説明

車両の車体フレーム構造

【課題】衝突性能を向上して変形を抑制しつつ軽量化を図ることができ、且つボルトによって他部材をフレーム部材に対して良好に固定することができる車体フレーム構造を提供する。
【解決手段】車体フレームを構成するフレーム部材24内に、基材62と、加熱硬化型の発泡充填材からなる充填部材61とで構成される補強部材60を設けると共に、フレーム部材24の内側に配したナット81にフレーム部材24の外側からボルト80を締結することによってフレーム部材24に他部材50を固定した構成において、このナット81と基材62とを一体的に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のフロア下に設けられる車体フレーム構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両のフロア下に設けられる車体フレームは、車両の骨格をなすものであるため、十分に高い強度が確保されている必要がある。従来は、例えば、補強用の部材を車体フレームの所定位置にスポット溶接等によって接合することで、車体フレームの強度を高めていた。これにより車体フレームの強度を向上することはできるが、車両の重量が増加してしまうという問題がある。
【0003】
また車体フレームの変形を抑えるために、車体フレームを構成するアウタパネルと、アウタパネルの内側に配置された補強部材との間の閉断面空間に、発泡樹脂材を充填するようにしたものがある(例えば、特許文献1,2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3525890号公報
【特許文献2】特開2009−120161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような車体フレームを構成するアウタパネル等のフレーム部材には、例えば、各種ブラケット等の他部材が固定されていることがある。この他部材は、例えば、ボルトとナットとによりフレーム部材に固定される。例えば、図8に示すように、フレーム部材1には、他部材2の挿入孔3に連通してボルト4が挿入される連通孔5が形成されている。またフレーム部材1の内側には基材6aと充填部材6bとで構成される補強部材6が設けられ、この補強部材6に連通孔5に対応する貫通孔7が形成されている。そして、この貫通孔7内に配されたナット8に、フレーム部材1の外側から挿入孔3及び連通孔5を介してボルト4が締結されて、他部材2がフレーム部材1に固定される。
【0006】
このような構成においては、フレーム部材1と基材6aとの間に配された発泡充填材を加熱発泡させて充填部材6bを形成した後に、他部材2がフレーム部材1に固定される。このため、補強部材6の貫通孔7内にまで発泡充填材がはみ出してしまい、貫通孔7内にナット8を良好に配置することができず、ボルト4をナット8に良好に締結させることができない虞がある。すなわち、他部材2をフレーム部材1に対して固定することができない虞がある。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、衝突性能を向上して変形を抑制しつつ軽量化を図ることができ、且つボルトによって他部材をフレーム部材に対して良好に固定することができる車体フレーム構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、車両のフロア下に配されて複数のフレーム部材で形成される車体フレーム構造であって、前記フレーム部材内には、基材と、該基材と前記フレーム部材との間に充填された加熱硬化型の発泡充填材からなる充填部材とで構成される補強部材が設けられると共に、前記フレーム部材の内側に配されたナットに前記フレーム部材の外側からボルトを締結することによって、前記フレーム部材に他部材が固定されており、前記ナットと前記基材とが一体的に形成されていることを特徴とする車体フレーム構造にある。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様の車体フレーム構造であって、前記基材が樹脂材料で形成され、インサート成形によって前記ナットと前記基材とが一体的に形成されていることを特徴とする車体フレーム構造にある。
【0010】
本発明の第3の態様は、第1又は2の態様の車体フレーム構造であって、前記他部材が、リアサスペンションの一部が連結されるサスペンションブラケットであることを特徴とする車体フレーム構造にある。
【発明の効果】
【0011】
かかる本発明によれば、補強部材を構成する充填部材によって車体フレームを構成するフレーム部材の衝突性能が大幅に向上するため、車両後方からの衝突(後突)が生じた場合にも、車体フレームの変形が抑制されて車両の安全性が向上する。またフレーム部材の衝突性能が向上すると共に、フレーム部材の軽量化を図ることができる。このため、燃費の向上を図ることもできる。
【0012】
さらに本発明では、他部材をフレーム部材に固定するためのナットと基材とが一体的に形成されているため、ボルトによってフレーム部材に他部材を良好に固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一実施形態に係る車両の車体構造を示す概略図である。
【図2】車両を構成するリアサスペンションの一例を示す概略図である。
【図3】一実施形態に係るフレーム部材を示す側面図である
【図4】一実施形態に係るフレーム部材の構造を示す概略斜視図である。
【図5】一実施形態に係るフレーム部材の構造を示す断面図である。
【図6】一実施形態に係るフレーム部材に対する他部材の取付状態を示す断面図である。
【図7】一実施形態に係る充填部材の形成工程を示す断面図である。
【図8】従来技術に係るフレーム部材に対する他部材の取付状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る車両の車体フレーム構造について、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1に示すように、自動車である車両10は、車体11の下部の骨格をなす車体フレーム20をフロア下(車室の下側)に備えている。この車体フレーム20は、複数のフレーム部材で構成されている。例えば、本実施形態では、車体フレーム20は、車両10の前後方向に延設される一対のサイドメンバ21と、車両10の車幅方向に延設される複数本のクロスメンバ22とを備えている。各サイドメンバ21は、例えば、複数の部材を連結することによって形成されており、本実施形態では、車両10の前方側を構成するフロントサイドメンバ23と車両10の後方側を構成するリアサイドメンバ24とで構成されている。各クロスメンバ22は、このようなサイドメンバ21の所定位置にスポット溶接等によって固定されている。
【0016】
このような車体フレーム20の構造は特に限定されないが、車両10の骨格をなすものであるため、その剛性は比較的高いことが好ましい。また車体フレーム20は、全体の剛性が高いことが好ましく、特に、他部材が連結される部分の剛性が高くなっていることが望ましい。
【0017】
例えば、本実施形態では、車両10の前輪30(図1参照)は、図示しないフロントサスペンションによって車体11(車体フレーム20)に支持されている。車両10の後輪31は、リアサスペンションによって車体11(車体フレーム20)に支持されている。図2に示すように、リアサスペンション40としては、例えば、マルチリンク型のリアサスペンションが挙げられる。このリアサスペンション40は、車両10の前後方向に延設されて後輪31の前後位置を決めると共に上下方向にスイング可能に構成されたトレーリングアーム41、車幅方向に延設された複数のリンク42,43,44、車両10の上下方向に延びるショックアブゾーバ45を内蔵しコイルバネ46を外装するストラット47等を備えている。各リンク42,43,44は、リアサスペンション40の骨格をなすサスペンションクロスメンバ(図2では省略)に取り付けられている。そして、このサスペンションクロスメンバは、車体フレーム20に取り付けられている。
【0018】
具体的には、図3に示すように、車体フレーム20を構成するリアサイドメンバ24は、車両10の後輪31に対向する部分に、後端側が前端側よりも上方に位置するように傾斜するキックアップ部24aを有する。このキックアップ部24aは、リアサスペンション40等との干渉を避けるために設けられている。そして、リアサスペンション40を構成するサスペンションクロスメンバ48が、このリアサイドメンバ24のキックアップ部24aに、サスペンションブラケット50を介して連結されている。つまりリアサイドメンバ24のキックアップ部24aには、リアサスペンション40の一部が連結されている。なお本実施形態では、サスペンションクロスメンバ48は、井桁状のパイプフレームからなり、ボルト等の締結部材51によってリアサイドメンバ24及びサスペンションブラケット50に固定されている。
【0019】
そして、図4及び図5に示すように、リアサイドメンバ24のキックアップ部24a内には、加熱硬化型の発泡充填材で形成された充填部材61と、この充填部材61上に設けられて充填部材61によってリアサイドメンバ24に固定された基材62とで構成される補強部材60が設けられている。本実施形態に係るリアサイドメンバ24は、断面略コ字状に形成されて溝部25を画成しており、この溝部25内に補強部材60が設けられている。またリアサイドメンバ24上には、車体フレーム20を構成する他のフレーム部材であるリアサイドメンバアッパー70がスポット溶接等によって接合されており、溝部25がこのリアサイドメンバアッパー70によって塞がれている。
【0020】
ここで、充填部材61の材料である発泡充填材としては、例えば、エポキシ系の加熱硬化型の発泡充填材が用いられる。また基材62は、未発泡(加熱発泡前)の充填材の仮保持及び発泡エリアをガイドするためのものであり、例えば、金属材料、或いは樹脂材料等の比較的硬質の板材で形成されている。
【0021】
本実施形態では、補強部材60を構成する充填部材61は、加熱硬化型の発泡充填材を加熱して発泡させることによって形成されている。補強部材60は、具体的には、次のような手順で形成される。まずリアサイドメンバ24内に、未発泡の充填材を載置すると共に、この充填材上に基材62を載置する。この状態で充填材を加熱して発泡させる。これにより、発泡した充填材からなる充填部材61が所望の形状に形成されると共に、この充填部材61がリアサイドメンバ24及び基材62に強固に接合される。すなわちリアサイドメンバ24と基材62とが充填部材61によって接合されて、補強部材60が形成される。
【0022】
なお発泡充填材を加熱発泡させる際には、基材62をリアサイドメンバ24に仮固定して基材62の移動を規制しておくことが好ましい。これにより、発泡充填材を所望の形状に加熱発泡させて、充填部材61を所定形状に良好に形成することができる。
【0023】
このようにリアサイドメンバ24のキックアップ部24a内に補強部材60が設けられていることで、すなわちキックアップ部24a内に所定形状の充填部材61が設けられていることで、キックアップ部24aの衝突性能が向上する。すなわち、車両後方からの衝突(後突)が生じた場合にも、衝突のエネルギーが充填部材61によって吸収されて車体フレーム20の変形が抑制され、車両10の安全性が向上する。
【0024】
なお充填部材61の形状は、特に限定されず、リアサイドメンバ24の形状等に応じて適宜決定されればよい。本実施形態では、充填部材61は、リアサイドメンバ24によって画成された溝部25の二つの角部にそれぞれ設けられている。溝部25の各角部は、車両後方からの衝突の際の荷重(エネルギー)負荷が大きい。このため、各角部に充填部材61を設けることで、衝突の際のエネルギーを充填部材61によって吸収させて車体フレーム20の変形を効果的に抑制することができる。
【0025】
また補強部材60を構成する基材62は、リアサイドメンバ24に対して直接固定(接合)されることはなく、充填部材61のみによって固定されている。このような構成とすることで、衝突の際のエネルギーを充填部材61によって効率的に吸収することができ、車体フレーム20の変形を抑制することができる。
【0026】
また基材62の材料は、特に限定されず、上述のように、例えば、金属材料或いは樹脂材料等の比較的硬質の材料を用いることができるが、特に、比較的軽量な樹脂材料を用いることが好ましい。充填部材61によって衝突の際のエネルギーが効率的に吸収されるため、基材62を樹脂材料で形成しても車体フレーム20の変形を抑制することができる。したがって、基材62を樹脂材料で形成することで、衝突性能を向上しつつ、車体フレーム20を軽量化して燃費の向上を図ることができる。
【0027】
ところで、上述したようにリアサイドメンバ24のキックアップ部24aには他部材、例えば、サスペンションブラケット50等が固定されている。このサスペンションブラケット50のリアサイドメンバ24への固定方法は、特に限定されるものではないが、サスペンションブラケット50は、例えば、ボルト及びナットによってリアサイドメンバ24に固定されている。具体的には、図6に示すように、サスペンションブラケット50には、ボルト80が挿入される挿入孔52が形成されており、リアサイドメンバ24にはこの挿入孔52に連通する連通孔26が形成されている。またリアサイドメンバ24内には、この連通孔26に対応する位置に、ボルト80が締結されるナット81が配されている。挿入孔52及び連通孔26を介して挿入されたボルト80を、リアサイドメンバ24内に配されているナット81に締結することによって、サスペンションブラケット50がリアサイドメンバ24に強固に固定されている。
【0028】
そして本発明では、このように他部材であるサスペンションブラケット50を固定するためのナット81と、補強部材60を構成する基材62とが一体的に形成されている。本実施形態では、基材62の材料として樹脂材料が用いられ、基材62とナット81とが、インサート成形により一体的に形成されている。
【0029】
基材62とナット81とが一体的に形成されていることで、このナット81を利用して基材62をリアサイドメンバ24に仮固定することができる。上述したように充填材を加熱発泡させる際には、基材62をリアサイドメンバ24に仮固定して基材62の移動を規制しておくことが好ましい。基材62とナット81とが一体的に形成された構成では、例えば、図7に示すように、リアサイドメンバ24の外側から連通孔26を介してボルト80をナット81に締結することで、基材62とリアサイドメンバ24とを極めて容易に仮固定することができる。この状態で充填材100を加熱発泡させることで充填部材61が良好に形成される。
【0030】
なお充填部材61が形成された後は、ボルト80を一旦取り外し、再びこのボルト80によってサスペンションブラケット50をリアサイドメンバ24に対して固定する(図6参照)。充填部材61が形成された後は、基材62が充填部材61によってリアサイドメンバ24に強固に接合されているため、ボルト80を取り外しても基材62が移動することはない。つまりナット81と連通孔26との位置ずれが生じることはない。したがって、サスペンションブラケット50をリアサイドメンバ24に固定する際にも、ボルト80をナット81に容易に締結することができる。
【0031】
このように基材62とナット81とが一体的に形成されていることで、サスペンションブラケット50のリアサイドメンバ24に対する取付不良の発生を抑えることができる。すなわち発泡充填材を加熱発泡させて充填部材61を形成する際に、充填材がナット81の周囲や内部に入り込むことがなく、ボルト80をナット81に確実に締結させることができる。
【0032】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、勿論、このような実施形態に限定されるものではない。本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能なものである。
【0033】
例えば、上述の実施形態では、ナットと基材とをインサート成形により一体的に形成した例を説明したが、ナットと基材とを一体的に形成する方法は、特に限定されるものではない。
【0034】
また例えば、上述の実施形態では、補強部材が設けられるフレーム部材として、リアサイドメンバを例示したが、補強部材は、車体フレームを構成する何れのフレーム部材に設けられていてもよい。また、フレーム部材であるリアサイドメンバに固定される他部材としてサスペンションブラケットを例示したが、勿論、他部材もサスペンションブラケットに限定されるものではない。
【0035】
また上述の実施形態では、キックアップ部に連結されるリアサスペンションの一例としてマルチリンク型のリアサスペンションを例示したが、勿論、リアサスペンションの型式は、特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0036】
10 車両
11 車体
20 車体フレーム
21 サイドメンバ
22 クロスメンバ
23 フロントサイドメンバ
24 リアサイドメンバ
24a キックアップ部
25 溝部
26 連通孔
30 前輪
31 後輪
40 リアサスペンション
41 トレーリングアーム
42,43,44 リンク
45 ショックアブソーバ
46 コイルバネ
47 ストラット
48 サスペンションクロスメンバ
50 サスペンションブラケット
51 締結部材
52 挿入孔
60 補強部材
61 充填部材
62 基材
70 リアサイドメンバアッパー
80 ボルト
81 ナット
100 充填材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のフロア下に配されて複数のフレーム部材で形成される車体フレーム構造であって、
前記フレーム部材内には、基材と、該基材と前記フレーム部材との間に充填された加熱硬化型の発泡充填材からなる充填部材とで構成される補強部材が設けられると共に、
前記フレーム部材の内側に配されたナットに前記フレーム部材の外側からボルトを締結することによって、前記フレーム部材に他部材が固定されており、
前記ナットと前記基材とが一体的に形成されていることを特徴とする車体フレーム構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車体フレーム構造であって、
前記基材が樹脂材料で形成され、インサート成形によって前記ナットと前記基材とが一体的に形成されていることを特徴とする車体フレーム構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車体フレーム構造であって、
前記他部材が、リアサスペンションの一部が連結されるサスペンションブラケットであることを特徴とする車体フレーム構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−67235(P2013−67235A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206090(P2011−206090)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】