説明

車両の車体上部構造

【課題】前突によりショルダアンカー等を介しセンタピラーに与えられる着座者の慣性力が過大であるとしても、シートベルトによる着座者の拘束性能が良好に保持されるようにする。
【解決手段】ピラーインナパネル17が、前、後パネル22,23同士を結合する内側パネル24と、前、後パネル22,23に形成される前、後外向きフランジ25,26とを備える。センタピラー8の上端部における前、後外向きフランジ25,26をルーフサイドレール29にスポット溶接S3,S4により結合する。センタピラー8の中途部における内側パネル24の部分にシートベルト47を掛止するショルダアンカー49を取り付ける。上下方向で、後外向きフランジ26のスポット溶接S4部の高さ以上の位置における内側パネル24の上端部に前後方向に長く延びるビード54を形成する。ビード54の後端部が内側パネル24の上端部における後端部以上に後方に位置するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センタピラーの車室がわ面を形成するピラーインナパネルの上端部がルーフサイドレールにスポット溶接され、上記センタピラーの長手方向の中途部における上記ピラーインナパネルの部分に、前突時の乗員の慣性力を支持するシートベルトのショルダアンカーを取り付けた車両の車体上部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記車両の車体上部構造には、従来、下記特許文献1に示されるものがある。この公報のものによれば、センタピラーの車室がわ面を形成する板金製ピラーインナパネルが、車体前後方向で互いに離れて対面する前、後パネルと、これら前、後パネルにおける車室がわの各一端縁部同士を互いに一体的に結合する内側パネルと、上記前、後パネルの各他端縁部に一体的に形成される前、後外向きフランジとを備える。上記センタピラーの上端部における前、後外向きフランジがルーフサイドレールにスポット溶接により結合される。上記センタピラーの長手方向の中途部における内側パネルの部分にシートベルトを掛止するショルダアンカーが取り付けられる。
【0003】
車両の走行時、車体内部のシートに着座した着座者は、通常、上記シートベルトにより拘束された状態とされる。そして、車両の前進走行時に、その前方に位置する何らかの物体に車両が衝突(前突)したときには、着座者はその慣性力によりシート側からその前方に移動しようとするが、上記慣性力は、上記シートベルト、およびこのシートベルトを掛止するショルダアンカーを介しセンタピラーにより主に支持され、上記シート側からの着座者の前方移動が阻止される。つまり、前突時における着座者は、上記シートベルトによりシート上に拘束されたままに保持されて保護される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−328080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前突時における上記着座者の慣性力は、上記したようにショルダアンカーを介しセンタピラーにより支持されるが、具体的には、ショルダアンカーを介しセンタピラーの内側パネルにより支持される。ここで、上記慣性力が過大である場合には、この慣性力により上記内側パネルは前方に向かうよう変形し始め、かつ、これに連動する上記後パネルにより、上記後外向きフランジの前部が車体幅方向で車室内側に引張されて上記ルーフサイドレールから離反するよう変形し始める。
【0006】
すると、上記ルーフサイドレールに対する上記後外向きフランジのスポット溶接の溶着部には大きい引張応力が生じて、この溶着部が破断するおそれが生じる。そして、この破断が生じることにより、上記ルーフサイドレールから上記後外向きフランジが剥離したとすると、上記シートベルトが無用に弛むことから、このシートベルトによる着座者の拘束性能が低下するという不都合が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、シート上にシートベルトとショルダアンカーとを介し着座者が拘束されている車両走行時に、前突により上記ショルダアンカー等を介しセンタピラーに与えられる着座者の慣性力が過大であるとしても、シートベルトによる着座者の拘束性能が良好に保持されるようにすることである。
【0008】
請求項1の発明は、センタピラー8の車室10がわ面を形成する板金製ピラーインナパネル17が、車体2前後方向で互いに離れて対面する前、後パネル22,23と、これら前、後パネル22,23における車室10がわの各一端縁部同士を互いに一体的に結合する内側パネル24と、上記前、後パネル22,23の各他端縁部に一体的に形成される前、後外向きフランジ25,26とを備え、上記センタピラー8の上端部における前、後外向きフランジ25,26をルーフサイドレール29にスポット溶接S3,S4により結合し、上記センタピラー8の長手方向の中途部における上記内側パネル24の部分にシートベルト47を掛止するショルダアンカー49を取り付けた車両の車体上部構造において、
上下方向で、上記後外向きフランジ26のスポット溶接S4部の高さ以上の位置における上記内側パネル24の上端部に前後方向に長く延びるビード54を形成し、このビード54の後端部が上記内側パネル24の上端部における後端部以上に後方に位置するようにしたことを特徴とする車両の車体上部構造である。
【0009】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号や図面番号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0010】
本発明による効果は、次の如くである。
【0011】
請求項1の発明は、センタピラーの車室がわ面を形成する板金製ピラーインナパネルが、車体前後方向で互いに離れて対面する前、後パネルと、これら前、後パネルにおける車室がわの各一端縁部同士を互いに一体的に結合する内側パネルと、上記前、後パネルの各他端縁部に一体的に形成される前、後外向きフランジとを備え、上記センタピラーの上端部における前、後外向きフランジをルーフサイドレールにスポット溶接により結合し、上記センタピラーの長手方向の中途部における上記内側パネルの部分にシートベルトを掛止するショルダアンカーを取り付けた車両の車体上部構造において、
上下方向で、上記後外向きフランジのスポット溶接部の高さ以上の位置における上記内側パネルの上端部に前後方向に長く延びるビードを形成し、このビードの後端部が上記内側パネルの上端部における後端部以上に後方に位置するようにしている。
【0012】
このため、上記内側パネルの上端部に対する車体の前後方向からの外力についての強度が上記ビードによって向上することから、前突時、上記シートベルトとショルダアンカーとを介し前方に向かうよう内側パネルに与えられる着座者の慣性力が過大であるとしても、この慣性力により上記内側パネルが前方に向かうよう変形することは防止される。
【0013】
よって、上記慣性力により内側パネルが前方に変形し、かつ、この変形に順次連動して、上記ルーフサイドレールに対する後外向きフランジのスポット溶接が破断する、ということは防止され、つまり、上記ルーフサイドレールからの上記ピラーインナパネルの後外向きフランジの剥離が防止される。この結果、前突時の着座者の慣性力が過大であるとしても、上記シートベルトによる着座者の拘束性能は良好に保持される。
【0014】
また、上記した拘束性能の良好な保持は、上記ピラーインナパネルの内側パネルの上端部へのビードの形成によって達成されることから、上記ピラーインナパネルの板厚を大きくしたり、別途の補強材を設けることを抑制できる。よって、上記拘束性能の良好な保持は、軽量かつ簡単な構成によって達成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】車体を車室がわから見た斜視図である。
【図2】車両の部分側面簡略図である。
【図3】図1のものの展開図である。
【図4】車体を車室がわから見た側面図である。
【図5】図4のものを車体の後方から見た断面図である。
【図6】図4のVI−VI線矢視断面図である。
【図7】図4のVII−VII線矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の車両の車体上部構造に関し、シート上にシートベルトとショルダアンカーとを介し着座者が拘束されている車両走行時に、前突により上記ショルダアンカー等を介しセンタピラーに与えられる着座者の慣性力が過大であるとしても、シートベルトによる着座者の拘束性能が良好に保持されるようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための形態は、次の如くである。
【0017】
即ち、車両の車体上部構造において、センタピラーの車室がわ面を形成する板金製ピラーインナパネルが、車体前後方向で互いに離れて対面する前、後パネルと、これら前、後パネルにおける車室がわの各一端縁部同士を互いに一体的に結合する内側パネルと、上記前、後パネルの各他端縁部に一体的に形成される前、後外向きフランジとを備える。上記センタピラーの上端部における前、後外向きフランジをルーフサイドレールにスポット溶接により結合し、上記センタピラーの長手方向の中途部における上記内側パネルの部分にシートベルトを掛止するショルダアンカーが取り付けられる。
【0018】
上下方向で、上記後外向きフランジのスポット溶接部の高さ以上の位置における上記内側パネルの上端部に前後方向に長く延びるビードが形成される。このビードの後端部は上記内側パネルの上端部における後端部以上に後方に位置させられる。
【実施例】
【0019】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0020】
図において、符号1は、自動車で例示される車両であり、矢印Frは、この車両1の進行方向の前方を示している。
【0021】
上記車両1は板金製の車体2と、この車体2を走行面3上に支持する前、後車輪4とを備えている。上記車体2は、サイドシルやフロアパネルで構成される車体下部材6と、この車体下部材6の各側部から上方に突出するフロント、センタピラー7,8と、これらピラー7,8の各上端部に支持されるルーフ9とを備えている。これら車体下部材6、各ピラー7,8、およびルーフ9で囲まれた車体2の内部空間が車室10とされる。上記センタピラー8の前、後方域に、上記車室10の内外を連通させる前、後ドア開口11,12が形成され、これら各ドア開口11,12を車体2の外側方から開閉可能に閉じる前、後サイドドア13,14が設けられている。
【0022】
上記センタピラー8は、車体2の幅方向で互いに対面するピラーインナパネル17およびピラーアウタパネル18と、これら両パネル17,18の間に挟まれて、これら両パネル17,18を補強するピラー補強パネル19とを備えている。上記ピラーインナパネル17は、上記センタピラー8の車室10がわ面を形成し、上記ピラーアウタパネル18はセンタピラー8の外面を形成する。
【0023】
上記ピラーインナパネル17は、車体2の前後方向で互いに離れて対面する前、後パネル22,23と、これら前、後パネル22,23における車室10がわの各一端縁部同士を互いに一体的に結合する内側パネル24と、上記前、後パネル22,23の各他端縁部に一体的に形成される前、後外向きフランジ25,26とを備えている。これにより、上記ピラーインナパネル17は、その長手方向(上下方向)の各部断面が車室10がわに向かって凸のハット形状とされる。
【0024】
前記ルーフ9は、その左右各側部をそれぞれ構成して車体2の前後方向に延びるルーフサイドレール29と、これら左右ルーフサイドレール29に架設されて支持されるルーフパネル30と、上記左右ルーフサイドレール29に架設されて支持され、上記ルーフパネル30をその下方から支持して補強するルーフ補強パネル31と、上記各ルーフサイドレール29とルーフ補強パネル31の各側部とにそれぞれ架設されてこのルーフ補強パネル31を補強するルーフガセットパネル32とを備えている。
【0025】
上記ルーフサイドレール29は、車体2の幅方向で互いに対面するレールインナパネル35およびレールアウタパネル36と、これら両パネル35,36の間に挟まれて、これら両パネル35,36を補強するレール補強パネル37と、車体2の長手方向における上記センタピラー8と同位置で、上記レールインナパネル35とレール補強パネル37との間に介設され、これら35,37を互いに結合させる結合パネル38と、車体2の前後方向における上記センタピラー8と同位置で、上記レールインナパネル35の下端縁部から下方に向かって一体的に延出する延出パネル39とを備えている。この場合、上記センタピラー8のピラーアウタパネル18の上端縁部と、この上端縁部に対応する上記ルーフサイドレール29のレールアウタパネル36の下端縁部とは互いに一体的に形成されている。
【0026】
上記センタピラー8において、ピラーインナパネル17の前外向きフランジ25と、ピラーアウタパネル18およびピラー補強パネル19の各前端縁部とがスポット溶接S1により互いに結合され、上記ピラーインナパネル17の後外向きフランジ26と、ピラーアウタパネル18およびピラー補強パネル19の各後端縁部とがスポット溶接S2されている。
【0027】
また、上記センタピラー8の上端部において、ピラーインナパネル17とピラー補強パネル19との各上端部の間に上記ルーフサイドレール29の延出パネル39が挟まれており、上記ピラーインナパネル17の前外向きフランジ25の上端部と、ピラーアウタパネル18、ピラー補強パネル19および延出パネル39の各前端縁部とがスポット溶接S3され、上記ピラーインナパネル17の後外向きフランジ26の上端部と、ピラーアウタパネル18、ピラー補強パネル19および延出パネル39の各後端縁部とがスポット溶接S4されている。上記スポット溶接S1〜S4により、上記センタピラー8は、その長手方向(上下方向)の各部断面が中空の閉断面構造とされて、十分の強度と剛性とを備えている。
【0028】
上記ルーフ9において、上記ルーフサイドレール29のレールインナパネル35、レールアウタパネル36およびレール補強パネル37の各上端縁部と、ルーフパネル30の側端縁部とがスポット溶接S5され、上記レールインナパネル35とレールアウタパネル36との各下端縁部がスポット溶接S6されている。上記スポット溶接S5,S6により、上記ルーフサイドレール29は、その長手方向(車体2の前後方向)の各部断面が中空の閉断面構造とされて、十分の強度と剛性とを備えている。
【0029】
上記スポット溶接S3,S4よりも上方で、上記センタピラー8のピラーインナパネル17の内側パネル24の前、後上端部と、ルーフサイドレール29のレールインナパネル35とがスポット溶接S7,S8されている。上記センタピラー8のピラー補強パネル19の上端縁部と、上記ルーフサイドレール29の結合パネル38とがスポット溶接S9されている(図5)。また、上記スポット溶接S7,S8よりも上方で、上記ピラーインナパネル17の内側パネル24の上端縁部、ルーフサイドレール29のレールインナパネル35の上下方向の中途部、結合パネル38、およびルーフガセットパネル32の下端縁部がスポット溶接S10されている。上記スポット溶接S3,S4,S7〜S10により、上記センタピラー8の上端部とルーフサイドレール29の長手方向の中途部とが強固に結合されている。
【0030】
上記ルーフサイドレール29の上端縁部とルーフ補強パネル31の側端縁部とがスポット溶接S11され、上記ルーフサイドレール29のレールインナパネル35と上記ルーフガセットパネル32の下端縁部とがスポット溶接S10,S12され、かつ、上記ルーフ補強パネル31とルーフガセットパネル32の上端縁部とがスポット溶接S13されている。これらスポット溶接S10〜S13により、上記ルーフ9のルーフパネル30は、上記ルーフ補強パネル31やルーフガセットパネル32によって強固に補強されている。
【0031】
上記センタピラー8よりも前方で、上記車室10前部の右側部に運転者を着座者42とするシート43が設けられ、このシート43は上記車体下部材6に支持されている。上記シート43に着座した着座者42をこのシート43上に拘束可能とする三点式のシートベルト装置44が設けられている。
【0032】
上記シートベルト装置44は、上記センタピラー8の下部に固着され、一般にELRと言われるリトラクタ45と、一端がこのリトラクタ45に弾性的に巻き取られるよう連結され、他端部が上記シート43の車外側の側方近傍で、上記車体下部材6側にアンカー46により固定されるシートベルト47とを備えている。
【0033】
また、上記シートベルト装置44は、上記センタピラー8の長手方向の中途部(上部)に締結具48により取り付けられ、上記シートベルト47の中途部をその長手方向に摺動可能に掛止させるショルダアンカー49と、上記シート43の車体2幅方向における車体2中心側の側方近傍で、上記車体下部材6に連結されたバックル50と、上記アンカー46とショルダアンカー49との間におけるシートベルト47の中途部をその長手方向に摺動可能に係止させて、上記バックル50に係脱可能に係止されるタングプレート51とを備えている。上記ショルダアンカー49は、具体的には、上記センタピラー8の上部におけるピラーインナパネル17の内側パネル24の幅方向(前後方向)の中途部分に上記締結具48により取り付けられている。
【0034】
そして、上記アンカー46からタングプレート51に至るシートベルト47の中途部と、上記タングプレート51からショルダアンカー49に至るシートベルト47の他の中途部とが上記シート43に着座した着座者42の前面に弾性的に当接して、この着座者42を上記シート43上に拘束する。
【0035】
上記構成において、上下方向で、上記後外向きフランジ26とルーフサイドレール29とのスポット溶接S4部の高さ以上の位置における上記内側パネル24の上端部に、車体2の前後方向に長く延びるビード54が形成されている。このビード54は車室10がわに向かって凸形状とされ、上記ビード54の後端部は、上記内側パネル24の上端部における後端部以上に後方に位置させられている。具体的には、上記ビード54の後端部と、上記内側パネル24の上端部における後端部とは車体2の前後方向で同位置に位置させられている。
【0036】
車両1の前突時には、着座者42はその慣性力Fによりシート43側から前方に移動しようとするが、上記慣性力Fは、上記シートベルト47、およびこのシートベルト47を掛止するショルダアンカー49を介しセンタピラー8の内側パネル24により主に支持され、上記シート43側からの着座者42の前方移動が阻止される。
【0037】
ここで上記慣性力Fが過大であって、この慣性力Fにより上記内側パネル24が前方に向かうよう変形する場合には、この内側パネル24の変形に連動する上記後パネル23が、上記後外向きフランジ26の前部を車体2幅方向で車室10内側に引張して上記ルーフサイドレール29から離反させようとする。
【0038】
そして、これが生じると、特に、上記ルーフサイドレール29に対する上記後外向きフランジ26の上端部におけるスポット溶接S4の溶着部には大きい引張応力が生じて、この溶着部が破断することにより、上記ルーフサイドレール29から上記後外向きフランジ26が剥離し、上記シートベルト47が無用に弛むこととなって、このシートベルト47による着座者42の拘束性能が低下するという不都合が生じる。
【0039】
しかし、前記構成によれば、上下方向で、上記後外向きフランジ26のスポット溶接S4部の高さ以上の位置における上記内側パネル24の上端部に、上記前後方向に長く延びるビード54を形成し、このビード54の後端部が上記内側パネル24の後端部以上にその後方に位置するようにしている。
【0040】
このため、上記内側パネル24の上端部に対する車体2の前後方向からの外力についての強度が上記ビード54によって向上することから、前突時、上記シートベルト47とショルダアンカー49とを介し前方に向かうよう内側パネル24に与えられる着座者42の慣性力Fが過大であるとしても、この慣性力Fにより上記内側パネル24が前方に向かうよう変形することは防止される。
【0041】
よって、上記慣性力Fにより内側パネル24が前方に変形し、かつ、この変形に順次連動して、上記ルーフサイドレール29に対する後外向きフランジ26のスポット溶接S4が破断する、ということは防止され、つまり、上記ルーフサイドレール29からの上記ピラーインナパネル17の後外向きフランジ26の剥離が防止される。この結果、前突時の着座者42の慣性力Fが過大であるとしても、上記シートベルト47による着座者42の拘束性能は良好に保持される。
【0042】
また、上記した拘束性能の良好な保持は、上記ピラーインナパネル17の内側パネル24の上端部へのビード54の形成によって達成されることから、上記ピラーインナパネル17の板厚を大きくしたり、別途の補強材を設けることを抑制できる。よって、上記拘束性能の良好な保持は、軽量かつ簡単な構成によって達成可能である。
【0043】
また、上記センタピラー8のピラーインナパネル17の内側パネル24の上端部に形成されたビード54は、車室10がわに向かって凸形状とされている。
【0044】
このため、上記ビード54を含む上記センタピラー8の断面では、その断面積が拡大されることから、上記センタピラー8の上端部の強度と剛性とが向上する。よって、前突時の着座者42の慣性力Fによりこのセンタピラー8が変形することは、より確実に防止されることから、前記したルーフサイドレール29からの上記ピラーインナパネル17の後外向きフランジ26の剥離がより確実に防止されて、上記拘束性能がより確実に良好に保持される。
【0045】
また、上記ビード54よりも上方近傍における上記内側パネル24の上端部に、前、後凹座面56,57が形成され、これら各凹座面56,57は前記スポット溶接S7,S8によりルーフサイドレール29のレールインナパネル35と互いに結合されている。また、車体2の側面視(図4)で、上記ピラーインナパネル17における後パネル23と内側パネル24との山折れ状結合部である稜線58の近傍に上記後凹座面57が配置され、上記ビード54と後凹座面57とは互いに連接されている。
【0046】
このため、上記ビード54と後凹座面57との組み合わせ体54,57の断面は連続する凸凹形状となり、かつ、上記後凹座面57はスポット溶接S8によりルーフサイドレール29のレールインナパネル35に結合されていることから、上記ピラーインナパネル17の内側パネル24の上端部の強度と剛性とはより効果的に向上する。よって、前突時の着座者42の慣性力Fにより上記ピラーインナパネル17が変形することは更に確実に防止されることから、前記したルーフサイドレール29からの上記ピラーインナパネル17の後外向きフランジ26の剥離が更に確実に防止されて、上記拘束性能が更に確実に良好に保持される。
【0047】
また、車体2の側面視(図4)で、上記スポット溶接S4の上方、上記ビード54の後方、かつ、後凹座面57の下方における上記ピラーインナパネル17の外向きフランジ26の部分には段差部60が形成されている。この段差部60は、上記外向きフランジ26の部分における上部よりも下部が車体2の外側方に位置するよう形成されている。
【0048】
そして、上記段差部60によれば、この段差部60に連接されるピラーインナパネル17の後パネル23の強度と剛性とを向上させることができる。よって、前突時の着座者42の慣性力Fにより上記ピラーインナパネル17が変形することはより確実に防止されることから、前記したルーフサイドレール29からの上記ピラーインナパネル17の後外向きフランジ26の剥離がより確実に防止されて、上記拘束性能がより確実に良好に保持される。
【0049】
なお、仮に、慣性力Fにより上記後凹座面57のスポット溶接S8の溶着部が破断したとしても、この場合には、上記慣性力Fにより、上記段差部60が伸延して、上記慣性力Fによる上記スポット溶接S4部への負荷の増大は抑制される。よって、上記ルーフサイドレール29からの上記ピラーインナパネル17の後外向きフランジ26の剥離はより確実に防止されて、上記拘束性能がより確実に良好に保持される。
【0050】
なお、以上は図示の例によるが、上下方向で、上記後外向きフランジ26とルーフサイドレール29とのスポット溶接S4部と、上記ビード54とは同じ高さに位置させてもよい。また、上記ビード54の後端部は、上記内側パネル24の上端部における後端部よりも後方に位置させ、つまり、上記ビード54の後端部を上記後パネル23に形成するようにしてもよい。また、上記ビード54の後端部は、上記稜線58に沿って延びるよう形成してもよい。
【0051】
また、上記ビード54は車体2の外側方に向かって凸形状にしてもよく、この場合、上記後凹座面57を凸座面にすることが好ましい。このようにすれば、上記ビード54と後凹座面57との組み合わせ体54,57の断面は連続する凹凸形状となって、前記と同様の効果が生じる。
【符号の説明】
【0052】
1 車両
2 車体
8 センタピラー
9 ルーフ
10 車室
17 ピラーインナパネル
18 ピラーアウタパネル
19 ピラー補強パネル
22 前パネル
23 後パネル
24 内側パネル
25 外向きフランジ
26 外向きフランジ
29 ルーフサイドレール
35 レールインナパネル
36 レールアウタパネル
37 レール補強パネル
38 結合パネル
39 延出パネル
42 着座者
43 シート
44 シートベルト装置
47 シートベルト
49 ショルダアンカー
54 ビード
56 凹座面
57 凹座面
58 稜線
60 段差部
S スポット溶接
F 慣性力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センタピラーの車室がわ面を形成する板金製ピラーインナパネルが、車体前後方向で互いに離れて対面する前、後パネルと、これら前、後パネルにおける車室がわの各一端縁部同士を互いに一体的に結合する内側パネルと、上記前、後パネルの各他端縁部に一体的に形成される前、後外向きフランジとを備え、上記センタピラーの上端部における前、後外向きフランジをルーフサイドレールにスポット溶接により結合し、上記センタピラーの長手方向の中途部における上記内側パネルの部分にシートベルトを掛止するショルダアンカーを取り付けた車両の車体上部構造において、
上下方向で、上記後外向きフランジのスポット溶接部の高さ以上の位置における上記内側パネルの上端部に前後方向に長く延びるビードを形成し、このビードの後端部が上記内側パネルの上端部における後端部以上に後方に位置するようにしたことを特徴とする車両の車体上部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−201389(P2011−201389A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69821(P2010−69821)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】