置の自由度が増えるという効果が得られる。
【0034】
又、補強部材20に形成された第2の係止部20aは、ガセット12の後端の円形の逆カップ状の空間に臨むため、該第2の係止部20aにフック21を掛けるための空間が確保されており、従って、ベルト19の第2の係止部20aへの係止を作業性良く行うことができる。そして、この場合、補強部材20がガセット12の下方へ突出しないため、この補強部材20によって車両1の最低地上高が制限されたり、走行時の空気抵抗が増える等の不具合が発生することもない。
【0035】
更に、本実施の形態では、U字状の補強部材20によってガセット12の係止孔17の両側部分が補強されるため、ガセット12の剛性が補強部材20によって一段と高められる。
【0036】
尚、図11に示すように、補強部材20の第2の係止部20aを下方へ向けて斜めに屈曲させれば、作業空間が拡大し、該第2の係止部20aへのフック21の係止が更に容易化して作業性が高められる。
【符号の説明】
【0037】
1 車両
5 ラジエータサポートメンバ(車体部品)
10 サスペンションフレーム
11 マウントボルト
12 ガセット
13 ボルト
17 係止孔
18 補強部材
19 ベルト(係止具)
20 補強部材
20a 第2の係止部
21 フック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サスペンションフレームとその前方に配置された車体部品とをガセットによって連結し、該ガセットに船積み用係止具を係止するための係止部を設けて成る車両の船積み用係止部構造であって、
前記ガセットの前記サスペンションフレームへの取付部と前記車体部品への取付部との間に、船積み用係止具が入り込む係止孔を形成したことを特徴とする車両の船積み用係止部構造。
【請求項2】
前記ガセットを車体に対して略水平且つ前方側が後方側に対して車幅方向中央側に寄るよう斜めに配置するとともに、前記係止孔をガセットの長手方向に沿って長い長孔として形成し、ガセットの少なくとも係止孔よりも車幅方向中央側に補強部材を取り付けたことを特徴とする請求項1記載の車両の船積み用係止部構造。
【請求項3】
前記補強部材を前記ガセットの前記サスペンションフレームへの取付部の下方まで延設し、その延設部を下方へ屈曲させて第2の係止部を形成したことを特徴とする請求項2記載の車両の船積み用係止部構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−6546(P2012−6546A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146144(P2010−146144)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】