説明

車両の衝突判定方法及び衝突判定装置

【課題】 衝撃力と速度変化量に加え加速度グラジェント量を閾値判別し、車両の衝突判定が高速かつ高精度に実行できるようにする。
【解決手段】 車両に加わる加速度を検出し、該加速度から抽出される車両の衝突時に顕著に現れる特定の帯域成分の絶対値をとって衝撃力を算出し、かつまた前記加速度を現在値まで比較的長い区間に亙って積分して長区間速度変化量を算出し、かつまた前記加速度を現在値まで比較的短い区間に亙って積分して短区間速度変化量ΔVa(k)を算出する。特に、短区間速度変化量を時間微分して加速度グラジェント量ΔGr(k)を算出するとともに、加速度グラジェント量から速度変化量を減算して衝突予測値ΔVa(k)−ΔGr(k)を算出し、加速度グラジェント量ΔGr(k)が所定のしきい値Grdを越えるとともに前記衝突予測値ΔVa(k)−ΔGr(k)が所定のしきい値GVを越えることを衝突判定要件の一つとし、衝突速度に大差のない低速正面衝突の識別や高速オーバラップ衝突等を高速かつ高精度に判別する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、衝撃力と速度変化量に加え加速度グラジェント量を閾値判別し、車両の衝突判定が高速かつ高精度に実行できるようにした車両の衝突判定方法及び衝突判定装置に関する。
【0002】
【従来の技術】近年の車両設計は、衝突時の安全性が特に重視され、衝突時に乗員を保護するエアバッグなどの乗員拘束具を作動させるシステムは、衝突識別性能の向上或いは高知能化といった目標を掲げ、絶えず改良が施されている。衝突識別性能の向上が迫られる背景には、車両構造側での乗員安全対策の著しい進歩があり、車室内で衝突を識別する場合、衝突の初期に衝突部位からの衝撃が乗員に伝わりにくい構造の車両ほど、衝突が発生してからその兆候が現れるまでに既に時間が経過しているだけに、判定条件は従来にも増して厳しいものとなる。一方また、実際の衝突を想定した衝突試験基準の研究も重ねられており、標準的なバリア衝突以外の様々な衝突形態、例えば50%オフセット斜め衝突やオフセット変形バリア衝突等の衝突形態について、乗員拘束具を展開させるべきか否かを高速かつ高精度に識別できる装置の開発が待たれている。
【0003】図4に示す車両の衝突判定装置1は、車両衝突時にエアバッグ等の乗員拘束具を作動させるべき衝突か否かを判定するための装置である。この衝突判定装置1は、車両が衝突したときに乗員に危害が及ぶ塑性衝突について、車両の前部を無数のばね体が複合された塑性ばねと見なすことを前提としており、衝突により車両が停止に至る過程で加速度信号の基本1/4正弦波に重畳する各種の振動波形のなかから、衝突時に顕著な特定の帯域成分を抽出することにより、速度変化量を追跡しただけでは分からない衝撃力を検出し、悪路走行や縁石乗り上げ等に伴う衝撃等と区別して、安全装置の作動を必要とする衝突を判定するよう工夫してある。様々な実験の結果、加速度データに含まれる20Hzから200Hzの帯域成分が衝撃の大きさに応じて大きな変化を示すことが判っており、このため衝撃力演算では、まず加速度センサ2により得られる加速度信号Gを、折り返し歪み排除用の低域濾波回路3aと高域濾波回路3bからなる帯域濾波器3にて濾波し、それぞれAD変換器19a,19bを介して離散値データとしてディジタル信号処理部1a内に取り込む。加速度センサ2としては、ピエゾ抵抗変化を利用する応力歪みゲージを車両の進行方向に受圧面を向けて半導体基板上に組み込んだものが用いられるが、ピエゾ抵抗変化を検出する半導体加速度センサに限らず、静電容量型半導体加速度センサや圧電素子を用いた加速度センサ或いは純粋機械式に弾性ばねを用いる加速度センサなども適用することができる。本例の場合、低域濾波回路3aは、折り返し歪みの影響を排除すべく80ないし260Hzを越える高周波成分を除去し、続く高域濾波回路3bは、低域濾波回路3aの出力に含まれる20ないし160Hz以下の低周波成分例えば20Hz以下の低周波成分を除去する。
【0004】ディジタル信号処理部1a内に取り込まれた加速度データは、衝撃力判定と短区間積分判定と長区間積分判定とにかけられ、これらの判定結果を総合して衝突判定が下される。まず、高域濾波回路3bにて抽出された帯域成分Gbは、絶対値回路4において絶対値をとられ、ここで得られた衝撃力を表す数値ΔE(k)が続く比較器5において閾値判別される。一般に、近似的に余弦曲線に従って減衰する速度の場合、余弦曲線上の位相0度と90度の間できわめて隣接する2点間の衝撃力は、これら2点間での速度変化分の二乗に比例すると見なせるため、ここでは二乗演算と実質的には等価な絶対値演算により衝撃力を演算する。比較器5においてしきい値判別された衝撃力を表す数値ΔE(k)は、続く波形整形器6において波形整形される。この波形整形器6は、しきい値を越える衝撃力が比較器5の出力として得られたときに、比較器5の出力を一定期間だけ時間軸方向に伸長し、少なくとも一定時間は持続する波形に整形するものであり、比較器5の出力の立ち上がりでトリガされて例えば20ms程度持続するワンショットパルスを生成するワンショット回路6aと、このワンショット回路6aの出力ワンショットパルスと比較器5の原出力との論理和をとるオアゲート回路6bとから構成される。このため、絶対値回路4の出力が危険値を越える急激な衝撃力の変化を示すときは、波形整形器6の出力が衝突認定の可能性が大であることをワンショットパルスの持続期間に亙って明示し続けることになる。
【0005】一方、低域濾波回路3aの出力Gaは、速度変化量を算出するため、短区間と長区間の各区間積分器7,8にて区間積分される。離散値化された加速度データGa(k)は、短区間積分器7では例えば18msの積分区間で、また長区間積分器8では例えば90msの積分区間でそれぞれ逐次加算される。短区間積分器7の出力は、続く比較器9,10において閾値判別され、それぞれ一定のしきい値Vrs1,Vrs2を越える区間積分値が得られた場合に、波形整形器11,12の整形時間に亙って判定回路13に対しアクティブ信号を出力する。11a,12aは、ワンショット回路であり、11b,12bは、オアゲート回路である。一方また、短区間積分器7の出力は、比較器8,10の外に微分器14にも送り込まれ、加速度グラジェント量の算出に供される。これは、衝突発生時には比較的低域の周波数帯域でも急激に加速度が発生することから、この加速度の時間勾配(グラジェント)を微分器14にて検出して衝突判定に活用するためである。微分器14が出力する加速度グラジェント量は、続く比較器15においてしきい値αrを基準に閾値判別され、しきい値αrを越える加速度グラジェント量が発生したときに比較器15からアクティブ信号が出力される。
【0006】短区間積分器7の出力は、1サンプルごとにGa(k)−Ga(k−T)だけ変化するため、Ga(k)−Ga(k−T)の時間変化率が短区間積分値の時間微分値に相当する。従って、ここでは現在の加速度データGa(k)と積分区間Tだけ前に観測された過去の加速度データG(k−T)との差分の大きさを、比較器15にて閾値判別していることになる。このため、隣接する加速度データのサンプル間に顕著な変化が見られなくとも、積分区間Tを隔てた2点間で加速度データが顕著な変化を示す中速の正面衝突が発生したような場合に、微分器14の出力に顕著な変化が現れ、じわっと増大するような加速度に対して有効に衝突判定を下すことができる。ただし、短区間積分出力の時間微分値は、後述するごとく、波形整形器12の出力との論理積として衝突判定に供されるため、例えば縁石乗り上げとともに短区間積分出力の時間微分値だけが突出しても、短区間積分出力がしきい値以下である場合には、衝突判定が下されることはない。
【0007】長区間積分器8の出力は、比較器16にてしきい値判別され、一定値Erlを越える区間積分値が得られた場合に、判定回路13に対しアクティブ信号を出力する。なお、この長区間積分値による判定は、衝突エネルギを大きく吸収してしまうような被衝突物、例えばクッショドラム等との衝突判定に効果があり、高速のバリア衝突等と異なり、ゆっくりとした速度で速度変化量が累積されていくため、長い時間をかけて累積された積分値からエアバッグ展開の必要性の有無が判別される。
【0008】判定回路13には、衝撃力の閾値判別出力と長区間積分値及び短区間積分値の各閾値判別出力と加速度グラジェント量の閾値判別出力とが供給され、ここで衝突認定に至るか否かの衝突判定が行われる。すなわち、判定回路13は、波形整形器6が出力する衝撃力閾値判別出力と波形整形器11が出力する短区間積分値の閾値判別出力との論理積をとるアンドゲート回路13aと、波形整形器12が出力する短区間積分値の閾値判別出力と比較器15が出力する加速度グラジェント量の閾値判別出力との論理積をとるアンドゲート回路13bと、アンドゲート回路13a,13bの出力と比較器16が出力する長区間積分値の閾値判別出力との論理和をとるオアゲート回路13cとから構成されており、オアゲート回路13cが出力するアクティブ出力がエアバッグ展開トリガ信号となる。
【0009】かくして、判定回路13による判定は、図5R>5(A),(B)にそれぞれ示したように、速度変化量ΔV(k)と衝撃力ΔE(k)を2軸とする平面と、速度変化量ΔV(k)と加速度グラジェント量ΔGr(k)を2軸とする平面上で、衝突域と非衝突域を区画する2つの判定領域I,IIにおいて行われる。各平面において判定曲線が区画する衝突領域I,IIは、 領域I; ΔV(k)>Vrs1で、かつΔE(k)>Er 領域II; ΔV(k)>Vrs2で、かつΔGr(k)>Grdであり、領域I又はIIのいずれか一方を満たす条件が成立したときに、衝突判定が下される。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】上記従来の車両の衝突判定装置1は、エアバッグ等の乗員拘束システムの作動が必要な車両衝突の特徴を、各種物理量の組み合わせがある時間帯で同時にしきい値を越えることをもって捕捉するものであるが、衝突時の衝撃に対しビームやバンパーが乗員居住空間をより効果的に保護する車両構造であるほど、車両先端部から衝突判定装置1までの距離は遠くなり、特に衝突時に変形して緩衝するクラッシュゾーンの大きな大型車両の場合は、衝突開始から約40ms程度経過するまでに伝達される初期加速度が非常に微弱であるために、領域I又は領域IIの2領域でもって衝突判定するのが困難なケースもあり、速度変化量以外の衝突判定要件である衡撃力や加速度グラジエント量が、衝突初期の微弱な加速度信号から派生するが故に明瞭にくみ取ることのできない場合もあった。
【0011】その代表的な例として、低速正面衝突での展開トリガさせる速度(例えば、時速15マイル)の衝突と、展開トリガさせない速度(例えば、時速12.5マイル)の衝突があるが、両者はΔV(k)とΔGr(k)の二次元平面上で、図5に示すごとく顕著な差異のない経時変化(イ),(ロ)を示すことが実測されており、従来の判定領域IIを適用したのでは両者を峻別して衝突判定できないといった課題があった。また、こうした低速正面衝突にあっては、衝撃力ΔV(k)と速度変化量ΔE(k)とで規定された領域Iにあっても、トリガさせるべき衝突初期に十分な衝撃力が発生しないために、同じく識別困難であった。さらに、オフセットバリア衝突やオフセット・カー・トウー・カー衝突などのオーバーラップのある高速オーバラップ衝突事例(ハ)についても、高速衝突であるにも拘わらず展開トリガすべき時間までに微弱な加速度信号しか発生せず、加速度グラジエント量ΔGr(k)がしきい値Grdを越えないため、衡突判定できないケースが否定できないものであった。
【0012】本発明は、衝撃力と速度変化量に加え加速度グラジェント量を閾値判別するとともに、速度変化量と加速度グラジェント量に基づく衝突判定領域を工夫し、車両の衝突判定が高速かつ高精度に実行できるようにすることを目的とするものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成し、かつ前記課題を解決するため、本発明は、車両に加わる加速度を検出する加速度センサと、該加速度から抽出される車両の衝突時に顕著に現れる特定の帯域成分の絶対値をとって衝撃力を算出する衝撃力算出手段と、前記加速度を現在値まで比較的長い区間に亙って積分し長区間速度変化量を算出する長区間積分手段と、前記加速度を現在値まで比較的短い区間だけ積分して短区間速度変化量を算出する短区間積分手段と、該短区間速度変化量を時間微分して加速度グラジェント量を算出する微分器と、該加速度グラジェント量から前記速度変化量を減算して衝突予測値を算出する減算器と、前記衝撃力が所定のしきい値を越えるか、又は前記長区間速度変化量が所定のしきい値を越えるか、又は前記加速度グラジェント量が所定のしきい値を越えるとともに前記衝突予測値が所定のしきい値を越えるかしたときに衝突判定を下す判定手段とを具備することを特徴とするものである。
【0014】また、本発明は、前記判定手段が、前記加速度グラジェント量を閾値判別する加速度グラジェント量比較器と、前記衝突予測値を閾値判別する衝突予測値比較器と、前記グラジェント量比較器及び衝突予測値比較器の出力がともにアクティブであるときにアクティブ信号を出力する論理積回路と、該論理積回路の出力を少なくとも一定時間は持続する波形に整形する波形整形器とを含むこと、或いは前記微分器が、前記短区間積分器から離散値データとして与えられる短区間積分出力をシンプソンの微分公式に則った演算アルゴリズムに従って時間微分すること等を特徴とするものである。
【0015】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態について、図1ないし図3を参照して説明する。図1は、本発明の車両の衝突判定装置の一実施形態を示す回路構成図、図2は、図1に示した予測判定回路による予測判定領域を示す図である。
【0016】図1に示す車両の衝突判定装置21は、従来装置1の微分器14と比較器15に代えて予測判定回路22を新たに設けたものである。この予測判定回路22は、低域濾波回路3aからAD変換器19aを介して取り込んだ加速度データGa(k)を、短区間積分により平滑化し短区間速度変化量を算出する短区間積分器23と、短区間速度変化量を時間微分して加速度グラジェント量を算出する微分器24と、加速度グラジェント量から速度変化量を減算して衝突予測値を算出する減算器25を備えており、さらに判定手段として、加速度グラジェント量をしきい値Grdを基準に閾値判別する加速度グラジェント量比較器26と、衝突予測値をしきい値GVを基準に閾値判別する衝突予測値比較器27と、グラジェント量比較器26及び衝突予測値比較器27の出力がともにアクティブであるときにアクティブ信号を出力するアンドゲート回路28と、アンドゲート回路28の出力を少なくとも一定時間、例えば30msの期間に亙って持続する波形に整形する波形整形器29とを備えている。29aはワンショット回路であり、29bはオアゲート回路である。
【0017】微分器24による時間微分は、短区間積分出力をシンプソンの微分公式に則った演算アルゴリズムに従って時間微分することにより行われる。シンプソンの公式によれば、短区間積分出力の現在値ΔVa(k)とその3サンプル前までのデータΔVa(k−1),ΔVa(k−2),ΔVa(k−3)を用い、{ΔVa(k)+3ΔVa(k−1)-3ΔVa(k−2)−ΔVa(k−3)}/6なる演算により時間微分値が導出される。
【0018】判定回路13は、従来と同様、一対のアンドゲート回路13a,13bとオアゲート回路13cからなるが、アンドゲート回路13bが比較器10の出力と予測判定回路22の出力との論理積をとる点で従来と異なる。ただし、比較器10とアンドゲート回路13bとの間の波形整形器12は廃止してある。本実施形態に示したディジタル信号処理部21aは、絶対値判定、短区間積分判定、短区間積分値微分判定(加速度グラジェント量判定)、短区間積分値と短区間積分微分値との差分判定(衝突予測値判定)、長区間積分判定の5種類の判定を総合して衝突判定を下すものであり、加速度グラジェント量判定と衝突予測値判定は従来にない機能である。
【0019】ところで、予測判定回路22による予測判定は、図2の区間積分値ΔVa(k)と加速度グラジェント量ΔGa(k)の二次元平面に区画された予測判定領域の内外で行われる。すなわち、予測判定領域は、ΔGr(k)>Grdで、かつΔGr(k)−ΔVa(k)>GVによって規定され、この予測判定領域に含まれる条件が成立するときに、アンドゲート回路26からアクティブ信号が出力される。この予測判定領域は、2本の境界線ΔGr(k)=GrdΔGr(k)−ΔVa(k)=GVの交点P(ΔVa(k)=Ti)が、衝突判定する低速正面衝突時の経過曲線(イ)と衝突判定しない低速正面衝突時の経過曲線(ロ)との中間に位置しており、しかも高速オーバラップ衝突時の経過曲線(ハ)と高速正面衝突時の経過曲線(ニ)の衝突初期における立ち上がり部分を包含する点に特徴がある。
【0020】これにより、従来の衝突判定装置1では衝突判定できなかったような条件、例えば衝突速度に大差のない低速正面衝突の識別や、加速度グラジェント量ΔGr(k)がある時点から減少してゆくようなオフセットのある高速オーバラップ衝突、或いは加速度グラジェント量ΔGr(k)と短区間速度変化量ΔVa(k)がともに急増するような堅固なバリアへの高速正面衝突を、高速かつ高精度に識別することができる。また、予測判定回路22の出力アクティブ信号は、前述の短区間積分器7に接続された比較器10のしきい値Vrs2を越える閾値判別出力とともにアンドゲート回路13bに供給されるので、仮に縁石乗り上げや悪路走行時に衝突判定条件が予測判定領域を満たしたとしても、短区間積分器24aには比較器にて閾値判別されるほどの速度変化量は発生しないため、誤って展開トリガがかけられることはない。
【0021】また、比較器26,27のしきい値を越える加速度グラジェント量や衝突予測値に関しては、両者の論理積出力をがたとえ瞬間的なものであろうとも、少なくとも一定時間は持続する波形に整形して処理するため、危険レベルに達した加速度グラジェント量と衝突予測値の存在を一定時間明示し続け、特に論理判断に適した信号波形として衝突判定に供することができる。これにより、衝突速度に殆ど差がないような低速正面衝突間の識別、或いは衝突判定すべき初期時間内で加速度グラジエント量がさほど発生しない高速のオーバラップ衝突について、より高速かつ高精度に衝突判定することができる。
【0022】さらにまた、微分器24が、短区間積分器23から離散値データとして与えられる短区間積分出力をシンプソンの微分公式に則った演算アルゴリズムに従って時間微分するため、離散値データとして与えられる短区間積分出力をソフトウェア処理により時間微分することができ、現在値を示すサンプルデータから3サンプル前のサンプルデータを用いて加減算処理により演算できるため、ディジタル信号処理による時間微分を簡単に実行することができる。
【0023】なお、上記実施形態において、短区間積分値ΔVa(k)と加速度グラジェント量ΔGr(k)により規定される二次元平面上の予測判定領域は、適用車両の車種等に応じて随意可変設定することができ、例えば、図2の予測判定領域に短区間積分値ΔVa(k)>Tiの条件を追加し、矩形領域を除いた逆三角領域においてのみ衝突予測判定を下すようにすることもできる。また、加速度グラジェント量ΔGr(k)と区間積分値ΔV2(k)を規定する二次元空間においてだけでなく、速度変化量ΔV(k)と衝撃力ΔE(k)に基づく衝突判定領域を規定する二次元空間においても、同様の趣旨の領域制限を加え、より総合的に衝突判定を下すようにすることもできる。
【0024】また、上記実施形態においては、加速度グラジェント量ΔGr(k)を算出するための微分器の前段に、加速度データを平滑する手段として短区間積分器23を用いたが、図3に示す車両の衝突判定装置31のごとく、例えば移動平均処理回路やディジタル低域濾波回路といった平滑回路32を代替使用することも可能である。この場合、減算器25に対しては、その入力側に専用の短区間積分器33が接続してある。また、比較器10の入力側にも専用の短区間積分器34が接続してある。また、加速度データに関しては、高域制限することなく、折り返し歪み除去用の低域濾波回路3aに接続したAD変換器19aからディジタル信号処理部21aに供給し、絶対値回路4に対してだけはディジタル回路構成の帯域濾波回路35を介して加速度データを供給するようにしてある。
【0025】
【発明の効果】以上説明したように、本発明は、車両に加わる加速度を検出し、該加速度から抽出される車両の衝突時に顕著に現れる特定の帯域成分の絶対値をとって衝撃力を算出し、かつまた前記加速度を現在値まで比較的長い区間に亙って積分して長区間速度変化量を算出し、かつまた記加速度を現在値まで比較的短い区間に亙って積分して短区間速度変化量を算出し、該短区間速度変化量を時間微分して加速度グラジェント量を算出するとともに、該加速度グラジェント量から前記速度変化量を減算して衝突予測値を算出し、前記衝撃力が所定のしきい値を越えるか、又は前記長区間速度変化量が所定のしきい値を越えるか、又は前記加速度グラジェント量が所定のしきい値を越えるとともに前記衝突予測値が所定のしきい値を越えるかしたときに、衝突判定を下すようにしたから、短区間積分値の速度変化量と時間微分値の加速度グラジエント量の二次元平面において、加速度グラジェント量と速度変化量の差分として得られる衝突予測値を、所定のしきい値を基準に閾値判別することで、衝突判定領域を効果的に狭めることができ、例えば時速15マイル程度の衝突判定を要する低速正面衝突と、時速12.5マイル程度の衝突判定の不要な低速正面衝突とを、衝突予測値がしきい値を越える衝突判定領域の内外に明確に区別することができ、これにより衝突速度に殆ど差がないような低速正面衝突間の識別を可能とし、さらにまたオーバラップ衝突などのように衝突判定すべき初期時間内で加速度グラジエント量がさほど発生しないような高速衝突についても、短区間積分値の閾値判別出力に基づいて高速に予測判定することができ、また衝突時に顕著な特定の帯域成分を抽出することにより、速度変化量が判定すべき時間内では殆ど微弱なポール衝突と悪路走行とを衝撃力の違いを利用して判定したり、長区間積分値による速度変化量を利用して非衝突物が衝突エネルギーを過大に吸収するような衡突事象についても判定することができる等の優れた効果を奏する。
【0026】また、本発明は、判定手段が、加速度グラジェント量を閾値判別する加速度グラジェント量比較器と、衝突予測値を閾値判別する衝突予測値比較器と、グラジェント量比較器及び衝突予測値比較器の出力がともにアクティブであるときにアクティブ信号を出力する論理積回路と、論理積回路の出力を少なくとも一定時間は持続する波形に整形する波形整形器とを含む構成としたから、比較器のしきい値を越える加速度グラジェント量や衝突予測値に関しては、両者の論理積出力をがたとえ瞬間的なものであろうとも、少なくとも一定時間は持続する波形に整形して処理することができ、これにより危険レベルに達した加速度グラジェント量と衝突予測値の存在を一定時間明示し続け、特に論理判断に適した信号波形として衝突判定に供することができ、衝突速度に殆ど差がないような低速正面衝突間の識別、或いは衝突判定すべき初期時間内で加速度グラジエント量がさほど発生しない高速のオーバラップ衝突について、より高速かつ高精度に衝突判定することができる等の効果を奏する。
【0027】さらにまた、本発明は、微分器が、前記短区間積分器から離散値データとして与えられる短区間積分出力をシンプソンの微分公式に則った演算アルゴリズムに従って時間微分するようにしたから、離散値データとして与えられる短区間積分出力をソフトウェア処理により時間微分することができ、現在値を示すサンプルデータから3サンプル前のサンプルデータを用いて加減算処理により演算できるため、ディジタル信号処理による時間微分を簡単に実行することができる等の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の車両の衝突判定装置の一実施形態を示す回路構成図である。
【図2】図1に示した予測判定回路による予測判定領域を示す線図である。
【図3】本発明の車両の衝突判定装置の他の実施形態を示す回路構成図である。
【図4】従来の車両の衝突判定装置の一例を示す回路構成図である。
【図5】図4に示した判定回路による衝突判定領域を示す図である。
【符号の説明】
21,31 車両の衝突判定装置
21a ディジタル信号処理部
22 予測判定回路
23 短区間積分器
24 微分器
25 減算器
26 加速度グラジェント量比較器
27 衝突予測値比較器

【特許請求の範囲】
【請求項1】 車両に加わる加速度を検出し、該加速度から抽出される車両の衝突時に顕著に現れる特定の帯域成分の絶対値をとって衝撃力を算出し、かつまた前記加速度を現在値まで比較的長い区間に亙って積分して長区間速度変化量を算出し、かつまた前記加速度を現在値まで比較的短い区間に亙って積分して短区間速度変化量を算出し、該短区間速度変化量を時間微分して加速度グラジェント量を算出するとともに、該加速度グラジェント量から前記速度変化量を減算して衝突予測値を算出し、前記衝撃力が所定のしきい値を越えるか、又は前記長区間速度変化量が所定のしきい値を越えるか、又は前記加速度グラジェント量が所定のしきい値を越えるとともに前記衝突予測値が所定のしきい値を越えるかしたときに、衝突判定を下すことを特徴とする車両の衝突判定方法。
【請求項2】 車両に加わる加速度を検出する加速度センサと、該加速度から抽出される車両の衝突時に顕著に現れる特定の帯域成分の絶対値をとって衝撃力を算出する衝撃力算出手段と、前記加速度を現在値まで比較的長い区間に亙って積分し長区間速度変化量を算出する長区間積分手段と、前記加速度を現在値まで比較的短い区間だけ積分して短区間速度変化量を算出する短区間積分手段と、該短区間速度変化量を時間微分して加速度グラジェント量を算出する微分器と、該加速度グラジェント量から前記速度変化量を減算して衝突予測値を算出する減算器と、前記衝撃力が所定のしきい値を越えるか、又は前記長区間速度変化量が所定のしきい値を越えるか、又は前記加速度グラジェント量が所定のしきい値を越えるとともに前記衝突予測値が所定のしきい値を越えるかしたときに衝突判定を下す判定手段とを具備することを特徴とする車両の衝突判定装置。
【請求項3】 前記判定手段は、前記加速度グラジェント量を閾値判別する加速度グラジェント量比較器と、前記衝突予測値を閾値判別する衝突予測値比較器と、前記グラジェント量比較器及び衝突予測値比較器の出力がともにアクティブであるときにアクティブ信号を出力する論理積回路と、該論理積回路の出力を少なくとも一定時間は持続する波形に整形する波形整形器とを含むことを特徴とする請求項2記載の車両の衝突判定装置。
【請求項4】 前記微分器は、前記短区間積分器から離散値データとして与えられる短区間積分出力をシンプソンの微分公式に則った演算アルゴリズムに従って時間微分することを特徴とする請求項2記載の車両の衝突判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開平9−240420
【公開日】平成9年(1997)9月16日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−45104
【出願日】平成8年(1996)3月1日
【出願人】(000001937)日本電気ホームエレクトロニクス株式会社 (8)