説明

車両の衝突エネルギ吸収装置

【課題】フロントタイヤを利用した衝突エネルギの吸収を確実に行う。
【解決手段】フロントアンダーランプロテクタ4は、車両1の前端下部で左右一対のフロントアンダーランブラケット5に支持され車幅方向に延びる。フロントアンダーランプロテクタ4は車幅方向の端部後面にエネルギ吸収体7の前板部9を支持している。エネルギ吸収体7は水平面に対する所定の傾斜角度で後上方へ傾斜して前後方向に延び、エネルギ吸収7の後端部のストッパ10はフロントタイヤ13の回転軸14よりも上方に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、他の車両との衝突時に衝突エネルギを吸収する衝突エネルギ吸収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2002−274300号公報には、大型トラック等の車両の前面下部に配置され、普通乗用車等の他の車両との正面衝突時に他の車両の車台下へのもぐり込みを防止するフロントアンダーランプロテクタの取付構造が記載されている。この構造では、車両のメインフレームに取付ステーが固定され、取付ステーの下部前側にフロントアンダーランプロテクタが固定される。取付ステーの下部後側には、昇降用ステップが固定され、昇降用ステップの後部は、フロントタイヤの前方に所定の間隔をおいて位置する。他の車両がフロントアンダーランプロテクタに衝突して取付ステーが後方に大きく変形すると、昇降用ステップの後部がフロントタイヤに衝突し、フロントタイヤの弾性力によって他の車両の衝撃が吸収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−274300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、衝突時にフロントアンダーランプロテクタに負荷される荷重は200kNを超える場合が多く、特開2002−274300号公報記載の構造では、昇降用ステップとの接触時にフロントタイヤが完全に停止せずに回転していると、昇降用ステップの後部とフロントタイヤとの間に動摩擦力が作用し、昇降用ステップの後部がフロントタイヤの回転方向への力を受けて下方へ変形する可能性がある。昇降用ステップの後部が下方へ変形すると、昇降用ステップの後部がフロントタイヤによって支持されず、フロントタイヤを利用した衝突エネルギの吸収が行われない可能性がある。
【0005】
そこで、本発明は、フロントタイヤを利用した衝突エネルギの吸収を確実に行うことが可能な衝突エネルギ吸収装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の衝突エネルギ吸収装置は、フロントアンダーランプロテクタと、エネルギ吸収体とを備える。フロントアンダーランプロテクタは、車両の前端下部に支持されて車幅方向に延びる。エネルギ吸収体は、フロントアンダーランプロテクタの後方で車両の側部に支持されて前後方向に直線状に延び、フロントアンダーランプロテクタに近接又は接触する前面とフロントタイヤの前面に対向する後面とを有し、水平面に対し後上方へ傾斜する。また、エネルギ吸収体の後面は、フロントタイヤの回転軸よりも上方に配置される。
【0007】
上記構成の衝突エネルギ吸収装置を備えた車両の前面に他の車両が衝突すると、フロントアンダーランプロテクタの端部が車両前後方向に変形してエネルギ吸収体を押圧し、エネルギ吸収体が車両後方へ移動すると、エネルギ吸収体の後面がフロントタイヤの前面に接触する。この接触時に、フロントタイヤが完全に停止せずに回転していると、エネルギ吸収体の後面は、フロントタイヤの回転方向に沿って下方向への動摩擦力の作用を受ける。しかし、エネルギ吸収体は、水平面に対して後上方へ傾斜し、フロントタイヤの前面に斜め下方から接触する。このため、エネルギ吸収体の後面には上方向の力が作用する。この上方向の力は、フロントタイヤからエネルギ吸収体の後部に作用するフロントタイヤの回転方向(下向き)の力を低減させる。その結果、エネルギ吸収体の後部の下方への変形が抑制され、エネルギ吸収体の後部がフロントタイヤの前面によって確実に支持され、エネルギ吸収体の車両後方への移動がフロントタイヤによって規制される。従って、フロントアンダーランプロテクタに入力する衝突エネルギを、エネルギ吸収体の変形によって確実に吸収することができる。また、エネルギ吸収体がフロントタイヤの前面によって確実に支持されるので、フロントタイヤの弾性力によって衝突エネルギを吸収することができる。
【0008】
このように、衝突時に車両後方へ移動するエネルギ吸収体の後面がフロントタイヤの前面によって確実に支持されるので、フロントタイヤを利用した衝突エネルギの吸収を確実に行うことができ、衝突時に他の車両に加わる衝撃を効率的に緩和することができる。
【0009】
また、フロントアンダーランプロテクタは、エネルギ吸収体の前面を支持するものであってもよい。上記構成では、衝突による力が、フロントアンダーランプロテクタを介して直接的にエネルギ吸収体に加わるので、迅速且つ確実に衝突エネルギを吸収することができる。
【0010】
また、上記衝突エネルギ吸収装置は、衝突力検出手段と傾斜角度変更手段とを備えてもよい。衝突力検出手段は、フロントアンダーランプロテクタに前方から作用する衝突力を検出する。エネルギ吸収体の前端部は車両に対して傾動自在に支持される。傾斜角度変更手段は、衝突力検出手段が検出する衝突力の増大に応じてエネルギ吸収体の後面が上昇するように、水平面に対するエネルギ吸収体の傾斜角度を変更する。
【0011】
フロントアンダーランプロテクタに前方から作用する衝突力が増大すると、エネルギ吸収体からフロントタイヤの前面に作用する後方への力が増大し、エネルギ吸収体の後面に作用する動摩擦力が増大するので、エネルギ吸収体の後部に作用する下方向の力が増大する。また、エネルギ吸収体の後面に作用する上向きの力は、衝突時に作用する力が同じであっても、エネルギ吸収体の傾斜角度が大きく設定されるほど増大する。このため、傾斜角度が大きく設定された状態において作用する衝突力が小さい場合には、エネルギ吸収体の後面に作用する上向きの力の方が下向きの力よりも大きくなってしまい、エネルギ吸収体の後部が上方に変形する可能性が生じる。一方、傾斜角度が小さく設定された状態において作用する衝突力が大きい場合には、エネルギ吸収体の後面に作用する下向きの力の方が上向きの力よりも大きくなってしまい、エネルギ吸収体の後部が下方に変形する可能性が生じる。このようにエネルギ吸収体の後部が上方又は下方に変形すると、エネルギ吸収体がフロントタイヤ前面によって支持されず、衝突エネルギの吸収が適切に行われない可能性がある。
【0012】
上記構成では、フロントアンダーランプロテクタに前方から作用する衝突力の増大に応じてエネルギ吸収体の傾斜角度が増大するので、エネルギ吸収体の後面に作用する上向きの力の強さを、衝突力の増減によって変動する下向きの力に応じて的確に増大させることができる。従って、フロントアンダーランプロテクタに作用する衝突力の強さが相違する場合であっても、エネルギ吸収体の後部の上方及び下方への変形を確実に抑制して、エネルギ吸収体をフロントタイヤの前面によって確実に支持することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、他の車両との衝突時において、発生する衝突エネルギをフロントタイヤを利用して確実に吸収して他の車両に与える衝撃を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態の衝突エネルギ吸収装置を備えた車両の前方下部の側面図である。
【図2】ストッパがタイヤに押し当てられた直後にストッパに作用する下向きの力を説明するための模式図である。
【図3】ストッパがタイヤに押し当てられた直後にストッパに作用する上向きの力を説明するための模式図である。
【図4】本発明の第2の実施形態の衝突エネルギ吸収装置を備えた車両の前方下部の側面図である。
【図5】図4の衝突エネルギ吸収装置のブロック図である。
【図6】傾斜角度変更処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の第1の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、図中のFRは車両前方を、UPは上方をそれぞれ示す。また、以下の説明において、前後方向は車両の進行方向の前後を意味し、左右方向は車両の進行方向前方を向いた状態での左右を意味する。
【0016】
図1に示すように、本実施形態の衝突エネルギ吸収装置が搭載されるキャブオーバートラック(車両)1は、キャブ2と、メインフレーム3と、フロントアンダーランプロテクタ(以下、FUPと称する)4と、フロントアンダーランブラケット(以下、FUPブラケットと称する)5と、フロントタイヤ13等を備えている。
【0017】
メインフレーム3は、車両1の車幅方向両側で車両前後方向に延びており、クロスメンバによって、左右各メインフレーム3の前端部間が連結されている。メインフレーム3の前端部には、下方へ延びる左右一対のフロントアンダーランブラケット5が固定されている。FUP4は、矩形筒状であり、フロントアンダーランブラケット5の前面に固定されて車幅方向に延びている。フェンダ12は、キャブ2の下部に固定されてフロントタイヤ13の上半分を覆っている。
【0018】
衝突エネルギ吸収装置は、上記FUP4とエネルギ吸収体7とを備えている。エネルギ吸収体7は、車両1の前端下部の左右両側にそれぞれ配置されている。なお、エネルギ吸収体7は左側と右側とがそれぞれ同様の構成を有するため、以下ではその一方(左側)について説明し、他方(右側)についての説明を省略する。
【0019】
エネルギ吸収体7は、本体8と前板部9とストッパ10とから構成され、FUP4とフロントタイヤ13との間に配置されている。
【0020】
本体8は、前後で開口する矩形筒状の外周板11と、外周板11の内部に充填されたエネルギ吸収材(例えば中空鉄球)とを有する。前板部9は、車幅方向及び上下方向の長さが本体8の前端部とほぼ等しい板状であり、本体8の前端面に固定されて本体8の前側開口を閉止する。ストッパ10は、車幅方向の長さが本体8の幅とほぼ等しく、上下方向の長さが本体8の後端部よりも長い板状であり、本体8の後端部に固定されて本体8の後側開口を閉止する。
【0021】
前板部9の前面(エネルギ吸収体7の前面)9aは、FUP4の端部後面に固定され、エネルギ吸収体7は、FUP4から後上方へ傾斜した状態でFUP4の端部後面に支持されている。水平面に対するエネルギ吸収体7の角度は、所定の傾斜角度θ(図2参照)に設定されている。車両1の前方衝突時において、エネルギ吸収体7に前方からの衝突荷重が加わり、且つエネルギ吸収体7の後方への移動が規制されている場合、外周板11及び内部に充填されたエネルギ吸収材がそれぞれ潰れ変形を起こす。この本体8の潰れ変形によって、エネルギ吸収体7に入力する衝突エネルギが効率的に吸収される。
【0022】
本体8の後端部の上下方向の中心は、フロントタイヤ13の回転軸14よりも上方に配置されている。ストッパ10の後面(エネルギ吸収体7の後面)10aは、フェンダ12の下方に位置し、フロントタイヤ13の前面13aに対向する。ストッパ10の後面(フロントタイヤ13と対向する面)10aは、フロントタイヤ13の外周面に沿って円弧状に湾曲し、ストッパ10の上端部及び下端部は、本体8の後端部からそれぞれ上下に突出している。車両1の前方衝突によってエネルギ吸収体7が後方に変移すると、ストッパ10の後面10aは、フロントタイヤ13の最前端の上方から下方に亘る比較的広い範囲でフロントタイヤ13の前面13aに面接触する。
【0023】
ストッパ10がフロントタイヤ13に面接触した際に、フロントタイヤ13が回転していると、図2に示すように、ストッパ10とフロントタイヤ13の前面13aとの間の動摩擦力によって、ストッパ10には鉛直下向きの力Fdが作用する。
【0024】
また、エネルギ吸収体7は、傾斜角度θでFUP4に固定されているので、図3に示すように、車両1の前方衝突によってFUP4に前方から力(以下、衝突力と称する)Fcが作用すると、本体8は、傾斜角度θに沿った押圧力Fsでストッパ10を押圧する。このとき、ストッパ10には、押圧力Fsの水平方向の分力Fh(Fh=Fs×cosθ)及び鉛直上方向の分力Fu(Fu=Fs×sinθ)が作用する。すなわち、ストッパ10には、上記鉛直下向きの力Fdを低減させる鉛直上方向の力Fuが作用する。
【0025】
FUP4に前方から作用する衝突力Fcが増大し、ストッパ10に作用する押圧力Fsが増大すると、ストッパ10からフロントタイヤ13の前面13aに作用する後方への力が増大し、ストッパ10に作用する動摩擦力が増大するので、ストッパ10に作用する鉛直下向きの力Fdが増大する。また、ストッパ10に作用する鉛直上方向の力Fuは、衝突時に作用する押圧力Fsが同じであっても、エネルギ吸収体7の傾斜角度θが大きく設定されるほど増大する。このため、傾斜角度θが大きく設定されていると、作用する押圧力Fsが過小であるときに、ストッパ10に作用する鉛直上方向の力Fuの方が鉛直下向きの力Fdよりも大きくなり、エネルギ吸収体7が上方へ変形してしまう可能性が生じる。また、反対に、傾斜角度θが小さく設定されていると、作用する押圧力Fsが過大であるときに、ストッパ10に作用する鉛直下向きの力Fdの方が鉛直上方向の力Fuよりも大きくなり、エネルギ吸収体7が下方へ変形してしまう可能性が生じる。このため、上記不都合の発生頻度が少ない適切な傾斜角度θの値(傾斜角度θの適正角度)を求める必要がある。
【0026】
傾斜角度θの適正値は、FUP4とフロントタイヤ13との上下方向の距離(鉛直高さ)の関係(レイアウト)や、エネルギ吸収体7の特性や、衝突力Fcの大きさ等の影響を受けて変化する。FUP4とフロントタイヤ13との上下方向の距離やエネルギ吸収体7の特性は、衝突形態(衝突速度や対向車重量など)によって変化しない車両1に固有の値である。これに対し、衝突力Fcの大きさは、同一の車両1であっても、衝突形態によって変化する値である。従って、衝突速度や対向車重量が異なる多様な衝突形態での車両1の衝突実験を行ない、最も多くの衝突形態において、エネルギ吸収体7の上方及び下方への変形が抑制されてエネルギ吸収体7が適正に機能し、車両1の下方への乗用車の潜り込みを防止することが可能な角度を、傾斜角度θの適正値として導出する。エネルギ吸収体7は、傾斜角度θが適正値となるようにFUP4に固定される。
【0027】
以上説明したように、本実施形態では、車両1と他の車両の衝突時、FUP4の端部が後方に変形して、背面に固定されたエネルギ吸収体7が車両1後方へ移動すると、エネルギ吸収体7のストッパ10がフロントタイヤ13の前面13aに接触する。フロントタイヤ13が完全に停止せずに回転していると、ストッパ10の後面10aとフロントタイヤ13の前面13aとの間に動摩擦力が作用し、ストッパ10は鉛直下向きの力Fdを受ける。しかし、エネルギ吸収体7は水平面に対して後上方へ所定の傾斜角度θで傾斜しているので、フロントタイヤ13の前面13aに斜め下方から接触し、ストッパ10には上方向の力Fuが作用する。この上方向の力Fuがエネルギ吸収体7の後部に作用する下向きの力Fdを減少させる。このため、エネルギ吸収体7の後部の下方への変形が抑制され、エネルギ吸収体7の後部がフロントタイヤ13の前面13aによって確実に支持され、エネルギ吸収体7の車両後方への移動がフロントタイヤ13によって規制される。従って、FUP4に入力する衝突エネルギを、エネルギ吸収体7の変形によって確実に吸収することができる。また、エネルギ吸収体7がフロントタイヤ13の前面13aによって確実に支持されるので、フロントタイヤ13の弾性力によって衝突エネルギを吸収することができる。
【0028】
また、エネルギ吸収体7がFUP4の端部後面に支持されているので、衝突力が直接的にエネルギ吸収体7に加わり、迅速且つ確実な衝突エネルギの吸収を行うことができる。
【0029】
次に、本発明の第2の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0030】
本実施形態の衝突エネルギ吸収装置は、図4に示すように、FUP4と、FUPブラケット5と、エネルギ吸収体7と、エアシリンダ(傾斜角度変更手段)16と、荷重センサ20と、ECU21とを備えている。FUPブラケット5と、エネルギ吸収体7と、エアシリンダ16と、荷重センサ20とは、車両1の前端下部の左右両側にそれぞれ配置されている。なお、FUPブラケット5と、エネルギ吸収体7と、エアシリンダ16と、荷重センサ20とは左側と右側がそれぞれ同様の構成を有するため、以下ではその一方(左側)について説明し、他方(右側)についての説明を省略する。また、FUP4及びエネルギ吸収体7については、第1の実施形態と同様であるため、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0031】
左右一対のFUPブラケット5は、ブラケット回転軸6を介してメインフレーム3の前端部に回転自在に支持されている。
【0032】
FUPブラケット5よりも前方のメインフレーム3の前端部には、シリンダ取付ブラケット15が固定されて下方に延びている。エアシリンダ16は、シリンダ本体17とシャフト18を有する。シリンダ本体17は、円筒形状であり、シリンダ取付ブラケット15の下部に固定されて後方へ延びている。シャフト18は、シリンダ本体17内に移動自在に挿入され、エアシリンダ16の伸長時(エア供給時)に後方へ移動する。FUPブラケット5には、シャフト取付ブラケット19が固定され、シャフト18の先端部は、シャフト取付ブラケット19に回転自在に連結されている。エアシリンダ16は、シャフト18がシリンダ内を前後方向に移動することによって伸縮し、FUPブラケット5は、エアシリンダ16の伸縮に応じてブラケット回転軸6を中心に回転する。エアシリンダ16が伸長すると、FUPブラケット5の下端側が後方へ回転し、ストッパ10が上昇する方向へエネルギ吸収体7が傾動して、エネルギ吸収体7の傾斜角度θが増大する。通常時のエアシリンダ16は、短縮状態に維持され、エネルギ吸収体7の傾斜角度θは、最小角度θ0に維持されている。この通常時において、エネルギ吸収体7はFUP4から後上方へ傾斜し、本体8の後端部の上下方向の中心は、フロントタイヤ13の回転軸14よりも上方に配置され、ストッパ10の後面10aは、フェンダ12の下方に位置してフロントタイヤ13の前面13aに対向する。シリンダ本体17には、圧縮空気を供給するエア管路(図示省略)が接続され、エア管路には、開閉弁(図示省略)が設けられている。通常時には、開閉弁が閉止され、圧縮空気はシリンダ本体17に供給されない。開閉弁が開放されると、開放時間に応じた量の圧縮空気がシリンダ本体17に供給され、エアシリンダ16が伸長し、エネルギ吸収体7の傾斜角度θが増大する。
【0033】
荷重センサ(衝突力検出手段)20は、FUP4の端部に配置され、FUP4に前方から作用する衝突力を検出してECU21に出力する。
【0034】
ECU21は、CPU(Central Processing Unit)22とROM(Read Only Memory)23とRAM(Random Access Memory)24とを備える。CPU22は、ROM23に格納されたプログラムを読み出して傾斜角度変更処理を実行することにより、傾斜角度変更手段として機能する。RAM24には、衝突力Fcとエネルギ吸収体7の傾斜角度θとの対応関係を示す参照テーブルが予め記憶されている。なお、本実施形態では、エアシリンダ16への圧縮空気の供給量に応じてエネルギ吸収体7の傾斜角度θが変化するため、参照テーブルには、衝突力Fcと開閉弁の開放時間との対応関係が、衝突力Fcと傾斜角度θとの対応関係として設定されている。また、衝突力Fcが作用していない場合や傾斜角度θの変更が不要な程度に小さい場合の開閉弁の開放時間はゼロである。また、参照テーブルに代えて、マップや演算式を記憶させてもよい。
【0035】
衝突力Fcと傾斜角度θとの対応関係は、第1実施形態と同様に、衝突速度や対向車重量が異なる多様な衝突形態での車両1の衝突実験を行ない、各衝突力Fcに対する傾斜角度θの適正値を導出することによって決定される。
【0036】
次に、ECU21が実行する傾斜角度変更処理について、図5に示すブロック図及び図6に示すフローチャートに基づいて説明する。傾斜角度変更処理は、車両1の走行中に所定時間毎に繰り返して実行される。
【0037】
傾斜角度変更処理が開始されると、ECU21は、荷重センサ20から衝突力Fc1を取得する(ステップS1)。次に、ECU21は、RAM24に記憶された参照テーブルを参照し、取得した衝突力Fc1に対応する開閉弁の開放時間T1を求める(ステップS2)。次に、開閉弁に制御信号を出力し、開閉弁を開放時間T1だけ開放する。これにより、衝突力Fcに対応した適正量の圧縮空気がエアシリンダ16に供給されて、傾斜角度θが初期値θ0から傾斜角度θ1に変更される(ステップS3)。ECU21は、開閉弁を開放時間T1だけ開放した後に、本処理を終了する。
【0038】
なお、車両1の前方衝突が発生しない状態では、開閉弁の開放時間T1がゼロであり、エアシリンダ16に圧縮空気が供給されないため、傾斜角度θは初期値θ0に維持される。
【0039】
また、車両1の衝突時において、ストッパ10がフロントタイヤ13の前面13aに接触する前に傾斜角度変更処理が完了するように、傾斜角度変更処理の実行頻度(時間間隔)と単位時間当たりの圧縮空気の供給量とが設定される。
【0040】
本実施形態によれば、車両1の前方衝突が発生して衝突力Fcが検出されると、エネルギ吸収体7の傾斜角度θは、ストッパ10がフロントタイヤ13の前面13aに接触する前に、衝突力Fcに対応した適切な傾斜角度θ1に適宜変更される。すなわち、衝突力Fcの増大に応じて傾斜角度θが増大するので、ストッパ10に作用する上向きの力Fuの強さを、衝突力Fcの増減によって変動する下向きの力Fdに応じて的確に増大させることができる。従って、FUP4に作用する衝突力Fcが相違する場合であっても、エネルギ吸収体7の後部の上方及び下方への変形を確実に抑制して、エネルギ吸収体7をフロントタイヤ13の前面13aによって確実に支持することができる。
【0041】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例および運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【0042】
例えば、エネルギ吸収体7をFUP4の端部後面に固定せず、エネルギ吸収体7の前板部9をFUP4に近接又は接触させた状態で、前面車体側に支持された他の部材(例えばメインフレーム3に回転自在に支持された吸収体支持ブラケット)にエネルギ吸収体7を固定してもよい。また、第2の実施形態において、エアシリンダ16に代えて、油圧シリンダ等を用いてもよい。また、傾斜角度θの初期値θ0を最大角度に設定しておき、検出される衝突力Fcが小さいほど傾斜角度θが小さくなるように、衝突力Fcに応じて傾斜角度θを初期値θ0から減少させてもよい。また、エネルギ吸収体7の前端部は、車両1に対して傾動自在に支持されていればよく、例えば、FUPブラケット5をメインフレーム3に固定し、エネルギ吸収体7の前端部をFUPブラケット5に回転自在に連結してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、貨物車両などの大型車両の衝突エネルギ吸収装置として広く適用可能である。
【符号の説明】
【0044】
1:キャブオーバートラック(車両)
2:キャブ
3:メインフレーム
4:フロントアンダーランプロテクタ
5:フロントアンダーランプロテクタブラケット
7:エネルギ吸収体
9:前板部
9a:前板部の前面(エネルギ吸収体の前面)
10:ストッパ
10a:ストッパの後面(エネルギ吸収体の後面)
13:フロントタイヤ
13a:フロントタイヤの前面
14:フロントタイヤの回転軸
16:エアシリンダ(傾斜角度変更手段)
20:荷重センサ(衝突力検出手段)
21:ECU(傾斜角度変更手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前端下部に支持されて車幅方向に延びるフロントアンダーランプロテクタと
前記フロントアンダーランプロテクタの後方で前記車両の側部に支持されて前後方向に直線状に延び、前記フロントアンダーランプロテクタに近接又は接触する前面とフロントタイヤの前面に対向する後面とを有し、水平面に対して後上方へ傾斜するエネルギ吸収体と、を備えた
ことを特徴とする車両の衝突エネルギ吸収装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の衝突エネルギ吸収装置であって、
前記フロントアンダーランプロテクタは、前記エネルギ吸収体の前記前面を支持する
ことを特徴とする車両の衝突エネルギ吸収装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両の衝突エネルギ吸収装置であって、
衝突力検出手段と傾斜角度変更手段とを備え、
前記衝突力検出手段は、前記フロントアンダーランプロテクタに前方から作用する衝突力を検出し、
前記エネルギ吸収体の前端部は、前記車両に対して傾動自在に支持され、
前記傾斜角度変更手段は、前記衝突力検出手段が検出する衝突力の増大に応じて前記エネルギ吸収体の後面が上昇するように、水平面に対する前記エネルギ吸収体の傾斜角度を変更する
ことを特徴とする車両の衝突エネルギ吸収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−81894(P2012−81894A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230611(P2010−230611)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)