説明

車両の衝撃吸収構造

【課題】車両重量の増加を抑制しつつ、エネルギー吸収性能を高めることができる車両の衝撃吸収構造を得る。
【解決手段】第一衝撃吸収体30は、キャビン形成部20に対して車両前方側に配置され、変形することにより衝突時のエネルギーを吸収する。また、第一衝撃吸収体30の後端部が取り付けられた質量体12は、前輪14及び車輪支持体16を含んで構成され、前面衝突時に第一衝撃吸収体30から荷重が入力された状態では当該入力された方向に沿って移動可能になっている。さらに、質量体12とキャビン形成部20との間に介在された第二衝撃吸収体32、34は、前面衝突時に質量体12から入力された荷重をキャビン形成部20に支持させながら変形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両衝突時の衝撃を吸収するための車両の衝撃吸収構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両構造においては、例えば、オフセット衝突時等でクラッシュボックスやサイドメンバに荷重が伝達されにくい場合であっても効率良く荷重を伝達させることができる技術が知られている(例えば、特許文献1〜10参照)。また、小型車両構造においては、前面衝突時に衝撃吸収ストロークを確保するために、車体前部のサイドビーム及びセンタービームを連結部材により連結一体化して側面視三角形状とした構造がある(例えば、特許文献11参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−255663号公報
【特許文献2】特開2008−195261号公報
【特許文献3】特開2005−119537号公報
【特許文献4】特開平6−16154号公報
【特許文献5】特開2008−222037号公報
【特許文献6】特開2004−338615号公報
【特許文献7】特開平9−272459号公報
【特許文献8】米国特許第6866115B2号明細書
【特許文献9】米国特許第5275436号明細書
【特許文献10】米国特許第3881742号明細書
【特許文献11】特開平9−286354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの構造は、車両重量の増加を抑制しつつ、エネルギー吸収性能を高めるという観点からは改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して、車両重量の増加を抑制しつつ、エネルギー吸収性能を高めることができる車両の衝撃吸収構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載する本発明の車両の衝撃吸収構造は、キャビンを形成するキャビン形成部に対して車両前後方向外側に配置され、変形することにより衝突時のエネルギーを吸収する第一衝撃吸収体と、前記第一衝撃吸収体における車両前後方向内側の端部が取り付けられ、衝突時に前記第一衝撃吸収体から荷重が入力された状態では当該入力された方向に沿って移動可能な質量体と、前記質量体と前記キャビン形成部との間に介在され、衝突時に前記質量体から入力された荷重を前記キャビン形成部に支持させながら変形する第二衝撃吸収体と、を有する。
【0007】
請求項1に記載する本発明の車両の衝撃吸収構造によれば、第一衝撃吸収体は、キャビンを形成するキャビン形成部に対して車両前後方向外側に配置され、変形することにより衝突時のエネルギーを吸収する。また、第一衝撃吸収体における車両前後方向内側の端部が取り付けられた質量体は、衝突時に第一衝撃吸収体から荷重が入力された状態では当該入力された方向に沿って移動可能になっており、車両における既存の構造物を適用できる。さらに、質量体とキャビン形成部との間に介在された第二衝撃吸収体は、衝突時に質量体から入力された荷重をキャビン形成部に支持させながら変形する。
【0008】
すなわち、車両の衝突時には、第一衝撃吸収体が変形することでエネルギーが吸収されるだけでなく、質量体が元の位置に留まろうとしながら移動することで効果的にエネルギーが吸収される。また、第一衝撃吸収体及び質量体によって衝突エネルギーは吸収され、さらに第二衝撃吸収体の変形によって当該衝突エネルギーが吸収され、低減された荷重が第二衝撃吸収体からキャビン形成部に伝達される。
【0009】
請求項2に記載する本発明の車両の衝撃吸収構造は、前記質量体は、車輪と、前記車輪を回転自在に支持する車輪支持体と、を含んで構成され、前記車輪支持体に前記第一衝撃吸収体が取り付けられている。
【0010】
請求項2に記載する本発明の車両の衝撃吸収構造によれば、質量体が車輪と車輪支持体とを含んで構成されて車輪は車輪支持体に回転自在に支持されており、車輪支持体に第一衝撃吸収体が取り付けられている。車両の衝突時には、車輪及び車輪支持体を備えた質量体が元の位置に留まろうとしながら移動することで効果的にエネルギーが吸収される。
【0011】
請求項3に記載する本発明の車両の衝撃吸収構造は、請求項1又は請求項2に記載の構成において、前記第二衝撃吸収体は、衝突時に前記質量体から荷重が入力された状態では変形することによって前記キャビン内の乗員着座部側に車両上方側への荷重を作用させて前記乗員着座部を車両上方側に変位させるリンク機構を備えている。
【0012】
請求項3に記載する本発明の車両の衝撃吸収構造によれば、衝突時に質量体から第二衝撃吸収体に荷重が入力された場合、第二衝撃吸収体のリンク機構が変形することによって、キャビン内の乗員着座部側に車両上方側への荷重が作用し、乗員着座部が車両上方側に変位させられる。これによって、衝突時のエネルギーが吸収されながら乗員の脚部が低い位置から退避される。
【0013】
請求項4に記載する本発明の車両の衝撃吸収構造は、請求項3記載の構成において、前記キャビンに設けられ、衝突時に前記リンク機構によって変換された車両上方側への荷重を受ける乗員着座用のシートと、前記シートにおけるシート後部側にシート幅方向を回動軸線方向として設けられ、前記シートを前記キャビン形成部に対して回動可能に支持する回動支持部と、を有する。
【0014】
請求項4に記載する本発明の車両の衝撃吸収構造によれば、キャビンに設けられた乗員着座用のシートは、衝突時にリンク機構によって変換された車両上方側への荷重を受ける。また、シートにおけるシート後部側にシート幅方向を回動軸線方向として設けられた回動支持部は、シートをキャビン形成部に対して回動可能に支持する。このため、車両の前面衝突時には、シートは、シート前部が持ち上げられるように回動するので、衝突時のエネルギーが吸収されながら、前面衝突の反動による乗員の二次衝突が防止又は抑制される。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明に係る請求項1に記載の車両の衝撃吸収構造によれば、車両重量の増加を抑制しつつ、エネルギー吸収性能を高めることができるという優れた効果を有する。
【0016】
請求項2に記載の車両の衝撃吸収構造によれば、既存の車輪及び車輪支持体を含んで構成された質量体を利用してエネルギー吸収性能を高めることができるという優れた効果を有する。
【0017】
請求項3に記載の車両の衝撃吸収構造によれば、衝突時のエネルギーを吸収しながら、乗員の脚部を低い位置から退避させることができるという優れた効果を有する。
【0018】
請求項4に記載の車両の衝撃吸収構造によれば、前面衝突時のエネルギーを吸収しながら、前面衝突の反動による乗員の二次衝突を防止又は抑制することができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両の衝撃吸収構造を示す模式的な側面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る車両の衝撃吸収構造が適用されたコミュータと他の車両との前面衝突時の状態を模式的に示す側面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る車両の衝撃吸収構造における前面衝突時の力の伝達関係を示す模式図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る車両の衝撃吸収構造が適用されたコミュータが他の車両と前面衝突した際の作用を示す模式的な側面図である。
【図5】車両がバリアに前面衝突した場合におけるバリア荷重と車体変形量との関係の特性を示す線図である。図5(A)は本実施形態のモデルの特性を示す線図である。図5(B)は第一衝撃吸収体と第二衝撃吸収体とを質量体を介さずに接続した比較例モデルの特性を示す線図である。
【図6】本実施形態のモデルの各部における発生荷重と時間との関係の特性を示す線図である。
【図7】本実施形態のモデルの第一衝撃吸収体及び第二衝撃吸収体における変形量と時間との関係の特性を示す線図である。
【図8】車体加速度と車体変形量との関係の特性を示す線図である。図8(A)は本実施形態のモデルの特性を示す線図である。図8(B)は比較例モデルの特性を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(実施形態の構成)
本発明の一実施形態に係る車両の衝撃吸収構造について図1〜図8を用いて説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは車両の衝撃吸収構造が適用された車両の車両前方側を示しており、矢印UPは車両上方側を示している。
【0021】
図1には、車両の衝撃吸収構造の構成が模式的な側面図にて示されている。図1に示されるように、本実施形態に係る車両の衝撃吸収構造が適用される車両は、小型軽車両のコミュータ10とされている。コミュータ10は、一人又は二人乗り(本実施形態では一例として一人乗り)の車両とされ、車輪としての(本実施形態では左右一対の)前輪14及び後輪18を備えている。前輪14と後輪18との間には、フレーム21が設けられ、このフレーム21上にキャビン24の内外を隔成するキャビン外形部22が支持されている。フレーム21及びキャビン外形部22は、キャビン24を形成するキャビン形成部20を構成している。なお、キャビン形成部20の車両前方側にはフロントフェンダ26が配設されている。
【0022】
コミュータ10の車両前端部には、バンパ(図示省略)が車幅方向を長手方向として配置されている。このバンパの車幅方向両サイド側には、第一衝撃吸収体30(第一衝撃吸収部材)の前端部(車両前後方向外側の端部)が配設されている。第一衝撃吸収体30は、車両前後方向を長手方向とした角筒状(パイプ状)のクラッシュボックスとされてキャビン形成部20に対して車両前方側(車両前後方向外側)に配置され、車両前方側からの所定値以上の荷重入力時に軸圧縮変形可能とされている。すなわち、第一衝撃吸収体30は、塑性変形可能な材料(例えば、鋼材等の金属材料や樹脂材料)で形成され、前面衝突時には塑性変形することにより衝突時のエネルギーを吸収するようになっている。
【0023】
第一衝撃吸収体30における後端部(車両前後方向内側の端部)は、車両前部の両サイドに設けられたサスペンション15の車輪支持体16(ナックル)に固定状態で取り付けられている。なお、サスペンション15は、キャビン形成部20を含んで構成される車体11側と、前輪14側とを連結しており、前輪14側から車体11側への振動を緩衝させる装置(懸架装置)とされている。また、後輪18側にも同様のサスペンション17が設けられている。
【0024】
車輪支持体16は、前輪14を回転自在に支持する(換言すれば、前輪14のホイールと一体的に回転することがない)部材とされ、サスペンションアーム(図示省略)やブレーキ(図示省略)が固定されている。前輪14と車輪支持体16は、本実施形態では、車両の衝撃吸収構造における質量体12(質量部)を構成している。重量物である質量体12は、前面衝突時に第一衝撃吸収体30から荷重が入力された状態では当該入力された方向に沿って移動可能とされている。
【0025】
車輪支持体16の車両後方側には、第二衝撃吸収体32(第二衝撃吸収部材)が車両前後方向を長手方向として配置されている。なお、仮に、第一衝撃吸収体30と第二衝撃吸収体32との両方を車輪支持体16に結合すると、車輪支持体16が車体11側に対して剛結状態になって荷重入力時の質量体12の移動量(ストローク)が大きく制限されてしまうので、本実施形態では、第二衝撃吸収体32と車輪支持体16との間には、若干の隙間が設定されている。
【0026】
第二衝撃吸収体32は、塑性変形可能な材料(例えば、鋼材等の金属材料や樹脂材料)で形成された衝撃吸収構造体であって、車両前後方向を長手方向とした角筒状(パイプ状)とされて車両前方側からの所定値以上の荷重入力時に軸圧縮変形可能とされた長尺状の長尺部32Bを備えている。また、第二衝撃吸収体32は、長尺部32Bの後端部に設けられた結合部32C(本体結合部)がキャビン形成部20側に結合(固定)されると共に、長尺部32Bの前端部に設けられた前側当て部32A(当て材)が車輪支持体16の車両後方側に近接して配置されている。前側当て部32Aは、車輪支持体16からの衝撃を効率良く受け止めるための部位とされている。
【0027】
以上により、第二衝撃吸収体32は、質量体12とキャビン形成部20との間に介在され、前面衝突時に質量体12から入力された荷重をキャビン形成部20に支持させながら軸圧縮変形するようになっている。すなわち、第二衝撃吸収体32は、前面衝突時に塑性変形することにより衝突時のエネルギーを吸収するようになっている。
【0028】
また、車輪支持体16には、リンク機構36により構成された第二衝撃吸収体34(第二衝撃吸収部材)が設けられている。第二衝撃吸収体34(リンク機構36)は、車両側面視で略逆V字状に配置された第一リンク36A及び第二リンク36Bを含んで構成された衝撃吸収構造体であり、車幅方向左右にそれぞれ設けられている。第一リンク36Aの一端部と車輪支持体16とはピン38Aによって車幅方向の軸回りに相対回転可能に連結されている。また、第一リンク36Aの他端部と第二リンク36Bの一端部とは、連結バー38Bによって車幅方向の軸回りに相対回転可能に連結されている。連結バー38Bは、左右一対のリンク機構36を連結して車幅方向に延在している。さらに、第二リンク36Bの他端部(本体結合部)とキャビン形成部20とは、ピン38Cによって車幅方向の軸回りに相対回転可能に連結されている。
【0029】
これにより、第二衝撃吸収体34(リンク機構36)は、質量体12とキャビン形成部20との間に介在され、前面衝突時に質量体12から入力された荷重をキャビン形成部20に支持させながら第一リンク36A及び第二リンク36Bがピン38A、38C及び連結バー38B回りに回動(回転移動)して変形するようになっている。すなわち、第二衝撃吸収体34は、前面衝突時に非弾性変形(関節であるリンク節周りの角変位)してリンク機構36の摩擦力等の反力の作用により衝突時のエネルギーを吸収(摩擦力等に変換されて消費)するようになっている。また、第二衝撃吸収体34は、リンク機構36によって、前面衝突時に質量体12から入力された荷重の作用方向を、車両前後方向から車両上方側へ変換することができる構造とされている。
【0030】
キャビン形成部20の内部となるキャビン24には乗員着座用のシート40が設けられている。シート40は、乗員着座部となるシートクッション40Bと、シートクッション40Bの後端部から立設されて乗員Pの背もたれ部となるシートバック40Cと、シートクッション40Bの前端部から垂下されると共にその下端部で車両前方側へ曲げられたシート下部40Aと、を含んで構成されている。
【0031】
シートクッション40Bの下面側には、その全長に亘ってシート前後方向に沿って略直線状に敷設された長尺状のガイドレール42が左右一対で形成されている。ガイドレール42は、下面側が開放された凹形状に形成されている。ガイドレール42内には、連結バー38Bに形成されたスライダ(図示省略)がガイドレール42の長手方向に沿って移動可能に配設されている。
【0032】
以上により、シート40は、前面衝突時にリンク機構36によって変換された車両上方側への荷重をシートクッション40Bの下面側で受けるようになっている。換言すれば、前面衝突時に質量体12からリンク機構36に荷重が入力された状態では、リンク機構36が変形することによって、キャビン24内のシートクッション40B(乗員着座部)側に車両上方側への荷重を作用させる構成になっている。つまり、リンク機構36が変形することによってシートクッション40Bを車両上方側に変位させることが可能な構造になっており、連結バー38Bはシート跳ね上げ部として機能するようになっている。
【0033】
また、シート40は、シートクッション40Bとシートバック40Cとの連結部(シート後部側)に回動支持部44を備えている。回動支持部44は、シート幅方向(車幅方向)を回動軸線方向として設けられており、シートクッション40Bとシートバック40Cとの連結部を貫通すると共に長手方向の両端部がキャビン形成部20に取り付けられることで、シート40をキャビン形成部20に対して回動可能に支持するようになっている。
【0034】
(実施形態の作用・効果)
次に、上記実施形態の作用及び効果について説明する。なお、図2には、本実施形態に係る車両の衝撃吸収構造が適用されたコミュータ10と他の車両50との前面衝突時の状態が模式的な側面図にて示されており、図3には、本実施形態に係る車両の衝撃吸収構造における前面衝突時の力の伝達関係が模式図にて示されている。
【0035】
図2及び図3に示されるように、前面衝突時には、衝突相手の車両50側から第一衝撃吸収体30に衝突時の荷重Fが入力される。このとき、第一衝撃吸収体30は、軸圧縮変形することにより所定の荷重を発生させつつストロークして衝突時のエネルギーを吸収し、質量体12に荷重を伝達する。なお、図3における矢印f1は、第一衝撃吸収体30による反力荷重を示している。
【0036】
図2及び図3に示されるように、第一衝撃吸収体30から質量体12に荷重が入力されると、質量体12は車両後方側(図3の矢印S方向参照)に移動して慣性エネルギー(運動エネルギー)によって衝突時のエネルギーを消費しながら、第二衝撃吸収体32、34に荷重を伝達する。ここで、質量体12は、図1に示される前輪14と車輪支持体16とを含んで構成された重量物であるので、前述のような慣性力を利用したエネルギーの消費量は大きい。
【0037】
また、図2及び図3に示される質量体12が第二衝撃吸収体32、34に伝達する荷重は、第一衝撃吸収体30から質量体12に入力された荷重から、質量体12の慣性力を利用したエネルギーの消費を差し引いた分の荷重となっている。このため、第二衝撃吸収体32、34に伝達される荷重は、第一衝撃吸収体30における荷重よりも小さくなっている。よって、第二衝撃吸収体32、34の耐力が第一衝撃吸収体30の耐力よりも小さい(換言すれば、第二衝撃吸収体32、34が第一衝撃吸収体30よりも軽量な)構造が可能となる。
【0038】
また、質量体12から第二衝撃吸収体32、34に荷重が入力されると、第二衝撃吸収体32、34は、質量体12から入力された荷重をキャビン形成部20(コミュータ本体)に支持させながら変形(図4に示されるように、第二衝撃吸収体32は軸圧縮変形、第二衝撃吸収体34は屈曲変形)して衝突時のエネルギーをさらに吸収する。なお、図3における矢印f2は、第二衝撃吸収体32、34による反力荷重を示している。以上により、衝突時のエネルギーが低減された状態でキャビン形成部20に荷重が伝達される。
【0039】
次に、これらの点について、単純化したモデルでシミュレーションした数値解析結果(図5)を参照しつつ説明する。図5は、車両がバリアに前面衝突した場合におけるバリアの荷重(相手車両から受ける力)と車体変形量との関係を示す数値解析結果である。図5(A)は本実施形態のモデルの数値解析結果を示し、実線が第一衝撃吸収体30の特性を示す線図であり、一点鎖線が車体全体の特性を示す線図である。これに対して、図5(B)は、第一衝撃吸収体と第二衝撃吸収体とを質量体を介さずに接続した比較例モデルの数値解析結果を示し、実線が第一衝撃吸収体の特性を示す線図であり、一点鎖線が車体全体の特性を示す線図である。本実施形態のモデル及び比較例モデルにおける強度及び質量の設定は、下記表1に示す通りである。なお、表中のA及びBは、所定の定数である。
【0040】
【表1】

【0041】
上記表1に示すように、本実施形態のモデルでは、前面衝突時の荷重に対する第二衝撃吸収体32、34の強度を前面衝突時の荷重に対する第一衝撃吸収体30の強度の半分に設定すると共に、質量体12の質量を車両全体の質量の20%、質量体12を除く質量(本体質量部の質量)を車両全体の質量の80%に設定している。これに対して、比較例モデルでは、前面衝突時の荷重に対する第一衝撃吸収体の強度を前面衝突時の荷重に対する第二衝撃吸収体の強度の半分に設定すると共に、前記の通り質量体は設定していない(換言すれば、本体質量部の質量は車両全体の質量と等しい設定とした)。なお、比較例モデルにおける第一衝撃吸収体と第二衝撃吸収体との強度設定バランスは、一般的な乗用車の強度設定バランスに合わせて設定しているため、本実施形態のモデルにおける第一衝撃吸収体と第二衝撃吸収体とが入れ替わった強度設定バランスになっている。また、比較例モデルの第一衝撃吸収体は、乗用車のクラッシュブルゾーンに相当する部位に設けられている。
【0042】
また、本実施形態のモデルの第一衝撃吸収体30の強度と比較例モデルの第二衝撃吸収体の強度を同一に設定すると共に、本実施形態のモデルの第二衝撃吸収体32、34の強度と比較例モデルの第一衝撃吸収体の強度を同一に設定し、さらに、本実施形態のモデルの車両全体の質量と比較例モデルの車両全体の質量とを同一に設定した。
【0043】
図5(B)に特性が示される比較例モデルでは、強度が低い第一衝撃吸収体のみに変形が集中し、当該第一衝撃吸収体が潰れ切って底付くまで低いバリア荷重が維持される。この間、強度が高い第二衝撃吸収体は一切変形しないため、車体全体の線図と第一衝撃吸収体の線図とは全く同じ線図を示している。ここで、第一衝撃吸収体が潰れ切っても相手車両との衝突エネルギーは吸収し切れないため、その後は強度が高い第二衝撃吸収体が変形することにより、残りの衝突エネルギーを吸収することになる。その後、対象車両と相手車両とを含めた全てが同じ速度になり、バリア荷重が0となってそれ以上は変形しない状態となる。
【0044】
これに対して、図5(A)に特性が示される本実施形態のモデルでは、衝突初期は、強度が高い第一衝撃吸収体30が変形し、同時に第二衝撃吸収体32、34も変形する。この間は、第二衝撃吸収体32、34も同時に変形しているため、横軸の車体全体変形量における前半までは高いバリア荷重が維持されている。その後、質量体12の慣性力が殆ど発生しなくなり、強度が低い第二衝撃吸収体32、34のみが変形することになる。その結果、低いバリア荷重のまま車体全体(車両全体)の変形が進んでいく。その後、対象車両(コミュータ10)と相手車両(他の車両50)とを含めた全てが同じ速度になり、バリア荷重が0となってそれ以上は変形しない状態となる。
【0045】
図5に示されるように、本実施形態のモデルによれば、その車体変形量を比較例モデルの車体変形量に比べて短くすることができる。なお、図5(A)の二点鎖線は、比較例モデルの車体変形量を示し、矢印aは、比較例モデルの車体変形量と本実施形態のモデルの車体変形量との差を示している。
【0046】
ここで、図6及び図7を参照しながら補足説明する。図6には、本実施形態のモデル(図5(A)の対象と同じモデル)についての発生荷重と時間との関係が示されている。図6は、実線が車両前面の特性を示す線図、点線が質量体12の特性を示す線図、一点鎖線が質量体12を除く部位(本体質量部)の特性を示す線図である。また、図7には、本実施形態のモデル(図5(A)の対象と同じモデル)における第一衝撃吸収体30及び第二衝撃吸収体32、34についての変形量と時間との関係が示されている。図7は、実線が第一衝撃吸収体30の特性を示す線図、一点鎖線が第二衝撃吸収体32、34の特性を示す線図である。
【0047】
図6に示されるように、衝突初期は、質量体12の慣性力によって(質量体12が元の位置に留まろうと踏ん張って)車両前面の荷重が大きくなっている。その後、質量体12が相手車両と同じ速度になり、質量体12の慣性力が殆ど発生しなくなるので、強度が低い第二衝撃吸収体32、34のみが変形することになり、第二衝撃吸収体32、34の低い発生荷重が車体の質量部に作用する。
【0048】
また、図7に示されるように、質量体12の慣性力がなくなるまでは、強度が高い第一衝撃吸収体30が主に変形する。その後、第一衝撃吸収体30は変形できなくなるが、第二衝撃吸収体32、34が変形して衝突エネルギーを吸収する。
【0049】
このように、質量体12が慣性力によって元の位置に留まろうとしながら移動することでエネルギー吸収が効果的になされる。また、強度が高い第一衝撃吸収体30が変形し衝突エネルギーを吸収することで、車両後部に作用する荷重を車両前部に作用する荷重よりも小さくすることができる。
【0050】
次に、車体加速度と車体変形量との関係の数値解析結果を示す図8を参照しながら、さらに補足説明する。図8(A)は、本実施形態のモデル(図5(A)の対象と同じモデル)の特性を示す線図であり、図8(B)は、比較例モデル(図5(B)の対象と同じモデル)の特性を示す線図である。なお、図8(B)の二点鎖線の線図は、図8(A)の線図を示したものであり、図8(B)の矢印b、cは、この二点鎖線の線図と実線の線図との車体加速度の差を示している。
【0051】
図8(B)に特性が示される比較例モデルでは、第一衝撃吸収体が潰れ切るまでは低い荷重のみがキャビン形成部側へ伝達される。しかし、第一衝撃吸収体が潰れ切った後に強度が強い第二衝撃吸収体が変形することになるので、第二衝撃吸収体の後端が取り付けられるキャビン形成部側は、高い荷重を受け持たなければならず、車体加速度は非常に大きくなってしまう。
【0052】
これに対して、図8(A)に特性が示される本実施形態のモデルでは、車体加速度が一定値で変形し続けていることが分かる。これは、強度が高い第一衝撃吸収体30の力を、質量体12の慣性力と、強度が低い第二衝撃吸収体32、34の耐力とが足し合わせて受け持っているためである。従って、第二衝撃吸収体32、34の後端が取り付けられるキャビン形成部20側は、常に低い荷重のみを受け持てばよいため、加速度も低い値を維持し続けていることが理解できる。
【0053】
以上の結果により、比較例モデルに比較して、本実施形態のモデルは、質量体12の慣性エネルギーを利用することで、エネルギー吸収特性が優れていることが分かる。また、両モデルの全体の車両質量と強度は同じであるため、本実施形態のモデルは、同一のエネルギー吸収性能を出すためには、より軽量化してもよいし、より小型化(車両前後方向に短く)してもよいことが理解できる。
【0054】
換言すれば、例えば、車両前部に配置された衝撃吸収体(衝撃吸収部材)のみで衝撃を吸収するような対比構造では、必要吸収エネルギーは、荷重とストロークの積の逐次積分となるので、車両重量の増加を抑制するのが難しい。なぜなら、荷重を一定とした場合、コンパクト性が重要なコミュータでは、ストロークを大きく設定することはレイアウト上困難である一方、荷重を大きくさせようとすると、質量が大きくなると共に、その荷重を支持する部材の強度も該荷重以上のものが必要となるからである。これに対して、本実施形態では、前輪14等の既存の構造物を質量体12としてエネルギーを吸収することで、車両重量の増加の抑制が可能となる。
【0055】
また、図1に示されるように、本実施形態に係る車両の衝撃吸収構造では、前面衝突時に質量体12から第二衝撃吸収体34のリンク機構36に荷重が入力された場合、図4に示されるように、第二衝撃吸収体34のリンク機構36が変形することによって、キャビン24内のシートクッション40B(乗員着座部)側に車両上方側への荷重が作用し、シートクッション40Bが車両上方側に変位させられる。これにより、衝突時のエネルギーが吸収されながら乗員Pの脚部が低い位置から退避される。なお、このときには、乗員Pの脚部の慣性力とリンク機構36の摩擦力等の反力の作用によって衝突時のエネルギーが吸収されている。
【0056】
さらに、本実施形態に係る車両の衝撃吸収構造では、シート40におけるシート後部側にシート幅方向を回動軸線方向として回動支持部44が設けられ、この回動支持部44がシート40をキャビン形成部20(図1参照)に対して回動可能に支持する。このため、車両の前面衝突時には、シート40は、シート前部が持ち上げられるように回動するので、衝突時のエネルギーが吸収されながら、シート上部が衝突相手側から遠方に変位することになる。また、このとき、乗員Pが図示しないシートベルト装置のウエビングベルトによって引かれる距離が長くなることも相まって、前面衝突の反動による乗員Pの二次衝突が防止又は抑制される。
【0057】
以上説明したように、本実施形態に係る車両の衝撃吸収構造によれば、車両における既存の構造物を質量体12として利用することで、車両重量の増加を抑制しつつ、エネルギー吸収性能(エネルギー吸収特性)を高めることができる。また、コストが低く抑えられるうえ、成形性や信頼性の高い構造や材料(使い慣れた機械要素)を使用しても、さらなる小型化、軽量化を図ることができる。
【0058】
(実施形態の補足説明)
なお、上記実施形態では、質量体12が前輪14と車輪支持体16とを含んで構成されているが、質量体は、例えば、エンジンにより構成された質量体や、後面衝突対応用として、後輪18と、後輪18を回転自在に支持する車輪支持体と、を含んで構成された質量体等のような他の質量体としてもよい。
【0059】
また、上記実施形態では、第一衝撃吸収体30がキャビン形成部20に対して車両前方側に配置されているが、第一衝撃吸収体は、後面衝突対応用として、キャビン形成部に対して車両後方側(車両前後方向外側)に配置されてもよく、その場合、その前端部(車両前後方向内側の端部)が、例えば、後輪やその車輪支持体を含んで構成された質量体に取り付けられてもよい。
【0060】
換言すれば、第一衝撃吸収体や第二衝撃吸収体の配置や質量体の対象を適宜選択することで、オフセット衝突等の前面衝突に限らず、他の方位の衝突に対応できる構造の設定が可能となる。
【0061】
また、上記実施形態では、第一衝撃吸収体30や第二衝撃吸収体32は、角筒状(パイプ状)とされているが、第一衝撃吸収体や第二衝撃吸収体は、例えば、蛇腹筒状に形成されたもの等のような他の第一衝撃吸収体や第二衝撃吸収体であってもよい。
【0062】
さらに、第一衝撃吸収体、質量体、及び第二衝撃吸収体の数や配置の仕方は、上記実施形態の例に限定されない。
【符号の説明】
【0063】
10 コミュータ(車両)
12 質量体
14 前輪(車輪)
16 車輪支持体
20 キャビン形成部
24 キャビン
30 第一衝撃吸収体
32 第二衝撃吸収体
34 第二衝撃吸収体
36 リンク機構
40 シート
40B シートクッション(乗員着座部)
44 回動支持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビンを形成するキャビン形成部に対して車両前後方向外側に配置され、変形することにより衝突時のエネルギーを吸収する第一衝撃吸収体と、
前記第一衝撃吸収体における車両前後方向内側の端部が取り付けられ、衝突時に前記第一衝撃吸収体から荷重が入力された状態では当該入力された方向に沿って移動可能な質量体と、
前記質量体と前記キャビン形成部との間に介在され、衝突時に前記質量体から入力された荷重を前記キャビン形成部に支持させながら変形する第二衝撃吸収体と、
を有する車両の衝撃吸収構造。
【請求項2】
前記質量体は、車輪と、前記車輪を回転自在に支持する車輪支持体と、を含んで構成され、前記車輪支持体に前記第一衝撃吸収体が取り付けられている請求項1記載の車両の衝撃吸収構造。
【請求項3】
前記第二衝撃吸収体は、衝突時に前記質量体から荷重が入力された状態では変形することによって前記キャビン内の乗員着座部側に車両上方側への荷重を作用させて前記乗員着座部を車両上方側に変位させるリンク機構を備えている請求項1又は請求項2に記載の車両の衝撃吸収構造。
【請求項4】
前記キャビンに設けられ、衝突時に前記リンク機構によって変換された車両上方側への荷重を受ける乗員着座用のシートと、
前記シートにおけるシート後部側にシート幅方向を回動軸線方向として設けられ、前記シートを前記キャビン形成部に対して回動可能に支持する回動支持部と、
を有する請求項3記載の車両の衝撃吸収構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−168129(P2011−168129A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32573(P2010−32573)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】