説明

車両の走路判定システム

【課題】本発明は、車両の周囲に存在する物体に基づいて車両の走路を判定するシステムにおいて、実際の道路状態に適した走路判定を行える技術の提供を課題とする。
【解決手段】本発明は、上記した課題を解決するために、複数の物体が検出された場合に、それら物体間に車両が進入可能な道路が存在するか否かを判別し、複数の物体間に道路が存在しないと判定された場合は前記複数の物体を1つの物体として認識し、複数の物体間に道路が存在すると判定された場合はその道路を含めて走路を判定するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両に搭載される走路判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両が走行可能な経路である走路を判定し、判定された走路からの逸脱を運転者に報知する処理や、走路からの逸脱を回避するための運転操作を補助する処理を行うシステムが提案されている。車両が走行可能な走路を判定するにあたり、車線境界を示す指標となる道路標示(たとえば、白線など)や物体を検出し、それらの検出結果に基づいて走路を判定する方法が知られている。さらに、複数の物体が検出されたときに、それら物体間の距離が所定値以下であれば、それらの物体を1つの物体として認識するグルーピング処理も提案されている(たとえば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−030792号公報
【特許文献2】特開2005−138623号公報
【特許文献3】特開2010−079424号公報
【特許文献4】特開2010−072973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記した従来の技術では、複数の物体間に車両が走行可能な経路があるか否かについて考慮されていないため、そのような経路へ運転者が車両を進入させようとした場合に、現在の走路からの逸脱が報知されたり、あるいは現在の走路へ復帰させるための運転操作の補助が行われたりする可能性がある。
【0005】
本発明は、上記した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両の周囲に存在する物体に基づいて車両の走路を判定するシステムにおいて、実際の道路状態に適した走路判定を行える技術の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記した課題を解決するために、車両が走行可能な経路である走路を判定するシステムにおいて、複数の物体が検出されたときに、それら物体間に車両が走行可能な道路が存在するか否かを判別し、その判別結果に応じて走路を決定するようにした。
【0007】
詳細には、本発明に係わる車両の走路判定システムは、
車両の周囲に存在する物体を検出する検出手段と、
前記検出手段により複数の物体が検出された場合に、それら物体間に車両が進入可能な道路が存在するか否かを判別する判別手段と、
前記判別手段により道路が存在すると判別された場合に、前記物体間の道路を含めて走路を決定する決定手段と、
を備えるようにした。
【0008】
本発明によれば、複数の物体の間に車両が進入可能な道路が存在する場合は、その道路を含めて走路が決定される。したがって、決定手段により決定された走路が運転支援システムに利用される場合において、車両が物体間の道路へ進入する挙動に対して運転支援処理が実行されなくなる。その結果、運転者が運転支援処理の実行に対して煩わしさなどを
感じることがなくなる。ここでいう「運転支援処理」は、たとえば、障害物たる物体の存在や走路からの逸脱を運転者に報知する処理や、障害物たる物体との衝突または接近を回避するための運転操作や走路からの逸脱を回避するための運転操作を補助する処理などを含む処理である。
【0009】
なお、判別手段により複数の物体間に道路が存在しないと判別された場合には、決定手段は、複数の物体を1つの物体と仮定(グルーピング)して走路の決定を行うようにしてもよい。その場合、複数の物体間の領域は走路から逸脱する領域とみなされるため、車両が複数の物体間へ進入しようとする挙動に対して運転支援処理が実行されるようになる。
【0010】
本発明に係わる判別手段は、車両が通過可能な路幅に対して複数の物体間の幅が広い場合に、前記複数の物体間に道路が存在すると判別するようにしてもよい。なお、ここでいう「路幅」としては、自車両の幅に所定のマージンを加算した大きさ、統計的に求められた車両幅の最大値に所定のマージンを加算した大きさ、統計的に求められた車両幅の最大値の2倍に所定のマージンを加算した大きさ、などを用いることができる。
【0011】
本発明に係わる判別手段は、ナビゲーションシステムの地図情報において前記複数の物体間に道路が登録されている場合に、前記複数の物体間に道路が存在すると判別してもよい。また、本発明に係わる判別手段は、他車両の軌跡を特定し、特定された軌跡が前記複数の物体間を通過している場合に、前記複数の物体間に道路が存在すると判定してもよい。
【0012】
なお、本発明における「車両が進入可能な道路」は、車両進入禁止の道路を含まないことが望ましい。たとえば、自車両の進行方向の通行が禁止されている一方通行道路や、自動車の通行が禁止されている道路は、「車両が進入可能な道路」から除外されることが望ましい。そこで、本発明に係わる判別手段は、検出手段により検出された複数の物体間に道路が存在する場合であっても、該道路が車両進入禁止の道路であれば、前記物体間に道路が存在しないと判別するようにしてもよい。
【0013】
かかる構成によれば、複数の物体間の車両進入禁止道路へ車両が進入する挙動に対して、運転支援処理が実行されるようになる。なお、複数の物体間に存在する道路が車両進入禁止道路であるか否かを判別する方法としては、車両進入禁止の指標となる道路標識の有無をカメラなどの撮像画像から判別する方法、ナビゲーションシステムの地図情報において車両進入禁止を示すデータが登録されているか否かを判別する方法、などを用いることができる。
【0014】
なお、本発明は、複数の物体間に道路がない場合はそれら物体間へ車両が進入する挙動に対して運転支援処理を実行し、複数の物体間に道路がある場合にはそれら物体間へ車両が進入する挙動に対する運転支援処理の実行を制限する運転支援システムとして捉えることもできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、車両の周囲に存在する物体に基づいて車両の走路を判定するシステムにおいて、実際の道路状態に適した走路判定を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を適用する車両の運転支援システムの構成を機能別に示すブロック図である。
【図2】複数の物体間に走路が存在しない例を示す図である。
【図3】複数の物体間に走路が存在する例を示す図である。
【図4】複数の物体間に走路が存在せず、かつ運転支援処理が実行された場合における車両の走行軌跡例を示す図である。
【図5】複数の物体間に走路が存在し、かつ運転支援処理が実行されない場合における車両の走行軌跡例を示す図である。
【図6】ECUがグルーピング処理を実行する際に実行するルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的な実施形態について図面に基づいて説明する。ここでは、車両の走路や障害物を判定し、判定された走路からの逸脱や障害物との衝突または接近を回避するための運転支援処理を行う運転支援システムに本発明を適用する例について説明する。なお、ここでいう「運転支援処理」は、車両が障害物たる物体を回避可能なタイミングで実行される処理であり、車両と障害物との衝突が不可避な場合に実行される衝突被害軽減処理より早い時期に実行される。また、以下の実施例において説明する構成は、本発明の一実施態様を示すものであり、本発明の構成を限定するものではない。
【0018】
図1は、本発明を適用する車両の運転支援システムの構成を機能別に示すブロック図である。図1に示すように、車両には、運転支援用の制御ユニット(ECU)1が搭載されている。
【0019】
ECU1は、CPU、ROM、RAM、バックアップRAM、I/Oインターフェイスなどを備えた電子制御ユニットである。ECU1には、レーダ装置2、車外用カメラ3、ドライバー用カメラ4、ヨーレートセンサ5、車輪速センサ6、ブレーキセンサ7、アクセルセンサ8、ウィンカースイッチ9、舵角センサ10、操舵トルクセンサ11などの各種センサが電気的に接続され、それらセンサの出力信号がECU1へ入力されるようになっている。
【0020】
レーダ装置2は、たとえば、車両の前部に取り付けられ、車両の前方へミリ波を送信するとともに車外の物体により反射された電波(反射波)を受信することにより、車両に対する物体の相対位置に関する情報(たとえば、相対距離や相対角度)を出力する。車外用カメラ3は、たとえば、車室内において車両前方を視野に捉えることができる位置に配置され、車両前方の画像を出力する。ドライバー用カメラ4は、たとえば、車室内において運転者を視野に捉えることができる位置に配置され、運転者の画像を出力する。ヨーレートセンサ5は、たとえば、車体に取り付けられ、車両のヨーレートに相関する電気信号を出力する。車輪速センサ6は、車両の車輪に取り付けられ、車両の走行速度(車速)に相関する電気信号を出力するセンサである。
【0021】
ブレーキセンサ7は、たとえば、車室内のブレーキペダルに取り付けられ、ブレーキペダルの操作トルク(踏力)に相関する電気信号を出力する。アクセルセンサ8は、たとえば、車室内のアクセルペダルに取り付けられ、アクセルペダルの操作トルク(踏力)に相関する電気信号を出力する。ウィンカースイッチ9は、たとえば、車室内のウィンカーレバーに取り付けられ、ウィンカーレバーが操作されたときにウィンカー(方向指示器)が示す方向に相関する電気信号を出力する。舵角センサ10は、たとえば、車室内のステアリングホイールに接続されたステアリングロッドに取り付けられ、ステアリングホイールの中立位置からの回転角度(回転角度)に相関する電気信号を出力する。操舵トルクセンサ11は、ステアリングロッドに取り付けられ、ステアリングホイールに入力されるトルク(操舵トルク)に相関する電気信号を出力する。
【0022】
また、ECU1には、ブザー12、表示装置13、電動パワーステアリング(EPS)14、電子制御式ブレーキ(ECB)15などの各種機器が接続され、それら各種機器が
ECU1によって電気的に制御されるようになっている。
【0023】
ブザー12は、たとえば、車室内に取り付けられ、警告音などを出力する装置である。表示装置13は、たとえば、車室内に取り付けられ、各種メッセージや警告灯を表示する装置である。電動パワーステアリング(EPS)14は、電動モータが発生するトルクを利用して、ステアリングホイールの操作を補助する装置である。電子制御式ブレーキ(ECB)15は、各車輪に設けられた摩擦ブレーキの作動油圧(ブレーキ油圧)を電気的に調整する装置である。
【0024】
ECU1は、上記した各種センサの出力信号を利用して各種機器を制御するために、以下のような機能を有している。すなわち、ECU1は、障害物情報処理部100、車線情報処理部101、意識低下判定部102、運転者意図判定部103、統合認識処理部104、共通支援判定部105、警報判定部106、制御判定部107、および制御量演算部108を備えている。
【0025】
障害物情報処理部100は、前記レーダ装置2から出力される情報に基づいて、自車両を原点とする座標系における物体の位置座標を演算する。障害物情報処理部100は、物体の位置座標や物体に対する自車両のヨー角などを含む障害物情報を生成する。なお、障害物情報処理部100は、車外用カメラ3により撮像された画像に基づいて、障害物情報を生成してもよい。
【0026】
車線情報処理部101は、車外用カメラ3により撮像された画像に基づいて、車線に関する情報や車線境界に対する車両の姿勢に関する情報を含む車線情報を生成する。車線に関する情報は、たとえば、車線境界を示す指標(たとえば、車線境界を示す白線や黄色線などの道路標示や、車線脇に延在する縁石、ガードレール、溝、壁、ポールなどの立体物など)に関する情報や、車線幅に関する情報である。車線境界に対する車両の姿勢に関する情報は、たとえば、車線境界を示す指標と車両との距離に関する情報、車線中央部に対する車両位置のオフセット量に関する情報、車線境界を示す指標に対する車両進行方向のヨー角に関する情報である。なお、車両がナビゲーションシステムを搭載している場合には、車線情報処理部101は、ナビゲーションシステムが有する地図情報とGPS情報から走路に関する情報を生成してもよい。
【0027】
意識低下判定部102は、ドライバー用カメラ4により撮影された画像に基づいて、運転者の意識低下度合い(覚醒度)を判定する。たとえば、意識低下判定部102は、ドライバー用カメラ4により撮影された画像から運転者の閉眼時間や閉眼頻度を演算し、閉眼時間または閉眼頻度が上限値を超えたときに運転者の意識が低下していると判定(意識低下度合いが高い、または覚醒度が低いと判定)する。また、意識低下判定部102は、ドライバー用カメラ4により撮影された画像から運転者の顔の向きや視線の方向が車両進行方向から逸脱している時間を演算し、算出された時間が上限値を超えたときに運転者が脇見をしていると判定してもよい。
【0028】
運転者意図判定部103は、車輪速センサ6、ブレーキセンサ7、アクセルセンサ8、ウィンカースイッチ9、舵角センサ10、および操舵トルクセンサ11の出力信号に基づいて、ブレーキペダルの操作量の変化、アクセルペダルの操作量の変化、あるいはステアリングホイールの操作(操舵)量の変化が運転者の意図に因るものであるか否かを判別する。
【0029】
統合認識処理部104は、前記障害物情報処理部100により生成された障害物情報と前記車線情報処理部101により生成された車線情報とに基づいて、車両が走行可能な領域(走路)を特定し、走路境界に対する車両のヨー角や、走路中央部に対する車両のオフ
セット量を求める。統合認識処理部104は、前記障害物情報により特定される物体の大きさを拡大させ、拡大後の物体の大きさや位置に関する情報と前記車線情報とに基づいて走路を特定したり、拡大後の物体が自車両の障害物となり得るか否かを判別する。また、統合認識処理部104は、前記障害物情報により特定される物体が複数存在する場合に、それらの物体を1つの物体と仮定(グルーピング)して走路を決定する。なお、障害物情報により特定される物体が複数存在する場合における走路の決定方法については後述する。
【0030】
ところで、車線の幅が狭い道路においては、運転者は、車両を車線から逸脱させざるを得ない場合がある。これに対し、統合認識処理部104は、車線の幅が狭い道路については、車線境界を示す道路標示(たとえば、白線、黄色線など)や、車線脇に延在する立体物(たとえば、縁石、ガードレール、溝、壁、ポールなど)などの指標に基づいて走路を設定するようにしてもよい。たとえば、車線の両側に道路標示が存在する場合には、統合認識処理部104は、車線中央部(車線両側に存在する道路標示間の中心)を基準にして当初の車線より広い走路を設定してもよい。また、車線の片側のみに道路標示が存在する場合には、車線情報処理部101は、道路標示より外側に基準位置を設定し、その基準位置から所定幅の範囲を走路に設定してもよい。ただし、拡大された走路内に物体が存在する場合には、走路の拡大設定を制限することが望ましい。
【0031】
共通支援判定部105は、前記統合認識処理部104により生成された情報と、前記意識低下判定部102の判定結果と、前記運転者意図判定部103の判定結果と、に基づいて、運転支援処理の実行を制限するか否かを判別する。たとえば、前記意識低下判定部102により運転者の意識が低下している(意識低下度合いが高い、または覚醒度が低い)と判定された場合、あるいは運転者が脇見をしていると判定された場合は、運転支援処理の実行を許可する。また、前記運転者意図判定部103により運転者が意図的な操作を行っていると判定された場合は、運転支援処理の実行を制限する。
【0032】
警報判定部106は、前記共通支援判定部105により運転支援処理の実行が許可された場合に、ブザー12の鳴動タイミングや、表示装置13による警告メッセージまたは警告灯の表示タイミングを決定する。たとえば、警報判定部106は、車両幅方向における車両と走路境界との距離が所定距離以下となったときに、ブザー12の鳴動や、表示装置13による警告メッセージまたは警告灯の表示を行う。
【0033】
また、警報判定部106は、車両が走路境界に到達するまでの時間が所定時間以下となったときに、ブザー12の鳴動や、表示装置13による警告メッセージまたは警告灯の表示を行うようにしてもよい。なお、走路幅が狭い場合は、警報判定部106は、車両幅方向における車両と立体物(走路脇に存在する縁石、ガードレール、溝、壁、ポールなど)との距離が所定距離以下となったときに、ブザー12の鳴動や、表示装置13による警告メッセージまたは警告灯の表示を行うようにしてもよい。車両がカーブに進入する場合や車両がカーブを走行している場合は、警報判定部106は、車両進行方向における車両と走路境界との距離が所定距離以下となったときに、ブザー12の鳴動や、表示装置13による警告メッセージまたは警告灯の表示を行うようにしてもよい。また、車両がカーブに進入する場合や車両がカーブを走行している場合は、警報判定部106は、車両が走路境界に到達する時間が所定時間以下となったときに、ブザー12の鳴動や、表示装置13による警告メッセージまたは警告灯の表示を行うようにしてもよい。
【0034】
ここで、前記した所定距離や所定時間は、車輪速センサ6の出力信号(車速)やヨーレートセンサ5の出力信号(ヨーレート)に応じて変更される値である。たとえば、車速が高いときは低いときに比べ、所定距離が長く設定されてもおく、もしくは所定時間が長く設定されてもよい。また、ヨーレートが大きいときは小さいときに比べ、所定距離が長く
設定されてもよく、もしくは所定時間が長く設定されてもよい。
【0035】
なお、運転者に対する警告の方法は、ブザー12の鳴動や表示装置13における警告メッセージまたは警告灯の表示に限られず、たとえば、シートベルトの締め付けトルクを断続的に変化させる方法などを採用してもよい。
【0036】
制御判定部107は、前記共通支援判定部105により運転支援処理の実行が許可された場合に、走路からの逸脱や障害物との衝突を回避するために、電動パワーステアリング(EPS)14や電子制御式ブレーキ(ECB)15を作動させるタイミングを決定する。たとえば、制御判定部107は、車両幅方向における車両と走路境界または障害物との距離が所定距離以下となるときに、電動パワーステアリング(EPS)14や電子制御式ブレーキ(ECB)15を作動させるようにしてもよい。
【0037】
また、制御判定部107は、車両が走路境界または障害物に到達するまでの時間が所定時間以下となるときに、電動パワーステアリング(EPS)14や電子制御式ブレーキ(ECB)15を作動させるようにしてもよい。なお、走路幅が狭い場合は、制御判定部107は、車両幅方向における車両と立体物(走路脇に存在する縁石、ガードレール、溝、壁、ポールなど)との距離が所定距離以下となるときに、電動パワーステアリング(EPS)14や電子制御式ブレーキ(ECB)15を作動させるようにしてもよい。
【0038】
車両がカーブに進入する場合や車両がカーブを走行している場合は、制御判定部107は、車両進行方向における車両と走路境界との距離が所定距離以下となるときに、電動パワーステアリング(EPS)14や電子制御式ブレーキ(ECB)15を作動させるようにしてもよい。なお、車両がカーブに進入する場合や車両がカーブを走行している場合は、制御判定部107は、車両が走路境界に到達する時間が所定時間以下となるときに、電動パワーステアリング(EPS)14や電子制御式ブレーキ(ECB)15を作動させるようにしてもよい。
【0039】
制御判定部107が使用する所定距離や所定時間は、前記警報判定部106が使用する所定距離や所定時間と同様に車速やヨーレートに応じて変更されるが、前記警報判定部106が使用する所定距離や所定時間より短く設定される。
【0040】
制御量演算部108は、前記制御判定部107により電動パワーステアリング(EPS)14や電子制御式ブレーキ(ECB)15の作動要求が発生したときに、電動パワーステアリング(EPS)14や電子制御式ブレーキ(ECB)15の制御量を演算するとともに、算出された制御量と前記制御判定部107により判定されたタイミングとにしたがって電動パワーステアリング(EPS)14や電子制御式ブレーキ(ECB)15を作動させる。たとえば、制御量演算部108は、統合認識処理部104により生成された情報と、車輪速センサ6の出力信号(車速)と、ヨーレートセンサ5の出力信号(ヨーレート)と、をパラメータとして、走路逸脱を回避するために必要な目標ヨーレート、または障害物を回避するために必要な目標ヨーレートを演算する。詳細には、制御量演算部108は、走路境界または障害物と車両との相対距離をD、車両が走路境界または障害物へ到達する時間をT、走路境界または障害物に対する車両のヨー角をθとした場合に、以下の式により目標ヨーレートYtrgを演算する。
Ytrg=(θ・V・sinθ)/D
【0041】
制御量演算部108は、目標ヨーレートYtrgを引数として、電動パワーステアリング(EPS)14の制御量(操舵トルク)と電子制御式ブレーキ(ECB)15の制御量(ブレーキ油圧)を求める。その際、目標ヨーレートYtrgと操舵トルクとの関係、および目標ヨーレートYtrgとブレーキ油圧との関係は、予めマップ化されていてもよい
。なお、目標ヨーレートYtrgが所定値(走路逸脱の回避や障害物の回避を操舵のみで達成し得るヨーレートの最大値)より小さいときは、電子制御式ブレーキ(ECB)15のブレーキ油圧は零に設定されてもよい。また、電子制御式ブレーキ(ECB)15が作動する際に、車両の左右輪の摩擦ブレーキに対して異なるブレーキ油圧が印加されると、電動パワーステアリング(EPS)14により発生させられるヨーレートと干渉するヨーレートが発生してしまう。そのため、左右輪の摩擦ブレーキに対して同等のブレーキ油圧が印加されることが望ましい。
【0042】
なお、車両を減速させる方法は、電子制御式ブレーキ(ECB)15により摩擦ブレーキを作動させる方法に限られず、車両の運動エネルギを電気エネルギに変換(回生)させる方法や、変速機の変速比を変更させてエンジンブレーキを増大させる方法を用いてもよい。
【0043】
以上述べた運転支援システムによれば、障害物の存在や走路からの逸脱などを運転者に知らせたり、走路逸脱を回避するための運転操作や障害物を回避するための運転操作を補助したりすることが可能になる。
【0044】
次に、前記障害物情報により特定される物体が複数存在する場合における走路の決定方法について述べる。統合認識処理部104は、前記障害物情報処理部100から複数の物体に関する障害物情報を受け取ったときに、それら複数の物体を1つの物体と仮定(グルーピング)することが可能であるか否かを判別する。なお、ここでいう複数の物体は、車線と平行な方向に沿って不連続に点在する物体であり、たとえば、ガードレール、ポール、街路樹、縁石、溝などである。
【0045】
前記物体が車道と歩道を隔てるガードレールである場合において、バス停などが設置される箇所では、図2に示すように、ガードレールGに切れ目が設けられる。その場合、ガードレールGの切れ間へ自車両Aが進入する事態を回避する必要があるため、切れ目を隔てた2つのガードレールGを1つの物体と仮定(グルーピング)することが望ましい。
【0046】
一方、自車両Aが走行している道路に対して車両が通行可能な脇道(道路)が接続される箇所においても、図3に示すように、ガードレールGに切れ目が設けられる。そのような環境において、切れ目を隔てた2つのガードレールGが1つの物体と仮定されると、前記した脇道は走路から逸脱した領域として扱われることになる。そのため、運転者が自車両Aを前記脇道へ進入させようとする際に運転支援処理が実行されてしまい、運転者が煩わしさを覚える可能性がある。よって、ガードレールGの切れ目などのような複数の物体の間に道路が存在する場合には、複数の物体を1つの物体と仮定せずに走路を決定することが望ましい。
【0047】
そこで、本実施例における統合認識処理部104は、障害物情報処理部100により生成された障害物情報により特定される物体が複数存在する場合に、それら複数の物体間に車両が進入可能な道路が存在するか否かを判別し、その判別結果に応じて走路を決定するようにした。なお、ここでいう「車両が進入可能な道路」は、車両進入禁止の道路を含まないことが望ましい。たとえば、自車両の進行方向への通行が禁止されている一方通行道路や、自動車の通行が禁止されている道路は、「車両が進入可能な道路」から除外されることが望ましい。そこで、本実施例における統合認識処理部104は、複数の物体間に道路が存在する場合であっても、該道路が車両進入不可能な道路であれば、複数の物体間に道路が存在しないと判別するようにした。
【0048】
ここで、複数の物体間に道路が存在するか否かを判別する方法としては、(1)複数の物体間の幅(距離)が車両通行可能な路幅以上であるか否かを判別する方法、(2)ナビ
ゲーションシステムが有する地図情報において複数の物体間に道路が登録されているか否かを判別する方法、(3)レーダ装置2または車外用カメラ3により検出される他車両の軌跡が複数の物体間を通過したか否かを判別する方法、などを用いることができる。なお、ここでいう「車両通行可能な路幅」は、自車両の幅に所定のマージンを加算した幅、統計的に求められた車両幅(たとえば、乗用車の幅)の最大値に所定のマージンを加算した幅、統計的に求められた車両幅の最大値の2倍に所定のマージンを加算した幅、などである。
【0049】
次に、複数の物体間に存在する道路が車両進入禁止道路であるか否かを判別する方法としては、車両進入禁止の指標となる道路標識の有無を車外用カメラ3の撮像画像から判別する方法や、ナビゲーションシステムの地図情報において車両進入禁止を示すデータが登録されているか否かを判別する方法、などを用いることができる。
【0050】
統合認識処理部104は、上記した種々の方法により複数の物体間に車両進入可能な道路が存在しないと判別された場合は、複数の物体を1つの物体と仮定(グルーピング)する。一方、統合認識処理部104は、上記した種々の方法により複数の物体間に車両進入可能な道路が存在すると判別された場合は、複数の物体を1つの物体と仮定せずに、前記した複数の物体間の道路を含めて走路を決定する。すなわち、複数の物体間に車両進入可能な道路が存在すると判別された場合には、統合認識処理部104は、複数の物体を個々に独立した物体として扱うとともに、現時点で車両が走行している道路と複数の物体間の道路とを結合して走路の決定を行う。
【0051】
その結果、図4に示すように、複数の物体間に車両進入可能な道路が存在しない場合に、車両が複数の物体間へ進入しようとすると、運転支援処理が実行されることになる。一方、図5に示すように、複数の物体間に車両進入可能な道路が存在する場合に、車両が複数の物体間へ進入しようとすると、運転支援処理が実行されなくなり、運転者が煩わしさを覚えることがなくなる。
【0052】
以下、本実施例におけるグルーピング処理の実行手順について図6に沿って説明する。図6は、ECU1によって周期的に実行されるルーチンであり、ECU1のROMなどに予め記憶されているルーチンである。
【0053】
図6のルーチンでは、ECU1は、先ずS101においてレーダ装置2の出力信号から障害物情報を生成する。すなわち、ECU1は、前述した障害物情報処理部100として機能する。このようにECU1がS101の処理を実行することにより、本発明にかかる検出手段が実現される。
【0054】
S102では、ECU1は、前記S101において生成された障害物情報に基づいて、車線と平行な方向に沿って複数の物体が点在しているか否かを判別する。S102において否定判定された場合は、ECU1は、本ルーチンの実行を一旦終了する。一方、S102において肯定判定された場合は、ECU1は、S103へ進む。
【0055】
S103では、ECU1は、他車両の軌跡が前記複数の物体間を通過しているか否かを判別する。つまり、ECU1は、自車両周辺を走行している他車両の軌跡を特定し、特定された軌跡のうち前記物体間へ進入した軌跡があるか否かを判別する。S103において否定判定された場合は、ECU1は、S104へ進む。
【0056】
S104では、ECU1は、ナビゲーションシステムが有する地図情報において前記物体間に道路が登録されているか否かを判別する。S104において否定判定された場合は、ECU1は、S105へ進む。
【0057】
S105では、ECU1は、前記S101で生成された障害物情報(自車両を原点とする座標系における各物体の位置座標)を利用して、前記物体間の距離(幅)Lを演算する。
【0058】
S106では、ECU1は、前記S105において算出された物体間距離Lが車両通行可能な路幅W以上であるか否かを判別する。なお、ECU1は、S106において、前記物体間距離Lが車両通行可能な路幅W以上であるか否かに加え、車両進入禁止を示す道路標示の有無を判別することが望ましい。その場合、ECU1は、前記物体間距離Lが車両通行可能な路幅W以上であり、且つ車両進入禁止を示す道路標示が無ければ肯定判定し、前記物体間距離Lが車両通行可能な路幅W未満であり、または車両進入禁止を示す道路標示が有れば否定判定するものとする。
【0059】
ECU1は、前記S106において否定判定された場合は、S107へ進み、前記物体間に車両進入可能な道路が存在しないと判定する。次いで、ECU1は、S108へ進み、前記複数の物体を1つの物体と仮定(グルーピング)する。つまり、ECU1は、前記複数の物体を1つの物体として走路の決定を行う。
【0060】
また、前記S103、前記S104、あるいは前記S106において肯定判定された場合は、ECU1は、S109へ進み、前記物体間に車両進入可能な道路が存在すると判定する。次いで、ECU1は、S110へ進み、前記複数の物体を1つの物体と仮定(グルーピング)しない。すなわち、ECU1は、前記複数の物体を個々に独立した物体として圧且つとともに、それら複数の物体間に存在する道路を含めた走路の決定を行う。
【0061】
なお、ECU1が前記したS104乃至S106の処理を実行することにより、本発明に係わる判別手段が実現される。また、ECU1は、前記したS107乃至S110の処理を実行することにより本発明に係わる決定手段が実現される。
【0062】
以上述べた実施例によれば、複数の物体間に車両進入可能な道路が存在する場合に、それら複数の物体が1つの物体と仮定(グルーピング)される事態を回避することができるとともに、それら複数の物体間に存在する道路が走路から逸脱した領域として扱われる事態も回避することができる。その結果、運転者が車両を物体間の走路へ進入させようとしたときに、運転支援処理が不要に実行される事態を回避することができる。よって、実際の道路状態に適した走路判定を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0063】
1 ECU
2 レーダ装置
3 車外用カメラ
4 ドライバー用カメラ
5 ヨーレートセンサ
6 車輪速センサ
7 ブレーキセンサ
8 アクセルセンサ
9 ウィンカースイッチ
10 舵角センサ
11 操舵トルクセンサ
12 ブザー
13 表示装置
100 障害物情報処理部
101 車線情報処理部
102 意識低下判定部
103 運転者意図判定部
104 統合認識処理部
105 共通支援判定部
106 警報判定部
107 制御判定部
108 制御量演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が走行可能な経路である走路を判定する車両の走路判定システムにおいて、
車両の周囲に存在する物体を検出する検出手段と、
前記検出手段により複数の物体が検出された場合に、それら物体間に車両が進入可能な道路が存在するか否かを判別する判別手段と、
前記判別手段により道路が存在すると判別された場合は、前記物体間の道路を含めて走路を決定する決定手段と、
を備える車両の走路判定システム。
【請求項2】
請求項1において、前記決定手段は、前記判別手段により道路が存在しないと判別された場合は前記複数の物体が1つの物体であると仮定して走路を決定する車両の走路判定システム。
【請求項3】
請求項1または2において、前記判別手段は、車両が通過可能な路幅に対して前記複数の物体間の幅が広い場合に、前記複数の物体間に道路が存在すると判別する車両の走路判定システム。
【請求項4】
請求項1または2において、前記判別手段は、ナビゲーションシステムの地図情報において前記複数の物体間に道路が登録されている場合に、前記複数の物体間に道路が存在すると判別する車両の走路判定システム。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項において、前記判別手段は、前記検出手段により検出された複数の物体間に道路が存在する場合に、該道路が車両進入禁止の道路であれば、前記物体間に道路が存在しないと判別する車両の走路判定システム。
【請求項6】
車両の周囲に存在する物体を検出する検出手段と、
前記検出手段により複数の物体が検出された場合に、それら物体間に車両が進入可能な経路である道路が存在するか否かを判別する判別手段と、
前記判別手段により道路が存在しないと判別された場合は前記複数の物体間へ車両が進入する挙動に対して運転支援処理を実行し、前記判別手段により道路が存在すると判別された場合は前記複数の物体間へ車両が進入する挙動に対する運転支援処理の実行を制限する制御手段と、
を備える車両の運転支援システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−79206(P2012−79206A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225583(P2010−225583)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】